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エリミネーション、だとよ
ちゅうわけで、なんだ。。
エイプリルフールの朝。
これほど美しく晴れ渡った空は一年のうちにもざらにはない、
なんて朝。
朝の犬の散歩から帰って、もう冬も終わったな、とにこりとした朝。
いきなりあの糞タニシ野郎から電話があり、
君の仕事はこの春を以って終わり、ってなことをかるーく言われた。
エイプリルフールの朝。
これほど美しく晴れ渡った空は一年のうちにもざらにはない、
なんて朝。
朝の犬の散歩から帰って、もう冬も終わったな、とにこりとした朝。
いきなりあの糞タニシ野郎から電話があり、
君の仕事はこの春を以って終わり、ってなことをかるーく言われた。
まあ判ってはいた。
覚悟はしていたし、この修羅の中を、ここまで引っ張れたのは成功と言わざるをえない。
つまりこれはまあ言ってみれば予定通り、目標値達成、という訳なのだが、
改めていざこうして実際に言われてみると、まったく頭に来ない、という訳ではない。
果たしてこのタニシ野郎、な訳である。
この新任課長であるタニシ野郎。
ぶっちゃけスラッシャー。とどのつまりは首切り屋な訳。ぶっちゃけ人を辞めさせるためにやってきた訳だ。
ここアメリカに置いて、経営者が経営方針を変えるたびに、
専務クラスの上部管理職が総入れ替えとなる。
でその総入れ替えの度に、新しく雇われた専務クラスは、
過去の仕事で一緒にチームを組んだ部下たちを招き入れ、
そして自身の部下たちの首を片っ端からちょん切って行く。
サル山でボス猿が変わる度に、旧ボスとの間に生まれた子供はすべて殺される、
と聞いたことがあるのだが、米系企業のこの組織改善騒動、まさにお祭り、まさにフルーツバスケット。
それが何度も繰り返されるたびに、そういった上層部の狂騒にすっかり辟易した社員たち。
結局誰も働かず、業務よりは人脈、とばかりにおしゃべりばかりして過ごすようになり、
目を付けられた上司の目を逃げまわっているうちにいつの間にかその上司も首が飛び、
とまあそんな訳。というか、米系ってその程度の人々。というか、そう、会社ってつまりはそんなものなんだよね。
というわけで、なんだ。
そうそう、この新たにやってきた首切り屋のタニシ野郎。
着任と同時に皮肉な笑いに顔を歪めながら、チームの業務工程の一切の見直し、
とかなんとか言って、これまでの作業機構をまさにめちゃくちゃにし、
新しいことを試そう、とかなんとか言って、仕事を三倍に増やし、
ようやく出来上がったところで、うーん、やっぱりあんま良くないな。止めにしよう、
ってのを次から次へと繰り返す。
評価とはつまりはアラ探し、なわけであって、弱点探し。
俺の場合は英語。
クラスのいじめっ子が地方から来た転校生をからかうように、
執拗に俺の英語を嘲笑い、お前、それはディスクリミネイションだ、と言えば、
いや、お前はレジメに、英語=ビジネスレベルと書いてあるではないか。
お前の英語はビジネスレベルに達しているとは思えない。つまり経歴偽装だ、
とかなんとか言い出す始末。
つまりなにからなにまで徹底的にたちが悪い。
がしかし、俺もそんなことにいちいち腹を立てるほど若くはない。
そういう奴はいる。
そしてそういう奴を変えることはできないし、万一変えたことができたとしても俺には一文の得もない。
つまり相手にしないに越したことはないわけで、
がしかし、ただただうっちゃっておくのも芸がない。
というわけで逆利用である。
つまりこの怒りを俺自身に対する激励に変えるわけだ。
ということで英語の勉強を徹底しよう、と心に決め、
タニシ野郎の叱咤にむかつく度に、おおまた応援が届いたとばかりに、
自分の尻を叩いては英語英語とやってきたわけだ。
というわけで先日のレビュー。
昨年分の評価、つまりボーナスの査定と来年分の給料が決定される訳だが、
前任のボスからは最高に近い点を貰っていたこの俺が、いきなり最低。底の底。
理由は、指示に従わず日本向けの仕事を継続しているから。
あのなあ、と。。。ここまでやられるとまったく開いた口が塞がらない。
そもそも俺は当初は日本対応員として雇われた訳だし、それがためにわざわざ日本までご挨拶にも伺っている。
そんな俺のところにいろいろな相談事が持ち込まれるのは当然のことで、米国側の組織が再編成になったからと言って、他国のブランチにまでそのしわ寄せをすることもないではないか。
入社以来一年に渡る七転八倒の末にようやく日本との間の連絡網が確立し、なんとか手のかからないところまで持ってこれた、と思ったところ、手のあいている時間があればもしよかったら米国側の業務も手伝ってみない?なんて話に、ああ勿論。俺も米国側の仕事を覚えたい、と引き受けたのだが、このタニシ野郎が赴任した途端、いつの間にか俺のこの日本向けの業務は「一切評価しない」ってな話になっていて、つまりボランティアとしてお手伝いしていた仕事内容だけで俺を評価する、なんて妙なことになっていた訳だ。
つまりこれって使い捨てってこと?
いや、そう、つまりは上層部、つまり雲の上の人々の気変わりの方向転換によって世界規模に渡る全ブランチが一斉に方向転換、となった訳で、事実、その後日本からの報告によれば、新任してきた新CEOの下、これまで会社の屋台骨を支えていた生え抜きのやり手の人々の首を、一切合切に飛ばし始めたという話。
いきなり首を飛ばされた人々だってそうそうと素直にああそうですか、と従う訳もない。つまり退職金代わりに、これまで開拓した顧客を一切合切引っこ抜いて行くわけでつまりは業績はガタ落ちとなることは必至。
がしかし、そう、新任者たちはそんなことは気にしてはいない。
なんといっても彼らの任務は人員を削減すること。つまり社員にやる気をなくさせ、あるいは会社に愛想をつかさせて自分から辞めてくれるように仕向けること、なのだ。
なぜか、と言えば・。。 つまりは株価である。
株価を上げるための最も手っ取り早い方法は、人員削減。社員の大量粛清をぶち上げるたびに一時的に株価が上がる。
クォーター毎の収益のみを評価の対象とされる場合、こういう安易な即効的大技で一時的に株価を跳ね上げてはボーナスをせしめ、いざ実際に会社が立ち行かなくなった時点で、さようなら、を決める、まあ言うなればそういうサメのような奴らのしわざである。
2008年のサブプライムの大恐慌前だったらいざ知らず、いまだにそんなことをやっているこの会社はいったいなんなのか、と思うが、そう、人がどうなろと俺だけが金を掴めればそれでいい。世界中を鴨にしてやる、なんていうどうしようもない輩を根絶やしにすることなどできない。
それはまさに人間の本性でもあるわけだ。つまり人間とはもともとそういう生き物であったりもするわけだ。
というわけで、ようやく辿り着いたこの会社。
これまでのまさに泥を噛むような苦労がようやくこれで報われた、と思った途端、再びこの顛末である。
まさしく、米系、やってくれるなあ、という、まさに絵に描いたような外資系の茶番劇そのものな訳である。
いやはや、アメリカ人、底が浅いにも程があるぞ。
賢い日本人は、ぜったいにこういうことを真似してはいけない!
覚悟はしていたし、この修羅の中を、ここまで引っ張れたのは成功と言わざるをえない。
つまりこれはまあ言ってみれば予定通り、目標値達成、という訳なのだが、
改めていざこうして実際に言われてみると、まったく頭に来ない、という訳ではない。
果たしてこのタニシ野郎、な訳である。
この新任課長であるタニシ野郎。
ぶっちゃけスラッシャー。とどのつまりは首切り屋な訳。ぶっちゃけ人を辞めさせるためにやってきた訳だ。
ここアメリカに置いて、経営者が経営方針を変えるたびに、
専務クラスの上部管理職が総入れ替えとなる。
でその総入れ替えの度に、新しく雇われた専務クラスは、
過去の仕事で一緒にチームを組んだ部下たちを招き入れ、
そして自身の部下たちの首を片っ端からちょん切って行く。
サル山でボス猿が変わる度に、旧ボスとの間に生まれた子供はすべて殺される、
と聞いたことがあるのだが、米系企業のこの組織改善騒動、まさにお祭り、まさにフルーツバスケット。
それが何度も繰り返されるたびに、そういった上層部の狂騒にすっかり辟易した社員たち。
結局誰も働かず、業務よりは人脈、とばかりにおしゃべりばかりして過ごすようになり、
目を付けられた上司の目を逃げまわっているうちにいつの間にかその上司も首が飛び、
とまあそんな訳。というか、米系ってその程度の人々。というか、そう、会社ってつまりはそんなものなんだよね。
というわけで、なんだ。
そうそう、この新たにやってきた首切り屋のタニシ野郎。
着任と同時に皮肉な笑いに顔を歪めながら、チームの業務工程の一切の見直し、
とかなんとか言って、これまでの作業機構をまさにめちゃくちゃにし、
新しいことを試そう、とかなんとか言って、仕事を三倍に増やし、
ようやく出来上がったところで、うーん、やっぱりあんま良くないな。止めにしよう、
ってのを次から次へと繰り返す。
評価とはつまりはアラ探し、なわけであって、弱点探し。
俺の場合は英語。
クラスのいじめっ子が地方から来た転校生をからかうように、
執拗に俺の英語を嘲笑い、お前、それはディスクリミネイションだ、と言えば、
いや、お前はレジメに、英語=ビジネスレベルと書いてあるではないか。
お前の英語はビジネスレベルに達しているとは思えない。つまり経歴偽装だ、
とかなんとか言い出す始末。
つまりなにからなにまで徹底的にたちが悪い。
がしかし、俺もそんなことにいちいち腹を立てるほど若くはない。
そういう奴はいる。
そしてそういう奴を変えることはできないし、万一変えたことができたとしても俺には一文の得もない。
つまり相手にしないに越したことはないわけで、
がしかし、ただただうっちゃっておくのも芸がない。
というわけで逆利用である。
つまりこの怒りを俺自身に対する激励に変えるわけだ。
ということで英語の勉強を徹底しよう、と心に決め、
タニシ野郎の叱咤にむかつく度に、おおまた応援が届いたとばかりに、
自分の尻を叩いては英語英語とやってきたわけだ。
というわけで先日のレビュー。
昨年分の評価、つまりボーナスの査定と来年分の給料が決定される訳だが、
前任のボスからは最高に近い点を貰っていたこの俺が、いきなり最低。底の底。
理由は、指示に従わず日本向けの仕事を継続しているから。
あのなあ、と。。。ここまでやられるとまったく開いた口が塞がらない。
そもそも俺は当初は日本対応員として雇われた訳だし、それがためにわざわざ日本までご挨拶にも伺っている。
そんな俺のところにいろいろな相談事が持ち込まれるのは当然のことで、米国側の組織が再編成になったからと言って、他国のブランチにまでそのしわ寄せをすることもないではないか。
入社以来一年に渡る七転八倒の末にようやく日本との間の連絡網が確立し、なんとか手のかからないところまで持ってこれた、と思ったところ、手のあいている時間があればもしよかったら米国側の業務も手伝ってみない?なんて話に、ああ勿論。俺も米国側の仕事を覚えたい、と引き受けたのだが、このタニシ野郎が赴任した途端、いつの間にか俺のこの日本向けの業務は「一切評価しない」ってな話になっていて、つまりボランティアとしてお手伝いしていた仕事内容だけで俺を評価する、なんて妙なことになっていた訳だ。
つまりこれって使い捨てってこと?
いや、そう、つまりは上層部、つまり雲の上の人々の気変わりの方向転換によって世界規模に渡る全ブランチが一斉に方向転換、となった訳で、事実、その後日本からの報告によれば、新任してきた新CEOの下、これまで会社の屋台骨を支えていた生え抜きのやり手の人々の首を、一切合切に飛ばし始めたという話。
いきなり首を飛ばされた人々だってそうそうと素直にああそうですか、と従う訳もない。つまり退職金代わりに、これまで開拓した顧客を一切合切引っこ抜いて行くわけでつまりは業績はガタ落ちとなることは必至。
がしかし、そう、新任者たちはそんなことは気にしてはいない。
なんといっても彼らの任務は人員を削減すること。つまり社員にやる気をなくさせ、あるいは会社に愛想をつかさせて自分から辞めてくれるように仕向けること、なのだ。
なぜか、と言えば・。。 つまりは株価である。
株価を上げるための最も手っ取り早い方法は、人員削減。社員の大量粛清をぶち上げるたびに一時的に株価が上がる。
クォーター毎の収益のみを評価の対象とされる場合、こういう安易な即効的大技で一時的に株価を跳ね上げてはボーナスをせしめ、いざ実際に会社が立ち行かなくなった時点で、さようなら、を決める、まあ言うなればそういうサメのような奴らのしわざである。
2008年のサブプライムの大恐慌前だったらいざ知らず、いまだにそんなことをやっているこの会社はいったいなんなのか、と思うが、そう、人がどうなろと俺だけが金を掴めればそれでいい。世界中を鴨にしてやる、なんていうどうしようもない輩を根絶やしにすることなどできない。
それはまさに人間の本性でもあるわけだ。つまり人間とはもともとそういう生き物であったりもするわけだ。
というわけで、ようやく辿り着いたこの会社。
これまでのまさに泥を噛むような苦労がようやくこれで報われた、と思った途端、再びこの顛末である。
まさしく、米系、やってくれるなあ、という、まさに絵に描いたような外資系の茶番劇そのものな訳である。
いやはや、アメリカ人、底が浅いにも程があるぞ。
賢い日本人は、ぜったいにこういうことを真似してはいけない!

一番やりたいこと
夜更けのドッグラン。
またいつもの奴でいつもの面子。
あぁあ、ついにオフィシャリーにエリミネイションがアナウンスされちゃったよ。
まあ判っていたことではあるんだけどさ、ちょっと落ち込んだな。
少なくともあのアホの口からそれを言われたくなかったぜ、
なんて愚痴を零した途端、
この糞婆あたちからいきなりど説教を食らった。
あんたはもうそんなくだらない愚痴を言ってる場合じゃないのよ。
誰がアホで誰が利口か。誰が好きで誰が嫌いか、
もうそんなことに構っている場合じゃない。
時間を無駄にしちゃだめ。
次の仕事を見つけることに集中しなさい。
ああ、それは判ってるよ。サイトにレジメもUPしたし、ぼちぼち引きも来てるんだけどさ、
なんか、あんまり気分が乗らないっていうか。。次になにをやろうか全然検討がついてなくてさ。
なんかどうでも良くなって来てるのかもしれない。。
と苦笑いを浮かべる俺の顔を覗きこんで、
ねえ、あんた、なにが一番やりたいか、自分で判ってる?と一言。
一番やりたいこと?
そう、心の底から一番やりたいこと。
一昔前なら、SEX DRUGS & ROCK’N’ROLL でお茶を濁していたのだろうが、
いまさらこの中年風情にはそんな台詞もまったく似合わない。
音楽への情熱も今や昔。毎晩違った場所で目覚めたい、と言っていた旅人志向もすっかりと消え失せ、
気の狂ったようにテニスばかりしていた頃のことも今となっては懐かしい。
そんなこの俺。ただの犬のおじさん。
ただこの街に暮らし続けて、朝晩に犬の散歩ができる収入を得ること、それ以外になにがあるのだろか。。
つまり、働いて食って糞して、そして犬の散歩をして寝るだけの日々。
それがなにが悪い?
そんな暮らしの中で、ほんの少しなにか愉しみが見つけられればそれはそれで越したことはないけどね。
まあなかったらなかったでそれはそれでいい、というか。俺は犬の散歩をしてるだけで割りと満たされているんだよ。
と言ったら。。。
そう、それもそうなのよね、とみんなして苦笑い。
犬が元気でいてくれたら、まあそれはそれでいいか、と思ってしまうところもあってさ。
ってことはなに?俺ってもうこれで打ち止め。
この雑種の犬とともに人生を全うしてしまおうってことなのかな?
なんて考えて、ふと見つめ合う犬。
お前はそれで満足?
と聞いたとたん、
おい、くだらないこと言ってないで早くそのボール投げろ、と急かされた。
やれやれである。
というわけで、仕事か。。。まあなんでも良いが、とりあえずこの狂乱地価のニューヨーク、
こうして犬の散歩三昧で暮らせることからしてとてもとても大変なのである。
この犬との暮らしを守るために、新たな戦いが始まる、という訳なのだ。
またいつもの奴でいつもの面子。
あぁあ、ついにオフィシャリーにエリミネイションがアナウンスされちゃったよ。
まあ判っていたことではあるんだけどさ、ちょっと落ち込んだな。
少なくともあのアホの口からそれを言われたくなかったぜ、
なんて愚痴を零した途端、
この糞婆あたちからいきなりど説教を食らった。
あんたはもうそんなくだらない愚痴を言ってる場合じゃないのよ。
誰がアホで誰が利口か。誰が好きで誰が嫌いか、
もうそんなことに構っている場合じゃない。
時間を無駄にしちゃだめ。
次の仕事を見つけることに集中しなさい。
ああ、それは判ってるよ。サイトにレジメもUPしたし、ぼちぼち引きも来てるんだけどさ、
なんか、あんまり気分が乗らないっていうか。。次になにをやろうか全然検討がついてなくてさ。
なんかどうでも良くなって来てるのかもしれない。。
と苦笑いを浮かべる俺の顔を覗きこんで、
ねえ、あんた、なにが一番やりたいか、自分で判ってる?と一言。
一番やりたいこと?
そう、心の底から一番やりたいこと。
一昔前なら、SEX DRUGS & ROCK’N’ROLL でお茶を濁していたのだろうが、
いまさらこの中年風情にはそんな台詞もまったく似合わない。
音楽への情熱も今や昔。毎晩違った場所で目覚めたい、と言っていた旅人志向もすっかりと消え失せ、
気の狂ったようにテニスばかりしていた頃のことも今となっては懐かしい。
そんなこの俺。ただの犬のおじさん。
ただこの街に暮らし続けて、朝晩に犬の散歩ができる収入を得ること、それ以外になにがあるのだろか。。
つまり、働いて食って糞して、そして犬の散歩をして寝るだけの日々。
それがなにが悪い?
そんな暮らしの中で、ほんの少しなにか愉しみが見つけられればそれはそれで越したことはないけどね。
まあなかったらなかったでそれはそれでいい、というか。俺は犬の散歩をしてるだけで割りと満たされているんだよ。
と言ったら。。。
そう、それもそうなのよね、とみんなして苦笑い。
犬が元気でいてくれたら、まあそれはそれでいいか、と思ってしまうところもあってさ。
ってことはなに?俺ってもうこれで打ち止め。
この雑種の犬とともに人生を全うしてしまおうってことなのかな?
なんて考えて、ふと見つめ合う犬。
お前はそれで満足?
と聞いたとたん、
おい、くだらないこと言ってないで早くそのボール投げろ、と急かされた。
やれやれである。
というわけで、仕事か。。。まあなんでも良いが、とりあえずこの狂乱地価のニューヨーク、
こうして犬の散歩三昧で暮らせることからしてとてもとても大変なのである。
この犬との暮らしを守るために、新たな戦いが始まる、という訳なのだ。

自宅軟禁
かみさんが里帰りしてからというもの、犬の世話を一人でせねばならない。
さすがに子犬の頃と違って、四六時中目が離せない、というのでもないのだが、
朝の散歩と、夕方、そして夜の散歩だけは欠かすことができない。
ここのところ毎朝7時半に全体会議がスケジュールされるようになり、出社時間が早まっている俺としては、
これで仕事に行く前に散歩に出るとすると、まさに朝5時には家を出なくてはいけない訳で、とすると、まさに4時半起床。。。
いくら犬が可愛いと言っても、実際のところこれはちょっと無理である。
という訳で、ボスに頼み込んで自宅勤務とさせて貰うことにした。

という訳で一日中家に居る日々。
自宅で部屋着のまま一日中を机に向かって過ごす。
後ろを見ればソファで大股を広げてひっくり返って寝乱れる我が犬がいる。
見たところ割りと気楽な雰囲気ではあるのだが、
がしかし、間違ってはいけないのは今はまさに就業中である。
これが仕事である以上、家にいられる、のではなく、
家に居なくてはいけない、訳で、まさに自宅軟禁状態。
電話会議があり書類の作成があり難し案件も多い。
普段であればオフィスの机に向かってであるので、なんとか気合も入るのだが、
自宅でこれをやるにはその気持の転換がなかなかどうして大変である。
家である以上、誘惑が多い。
山のようなMP3ファイルから始まって、ケームから読みかけの本から映画からドラマからエッチビデオから。
まさか就業中にそんなものを観ている訳にも行かず、がしかし、隣りのモニターでチキっとマウスをクリックしたとたん、
あられもない姿の美女たちが乱舞を始める訳で。。。まったくうーんと唸ってしまう。
おまけに電話会議の途中でいきなり犬が吠え始めたり、などというハプニングも多く、
会議の度に寝室に閉じ込められた犬は見るからに不服げ。
時として非常に迷惑そうな顔で、
おまえ、そんなことしてるぐらいなら散歩連れてけよ、とぐずり始めたりもする。
あるいは、ちょっとしたトラブル、書きかけのメール、スペルチェックもしないままにそのまま送っちまった、
なんて時に、思わず、クソ、と舌打しをした途端、
いきなり飛び起きて、どうしたどうした!?なにがあった?
と一目散に駆け寄って来ては、
ああ、判った判った、なんでもないから、という俺の顔をぺろぺろと舐めまくる訳で、
おいそれと苛立つ訳にも行かず。。
犬と共に暮らすこと。これがなかなか大変なのである。
とかなんとかやっていたら、いつのまにか隣りに立った犬。
おい、と片手をあげてなにかを催促。
飯?飯には早いだろ、と時計を見れば、まさに5時ジャスト。
ああもうそんな時間か。。と書きかけのメールに目を通していれば、
おい、と再び片手をあげて、散歩の時間だ、仕事は終わりだ、とやる訳である。
はいはい、判った判った、と立ち上がる俺。
まったく、妙なマネージャーに勤務態度を監視されている気分である。
さすがに子犬の頃と違って、四六時中目が離せない、というのでもないのだが、
朝の散歩と、夕方、そして夜の散歩だけは欠かすことができない。
ここのところ毎朝7時半に全体会議がスケジュールされるようになり、出社時間が早まっている俺としては、
これで仕事に行く前に散歩に出るとすると、まさに朝5時には家を出なくてはいけない訳で、とすると、まさに4時半起床。。。
いくら犬が可愛いと言っても、実際のところこれはちょっと無理である。
という訳で、ボスに頼み込んで自宅勤務とさせて貰うことにした。

という訳で一日中家に居る日々。
自宅で部屋着のまま一日中を机に向かって過ごす。
後ろを見ればソファで大股を広げてひっくり返って寝乱れる我が犬がいる。
見たところ割りと気楽な雰囲気ではあるのだが、
がしかし、間違ってはいけないのは今はまさに就業中である。
これが仕事である以上、家にいられる、のではなく、
家に居なくてはいけない、訳で、まさに自宅軟禁状態。
電話会議があり書類の作成があり難し案件も多い。
普段であればオフィスの机に向かってであるので、なんとか気合も入るのだが、
自宅でこれをやるにはその気持の転換がなかなかどうして大変である。
家である以上、誘惑が多い。
山のようなMP3ファイルから始まって、ケームから読みかけの本から映画からドラマからエッチビデオから。
まさか就業中にそんなものを観ている訳にも行かず、がしかし、隣りのモニターでチキっとマウスをクリックしたとたん、
あられもない姿の美女たちが乱舞を始める訳で。。。まったくうーんと唸ってしまう。
おまけに電話会議の途中でいきなり犬が吠え始めたり、などというハプニングも多く、
会議の度に寝室に閉じ込められた犬は見るからに不服げ。
時として非常に迷惑そうな顔で、
おまえ、そんなことしてるぐらいなら散歩連れてけよ、とぐずり始めたりもする。
あるいは、ちょっとしたトラブル、書きかけのメール、スペルチェックもしないままにそのまま送っちまった、
なんて時に、思わず、クソ、と舌打しをした途端、
いきなり飛び起きて、どうしたどうした!?なにがあった?
と一目散に駆け寄って来ては、
ああ、判った判った、なんでもないから、という俺の顔をぺろぺろと舐めまくる訳で、
おいそれと苛立つ訳にも行かず。。
犬と共に暮らすこと。これがなかなか大変なのである。
とかなんとかやっていたら、いつのまにか隣りに立った犬。
おい、と片手をあげてなにかを催促。
飯?飯には早いだろ、と時計を見れば、まさに5時ジャスト。
ああもうそんな時間か。。と書きかけのメールに目を通していれば、
おい、と再び片手をあげて、散歩の時間だ、仕事は終わりだ、とやる訳である。
はいはい、判った判った、と立ち上がる俺。
まったく、妙なマネージャーに勤務態度を監視されている気分である。

純米国産オーガニック・グラスフィード・チキン・フィレ
かみさんが里帰りして早7日。
自宅勤務にしたこともあってまあなんとかやってはいるが、
実は最近の犬の態度に変化が現れている。

自宅勤務にしたこともあってまあなんとかやってはいるが、
実は最近の犬の態度に変化が現れている。

どういう訳か、かみさんがしばらく帰って来ない、
ということはどうやら判ってはいる様子で、
かみさんの姿を探したり、始終鼻を鳴らしたり、
というようなことはないのだが、
やはり、ドア口でなにか気配を察すると一目散にすっ飛んで行く。
で、暫く姿を見ないと思えば、がっくりと肩を落としてとぼとぼ帰ってくるか、
あるいはそのまま玄間のドアの前に寝ていることも多い。
つまりおまえ、あいつが帰ってくるまでずっとそこでがんばるつもりか?
かみさんの留守の間、自宅勤務にしたこともあって、
昼飯の時間に散歩にも出れるし、
独り身の手持ち無沙汰で普段に比べてちょっと散歩の時間も増え、
ケア体制としては万全な訳なのだが、
だからと言って犬が超ごきげん、という訳ではまったくなく、
ぶっちゃけて言ってみれば始終不機嫌。
普段、かみさんの前で見せているあのニカニカ笑いもまったく影を顰め、
散歩中もむっつりと黙り込んだまま、名前を呼んでも振り返りもしない。
ドッグランでもボール遊びもそこそこにベンチの上で遠くばかりを見ているし、
そうかと思って街を散歩すれば、信号の度に立ち止まって、いや、そっちは行かない、
と駄々をこね始める。
もともと強情なところのあるこの犬。
一度言い出したらなかなか言うことを聞いてくれない。
いや、そっちは行かない、としゃがみ込み、足を踏ん張り、
無理に引っ張るとそのまま寝転んでしまったり。
その度に道行く人の苦笑いを浴びて俺もたじたじである。
なんだよ、いったいどこに行こうって言うんだよ、と聞いてみれば。。。
え?そっち?そっちに何しに行くの?
まあそういう時には大抵、ペットショップ巡りな訳で、
街中のペットショップを一軒一軒訪ねてはサンプル用のおやつをねだる。
つくづく食い意地の張った奴なのか、と思えば、
ここに来てはた、と気がついた。
つまりこれは抗議なのである。
普段かみさんから頂戴しているおやつ。
これが最近とんともらえなくなったことに腹を立ててるのである。
で、かくなる上は自力でおやつを回収して回るという実力行使に出ている訳だ。
うーん、我が犬ながらあっぱれ。神は自らを助くる者も助く。
なかなかやるじゃないか。
がしかし、そうそうと犬の事情に付き合わされて、おめおめと街中のペットショップを連れまわされては貯まらない。
かくなる上はと一年奮起。
いつも世話になっているご近所のペットショップに行って、こいつの好きなおやつ、全部ください、とやってみた。
という訳で、まさに出てくるまさにサンプルおやつの山。
がしかし、嬉々としておやつにしっぽを振りながら、いざ実際に口にしてみると、
むむむ。。。不味い、と吐き出してしまう。
あれまあ、と頭を掻く俺。
普段からかみさんと随意の店員さん。
そうなんですよ~、ブッチ君は実は割りと好みが激しくてね。
という訳で、はい、これだったら、と出してきたのがチキンフィレ。
純米国産でもちろんオーガニックでグラスフィードで育てられたチキンの干し肉。
これだったら絶対に大丈夫、と差し出した途端、これだ!とばかりに飛びついたブッチ。
たちまちサンプル用に開けた袋から次から次へと平らげまくる。そのがっつきぶりに思わず赤面もいいところ。
という訳で、いやそのサンプル分もかいますよ、と言えば、いえいえこれはサンプルということで結構、となんとも嬉しいお言葉、
と思えば。。。なんとその純米国産オーガニック・グラスフィードのチキン・フィレ。一袋。。。3千円。。。
俺が毎日玉ねぎスープとリンゴばかり食っているというのに。。お前は三千円の鶏の笹身かよ。。
がまあ、これでこいつの機嫌が治るのであればそれも良しとしよう、と家に帰ったのだが。。
果たしてなにが起こったかと言えば、いきなりご飯を食べなくなった。
つまり、ご飯の代わりにそのチキンフィレを寄越せ、というのである。
バカ、こんな高いもの早々と平らげられては貯まらない。
そのご飯を全部食べ終わるまで、チキンフィレはおあずけ、とやれば、
だったらこんな飯、食わない、とばかりにハンガーストライキである。
おいおい、やれやれ、である。まったくもって、心のそこからやれやれ、な訳である。
くっそお、かみさんのやつ、電話もしないでどういうことだ、と思わず八つ当たりに舌打を繰り返す訳である。
ということはどうやら判ってはいる様子で、
かみさんの姿を探したり、始終鼻を鳴らしたり、
というようなことはないのだが、
やはり、ドア口でなにか気配を察すると一目散にすっ飛んで行く。
で、暫く姿を見ないと思えば、がっくりと肩を落としてとぼとぼ帰ってくるか、
あるいはそのまま玄間のドアの前に寝ていることも多い。
つまりおまえ、あいつが帰ってくるまでずっとそこでがんばるつもりか?
かみさんの留守の間、自宅勤務にしたこともあって、
昼飯の時間に散歩にも出れるし、
独り身の手持ち無沙汰で普段に比べてちょっと散歩の時間も増え、
ケア体制としては万全な訳なのだが、
だからと言って犬が超ごきげん、という訳ではまったくなく、
ぶっちゃけて言ってみれば始終不機嫌。
普段、かみさんの前で見せているあのニカニカ笑いもまったく影を顰め、
散歩中もむっつりと黙り込んだまま、名前を呼んでも振り返りもしない。
ドッグランでもボール遊びもそこそこにベンチの上で遠くばかりを見ているし、
そうかと思って街を散歩すれば、信号の度に立ち止まって、いや、そっちは行かない、
と駄々をこね始める。
もともと強情なところのあるこの犬。
一度言い出したらなかなか言うことを聞いてくれない。
いや、そっちは行かない、としゃがみ込み、足を踏ん張り、
無理に引っ張るとそのまま寝転んでしまったり。
その度に道行く人の苦笑いを浴びて俺もたじたじである。
なんだよ、いったいどこに行こうって言うんだよ、と聞いてみれば。。。
え?そっち?そっちに何しに行くの?
まあそういう時には大抵、ペットショップ巡りな訳で、
街中のペットショップを一軒一軒訪ねてはサンプル用のおやつをねだる。
つくづく食い意地の張った奴なのか、と思えば、
ここに来てはた、と気がついた。
つまりこれは抗議なのである。
普段かみさんから頂戴しているおやつ。
これが最近とんともらえなくなったことに腹を立ててるのである。
で、かくなる上は自力でおやつを回収して回るという実力行使に出ている訳だ。
うーん、我が犬ながらあっぱれ。神は自らを助くる者も助く。
なかなかやるじゃないか。
がしかし、そうそうと犬の事情に付き合わされて、おめおめと街中のペットショップを連れまわされては貯まらない。
かくなる上はと一年奮起。
いつも世話になっているご近所のペットショップに行って、こいつの好きなおやつ、全部ください、とやってみた。
という訳で、まさに出てくるまさにサンプルおやつの山。
がしかし、嬉々としておやつにしっぽを振りながら、いざ実際に口にしてみると、
むむむ。。。不味い、と吐き出してしまう。
あれまあ、と頭を掻く俺。
普段からかみさんと随意の店員さん。
そうなんですよ~、ブッチ君は実は割りと好みが激しくてね。
という訳で、はい、これだったら、と出してきたのがチキンフィレ。
純米国産でもちろんオーガニックでグラスフィードで育てられたチキンの干し肉。
これだったら絶対に大丈夫、と差し出した途端、これだ!とばかりに飛びついたブッチ。
たちまちサンプル用に開けた袋から次から次へと平らげまくる。そのがっつきぶりに思わず赤面もいいところ。
という訳で、いやそのサンプル分もかいますよ、と言えば、いえいえこれはサンプルということで結構、となんとも嬉しいお言葉、
と思えば。。。なんとその純米国産オーガニック・グラスフィードのチキン・フィレ。一袋。。。3千円。。。
俺が毎日玉ねぎスープとリンゴばかり食っているというのに。。お前は三千円の鶏の笹身かよ。。
がまあ、これでこいつの機嫌が治るのであればそれも良しとしよう、と家に帰ったのだが。。
果たしてなにが起こったかと言えば、いきなりご飯を食べなくなった。
つまり、ご飯の代わりにそのチキンフィレを寄越せ、というのである。
バカ、こんな高いもの早々と平らげられては貯まらない。
そのご飯を全部食べ終わるまで、チキンフィレはおあずけ、とやれば、
だったらこんな飯、食わない、とばかりにハンガーストライキである。
おいおい、やれやれ、である。まったくもって、心のそこからやれやれ、な訳である。
くっそお、かみさんのやつ、電話もしないでどういうことだ、と思わず八つ当たりに舌打を繰り返す訳である。

雨のセントラルパーク
裸足のキース・リチャーズ ~ 史上最強のチンピラの美学
というわけで、改めての独身貴族ぐらし。
とは言うものの、ぶっちゃけこれはただたんに男やもめ。
かみさんが里帰りした途端に、なんとなく犬さえもがちょっと薄汚れた感じで、
金曜の夜に男二人で肩を並べてぼんやりとテレビを見てる、なんて図が出来上がるのである。
という訳で男が一人と言えばローリング・ストーンズである。
かみさんが旅立ったその夜から、すでに一週間ぶっ続けでストーンズばかり。

スタジオ・レコーディング版、ファースト・アルバムであるThe Rolling Stonesから始まって、
Tatoo Youまで、それに加えてまさに果てることのないブートレッグコレクションを、
これでもかとばかりに繰り返し繰り返し聴き続けている。
そして、いつものことながら、ストーンズとともに思い出させられる過ぎ去りし日々の数々。
思えば俺は徹底的にストーンズであった。
あるいは俺の信じる美学のすべてはストーンズに起因していた。
俺の友人と言える友人はすべてがストーンズフリークであった。
ストーンズを知らない人間となど友人になるどころか口を利くことさえ馬鹿馬鹿しかったからで、つまりは俺の周りの連中もそんな輩ばかりであった。
そして今、一人になった途端に蘇るストーンズな日々である。
普段は生活の中に封印されている様々な出来事がここに一挙に蘇り始める。
そして自然と、思い出したくもないことまでも思い出してしまうことになるのである。
嘘、裏切り、暴力。滑ったギグ。傷つけた友人たち。酷いことしてしまった女たち。そして死んでいった奴ら。

そしていま、この4月の金曜日の夜、男やもめの部屋。
鳴り響くストーンズに踊らされて次から次へとそんな過去の亡霊たちが満ち溢れて行くようだ。
果たして俺たちってなんだったのか。なんであんなに酷いことになってしまったのか。
この歳になってはっきり言えるのは、ストーンズと関わりあいになって、あるいは、ストーンズに憧れて、思いいれて、そうやってストーンズに人生を狂わされた奴らの、ひとりとしてろくなことになったやつを見たことがないという事実。
あるものは道を誤り、あるものはすべてを失い、そしてあるものは命さえも失った。
つまりはそれがアウトローの宿命であり、ストーンズ魂を貫いた証でもある訳なのだが、その権化であるところのキース・リチャーズがいまだにちゃっかりと生き続けている、というあざとさがまたストーンズらしいと言えばストーンズらしい。
キースの野郎、俺のダチをすっかりダメにしやがって。まさに、まんまと騙された、という気分なのである。

なぜ俺たちはこんな野郎に騙されてしまったのか。
キース・リチャーズが、ローリング・ストーンズがいったいなんだったと言うのだ。
という訳で、いま再び見直す JUMPING JACK FLASH である。

このキース・リチャーズ。裸足のキース・リチャーズ。
このビデオにおけるキース・リチャーズに、いったいどれだけの人々が人生を狂わされてしまったことだろう。
くそったれが、とは思いながら、しかしながら、である。
改めて、このキース・リチャーズは格好良いのである。問答無用に格好良い。格好良すぎる。
まさにチンピラの鏡。アウトローはこうやって生きろ、のその見事なお手本、そのものなのである。
思わず今からでも改めて再度道を踏み外してやろうか、という気にさえもなってくるのである。
そう、俺達はこれに騙されたのだ。このキース・リチャーズに憧れて、このキース・リチャーズみたいになりたくて、キース・リチャーズみたいになるために、キース・リチャーズみたいなことを一切合切真似をしよう、と思ってしまったのである。
まったく馬鹿なことをしたものだ、とは思いながらも、改めて観るこのキース・リチャーズ。
まさに史上最強のチンピラ。これほど格好良い男は、やはり世界中どこに行っても見つけ出すことはできないだろう、と改めて思う。
ローリング・ストーンズ。まさに罪作りな人々である。
がしかし、と改めて思う。
俺達が生きてこれたのも、ストーンズが居てくれたからに他ならないのだ。
このキース・リチャーズがあったからこそ、俺達は生き伸びれたのだ。
くそったれ、ここまで来たら俺は意地でも棺桶までメインストリートのならず者であり続けるぞ、な訳である。
キース・リチャーズに狂わされた人生、たとえどんな酷いことになろうとも悔いはない。
死んでいった奴らもきっとそう思っている筈、と信じたい。

とは言うものの、ぶっちゃけこれはただたんに男やもめ。
かみさんが里帰りした途端に、なんとなく犬さえもがちょっと薄汚れた感じで、
金曜の夜に男二人で肩を並べてぼんやりとテレビを見てる、なんて図が出来上がるのである。
という訳で男が一人と言えばローリング・ストーンズである。
かみさんが旅立ったその夜から、すでに一週間ぶっ続けでストーンズばかり。

スタジオ・レコーディング版、ファースト・アルバムであるThe Rolling Stonesから始まって、
Tatoo Youまで、それに加えてまさに果てることのないブートレッグコレクションを、
これでもかとばかりに繰り返し繰り返し聴き続けている。
そして、いつものことながら、ストーンズとともに思い出させられる過ぎ去りし日々の数々。
思えば俺は徹底的にストーンズであった。
あるいは俺の信じる美学のすべてはストーンズに起因していた。
俺の友人と言える友人はすべてがストーンズフリークであった。
ストーンズを知らない人間となど友人になるどころか口を利くことさえ馬鹿馬鹿しかったからで、つまりは俺の周りの連中もそんな輩ばかりであった。
そして今、一人になった途端に蘇るストーンズな日々である。
普段は生活の中に封印されている様々な出来事がここに一挙に蘇り始める。
そして自然と、思い出したくもないことまでも思い出してしまうことになるのである。
嘘、裏切り、暴力。滑ったギグ。傷つけた友人たち。酷いことしてしまった女たち。そして死んでいった奴ら。

そしていま、この4月の金曜日の夜、男やもめの部屋。
鳴り響くストーンズに踊らされて次から次へとそんな過去の亡霊たちが満ち溢れて行くようだ。
果たして俺たちってなんだったのか。なんであんなに酷いことになってしまったのか。
この歳になってはっきり言えるのは、ストーンズと関わりあいになって、あるいは、ストーンズに憧れて、思いいれて、そうやってストーンズに人生を狂わされた奴らの、ひとりとしてろくなことになったやつを見たことがないという事実。
あるものは道を誤り、あるものはすべてを失い、そしてあるものは命さえも失った。
つまりはそれがアウトローの宿命であり、ストーンズ魂を貫いた証でもある訳なのだが、その権化であるところのキース・リチャーズがいまだにちゃっかりと生き続けている、というあざとさがまたストーンズらしいと言えばストーンズらしい。
キースの野郎、俺のダチをすっかりダメにしやがって。まさに、まんまと騙された、という気分なのである。

なぜ俺たちはこんな野郎に騙されてしまったのか。
キース・リチャーズが、ローリング・ストーンズがいったいなんだったと言うのだ。
という訳で、いま再び見直す JUMPING JACK FLASH である。

このキース・リチャーズ。裸足のキース・リチャーズ。
このビデオにおけるキース・リチャーズに、いったいどれだけの人々が人生を狂わされてしまったことだろう。
くそったれが、とは思いながら、しかしながら、である。
改めて、このキース・リチャーズは格好良いのである。問答無用に格好良い。格好良すぎる。
まさにチンピラの鏡。アウトローはこうやって生きろ、のその見事なお手本、そのものなのである。
思わず今からでも改めて再度道を踏み外してやろうか、という気にさえもなってくるのである。
そう、俺達はこれに騙されたのだ。このキース・リチャーズに憧れて、このキース・リチャーズみたいになりたくて、キース・リチャーズみたいになるために、キース・リチャーズみたいなことを一切合切真似をしよう、と思ってしまったのである。
まったく馬鹿なことをしたものだ、とは思いながらも、改めて観るこのキース・リチャーズ。
まさに史上最強のチンピラ。これほど格好良い男は、やはり世界中どこに行っても見つけ出すことはできないだろう、と改めて思う。
ローリング・ストーンズ。まさに罪作りな人々である。
がしかし、と改めて思う。
俺達が生きてこれたのも、ストーンズが居てくれたからに他ならないのだ。
このキース・リチャーズがあったからこそ、俺達は生き伸びれたのだ。
くそったれ、ここまで来たら俺は意地でも棺桶までメインストリートのならず者であり続けるぞ、な訳である。
キース・リチャーズに狂わされた人生、たとえどんな酷いことになろうとも悔いはない。
死んでいった奴らもきっとそう思っている筈、と信じたい。

猛犬パーティの終焉
夜更けの猛犬パーティ。
長引く花冷えの中、土曜の夜ということもあって、今日はサリーとブッチだけである。
そう休日の夜なのだ。
他の犬は一日中、嫌というほどに広々とした公園を走り回っているだろう。
わざわざ夜更けになってこんな小便臭いところに来る必要もない。
がしかし、ジェニーはここでしかサリーを放すことができない。
公園でオフリーシュどころか、他の犬が居てはドッグランでさえサリーを入れることができない。
そして凍えた風の吹き荒れる週末の夜の公園で、まるで魔女のように亡霊のように、孤独なボール投げを続けなくてはいけない。
ブッチはそんなサリーとジェニーを冷めた表情で見つめているばかりだ。
ブッチはすでに今日一日だけでもセントラルパークからリバーサイドパークから、いくつものドッグランも歴訪し、正直疲れきっている。
こんな夜更けにドッグランにやって来たのは、まさにサリーとそしてその飼い主であるジェニーへのボランティアなのだ。
そう、だが、しかし、と若干の疑問は残る。
ボランティア、人助け、その本質である。
アンパンマンではないが、ボランティアの本質とは、己の余った力を相手に小分けにする、ということではない。
ボランティアの本質とは、己の身、それももっとも大切なものを削ってでも人のために尽くす、ということである。
ボランティアをするものにはその覚悟が必要なのだ。
さもなくば、己の大切なものを奪い去られようとした時に、そんな筈があるか、それは不平等だ、と騒ぎ立てることになる。
そしてこんな花冷えの夜更け。
ジェニーの身になにかあっては行けない、と軽い気持ちで付き合うよ、とはせ参じたドッグランで、ついに、ついに、長年恐れてきたことが起こってしまった。
サリーがブッチを襲った。
サリーがブッチを襲った。
サリーはなんの理由もなく、前触れさえ無く、ただ振り返りざまにいきなりブッチに襲い掛かった。
不意をつかれたブッチがとっさに身を交わし、しかし思わずギャンと悲鳴を上げた。
重ねて襲いかかろうとするサリーを、気配を察した俺が止めに入って事無きを得た。
飼い主のジェニーは気づいていなかった。
ブッチのあの悲鳴に気づかなかった筈がない。
つまり、見て見ぬふりをした、ということだろう。
俺はサリーの首輪を掴み、お前、いま何をやった、と暴れる身体を押さえつけた。
いまよく理解して貰わなければ、サリーはまたやるに違いない。
ブッチを守るためにはサリーに考えを改めてもらう必要がある。
それを教えるのは今しかない。
それを見てジェニーがパニックを起こした。
自身の犬が俺に殴られると思ったらしい。
そしてヒステリックに騒ぎ始めた。
サリーはアタックなどしていない。ブッチが先にしかけたのだろう。あんたがそうやって怒鳴るからサリーが。。
またいつもの奴。ジューイッシュの定番。自分に都合悪いことには一切目を瞑り、
白を黒と言いくるめ、いつも現実を誤魔化す。
そしてこの詭弁はつまりは自分自身からも目を逸らすということなのだ。
ジェニーは自身の抱える問題を直視することを避けてきた。
自分自身にも白を黒にの論法ですべての現実から逃げまわってきたのだろう。
その結果がこれである。
なおも騒ぎ立てるジェニーに、俺はうるさい!と怒鳴った。
自分の犬の躾もできずに、そそうをするたびに、言い訳を並べて逃げまわり、
挙句に見てない、やってないか。いい加減にしろ。
あんたがそんなことをやっているからサリーはいつまでたってもこうなんだ。
サリーをこんなにしてしまったのはあんただ。
あんたのその虚言症と逃避癖がなによりの問題なのだ。
あんたがそれを改めない限りサリーは変わらない。
サリーが変わらない限り、サリーはいつか、ブッチか、
あるいは、チェスか、あるいは、また他の誰かを襲うに違いない。
それはまさに過去にジョージに、レミーにマギーに、そしてボルフェウスに起こったこと。
サリーはいつも、自分の唯一の友に襲いかかって来た。
そしてその度に友は去っていった。
それはあんたが一番よく知っていることだろう。
俺はずっと同じことがいつの日にかブッチにも起こることを考えていた。
いつか起こるであろうと覚悟もしていた。
だが、今日起こらなければ明日も起こらないだろうう、とも思っていた。
そうやって俺自身も敢えてそのリスクから目を背けていたのだろう。
そしてついに、と言うか、つまりは起こるべくことが起こるべくして起こった。
そしてそれは、いまきっちりと言っておかなくては、
いつかきっとまた起こる。そして次は多分どちらかが血を見る。
そうさせないために、俺はサリーに言わなくてはいけない。
がそれは、あなたの仕事だ。
あんたがそれをやらない限り、サリーはこのままだ。
あんた自身がその現実にしっかりと対峙しない限り、
事態は変わらない。つまり、俺はブッチの危険を承知で
あんたたちの人助けを続けなくてはいけない、
その理由が考えつかない。
かみさんはそもそもこの猛犬パーテイにブッチを連れて行くことに反対だった。
他の犬の教育のことよりも、ブッチへの悪影響を考えるべきだ、と言い続けてきた。
俺もそのことについて考えない訳でなかった。
悪影響は確かにある。
レミーの吠え癖が、マギーの拾い喰いが、そしてサリーの攻撃癖が。
あれほど良い子で通っていたブッチにそんな奇行が目立ちはじめた。
近所の人々からも、どうしてあんなバカ犬と付き合わせるのだ、と散々言われてきた。
あのサリーの飼い主、まるでキチガイみたいね。
毎日毎日犬に引きずり回されて。
別の犬とすれ違う度に金切り声を上げて向こうに行けと怒鳴り散らして。
間違った犬を飼ってしまった典型。
あんなばあさんがあんな猛犬を連れているんだもの。
コントロールなんてできるわけないし、そのうち人間を襲わないか、と心配で。。
いや、サリーは馬鹿じゃない。少なくとも俺の前では良い子なんだ。
俺はそう言いながら、俺がそれを証明してみせる、とむきになっていたのだ。
それはつまりは俺の勝手なエゴだ。そしてそのしわ寄せがブッチと、そしてかみさんに向かうことになった。
今日、ブッチがまた通行人に襲いかかって。ドッグランで吠え続けて。何食べてるのかと思ったら・・・
かみさんはそれを暗に、猛犬パーティの悪影響だ、と言い続けていたのだ。
バカな犬はいない。そう、それは事実だ。そして、馬鹿なのは必ず飼い主なのである。
という訳でジェニーである。
つまりはこれ。今晩起こったことこそがジェニーとそしてサリーの抱える問題の元凶なのだ。
事あるごとに白を黒、黒を白と屁理屈を並べてはうるさくがなりたて相手が辟易して背を向けたことを勝った、私が正しい、と主張するそのやり方。嘘や詭弁は人間には通じるかもしれないが、犬には通じない。
犬は本質のみを理解する。
サリーは、自分が悪さをしても、飼い主であるジェニーが庇ってくれる、とたかを括っている。
ジェニーは自分を怒らない。なにをやっても結局は許して貰える、あるいはその現実に目を背けてくれる。
ジェニーはずっとこれを繰り返してきた。そしてサリーはジェニーに甘え、そしてそんなジェニーさえもを舐めきっている。
なぜジェニーはサリーを叱れないのか。
それはつまりサリーを愛しているから、可愛がっているからなのか。
いや、俺にはそうとは思えない。
つまりはジェニー自身がサリーを怖がっているからである。
サリーはそれを知っている。
そしてそんなジェニーを舐めてしまっている。
そしてサリーは、自身に説教をする人間たちから逃げ回る。
そしてジェニーは、サリーがなにかトラブルを起こす度にサリーを庇い、
白を黒に、黒を白に、と言い訳を並べたてては、
サリーの、そして飼い主である自身の責任から逃げようとする。
つまりそれ、その結果がこれである。
サリーを変えるにはジェニー自身が変わらなければいけない。
が、ジェニーにはそれができない。
それができない自分自身をまた白を黒、黒を白と騙し続けては、現実の本質から逃げ回る。
ジェニー自身がそんな現実を直視し、有効な手段を講じない限り、事態はますます悪化する。
つまりサリーは気分次第で、隣りにいる犬に襲いかかり、ジェニーはそのたびに多大な治療費を払わされては友を失い、
散歩の道すがらで引きずられては階段を転げ落ち、他の犬とすれ違う度にリーシュを掴んだ腕を引きちぎられそうな程に暴れられ、
そして誰もいなくなった夜更けのドッグランだけが唯一安心出来る場所。
サリーはますます他の犬から隔絶され、ますます社会性を失って、
ますます散歩が難しくなり、運動不足から欲求不満がたまり、と悪のスパイラルに陥っていく。
サリーはそしてジェニーはいったいどうしたら良いのか。
そんなことよりも自分の犬の心配をするべきよ、とかみさんは言う。
そうその通り。つまり、もうそんな問題児とは付き合うな、その必要はない、と言っているのだ。
そしてそれが、紛うことなき当然の判断であることを今日、はっきりと理解した。
72丁目のドッグ・ウィスパラー気取りのあの人、
自分の犬がその猛犬に噛まれちゃったんだってさ。
馬鹿よね。あんな猛犬たちに関わりあうなんて。
そんな声がはっきりと聞こえてくるような気がしたのだ。
他人の犬を助けることも大切だが、まずは自身の犬のなのだ。
つまりそれが、人の世の原則なのだ。
それはつまり、猛犬パーティの終焉を意味する。
俺はサリーを、そしてジェニーを救うことができなかった。
これは明らかな挫折感である。
ではあるのだが。。。そう、俺は自身のエゴやプライドよりも、
自身の犬の身の安全を先決するべきなのである。
長引く花冷えの中、土曜の夜ということもあって、今日はサリーとブッチだけである。
そう休日の夜なのだ。
他の犬は一日中、嫌というほどに広々とした公園を走り回っているだろう。
わざわざ夜更けになってこんな小便臭いところに来る必要もない。
がしかし、ジェニーはここでしかサリーを放すことができない。
公園でオフリーシュどころか、他の犬が居てはドッグランでさえサリーを入れることができない。
そして凍えた風の吹き荒れる週末の夜の公園で、まるで魔女のように亡霊のように、孤独なボール投げを続けなくてはいけない。
ブッチはそんなサリーとジェニーを冷めた表情で見つめているばかりだ。
ブッチはすでに今日一日だけでもセントラルパークからリバーサイドパークから、いくつものドッグランも歴訪し、正直疲れきっている。
こんな夜更けにドッグランにやって来たのは、まさにサリーとそしてその飼い主であるジェニーへのボランティアなのだ。
そう、だが、しかし、と若干の疑問は残る。
ボランティア、人助け、その本質である。
アンパンマンではないが、ボランティアの本質とは、己の余った力を相手に小分けにする、ということではない。
ボランティアの本質とは、己の身、それももっとも大切なものを削ってでも人のために尽くす、ということである。
ボランティアをするものにはその覚悟が必要なのだ。
さもなくば、己の大切なものを奪い去られようとした時に、そんな筈があるか、それは不平等だ、と騒ぎ立てることになる。
そしてこんな花冷えの夜更け。
ジェニーの身になにかあっては行けない、と軽い気持ちで付き合うよ、とはせ参じたドッグランで、ついに、ついに、長年恐れてきたことが起こってしまった。
サリーがブッチを襲った。
サリーがブッチを襲った。
サリーはなんの理由もなく、前触れさえ無く、ただ振り返りざまにいきなりブッチに襲い掛かった。
不意をつかれたブッチがとっさに身を交わし、しかし思わずギャンと悲鳴を上げた。
重ねて襲いかかろうとするサリーを、気配を察した俺が止めに入って事無きを得た。
飼い主のジェニーは気づいていなかった。
ブッチのあの悲鳴に気づかなかった筈がない。
つまり、見て見ぬふりをした、ということだろう。
俺はサリーの首輪を掴み、お前、いま何をやった、と暴れる身体を押さえつけた。
いまよく理解して貰わなければ、サリーはまたやるに違いない。
ブッチを守るためにはサリーに考えを改めてもらう必要がある。
それを教えるのは今しかない。
それを見てジェニーがパニックを起こした。
自身の犬が俺に殴られると思ったらしい。
そしてヒステリックに騒ぎ始めた。
サリーはアタックなどしていない。ブッチが先にしかけたのだろう。あんたがそうやって怒鳴るからサリーが。。
またいつもの奴。ジューイッシュの定番。自分に都合悪いことには一切目を瞑り、
白を黒と言いくるめ、いつも現実を誤魔化す。
そしてこの詭弁はつまりは自分自身からも目を逸らすということなのだ。
ジェニーは自身の抱える問題を直視することを避けてきた。
自分自身にも白を黒にの論法ですべての現実から逃げまわってきたのだろう。
その結果がこれである。
なおも騒ぎ立てるジェニーに、俺はうるさい!と怒鳴った。
自分の犬の躾もできずに、そそうをするたびに、言い訳を並べて逃げまわり、
挙句に見てない、やってないか。いい加減にしろ。
あんたがそんなことをやっているからサリーはいつまでたってもこうなんだ。
サリーをこんなにしてしまったのはあんただ。
あんたのその虚言症と逃避癖がなによりの問題なのだ。
あんたがそれを改めない限りサリーは変わらない。
サリーが変わらない限り、サリーはいつか、ブッチか、
あるいは、チェスか、あるいは、また他の誰かを襲うに違いない。
それはまさに過去にジョージに、レミーにマギーに、そしてボルフェウスに起こったこと。
サリーはいつも、自分の唯一の友に襲いかかって来た。
そしてその度に友は去っていった。
それはあんたが一番よく知っていることだろう。
俺はずっと同じことがいつの日にかブッチにも起こることを考えていた。
いつか起こるであろうと覚悟もしていた。
だが、今日起こらなければ明日も起こらないだろうう、とも思っていた。
そうやって俺自身も敢えてそのリスクから目を背けていたのだろう。
そしてついに、と言うか、つまりは起こるべくことが起こるべくして起こった。
そしてそれは、いまきっちりと言っておかなくては、
いつかきっとまた起こる。そして次は多分どちらかが血を見る。
そうさせないために、俺はサリーに言わなくてはいけない。
がそれは、あなたの仕事だ。
あんたがそれをやらない限り、サリーはこのままだ。
あんた自身がその現実にしっかりと対峙しない限り、
事態は変わらない。つまり、俺はブッチの危険を承知で
あんたたちの人助けを続けなくてはいけない、
その理由が考えつかない。
かみさんはそもそもこの猛犬パーテイにブッチを連れて行くことに反対だった。
他の犬の教育のことよりも、ブッチへの悪影響を考えるべきだ、と言い続けてきた。
俺もそのことについて考えない訳でなかった。
悪影響は確かにある。
レミーの吠え癖が、マギーの拾い喰いが、そしてサリーの攻撃癖が。
あれほど良い子で通っていたブッチにそんな奇行が目立ちはじめた。
近所の人々からも、どうしてあんなバカ犬と付き合わせるのだ、と散々言われてきた。
あのサリーの飼い主、まるでキチガイみたいね。
毎日毎日犬に引きずり回されて。
別の犬とすれ違う度に金切り声を上げて向こうに行けと怒鳴り散らして。
間違った犬を飼ってしまった典型。
あんなばあさんがあんな猛犬を連れているんだもの。
コントロールなんてできるわけないし、そのうち人間を襲わないか、と心配で。。
いや、サリーは馬鹿じゃない。少なくとも俺の前では良い子なんだ。
俺はそう言いながら、俺がそれを証明してみせる、とむきになっていたのだ。
それはつまりは俺の勝手なエゴだ。そしてそのしわ寄せがブッチと、そしてかみさんに向かうことになった。
今日、ブッチがまた通行人に襲いかかって。ドッグランで吠え続けて。何食べてるのかと思ったら・・・
かみさんはそれを暗に、猛犬パーティの悪影響だ、と言い続けていたのだ。
バカな犬はいない。そう、それは事実だ。そして、馬鹿なのは必ず飼い主なのである。
という訳でジェニーである。
つまりはこれ。今晩起こったことこそがジェニーとそしてサリーの抱える問題の元凶なのだ。
事あるごとに白を黒、黒を白と屁理屈を並べてはうるさくがなりたて相手が辟易して背を向けたことを勝った、私が正しい、と主張するそのやり方。嘘や詭弁は人間には通じるかもしれないが、犬には通じない。
犬は本質のみを理解する。
サリーは、自分が悪さをしても、飼い主であるジェニーが庇ってくれる、とたかを括っている。
ジェニーは自分を怒らない。なにをやっても結局は許して貰える、あるいはその現実に目を背けてくれる。
ジェニーはずっとこれを繰り返してきた。そしてサリーはジェニーに甘え、そしてそんなジェニーさえもを舐めきっている。
なぜジェニーはサリーを叱れないのか。
それはつまりサリーを愛しているから、可愛がっているからなのか。
いや、俺にはそうとは思えない。
つまりはジェニー自身がサリーを怖がっているからである。
サリーはそれを知っている。
そしてそんなジェニーを舐めてしまっている。
そしてサリーは、自身に説教をする人間たちから逃げ回る。
そしてジェニーは、サリーがなにかトラブルを起こす度にサリーを庇い、
白を黒に、黒を白に、と言い訳を並べたてては、
サリーの、そして飼い主である自身の責任から逃げようとする。
つまりそれ、その結果がこれである。
サリーを変えるにはジェニー自身が変わらなければいけない。
が、ジェニーにはそれができない。
それができない自分自身をまた白を黒、黒を白と騙し続けては、現実の本質から逃げ回る。
ジェニー自身がそんな現実を直視し、有効な手段を講じない限り、事態はますます悪化する。
つまりサリーは気分次第で、隣りにいる犬に襲いかかり、ジェニーはそのたびに多大な治療費を払わされては友を失い、
散歩の道すがらで引きずられては階段を転げ落ち、他の犬とすれ違う度にリーシュを掴んだ腕を引きちぎられそうな程に暴れられ、
そして誰もいなくなった夜更けのドッグランだけが唯一安心出来る場所。
サリーはますます他の犬から隔絶され、ますます社会性を失って、
ますます散歩が難しくなり、運動不足から欲求不満がたまり、と悪のスパイラルに陥っていく。
サリーはそしてジェニーはいったいどうしたら良いのか。
そんなことよりも自分の犬の心配をするべきよ、とかみさんは言う。
そうその通り。つまり、もうそんな問題児とは付き合うな、その必要はない、と言っているのだ。
そしてそれが、紛うことなき当然の判断であることを今日、はっきりと理解した。
72丁目のドッグ・ウィスパラー気取りのあの人、
自分の犬がその猛犬に噛まれちゃったんだってさ。
馬鹿よね。あんな猛犬たちに関わりあうなんて。
そんな声がはっきりと聞こえてくるような気がしたのだ。
他人の犬を助けることも大切だが、まずは自身の犬のなのだ。
つまりそれが、人の世の原則なのだ。
それはつまり、猛犬パーティの終焉を意味する。
俺はサリーを、そしてジェニーを救うことができなかった。
これは明らかな挫折感である。
ではあるのだが。。。そう、俺は自身のエゴやプライドよりも、
自身の犬の身の安全を先決するべきなのである。

「鎮魂歌~ロックの殉教者たちへのレクイエム」
かみさんのいない土曜の夜。またひとりストーンズである。
朝から晩までエンドレスにして徹底的にストーンズ。
まるで禅の修行のように、ローリング・ストーンズを聴き続けるのである。
かみさんが里帰りをする度に、おれはこれをやる。
言ってみればこれは命の洗濯、などでは決してない。
それは寧ろ鎮魂歌。
普段は封印している己の過去の轍、
そして消えていった奴らへの、弔いの歌、なのである。
もうなにもかもが時効だろう、と思っている。
そのかわりどれだけ手を伸ばしても、
すでに遠い彼方に過ぎ去ってしまった日々。
罪悪感や失望や、悲しみも怒りもすでに色褪せた今、
嘗てはあれだけ苦々しく、時として悔み切り、
記憶の中に固く封印し続けていた様々な事柄が、
このストーンズの音とともに一挙に解き放たれていく。
果たしてあれがなにであったのか、
ちょっとは距離を置いて考えてみることも可能になってきたのかもしれない。
そして今、改めて思い起こすあの頃。
俺達がストーンズであった頃のこと。
痩せ細った身体でいつも腹を減らし、疲れきり、
深夜の地下鉄のホームに崩れ落ちていた頃。
膝の破けたリーバイのスリム。
鋼鉄入りのワークブーツに馬鹿でかいキャッツアイ。
ヤニと汗の染み込んだライダースの革ジャンと、
尻のポケットにジャンプ・ブレイド。
さっきまでのギグの耳鳴りが身体中にジンジンと響き、
朦朧とした意識の中から、
いつか人生を変えてくれるフレーズが閃くことを信じて。
来ない電車を待ちながら、
ああ、今晩はどの女のところに転がり込もううか、
と考えていた、あの野良犬のような日々。
俺たち、これからいったいどうなってしまうんだろう。
誰もが口に出さないながら、
誰もがそんな焦燥に駆られていた中、
シオンが死んだという知らせが届いたのは、
まさにそんな時だった。
「シオン - IT'S ALL OVER NOW」
バンド関係者のひとりであったシオンが死んだ。
台風の夜に酔っ払って街をうろついていたところを、
下手な喧嘩に巻き込まれて袋叩き。
半殺しにされてそのままドブ川の中に落ち、
見つかったのはその三日後。
都市の汚濁の底。
下水に浸され、淀みに浮かんだ廃棄物中で、
ゴミ袋のように膨れ上がった姿だった、と聞く。
都会のドブネズミを自称していた俺達にとって、
似合いと言えばこれほどまでに似合いのも最期もない。
まさに完璧じゃねえか、と俺たちは鼻で笑いながら、
しかし、そう、そこに初めて、
俺たち、これからどうなっていくのだろう、
というモヤモヤとした不安に対する、明確なヴィジョンを見たのだ。
そうか、死ぬのか。。。ああやって。。。。
だが、痩せ我慢だけは一丁前の俺達は、それさえも笑い飛ばそうとした。
面白えじゃねえか。死んでやらあ。ドブの底でよ。
♪
駅前の雑貨屋で小銭を集めて黒いネクタイを買い、
それを使い回しにしながら、ご焼香ってどうやってやるんだ?と肩を小突きあって、
そんな葬式の場では親類一同から目を背けられ、
挙句の果てに、お願いですから帰ってください、と母親に泣かれた。
俺達のダチだったってのによ、
お茶のひとつも出さねえで追い返すなんて酷えじゃねえかなあ、
と見当違いに腹を立てる奴らのケツを蹴りあげながら、
馬鹿野郎、塩撒かれなかっただけでもありがたいと思えよ、と笑った。
撒かれてたぜ、塩、とタバコに火をつけながら誰かがボソリと言う。
そうか、撒かれてたのか、塩。
そしてまた誰もが黙り込んだ。
で、襲ったのはどこのどいつなんだよ。
知らねえよそんなもん。
判ったからってなんだってんだよ。落とし前でもつけるってのか?
どうせ通りすがりのダサ坊だろう。
またあいついつもの奴で誰かれ構わず因縁つけて、
金貸してくれだなんだって絡んだんだろう。
でもさ、あいつ、わりとちゃんとしたところの生まれだったんだな。家を見て驚いたぜ。
かあちゃんもわりと行けてたしさ。
あの隣りにいたねーちゃんだれよ。喪服姿、なんかピンピンって来ちまったな。
そうそう、おやじさんも立派なカタギだったしな。
大学教授だってさ。なにやってるか知らねえけど。
どおりで。立派そうな家だったなよな。
なんであいつ、あんな家に生まれたのにあんなになっちまったのかな。
そりゃ、つまりは。。俺たちみたいのとつるんでたからだろ?
友達の悪影響って奴か。
そう、悪影響だろう。塩ぐらい撒かれて当然だよ。面白え、上等だぜってところじゃねえか。
ここまで鼻つまみになれたのもロックンロール冥利に尽きるってところだな。
馬鹿馬鹿しい。やってられねえな。
そんな俺達の後ろから、肩を寄せてはシクシクと泣く女たちがうざったくて、
うるせえぞ、ブスども。昼間からビービー泣いてるんじゃねえよ、と怒鳴りつけて、
そしてそんな自分がつくづく嫌になった。
何人かはバイトに消え、何人かは女とふけ、
そしてこんな日にさえ徹底的に行く場所のない奴らがいつもの溜まり場に戻ってきた。
昨夜の通夜代わりの飲み会の跡がそのままにひっくり返って腐り始めて、
慣れない白いワイシャツを引きちぎるように脱ぎ捨てては床に叩き付け、
そして俺達はまたタバコを咥えて黙りこんだ。
奴がいつも座っていた場所、窓の脇の柱の前。
奴の残した吸い殻さえもが灰皿の中でまだ細い煙りを燻らせているようだった。
音を消したテレビにはエンドレスになった裏ビデオが永遠と流れ続けている。
これまで何度もダビングを繰り返されてきた画質の悪い裏ビデオを見るともなしに眺めながら、
俺達は何気なく抱えたギターを弄びながら
そして俺達は、やはりストーンズを、聴いていた。
最近、珍しく姿を見せねえとは思ってたんだよな。
無理にでも誘ってやればこんなことにはならなかったかもしれねえのにな。
うるせえよ、と誰かが怒鳴った。
今更なんだってんだよ、馬鹿野郎。くだらねえこと言うじゃねえよ。
オンナだってさ。
おんな?
そう、ミカって居ただろ?あの前髪赤く染めてたオンナ。
あのデブか?
そうそう、ちびグラのさ。
ノーブラのメッシュTの女だろ?市川かどっかの。
そう、乳首丸見えのさ。
それがなんだって?
だからあいつら付き合ってたんだよ。
まさか。
知らなかったのか?
知らなかった。
俺は知ってたぜ。
俺も知ってた。ユリから聞いた。
趣味悪いなあいつ。
俺もどうせ遊びだろうとは思ってたんだがな。
遊びでもやるか?あんなオンナ。。。昔は楽屋でやらせてたっていうじゃねえか。
ああ俺もそれ聞いた。楽屋で5Pとかさ。
ローディーとかも音声さんとかも飛び入りしてたらしいぜ。
エロビデオかよって。笑わせるな。
で、そのミカがどうしたって?
だから、奴がどういう訳かそのミカにその気になっちまってさ。
で?
で?知らねえよそんなこと。
だから、まじで俺のオンナになれって言ってんのに、
ミカが相変わらずあのままなんでついにブチ切れてたって。
ミカ葬式来てたのか?
いや、来てない。
来れねえってよ。
なんで?
だから。。
あの夜さ、ストンプのバーでミカと大喧嘩になって、で。
で?
で、半殺しにしたんだとさ。
ミカを?
そう。
みんなのいる前で?
店がはねた後だったんであんま人いなかったとは聞いたけど。
雨ん中、いきなりずかずか店に入ってきてさ、でなんにも言わねえでミカんとこ来て。
いきなり後ろからパンチくれて引きずり倒してブーツで滅多蹴り。
ミカよく死ななかったな。
死んだ方がいいぐらいだったらしいぜ。
入院?
金も保険証もねえって話でユリのところに運び込んだらしいけど。
で?
前歯は折れる、鼻は潰れるでさ。バケモンみたいだったってさ。
もともとバケモンみたいな顔してたし大した違いはねえだろう。ちょっとはマシになったんじゃねえのか?
で?
で、まあ、そのままだろ。実家にでも返したんじゃねえのか?それ以外行くところねえだろうに。
いや、シオン。シオンはそれからどうしたんだよ。
知らねえよ。マッポにも散々聞かれたけどよ。
あいつミカぶん殴ったあと、また馬鹿野郎って雨の中を出てって、で、見つかった時には土左衛門。
なんともまあ、あいつらしいよな。
まったくな。あいつらし過ぎる。
そうか、オンナだったのか。でもなんかほっとしたよ。
ほっとした?なんで?
いや、なんか、そうか、オンナだったのか。ならまあいいじゃねえか。
まあいいってどういう意味だよ。
つまり死にたくなければオンナに気をつけろってことだろ?
まあそういう事だな。
ITS ALL OVER NOW
なんだよそれ。
だからよ、あいつもITS ALL OVER NOWの歌詞が判ってればこういうことにもならなかった訳だろ。
SHE'S A RAINBOWでオンナにはまって、
やっちまってUNDER MY THUMB。
でオンナに逃げられてITS ALL OVER NOW、
AS TEARS GO BYでひとりで泣いて、
SHINE A LIGHTにすがって日々を暮らし、
で、
あれ?なんだあのオンナ、でまたSHE'S A RAINBOWが帰ってくると。
まあ人生なんてその繰り返しだろう。
つくづく簡単な野郎だな。
それだけで十分だろう。
奴もまだまだ修行が足りなかったってことだな。
でもさ、溺死体なんてブライアンみたいで格好いいじゃねえか。
ODじゃなくてまだ良かったよな、親の手前。
ODじゃ犯罪者だからな。
ああ眠い。今夜のギグ何時だって?
さあな、9時ぐらいだろ?
リハは?
知らねえ。
ハコは?
どうせまたロフトだろ?
またロフトか。ならリハはもういいな。
で、対バンは?
だからうるせえよ。知ったことじゃねえよ。
ただ演ればいいんだよ。ステージに上がってライトが点いたらただ演る。演るだけ。
あとのことは知ったことじゃねえよ。
ロックンロールだなあ。ITS ONLY ROCK’N’ROLL。確かにそうだ。
そして俺達は、カーテンを閉める代わりにどでかいキャッツアイをかけて、
そして秋の午後をヤニとゴミと、そして胸にギターを抱えたまま、
浅い眠りに落ちたのである。
♪
「キタムラ - SALT OF THE EARTH」
どういう訳か、俺とストーンズを聴いていた奴は若死にする。
それはバンドを上がった後でも同じこと。
旅の間に会った連中、ポカラのコミューンで会ったカミカゼ・キタムラが、
取材中のインド・ボンベイ近郊の交通事故で死んだことを、
LAの怪しいジャパレスにあった古新聞の片隅で見つけた。
キタムラに会ったのはその三年前だった。
ポカラのダムサイドの外れにあった安宿に滞在していた際、
それまで俺一人の貸し切り状態だったところに、
どやどやと押し寄せてきた旅芸人の一座のような日本人の一団。
キタムラはその一団の一人。リーダー的な存在の男だった。
まるで売れない旅芸人の一座のようなその集団は、
自炊用の鍋釜からケロシン・オイルのコンロから始まって、
生活道具一式をすべて持ち運んでいるような大所帯。
それまでずっと一人旅を続けてきた俺にとって、
そんな一団の持つ慣れ合い感がうざったく、
俺はそいつらとの付き合いを避けて、
ドミトリーから二階の個室に移動せざるを得なかった。
がしかし、その一団の人々は俺を避けるどころか逆に気を使って、
朝な夕なにやれ味噌汁だ、お餅を焼いた、鍋はどうだ、と声をかけてくれては、
苦笑いを噛み殺してはそんなご馳走に預かっていたのだ。
で、その中のキタムラという男。
旅には慣れていそうだがそれほど薄汚れてもいず、無精髭も生やさず髪も伸ばさず。
まるで添乗員というよりは村の青年団長のような溌剌さで、その妙な一団を明るく取りまとめていた。
そんなキタムラを前にして、
改めて振り返るこの俺自身の姿。
それまでの旅の道中、徹底的に朝から晩までドラッグに浸り込んんでは、
いなせなハードボイルドを気取っていた俺にとって、
そんなキタムラの率いるその一団の和気藹々とした雰囲気はあまりにも目に余り、
そしてその中心にいたキタムラこそが諸悪の根源、
正直なところ、あの溌剌とした様がなんとも目障りでならなかったのだ。
がしかし、ある事件から、そんなキタムラが実はなかなか骨の入った奴だということが判った。
一団の一人が肝炎とアメーバー性赤痢を併発して危篤状態に陥った時、
村で唯一まともに走るXLを駆使て真夜中の峠道を夜通しカトマンズまでぶっ飛ばし、
そして朝の訪れる頃に、ケツに医者を縛り付けて帰ってきたのだ。
そのニュースは街中を駆け巡り、キタムラは一種、村のヒーローとして、
ツーリストはもとより地元民からも喝采を浴びた。
キタムラがカトマンズに出発した時、実は俺が行くべきではないのか、と思っていた。
灯りもない、どころか、虎が出る、と噂されるヒマラヤの山岳路を六時間。
しかも先日に降った雨で地盤が緩み、そこかしこで落盤が起きては、
長距離バスの運行さえもがキャンセルになっているのだ。
その道中になにがあるかなど、誰にも判ったものではない。
そんな無謀な賭けを前に、少なくともこの新劇一座ような連中で、
そんなことができる奴が、まさかいるとは思っていなかったのだ。
つまりは、俺だろうな、とは思っていた。
見るからに絵に描いたようなアウトローを気取っていた俺にとって、
単車の運転はお手の物。
中坊のころからモトクロスというほどでもはないが、
裏山の木立の中で、盗んだ原チャリを駆っては、
木立に突っ込み、気に岩に衝突を繰り返しては、谷底に転げ落ち。
高校に入る頃には、ウィリーから、両手放しの仮面ライダーの変身から、
湘南暴走族と言うよりは、走り屋を自称していた俺なのだ。
ただ、そう言われて見れば単車などここ数年まともに乗ってはいない。
しかしもこの見るからにポンコツ・バイクである。
夜になればトラが出ると言われたポカラの山の中で、
このポンコツが故障を起こしたらいったいどういうことになるのか。
電話どころか、水も灯りもない峠の山道で立ち往生することを考えると、
早々とその危険な役回りを背負い込まねばならない理由もない。
キタムラから最初に、単車に乗った経験は?と聞かれて、
俺は、ない、と答えた。
見るからに悪であったろう俺が、まさか単車に乗れない訳はない、
そんなことは誰でも判っているのだろうが、
だがしかし、一回で快諾するのだけは癪だった。
二回三回と頼み込まれて、なら仕方がない、と買ってやったほうがまだハクがつく。
としたところ、そうか、とキタムラは言った。
ならばしかたがない。だったら俺が行く。
その言葉を聞いて、俺は一瞬耳を疑った。
まさか、この青年団長がか?
あんた、単車、乗れるのか?
ああ、ラッタッタなら乗っていた。
ラッタッタは単車じゃねえ。あれは原動機付きの自転車だ。
クラッチのつなぎかたとか、判るのか?
ああ、車と同じだろ?やってできないことはない。
本当にお前が行くつもりなのか?
ああ、あんたが行ってくれないんじゃあ、俺が行くしかないだろう。
そしてキタムラはカトマンズに向けて旅立った。
見送る人々の前で、なんどかクラッチをつなぎそこねてエンストを起こした。
なぜそうまでするのだろう、と俺はそんなキタムラの姿が不思議だった。
なぜ旅に出てまでそれほど他人の事に気をかけなくてはいけないのだ。
負けた奴、倒れたやつ、病気に罹った奴は死ぬ。
旅の原則は自分の身体は自分で守ることだ。
それができない奴は旅を続ける資格はない。
人生が旅そのものだとすれば、自分の身体を自分で守れない奴は、
それで死ぬのが運命なのだ。
それの何が悪い?
そうは思いながら、そんな自分の考えに間違いがあるとは思えなかったが、妙に寝付かれなかった。
明日、キタムラが帰って来なかったら、その時には俺が探しに行く番だ、と覚悟を決めていた。
がしかし、キタムラは帰ってきた。
明け方の鳥たちの囀りの中から、明らかに回転のおかしいエンジン音を聞いた時、思わず外に走り出てしまった。
あの野郎、帰ってきやがった。。
ホテル中の人々が転がり出てきた。
寝静まった村の窓に次々と灯りが灯り、そして人々が裸足のままに通りに走り出てきた。
キタムラと、そしてその後ろにはたすき掛けに縛り付けられた初老の医者の姿があった。
俺は素直に感動した。
人々は涙を流して抱き合った。
キタムラはまさにヒーローだった。
ちょっと出来過ぎてやがるな、と俺はこそばゆい気もしたが、
いざ自分自身が向かうことを考えていた俺にとって、
そのキタムラの姿には素直に感嘆を送らざを得なかった。
単車から降りたキタムラは、いの一番に俺のところにやってきた。
この野郎、と俺は思った。当て付けのつもりだろう。
キタムラはなにも言わずに俺を見てにやりと笑った。
こいつ、これがやりたいばかりに暗い道中を走り続けてきたに違いない。
がしかし、俺はそれを素直に受け止めてやった。握手をし、肩を抱き、そして不覚にも涙が滲んだ。
やるじゃねえか、と俺は行った。むちゃくちゃ格好いいぜ。
そんな俺たちの隣に、あのオンナが立っていた。
キョーコだった。
お疲れ様、とキョーコは言った。
ああ、とキタムラは短く言葉を返した。
キョーコは泣きながらキタムラに抱きつき、
そしてキタムラはキョーコを抱きながら、そして俺をみて軽くウィンクまでした。
この野郎、と俺は笑った。こいつなかなかのタマだな。
♪
キタムラは駆け出しのルポライターであった。
天安門の引き金になった上海工科大学の学生運動の背後にCIAの暗躍があった、
ってな記事を日本の週刊誌に売りつけて小銭を稼ぎ、その金でインド・ネパールを旅行中だった。
これからボンベイに降りてタラプールの原発労働者の実態を取材に向かうってな話を得意気に吹聴していた。
そんな話を聞かされながら、こんな民青野郎にそんなことができるものか、とも思っていた。
原発労働者だ?そんなもの知った事か。
その後、アフガンに行ってムジャヒディンの部隊に加わろうとしていた俺は、
そんなキタムラの民青的な視点がどうにも我慢ならなかった。
負けた奴は死ぬ。
負ける奴は負けるべくして負けるのだ。
そんな負け犬は素直に死なせてやればよい。
俺は勝とうとする者達の元へ、戦い続ける奴らの元へ行く。
がしかしながら、俺とキタムラのこの目に見えない確執には、
右翼と左翼、その政治的、というよりは美意識的な違い、
なんてものとはまったく関係のないところで、
ぶっちゃけた話、そう、実は、オンナの存在が絡んでいたのだ。
キタムラの連れていたあのキョーコというオンナ。
あのカピパラのような顔をした髪の長いオンナ。
旅芸人の一座。
あの百姓のおばさんのような女達の中にあって、
キョーコの存在はちょっと目を惹くものがあった。
見るからに長期旅行者というヒッピー風な格好をしながら、
その黒いストレートの髪はいつもよく解かされてツヤツヤと輝いていたし、
どんな汚い格好をしていても化粧を忘れることはなかった。
小柄なちょっとした小太り体型。
それ自体はまったく好みではなかったが、
薄手のタイパンツを通して透けて見える下着のラインは、
その外見のラフさとは対象的に、細く鋭利なシェープを持っていた。
つまりキョーコはそれなりにちょっと惹くオンナだったのだ。
ダージリンで最期にオンナを抱いてからすでに1ヶ月が立っていた。
タイからカルカッタからダージリンからカトマンズ。
これまでの道中でオンナに困ることはなかったが、
これまで相手はみな外人、あるいはアジア人ばかり。
世界の女を抱きまくって、日本の女なんざ目じゃないぜ、
旅の中で、ともすれば日本人同志で寄り集まる、
そんな内向的な百姓ヅラの日本人旅行者たちを前に、
これ見よがしに白人の女を侍らせては、
妙な粋がりを続けていた俺であったのだが、
そんな俺が、ふとしたはずみでキョーコの肌に触れた時、
その肌のあまりの滑らかさに思わず、ぞくり、とした。
その生目の細かいまるで吸い付くような白い肌。
まさに日本の女の感触。
この旅の間、実は俺が最も飢えていたものであった。
がしかし、キョーコはキタムラというあの青年団長のような男と一緒だった。
他の人々がドミトリーで雑魚寝をしていたところに、
キョーコとキタムラだけは、二階の個室を取っていた。
俺達の個室とは端と端。
その間に2つの空室が挟まれていたのだが、
そもそもが壁はベニア板一枚の安普請。
夜な夜な漏れてくるキョーコの喘ぎ声は、
否応なく俺の部屋にも流れ込んで来ていた。
普段はキタムラ君、と言っているキョーコが、
夜の中では、コージ、と下の名前で呼んでいた。
普段は、キョーコちゃん、とちゃんづけて読んでいるキタムラが、
夜の中では、キョーコ、と繰り返していた。
がしかし、堪らなかったのはその喘ぎ声ではない。
一戦が終わった後の、二人のピロートーク。
内容までは聞き取れなかったが、
まるでささやくようにぼそぼぞと繰り返されるその押し殺した声。
そしてそれに続くくぐもった笑い声。
やだ、もう、やめてよ、という嬌声。
そしてふと穴に落ちたような沈黙の底から再び湧き上がってくる荒い息遣い。
旅行中、オナニーをすることをやめていた俺にとって、これはしかし、相当に応えた。
生まれて始めて、本気で人が恋しいとさえ思った。
くそあんな女、と舌打ちをした。
あんな女、日本に帰ればいくらでもいるのに。
日本ではあんなレベルには鼻も引っ掛けたこともなかったのに。
そんな俺が、あんな女に血迷っては眠れない夜を過ごしている。
俺はいったい、こんなところでなにをやっているのだ。
そんな時、ちょっと旅に出たことを、悔やんていたりもしたものだ。
そんな時だった。
ある朝、遅くに起きて、一団の過ぎ去ってしんとしたホテルに一人、
まだ冷たい水のシャワーを浴びていたところ、
シャワーのノズルのすぐ下にある灯り窓の向こうに、ふと人の気配がした。
xxさん?と女の声がした。キョーコだった。
ずるーい、とキョーコは言った。
あたしもみんながいない時にゆっくり入ろうと思ってたのに。
でも水は冷たいぜ、と俺は応えた。
事実、ヒマラヤの雪解け水を組み上げただけのこのシャワー。
氷水と言わないまでも、浴びているうちに唇が紫色に変わるほどに身体が冷え込む。
午後の遅い時間、太陽の熱に暖められたころが一番良いのだが、
それを知り尽くした長期旅行者たちの争奪戦に巻き込まれることにもなり、
一人旅の気楽さもあって、わざわざそんな混みあったシャワーで順番を待つぐらいなら、
一人でゆっくり水のシャワーを浴びることを選んでいたのだ。
やっぱり水冷たい?とキョーコが言った。
うん、と俺は甘えた声で応えた。
でも頑張ってる、と続けると、キョーコは、よっ!男の子、と、ケラケラと声を立てて笑った。
暖めてあげようか、とキョーコが言った。
うん、暖めて、と俺は返した。勿論軽い冗談のつもりだった。
ふと人の気配が消えた。
そして、背後の扉、鍵もかからない立て付けの悪い扉が、静かに開いた。
シャンプーを流していた俺は目を開けなかった。
水のシャワーに冷やされていた身体に、キョーコの熱い身体がみっしりと貼り付いて来た。
暖かかった。肌を通して骨の奥までキョーコの身体の温もりが染みわたるようだった。
すごいわね、とキョーコは言った。
冷たい?と俺は応えた。
すごいわね、とキョーコはそれには答えずに、
俺の身体、腹筋や肩の筋肉にそって指を添わせていた。
空手かボクシングかやってた人なの?
いや、ドラム、と言いかけて辞めた。
その代わりにキョーコの脂肪の乗った肩を抱きすくめた。
柔らかかった。例えようもなく柔らかかった。
それは、日本で知っていた、少女の面影を色濃く残していた青臭い女たちではなく、
年上の女、すでに成熟した身体にある意味での余裕を湛えた、
まさにそれは、女の身体、であった。
肉の感触がこれほど柔らかいと感じたのはいったいどれくらいぶりなのだろう。
白人たちのあの、見栄えばかりでポヨポヨと頼りない肌や、
あるいは、東南アジアの女たちの、ゴム人形を抱いているような味気無さ。
それに比べてこのキョーコの肌の感触。
堪らなく滑らかで堪らなく暖かく、
そしてまるで絡みついて吸い付いてくるような、
このあまりにも魅力的な、それは魔力とも言えるほどに甘い、肌の感触。
キョーコは水のシャワーの飛沫の中で息を荒立てながら俺の胸に顔をうっぷしている。
そして腹筋を弄っていた指先がその下、陰毛に降りてきた。
亀頭の先にキョーコの指先が触れた時、思わず息を漏らしてしまった。
感じる?とキョーコは言った。その代わりに顎を上げさせて舌を吸った。
舌を吸いながら背中のくびれをなぞり、そして柔らかい尻の肉を掴みあげて強く持ち上げると、
キョーコはそれから逃れるようにすっと膝を折って身体を落とし、
そして流れ落ちる水の中で俺の魔羅を口に含んだ。
降り注ぐ冷水の中で、キョーコの舌は火傷しそうなぐらいに熱かった。
その熱い舌が亀頭の側面をぬらぬらと滑り続け、
俺は奥歯を噛み締めながらその快感に耐えた。
くそったれ、俺としたことがこんなオンナに勃起するなんて。
キョーコのフェラチオは荒々しかった。
奥の奥までなんの躊躇もなく飲み込んで喉の奥でぐりぐりと締め付けながら、
突きだした舌で玉の裏側を舐めまわした。
思わずいきそうになって髪を掴んで立たせると、
舌を絡めたまま後ろ向きにして、
その小ぶりな身体を背後から抱きすくめた。
したいの?とキョーコが言った。
したい、と俺が答えた。
こんなおばさんでも?とキョーコが言った。
そう言われた途端、魔羅がピンと跳ね上がった。
首筋に歯を立て、鷲づかみみにした両手から零れ落ちる乳房を荒く揉みしだいた。
キョーコは誘うように尻を突き上げ、その丸い曲線の間を魔羅が滑っては弾かれる度に、
クスクスと笑っては身を捩った。
水に叩かれる背中を覆うように俺はキョーコの上から身体を被せた。
ねえ、暖かい、とキョーコが言った。
キョーコの身体も暖かかった。
それはまさしく人の温もりだった。
人の温もりはやはりどうしても愛しかった。
濡れた身体のまま俺はキョーコの身体を抱え上げるように全裸のまま部屋へと向かった。
廊下の掃除をしていたネパール人の小僧たちがそんな俺達の姿に目を丸くしていたが、
そんなことも知ったことではなかった。
部屋に入るなり、俺はキョーコの身体をベッドの中に投げ込んだ。
小さな悲鳴を上げたキョーコの身体の上から伸し掛かり、
強引に身体を開いてはそのまま奥まで一挙に突き入れた。
キョーコの喉の奥から、悲鳴とも叫びとも言えない野太い絶叫が長く伸びた。
乱れた髪の中で口を大きく開け、鼻の穴を膨らませながら、
喘ぎ声というよりは怒声を上げ続けた。
この女、と俺は思った。
この女、この女、この女。
それは愛の交歓というよりは、飢えた野獣が獲物を食い漁るような野蛮な交尾。
髪を掴み、音を立てて吸い上げながら、歯を立ててはその柔肌を食いちぎるように、
そんな俺の肩を背中を、キョーコの爪が切り裂いていく。
身体中に張り付いた冷水の雫が一挙に沸騰を初め、
いつしか吹き出した汗と混じり合っては、全身が溢れ出した愛液に塗れて行く。
この女、この女、この女。
ベッドの足が踊りを踊るようにガタガタと音を立て、
鼓膜が破けそうなほどに響き渡るキョーコの声の中で、
この安普請の壁が、いまにも崩れ落ちそうなほどに揺れ動いている。
背後に開かれたままのドアの向こう、朝を過ぎた白い陽光の中で、
箒を片手の少年少女たちが、呆然として目を見張りながら、
そんな俺達の姿を、黒い瞳をまんまるにしては、息を失って見つめ続けていた。
♪
薄明かりの漏れる真昼の部屋の中、
ドアも窓も閉めきったまるで溶鉱炉のような灼熱に焼け爛れながら、
午後いっぱい、夕方近くまで夢中になって貪りあった。
俺よりも一回り近く年上であったキョーコの身体は、
外で見るよりも一層に脂肪が乗り、その張り切った尖った乳房も、
突き出した下腹の丸みも、そして薄目の陰毛の底にある熱い熱い蜜の壺も、
想像した以上に俺の欲望を掻き立てた。
俺はまるで気が触れたようにそんなキョーコの身体を貪った。
キョーコは踊るように腰を回しては突き上げ、
勢い余ってすぽんと抜けてしまうたびに、その奥から愛液の雫を迸らせ、
そして犬のように凍えた犬のようにブルブルと身体中を痙攣させた。
俺はやってやってやりまくった。
引き千切るばかりに乳房を掴み、食いちぎるように乳首を強く吸った。
尻に爪を立て、高く抱え上げ、引き裂くように足を持ち上げて、
平らに伸すように膝を押し開き、そして前から後ろから上から下から、突いて突いて突きまくった。
身体中から汗という汗が流れ出し、キョーコの身体から流れだした愛液と混ざっては
ベットはまるで絞れば水が滴るぐらいに隅から隅までぐっしょりと濡れた。
街に買い物に出かけていた連中がどやどやと帰ってきた時、
キョーコは身体中を痙攣させたまま、
噛み締めた歯の奥から長い長い嗚咽を漏らし続けていた。
あれ、おーい、キョーコちゃん、というキタムラの声が聞こえた。
もうどうなっても知ったことか、と思った。
俺はキョーコの震える身体を胸の中に抱き込み、
そして甘い汗の匂いに満ちた髪の中に顔を埋めて、俺の女になれ、と言った。
♪
キョーコとはそれから事あるごとに身体を合わせた。
キタムラやその他の百姓連中の目をかすめて、
流し場の陰で、浴室で、そして明け方の俺の部屋にこっそりと忍び込んできては、
息を殺して交じり合った。
湖でボートに乗ろう、と沖にでかけ、あまりにも激しく動き過ぎて危うく転覆して水の中に放り出されそうにもなった。
トレッキングと称して山にでかけ、街を見下ろす崖っぷちの岩の上で、思い切り大きな声を出してまぐわった。
キョーコと知り合ってから、どういう訳かこれまであれほど眩しく見えた白人娘のツーリストに興味がなくなった。
ドラッグに手をだすことさえまれになってきた。
考えていることはキョーコのことばかり。
あの肌の感触。ちょっと垂れ気味の大きな乳房。
そしてすでに中年期の匂いを漂わせた丸い下腹部と、その奥にある赤く濡れた襞。
ある時キョーコはまるで天井にまで届く程の潮を跳ね上げた。
ある時キョーコはなにも言わずに亀頭の先端をその後ろの硬い蕾の上に導いた。
ある時キョーコは身体中を痙攣させ波打たせながら失禁した。
ある時キョーコは奥歯をガチガチと鳴らしながら、
今にも死にそうな掠れた声で、愛している、と言って笑った。
キタムラがカトマンズに向けて決死の大冒険を仕掛けたのはまさにそんな時だった。
キタムラが出発した後、キョーコは旅芸人の一団に囲まれて一夜を過ごした。
俺はひとり、これでキタムラが帰って来なかった時のことを考えた。
そして俺はあのキョーコを独り占めできる。がしかし、と俺は思った。
独り占めできてしまったキョーコに果たして魅力があるだろうか。
その夜、キョーコは訪ねて来なかった。
俺もキョーコがやって来ても、今夜ばかりは断ろう、と思っていた。
女とまぐわっていた最中に奴に死なれでもしたら、それこそ一生寝覚めが悪くなる。
あんな女、とキョーコのことを思った。
あんな年増の小太りの女のために、そんな重荷を背負うのは真っ平だった。
そしてあの夜を境に、キョーコに対する熱情が褪めた。
それ以来、俺はキョーコと視線を交わすことさえもなくなった。
そしてふと顔をあげると、キョーコのきつい視線を浴びていたことに気づいてはっとしたりした。
夜更けになってキョーコが部屋を訪ねてきた。ねえ、なんで逃げるの?と耳元できつく囁いた。
逃げてなんかないさ、と俺はとぼけた。
うそよ、とキョーコが言った。ずるいわ。人のことあれだけその気にさせといて。
その気になったのはお前の勝手だろう、とはさすがに言えなかった。
ねえ、して、とキョーコは言った。
毛布の中に乱暴に片手を突っ込んできた。
彼女に掴まれたそれはしかに以前のように激しく反応したりはしなかった。
飽きたの?とキョーコは言った。
そうさ、気づけよ、とは言えなかった。彼女は年上の女性なのだ。年上の女性を傷つけてはいけない。
そう、とキョーコは言った。だったらいいわ、と捨て台詞のように鼻で笑った。
そしてキョーコが部屋を出ていこうとした時に、どういう訳か、いきなりあの熱情が込み上げてきた。
俺はキョーコの腕を強く引いてベッドの中に引き倒した。
なによ、乱暴ね。
俺はキョーコのそのボワンボワンと揺れる乳房を揉みしだき、
そして愛撫もせずにいきなりそれを奥まで突っ込んだ。
痛い、とキョーコは眉を潜めた。
ごめん、と俺は荒い息の中で短く言った。
ごめん、やっぱり我慢ができなくて。。そして驚くほどあっさりと彼女の中で果てた。
出来すぎだった。これでなんとか辻褄は会う。
あのカトマンズの朝にキタムラを迎え入れたキョーコを見て、俺は身を引こうと決心したのだが、
しかし心のなかではまだ熱情が煮えたぎっている。
これですべてが丸く収まる。あとはあのキタムラが、どこまでキョーコに本気であるか、ということなのだが。
そうこうするうちに、キタムラが俺の部屋を訪ねてきた。
キョーコのことだろう、とは察しがついた。
もう終わったことだ。
もしも面倒なことを言い始めたらその時はその時だが、驚くほどにその気は失せていた。
確かに、いざ喧嘩になった時、キタムラはかなり手強そうな相手であった。
その時には一発二発ものも言わずに殴られてやろうと思っていた。
それで気が済んでくれるのならそれでいい。
俺達はハッパにまぜたハシシを吸いながらとりとめのない話をした。
あのカトマンズ行きの道中のことから始まって、これまで旅の話から、
日本でなにをやっていたか、仕事の話やらこれからのことやらといろいろ話した。
そうかルポライターも大変なんだな。
ああ、そう。なにをやってもそうだが、いざ銭にしようとすると色々大変だよな。
そういうキタムラのことを俺は心底気に入っていることに気づいた。
あの不良時代に知り合った誰かに似ている。
あるいは、あの連中の寄せ集めのような気さえした。
俺はこれからアフガンに行くのだが一緒に行かねえか、と誘ってみた。
ペシャワールまで行って、そこでムジャヒディーンのゲリラ部隊に加わってアフガンに入る。
カブールまで辿り着ければ金になる。
帰りがけにヤクでも仕入れればしばらくはまた旅して暮らせる。どうだ?
ルポライターであれば当然乗ってくるだろうと思った。
だが、その時にはあの目障りなオンナはなしにしてくれよ、と言うつもりだった。
いや、とキタムラはすぐに断った。
実は俺の旅はもう終わりだ。
実はキョーコの家は大した資産家で、彼女の父親が手を広げている海外不動産の仕事を手伝うことになった、という話だった。
なんで資産家の娘がインドやらネパールの、しかもこんな安宿にいなくちゃいけないんだ。訳が判らねえ。
親にはヨーロッパに行くと嘘をついたらしい。
あいつの荷物見たか?バッグはすべてヴィトンだし、
普段着ているあのダボパンだって実はケンゾーなんだぜ。
俺たちの前では調子を合わせてヒッピー面してるが、金の使い方も半端じゃねえし。
日本での写真も家族でベンツに乗っていた。間違いない。
資産家か、とキョーコの身体を思い出してみた。
あの小太りの身体。
どう考えても資産家で想像するような箸よりも重いものを持ったことがない、という印象からは遠すぎた。
おばさんとまでは言わないものの、良くて地方都市のちーママ。あるいは売れないソープ嬢と言ったところだろう。
つまり、とキタムラは言った。キョーコは俺にとっては最初で最後のチャンスってとこなんだ。
チャンスってのはつまりは金持ちになるってことか?
ああそう。金を掴むための最期のチャンス。
俺にもようやく運が回ってきたってところだ。
ルポライターから成金の地上げ屋か。随分の転身もあったもんだな、と皮肉を言ってやった。
ああ、こんなことを続けていたら命がいくつあっても足りないとは思っていた、と神妙なことを言った。
奴らの言いなりになっていたらこのまま殺されちまう。
そして正義を追う青年ルポライターの死、なんて記事でまた一稼ぎしようって魂胆なんだろう。
始めたころと違って、実際にそれで飯を食おうと思ったらなかなか思うようには行かねえ。
誰かにそれを買って貰うためには、買ってくれるお客様に気に入って貰えるうような商品に仕上げなくっちゃいけないのさ。
真実を暴くだ?正義の告発者だ?聞いて笑わせるぜ。
全ては商品なんだ。愛も平和も正義も真実も、すべてが商品。
価値基準は金になるかならないか、誰が得をするかって訳でさ。
まあそんな訳で、そろそろ潮時だと思っていたところをあのオンナに知り合った。
これもなにかの縁だ。乗らせて貰う。下手は打たねえ。
あのオンナと結婚するつもりか?と聞いた。敢えてキョーコという名前は使わなかった。
ああ、そういうことになればそうなるだろうな、とキタムラは答えた。
あの女がどんなオンナか知っているのか?と言いそうになってやはりやめておいた。
いずれにしろもう俺の知ったことではない。
やってしまっことはやってしまったことだが、それさえもわざわざ口に出さない限りは真実足り得ない。
あの女がわざわざそれを口にしないかぎり、二人の間から俺の存在はみるみると風化していく筈だ。
そんな俺の気持ちを見透かしたように、ああ知っているよ、とキタムラは言った。
お前らのことは知っている、というか、キョーコの口から聞いている。
俺はキタムラの表情を伺い、そしてなにも答えずにタバコに火をつけた。
なるようになれだ。俺の知ったことではない。
別にそんなことでうだうだ言うつもりはねえよ、とキタムラは笑った。
俺は関心してるんだよ。
おまえ、もしかしてAV関係者かなにかか?
正直俺でさえあの女の性欲には辟易してたんだ。
甘い顔していたら朝まで寝かして貰えない。
それが毎夜毎夜じゃあさすがにこっちも身が保たねえしな。
でちょっと突き放したらどうだ、さっそく違うおもちゃに手を出しやがった。
お前もさんざん付き合わされてご苦労なこったが、いやしかし、話は聞いたよ。
お前も相当なタマらしいな。金に困ったら竿師にでもなったらいい。
あのオンナもそう言ってたぜ。俺からも礼を言わせて貰う。
俺はキタムラの表情を伺った。
それほどラリっているというでも無さそうだ。寧ろ真顔。
こんな俺達を見てもだれもラリっているなどとは思われないだろう。
キタムラの表情にはケンがなかった。
やるときはやるつもりだったがこんな話をこれほどさらりと言ってのけるキタムラに勝てるとは思えなかった。
その時には前歯ぐらい折られるかもしれない。
あのオンナがそれに値するかと考えて思わず舌打ちをしたくなった。
黙っているとキタムラから口を開いた。
俺にだってわかってるさ。
俺だってそんな感じで知り合ったんだしな。
所詮その程度のオンナなんだろ。
そして多分、これからもそうだ。
まあでも、オンナなんてみんなそんなもんだろう。違うか?
俺は別に、あの女が良いの悪いのやら、
あんなおんなにひっかる俺達のような男がバカだのアホだのと言うつもりもねえ。
女がそうなら男もそうだ。
例えあんな女でも溜まってる時に目の前でこれ見よがしに尻を振られれば、その気になったりもする。
それは俺だってお前だって同じことだろ。
それぐらい俺にも判ってる。
だからまあ、あの女の子ことはもう言いっこなしだ。
ただな、そう、あの女はちょっとこれまでの女とは違うんだ。
つまりせっかく掴んだ金づるだ。
淫乱だろうがヤリマンだろうがそんなことは俺はこれっぽっちも気にかけるつもりはねえ。
あの女がどんな女であろうと知ったところかとさえ思っている。
だがな、そう、あの女のバックは別だ。
何だろうが大事に大事に骨までしゃぶり尽くさせて貰うつもりだ。
という訳で、とキタムラは俺を見た。
話はこれまでだ。
つまり金づるに手をだすな、ってことか。
いや、お前とタイマン張るつもりはねえよ。
ただ、お前にその気があるんなら、つるんでもいいぜってことさ。
アフガンの百姓一揆なんかを見物に行くよりは、
あの色キチガイのねえちゃんを二人でいたぶって金にしたほうがよっぽど気が利いてると思うんだがな。
あいにくとヒモになる程にはまだ苦労してないんでね。
ヒモじゃねえだろう。マスオさんって言って欲しいな。
俺はあの女のコネの海外不動産とやらで一山当ててやるつもりさ。
着眼は悪くない。
要は先立つ金だ。
ハワイ、グアム、ビバリーイルズにオーストラリア。
日本人用の高級別荘を売ったらしこたま儲かるぜ。
税金対策にもなるしな。
そう、その税金ってところが味噌なんだよ。絶対に儲かる。
そのうちに俺はフォーブスに名前が乗るぜ。
そうなればアバタどころか誕生パーティにマドンナを呼べるぜ。
まあ女の話はこれまでだ、とキタムラは大きく息を吐いた。
さあ、面倒な話は終わった。さあ飲み直そうぜ。
そして俺達は新たにガンジャを巻き直し、
そしてふとした弾みでこれまで見てきた最高の夕焼け、について話始めた。
なぜそんな話になったのだろう。
そう、なぜ旅になんか出たのか、という話からだ。
世界中でいろんな夕焼けを見たよ。
マドラスの夕焼け。サハラ砂漠の夕焼け。イスタンブールの夕焼け。
キーウエストの夕焼け、そして日本の夕焼け。
世界中で夕焼けを見たかったんだ。
なぜ夕焼けなんだ?
なんかほっとするだろ?
夕焼け見てるとさ。なんか、もう許してやってもいいかな、って思うだろ。
やさしい気持ちっていったらユーミンみたいで気持ち悪いけどさ。
ガキの頃な、部屋の窓からいつも一人で夕焼けを見てたんだ。
最初から最後まで。
おひさまの光がすっかりと夜に吸い込まれるまで、ずっとずっとさ。
ああ、俺もさ、と俺は言った。
いつもいつも学校の校庭でボールが見えなくなるまでサッカーボールを蹴り続けててさ。
俺は夕焼けが恨めしかったな。みんな帰っちまってさ。
ずっと昼ならずっとサッカーができたのに、ってさ。
ふとキタムラが顔を上げた。そうかお前も。お前もやっぱりそうだったのか?
それがなにを意味するか判らなかったが、その一言でキタムラの身体がぐったりと伸びた。
そうか、なんだよ、やっぱりそうか。
お前もやっぱりそうだったのか、くそったれだな、と、
一挙に弛緩した顔でさもおかしそうにケラケラと笑った。
ふと部屋に満ちていたぎこちない雰囲気、つまりは殺気がすっと吸い込まれていった。
その時なって、そうか、こいつもやはりそのつもりはあったのだな、と気づいた。
旅ってのは不思議だよな。妙なところで妙な奴に会う。
ああ確かに。なんか日本では考えられないぐらいにな。次から次へとおかしな奴に会う。
お前もやっぱりそうか、とは思ってたんだ。
なんのことだ?
それには答えずに、そして奴は歌をがなり始めた。
演歌か何かか、見かけに依らず染みったれた野郎だ、と思ったら、
それはストーンズのSALT OF THE EARTHだった。
ストーンズか?キース・リチャーズじゃねえか。
そう、ストーンズ。ストーンズが好きでさ。キース・リチャーズとかさ。
やれやれだな。俺も日本ではストーンズばかりだった。
知ってたよそんなこと。
お前をひと目みたらすぐに判ったぜ。
この野郎、すかしやがって。
こんなど田舎のヒマラヤの山ん中まできてキースを気取ってやがるってさ。
そりゃお互い様じゃねえか。
おまえと旅ができたら面白かっただろうにな。
俺も実はそう思っていた。
南米でも行かねえか?
ゲバラの部隊の残党とつるんでまたひと暴れしようぜ。
サンディニスタはどうだ?
センデロ・ルミノソでもいいな。
どうせならパブロ・エスカバーと組んでコケインマネーで南米に革命でも起こすか。
まだまだ行ってないところがたくさんあるな。
ああ、まだまだやってねえことがたくさんある。たくさんあり過ぎて、途方にくれちまうぜ。
その後、急遽日本に帰国することになった、と伝えられた。
すでに空港に向かう用の小奇麗な服に着替えたキタムラとキョーコは、
なので、この旅の道具、もし欲しいのあったら持って行って、とはにかむように笑った。
そしてキタムラは俺を見て、死ぬなよ、と笑った。
生きて帰れたら連絡してくれ。
俺はそのころ何をやってるかしらねえが、持ち帰った写真を売って金にできるところぐらいなら教えてやる。
お前にはこの後もどこかで会いそうな気がする。
その時はお互いどうなってるか判らねえけどな。
ただ、もしもまた会えたらその時はつるもうぜ。
忘れるなよ。俺達はつるむんだ。
パブロエスカバーの金でゲバラの夢を追う。
そうだ、それだ。判ってんじゃねえか。忘れるなよ。
俺達はマブだ。例えどんな立場にいても俺たちはマブだってことを忘れるな。
そして待たせたタクシーに乗り込むキョーコの弛んだ尻を眺めながら、
くそ、もう一発ぐらいやっておけば良かったかな、とも思った。
その後、俺はアフガンで死にかけ、テヘランで死にかけ、
イスタンブールで、アテネで、そして命からがらようやく辿りついた東京では、
ヤクザと揉め事を起こしてまさに肝の底から冷えるような思いをさせられた。
そんなまさに最低のどん底のその底のような経験を繰り返した末にアメリカに流れ付き、
そしてバイトでも探そかと下見に来た日系居酒屋で甘ったるいカツ丼を食いながら古新聞をめくっていた時、
そんなキタムラの死亡記事を見つけたのだ。
そうかあいつは北海道出身だったのだな、とその記事の中で知った。
つまりキョーコ、あのチブデブのカピパラみたいな色情狂の女とはついに結婚しなかったってことか、
と、あのオンナの顔を思い出してニヤリとしてしまった。
あのバカ、騙すつもりがまんまと騙されやがって。
あんなオンナが資産家の娘の訳ねえじゃねえか。
そんなことは抱いたらすぐに判っただろう。
そうあんな女に騙されるなんて、俺達はどうにかしてたんだ。
きっとそうだ、といまになってはっきりとそう思う。
が、果たしてキタムラはあのオンナになにを見たのだろう。
金のためならばあんなオンナとでも結婚しようとしたキタムラのそのシニカルさに、
俺は逆にしたたかさを見た思いがしていたのだが、果たしてそれは彼の本心だったのだろか。
そして奴は日本でなにを見たのだろう。
あの女は本当に資産家の娘だったのだろうか。
あるいはどんな茶番劇があの二人を待ち受けていたのだろう。
今となってはなにがあったかは知るよしもないが、
キタムラはやはり旅に舞い戻り、そして旅の中で死んだ。
奴の予想したとおり、正義の鉄砲玉として触れてはならないところに足を踏み入れ、
そして奴の予想したとおり、正義を追い続けた青年ルポライターの死として、また新たな一稼ぎが打たれた。
それが判っていながら、あいつはなぜ、再び旅になど出たのだろう。
あいつはもしかしたら、と俺はふと思った。
もしかしたら世界中の夕日の中に、俺の姿を探していたのかもしれない。。
食い終わったカツ丼の丼を下げにきたメキシコ人のウエイターがぬるいお茶を継ぎ足していった。
そのまずいお茶を啜りながら、間の抜けたLAの風景。
ゴミだらけのパーィングロットと枯れた芝生とスモッグ色の空を眺めた。
そして俺はSALT OF THE EARTHを歌った。
世界中の酔っぱらいよ。乾杯だ。
白も黒も黄色もねえ、さあ乾杯だ。
くそったれ、いい男に限って早死しやがる、と俺は舌打ちをした。
がしかし、俺は死なねえぞ。とことんまでこすくしたたかにどんな方法を使ってでも生き延びてやる。
目標はキース・リチャーズだ。
♪
「リョウとショウコ - LET IT LOOSE」
高校卒業を控え、受験戦争もラストスパートを迎えたにも関わらず、
相変わらずバンドばかりで午前様を繰り返していた頃、
バイト先の喫茶店の常連であったなんとか組系なんとか会のなんたらというクロカワというチンピラから、
紹介したい奴がいる、と話を持ちかけられた。
クロカワ。このちびたチンピラ野郎。
またいつもの奴で紹介料だなんだでコーヒー代ただにしろなんて因縁をつけてくる算段だろう、とうっちゃっていたが、
閉店も近くなった頃になって、一人の男が入って来た。
全身が革づくめ。黒づくめ。
スリムの革パンに鋲付きの黒いバイカーブーツ。ダブルの革のハーフコートの下にはこれまた黒い革製のシャツに黒い手袋。
はだけた胸に下がったシルバーのカンナビスのネックレスだけが鈍い光を放っている。
この見るからにロック野郎然とした見るからにロック野郎。
エプロンを下げて皿を洗っていた俺の前に、よお、と男はカウンター越しに黒革の手袋を差し出した。
リョウってんだよ、とその少年は口を端を歪めて笑った。
XXさんだろ、OOの、とその男は俺のバンドでの芸名とそしてバンドの名前を告げた。
この店において他人の口からその名前を挙げられたことは嘗てなかった。
この場所は俺にとっては高校の延長であり、バンドとはきっぱりと区分されるべき場所である筈だったのだ。
とりあえず、エプロンで手を拭いて差し出された手袋の上から握手をした。
がしかしと改めてクロカワを振り返る。バンド関係者ならいざ知らず、なんで地回りのチンピラのであるクロカワがこんな男を連れてくるのか。
実はよ、とリョウと名乗ったその全身黒革の痩せぎすの男が言った。
この間ロフトでおたくのギグを見たんだよ。で、おおドラマーが良い音だしてんじゃねえか、って思ってよ。まあそれ以外はなんてことはねえ、とは思ったがな。特にあのベースは最悪だな。あのバンドにあのドラマーじゃもったいねえな、とかな、言ってたんだよ。したらよ、そいつが俺のタメでしかも地元が一緒って言うじゃねえかよ。ってんで、ちょっとこのクロカワに頼んで、面を拝ませてもらいにきたって訳なんだよ。
だったらギグに来ればいいじゃねえか、と言いそうになって改めてクロカワを見た。なんでよりによってそんな奴をこの店に連れてくるのだ。
いきなり話を振られたクロカワが、妙にしどろもどろに、実はね、このリョウさんもバンドをやっていて、と続けようとしたところ、
いきなりリョウから脛を蹴り上げられた。
てめえは余計なことを言わなくてもいいんだよ。リョウは剃り上げた眉をことさらに釣り上げてきつくクロカワを睨む。
この店においてはいつも威勢のよいクロカワがいきなりこんな醜態を晒す様がちょっと哀れに思えた。
まあ座ってください、と俺は言った。コーヒーでも淹れますから、という俺に、いや結構、とリョウは言った。
話は手短に済ませようぜ。
実はABCがよ、とリョウはいきなり当時、ライブハウスシーンから唯一メジャーデビューを飾ったバンドの名前を口にした。
ABCがよ、来年頭から全国ツアーに出るんだが、その時のサポートバンドを探していてな。で、うちのバンドにそのシラハの矢がぶっささってよ。
それはそれは、と俺はリョウの仕草を真似て口の端を歪めて笑ってやった。それはそれは羨ましい限りで。
それを見てリョウは、まるで鏡に返すように似たような皮肉な笑いで答えた。つまりこれが奴のトレードマークなのだろう、と思った。
したところがよ、ドラマーがちょっとやばいことになってな。
リョウの話では首にした、というのは建前で、実はオンナができたか下手なヤクにはまったか、練習をサボりがちになったドラマーにちょっと焼きを入れたら、思わず右腕を折ってしまった、ということらしい。
つまりよ、まあ、ちょっと蹴りを入れたら当たりどころが悪くてよ。まああんなドラマー、どうなろうが知ったことじゃねえんだがよ。
がしかし、リョウの話が本当であれば、ABCのツアーまでの間にドラマーを探さなくてはいけない。その代役が俺という訳で、それが本当なら確かに悪い話ではない。
ギャラって訳でもねえんだがよ、まあ挨拶代わりにそれなりの土産は用意しようとは思ってんだ。まあ後のお楽しみってことでよ。
実はよ、俺はおたくのことをかなり前から知ってたんだよ。噂に聞いたってよりもまあそれなりのツテからな。いろいろ聞かせて貰ってたよ。色々とさ、とさもおかしそうにケラケラと笑った。いいんだよ。そういう三枚目キャラもうちのバンドには必要だったんだ。その土方のおやじみたいなアフロヘアもよ、そう、なんかまあパンク一色ってよりも、そういうちゃらいキャラもいいかな、とは思ってた。つまりもうほとんど面接はパスだってことだ。あとはオタクの返事次第。まあお互い悪い話じゃねえとは思うんでよ。
そう言い残すと、リョウはじゃな、あばよ、と手を上げて店を出て行った。
リョウに追い払われて隅のテーブルでインベーダーゲームをやっていたクロカワに、おい、行くぞ、と犬に対するように投げやり言い捨てて。
クロカワは途中のゲームをそのままうっちゃって慌てて店を走り出ていった。
ABCの全国ツアーか。。本当だとしたら確かに悪い話じゃない。
がしかし、と俺はすでにその時点で気がついていた。
格好が決まったバンドマンは実は大したことはない。特にステージ以外での格好をバッチリと決めている奴。
そういう輩はロック・スター的なものに憧れているだけで、ロック・スターになるためのまずは第一条件である楽器の演奏そのものはお座なりにしているケースが多い。
俺はステージでの衣装が嫌いだった。できることなら普段の生活時には出来る限りロック・スター的なものからは離れていたいと思っていた。
特にこの店では。。
とそんな時、おい、と後ろからマスターの声がした。
やめとけ、とマスターは言った。
なにが?
だから、いま来た奴の話だ。やめとけ。
そうかな。もし本当ならいい話だと思うんだけどな。もし本当なら、だけど。
もしかしてお得意様のクロカワをコケにされて怒っているのか。がそんなことをわざわざマスターが気にかける筈もない。
クロカワはこの店においても鼻つまみだった。高校を中退してからプラプラとパンチコばかりして暮らし、駅前で後輩たちに絡んでは小銭をたかる。外ではそんなチンピラ風情が板についていたクロカワが、唯一そんな現実を忘れて自分に帰れる場所がこの店であったのだが、最近のクロカワはこの店においてもそんなチンピラ風情を振り回し初めている。チンピラの虚勢の仮面を外したクロカワが小心者のA型であることを知っている俺達にとっては、そんなクロカワの態度が鼻につき始めていたところだった。
もう今日はこのぐらいでいいから早く帰って寝ろ。お前最近寝てないだろう。目真っ赤だぞ。
確かにそうだ。しかも家にもほとんど帰っていない。風呂にも入ってねえだろう、と言われなかったのは幸いだった。がしかし、こんな時間に店を追い出されていったいどこに行けと言うのだ。
今日はもう店じまいだ。どうだ?飯を食わねえか?、と駅前のスエヒロでエビピラフを奢られ、そして帰り道にそのまま自宅の前で車を降ろされた。
いやあの、ここはまずい、というかここだけはまずい、というか。。
と困惑する俺に、たまにはかあちゃんに面を見せてやれ。そんでちゃんと風呂にも入って、良く寝ろ。
つまりそういうことか。
という訳で、久々の自宅だった。家に入る前に犬の顔を見に庭に周り、かばんやらバンド機材を玄関前に積み上げたままそのまま散歩に出た。
子供の頃から飼っていた犬はいまではすっかりと老いぼれてしまっていた。
小学生の頃はどこに行くにも一緒だったこの犬も、俺が中学だ高校だ、部活だバンドだ、とやり始めてからはすっかりとご無沙汰になってしまった。
犬の散歩から帰ると、玄関先に明かりがついていた。ドアを開けたとたんに暗い廊下の奥からおふくろが顔を出し、しっ、お父さんが起きるから静かに、と人差し指を口にあてて眉を潜めた。
ご飯は食べたの?
ああ、食ってきた。
風呂に入りたいんだが。
明日の朝にしなさい。お父さんが会社に出た後に。
学校遅刻しちまうぜ。
いまさらそんなこと気にするほどまともに暮らしてるとも思えないけどね。
という訳で久々に帰った我が部屋。
ジェイムス・ディーンとキャロルと矢沢永吉。
レッド・ゼッペリンとディープ・パープルとアグネス・ラムに小泉今日子。
当然のことながら出て行った時のまま。
じっとりと湿った布団を捲るとシーツの上に砂が溜まっている。前に帰った時は江ノ島に行った帰りで、砂まみれのまま寝てしまったのだった。ポケットに入っていた砂がベッドに溢れていたが掃除をする間もなく再び家を飛び出していたのだ。
つまりそう、前に出た時のそのままだ。
次にいつ帰れるかわからないからと、レコードやカセットテープやら文庫本やらを片っ端からをかばんの中に詰め込み、そして久々に電話もかけずに音楽も聞かずに一人のベッドでぐっすりと寝た。
翌日、一風呂浴びて二時間目の途中から顔をだした学校。
学校に来るのもまさに久しぶりで、教室に顔を出した途端にクラス中がどよめいた。
よおよお、どうしたよ、とクラス中が俺を振り返り、やあやあ、よろしくよろしく、と俺は精一杯の笑顔でそれに答える。
次から次へと折りたたんだ紙片のメモが回ってきて、読む度に笑いを押し殺して送り主と目配せをしてうっしっし、と笑う。そう、俺にだってそういう高校生ライフがあるのだ。そして俺はなんだかんだいってそれをとても気に入っていたのだ。
そうこうするうちに学年中の不良仲間が集まってきた。授業中だというのに、廊下に溜まった奴らが、開いたドアの間から次々に合図を送ってよこす。窓の外から、おーい、おーい、XXさーんと大声を張り上げる後輩たち。XXさーん、お帰りなさいです~!馬鹿野郎、恥ずかしいからやめろって。全校中に知れ渡っちまうじゃねえか。
大した人気じゃないか、と教壇の上から、嫌味に笑う教師。挨拶が済んだらちょっと大人しくしていて貰えないかな。お前と違って他の生徒は大切な時期なんだ。
そう、こんないけ好かない教師の面さえ、久々に見るとなんとなく愛嬌がないこともない。
教師たちは俺がバンドをやっていることを知らない。俺のやっていることが学校にバレたら多分停学では済まない。ヘタをすれば新聞沙汰だ。その際には辞めることになるだろう。それを知って、学校中の奴らの間には緘口令が引かれていると聞いた。だから心配するな。だから俺達のぶんまえ思い切りがんばってくれ。
という訳で、まったく学校に顔をださない俺の出席率はしかしいつも皆勤賞。つまり、教師の目を盗んで出席帳簿を書き換えてしまう奴らがいるのだ。俺に目をつけた生活指導の車はドブの底に沈み、赤点をくれた教師のもとにはそれとなく脅迫が届き、挙句の果てに、追試の際には10トンの大型トラックの一団が校庭中を走り回った。
なんだ、邪魔にし来たのか、という教師に、逆だよ先生。これで俺を落第でもさせたらあんたがあのトラックに轢き潰されるぞってことだよ。
そして教師は俺に解答を教えてくれた。お前なんかを落第させてこれ以上の悪影響を与えられては堪らないからな。
二時限目の授業が終わった途端に学校中の不良グループがどやどやとうちのクラスに押し寄せてきた。教室はみるみるうちに1年から3年までの不良という不良たちが一同に顔を揃えた。
よおよお、元気だったか?仲間たちと抱き合って肩を叩き合い、なんだよお前、ニグロかけたのか、なかなか渋いじゃねえか、と後輩の肩を小突き、ぽーっとした顔で見つめる一年坊の頬を撫でてよろしくな、がんばれよ、と笑いかける。いつものダチだった。ロック・スターを離れた俺の大切なダチだった。
そんなこんなで3時限目4時限目は仲間たちとサテンにふけてミーティング。つまりは最近の状況報告。飯の後に学校に戻り、良い子派の人達とも挨拶を交わしていた時、3年2組のアラキ・ショウコがすっと俺の後ろに立っていた。
目を伏せたまま、はいこれ、と封筒を差し出した。ラブレターというには封筒がかさばっている。
テープ?
そう、リョウちゃんから。
リョウちゃん?
昨日会ったんでしょ?で、これ渡してって頼まれたの。
お前、あいつの知り合いなのか?
いやまさか、と俺は改めてアラキ・ショウコの姿を見なおした。
アラキ・ショウコは不良ではない。
確かに顔立ちの整った表情は日本人ばなれしたものがある。
スタイル抜群だ、という話も聞いたことがある。
不良ではないがしっかりと髪を脱色し、薄化粧に爪の手入れも忘れていない。
がしかし、スカートが長い訳でも耳たぶにピアスが並んでいる訳でもラメ入りのシャツを着ているわけでもない。
学業も優秀で教師との受け答えにもソツが無い。
がしかし、どこかとらえどころのない、不思議なところにいる生徒だった。
不良グループからも良い子派にも属さない中間色。
美人なくせに浮かれた雰囲気がまるでなく、教室の中では至って地味な女の子。
どこの仲良しグループに属していることもなく、部活に入っていないこともあってその人間像はなんとなく謎。
誰もがそれとなく気にしながらしかし誰とも近づかない女の子。
そんなアラキ・ショウコの口からリョウの名前を聞いた時の俺の驚き。
リョウと知り合いなのか?
アラキ・ショウコはそれには答えずに、ふと顔をあげると、やけに直線的な視線で俺の瞳の奥を覗きこんだ。
リョウ、わたしのことなにか言ってた?
いや、なにも聞いてない。だから驚いている。
リョウのことはこの学校では誰にも言わないで。あんたのことも誰にも言わない。
俺のことって?
あんた、リョウのバンドに入るの?
いや、まだ決まったワケじゃない。
そう、とアラキ・ショウコは言った。
あんたのこと、リョウに言ったのはあたしなの。
ああ、それは聞いた。あるスジから俺のことはよく聞いてるって。
まさかあんたとリョウが付き合うことになるとは思わなかったから。。ごめんなさい。
いや、ごめんって、別に。。
あんたとリョウは違う。違う世界のひと。あんたのバンドとリョウのバンドは違う。同じロックだけど、でもぜんぜん違う。それだけは言っておく、とアラキ・ショウコは言った。
テープ聞いたら返事を聞かせてって言ってた。返事を聞いてこいって言われてるの。できるだけ近いうちに。
でも俺、こんどいつ学校来るかわからないぜ。
あんたがどこにいるかはあたしがよく知ってる。そこにあたしが行く。だからテープを聞いて返事だけ聞かせて。じゃあ、あたし行かなくっちゃ。
そう言ってアラキ・ショウコはふと俺の背後に視線を移した。
振り返ると、クラスの不良派の女達がじっと俺たちを見つめていた。
じゃあ。
ああ、じゃあ。
そう言うと逃げるように教室を出て行った。
ねえ、とすぐによってきたカオリが俺の背中を小突いた。
なによあのオンナ。
あのオンナって、アラキ・ショウコだろ?三年二組の。
だからそのアラキ・ショウコがあんたになんの用があるのよ。
知るもんかそんなこと。
それなに?と渡された封筒を指さされた。
さあ、なんか貰ったんだ。よくわからない。
ちょっと貸して。
いやダメ。
なんで隠すの?
隠してなんかないだろ。ただ俺のもらったものじゃねえか。お前には関係ない。
あ、そう、とカオリはふんと横を向いた。あたしには関係ないんだ。ふーん、そうなんだ。
お前なあ、とむくれたカオリに軽い舌打ちをすると、やっほー、久しぶり~、とやってきたユミやらマキコやらヨーコやらが一挙になだれ込んできて、ねえねえ、元気だった?と腕やら袖やら髪やらを引っ張る。ねえねえ、ちょっと痩せたんじゃない?と頬を撫でまわし、でもなんか今日はいい匂いがするけど、久しぶりにお家に帰ってお風呂に入ったのかな?と聞いたようなことを言う。
ねえ、今日もスタジオ?
ああ、今日は8時からだからそれまでまたマスターのところで皿でも洗うかな。
ならお店の方に行くね。待っててね。
という訳で、アラキ・ショウコに貰ったテープだった。
店に着いてからゆっくり聞こうと思っていたのだが、なんとなく気になって、そして授業が完全にチンプンカンプンになっていることも手伝って、授業中にさっそくウォークマンで聞いて見た。
なんだこれは。。思わずウォークマンのボリュームを絞ってしまった。
まるで高校生の文化祭。スリーコードを覚えたてのガキどもが調子に乗って初期のストーンズのコピーをやっている、とそんな感じだった。スタジオにカセットを置いて録ったのだろう。歪んだギターの音ばかりで他の音はまったくという程に聞こえない。
PANDEMICS とアラキ・ショウコの字であろう手書き。流行りの蛍光マジックで書かれたその文字は学業優秀者には似合わない極端な丸文字だった。
ふと回ってきた紙片。カオリの字だった。
あのおんなはやめて。ぜったい。と書き殴られていた。
6時限目の授業が終わったと同時にユミを筆頭にあのおちゃめな不良グループの女の子たちが一挙に流れ込んできた。
そのまま有無を言わさず両腕を取られてマスターの店に直行。なにか用があるのかと思えばそんなこともなく、俺などいるのか居ないのか判らないように自分たちで自分たちの話ばかりして勝手に騒いでるう。そんな一団が雪崩れ込んできて、狭い店の中は高校生の少女たちのはしゃいだ笑い声に満たされて、それまでいっそりとカウンターで本を読んでいたお客たちが目をぱちくりさせている。
だらかお前はもっと静かにしろって。ここはそういう店じゃないんだよ。騒ぎたいなら駅前のファミレスに行けよ。
そんな俺に、まあまあ、いいじゃないの、とマスターは気味が悪いみたいにごきげんである。はいこれ、とエプロンを渡されて、マスターはそのかわりに俺の座る筈だった真ん中の席にちゃっかりと滑りこんでしまう。
ハロー、マスター、やっほー、お久しぶり、ねえ、マスター髪切った?なんか素敵!と女の子たちに囃し立てられてマスターも嫌な顔はしていない。
あ、そう言えば、カオリは?とカウンタ越しに聞けば、知らない、との答え。
なんかどっか行っちゃったの。そのうち来るんじゃない?あたしたちここにいるって知ってるし。
渋谷でリハが終わったのが10時過ぎ。その後飲みに誘われたが制服であることを理由に断って、そのまま電車に乗ってとんぼ返り。マスターの店に着いた時にはちょうど店を閉めたマスターがドアの鍵を閉めているところだった。
なんか、ついさっきオンナの人が来たよ。とマスターが言った。
おんなのひと?マスターは通常、俺の周りの奴らをおんなのひととは呼ばない。
ああなんか、暗い感じの。なんか水商売っぽい感じの。待ち合わせでもしてるのかと思って、待つかって聞いたんだが、いやなら帰るってな。
ああ、たぶんアラキ・ショウコだろう、と思った。
でも水商売っぽいおんな?だったら違うのだろうか。
マスターと別れて駅に戻る帰り道、通りかかった直管のKHはゴロウの物だった。
一旦通り過ぎてからUターンして戻ってきたゴロ~。ちーっすと挨拶を入れては、実は探してたんすよ、とはしゃいだ大声を上げる。実は、ジンさんから。
ジンが?俺を?
よおよお、と足を踏み入れたアキラの下宿はすでに地元のダチたちで一杯。
隣町の高校の仲間とは違ってここはまさに俺の地元のダチたちの昔からの溜まり場。
こいつらは俺がバンドをやっているなんてことさえまったく気にも止めない昔ながらの腐れ縁仲間。
進学校で不良を気取っている奴らとは違い、ここに集まる奴らはほとんどが中卒。
すでに組の盃を貰っているものも多く、つまりは本ちゃんに限りなく近い。
つまり、俺の本当のまぶだち。いざとなった時に頼りになるのは実はこういう奴らなのだ。
よおよお、と言いながらタバコを強請り、さっそくギターを抱えてファンキーモンキーのイントロを繰り返す。
よお、そう言えばよ、シュウジが峰を投げて寄越した。一本咥えて投げ返そうとすると、いいから取っときな、と顎をしゃくった。パチンコで取って捨てるほどあるぜ。
こういうところが高校のダチとは違う。
シュウジは高校には行かずにぷらぷらとドカチンをしながら最近では組の連中とつるんでいるらしい。
シュウジのことだ。度胸と運動神経は抜群。本ちゃんでも一目置くその惚れ惚れするぐらいの極道ぶりに幹部クラスも頭が上がらないらしい。まあシュウジらしいと言えばシュウジらしい。がそのシュウジも、その隣りにいるジンには徹底的にぶちのめされたことがある。まあ小学生の頃のことだが、しかしここにいる連中はいまもそれを忘れてはいない。
とそんなシュウジは、しかし天敵であるジンのマブダチである俺にも頭が上がらない。なんだかんだと兄貴代わりになって世話を焼いてくれるのだが、時としてうざったいそんなシュウジのお節介に嫌な顔をするたびにジンに窘められる。世話を焼かしてやんな。あいつも寂しいんだ。
そういうジンを俺は本当にすごいと思う。不良の極意は気配りだ。外で親分気質の人間に出会うたびにそんなジンとの共通点に気づく。頭を取る奴が頭を取れるのは喧嘩が強いからでも金を持っているからでもない。つまりは気配りだ。そんな奴らにはこいつのためになにかをしてやりたいと思わせるなにかがあるのだ。
そんなジンが、よお、と俺に声をかけた。
待ってたんだよ。実は話があってよ、と言うジン。そういう時のジンには軽口は挟まない方が良い。
あのよ、お前のバイトしてる店にクロカワってチンピラが来るだろ?
ああ、来るよ。それがどうしたの?
あいつ、最近シャブ食ってるってな。売ってこいって言われたブツを全部てめえで食っちまったらしくてよ。〆られたらしいぜ。
シャブ?エンコでも飛ばしたのか?
いや、そこまでは行かねえ。エンコ飛ばすほどのタマでもねえだろう。ただしばらくは表に出れねえだろうな。人間の顔に戻るにはかなり時間が必要っていうかさ。
そんなにひどくヤラれたのか。
そこまで言うと、おい、とシュウジを向き直った。シュウジ、話してやれよ。
シュウジがその場所に居合わせたらしいんだ。
なんか言ってることがおかしくてよ。後藤の兄貴のバシタの弟が、とかさ。
バシタの弟の?
リョウっているだろ?
ああ、知ってる。この間そのクロカワに紹介されたんだ。
リョウ、と聞いて、ちっと、シュウジが舌打ちした。
後藤とか言ったよな。なんとか会の若頭。そのオンナの、リョウがその弟なんだ。
若頭のオンナの弟?
その後をシュウジが引き継いだ。
リョウの野郎、地元では有名な悪だったらしくてよ。ガキの頃から万引きの常習で何度パクられたか判らねえらしい。ただ誰ともつるまねえ。チームにも入ってねえ。いつもひとり。単独犯でせこい悪さを繰り返してはパクられると知りもしない奴の名前をちくってばっくれようとしやがる。中坊の時にはオンナ襲ったことがばれて危うく入りかけてるって話だ。おふくろは地元のパン助でパチンコだか麻雀だかの負けが込んでてめえの娘をソープに売ったらしい。どうしようもねえ親もあったもんだよな。
したらよ、とジンが話をついだ。
その娘、リョウの姉貴とやらに、後藤がツバつけたらしくてよ。したとたん、あのリョウの野郎、いきなり幹部風吹かせてブイブイ言わせてやがるってさ。
あの野郎、とシュウジの目が暗く淀んでいる。
いずれにしろそのリョウって野郎はろくなもんじゃねえ。いずれどこかで面倒を起こす。その時にお前に関わっていてほしくねえってことなんだよ。
やめとけ、とシュウジが言った。
俺はいずれあいつとケジメをつける。あんな野郎にこのままバッチつけられたら下のものは堪らねえ。その前にぶっ潰す。
つまりそいういうことか。
あいつ、ギター弾くとか言ってたよな、とジン。
ああ、昔おふくろの男がどこぞのギタリストだったらしくてよ。ガキの頃からそのお袋の男とやらに仕込まれていたらしい。が性格があれだろ。メンバーを片っ端から〆ちまうんで人が寄り付かねえ。で、組のチンピラ使って気に入ったメンバーに脅しかけは引っこ抜くなんてザマでよ。でそのバンドとやらを若頭に取りいって芸能プロに売り込んでくれなんて頼み込んできたらしくてさ。どこまでお調子こいてやがるってよ。若頭もねえさんの手前、手を焼いいたんだがよ。
カオリっているだろ。
カオリ?あのハヤカワ・カオリか?高校で同じクラスだよ。
そいつさ、中学の時にリョウに襲われたっていうのはさ。
カオリが?リョウに?
つまりはそういうことだったのだ。これですべてがつながった。
おう、リョウって野郎にはからむんじゃねえぞ。下手をすればお前もとばっちりを食うぜ。それも今回はただじゃ済まねえ。
とばっちり?
クロカワのシャブをぎったのが実はそのリョウだって話だ。さすがに若頭もそれにはカンカンでな。姉さんがなにを言おうが今回限りは勘弁ならねえってな。息巻いているらしいぜ。
翌日、午後近くに起きてそのまま新宿に出てバンドのメンツの溜まり場に直行。3時に機材の搬入してマイクチェックを済ませ一旦溜まり場に帰って軽くコンビニの弁当を食い9時に本番で10時に終了。アンコールが2つ来て12時前に〆。箱を閉めた後の打ち上げのテーブルにハウスからジャックダニエルのボトルが一本。いつもどうもーとやっていたところ、バーテンのタツさんに呼ばれて振り返れば、そこにアラキ・ショウコが立っていた。
アラキ・ショウコ?あのアラキ・ショウコがロフトに?まるっきり似合わない、と思えば、そのアラキ・ショウコは嘗て知ったアラキ・ショウコ、つまりはあの制服を来たアラキ・ショウコとは似ても似つかないまったくの別人。
いやはや、と言った顔でタツさんが俺にウインクした。少年、あんたも隅に置けないね、とでも言ったところだ。
俺もアラキ・ショウコの姿に思わず息を飲んだ。
黒の網タイツに安全靴ならぬピンヒール。パンツすれすれの超ミニスカートの上には見るからに柔らかそうな上質の革のジャケット。その下の胸元の大きく開いたブラウスからはこれみよがしに寄せられた乳房の谷間が誇らしげに覗いている。
それはどこから見ても立派な夜の女の姿だった。
どうも、とアラキ・ショウコは言った。
ああ、どうも、と俺は思わずしどろもどろ。変われば変わるものだ。
そんなアラキ・ショウコをそのまま仲間たちのテーブルに促した。普段から俺をガキ扱いしているバンドのメンツをちょっと見返してやりたい気持ちになったのだ。
がしかし、さぞや驚いているかと見れば、メンバーはすべて妙に冷めた表情で曖昧な表情で挨拶をした後は、そのまま見てみぬふりを決め込んでいる。
宛が外れた俺が話から外されてタバコを吸っていたところ、ねえ、ちょっと話せない?とアラキ・ショウコは言った。
ああ、と俺は楽屋の裏口から続く搬入路を通ってビルの裏口に出た。
へえ、こんな抜け道があったんだ。
ファンの女の子に追いかけられた時の逃げ道、と冗談めかして笑った。
そうね、早くそうなるといいわね、とアラキ・ショウコはまるで大人の口調でそう返した。
で、返事は?って聞かれてるんだけど。
ああ、まあ、なんというか、まあ音聞いただけじゃ判らないけど、俺にはちょっともったいないって言うか。
つまり、断るってこと?
いや、まあ、つまり音聞いただけじゃ判らないけどって言ってるだけでさ。
音はどうだったの?
まあなんというか、録音が悪すぎてよく判らなかかったんだけどな。
そう、そうなんだ、とアラキ・ショウコはまじめにがっくりとした顔をして肩を落とした。
ぶっちゃけギターは良かったよ。リフ刻んでるサイドギターのカッティングはすごく良かった。でも後が悪いっていうか、ぶっちゃけそのサイドギターの音がうるさすぎて他の音がぜんぜん聞こえてこないっていうかさ。バンドのアンサンブルになってないっていうか。
つまりリョウちゃんのワンマンバンドってこと?
そう。いくらギターがうまくてもボーカルを食っちまったらバンドにならねえよな。
ボーカルが弱すぎるわよね。確かに。。
ボーカルの問題だろうか、と思った。つまりそのリョウちゃんが他のメンバーの音をまるっきり聞いていないのがそもそもの原因なのだ。
判った。貴重な意見ありがとう。
いえいえ、と俺は笑った。とそしてその時になって、なんとあのアラキ・ショウコが普通の顔をしてタバコを吸っていることに気づいた。そう、俺はそのアラキ・ショウコが、高校の同級生だということさえ忘れていたのだ。
ありがとう。リョウちゃんにそれを伝えて、その回答をまた持ってくるから。
アラキ、と俺は気を取り直して同級生の名前を呼んだ。お前、あのリョウとどういう関係なんだ?
アラキ・ショウコはそれには答えず、通りかかったタクシーに慣れた手つきで片手を上げ、そして乗り込もうとしたところを再び走り寄って来て、
ライブ最高だった。あなたのことばかり見てたの。一番格好良かった。本当に、本当に素敵だった。と言って、俺のほっぺたに赤い唇でキスを残した。
じゃね。また会いに来るから。
ああ、と俺は返事も忘れて、走り去るタクシーを見送った。
店に帰ると、何だあのオンナ、とさっきとは裏腹に露骨に眉を潜めたメンバーたちがいた。
オンナってあれ?あれは高校の同級生。
同級生?とメンバーが顔を見合わせた。
やれやれだな。
なにが?
あのオンナには近づくな。お前にはちょっと手ごわすぎる。
でも学校では普通の地味~な娘なんだぜ。俺もあんな格好してるのみて驚いたんだ。
だから、とバンマスであるヒデが言った。だからタチが悪いって言ってんだよ。お前には手ごわすぎる。関わりあいうな。ひでえ目に会うぞ。
ひでえ目って?例えば。
例えばもなにもねえ。オンナにひでえ目に会うってのはいろいろだが結果はみな同じってことだ。
よく判らねえな。
つまり、とベースのケンが面倒くさそうに声を荒立てた。
つまり、ヒモ付きのパンパンってことだよ。あのオンナは玄人さん。身体を売っている人。それもかなりの高額で売ってる人。つまりその背後にはこわーいお兄さんたちがうじゃうじゃいて、彼女のお帰りを待ちわびてるってこと。
商品に手をだしちゃダメだな。仁義に反するぜ。
うちのドラマーのエンコ飛ばされちゃあたまらねえからな。
シャブ食ってるぞ、とボーカルのミッキーがかすれた声で呟いた。
それもポンプで入れてる。無理やり射たれてんじゃねえ。てめえで射ってるってこと。つまりジャンキー。
ジャンキー?
高校のうちからシャブをてめえで射ってればまあこの先ろくなことにはならねえな。
ジャンキー?あのアラキ・ショウコが?
その後バンドの溜まり場に泊まり、そこで制服に着替えてセシルに着いたのは2時過ぎ。客はひとりも居ず、がらんとしたカウンターの真ん中でマスターが新聞を広げていた。
コーヒーをください、と俺は言った。マスターは顔もあげずに、ただ顎をしゃくった。自分で淹れろということだろう。そしてVサイン。マスターの分もということか。
サイフォンでコーヒーを入れてカップに注ぐ。ついでに受け皿も用意してお客に出すようにしてマスターに差し出したのだが、いざ自身で飲んでみると、これがまずい。粉っぽくて飲めたものではない。
やっぱりまだまだだね、と言うとマスターは美味いともまずいとも言わずにずずずずとコーヒーを啜っては新聞を読み続けている。
あのおんなまた来たぞ、とマスターはぼそりと言った。お前が来るほんのすこし前だ。今日は制服を着てたが。。あの娘、ちょっとおかしいな。
おかしいって?
この間来た奴いたろ。クロカワ君が連れてきた奴。
ああ、リョウだろ。
そいつだ。なんか似ているな、あいつらは。
似ている?
そう、なんか似ている。同じ匂いがした。
匂い?
そう。なんというか、まあ、夜の匂いだな。
夜の匂い。
お前も気をつけないとああなるぞ。そのコーヒー飲んだらさっさと学校行け。一時間でもいいから授業を受けろ。
午後も相当に遅くなってから教室に辿り着いた俺。当然のことながら仲間連中はすでにすべてばっくれた後。
話し相手のいない机で本当の本当にひさしぶりに集中して授業を受けた。
授業が終わってすぐにアラキ・ショウコのクラスを尋ねた。
ちょうど教科書とノートをかばんに詰めていたアラキ・ショウコがいた。
あら、とアラキ・ショウコはちょっと驚いた顔をした。あらためてこのすっぴんに近いアラキ・ショウコ。どう考えても昨夜と同じ人物とは思えない。一番上まできっちりと留められたシャツのボタン。その下にはあれほど見事な乳房が盛り上がっているのだ。
それを思ったとたん、再び顔が赤くなるのを覚えた。俺はどうかしている。どうもこのアラキ・ショウコは苦手だ。
昨日はどうも、とアラキ・ショウコが助け舟を出してくれた。
ああ、と俺は頭をかいた。
で、どうしたの?と小首を傾げてみせる。まさに完璧な良いところの女子高生の演技だ。いったいこのオンナはなんなのだ。どれが本物なのだ。
照れ隠しに思わず本件から切り出してしまった。
で、リョウはなんだって?
と言ったとたん、アラキ・ショウコの目が鋭く光った。
やめて、その名前はここでは出さないで。ちっと舌打ちしながら辺りを見回すアラキ・ショウコ。だがクラスメイトから、じゃね、また明日、と手を振られると、うん、じゃね、と思い切りの作り笑いを浮かべて手を振っている。そのどれもがアラキ・ショウコだった。すべて同一人物なのだ。それがこのおんなの中にはごく自然に同居している。
ねえ、もう学校で私に話しかけないでくれる?と夜の顔でアラキ・ショウコが言った。
あなたといるところを他の人に見られたくないの。いろいろと言ってくるひとがいるから。
カオリか?
アラキ・ショウコはそれに答えずにじっと俺を見つめた。
あのおんな、とアラキ・ショウコが言った。
あのおんな、いまでもリョウが好きなのよ。だからうるさいこと言ってくるの。ブスの嫉妬よね。ったくタチが悪いわ。
なんだこいつは、と俺は思わず背筋がぞっとした。まるでエクソシストだ。見ているうちに人格がコロコロと変わる。
判った、とアラキ・ショウコが言った。あんただってこんなところで眠たい話したくないでしょ?これからあたしの後ろをついて来て。下手打たないでね。誰にも気づかれちゃだめよ。
そして大きなカバンをぶら下げてアラキ・ショウコが歩き始めた。廊下ですれ違うクラスメイトにいちいち手を振り、そして教師にはぺこりと頭を下げた。
そして俺はアラキ・ショウコを追った。学校から駅までいつもの通学路を歩き、普段とは反対側のホームで逆方面の電車に乗り降りたことのない駅で降り見ずしらない駅前商店街から細い路地裏を抜けてドブ板の上を跨いで、傾きかけたトタン板の小料理屋の二階まで錆びた階段をコツコツの登った。
立て付けの悪い合板の剥がれかけたドア。薄れた表札には「劉」と書かれていた。
アラキ・ショウコは慣れた手つきでそのドアを開けると、さあ入って、と無言で俺を促した。
散らかりまくった家には確実に貧困の匂いがした。それは俺たちの溜まり場におけるあの乱雑さとは違いまさに生活臭の体積と飽和によるものだった。
波をうった畳は足で踏むたびにいまにも底が抜けそうに頼りなく、ベタベタと靴下にくっつくようだ。
汚れた食器がそのまま山になった居間と、脱ぎ散らかした服が山となった部屋を抜け、そして一番奥の部屋。閉めきった暗がりの中にアラキ・ショウコが吸い込まれた。
リョウちゃん、起きて、とアラキ・ショウコが言った。
いつまで寝てるの?もう夜だよ。
うるせえ、と毛布の中からリョウが怒鳴った。
ねえ、お客さんだよ。連れてきたよ、XX君、とアラキ・ショウコは俺の学校での名前、つまり本名で俺の名前を告げた。
よお、とベッドに大の字に寝たまま、寝起きの顔でリョウが言った。それはこの間とは違ってまさに同じ歳の少年の顔。剃り上げた眉が寧ろその幼い表情には似つかわしくない。
ベッドの端に座ったアラキ・ショウコの腰にリョウが手を回し、そのまま無造作にスカートの中に手を突っ込んだ。
やめてよ、XX君がいるのに。
かまうもんか、とリョウは言った。どうせ誰にでもやらせるくせに。いまさら誰に見られようが気にするタマかよ。
バカ、とアラキ・ショウコは言った。学校の友だちなんだよ。やめてよそういうの。
こいつな、パンパンなんだぜ。こんなカマトトぶって高校生なんかやってるけどな。学校じゃどういう顔してるかしらねえけどさ。金で身体売ってるの。パンパン。娼婦。バイタ。ビッチ。
バカ、わたし帰る、とアラキ・ショウコは言った。待てよ、とリョウが起き上がる。全裸だった。陰毛の中から寝起きの朝立ちしたペニスが頭をもたげてぶらぶらと揺れている。
リョウは逃げようとしたアラキ・ショウコの手首を掴んで強引に引っ張ると、そのままベッドの中に突き倒した。
ちょっと、XX君、悪いけど、ちょっとだけ横向いててくれる?いや、見てても良いけどさ。大丈夫、あとでちゃんと回してあげるから。心配しないで、そこで見てて。
ちょっと、やめて、やめてよ。金切り声を上げるアラキ・ショウコの口を塞いでリョウが俺をみてクスクスと笑った。
ベッドの上に立ち上がったリョウは、まるで漁師がウサギの革を剥ぐように、足首を掴んで逆さまにし、暴れるアラキ・ショウコの顔を踏んづけて、この糞オンナ、ぶっ殺すぞ、と頭を蹴りつけている。
制服のまま下だけを剥ぎ取られたまま、リョウはアラキ・ショウコの上にのしかかってそのまま強引に腰を降り始めた。アラキ・ショウコの着けていた下着。透け透けの赤いレースの下着が小さくまるまって床に落ちたスカートの上に乗っている。
ねえ、やめて、やめて、と繰り返していたアラキ・ショウコも、ここまで来てすっかり諦めたのか、そのまますすり泣きとも喘ぎ声ともつかない嗚咽に変わっていた。
ものの1分もかからぬうちに、ああ、終わった終わった、とリョウが立ち上がった。ああさっぱりした。はいお次どうぞ、とリョウは俺に言った。悪いけどそこのテイッシュ取ってくれる?
リョウは濡れたペニスをテッシュでくるんでトイレに立った。
ベッドに残されたアラキ・ショウコが、むき出しになった陰毛も隠さずに、くそっ、サイテー、と舌打ちする声が聞こえた。
ごめんね、私にもテッシュ取ってくれる?
あと、できればたばこを一本、とちょろっと赤い舌を覗かせては、もういちど、あいつ、さいてーだよね、と苦笑いを浮かべてはくすりと笑った。
トイレでTシャツとジーンズに着替えたリョウが帰ってきた。
あれ、まだしてないの?気になるようなら俺、ちょっと外でパチンコでもしてくるけど。
いや、俺も行かなくっちゃいけないし。これからリハなんだ、と俺はアラキ・ショウコを見たまま言った。
まあそう固いこと言わないで。ちんちん固くならなかった?ちょっとあっさりし過ぎたかな。
とそんなことを言いながら、ガチャガチャとカセットの山をかき回して、あったあった、とテープを突っ込んでガチりとプレイボタンを押した。
これをさ、あなたに聞かせたかったんだよ。
曲が流れ始めた。この間の糞バンドのテープかと思えば、それはストーンズ。タンブリング・ダイス。
このギター、本当に最高だよな。
確かに、そう、メインストリートのならず者。このアルバムのキース・リチャーズのギターは最高である。
こういうのをやりたいんだよ。こういうバンド。こういうのをさ。ストーンズみたいなバンドさ。
いまさらこいつはなにを言ってるのだ、と思った。
ストーンズみたいなバンドをやりたい。世界中の誰もがストーンズみたいなバンドをやりたい、と思っていながら誰一人としてできた人間はいない。
やればやるほどにその現実に気付かされる。やったことのない人間だけが、ストーンズみたいなバンドをやりたいなんて脳天気なことを言ってられるのだ。
そんな俺の気も知らずに、ストーンズやりてえよな。本当にさ。とキッチンの奥からリョウの脳天気な声がした。
はい、これ、おみやげっていうか、お近づきの印に。
と銀紙を差し出した。ビニール袋から塩の結晶を落とし、はいどうぞ、と嬉しそうにライターを渡した。
これ、シャブ?と俺は聞いた。
これ、シャブ?だってさ、とリョウは笑った。見りゃわかるだろ、シャブだよシャブ。かくせーざい。
それを聞いてアラキ・ショウコもケラケラと笑った。そっかー、カクセーザイだったのかあ、知らなかった。
人間やめますか?はい辞めます、とかね。
もう辞めてます、とっくで~す、とかさ。
ねえ、もったいないよ、とアラキ・ショウコが言った。煙で吸っちゃたらもったいないよ。もう残り少ないんだよ。もうなくなっちゃうよ。
なくなったらまたクロカワを走らせればいいさ。あの野郎、すっかりシャブ漬けになっちまいやがってさ。シャブなしじゃあ糞もできねえってよ。
その前にバンドの話をしねえか、と俺は言った。ラリる前に。俺これからリハなんだ。行かなくっちゃいけねえ。
ほら、やっぱりプロは違うよね、とアラキ・ショウコが言った。あんたもバンドやりたいならラリる前にちゃんとバンドの話しなよ。
ラリらなくっちゃバンドなんかできないだろって、とリョウが言った。キース・リチャーズを見習わなくっちゃ。おい、これやらないのか?やらないなら俺がやっちゃうよ。
ねえだったら煙でなんかやめようよ。もったいないよ、とアラキ・ショウコが繰り返した。
だったらおまえ、そんなところで転がってねえで早くポンプ持ってこいよ。
飛び起きたアラキ・ショウコがふんふんとストーンズに合わせて裸の尻を震わせながら奥に消えた。
で、どうだった?とリョウが聞いた。
どうって、なにが?まさかアラキ・ショウコのことを言っている訳じゃあるまい。
だからさ、あのテープさ。うちのバンドの。
ああ、と俺は曖昧に返事をした。ラリる前に言ってやるべきだろうと思った。
正直いって最悪だな。
やっぱりな、とリョウは実にあっさりとそう言った。
でもギターは良かったろ?とリョウは続けた。
ギターの音がうるさくてほかがぜんぜん聞こえねえって。
それを聞いてリョウがさもおかしそうにケラケラ笑った。だってギターの音以外、聞こえても聞こえなくてもおんなじだろうって。
それには答えずに俺はストーンズを聞いていた。良いバンドだな、と思った。確かに良いバンドだ。本当にこういうバンドをやりたいものだ。それは常々思っているのだが、なにをどうしたら良いのか、演ればやるほどにわからなくなる。
やっぱりな、最悪か、とリョウは繰り返した。
ふと振り返ると、そこにアラキ・ショウコが立っていた。
制服を脱ぎ、白いキャミソール一枚。太ももの上から三角の陰毛が丸見えになっていた。
なんだよお前、もう射っちまったのか?
それには答えずに、アラキ・ショウコがどさりと、ベッドの上に寝転んだ。
こいつ。。とリョウがにやりと笑う。
いかにもいい女だろ、と自慢している風だった。確かにいいオンナだった。むらむらとその薄いキャミソールを剥ぎ取りたくなった。
やるかい?とリョウがクスクスと笑った。シャブでも、こいつでも、とそんなアラキ・ショウコに顎をしゃくった。
うーん、とベッドの上のアラキ・ショウコが寝返りをうった。白い丸々とした尻が露わになり、股の間からは湿った陰毛がはみ出していた。
そんな俺をリョウがにやにやと笑って見ている。
俺のバンドを手伝えば、このオンナもシャブも嫌というほどやらしてやるよ。
バンドやる気あるのか?と俺はリョウに聞いた。
ああ、やる気はあるさ。やる気はあるんだがメンツが揃わなくてよ、と立ち上がったリョウが奥の部屋に消えていった。
俺は取り残されるようにベッドに転がったアラキ・ショウコに目をやった。
アラキ・ショウコがまた寝返りをうった。めくれ上がったキャミソールの下から形の良い小さなへそが覗いていた。
掠れた声で、ねえやらない?とアラキ・ショウコが言った。
乱れた髪のなかで目をつむって、そしてうわ言のように、ねえ、xx君、しよう、ねえ、xx君、ねえ、xx君。
アラキ・ショウコの力を失った手が、俺の膝に伸びてきた。
ねえ、お願い。一回でいいから。わたしのこと嫌い?地味だから?パンパンだから?あたし、あなたのこと好きだったの。ずっとずっと好きだったの。。ずっとずっとすごくすごく好きだったの。
その姿はあまりに悲しすぎた。
その時になって俺は始めて、この数日の間、アラキ・ショウコと恋に落ちていたことに気づいた。
ねえ、カオリがいるから?と突然真顔になったアラキ・ショウコが身を起こした。
ねえ、カオリなの?カオリとしてるの?あたしよりカオリの方がいいの?
くそったれ、とアラキ・ショウコが憎々しげに毛布を蹴った。あのオンナ、性懲りもなくまた邪魔しやがって。あのオンナ、あのオンナ、あのオンナ。
ねえ、やろうよ、と金切り声を上げてアラキ・ショウコが俺の手を引いた。ねえ、一回だけだから、やるだけだから、中に出してくれていいから、ねえねえ、なんでよ、やるだけじゃん。一発抜くだけだってば。簡単じゃない、やろうよ、ねえねえ、やろうってばあ。
亡霊のように騒ぎ続けるアラキ・ショウコに腕をひっぱられ、俺はそのまま床に膝を落とした。頭がアラキ・ショウコの胸の上に乗った。頬の下に柔らかい乳房の感触があった。
ねえ、しよ、と耳元に口を寄せてアラキ・ショウコがつぶやいた。ねえ、やろ、ねえ、やろ。
その時、いきなり頭の上からリョウが倒れこんで来た。
この糞オンナ、また性懲りもなく、俺に隠れてこそこそと。
バカ、あんたじゃない、とアラキ・ショウコが暴れた。
俺を挟んでリョウとアラキ・ショウコが揉み合いを始めた。キャミソールの下の乳房が痛いぐらいに頭に押し付けられて、ふとすると唇の先に固く尖った乳首があった。
やめて、やめてよ、あんたじゃないの、あんたじゃなくて、xx君、xx君としたいの~。
くそ、このシャブチン、入らねえよ、くそったれ、シャブチンが入らねえよ。
ようやくそんな二人から身体を起こしたと同時に、リョウが本格的に腰を降り始めていた。
バカ、どいてよ、あんたじゃないの。あんたなんか大嫌い。くそったれ、どけよ、どけってば。
うるせえ、とリョウはアラキ・ショウコの頬を張った。黙らねえと次はパンチくれるからな。
バカ、死ねばいい。あんたなんか死ねばいい。
うるせえ、シャブ中が、とリョウが言った。シャブさえ食わせれば誰とでもやるくせに。このシャブ中のやりまんが。腐れマンコのパンパンが。
ストーンズが鳴っていた。LET IT LOOSE。
外にでると世界はすっかりと夜に没していた。
買い物帰りのおばさんと、仕事帰りの人々で犇めき合う街。
電車を待ちながら駅のホームで錆臭い空気を胸いっぱいに吸い込んだ。まるで身体中に酸素が溶け込む気がした。
シャブか、と改めて思った。
俺の存在などすっかり忘れてしまったように身体を絡め始めた二人を後に部屋を出た。
正直に言えば、そんなアラキ・ショウコの裸体をいつまでも見ていたかったのだが、その先に見えている結末はすでにわかりすぎるほど判った気になっていた。
酷い目に合うぞ、といったヒデの言葉が蘇った。
オンナにひでえ目に会うってのはいろいろだが結果はみな同じってことだ。
部屋を出るまで、背中にミック・ジャガーがLET IT LOOSEと繰り返していた。
馬鹿野郎、と俺はしかしにやりと笑った。
銀紙の上に置かれたシャブ。俺はそれをちゃっかりぎってきていたのだ。
LET IT LOOSE。
ヒデの言うとおりだ。確かに、俺には少々手ごわすぎたな。
ALL DOWN THE LINEが始まる前にこの部屋を出ようと思った。
そして追われるように部屋を出た。
その後、リョウが逃げていることをシュウジから聞いた。
逃げようたって逃げ切れるものじゃないんだけどな。世界中どこに逃げたって逃げ切れるもんじゃねえってことが判ってないのかな。
オンナは?と俺は聞いた。
オンナ?おんなって?
だからリョウのオンナさ。
さあな、オンナの話は聞いちゃいないな。
それを聞いて心底安心した。
卒業式には出なかった。ギグが重なったこともあり、それよりも面倒くさかったのだ。心はすでに高校から遠く離れてしまっていたし、ろくに出席さえしなかったのに卒業式を素直に喜ぶことに後ろめたさがあったのだ。卒業式に出ないことこそが俺のケジメという気がしていたのだ。
がしかし、世間はそういうわけにはいかない。
学校から連絡があり、卒業証書を取りに来るようにと告げられた母親がまた例によってヒステリーを起こした。
さすがにやばいと思ったのか、アキラの部屋を訪れた姉貴から地元のダチに伝言が回され、そして俺のところに知らせが届いた。
卒業証書を学校に取りに来いとのこと。
俺はその時にたまたま居合わせた極東xx会のアキさんと一緒で、そのアキさんが幹部から預かったフィアットを乗り回しているところだった。
だったらついでに、と学校を訪れ、校庭から職員室の目の前までフィアットを乗り付けた俺達は、これみよがしに廊下に痰を吐きながら土足で職員室に向かった。
ドアを開けたとたん職員室が騒然とした。悲鳴を上げて逃げまわる教師もいた。殴りこみだ、と叫んでいる奴までいた。
まったくだな、となんとかアキさんが薄く笑った。
まったくだね、と俺はそんなアキさんと顔を見合わせて、そして二人して肩をすくめた。
ちょっと悲しくなった。
それはアキさんにしても同じだったかもしれない。
いの一番に逃げ惑っていた担任の教師が、他の教師から背中を押され、そして投げるように卒業証書を渡した。
読まなくていいのか?名前を呼んだりとかさ、とアキさんが教師に言った。
いちおう、俺の大切な弟分の、記念すべき卒業式なんだ。ちょっと遅れたけどな。高校ぐらい出してやりたかった。立派なもんじゃねえか。お祝いの言葉ぐらいかけてやっても罰は当たらねえだろう。
いや、あの、と教師はいまにも膝が砕けそうなぐらいに怯えきっていた。
いこう、もうこんなところに用はねえよ。
そして俺達は思い切り肩を揺すりながら学校を後にした。
さらば高校時代。さらば青春の日々。
ゴメンね、と俺は素直にアキさんに言った。
良いってことよ、とアキさんは俺の肩を抱いてくれた。
なぜか無性に涙がこみ上げてきた。なぜか無性に。。
その後、フィアットでさんざん校庭を走り回った。
砂埃を舞い上げてドリフトとスピンを繰り返してはゲラゲラと笑ってやった。
ふたりとも顔中が埃で真っ白になった。目尻にだけは黒い筋が残った。
あの時、そう言えばアラキ・ショウコはどうしたのだろう、と思った。あの娘は卒業できたのだろうか。まさかあのままリョウと一緒に逃げたわけではあるまい。ちょっと職員室に戻って聞いてみようかとも思ったが、それこそ警察を呼ばれるだろうと思っててやめにした。
あれからアラキ・ショウコには会っていない。
リョウがばっくれた後、あの娘はいったいどうしたのだろう。
シュウジからも高校時代の仲間からも、アラキ・ショウコの噂は一切聞かない。
大学に進学したのだろうか、あるいは二人で一緒に逃げ回っているのだろうか。
どういうわけだか、カオリは俺とリョウとそしてアラキ・ショウコとのことを知っていた。
誰が話したのだろう。あるいはオンナの勘というやつか。
そしてリョウと、そしてアラキ・ショウコのことをこれでもかというぐらいに教えられた。
聞けば聞くほどにかわいそうな奴らだった。あなたとは違う、と言ったアラキ・ショウコの言葉の本当の意味がそれで理解できた。
そしてアラキ・ショウコが、そんな違う世界に足を踏み込んでしまった理由はなんだったのだろう。
あのオンナはずっと淫乱だったの。子供の頃からずっと。
お父さんとしてるって噂があってさ、お母さんが出ていったのもそれが理由だった噂だった。
お父さんの子供ができちゃったんだって。
絶対誰にも言っちゃだめって言われてたけど、私の地元で知らない人なんていなかったわ。
だから地元の高校にいけなかったのよ。
そういうことも、私と同じ、なんだけどさ。
幼いころに両親の離婚したカオリは、そんなアラキ・ショウコの不幸な生い立ちについて、
おやじとも父親とも言わず、おとうさんと言った。
カオリにはカオリで色々あるのだな、と思った。
そしてその後、俺の身にもいろいろなことが起こった。
いくつものバンドを掛け持ちし、女から女へと渡り歩き、
そして、日本から転げ落ち、アジアのドブの底から、
そしていつしか、アメリカ合衆国。
何度も死にかけ、何度も死んだほうがましだという最悪の経験をさせてもらった。
そんな長い旅の中で、そしてそんな俺の記憶の中に、いまになってもこのふたり、
リョウとアラキ・ショウコと絡んだたった一週間の出来事がなぜか克明に刻み込まれている。
そして俺はリョウに言いそこねた言葉をいまも繰り返していた。
キース・リチャーズがすごいのは、らりっていたからじゃない。
どんなにらりっていても、音楽を忘れなかった、ということがすごいのだ。
その凄さは、後に俺自身がヤクにはまった時に心の底から思い知らされることになった。
酩酊の底を漂いながら、こんな状態になっても音楽を忘れなかったキース・リチャーズという人はいったいどんな人だったのだろう、と考え続けた。
ああ、俺もリョウと同じだ。アラキ・ショウコが居ない分、それよりも格下だ。
こうして人生を経て、ろくでもない経験を積めば積むほどに、キース・リチャーズという人の凄みに気付かされることになった。
そしていまも、すでに中年期にどっぷりと足を踏み入れたこの歳になっても、あの時のアラキ・ショウコの姿が目に浮かぶことがある。
かみさんが里帰りをした一人寝の夜、いつも決まってあの時のアラキ・ショウコの姿がありありと浮かんで来るのだ。
あの時、アラキ・ショウコを抱かなかったことを、俺は多分一生後悔していくだろう、と思っている。
それはまさに、刻印のように、俺の胸の内に刻み込まれたまま、色褪せることはない。
LET IT LOOSE
キース・リチャーズのあの不敵な笑顔に、なぜかアラキ・ショーコのあの可憐な姿が、重なりあって見えてきたりもするのである。
♪
朝から晩までエンドレスにして徹底的にストーンズ。
まるで禅の修行のように、ローリング・ストーンズを聴き続けるのである。
かみさんが里帰りをする度に、おれはこれをやる。
言ってみればこれは命の洗濯、などでは決してない。
それは寧ろ鎮魂歌。
普段は封印している己の過去の轍、
そして消えていった奴らへの、弔いの歌、なのである。
もうなにもかもが時効だろう、と思っている。
そのかわりどれだけ手を伸ばしても、
すでに遠い彼方に過ぎ去ってしまった日々。
罪悪感や失望や、悲しみも怒りもすでに色褪せた今、
嘗てはあれだけ苦々しく、時として悔み切り、
記憶の中に固く封印し続けていた様々な事柄が、
このストーンズの音とともに一挙に解き放たれていく。
果たしてあれがなにであったのか、
ちょっとは距離を置いて考えてみることも可能になってきたのかもしれない。
そして今、改めて思い起こすあの頃。
俺達がストーンズであった頃のこと。
痩せ細った身体でいつも腹を減らし、疲れきり、
深夜の地下鉄のホームに崩れ落ちていた頃。
膝の破けたリーバイのスリム。
鋼鉄入りのワークブーツに馬鹿でかいキャッツアイ。
ヤニと汗の染み込んだライダースの革ジャンと、
尻のポケットにジャンプ・ブレイド。
さっきまでのギグの耳鳴りが身体中にジンジンと響き、
朦朧とした意識の中から、
いつか人生を変えてくれるフレーズが閃くことを信じて。
来ない電車を待ちながら、
ああ、今晩はどの女のところに転がり込もううか、
と考えていた、あの野良犬のような日々。
俺たち、これからいったいどうなってしまうんだろう。
誰もが口に出さないながら、
誰もがそんな焦燥に駆られていた中、
シオンが死んだという知らせが届いたのは、
まさにそんな時だった。
「シオン - IT'S ALL OVER NOW」
バンド関係者のひとりであったシオンが死んだ。
台風の夜に酔っ払って街をうろついていたところを、
下手な喧嘩に巻き込まれて袋叩き。
半殺しにされてそのままドブ川の中に落ち、
見つかったのはその三日後。
都市の汚濁の底。
下水に浸され、淀みに浮かんだ廃棄物中で、
ゴミ袋のように膨れ上がった姿だった、と聞く。
都会のドブネズミを自称していた俺達にとって、
似合いと言えばこれほどまでに似合いのも最期もない。
まさに完璧じゃねえか、と俺たちは鼻で笑いながら、
しかし、そう、そこに初めて、
俺たち、これからどうなっていくのだろう、
というモヤモヤとした不安に対する、明確なヴィジョンを見たのだ。
そうか、死ぬのか。。。ああやって。。。。
だが、痩せ我慢だけは一丁前の俺達は、それさえも笑い飛ばそうとした。
面白えじゃねえか。死んでやらあ。ドブの底でよ。
♪
駅前の雑貨屋で小銭を集めて黒いネクタイを買い、
それを使い回しにしながら、ご焼香ってどうやってやるんだ?と肩を小突きあって、
そんな葬式の場では親類一同から目を背けられ、
挙句の果てに、お願いですから帰ってください、と母親に泣かれた。
俺達のダチだったってのによ、
お茶のひとつも出さねえで追い返すなんて酷えじゃねえかなあ、
と見当違いに腹を立てる奴らのケツを蹴りあげながら、
馬鹿野郎、塩撒かれなかっただけでもありがたいと思えよ、と笑った。
撒かれてたぜ、塩、とタバコに火をつけながら誰かがボソリと言う。
そうか、撒かれてたのか、塩。
そしてまた誰もが黙り込んだ。
で、襲ったのはどこのどいつなんだよ。
知らねえよそんなもん。
判ったからってなんだってんだよ。落とし前でもつけるってのか?
どうせ通りすがりのダサ坊だろう。
またあいついつもの奴で誰かれ構わず因縁つけて、
金貸してくれだなんだって絡んだんだろう。
でもさ、あいつ、わりとちゃんとしたところの生まれだったんだな。家を見て驚いたぜ。
かあちゃんもわりと行けてたしさ。
あの隣りにいたねーちゃんだれよ。喪服姿、なんかピンピンって来ちまったな。
そうそう、おやじさんも立派なカタギだったしな。
大学教授だってさ。なにやってるか知らねえけど。
どおりで。立派そうな家だったなよな。
なんであいつ、あんな家に生まれたのにあんなになっちまったのかな。
そりゃ、つまりは。。俺たちみたいのとつるんでたからだろ?
友達の悪影響って奴か。
そう、悪影響だろう。塩ぐらい撒かれて当然だよ。面白え、上等だぜってところじゃねえか。
ここまで鼻つまみになれたのもロックンロール冥利に尽きるってところだな。
馬鹿馬鹿しい。やってられねえな。
そんな俺達の後ろから、肩を寄せてはシクシクと泣く女たちがうざったくて、
うるせえぞ、ブスども。昼間からビービー泣いてるんじゃねえよ、と怒鳴りつけて、
そしてそんな自分がつくづく嫌になった。
何人かはバイトに消え、何人かは女とふけ、
そしてこんな日にさえ徹底的に行く場所のない奴らがいつもの溜まり場に戻ってきた。
昨夜の通夜代わりの飲み会の跡がそのままにひっくり返って腐り始めて、
慣れない白いワイシャツを引きちぎるように脱ぎ捨てては床に叩き付け、
そして俺達はまたタバコを咥えて黙りこんだ。
奴がいつも座っていた場所、窓の脇の柱の前。
奴の残した吸い殻さえもが灰皿の中でまだ細い煙りを燻らせているようだった。
音を消したテレビにはエンドレスになった裏ビデオが永遠と流れ続けている。
これまで何度もダビングを繰り返されてきた画質の悪い裏ビデオを見るともなしに眺めながら、
俺達は何気なく抱えたギターを弄びながら
そして俺達は、やはりストーンズを、聴いていた。
最近、珍しく姿を見せねえとは思ってたんだよな。
無理にでも誘ってやればこんなことにはならなかったかもしれねえのにな。
うるせえよ、と誰かが怒鳴った。
今更なんだってんだよ、馬鹿野郎。くだらねえこと言うじゃねえよ。
オンナだってさ。
おんな?
そう、ミカって居ただろ?あの前髪赤く染めてたオンナ。
あのデブか?
そうそう、ちびグラのさ。
ノーブラのメッシュTの女だろ?市川かどっかの。
そう、乳首丸見えのさ。
それがなんだって?
だからあいつら付き合ってたんだよ。
まさか。
知らなかったのか?
知らなかった。
俺は知ってたぜ。
俺も知ってた。ユリから聞いた。
趣味悪いなあいつ。
俺もどうせ遊びだろうとは思ってたんだがな。
遊びでもやるか?あんなオンナ。。。昔は楽屋でやらせてたっていうじゃねえか。
ああ俺もそれ聞いた。楽屋で5Pとかさ。
ローディーとかも音声さんとかも飛び入りしてたらしいぜ。
エロビデオかよって。笑わせるな。
で、そのミカがどうしたって?
だから、奴がどういう訳かそのミカにその気になっちまってさ。
で?
で?知らねえよそんなこと。
だから、まじで俺のオンナになれって言ってんのに、
ミカが相変わらずあのままなんでついにブチ切れてたって。
ミカ葬式来てたのか?
いや、来てない。
来れねえってよ。
なんで?
だから。。
あの夜さ、ストンプのバーでミカと大喧嘩になって、で。
で?
で、半殺しにしたんだとさ。
ミカを?
そう。
みんなのいる前で?
店がはねた後だったんであんま人いなかったとは聞いたけど。
雨ん中、いきなりずかずか店に入ってきてさ、でなんにも言わねえでミカんとこ来て。
いきなり後ろからパンチくれて引きずり倒してブーツで滅多蹴り。
ミカよく死ななかったな。
死んだ方がいいぐらいだったらしいぜ。
入院?
金も保険証もねえって話でユリのところに運び込んだらしいけど。
で?
前歯は折れる、鼻は潰れるでさ。バケモンみたいだったってさ。
もともとバケモンみたいな顔してたし大した違いはねえだろう。ちょっとはマシになったんじゃねえのか?
で?
で、まあ、そのままだろ。実家にでも返したんじゃねえのか?それ以外行くところねえだろうに。
いや、シオン。シオンはそれからどうしたんだよ。
知らねえよ。マッポにも散々聞かれたけどよ。
あいつミカぶん殴ったあと、また馬鹿野郎って雨の中を出てって、で、見つかった時には土左衛門。
なんともまあ、あいつらしいよな。
まったくな。あいつらし過ぎる。
そうか、オンナだったのか。でもなんかほっとしたよ。
ほっとした?なんで?
いや、なんか、そうか、オンナだったのか。ならまあいいじゃねえか。
まあいいってどういう意味だよ。
つまり死にたくなければオンナに気をつけろってことだろ?
まあそういう事だな。
ITS ALL OVER NOW
なんだよそれ。
だからよ、あいつもITS ALL OVER NOWの歌詞が判ってればこういうことにもならなかった訳だろ。
SHE'S A RAINBOWでオンナにはまって、
やっちまってUNDER MY THUMB。
でオンナに逃げられてITS ALL OVER NOW、
AS TEARS GO BYでひとりで泣いて、
SHINE A LIGHTにすがって日々を暮らし、
で、
あれ?なんだあのオンナ、でまたSHE'S A RAINBOWが帰ってくると。
まあ人生なんてその繰り返しだろう。
つくづく簡単な野郎だな。
それだけで十分だろう。
奴もまだまだ修行が足りなかったってことだな。
でもさ、溺死体なんてブライアンみたいで格好いいじゃねえか。
ODじゃなくてまだ良かったよな、親の手前。
ODじゃ犯罪者だからな。
ああ眠い。今夜のギグ何時だって?
さあな、9時ぐらいだろ?
リハは?
知らねえ。
ハコは?
どうせまたロフトだろ?
またロフトか。ならリハはもういいな。
で、対バンは?
だからうるせえよ。知ったことじゃねえよ。
ただ演ればいいんだよ。ステージに上がってライトが点いたらただ演る。演るだけ。
あとのことは知ったことじゃねえよ。
ロックンロールだなあ。ITS ONLY ROCK’N’ROLL。確かにそうだ。
そして俺達は、カーテンを閉める代わりにどでかいキャッツアイをかけて、
そして秋の午後をヤニとゴミと、そして胸にギターを抱えたまま、
浅い眠りに落ちたのである。
♪
「キタムラ - SALT OF THE EARTH」
どういう訳か、俺とストーンズを聴いていた奴は若死にする。
それはバンドを上がった後でも同じこと。
旅の間に会った連中、ポカラのコミューンで会ったカミカゼ・キタムラが、
取材中のインド・ボンベイ近郊の交通事故で死んだことを、
LAの怪しいジャパレスにあった古新聞の片隅で見つけた。
キタムラに会ったのはその三年前だった。
ポカラのダムサイドの外れにあった安宿に滞在していた際、
それまで俺一人の貸し切り状態だったところに、
どやどやと押し寄せてきた旅芸人の一座のような日本人の一団。
キタムラはその一団の一人。リーダー的な存在の男だった。
まるで売れない旅芸人の一座のようなその集団は、
自炊用の鍋釜からケロシン・オイルのコンロから始まって、
生活道具一式をすべて持ち運んでいるような大所帯。
それまでずっと一人旅を続けてきた俺にとって、
そんな一団の持つ慣れ合い感がうざったく、
俺はそいつらとの付き合いを避けて、
ドミトリーから二階の個室に移動せざるを得なかった。
がしかし、その一団の人々は俺を避けるどころか逆に気を使って、
朝な夕なにやれ味噌汁だ、お餅を焼いた、鍋はどうだ、と声をかけてくれては、
苦笑いを噛み殺してはそんなご馳走に預かっていたのだ。
で、その中のキタムラという男。
旅には慣れていそうだがそれほど薄汚れてもいず、無精髭も生やさず髪も伸ばさず。
まるで添乗員というよりは村の青年団長のような溌剌さで、その妙な一団を明るく取りまとめていた。
そんなキタムラを前にして、
改めて振り返るこの俺自身の姿。
それまでの旅の道中、徹底的に朝から晩までドラッグに浸り込んんでは、
いなせなハードボイルドを気取っていた俺にとって、
そんなキタムラの率いるその一団の和気藹々とした雰囲気はあまりにも目に余り、
そしてその中心にいたキタムラこそが諸悪の根源、
正直なところ、あの溌剌とした様がなんとも目障りでならなかったのだ。
がしかし、ある事件から、そんなキタムラが実はなかなか骨の入った奴だということが判った。
一団の一人が肝炎とアメーバー性赤痢を併発して危篤状態に陥った時、
村で唯一まともに走るXLを駆使て真夜中の峠道を夜通しカトマンズまでぶっ飛ばし、
そして朝の訪れる頃に、ケツに医者を縛り付けて帰ってきたのだ。
そのニュースは街中を駆け巡り、キタムラは一種、村のヒーローとして、
ツーリストはもとより地元民からも喝采を浴びた。
キタムラがカトマンズに出発した時、実は俺が行くべきではないのか、と思っていた。
灯りもない、どころか、虎が出る、と噂されるヒマラヤの山岳路を六時間。
しかも先日に降った雨で地盤が緩み、そこかしこで落盤が起きては、
長距離バスの運行さえもがキャンセルになっているのだ。
その道中になにがあるかなど、誰にも判ったものではない。
そんな無謀な賭けを前に、少なくともこの新劇一座ような連中で、
そんなことができる奴が、まさかいるとは思っていなかったのだ。
つまりは、俺だろうな、とは思っていた。
見るからに絵に描いたようなアウトローを気取っていた俺にとって、
単車の運転はお手の物。
中坊のころからモトクロスというほどでもはないが、
裏山の木立の中で、盗んだ原チャリを駆っては、
木立に突っ込み、気に岩に衝突を繰り返しては、谷底に転げ落ち。
高校に入る頃には、ウィリーから、両手放しの仮面ライダーの変身から、
湘南暴走族と言うよりは、走り屋を自称していた俺なのだ。
ただ、そう言われて見れば単車などここ数年まともに乗ってはいない。
しかしもこの見るからにポンコツ・バイクである。
夜になればトラが出ると言われたポカラの山の中で、
このポンコツが故障を起こしたらいったいどういうことになるのか。
電話どころか、水も灯りもない峠の山道で立ち往生することを考えると、
早々とその危険な役回りを背負い込まねばならない理由もない。
キタムラから最初に、単車に乗った経験は?と聞かれて、
俺は、ない、と答えた。
見るからに悪であったろう俺が、まさか単車に乗れない訳はない、
そんなことは誰でも判っているのだろうが、
だがしかし、一回で快諾するのだけは癪だった。
二回三回と頼み込まれて、なら仕方がない、と買ってやったほうがまだハクがつく。
としたところ、そうか、とキタムラは言った。
ならばしかたがない。だったら俺が行く。
その言葉を聞いて、俺は一瞬耳を疑った。
まさか、この青年団長がか?
あんた、単車、乗れるのか?
ああ、ラッタッタなら乗っていた。
ラッタッタは単車じゃねえ。あれは原動機付きの自転車だ。
クラッチのつなぎかたとか、判るのか?
ああ、車と同じだろ?やってできないことはない。
本当にお前が行くつもりなのか?
ああ、あんたが行ってくれないんじゃあ、俺が行くしかないだろう。
そしてキタムラはカトマンズに向けて旅立った。
見送る人々の前で、なんどかクラッチをつなぎそこねてエンストを起こした。
なぜそうまでするのだろう、と俺はそんなキタムラの姿が不思議だった。
なぜ旅に出てまでそれほど他人の事に気をかけなくてはいけないのだ。
負けた奴、倒れたやつ、病気に罹った奴は死ぬ。
旅の原則は自分の身体は自分で守ることだ。
それができない奴は旅を続ける資格はない。
人生が旅そのものだとすれば、自分の身体を自分で守れない奴は、
それで死ぬのが運命なのだ。
それの何が悪い?
そうは思いながら、そんな自分の考えに間違いがあるとは思えなかったが、妙に寝付かれなかった。
明日、キタムラが帰って来なかったら、その時には俺が探しに行く番だ、と覚悟を決めていた。
がしかし、キタムラは帰ってきた。
明け方の鳥たちの囀りの中から、明らかに回転のおかしいエンジン音を聞いた時、思わず外に走り出てしまった。
あの野郎、帰ってきやがった。。
ホテル中の人々が転がり出てきた。
寝静まった村の窓に次々と灯りが灯り、そして人々が裸足のままに通りに走り出てきた。
キタムラと、そしてその後ろにはたすき掛けに縛り付けられた初老の医者の姿があった。
俺は素直に感動した。
人々は涙を流して抱き合った。
キタムラはまさにヒーローだった。
ちょっと出来過ぎてやがるな、と俺はこそばゆい気もしたが、
いざ自分自身が向かうことを考えていた俺にとって、
そのキタムラの姿には素直に感嘆を送らざを得なかった。
単車から降りたキタムラは、いの一番に俺のところにやってきた。
この野郎、と俺は思った。当て付けのつもりだろう。
キタムラはなにも言わずに俺を見てにやりと笑った。
こいつ、これがやりたいばかりに暗い道中を走り続けてきたに違いない。
がしかし、俺はそれを素直に受け止めてやった。握手をし、肩を抱き、そして不覚にも涙が滲んだ。
やるじゃねえか、と俺は行った。むちゃくちゃ格好いいぜ。
そんな俺たちの隣に、あのオンナが立っていた。
キョーコだった。
お疲れ様、とキョーコは言った。
ああ、とキタムラは短く言葉を返した。
キョーコは泣きながらキタムラに抱きつき、
そしてキタムラはキョーコを抱きながら、そして俺をみて軽くウィンクまでした。
この野郎、と俺は笑った。こいつなかなかのタマだな。
♪
キタムラは駆け出しのルポライターであった。
天安門の引き金になった上海工科大学の学生運動の背後にCIAの暗躍があった、
ってな記事を日本の週刊誌に売りつけて小銭を稼ぎ、その金でインド・ネパールを旅行中だった。
これからボンベイに降りてタラプールの原発労働者の実態を取材に向かうってな話を得意気に吹聴していた。
そんな話を聞かされながら、こんな民青野郎にそんなことができるものか、とも思っていた。
原発労働者だ?そんなもの知った事か。
その後、アフガンに行ってムジャヒディンの部隊に加わろうとしていた俺は、
そんなキタムラの民青的な視点がどうにも我慢ならなかった。
負けた奴は死ぬ。
負ける奴は負けるべくして負けるのだ。
そんな負け犬は素直に死なせてやればよい。
俺は勝とうとする者達の元へ、戦い続ける奴らの元へ行く。
がしかしながら、俺とキタムラのこの目に見えない確執には、
右翼と左翼、その政治的、というよりは美意識的な違い、
なんてものとはまったく関係のないところで、
ぶっちゃけた話、そう、実は、オンナの存在が絡んでいたのだ。
キタムラの連れていたあのキョーコというオンナ。
あのカピパラのような顔をした髪の長いオンナ。
旅芸人の一座。
あの百姓のおばさんのような女達の中にあって、
キョーコの存在はちょっと目を惹くものがあった。
見るからに長期旅行者というヒッピー風な格好をしながら、
その黒いストレートの髪はいつもよく解かされてツヤツヤと輝いていたし、
どんな汚い格好をしていても化粧を忘れることはなかった。
小柄なちょっとした小太り体型。
それ自体はまったく好みではなかったが、
薄手のタイパンツを通して透けて見える下着のラインは、
その外見のラフさとは対象的に、細く鋭利なシェープを持っていた。
つまりキョーコはそれなりにちょっと惹くオンナだったのだ。
ダージリンで最期にオンナを抱いてからすでに1ヶ月が立っていた。
タイからカルカッタからダージリンからカトマンズ。
これまでの道中でオンナに困ることはなかったが、
これまで相手はみな外人、あるいはアジア人ばかり。
世界の女を抱きまくって、日本の女なんざ目じゃないぜ、
旅の中で、ともすれば日本人同志で寄り集まる、
そんな内向的な百姓ヅラの日本人旅行者たちを前に、
これ見よがしに白人の女を侍らせては、
妙な粋がりを続けていた俺であったのだが、
そんな俺が、ふとしたはずみでキョーコの肌に触れた時、
その肌のあまりの滑らかさに思わず、ぞくり、とした。
その生目の細かいまるで吸い付くような白い肌。
まさに日本の女の感触。
この旅の間、実は俺が最も飢えていたものであった。
がしかし、キョーコはキタムラというあの青年団長のような男と一緒だった。
他の人々がドミトリーで雑魚寝をしていたところに、
キョーコとキタムラだけは、二階の個室を取っていた。
俺達の個室とは端と端。
その間に2つの空室が挟まれていたのだが、
そもそもが壁はベニア板一枚の安普請。
夜な夜な漏れてくるキョーコの喘ぎ声は、
否応なく俺の部屋にも流れ込んで来ていた。
普段はキタムラ君、と言っているキョーコが、
夜の中では、コージ、と下の名前で呼んでいた。
普段は、キョーコちゃん、とちゃんづけて読んでいるキタムラが、
夜の中では、キョーコ、と繰り返していた。
がしかし、堪らなかったのはその喘ぎ声ではない。
一戦が終わった後の、二人のピロートーク。
内容までは聞き取れなかったが、
まるでささやくようにぼそぼぞと繰り返されるその押し殺した声。
そしてそれに続くくぐもった笑い声。
やだ、もう、やめてよ、という嬌声。
そしてふと穴に落ちたような沈黙の底から再び湧き上がってくる荒い息遣い。
旅行中、オナニーをすることをやめていた俺にとって、これはしかし、相当に応えた。
生まれて始めて、本気で人が恋しいとさえ思った。
くそあんな女、と舌打ちをした。
あんな女、日本に帰ればいくらでもいるのに。
日本ではあんなレベルには鼻も引っ掛けたこともなかったのに。
そんな俺が、あんな女に血迷っては眠れない夜を過ごしている。
俺はいったい、こんなところでなにをやっているのだ。
そんな時、ちょっと旅に出たことを、悔やんていたりもしたものだ。
そんな時だった。
ある朝、遅くに起きて、一団の過ぎ去ってしんとしたホテルに一人、
まだ冷たい水のシャワーを浴びていたところ、
シャワーのノズルのすぐ下にある灯り窓の向こうに、ふと人の気配がした。
xxさん?と女の声がした。キョーコだった。
ずるーい、とキョーコは言った。
あたしもみんながいない時にゆっくり入ろうと思ってたのに。
でも水は冷たいぜ、と俺は応えた。
事実、ヒマラヤの雪解け水を組み上げただけのこのシャワー。
氷水と言わないまでも、浴びているうちに唇が紫色に変わるほどに身体が冷え込む。
午後の遅い時間、太陽の熱に暖められたころが一番良いのだが、
それを知り尽くした長期旅行者たちの争奪戦に巻き込まれることにもなり、
一人旅の気楽さもあって、わざわざそんな混みあったシャワーで順番を待つぐらいなら、
一人でゆっくり水のシャワーを浴びることを選んでいたのだ。
やっぱり水冷たい?とキョーコが言った。
うん、と俺は甘えた声で応えた。
でも頑張ってる、と続けると、キョーコは、よっ!男の子、と、ケラケラと声を立てて笑った。
暖めてあげようか、とキョーコが言った。
うん、暖めて、と俺は返した。勿論軽い冗談のつもりだった。
ふと人の気配が消えた。
そして、背後の扉、鍵もかからない立て付けの悪い扉が、静かに開いた。
シャンプーを流していた俺は目を開けなかった。
水のシャワーに冷やされていた身体に、キョーコの熱い身体がみっしりと貼り付いて来た。
暖かかった。肌を通して骨の奥までキョーコの身体の温もりが染みわたるようだった。
すごいわね、とキョーコは言った。
冷たい?と俺は応えた。
すごいわね、とキョーコはそれには答えずに、
俺の身体、腹筋や肩の筋肉にそって指を添わせていた。
空手かボクシングかやってた人なの?
いや、ドラム、と言いかけて辞めた。
その代わりにキョーコの脂肪の乗った肩を抱きすくめた。
柔らかかった。例えようもなく柔らかかった。
それは、日本で知っていた、少女の面影を色濃く残していた青臭い女たちではなく、
年上の女、すでに成熟した身体にある意味での余裕を湛えた、
まさにそれは、女の身体、であった。
肉の感触がこれほど柔らかいと感じたのはいったいどれくらいぶりなのだろう。
白人たちのあの、見栄えばかりでポヨポヨと頼りない肌や、
あるいは、東南アジアの女たちの、ゴム人形を抱いているような味気無さ。
それに比べてこのキョーコの肌の感触。
堪らなく滑らかで堪らなく暖かく、
そしてまるで絡みついて吸い付いてくるような、
このあまりにも魅力的な、それは魔力とも言えるほどに甘い、肌の感触。
キョーコは水のシャワーの飛沫の中で息を荒立てながら俺の胸に顔をうっぷしている。
そして腹筋を弄っていた指先がその下、陰毛に降りてきた。
亀頭の先にキョーコの指先が触れた時、思わず息を漏らしてしまった。
感じる?とキョーコは言った。その代わりに顎を上げさせて舌を吸った。
舌を吸いながら背中のくびれをなぞり、そして柔らかい尻の肉を掴みあげて強く持ち上げると、
キョーコはそれから逃れるようにすっと膝を折って身体を落とし、
そして流れ落ちる水の中で俺の魔羅を口に含んだ。
降り注ぐ冷水の中で、キョーコの舌は火傷しそうなぐらいに熱かった。
その熱い舌が亀頭の側面をぬらぬらと滑り続け、
俺は奥歯を噛み締めながらその快感に耐えた。
くそったれ、俺としたことがこんなオンナに勃起するなんて。
キョーコのフェラチオは荒々しかった。
奥の奥までなんの躊躇もなく飲み込んで喉の奥でぐりぐりと締め付けながら、
突きだした舌で玉の裏側を舐めまわした。
思わずいきそうになって髪を掴んで立たせると、
舌を絡めたまま後ろ向きにして、
その小ぶりな身体を背後から抱きすくめた。
したいの?とキョーコが言った。
したい、と俺が答えた。
こんなおばさんでも?とキョーコが言った。
そう言われた途端、魔羅がピンと跳ね上がった。
首筋に歯を立て、鷲づかみみにした両手から零れ落ちる乳房を荒く揉みしだいた。
キョーコは誘うように尻を突き上げ、その丸い曲線の間を魔羅が滑っては弾かれる度に、
クスクスと笑っては身を捩った。
水に叩かれる背中を覆うように俺はキョーコの上から身体を被せた。
ねえ、暖かい、とキョーコが言った。
キョーコの身体も暖かかった。
それはまさしく人の温もりだった。
人の温もりはやはりどうしても愛しかった。
濡れた身体のまま俺はキョーコの身体を抱え上げるように全裸のまま部屋へと向かった。
廊下の掃除をしていたネパール人の小僧たちがそんな俺達の姿に目を丸くしていたが、
そんなことも知ったことではなかった。
部屋に入るなり、俺はキョーコの身体をベッドの中に投げ込んだ。
小さな悲鳴を上げたキョーコの身体の上から伸し掛かり、
強引に身体を開いてはそのまま奥まで一挙に突き入れた。
キョーコの喉の奥から、悲鳴とも叫びとも言えない野太い絶叫が長く伸びた。
乱れた髪の中で口を大きく開け、鼻の穴を膨らませながら、
喘ぎ声というよりは怒声を上げ続けた。
この女、と俺は思った。
この女、この女、この女。
それは愛の交歓というよりは、飢えた野獣が獲物を食い漁るような野蛮な交尾。
髪を掴み、音を立てて吸い上げながら、歯を立ててはその柔肌を食いちぎるように、
そんな俺の肩を背中を、キョーコの爪が切り裂いていく。
身体中に張り付いた冷水の雫が一挙に沸騰を初め、
いつしか吹き出した汗と混じり合っては、全身が溢れ出した愛液に塗れて行く。
この女、この女、この女。
ベッドの足が踊りを踊るようにガタガタと音を立て、
鼓膜が破けそうなほどに響き渡るキョーコの声の中で、
この安普請の壁が、いまにも崩れ落ちそうなほどに揺れ動いている。
背後に開かれたままのドアの向こう、朝を過ぎた白い陽光の中で、
箒を片手の少年少女たちが、呆然として目を見張りながら、
そんな俺達の姿を、黒い瞳をまんまるにしては、息を失って見つめ続けていた。
♪
薄明かりの漏れる真昼の部屋の中、
ドアも窓も閉めきったまるで溶鉱炉のような灼熱に焼け爛れながら、
午後いっぱい、夕方近くまで夢中になって貪りあった。
俺よりも一回り近く年上であったキョーコの身体は、
外で見るよりも一層に脂肪が乗り、その張り切った尖った乳房も、
突き出した下腹の丸みも、そして薄目の陰毛の底にある熱い熱い蜜の壺も、
想像した以上に俺の欲望を掻き立てた。
俺はまるで気が触れたようにそんなキョーコの身体を貪った。
キョーコは踊るように腰を回しては突き上げ、
勢い余ってすぽんと抜けてしまうたびに、その奥から愛液の雫を迸らせ、
そして犬のように凍えた犬のようにブルブルと身体中を痙攣させた。
俺はやってやってやりまくった。
引き千切るばかりに乳房を掴み、食いちぎるように乳首を強く吸った。
尻に爪を立て、高く抱え上げ、引き裂くように足を持ち上げて、
平らに伸すように膝を押し開き、そして前から後ろから上から下から、突いて突いて突きまくった。
身体中から汗という汗が流れ出し、キョーコの身体から流れだした愛液と混ざっては
ベットはまるで絞れば水が滴るぐらいに隅から隅までぐっしょりと濡れた。
街に買い物に出かけていた連中がどやどやと帰ってきた時、
キョーコは身体中を痙攣させたまま、
噛み締めた歯の奥から長い長い嗚咽を漏らし続けていた。
あれ、おーい、キョーコちゃん、というキタムラの声が聞こえた。
もうどうなっても知ったことか、と思った。
俺はキョーコの震える身体を胸の中に抱き込み、
そして甘い汗の匂いに満ちた髪の中に顔を埋めて、俺の女になれ、と言った。
♪
キョーコとはそれから事あるごとに身体を合わせた。
キタムラやその他の百姓連中の目をかすめて、
流し場の陰で、浴室で、そして明け方の俺の部屋にこっそりと忍び込んできては、
息を殺して交じり合った。
湖でボートに乗ろう、と沖にでかけ、あまりにも激しく動き過ぎて危うく転覆して水の中に放り出されそうにもなった。
トレッキングと称して山にでかけ、街を見下ろす崖っぷちの岩の上で、思い切り大きな声を出してまぐわった。
キョーコと知り合ってから、どういう訳かこれまであれほど眩しく見えた白人娘のツーリストに興味がなくなった。
ドラッグに手をだすことさえまれになってきた。
考えていることはキョーコのことばかり。
あの肌の感触。ちょっと垂れ気味の大きな乳房。
そしてすでに中年期の匂いを漂わせた丸い下腹部と、その奥にある赤く濡れた襞。
ある時キョーコはまるで天井にまで届く程の潮を跳ね上げた。
ある時キョーコはなにも言わずに亀頭の先端をその後ろの硬い蕾の上に導いた。
ある時キョーコは身体中を痙攣させ波打たせながら失禁した。
ある時キョーコは奥歯をガチガチと鳴らしながら、
今にも死にそうな掠れた声で、愛している、と言って笑った。
キタムラがカトマンズに向けて決死の大冒険を仕掛けたのはまさにそんな時だった。
キタムラが出発した後、キョーコは旅芸人の一団に囲まれて一夜を過ごした。
俺はひとり、これでキタムラが帰って来なかった時のことを考えた。
そして俺はあのキョーコを独り占めできる。がしかし、と俺は思った。
独り占めできてしまったキョーコに果たして魅力があるだろうか。
その夜、キョーコは訪ねて来なかった。
俺もキョーコがやって来ても、今夜ばかりは断ろう、と思っていた。
女とまぐわっていた最中に奴に死なれでもしたら、それこそ一生寝覚めが悪くなる。
あんな女、とキョーコのことを思った。
あんな年増の小太りの女のために、そんな重荷を背負うのは真っ平だった。
そしてあの夜を境に、キョーコに対する熱情が褪めた。
それ以来、俺はキョーコと視線を交わすことさえもなくなった。
そしてふと顔をあげると、キョーコのきつい視線を浴びていたことに気づいてはっとしたりした。
夜更けになってキョーコが部屋を訪ねてきた。ねえ、なんで逃げるの?と耳元できつく囁いた。
逃げてなんかないさ、と俺はとぼけた。
うそよ、とキョーコが言った。ずるいわ。人のことあれだけその気にさせといて。
その気になったのはお前の勝手だろう、とはさすがに言えなかった。
ねえ、して、とキョーコは言った。
毛布の中に乱暴に片手を突っ込んできた。
彼女に掴まれたそれはしかに以前のように激しく反応したりはしなかった。
飽きたの?とキョーコは言った。
そうさ、気づけよ、とは言えなかった。彼女は年上の女性なのだ。年上の女性を傷つけてはいけない。
そう、とキョーコは言った。だったらいいわ、と捨て台詞のように鼻で笑った。
そしてキョーコが部屋を出ていこうとした時に、どういう訳か、いきなりあの熱情が込み上げてきた。
俺はキョーコの腕を強く引いてベッドの中に引き倒した。
なによ、乱暴ね。
俺はキョーコのそのボワンボワンと揺れる乳房を揉みしだき、
そして愛撫もせずにいきなりそれを奥まで突っ込んだ。
痛い、とキョーコは眉を潜めた。
ごめん、と俺は荒い息の中で短く言った。
ごめん、やっぱり我慢ができなくて。。そして驚くほどあっさりと彼女の中で果てた。
出来すぎだった。これでなんとか辻褄は会う。
あのカトマンズの朝にキタムラを迎え入れたキョーコを見て、俺は身を引こうと決心したのだが、
しかし心のなかではまだ熱情が煮えたぎっている。
これですべてが丸く収まる。あとはあのキタムラが、どこまでキョーコに本気であるか、ということなのだが。
そうこうするうちに、キタムラが俺の部屋を訪ねてきた。
キョーコのことだろう、とは察しがついた。
もう終わったことだ。
もしも面倒なことを言い始めたらその時はその時だが、驚くほどにその気は失せていた。
確かに、いざ喧嘩になった時、キタムラはかなり手強そうな相手であった。
その時には一発二発ものも言わずに殴られてやろうと思っていた。
それで気が済んでくれるのならそれでいい。
俺達はハッパにまぜたハシシを吸いながらとりとめのない話をした。
あのカトマンズ行きの道中のことから始まって、これまで旅の話から、
日本でなにをやっていたか、仕事の話やらこれからのことやらといろいろ話した。
そうかルポライターも大変なんだな。
ああ、そう。なにをやってもそうだが、いざ銭にしようとすると色々大変だよな。
そういうキタムラのことを俺は心底気に入っていることに気づいた。
あの不良時代に知り合った誰かに似ている。
あるいは、あの連中の寄せ集めのような気さえした。
俺はこれからアフガンに行くのだが一緒に行かねえか、と誘ってみた。
ペシャワールまで行って、そこでムジャヒディーンのゲリラ部隊に加わってアフガンに入る。
カブールまで辿り着ければ金になる。
帰りがけにヤクでも仕入れればしばらくはまた旅して暮らせる。どうだ?
ルポライターであれば当然乗ってくるだろうと思った。
だが、その時にはあの目障りなオンナはなしにしてくれよ、と言うつもりだった。
いや、とキタムラはすぐに断った。
実は俺の旅はもう終わりだ。
実はキョーコの家は大した資産家で、彼女の父親が手を広げている海外不動産の仕事を手伝うことになった、という話だった。
なんで資産家の娘がインドやらネパールの、しかもこんな安宿にいなくちゃいけないんだ。訳が判らねえ。
親にはヨーロッパに行くと嘘をついたらしい。
あいつの荷物見たか?バッグはすべてヴィトンだし、
普段着ているあのダボパンだって実はケンゾーなんだぜ。
俺たちの前では調子を合わせてヒッピー面してるが、金の使い方も半端じゃねえし。
日本での写真も家族でベンツに乗っていた。間違いない。
資産家か、とキョーコの身体を思い出してみた。
あの小太りの身体。
どう考えても資産家で想像するような箸よりも重いものを持ったことがない、という印象からは遠すぎた。
おばさんとまでは言わないものの、良くて地方都市のちーママ。あるいは売れないソープ嬢と言ったところだろう。
つまり、とキタムラは言った。キョーコは俺にとっては最初で最後のチャンスってとこなんだ。
チャンスってのはつまりは金持ちになるってことか?
ああそう。金を掴むための最期のチャンス。
俺にもようやく運が回ってきたってところだ。
ルポライターから成金の地上げ屋か。随分の転身もあったもんだな、と皮肉を言ってやった。
ああ、こんなことを続けていたら命がいくつあっても足りないとは思っていた、と神妙なことを言った。
奴らの言いなりになっていたらこのまま殺されちまう。
そして正義を追う青年ルポライターの死、なんて記事でまた一稼ぎしようって魂胆なんだろう。
始めたころと違って、実際にそれで飯を食おうと思ったらなかなか思うようには行かねえ。
誰かにそれを買って貰うためには、買ってくれるお客様に気に入って貰えるうような商品に仕上げなくっちゃいけないのさ。
真実を暴くだ?正義の告発者だ?聞いて笑わせるぜ。
全ては商品なんだ。愛も平和も正義も真実も、すべてが商品。
価値基準は金になるかならないか、誰が得をするかって訳でさ。
まあそんな訳で、そろそろ潮時だと思っていたところをあのオンナに知り合った。
これもなにかの縁だ。乗らせて貰う。下手は打たねえ。
あのオンナと結婚するつもりか?と聞いた。敢えてキョーコという名前は使わなかった。
ああ、そういうことになればそうなるだろうな、とキタムラは答えた。
あの女がどんなオンナか知っているのか?と言いそうになってやはりやめておいた。
いずれにしろもう俺の知ったことではない。
やってしまっことはやってしまったことだが、それさえもわざわざ口に出さない限りは真実足り得ない。
あの女がわざわざそれを口にしないかぎり、二人の間から俺の存在はみるみると風化していく筈だ。
そんな俺の気持ちを見透かしたように、ああ知っているよ、とキタムラは言った。
お前らのことは知っている、というか、キョーコの口から聞いている。
俺はキタムラの表情を伺い、そしてなにも答えずにタバコに火をつけた。
なるようになれだ。俺の知ったことではない。
別にそんなことでうだうだ言うつもりはねえよ、とキタムラは笑った。
俺は関心してるんだよ。
おまえ、もしかしてAV関係者かなにかか?
正直俺でさえあの女の性欲には辟易してたんだ。
甘い顔していたら朝まで寝かして貰えない。
それが毎夜毎夜じゃあさすがにこっちも身が保たねえしな。
でちょっと突き放したらどうだ、さっそく違うおもちゃに手を出しやがった。
お前もさんざん付き合わされてご苦労なこったが、いやしかし、話は聞いたよ。
お前も相当なタマらしいな。金に困ったら竿師にでもなったらいい。
あのオンナもそう言ってたぜ。俺からも礼を言わせて貰う。
俺はキタムラの表情を伺った。
それほどラリっているというでも無さそうだ。寧ろ真顔。
こんな俺達を見てもだれもラリっているなどとは思われないだろう。
キタムラの表情にはケンがなかった。
やるときはやるつもりだったがこんな話をこれほどさらりと言ってのけるキタムラに勝てるとは思えなかった。
その時には前歯ぐらい折られるかもしれない。
あのオンナがそれに値するかと考えて思わず舌打ちをしたくなった。
黙っているとキタムラから口を開いた。
俺にだってわかってるさ。
俺だってそんな感じで知り合ったんだしな。
所詮その程度のオンナなんだろ。
そして多分、これからもそうだ。
まあでも、オンナなんてみんなそんなもんだろう。違うか?
俺は別に、あの女が良いの悪いのやら、
あんなおんなにひっかる俺達のような男がバカだのアホだのと言うつもりもねえ。
女がそうなら男もそうだ。
例えあんな女でも溜まってる時に目の前でこれ見よがしに尻を振られれば、その気になったりもする。
それは俺だってお前だって同じことだろ。
それぐらい俺にも判ってる。
だからまあ、あの女の子ことはもう言いっこなしだ。
ただな、そう、あの女はちょっとこれまでの女とは違うんだ。
つまりせっかく掴んだ金づるだ。
淫乱だろうがヤリマンだろうがそんなことは俺はこれっぽっちも気にかけるつもりはねえ。
あの女がどんな女であろうと知ったところかとさえ思っている。
だがな、そう、あの女のバックは別だ。
何だろうが大事に大事に骨までしゃぶり尽くさせて貰うつもりだ。
という訳で、とキタムラは俺を見た。
話はこれまでだ。
つまり金づるに手をだすな、ってことか。
いや、お前とタイマン張るつもりはねえよ。
ただ、お前にその気があるんなら、つるんでもいいぜってことさ。
アフガンの百姓一揆なんかを見物に行くよりは、
あの色キチガイのねえちゃんを二人でいたぶって金にしたほうがよっぽど気が利いてると思うんだがな。
あいにくとヒモになる程にはまだ苦労してないんでね。
ヒモじゃねえだろう。マスオさんって言って欲しいな。
俺はあの女のコネの海外不動産とやらで一山当ててやるつもりさ。
着眼は悪くない。
要は先立つ金だ。
ハワイ、グアム、ビバリーイルズにオーストラリア。
日本人用の高級別荘を売ったらしこたま儲かるぜ。
税金対策にもなるしな。
そう、その税金ってところが味噌なんだよ。絶対に儲かる。
そのうちに俺はフォーブスに名前が乗るぜ。
そうなればアバタどころか誕生パーティにマドンナを呼べるぜ。
まあ女の話はこれまでだ、とキタムラは大きく息を吐いた。
さあ、面倒な話は終わった。さあ飲み直そうぜ。
そして俺達は新たにガンジャを巻き直し、
そしてふとした弾みでこれまで見てきた最高の夕焼け、について話始めた。
なぜそんな話になったのだろう。
そう、なぜ旅になんか出たのか、という話からだ。
世界中でいろんな夕焼けを見たよ。
マドラスの夕焼け。サハラ砂漠の夕焼け。イスタンブールの夕焼け。
キーウエストの夕焼け、そして日本の夕焼け。
世界中で夕焼けを見たかったんだ。
なぜ夕焼けなんだ?
なんかほっとするだろ?
夕焼け見てるとさ。なんか、もう許してやってもいいかな、って思うだろ。
やさしい気持ちっていったらユーミンみたいで気持ち悪いけどさ。
ガキの頃な、部屋の窓からいつも一人で夕焼けを見てたんだ。
最初から最後まで。
おひさまの光がすっかりと夜に吸い込まれるまで、ずっとずっとさ。
ああ、俺もさ、と俺は言った。
いつもいつも学校の校庭でボールが見えなくなるまでサッカーボールを蹴り続けててさ。
俺は夕焼けが恨めしかったな。みんな帰っちまってさ。
ずっと昼ならずっとサッカーができたのに、ってさ。
ふとキタムラが顔を上げた。そうかお前も。お前もやっぱりそうだったのか?
それがなにを意味するか判らなかったが、その一言でキタムラの身体がぐったりと伸びた。
そうか、なんだよ、やっぱりそうか。
お前もやっぱりそうだったのか、くそったれだな、と、
一挙に弛緩した顔でさもおかしそうにケラケラと笑った。
ふと部屋に満ちていたぎこちない雰囲気、つまりは殺気がすっと吸い込まれていった。
その時なって、そうか、こいつもやはりそのつもりはあったのだな、と気づいた。
旅ってのは不思議だよな。妙なところで妙な奴に会う。
ああ確かに。なんか日本では考えられないぐらいにな。次から次へとおかしな奴に会う。
お前もやっぱりそうか、とは思ってたんだ。
なんのことだ?
それには答えずに、そして奴は歌をがなり始めた。
演歌か何かか、見かけに依らず染みったれた野郎だ、と思ったら、
それはストーンズのSALT OF THE EARTHだった。
ストーンズか?キース・リチャーズじゃねえか。
そう、ストーンズ。ストーンズが好きでさ。キース・リチャーズとかさ。
やれやれだな。俺も日本ではストーンズばかりだった。
知ってたよそんなこと。
お前をひと目みたらすぐに判ったぜ。
この野郎、すかしやがって。
こんなど田舎のヒマラヤの山ん中まできてキースを気取ってやがるってさ。
そりゃお互い様じゃねえか。
おまえと旅ができたら面白かっただろうにな。
俺も実はそう思っていた。
南米でも行かねえか?
ゲバラの部隊の残党とつるんでまたひと暴れしようぜ。
サンディニスタはどうだ?
センデロ・ルミノソでもいいな。
どうせならパブロ・エスカバーと組んでコケインマネーで南米に革命でも起こすか。
まだまだ行ってないところがたくさんあるな。
ああ、まだまだやってねえことがたくさんある。たくさんあり過ぎて、途方にくれちまうぜ。
その後、急遽日本に帰国することになった、と伝えられた。
すでに空港に向かう用の小奇麗な服に着替えたキタムラとキョーコは、
なので、この旅の道具、もし欲しいのあったら持って行って、とはにかむように笑った。
そしてキタムラは俺を見て、死ぬなよ、と笑った。
生きて帰れたら連絡してくれ。
俺はそのころ何をやってるかしらねえが、持ち帰った写真を売って金にできるところぐらいなら教えてやる。
お前にはこの後もどこかで会いそうな気がする。
その時はお互いどうなってるか判らねえけどな。
ただ、もしもまた会えたらその時はつるもうぜ。
忘れるなよ。俺達はつるむんだ。
パブロエスカバーの金でゲバラの夢を追う。
そうだ、それだ。判ってんじゃねえか。忘れるなよ。
俺達はマブだ。例えどんな立場にいても俺たちはマブだってことを忘れるな。
そして待たせたタクシーに乗り込むキョーコの弛んだ尻を眺めながら、
くそ、もう一発ぐらいやっておけば良かったかな、とも思った。
その後、俺はアフガンで死にかけ、テヘランで死にかけ、
イスタンブールで、アテネで、そして命からがらようやく辿りついた東京では、
ヤクザと揉め事を起こしてまさに肝の底から冷えるような思いをさせられた。
そんなまさに最低のどん底のその底のような経験を繰り返した末にアメリカに流れ付き、
そしてバイトでも探そかと下見に来た日系居酒屋で甘ったるいカツ丼を食いながら古新聞をめくっていた時、
そんなキタムラの死亡記事を見つけたのだ。
そうかあいつは北海道出身だったのだな、とその記事の中で知った。
つまりキョーコ、あのチブデブのカピパラみたいな色情狂の女とはついに結婚しなかったってことか、
と、あのオンナの顔を思い出してニヤリとしてしまった。
あのバカ、騙すつもりがまんまと騙されやがって。
あんなオンナが資産家の娘の訳ねえじゃねえか。
そんなことは抱いたらすぐに判っただろう。
そうあんな女に騙されるなんて、俺達はどうにかしてたんだ。
きっとそうだ、といまになってはっきりとそう思う。
が、果たしてキタムラはあのオンナになにを見たのだろう。
金のためならばあんなオンナとでも結婚しようとしたキタムラのそのシニカルさに、
俺は逆にしたたかさを見た思いがしていたのだが、果たしてそれは彼の本心だったのだろか。
そして奴は日本でなにを見たのだろう。
あの女は本当に資産家の娘だったのだろうか。
あるいはどんな茶番劇があの二人を待ち受けていたのだろう。
今となってはなにがあったかは知るよしもないが、
キタムラはやはり旅に舞い戻り、そして旅の中で死んだ。
奴の予想したとおり、正義の鉄砲玉として触れてはならないところに足を踏み入れ、
そして奴の予想したとおり、正義を追い続けた青年ルポライターの死として、また新たな一稼ぎが打たれた。
それが判っていながら、あいつはなぜ、再び旅になど出たのだろう。
あいつはもしかしたら、と俺はふと思った。
もしかしたら世界中の夕日の中に、俺の姿を探していたのかもしれない。。
食い終わったカツ丼の丼を下げにきたメキシコ人のウエイターがぬるいお茶を継ぎ足していった。
そのまずいお茶を啜りながら、間の抜けたLAの風景。
ゴミだらけのパーィングロットと枯れた芝生とスモッグ色の空を眺めた。
そして俺はSALT OF THE EARTHを歌った。
世界中の酔っぱらいよ。乾杯だ。
白も黒も黄色もねえ、さあ乾杯だ。
くそったれ、いい男に限って早死しやがる、と俺は舌打ちをした。
がしかし、俺は死なねえぞ。とことんまでこすくしたたかにどんな方法を使ってでも生き延びてやる。
目標はキース・リチャーズだ。
♪
「リョウとショウコ - LET IT LOOSE」
高校卒業を控え、受験戦争もラストスパートを迎えたにも関わらず、
相変わらずバンドばかりで午前様を繰り返していた頃、
バイト先の喫茶店の常連であったなんとか組系なんとか会のなんたらというクロカワというチンピラから、
紹介したい奴がいる、と話を持ちかけられた。
クロカワ。このちびたチンピラ野郎。
またいつもの奴で紹介料だなんだでコーヒー代ただにしろなんて因縁をつけてくる算段だろう、とうっちゃっていたが、
閉店も近くなった頃になって、一人の男が入って来た。
全身が革づくめ。黒づくめ。
スリムの革パンに鋲付きの黒いバイカーブーツ。ダブルの革のハーフコートの下にはこれまた黒い革製のシャツに黒い手袋。
はだけた胸に下がったシルバーのカンナビスのネックレスだけが鈍い光を放っている。
この見るからにロック野郎然とした見るからにロック野郎。
エプロンを下げて皿を洗っていた俺の前に、よお、と男はカウンター越しに黒革の手袋を差し出した。
リョウってんだよ、とその少年は口を端を歪めて笑った。
XXさんだろ、OOの、とその男は俺のバンドでの芸名とそしてバンドの名前を告げた。
この店において他人の口からその名前を挙げられたことは嘗てなかった。
この場所は俺にとっては高校の延長であり、バンドとはきっぱりと区分されるべき場所である筈だったのだ。
とりあえず、エプロンで手を拭いて差し出された手袋の上から握手をした。
がしかしと改めてクロカワを振り返る。バンド関係者ならいざ知らず、なんで地回りのチンピラのであるクロカワがこんな男を連れてくるのか。
実はよ、とリョウと名乗ったその全身黒革の痩せぎすの男が言った。
この間ロフトでおたくのギグを見たんだよ。で、おおドラマーが良い音だしてんじゃねえか、って思ってよ。まあそれ以外はなんてことはねえ、とは思ったがな。特にあのベースは最悪だな。あのバンドにあのドラマーじゃもったいねえな、とかな、言ってたんだよ。したらよ、そいつが俺のタメでしかも地元が一緒って言うじゃねえかよ。ってんで、ちょっとこのクロカワに頼んで、面を拝ませてもらいにきたって訳なんだよ。
だったらギグに来ればいいじゃねえか、と言いそうになって改めてクロカワを見た。なんでよりによってそんな奴をこの店に連れてくるのだ。
いきなり話を振られたクロカワが、妙にしどろもどろに、実はね、このリョウさんもバンドをやっていて、と続けようとしたところ、
いきなりリョウから脛を蹴り上げられた。
てめえは余計なことを言わなくてもいいんだよ。リョウは剃り上げた眉をことさらに釣り上げてきつくクロカワを睨む。
この店においてはいつも威勢のよいクロカワがいきなりこんな醜態を晒す様がちょっと哀れに思えた。
まあ座ってください、と俺は言った。コーヒーでも淹れますから、という俺に、いや結構、とリョウは言った。
話は手短に済ませようぜ。
実はABCがよ、とリョウはいきなり当時、ライブハウスシーンから唯一メジャーデビューを飾ったバンドの名前を口にした。
ABCがよ、来年頭から全国ツアーに出るんだが、その時のサポートバンドを探していてな。で、うちのバンドにそのシラハの矢がぶっささってよ。
それはそれは、と俺はリョウの仕草を真似て口の端を歪めて笑ってやった。それはそれは羨ましい限りで。
それを見てリョウは、まるで鏡に返すように似たような皮肉な笑いで答えた。つまりこれが奴のトレードマークなのだろう、と思った。
したところがよ、ドラマーがちょっとやばいことになってな。
リョウの話では首にした、というのは建前で、実はオンナができたか下手なヤクにはまったか、練習をサボりがちになったドラマーにちょっと焼きを入れたら、思わず右腕を折ってしまった、ということらしい。
つまりよ、まあ、ちょっと蹴りを入れたら当たりどころが悪くてよ。まああんなドラマー、どうなろうが知ったことじゃねえんだがよ。
がしかし、リョウの話が本当であれば、ABCのツアーまでの間にドラマーを探さなくてはいけない。その代役が俺という訳で、それが本当なら確かに悪い話ではない。
ギャラって訳でもねえんだがよ、まあ挨拶代わりにそれなりの土産は用意しようとは思ってんだ。まあ後のお楽しみってことでよ。
実はよ、俺はおたくのことをかなり前から知ってたんだよ。噂に聞いたってよりもまあそれなりのツテからな。いろいろ聞かせて貰ってたよ。色々とさ、とさもおかしそうにケラケラと笑った。いいんだよ。そういう三枚目キャラもうちのバンドには必要だったんだ。その土方のおやじみたいなアフロヘアもよ、そう、なんかまあパンク一色ってよりも、そういうちゃらいキャラもいいかな、とは思ってた。つまりもうほとんど面接はパスだってことだ。あとはオタクの返事次第。まあお互い悪い話じゃねえとは思うんでよ。
そう言い残すと、リョウはじゃな、あばよ、と手を上げて店を出て行った。
リョウに追い払われて隅のテーブルでインベーダーゲームをやっていたクロカワに、おい、行くぞ、と犬に対するように投げやり言い捨てて。
クロカワは途中のゲームをそのままうっちゃって慌てて店を走り出ていった。
ABCの全国ツアーか。。本当だとしたら確かに悪い話じゃない。
がしかし、と俺はすでにその時点で気がついていた。
格好が決まったバンドマンは実は大したことはない。特にステージ以外での格好をバッチリと決めている奴。
そういう輩はロック・スター的なものに憧れているだけで、ロック・スターになるためのまずは第一条件である楽器の演奏そのものはお座なりにしているケースが多い。
俺はステージでの衣装が嫌いだった。できることなら普段の生活時には出来る限りロック・スター的なものからは離れていたいと思っていた。
特にこの店では。。
とそんな時、おい、と後ろからマスターの声がした。
やめとけ、とマスターは言った。
なにが?
だから、いま来た奴の話だ。やめとけ。
そうかな。もし本当ならいい話だと思うんだけどな。もし本当なら、だけど。
もしかしてお得意様のクロカワをコケにされて怒っているのか。がそんなことをわざわざマスターが気にかける筈もない。
クロカワはこの店においても鼻つまみだった。高校を中退してからプラプラとパンチコばかりして暮らし、駅前で後輩たちに絡んでは小銭をたかる。外ではそんなチンピラ風情が板についていたクロカワが、唯一そんな現実を忘れて自分に帰れる場所がこの店であったのだが、最近のクロカワはこの店においてもそんなチンピラ風情を振り回し初めている。チンピラの虚勢の仮面を外したクロカワが小心者のA型であることを知っている俺達にとっては、そんなクロカワの態度が鼻につき始めていたところだった。
もう今日はこのぐらいでいいから早く帰って寝ろ。お前最近寝てないだろう。目真っ赤だぞ。
確かにそうだ。しかも家にもほとんど帰っていない。風呂にも入ってねえだろう、と言われなかったのは幸いだった。がしかし、こんな時間に店を追い出されていったいどこに行けと言うのだ。
今日はもう店じまいだ。どうだ?飯を食わねえか?、と駅前のスエヒロでエビピラフを奢られ、そして帰り道にそのまま自宅の前で車を降ろされた。
いやあの、ここはまずい、というかここだけはまずい、というか。。
と困惑する俺に、たまにはかあちゃんに面を見せてやれ。そんでちゃんと風呂にも入って、良く寝ろ。
つまりそういうことか。
という訳で、久々の自宅だった。家に入る前に犬の顔を見に庭に周り、かばんやらバンド機材を玄関前に積み上げたままそのまま散歩に出た。
子供の頃から飼っていた犬はいまではすっかりと老いぼれてしまっていた。
小学生の頃はどこに行くにも一緒だったこの犬も、俺が中学だ高校だ、部活だバンドだ、とやり始めてからはすっかりとご無沙汰になってしまった。
犬の散歩から帰ると、玄関先に明かりがついていた。ドアを開けたとたんに暗い廊下の奥からおふくろが顔を出し、しっ、お父さんが起きるから静かに、と人差し指を口にあてて眉を潜めた。
ご飯は食べたの?
ああ、食ってきた。
風呂に入りたいんだが。
明日の朝にしなさい。お父さんが会社に出た後に。
学校遅刻しちまうぜ。
いまさらそんなこと気にするほどまともに暮らしてるとも思えないけどね。
という訳で久々に帰った我が部屋。
ジェイムス・ディーンとキャロルと矢沢永吉。
レッド・ゼッペリンとディープ・パープルとアグネス・ラムに小泉今日子。
当然のことながら出て行った時のまま。
じっとりと湿った布団を捲るとシーツの上に砂が溜まっている。前に帰った時は江ノ島に行った帰りで、砂まみれのまま寝てしまったのだった。ポケットに入っていた砂がベッドに溢れていたが掃除をする間もなく再び家を飛び出していたのだ。
つまりそう、前に出た時のそのままだ。
次にいつ帰れるかわからないからと、レコードやカセットテープやら文庫本やらを片っ端からをかばんの中に詰め込み、そして久々に電話もかけずに音楽も聞かずに一人のベッドでぐっすりと寝た。
翌日、一風呂浴びて二時間目の途中から顔をだした学校。
学校に来るのもまさに久しぶりで、教室に顔を出した途端にクラス中がどよめいた。
よおよお、どうしたよ、とクラス中が俺を振り返り、やあやあ、よろしくよろしく、と俺は精一杯の笑顔でそれに答える。
次から次へと折りたたんだ紙片のメモが回ってきて、読む度に笑いを押し殺して送り主と目配せをしてうっしっし、と笑う。そう、俺にだってそういう高校生ライフがあるのだ。そして俺はなんだかんだいってそれをとても気に入っていたのだ。
そうこうするうちに学年中の不良仲間が集まってきた。授業中だというのに、廊下に溜まった奴らが、開いたドアの間から次々に合図を送ってよこす。窓の外から、おーい、おーい、XXさーんと大声を張り上げる後輩たち。XXさーん、お帰りなさいです~!馬鹿野郎、恥ずかしいからやめろって。全校中に知れ渡っちまうじゃねえか。
大した人気じゃないか、と教壇の上から、嫌味に笑う教師。挨拶が済んだらちょっと大人しくしていて貰えないかな。お前と違って他の生徒は大切な時期なんだ。
そう、こんないけ好かない教師の面さえ、久々に見るとなんとなく愛嬌がないこともない。
教師たちは俺がバンドをやっていることを知らない。俺のやっていることが学校にバレたら多分停学では済まない。ヘタをすれば新聞沙汰だ。その際には辞めることになるだろう。それを知って、学校中の奴らの間には緘口令が引かれていると聞いた。だから心配するな。だから俺達のぶんまえ思い切りがんばってくれ。
という訳で、まったく学校に顔をださない俺の出席率はしかしいつも皆勤賞。つまり、教師の目を盗んで出席帳簿を書き換えてしまう奴らがいるのだ。俺に目をつけた生活指導の車はドブの底に沈み、赤点をくれた教師のもとにはそれとなく脅迫が届き、挙句の果てに、追試の際には10トンの大型トラックの一団が校庭中を走り回った。
なんだ、邪魔にし来たのか、という教師に、逆だよ先生。これで俺を落第でもさせたらあんたがあのトラックに轢き潰されるぞってことだよ。
そして教師は俺に解答を教えてくれた。お前なんかを落第させてこれ以上の悪影響を与えられては堪らないからな。
二時限目の授業が終わった途端に学校中の不良グループがどやどやとうちのクラスに押し寄せてきた。教室はみるみるうちに1年から3年までの不良という不良たちが一同に顔を揃えた。
よおよお、元気だったか?仲間たちと抱き合って肩を叩き合い、なんだよお前、ニグロかけたのか、なかなか渋いじゃねえか、と後輩の肩を小突き、ぽーっとした顔で見つめる一年坊の頬を撫でてよろしくな、がんばれよ、と笑いかける。いつものダチだった。ロック・スターを離れた俺の大切なダチだった。
そんなこんなで3時限目4時限目は仲間たちとサテンにふけてミーティング。つまりは最近の状況報告。飯の後に学校に戻り、良い子派の人達とも挨拶を交わしていた時、3年2組のアラキ・ショウコがすっと俺の後ろに立っていた。
目を伏せたまま、はいこれ、と封筒を差し出した。ラブレターというには封筒がかさばっている。
テープ?
そう、リョウちゃんから。
リョウちゃん?
昨日会ったんでしょ?で、これ渡してって頼まれたの。
お前、あいつの知り合いなのか?
いやまさか、と俺は改めてアラキ・ショウコの姿を見なおした。
アラキ・ショウコは不良ではない。
確かに顔立ちの整った表情は日本人ばなれしたものがある。
スタイル抜群だ、という話も聞いたことがある。
不良ではないがしっかりと髪を脱色し、薄化粧に爪の手入れも忘れていない。
がしかし、スカートが長い訳でも耳たぶにピアスが並んでいる訳でもラメ入りのシャツを着ているわけでもない。
学業も優秀で教師との受け答えにもソツが無い。
がしかし、どこかとらえどころのない、不思議なところにいる生徒だった。
不良グループからも良い子派にも属さない中間色。
美人なくせに浮かれた雰囲気がまるでなく、教室の中では至って地味な女の子。
どこの仲良しグループに属していることもなく、部活に入っていないこともあってその人間像はなんとなく謎。
誰もがそれとなく気にしながらしかし誰とも近づかない女の子。
そんなアラキ・ショウコの口からリョウの名前を聞いた時の俺の驚き。
リョウと知り合いなのか?
アラキ・ショウコはそれには答えずに、ふと顔をあげると、やけに直線的な視線で俺の瞳の奥を覗きこんだ。
リョウ、わたしのことなにか言ってた?
いや、なにも聞いてない。だから驚いている。
リョウのことはこの学校では誰にも言わないで。あんたのことも誰にも言わない。
俺のことって?
あんた、リョウのバンドに入るの?
いや、まだ決まったワケじゃない。
そう、とアラキ・ショウコは言った。
あんたのこと、リョウに言ったのはあたしなの。
ああ、それは聞いた。あるスジから俺のことはよく聞いてるって。
まさかあんたとリョウが付き合うことになるとは思わなかったから。。ごめんなさい。
いや、ごめんって、別に。。
あんたとリョウは違う。違う世界のひと。あんたのバンドとリョウのバンドは違う。同じロックだけど、でもぜんぜん違う。それだけは言っておく、とアラキ・ショウコは言った。
テープ聞いたら返事を聞かせてって言ってた。返事を聞いてこいって言われてるの。できるだけ近いうちに。
でも俺、こんどいつ学校来るかわからないぜ。
あんたがどこにいるかはあたしがよく知ってる。そこにあたしが行く。だからテープを聞いて返事だけ聞かせて。じゃあ、あたし行かなくっちゃ。
そう言ってアラキ・ショウコはふと俺の背後に視線を移した。
振り返ると、クラスの不良派の女達がじっと俺たちを見つめていた。
じゃあ。
ああ、じゃあ。
そう言うと逃げるように教室を出て行った。
ねえ、とすぐによってきたカオリが俺の背中を小突いた。
なによあのオンナ。
あのオンナって、アラキ・ショウコだろ?三年二組の。
だからそのアラキ・ショウコがあんたになんの用があるのよ。
知るもんかそんなこと。
それなに?と渡された封筒を指さされた。
さあ、なんか貰ったんだ。よくわからない。
ちょっと貸して。
いやダメ。
なんで隠すの?
隠してなんかないだろ。ただ俺のもらったものじゃねえか。お前には関係ない。
あ、そう、とカオリはふんと横を向いた。あたしには関係ないんだ。ふーん、そうなんだ。
お前なあ、とむくれたカオリに軽い舌打ちをすると、やっほー、久しぶり~、とやってきたユミやらマキコやらヨーコやらが一挙になだれ込んできて、ねえねえ、元気だった?と腕やら袖やら髪やらを引っ張る。ねえねえ、ちょっと痩せたんじゃない?と頬を撫でまわし、でもなんか今日はいい匂いがするけど、久しぶりにお家に帰ってお風呂に入ったのかな?と聞いたようなことを言う。
ねえ、今日もスタジオ?
ああ、今日は8時からだからそれまでまたマスターのところで皿でも洗うかな。
ならお店の方に行くね。待っててね。
という訳で、アラキ・ショウコに貰ったテープだった。
店に着いてからゆっくり聞こうと思っていたのだが、なんとなく気になって、そして授業が完全にチンプンカンプンになっていることも手伝って、授業中にさっそくウォークマンで聞いて見た。
なんだこれは。。思わずウォークマンのボリュームを絞ってしまった。
まるで高校生の文化祭。スリーコードを覚えたてのガキどもが調子に乗って初期のストーンズのコピーをやっている、とそんな感じだった。スタジオにカセットを置いて録ったのだろう。歪んだギターの音ばかりで他の音はまったくという程に聞こえない。
PANDEMICS とアラキ・ショウコの字であろう手書き。流行りの蛍光マジックで書かれたその文字は学業優秀者には似合わない極端な丸文字だった。
ふと回ってきた紙片。カオリの字だった。
あのおんなはやめて。ぜったい。と書き殴られていた。
6時限目の授業が終わったと同時にユミを筆頭にあのおちゃめな不良グループの女の子たちが一挙に流れ込んできた。
そのまま有無を言わさず両腕を取られてマスターの店に直行。なにか用があるのかと思えばそんなこともなく、俺などいるのか居ないのか判らないように自分たちで自分たちの話ばかりして勝手に騒いでるう。そんな一団が雪崩れ込んできて、狭い店の中は高校生の少女たちのはしゃいだ笑い声に満たされて、それまでいっそりとカウンターで本を読んでいたお客たちが目をぱちくりさせている。
だらかお前はもっと静かにしろって。ここはそういう店じゃないんだよ。騒ぎたいなら駅前のファミレスに行けよ。
そんな俺に、まあまあ、いいじゃないの、とマスターは気味が悪いみたいにごきげんである。はいこれ、とエプロンを渡されて、マスターはそのかわりに俺の座る筈だった真ん中の席にちゃっかりと滑りこんでしまう。
ハロー、マスター、やっほー、お久しぶり、ねえ、マスター髪切った?なんか素敵!と女の子たちに囃し立てられてマスターも嫌な顔はしていない。
あ、そう言えば、カオリは?とカウンタ越しに聞けば、知らない、との答え。
なんかどっか行っちゃったの。そのうち来るんじゃない?あたしたちここにいるって知ってるし。
渋谷でリハが終わったのが10時過ぎ。その後飲みに誘われたが制服であることを理由に断って、そのまま電車に乗ってとんぼ返り。マスターの店に着いた時にはちょうど店を閉めたマスターがドアの鍵を閉めているところだった。
なんか、ついさっきオンナの人が来たよ。とマスターが言った。
おんなのひと?マスターは通常、俺の周りの奴らをおんなのひととは呼ばない。
ああなんか、暗い感じの。なんか水商売っぽい感じの。待ち合わせでもしてるのかと思って、待つかって聞いたんだが、いやなら帰るってな。
ああ、たぶんアラキ・ショウコだろう、と思った。
でも水商売っぽいおんな?だったら違うのだろうか。
マスターと別れて駅に戻る帰り道、通りかかった直管のKHはゴロウの物だった。
一旦通り過ぎてからUターンして戻ってきたゴロ~。ちーっすと挨拶を入れては、実は探してたんすよ、とはしゃいだ大声を上げる。実は、ジンさんから。
ジンが?俺を?
よおよお、と足を踏み入れたアキラの下宿はすでに地元のダチたちで一杯。
隣町の高校の仲間とは違ってここはまさに俺の地元のダチたちの昔からの溜まり場。
こいつらは俺がバンドをやっているなんてことさえまったく気にも止めない昔ながらの腐れ縁仲間。
進学校で不良を気取っている奴らとは違い、ここに集まる奴らはほとんどが中卒。
すでに組の盃を貰っているものも多く、つまりは本ちゃんに限りなく近い。
つまり、俺の本当のまぶだち。いざとなった時に頼りになるのは実はこういう奴らなのだ。
よおよお、と言いながらタバコを強請り、さっそくギターを抱えてファンキーモンキーのイントロを繰り返す。
よお、そう言えばよ、シュウジが峰を投げて寄越した。一本咥えて投げ返そうとすると、いいから取っときな、と顎をしゃくった。パチンコで取って捨てるほどあるぜ。
こういうところが高校のダチとは違う。
シュウジは高校には行かずにぷらぷらとドカチンをしながら最近では組の連中とつるんでいるらしい。
シュウジのことだ。度胸と運動神経は抜群。本ちゃんでも一目置くその惚れ惚れするぐらいの極道ぶりに幹部クラスも頭が上がらないらしい。まあシュウジらしいと言えばシュウジらしい。がそのシュウジも、その隣りにいるジンには徹底的にぶちのめされたことがある。まあ小学生の頃のことだが、しかしここにいる連中はいまもそれを忘れてはいない。
とそんなシュウジは、しかし天敵であるジンのマブダチである俺にも頭が上がらない。なんだかんだと兄貴代わりになって世話を焼いてくれるのだが、時としてうざったいそんなシュウジのお節介に嫌な顔をするたびにジンに窘められる。世話を焼かしてやんな。あいつも寂しいんだ。
そういうジンを俺は本当にすごいと思う。不良の極意は気配りだ。外で親分気質の人間に出会うたびにそんなジンとの共通点に気づく。頭を取る奴が頭を取れるのは喧嘩が強いからでも金を持っているからでもない。つまりは気配りだ。そんな奴らにはこいつのためになにかをしてやりたいと思わせるなにかがあるのだ。
そんなジンが、よお、と俺に声をかけた。
待ってたんだよ。実は話があってよ、と言うジン。そういう時のジンには軽口は挟まない方が良い。
あのよ、お前のバイトしてる店にクロカワってチンピラが来るだろ?
ああ、来るよ。それがどうしたの?
あいつ、最近シャブ食ってるってな。売ってこいって言われたブツを全部てめえで食っちまったらしくてよ。〆られたらしいぜ。
シャブ?エンコでも飛ばしたのか?
いや、そこまでは行かねえ。エンコ飛ばすほどのタマでもねえだろう。ただしばらくは表に出れねえだろうな。人間の顔に戻るにはかなり時間が必要っていうかさ。
そんなにひどくヤラれたのか。
そこまで言うと、おい、とシュウジを向き直った。シュウジ、話してやれよ。
シュウジがその場所に居合わせたらしいんだ。
なんか言ってることがおかしくてよ。後藤の兄貴のバシタの弟が、とかさ。
バシタの弟の?
リョウっているだろ?
ああ、知ってる。この間そのクロカワに紹介されたんだ。
リョウ、と聞いて、ちっと、シュウジが舌打ちした。
後藤とか言ったよな。なんとか会の若頭。そのオンナの、リョウがその弟なんだ。
若頭のオンナの弟?
その後をシュウジが引き継いだ。
リョウの野郎、地元では有名な悪だったらしくてよ。ガキの頃から万引きの常習で何度パクられたか判らねえらしい。ただ誰ともつるまねえ。チームにも入ってねえ。いつもひとり。単独犯でせこい悪さを繰り返してはパクられると知りもしない奴の名前をちくってばっくれようとしやがる。中坊の時にはオンナ襲ったことがばれて危うく入りかけてるって話だ。おふくろは地元のパン助でパチンコだか麻雀だかの負けが込んでてめえの娘をソープに売ったらしい。どうしようもねえ親もあったもんだよな。
したらよ、とジンが話をついだ。
その娘、リョウの姉貴とやらに、後藤がツバつけたらしくてよ。したとたん、あのリョウの野郎、いきなり幹部風吹かせてブイブイ言わせてやがるってさ。
あの野郎、とシュウジの目が暗く淀んでいる。
いずれにしろそのリョウって野郎はろくなもんじゃねえ。いずれどこかで面倒を起こす。その時にお前に関わっていてほしくねえってことなんだよ。
やめとけ、とシュウジが言った。
俺はいずれあいつとケジメをつける。あんな野郎にこのままバッチつけられたら下のものは堪らねえ。その前にぶっ潰す。
つまりそいういうことか。
あいつ、ギター弾くとか言ってたよな、とジン。
ああ、昔おふくろの男がどこぞのギタリストだったらしくてよ。ガキの頃からそのお袋の男とやらに仕込まれていたらしい。が性格があれだろ。メンバーを片っ端から〆ちまうんで人が寄り付かねえ。で、組のチンピラ使って気に入ったメンバーに脅しかけは引っこ抜くなんてザマでよ。でそのバンドとやらを若頭に取りいって芸能プロに売り込んでくれなんて頼み込んできたらしくてさ。どこまでお調子こいてやがるってよ。若頭もねえさんの手前、手を焼いいたんだがよ。
カオリっているだろ。
カオリ?あのハヤカワ・カオリか?高校で同じクラスだよ。
そいつさ、中学の時にリョウに襲われたっていうのはさ。
カオリが?リョウに?
つまりはそういうことだったのだ。これですべてがつながった。
おう、リョウって野郎にはからむんじゃねえぞ。下手をすればお前もとばっちりを食うぜ。それも今回はただじゃ済まねえ。
とばっちり?
クロカワのシャブをぎったのが実はそのリョウだって話だ。さすがに若頭もそれにはカンカンでな。姉さんがなにを言おうが今回限りは勘弁ならねえってな。息巻いているらしいぜ。
翌日、午後近くに起きてそのまま新宿に出てバンドのメンツの溜まり場に直行。3時に機材の搬入してマイクチェックを済ませ一旦溜まり場に帰って軽くコンビニの弁当を食い9時に本番で10時に終了。アンコールが2つ来て12時前に〆。箱を閉めた後の打ち上げのテーブルにハウスからジャックダニエルのボトルが一本。いつもどうもーとやっていたところ、バーテンのタツさんに呼ばれて振り返れば、そこにアラキ・ショウコが立っていた。
アラキ・ショウコ?あのアラキ・ショウコがロフトに?まるっきり似合わない、と思えば、そのアラキ・ショウコは嘗て知ったアラキ・ショウコ、つまりはあの制服を来たアラキ・ショウコとは似ても似つかないまったくの別人。
いやはや、と言った顔でタツさんが俺にウインクした。少年、あんたも隅に置けないね、とでも言ったところだ。
俺もアラキ・ショウコの姿に思わず息を飲んだ。
黒の網タイツに安全靴ならぬピンヒール。パンツすれすれの超ミニスカートの上には見るからに柔らかそうな上質の革のジャケット。その下の胸元の大きく開いたブラウスからはこれみよがしに寄せられた乳房の谷間が誇らしげに覗いている。
それはどこから見ても立派な夜の女の姿だった。
どうも、とアラキ・ショウコは言った。
ああ、どうも、と俺は思わずしどろもどろ。変われば変わるものだ。
そんなアラキ・ショウコをそのまま仲間たちのテーブルに促した。普段から俺をガキ扱いしているバンドのメンツをちょっと見返してやりたい気持ちになったのだ。
がしかし、さぞや驚いているかと見れば、メンバーはすべて妙に冷めた表情で曖昧な表情で挨拶をした後は、そのまま見てみぬふりを決め込んでいる。
宛が外れた俺が話から外されてタバコを吸っていたところ、ねえ、ちょっと話せない?とアラキ・ショウコは言った。
ああ、と俺は楽屋の裏口から続く搬入路を通ってビルの裏口に出た。
へえ、こんな抜け道があったんだ。
ファンの女の子に追いかけられた時の逃げ道、と冗談めかして笑った。
そうね、早くそうなるといいわね、とアラキ・ショウコはまるで大人の口調でそう返した。
で、返事は?って聞かれてるんだけど。
ああ、まあ、なんというか、まあ音聞いただけじゃ判らないけど、俺にはちょっともったいないって言うか。
つまり、断るってこと?
いや、まあ、つまり音聞いただけじゃ判らないけどって言ってるだけでさ。
音はどうだったの?
まあなんというか、録音が悪すぎてよく判らなかかったんだけどな。
そう、そうなんだ、とアラキ・ショウコはまじめにがっくりとした顔をして肩を落とした。
ぶっちゃけギターは良かったよ。リフ刻んでるサイドギターのカッティングはすごく良かった。でも後が悪いっていうか、ぶっちゃけそのサイドギターの音がうるさすぎて他の音がぜんぜん聞こえてこないっていうかさ。バンドのアンサンブルになってないっていうか。
つまりリョウちゃんのワンマンバンドってこと?
そう。いくらギターがうまくてもボーカルを食っちまったらバンドにならねえよな。
ボーカルが弱すぎるわよね。確かに。。
ボーカルの問題だろうか、と思った。つまりそのリョウちゃんが他のメンバーの音をまるっきり聞いていないのがそもそもの原因なのだ。
判った。貴重な意見ありがとう。
いえいえ、と俺は笑った。とそしてその時になって、なんとあのアラキ・ショウコが普通の顔をしてタバコを吸っていることに気づいた。そう、俺はそのアラキ・ショウコが、高校の同級生だということさえ忘れていたのだ。
ありがとう。リョウちゃんにそれを伝えて、その回答をまた持ってくるから。
アラキ、と俺は気を取り直して同級生の名前を呼んだ。お前、あのリョウとどういう関係なんだ?
アラキ・ショウコはそれには答えず、通りかかったタクシーに慣れた手つきで片手を上げ、そして乗り込もうとしたところを再び走り寄って来て、
ライブ最高だった。あなたのことばかり見てたの。一番格好良かった。本当に、本当に素敵だった。と言って、俺のほっぺたに赤い唇でキスを残した。
じゃね。また会いに来るから。
ああ、と俺は返事も忘れて、走り去るタクシーを見送った。
店に帰ると、何だあのオンナ、とさっきとは裏腹に露骨に眉を潜めたメンバーたちがいた。
オンナってあれ?あれは高校の同級生。
同級生?とメンバーが顔を見合わせた。
やれやれだな。
なにが?
あのオンナには近づくな。お前にはちょっと手ごわすぎる。
でも学校では普通の地味~な娘なんだぜ。俺もあんな格好してるのみて驚いたんだ。
だから、とバンマスであるヒデが言った。だからタチが悪いって言ってんだよ。お前には手ごわすぎる。関わりあいうな。ひでえ目に会うぞ。
ひでえ目って?例えば。
例えばもなにもねえ。オンナにひでえ目に会うってのはいろいろだが結果はみな同じってことだ。
よく判らねえな。
つまり、とベースのケンが面倒くさそうに声を荒立てた。
つまり、ヒモ付きのパンパンってことだよ。あのオンナは玄人さん。身体を売っている人。それもかなりの高額で売ってる人。つまりその背後にはこわーいお兄さんたちがうじゃうじゃいて、彼女のお帰りを待ちわびてるってこと。
商品に手をだしちゃダメだな。仁義に反するぜ。
うちのドラマーのエンコ飛ばされちゃあたまらねえからな。
シャブ食ってるぞ、とボーカルのミッキーがかすれた声で呟いた。
それもポンプで入れてる。無理やり射たれてんじゃねえ。てめえで射ってるってこと。つまりジャンキー。
ジャンキー?
高校のうちからシャブをてめえで射ってればまあこの先ろくなことにはならねえな。
ジャンキー?あのアラキ・ショウコが?
その後バンドの溜まり場に泊まり、そこで制服に着替えてセシルに着いたのは2時過ぎ。客はひとりも居ず、がらんとしたカウンターの真ん中でマスターが新聞を広げていた。
コーヒーをください、と俺は言った。マスターは顔もあげずに、ただ顎をしゃくった。自分で淹れろということだろう。そしてVサイン。マスターの分もということか。
サイフォンでコーヒーを入れてカップに注ぐ。ついでに受け皿も用意してお客に出すようにしてマスターに差し出したのだが、いざ自身で飲んでみると、これがまずい。粉っぽくて飲めたものではない。
やっぱりまだまだだね、と言うとマスターは美味いともまずいとも言わずにずずずずとコーヒーを啜っては新聞を読み続けている。
あのおんなまた来たぞ、とマスターはぼそりと言った。お前が来るほんのすこし前だ。今日は制服を着てたが。。あの娘、ちょっとおかしいな。
おかしいって?
この間来た奴いたろ。クロカワ君が連れてきた奴。
ああ、リョウだろ。
そいつだ。なんか似ているな、あいつらは。
似ている?
そう、なんか似ている。同じ匂いがした。
匂い?
そう。なんというか、まあ、夜の匂いだな。
夜の匂い。
お前も気をつけないとああなるぞ。そのコーヒー飲んだらさっさと学校行け。一時間でもいいから授業を受けろ。
午後も相当に遅くなってから教室に辿り着いた俺。当然のことながら仲間連中はすでにすべてばっくれた後。
話し相手のいない机で本当の本当にひさしぶりに集中して授業を受けた。
授業が終わってすぐにアラキ・ショウコのクラスを尋ねた。
ちょうど教科書とノートをかばんに詰めていたアラキ・ショウコがいた。
あら、とアラキ・ショウコはちょっと驚いた顔をした。あらためてこのすっぴんに近いアラキ・ショウコ。どう考えても昨夜と同じ人物とは思えない。一番上まできっちりと留められたシャツのボタン。その下にはあれほど見事な乳房が盛り上がっているのだ。
それを思ったとたん、再び顔が赤くなるのを覚えた。俺はどうかしている。どうもこのアラキ・ショウコは苦手だ。
昨日はどうも、とアラキ・ショウコが助け舟を出してくれた。
ああ、と俺は頭をかいた。
で、どうしたの?と小首を傾げてみせる。まさに完璧な良いところの女子高生の演技だ。いったいこのオンナはなんなのだ。どれが本物なのだ。
照れ隠しに思わず本件から切り出してしまった。
で、リョウはなんだって?
と言ったとたん、アラキ・ショウコの目が鋭く光った。
やめて、その名前はここでは出さないで。ちっと舌打ちしながら辺りを見回すアラキ・ショウコ。だがクラスメイトから、じゃね、また明日、と手を振られると、うん、じゃね、と思い切りの作り笑いを浮かべて手を振っている。そのどれもがアラキ・ショウコだった。すべて同一人物なのだ。それがこのおんなの中にはごく自然に同居している。
ねえ、もう学校で私に話しかけないでくれる?と夜の顔でアラキ・ショウコが言った。
あなたといるところを他の人に見られたくないの。いろいろと言ってくるひとがいるから。
カオリか?
アラキ・ショウコはそれに答えずにじっと俺を見つめた。
あのおんな、とアラキ・ショウコが言った。
あのおんな、いまでもリョウが好きなのよ。だからうるさいこと言ってくるの。ブスの嫉妬よね。ったくタチが悪いわ。
なんだこいつは、と俺は思わず背筋がぞっとした。まるでエクソシストだ。見ているうちに人格がコロコロと変わる。
判った、とアラキ・ショウコが言った。あんただってこんなところで眠たい話したくないでしょ?これからあたしの後ろをついて来て。下手打たないでね。誰にも気づかれちゃだめよ。
そして大きなカバンをぶら下げてアラキ・ショウコが歩き始めた。廊下ですれ違うクラスメイトにいちいち手を振り、そして教師にはぺこりと頭を下げた。
そして俺はアラキ・ショウコを追った。学校から駅までいつもの通学路を歩き、普段とは反対側のホームで逆方面の電車に乗り降りたことのない駅で降り見ずしらない駅前商店街から細い路地裏を抜けてドブ板の上を跨いで、傾きかけたトタン板の小料理屋の二階まで錆びた階段をコツコツの登った。
立て付けの悪い合板の剥がれかけたドア。薄れた表札には「劉」と書かれていた。
アラキ・ショウコは慣れた手つきでそのドアを開けると、さあ入って、と無言で俺を促した。
散らかりまくった家には確実に貧困の匂いがした。それは俺たちの溜まり場におけるあの乱雑さとは違いまさに生活臭の体積と飽和によるものだった。
波をうった畳は足で踏むたびにいまにも底が抜けそうに頼りなく、ベタベタと靴下にくっつくようだ。
汚れた食器がそのまま山になった居間と、脱ぎ散らかした服が山となった部屋を抜け、そして一番奥の部屋。閉めきった暗がりの中にアラキ・ショウコが吸い込まれた。
リョウちゃん、起きて、とアラキ・ショウコが言った。
いつまで寝てるの?もう夜だよ。
うるせえ、と毛布の中からリョウが怒鳴った。
ねえ、お客さんだよ。連れてきたよ、XX君、とアラキ・ショウコは俺の学校での名前、つまり本名で俺の名前を告げた。
よお、とベッドに大の字に寝たまま、寝起きの顔でリョウが言った。それはこの間とは違ってまさに同じ歳の少年の顔。剃り上げた眉が寧ろその幼い表情には似つかわしくない。
ベッドの端に座ったアラキ・ショウコの腰にリョウが手を回し、そのまま無造作にスカートの中に手を突っ込んだ。
やめてよ、XX君がいるのに。
かまうもんか、とリョウは言った。どうせ誰にでもやらせるくせに。いまさら誰に見られようが気にするタマかよ。
バカ、とアラキ・ショウコは言った。学校の友だちなんだよ。やめてよそういうの。
こいつな、パンパンなんだぜ。こんなカマトトぶって高校生なんかやってるけどな。学校じゃどういう顔してるかしらねえけどさ。金で身体売ってるの。パンパン。娼婦。バイタ。ビッチ。
バカ、わたし帰る、とアラキ・ショウコは言った。待てよ、とリョウが起き上がる。全裸だった。陰毛の中から寝起きの朝立ちしたペニスが頭をもたげてぶらぶらと揺れている。
リョウは逃げようとしたアラキ・ショウコの手首を掴んで強引に引っ張ると、そのままベッドの中に突き倒した。
ちょっと、XX君、悪いけど、ちょっとだけ横向いててくれる?いや、見てても良いけどさ。大丈夫、あとでちゃんと回してあげるから。心配しないで、そこで見てて。
ちょっと、やめて、やめてよ。金切り声を上げるアラキ・ショウコの口を塞いでリョウが俺をみてクスクスと笑った。
ベッドの上に立ち上がったリョウは、まるで漁師がウサギの革を剥ぐように、足首を掴んで逆さまにし、暴れるアラキ・ショウコの顔を踏んづけて、この糞オンナ、ぶっ殺すぞ、と頭を蹴りつけている。
制服のまま下だけを剥ぎ取られたまま、リョウはアラキ・ショウコの上にのしかかってそのまま強引に腰を降り始めた。アラキ・ショウコの着けていた下着。透け透けの赤いレースの下着が小さくまるまって床に落ちたスカートの上に乗っている。
ねえ、やめて、やめて、と繰り返していたアラキ・ショウコも、ここまで来てすっかり諦めたのか、そのまますすり泣きとも喘ぎ声ともつかない嗚咽に変わっていた。
ものの1分もかからぬうちに、ああ、終わった終わった、とリョウが立ち上がった。ああさっぱりした。はいお次どうぞ、とリョウは俺に言った。悪いけどそこのテイッシュ取ってくれる?
リョウは濡れたペニスをテッシュでくるんでトイレに立った。
ベッドに残されたアラキ・ショウコが、むき出しになった陰毛も隠さずに、くそっ、サイテー、と舌打ちする声が聞こえた。
ごめんね、私にもテッシュ取ってくれる?
あと、できればたばこを一本、とちょろっと赤い舌を覗かせては、もういちど、あいつ、さいてーだよね、と苦笑いを浮かべてはくすりと笑った。
トイレでTシャツとジーンズに着替えたリョウが帰ってきた。
あれ、まだしてないの?気になるようなら俺、ちょっと外でパチンコでもしてくるけど。
いや、俺も行かなくっちゃいけないし。これからリハなんだ、と俺はアラキ・ショウコを見たまま言った。
まあそう固いこと言わないで。ちんちん固くならなかった?ちょっとあっさりし過ぎたかな。
とそんなことを言いながら、ガチャガチャとカセットの山をかき回して、あったあった、とテープを突っ込んでガチりとプレイボタンを押した。
これをさ、あなたに聞かせたかったんだよ。
曲が流れ始めた。この間の糞バンドのテープかと思えば、それはストーンズ。タンブリング・ダイス。
このギター、本当に最高だよな。
確かに、そう、メインストリートのならず者。このアルバムのキース・リチャーズのギターは最高である。
こういうのをやりたいんだよ。こういうバンド。こういうのをさ。ストーンズみたいなバンドさ。
いまさらこいつはなにを言ってるのだ、と思った。
ストーンズみたいなバンドをやりたい。世界中の誰もがストーンズみたいなバンドをやりたい、と思っていながら誰一人としてできた人間はいない。
やればやるほどにその現実に気付かされる。やったことのない人間だけが、ストーンズみたいなバンドをやりたいなんて脳天気なことを言ってられるのだ。
そんな俺の気も知らずに、ストーンズやりてえよな。本当にさ。とキッチンの奥からリョウの脳天気な声がした。
はい、これ、おみやげっていうか、お近づきの印に。
と銀紙を差し出した。ビニール袋から塩の結晶を落とし、はいどうぞ、と嬉しそうにライターを渡した。
これ、シャブ?と俺は聞いた。
これ、シャブ?だってさ、とリョウは笑った。見りゃわかるだろ、シャブだよシャブ。かくせーざい。
それを聞いてアラキ・ショウコもケラケラと笑った。そっかー、カクセーザイだったのかあ、知らなかった。
人間やめますか?はい辞めます、とかね。
もう辞めてます、とっくで~す、とかさ。
ねえ、もったいないよ、とアラキ・ショウコが言った。煙で吸っちゃたらもったいないよ。もう残り少ないんだよ。もうなくなっちゃうよ。
なくなったらまたクロカワを走らせればいいさ。あの野郎、すっかりシャブ漬けになっちまいやがってさ。シャブなしじゃあ糞もできねえってよ。
その前にバンドの話をしねえか、と俺は言った。ラリる前に。俺これからリハなんだ。行かなくっちゃいけねえ。
ほら、やっぱりプロは違うよね、とアラキ・ショウコが言った。あんたもバンドやりたいならラリる前にちゃんとバンドの話しなよ。
ラリらなくっちゃバンドなんかできないだろって、とリョウが言った。キース・リチャーズを見習わなくっちゃ。おい、これやらないのか?やらないなら俺がやっちゃうよ。
ねえだったら煙でなんかやめようよ。もったいないよ、とアラキ・ショウコが繰り返した。
だったらおまえ、そんなところで転がってねえで早くポンプ持ってこいよ。
飛び起きたアラキ・ショウコがふんふんとストーンズに合わせて裸の尻を震わせながら奥に消えた。
で、どうだった?とリョウが聞いた。
どうって、なにが?まさかアラキ・ショウコのことを言っている訳じゃあるまい。
だからさ、あのテープさ。うちのバンドの。
ああ、と俺は曖昧に返事をした。ラリる前に言ってやるべきだろうと思った。
正直いって最悪だな。
やっぱりな、とリョウは実にあっさりとそう言った。
でもギターは良かったろ?とリョウは続けた。
ギターの音がうるさくてほかがぜんぜん聞こえねえって。
それを聞いてリョウがさもおかしそうにケラケラ笑った。だってギターの音以外、聞こえても聞こえなくてもおんなじだろうって。
それには答えずに俺はストーンズを聞いていた。良いバンドだな、と思った。確かに良いバンドだ。本当にこういうバンドをやりたいものだ。それは常々思っているのだが、なにをどうしたら良いのか、演ればやるほどにわからなくなる。
やっぱりな、最悪か、とリョウは繰り返した。
ふと振り返ると、そこにアラキ・ショウコが立っていた。
制服を脱ぎ、白いキャミソール一枚。太ももの上から三角の陰毛が丸見えになっていた。
なんだよお前、もう射っちまったのか?
それには答えずに、アラキ・ショウコがどさりと、ベッドの上に寝転んだ。
こいつ。。とリョウがにやりと笑う。
いかにもいい女だろ、と自慢している風だった。確かにいいオンナだった。むらむらとその薄いキャミソールを剥ぎ取りたくなった。
やるかい?とリョウがクスクスと笑った。シャブでも、こいつでも、とそんなアラキ・ショウコに顎をしゃくった。
うーん、とベッドの上のアラキ・ショウコが寝返りをうった。白い丸々とした尻が露わになり、股の間からは湿った陰毛がはみ出していた。
そんな俺をリョウがにやにやと笑って見ている。
俺のバンドを手伝えば、このオンナもシャブも嫌というほどやらしてやるよ。
バンドやる気あるのか?と俺はリョウに聞いた。
ああ、やる気はあるさ。やる気はあるんだがメンツが揃わなくてよ、と立ち上がったリョウが奥の部屋に消えていった。
俺は取り残されるようにベッドに転がったアラキ・ショウコに目をやった。
アラキ・ショウコがまた寝返りをうった。めくれ上がったキャミソールの下から形の良い小さなへそが覗いていた。
掠れた声で、ねえやらない?とアラキ・ショウコが言った。
乱れた髪のなかで目をつむって、そしてうわ言のように、ねえ、xx君、しよう、ねえ、xx君、ねえ、xx君。
アラキ・ショウコの力を失った手が、俺の膝に伸びてきた。
ねえ、お願い。一回でいいから。わたしのこと嫌い?地味だから?パンパンだから?あたし、あなたのこと好きだったの。ずっとずっと好きだったの。。ずっとずっとすごくすごく好きだったの。
その姿はあまりに悲しすぎた。
その時になって俺は始めて、この数日の間、アラキ・ショウコと恋に落ちていたことに気づいた。
ねえ、カオリがいるから?と突然真顔になったアラキ・ショウコが身を起こした。
ねえ、カオリなの?カオリとしてるの?あたしよりカオリの方がいいの?
くそったれ、とアラキ・ショウコが憎々しげに毛布を蹴った。あのオンナ、性懲りもなくまた邪魔しやがって。あのオンナ、あのオンナ、あのオンナ。
ねえ、やろうよ、と金切り声を上げてアラキ・ショウコが俺の手を引いた。ねえ、一回だけだから、やるだけだから、中に出してくれていいから、ねえねえ、なんでよ、やるだけじゃん。一発抜くだけだってば。簡単じゃない、やろうよ、ねえねえ、やろうってばあ。
亡霊のように騒ぎ続けるアラキ・ショウコに腕をひっぱられ、俺はそのまま床に膝を落とした。頭がアラキ・ショウコの胸の上に乗った。頬の下に柔らかい乳房の感触があった。
ねえ、しよ、と耳元に口を寄せてアラキ・ショウコがつぶやいた。ねえ、やろ、ねえ、やろ。
その時、いきなり頭の上からリョウが倒れこんで来た。
この糞オンナ、また性懲りもなく、俺に隠れてこそこそと。
バカ、あんたじゃない、とアラキ・ショウコが暴れた。
俺を挟んでリョウとアラキ・ショウコが揉み合いを始めた。キャミソールの下の乳房が痛いぐらいに頭に押し付けられて、ふとすると唇の先に固く尖った乳首があった。
やめて、やめてよ、あんたじゃないの、あんたじゃなくて、xx君、xx君としたいの~。
くそ、このシャブチン、入らねえよ、くそったれ、シャブチンが入らねえよ。
ようやくそんな二人から身体を起こしたと同時に、リョウが本格的に腰を降り始めていた。
バカ、どいてよ、あんたじゃないの。あんたなんか大嫌い。くそったれ、どけよ、どけってば。
うるせえ、とリョウはアラキ・ショウコの頬を張った。黙らねえと次はパンチくれるからな。
バカ、死ねばいい。あんたなんか死ねばいい。
うるせえ、シャブ中が、とリョウが言った。シャブさえ食わせれば誰とでもやるくせに。このシャブ中のやりまんが。腐れマンコのパンパンが。
ストーンズが鳴っていた。LET IT LOOSE。
外にでると世界はすっかりと夜に没していた。
買い物帰りのおばさんと、仕事帰りの人々で犇めき合う街。
電車を待ちながら駅のホームで錆臭い空気を胸いっぱいに吸い込んだ。まるで身体中に酸素が溶け込む気がした。
シャブか、と改めて思った。
俺の存在などすっかり忘れてしまったように身体を絡め始めた二人を後に部屋を出た。
正直に言えば、そんなアラキ・ショウコの裸体をいつまでも見ていたかったのだが、その先に見えている結末はすでにわかりすぎるほど判った気になっていた。
酷い目に合うぞ、といったヒデの言葉が蘇った。
オンナにひでえ目に会うってのはいろいろだが結果はみな同じってことだ。
部屋を出るまで、背中にミック・ジャガーがLET IT LOOSEと繰り返していた。
馬鹿野郎、と俺はしかしにやりと笑った。
銀紙の上に置かれたシャブ。俺はそれをちゃっかりぎってきていたのだ。
LET IT LOOSE。
ヒデの言うとおりだ。確かに、俺には少々手ごわすぎたな。
ALL DOWN THE LINEが始まる前にこの部屋を出ようと思った。
そして追われるように部屋を出た。
その後、リョウが逃げていることをシュウジから聞いた。
逃げようたって逃げ切れるものじゃないんだけどな。世界中どこに逃げたって逃げ切れるもんじゃねえってことが判ってないのかな。
オンナは?と俺は聞いた。
オンナ?おんなって?
だからリョウのオンナさ。
さあな、オンナの話は聞いちゃいないな。
それを聞いて心底安心した。
卒業式には出なかった。ギグが重なったこともあり、それよりも面倒くさかったのだ。心はすでに高校から遠く離れてしまっていたし、ろくに出席さえしなかったのに卒業式を素直に喜ぶことに後ろめたさがあったのだ。卒業式に出ないことこそが俺のケジメという気がしていたのだ。
がしかし、世間はそういうわけにはいかない。
学校から連絡があり、卒業証書を取りに来るようにと告げられた母親がまた例によってヒステリーを起こした。
さすがにやばいと思ったのか、アキラの部屋を訪れた姉貴から地元のダチに伝言が回され、そして俺のところに知らせが届いた。
卒業証書を学校に取りに来いとのこと。
俺はその時にたまたま居合わせた極東xx会のアキさんと一緒で、そのアキさんが幹部から預かったフィアットを乗り回しているところだった。
だったらついでに、と学校を訪れ、校庭から職員室の目の前までフィアットを乗り付けた俺達は、これみよがしに廊下に痰を吐きながら土足で職員室に向かった。
ドアを開けたとたん職員室が騒然とした。悲鳴を上げて逃げまわる教師もいた。殴りこみだ、と叫んでいる奴までいた。
まったくだな、となんとかアキさんが薄く笑った。
まったくだね、と俺はそんなアキさんと顔を見合わせて、そして二人して肩をすくめた。
ちょっと悲しくなった。
それはアキさんにしても同じだったかもしれない。
いの一番に逃げ惑っていた担任の教師が、他の教師から背中を押され、そして投げるように卒業証書を渡した。
読まなくていいのか?名前を呼んだりとかさ、とアキさんが教師に言った。
いちおう、俺の大切な弟分の、記念すべき卒業式なんだ。ちょっと遅れたけどな。高校ぐらい出してやりたかった。立派なもんじゃねえか。お祝いの言葉ぐらいかけてやっても罰は当たらねえだろう。
いや、あの、と教師はいまにも膝が砕けそうなぐらいに怯えきっていた。
いこう、もうこんなところに用はねえよ。
そして俺達は思い切り肩を揺すりながら学校を後にした。
さらば高校時代。さらば青春の日々。
ゴメンね、と俺は素直にアキさんに言った。
良いってことよ、とアキさんは俺の肩を抱いてくれた。
なぜか無性に涙がこみ上げてきた。なぜか無性に。。
その後、フィアットでさんざん校庭を走り回った。
砂埃を舞い上げてドリフトとスピンを繰り返してはゲラゲラと笑ってやった。
ふたりとも顔中が埃で真っ白になった。目尻にだけは黒い筋が残った。
あの時、そう言えばアラキ・ショウコはどうしたのだろう、と思った。あの娘は卒業できたのだろうか。まさかあのままリョウと一緒に逃げたわけではあるまい。ちょっと職員室に戻って聞いてみようかとも思ったが、それこそ警察を呼ばれるだろうと思っててやめにした。
あれからアラキ・ショウコには会っていない。
リョウがばっくれた後、あの娘はいったいどうしたのだろう。
シュウジからも高校時代の仲間からも、アラキ・ショウコの噂は一切聞かない。
大学に進学したのだろうか、あるいは二人で一緒に逃げ回っているのだろうか。
どういうわけだか、カオリは俺とリョウとそしてアラキ・ショウコとのことを知っていた。
誰が話したのだろう。あるいはオンナの勘というやつか。
そしてリョウと、そしてアラキ・ショウコのことをこれでもかというぐらいに教えられた。
聞けば聞くほどにかわいそうな奴らだった。あなたとは違う、と言ったアラキ・ショウコの言葉の本当の意味がそれで理解できた。
そしてアラキ・ショウコが、そんな違う世界に足を踏み込んでしまった理由はなんだったのだろう。
あのオンナはずっと淫乱だったの。子供の頃からずっと。
お父さんとしてるって噂があってさ、お母さんが出ていったのもそれが理由だった噂だった。
お父さんの子供ができちゃったんだって。
絶対誰にも言っちゃだめって言われてたけど、私の地元で知らない人なんていなかったわ。
だから地元の高校にいけなかったのよ。
そういうことも、私と同じ、なんだけどさ。
幼いころに両親の離婚したカオリは、そんなアラキ・ショウコの不幸な生い立ちについて、
おやじとも父親とも言わず、おとうさんと言った。
カオリにはカオリで色々あるのだな、と思った。
そしてその後、俺の身にもいろいろなことが起こった。
いくつものバンドを掛け持ちし、女から女へと渡り歩き、
そして、日本から転げ落ち、アジアのドブの底から、
そしていつしか、アメリカ合衆国。
何度も死にかけ、何度も死んだほうがましだという最悪の経験をさせてもらった。
そんな長い旅の中で、そしてそんな俺の記憶の中に、いまになってもこのふたり、
リョウとアラキ・ショウコと絡んだたった一週間の出来事がなぜか克明に刻み込まれている。
そして俺はリョウに言いそこねた言葉をいまも繰り返していた。
キース・リチャーズがすごいのは、らりっていたからじゃない。
どんなにらりっていても、音楽を忘れなかった、ということがすごいのだ。
その凄さは、後に俺自身がヤクにはまった時に心の底から思い知らされることになった。
酩酊の底を漂いながら、こんな状態になっても音楽を忘れなかったキース・リチャーズという人はいったいどんな人だったのだろう、と考え続けた。
ああ、俺もリョウと同じだ。アラキ・ショウコが居ない分、それよりも格下だ。
こうして人生を経て、ろくでもない経験を積めば積むほどに、キース・リチャーズという人の凄みに気付かされることになった。
そしていまも、すでに中年期にどっぷりと足を踏み入れたこの歳になっても、あの時のアラキ・ショウコの姿が目に浮かぶことがある。
かみさんが里帰りをした一人寝の夜、いつも決まってあの時のアラキ・ショウコの姿がありありと浮かんで来るのだ。
あの時、アラキ・ショウコを抱かなかったことを、俺は多分一生後悔していくだろう、と思っている。
それはまさに、刻印のように、俺の胸の内に刻み込まれたまま、色褪せることはない。
LET IT LOOSE
キース・リチャーズのあの不敵な笑顔に、なぜかアラキ・ショーコのあの可憐な姿が、重なりあって見えてきたりもするのである。
♪

いきなりの大快晴で途方に暮れる
「憲法9条」がノーベル平和賞候補に」
「憲法9条」がノーベル平和賞候補に」
ノーベル賞が果たして良いか悪いかは別として、
いやはや、
世の中には色々なことを考え付く人がいるのだなあ、
と関心させられる。
そういうものに限って、なぜこれまで考え付かなかったのかな、とも思う訳だが、
まさに、拍手拍手。
この発想そのものがまさにノーベル賞なみである。
「勇ましいことを言う前に」
近頃なにを勘違いしたか、どうにもわりと簡単に「戦争」なんてことを口にする輩がいるやうだな。
言わせて貰えばそういう人々は、いったいこの「戦争」というものにどんなイメージ、あるいは知識があって「戦争」なんてことを口にしているのだろう。
俺から言わせれば戦争とは、まさに暴力だ。極限の暴力だ。
血と砂と汗と涙と涎と鼻水と、時として汚物や内蔵にまみれたこの世でもっともむごたらしくもこ汚ない、思わず目を背けて胃の中のものをすべて吐き出してしまうような、つまりはリア充どころか、まさに有機体としての人間のリアルさの塊である。
そこには夢やロマンや格好良さなんてみじんもない。
あるのは、恐怖と狂気、それだけだ、と断言できる。
言わせてもらえば、世界中を歩いてきたが、日本人ほど夢見がちで弱々しい、
つまりは、そんな「戦争」のイメージとかけ離れた人々は他に例をみない。
戦争とは、日本人の大好きなアニメの世界とはもっともかけ離れた世界だと言い切れる。
そんなアニメなんていう幼稚な世界に耽溺して育ってきた現実逃避型、意志薄弱の幼児体質のとっちゃん小僧たちを量産してしまった日本という国。
つまり、日本人は世界でも並外れてダントツに「ケンカの弱い」国民である、といのが俺の絶対的な確信。
賭けても良い。
アニメなんてものに浸って育ったおたく世代の日本人は、一度戦場なんてところに行ったが最後、まともな神経を保っていられるものは、一人もいない、と言い切れる。
3キロも離れたところで響くズーンという爆音が腸に響いた時点で、
いやだいやだ、帰る帰るおうちに帰る、と泣き叫び始める筈である。
窓の外でガンガンガンガンと響く機関銃の音を聞いただけで、
あれ、もしかして本物?と膝が笑いはじめてまともに立っていることさえもできなくなる筈である。
ゲームと違って本ちゃんの戦争は不快なことばかりだ。
手にするものはなにからなにまで徹底的に重くごつい。
一発弾いただけで鼓膜が破けるどころかしばらく耳鳴りでなにも聞こえない。
砂埃が顔中に吹き付けて始終目が痛くて口の中はじゃりじゃり。
なにか判らないが咽るような悪臭に満ち満ちていて咳き込んでばかり。
そしてゲームと違って当然のことながらほんちゃんの弾丸は当たれば死ぬ。
一発で死ねればよいが大抵の弾丸は軌道を外れてそこら中を跳ねまわっている。
そんな迷い弾丸は当たったが最後、身体を引き千切って、それはとてもとてもとても痛い。
そして負傷者は、その後の断末魔をその引きちぎられた身体を引きずって生き延びなければならない。
つまりそれは、ゲームとは違う。
あるいは、その静かに閉ざされた安全な密室とはもっともかけ離れた世界である訳だ。
そんな中で育ってきた人々が、まさか「戦争」だなんて。。
日本人はそんなことを安易に口にしてしまえるほど、
それだけ「戦争」に対してリアリティのない、
つまりはまさに世界中のどの民族と比較しても、
ダントツ且つ徹底的にか弱い、まさに世界最弱の民族なのだ。
言わせて貰えばそういう人々は、いったいこの「戦争」というものにどんなイメージ、あるいは知識があって「戦争」なんてことを口にしているのだろう。
俺から言わせれば戦争とは、まさに暴力だ。極限の暴力だ。
血と砂と汗と涙と涎と鼻水と、時として汚物や内蔵にまみれたこの世でもっともむごたらしくもこ汚ない、思わず目を背けて胃の中のものをすべて吐き出してしまうような、つまりはリア充どころか、まさに有機体としての人間のリアルさの塊である。
そこには夢やロマンや格好良さなんてみじんもない。
あるのは、恐怖と狂気、それだけだ、と断言できる。
言わせてもらえば、世界中を歩いてきたが、日本人ほど夢見がちで弱々しい、
つまりは、そんな「戦争」のイメージとかけ離れた人々は他に例をみない。
戦争とは、日本人の大好きなアニメの世界とはもっともかけ離れた世界だと言い切れる。
そんなアニメなんていう幼稚な世界に耽溺して育ってきた現実逃避型、意志薄弱の幼児体質のとっちゃん小僧たちを量産してしまった日本という国。
つまり、日本人は世界でも並外れてダントツに「ケンカの弱い」国民である、といのが俺の絶対的な確信。
賭けても良い。
アニメなんてものに浸って育ったおたく世代の日本人は、一度戦場なんてところに行ったが最後、まともな神経を保っていられるものは、一人もいない、と言い切れる。
3キロも離れたところで響くズーンという爆音が腸に響いた時点で、
いやだいやだ、帰る帰るおうちに帰る、と泣き叫び始める筈である。
窓の外でガンガンガンガンと響く機関銃の音を聞いただけで、
あれ、もしかして本物?と膝が笑いはじめてまともに立っていることさえもできなくなる筈である。
ゲームと違って本ちゃんの戦争は不快なことばかりだ。
手にするものはなにからなにまで徹底的に重くごつい。
一発弾いただけで鼓膜が破けるどころかしばらく耳鳴りでなにも聞こえない。
砂埃が顔中に吹き付けて始終目が痛くて口の中はじゃりじゃり。
なにか判らないが咽るような悪臭に満ち満ちていて咳き込んでばかり。
そしてゲームと違って当然のことながらほんちゃんの弾丸は当たれば死ぬ。
一発で死ねればよいが大抵の弾丸は軌道を外れてそこら中を跳ねまわっている。
そんな迷い弾丸は当たったが最後、身体を引き千切って、それはとてもとてもとても痛い。
そして負傷者は、その後の断末魔をその引きちぎられた身体を引きずって生き延びなければならない。
つまりそれは、ゲームとは違う。
あるいは、その静かに閉ざされた安全な密室とはもっともかけ離れた世界である訳だ。
そんな中で育ってきた人々が、まさか「戦争」だなんて。。
日本人はそんなことを安易に口にしてしまえるほど、
それだけ「戦争」に対してリアリティのない、
つまりはまさに世界中のどの民族と比較しても、
ダントツ且つ徹底的にか弱い、まさに世界最弱の民族なのだ。
いやいや、そんなことはない、と誰かが言うかもしれない。
空手はどうだ、K1はどうだ、とまた夢の続きのようなことをのたまうかもしれない。
行っておくが、どんなに鍛え上げても、筋肉は金属には勝てない。
いくら気合を込めて、アチョ~とやってみても、馬鹿かお前は、でいきなりパーン!
その一瞬ですべては終わり、実に簡単なものだ。
或いは、少なくとも日本を一歩でも離れてみれば、日本人の考える「戦い」の概念などは一切に通用しない。
用意、初め、で始まるサシの勝負、あるいは、レフリーを挟んだ正々堂々した戦いなど、この世のどこに存在すると言うのか。
そもそも喧嘩=素手でサシの勝負、なんて概念を残したバカはこの世にはどこにもない。
何するんだこのやろう、言ったとたんに、ほらよ、とタバコでも出すようにチャカを取り出したり、
あるいは、てめえこのやろう、の一言も言えぬうちにいきなり背後からブスリ。
しかもそんな奴らが、ビビるどころか、へらへら笑っていたりもする訳で、つまりはその度量があまりにも違いすぎる。
ケンカ慣れ、というよりはまさに、人間狩り、つまりは殺人に精通した連中が満ち満ちている訳である。
それに加えて、我が日本人、平和主義だか民主主義教育だかなんだか知らないが、
子供の頃から、一度も戦い、というか、取っ組み合い、もしくはプロレスごっこに至るまでの、
そういう男の子の遊びを一切取り上げられて育ってしまった者ばかり。
外で運動もせずに部屋に篭ってゲームばかり。
その後は箸にも棒にもひっかからない受験勉強、つまりは塾通い、なんて、いうのが始まる訳で、
生まれてこのかた一度もまともに運動したことがない、なんていう、まさに未熟児の虚弱児童的にまでひ弱な人間が、
できるとしたらまさに、集団でのいじめ、ぐらいなものであろう。
そんなみっともない虚弱児の群れは、世界中どこをさがしても日本にしかいない、と断言できる。
ちなみに俺はこれまで、世界のそこかしこにおいて、
例えば小学生の低学年のようが鼻たれのガキがAKを振り回していたり、
それどころか、幼稚園生のような子供、それも女の子が、
無駄に馬鹿でかい軍用コルトを、おもちゃがわりにずるずると地べたを引きずって歩いていたり、
あるいは、車から出た腕をナタの化け物のような山刀で切り落とされそうになった、
なんていう、実にハードコアな風景を何度も見てきている。
そんな世界の常識をまったく知らない、どころか、縁もゆかりもなく、
想像さえもできないような平和な国のいたいけな羊たち、
あるいはロボトミーのような人々の口から、
まさかよりによって「戦争」なんていう勇ましい言葉が聞かれるなんて・・・
まさに、冗談を通り越して、ただたんに絶句。ただの妄想としか考えようがない。
繰り返すが、戦争の本質とは暴力である。
暴力のもっとも原始的なものはつまりは喧嘩。殴り合い。
一度でも殴り合いをしたことのあるやつなら判るとは思うが、当然のことながら、人に殴られれば痛い。
そして、殴った方ももちろん痛い。
ヘタをすれば、殴った方が指の骨を折る、なんてこともあって、つまりは、喧嘩は、やってもやられても痛いのだ。
がしかし、そんな痛いですむ喧嘩をしているような人々はまだ稀。
世界には、始まったが最後、殺す、ことを前提とした喧嘩を数限りなくこなしてきた喧嘩屋がごまんといる。
そんな連中は、もう殴り合いなんてものは子供の頃から日常茶飯事過ぎて、度胸があるない以前にまさに朝飯前。
ハナから素手で、あるいは、サシで、喧嘩をしようなどとバカなことはこれっぽっちも考えてはいない。
最初のタンカ、どころか、いきなり、ハエでも叩くように腹に向けて石を投げつけて来たり、あるいは始まったとたんにさも当然のことのようにまずはナイフを抜く。
あるいは、わざとちょろそうに見せかけて逃げまわり、仲間のいるところに誘いこんでは、四方八方からバットで滅多打ち。
これが日本を一歩でも離れたところで展開しているストリートの常識だ。
そう、ひとたび文明の加護を飛び出した途端、つまりは世界はそんな感じなのである。
ちゅうわけで、なんだ、どこぞの公家面が聞いたようなことを抜かす前に、
それをよく、考えてから、勇ましいことを言った方が良いのではないかな、と俺からの細やかなご忠告。
あ、そう、ついでに、とここでまたまた俺自身のバカ自慢を披露したい。
それまで、世界中の至る所で危ない目には遭いながら、寸手のところでどういう訳かいつも生き延びて来た俺。
つまりそう、俺は地雷を踏まないように生まれついているのかな~なんてバカなことを考え始めていたのではあるが、
かの中米の裏通り、現地の奴らからは絶対に絶対に絶対に近づいてはいけない!と言われていたいわくつきのスラム街。ゲットーのその底の底。
なあに、大丈夫大丈夫、俺は地雷を踏まない星の元に生まれついている訳で、これまで世界中どこにいっても全然大丈夫だったから、そう、だからここのきっとだいじょうぶ、とバカ面下げて足を踏み入れた途端、
いきなり後ろから、HOLA、AMIGO! こんちわ、と声をかけられて、はいはい、どうもどうも友達、アミーゴとやった途端、いきなり後頭部をがつーんとそれはそれはきついきつい一撃。
思わず目の前に星がちーかちか、とやっている最中から、四人五人と湧いてきた連中に手足を掴まれて羽交い締めにされたまま、ボタ糞のサンドバッグ状態。
右左のストレートからフックからアッパーカットまで、代わる代わるもう好き放題にぶん殴られて、そのパンチの重いこと重いこと。
あの日本のチンピラーズの、まるでハエの止まるような、殴ったとたんにくしゃっと手首が折れてしまいそうな、そんな猫パンチとは訳が違う。
まさに、相手を殴り殺そうとするパンチ、そのもの。加減というものが一切見られない。
ものの三分と立たないうちに、けっちょんけちょん、どころか、ごみ袋のようになるまでぶちのめされて、持っていたものは一切合切ぶん取られ、頭ぐらぐら、目の前に星がちーかちか、ながら、カウントをされるボクサーそのもので、なんとか立とうとはするのだが、右へゆらゆら左へゆらゆら、膝が抜けてしまったみたいに、どうしてもどうしてもまっすぐに立てない。
ああ、これはもう完全に死んだな、とは思いながら、もうディフェンスどころか、殴られているのも蹴られているのも感覚がなくなってきた俺を、年端のいかない鼻たれのガキまでもが寄ってたかって蹴りつけては踏んづけてとやりたい放題である。
くそったれと思いながらもう身体は指一本も動かない。動かない動かない、と思いながら意識が遠のくばかり。
でふと気を取り直してみれば道の真ん中に見事に大の字。
なんの幸運か、骨の一本も、歯の一本も折らずにまたもおめおめと生き残こってしまったことを悟った訳だ。
これは奇跡だ、やはり俺は神様に愛されている、と思ったのもつかの間、
やれやれ、とずったらやってきた酔っ払ったおまわりに言われたことは、と言えば、
まあ、お前を見て、まじめに喧嘩をしようってやつもいないだろう。
この間、アメリカ人のごついのは、殴られるどころか、振り返る前に、パーンと一発で脳みそ撒き散らして終わりだったしな。
つまり、お前は、弱すぎたから助かったのだ。思い切り弱そうに生まれついたことを神様に感謝しなさい。
おおおお、つまりそう、そういうことなのであった。
俺は弱すぎたから、これまで生き残ってこれたのだ。別に神様に愛されていたからでも俺の気合が通じたわけでもなんでもない。
俺ほど弱そうな、そして実際弱い奴は、世界にもほとんど類を見ない、ということなのだろうとその時始めて悟った訳だ。
がしかし、それはそれで、才能、つまりは能力だろう、とも思ったが、そう気づいたとたんに、さすがに勇ましい振りをすることがなんとも恥ずかしくなったことは言うまでもない。
という訳で、あらためて、声を限りにしていいたい。
暴力反対!戦争も反対!
空手はどうだ、K1はどうだ、とまた夢の続きのようなことをのたまうかもしれない。
行っておくが、どんなに鍛え上げても、筋肉は金属には勝てない。
いくら気合を込めて、アチョ~とやってみても、馬鹿かお前は、でいきなりパーン!
その一瞬ですべては終わり、実に簡単なものだ。
或いは、少なくとも日本を一歩でも離れてみれば、日本人の考える「戦い」の概念などは一切に通用しない。
用意、初め、で始まるサシの勝負、あるいは、レフリーを挟んだ正々堂々した戦いなど、この世のどこに存在すると言うのか。
そもそも喧嘩=素手でサシの勝負、なんて概念を残したバカはこの世にはどこにもない。
何するんだこのやろう、言ったとたんに、ほらよ、とタバコでも出すようにチャカを取り出したり、
あるいは、てめえこのやろう、の一言も言えぬうちにいきなり背後からブスリ。
しかもそんな奴らが、ビビるどころか、へらへら笑っていたりもする訳で、つまりはその度量があまりにも違いすぎる。
ケンカ慣れ、というよりはまさに、人間狩り、つまりは殺人に精通した連中が満ち満ちている訳である。
それに加えて、我が日本人、平和主義だか民主主義教育だかなんだか知らないが、
子供の頃から、一度も戦い、というか、取っ組み合い、もしくはプロレスごっこに至るまでの、
そういう男の子の遊びを一切取り上げられて育ってしまった者ばかり。
外で運動もせずに部屋に篭ってゲームばかり。
その後は箸にも棒にもひっかからない受験勉強、つまりは塾通い、なんて、いうのが始まる訳で、
生まれてこのかた一度もまともに運動したことがない、なんていう、まさに未熟児の虚弱児童的にまでひ弱な人間が、
できるとしたらまさに、集団でのいじめ、ぐらいなものであろう。
そんなみっともない虚弱児の群れは、世界中どこをさがしても日本にしかいない、と断言できる。
ちなみに俺はこれまで、世界のそこかしこにおいて、
例えば小学生の低学年のようが鼻たれのガキがAKを振り回していたり、
それどころか、幼稚園生のような子供、それも女の子が、
無駄に馬鹿でかい軍用コルトを、おもちゃがわりにずるずると地べたを引きずって歩いていたり、
あるいは、車から出た腕をナタの化け物のような山刀で切り落とされそうになった、
なんていう、実にハードコアな風景を何度も見てきている。
そんな世界の常識をまったく知らない、どころか、縁もゆかりもなく、
想像さえもできないような平和な国のいたいけな羊たち、
あるいはロボトミーのような人々の口から、
まさかよりによって「戦争」なんていう勇ましい言葉が聞かれるなんて・・・
まさに、冗談を通り越して、ただたんに絶句。ただの妄想としか考えようがない。
繰り返すが、戦争の本質とは暴力である。
暴力のもっとも原始的なものはつまりは喧嘩。殴り合い。
一度でも殴り合いをしたことのあるやつなら判るとは思うが、当然のことながら、人に殴られれば痛い。
そして、殴った方ももちろん痛い。
ヘタをすれば、殴った方が指の骨を折る、なんてこともあって、つまりは、喧嘩は、やってもやられても痛いのだ。
がしかし、そんな痛いですむ喧嘩をしているような人々はまだ稀。
世界には、始まったが最後、殺す、ことを前提とした喧嘩を数限りなくこなしてきた喧嘩屋がごまんといる。
そんな連中は、もう殴り合いなんてものは子供の頃から日常茶飯事過ぎて、度胸があるない以前にまさに朝飯前。
ハナから素手で、あるいは、サシで、喧嘩をしようなどとバカなことはこれっぽっちも考えてはいない。
最初のタンカ、どころか、いきなり、ハエでも叩くように腹に向けて石を投げつけて来たり、あるいは始まったとたんにさも当然のことのようにまずはナイフを抜く。
あるいは、わざとちょろそうに見せかけて逃げまわり、仲間のいるところに誘いこんでは、四方八方からバットで滅多打ち。
これが日本を一歩でも離れたところで展開しているストリートの常識だ。
そう、ひとたび文明の加護を飛び出した途端、つまりは世界はそんな感じなのである。
ちゅうわけで、なんだ、どこぞの公家面が聞いたようなことを抜かす前に、
それをよく、考えてから、勇ましいことを言った方が良いのではないかな、と俺からの細やかなご忠告。
あ、そう、ついでに、とここでまたまた俺自身のバカ自慢を披露したい。
それまで、世界中の至る所で危ない目には遭いながら、寸手のところでどういう訳かいつも生き延びて来た俺。
つまりそう、俺は地雷を踏まないように生まれついているのかな~なんてバカなことを考え始めていたのではあるが、
かの中米の裏通り、現地の奴らからは絶対に絶対に絶対に近づいてはいけない!と言われていたいわくつきのスラム街。ゲットーのその底の底。
なあに、大丈夫大丈夫、俺は地雷を踏まない星の元に生まれついている訳で、これまで世界中どこにいっても全然大丈夫だったから、そう、だからここのきっとだいじょうぶ、とバカ面下げて足を踏み入れた途端、
いきなり後ろから、HOLA、AMIGO! こんちわ、と声をかけられて、はいはい、どうもどうも友達、アミーゴとやった途端、いきなり後頭部をがつーんとそれはそれはきついきつい一撃。
思わず目の前に星がちーかちか、とやっている最中から、四人五人と湧いてきた連中に手足を掴まれて羽交い締めにされたまま、ボタ糞のサンドバッグ状態。
右左のストレートからフックからアッパーカットまで、代わる代わるもう好き放題にぶん殴られて、そのパンチの重いこと重いこと。
あの日本のチンピラーズの、まるでハエの止まるような、殴ったとたんにくしゃっと手首が折れてしまいそうな、そんな猫パンチとは訳が違う。
まさに、相手を殴り殺そうとするパンチ、そのもの。加減というものが一切見られない。
ものの三分と立たないうちに、けっちょんけちょん、どころか、ごみ袋のようになるまでぶちのめされて、持っていたものは一切合切ぶん取られ、頭ぐらぐら、目の前に星がちーかちか、ながら、カウントをされるボクサーそのもので、なんとか立とうとはするのだが、右へゆらゆら左へゆらゆら、膝が抜けてしまったみたいに、どうしてもどうしてもまっすぐに立てない。
ああ、これはもう完全に死んだな、とは思いながら、もうディフェンスどころか、殴られているのも蹴られているのも感覚がなくなってきた俺を、年端のいかない鼻たれのガキまでもが寄ってたかって蹴りつけては踏んづけてとやりたい放題である。
くそったれと思いながらもう身体は指一本も動かない。動かない動かない、と思いながら意識が遠のくばかり。
でふと気を取り直してみれば道の真ん中に見事に大の字。
なんの幸運か、骨の一本も、歯の一本も折らずにまたもおめおめと生き残こってしまったことを悟った訳だ。
これは奇跡だ、やはり俺は神様に愛されている、と思ったのもつかの間、
やれやれ、とずったらやってきた酔っ払ったおまわりに言われたことは、と言えば、
まあ、お前を見て、まじめに喧嘩をしようってやつもいないだろう。
この間、アメリカ人のごついのは、殴られるどころか、振り返る前に、パーンと一発で脳みそ撒き散らして終わりだったしな。
つまり、お前は、弱すぎたから助かったのだ。思い切り弱そうに生まれついたことを神様に感謝しなさい。
おおおお、つまりそう、そういうことなのであった。
俺は弱すぎたから、これまで生き残ってこれたのだ。別に神様に愛されていたからでも俺の気合が通じたわけでもなんでもない。
俺ほど弱そうな、そして実際弱い奴は、世界にもほとんど類を見ない、ということなのだろうとその時始めて悟った訳だ。
がしかし、それはそれで、才能、つまりは能力だろう、とも思ったが、そう気づいたとたんに、さすがに勇ましい振りをすることがなんとも恥ずかしくなったことは言うまでもない。
という訳で、あらためて、声を限りにしていいたい。
暴力反対!戦争も反対!

いじめ産業
例のSTAP細胞騒動ではないが、
日本中を狂気のように「いじめ産業」が蔓延しているようだ。。
誰もが気づいているだろう。
これはいじめだ。魔女狩りという言葉もあるが、魔女狩りというとどこか仰々しい。
これはただたんに、いじめだ。そしてそれを煽っているのは、そんないじめで金を儲けようとするいじめ商法、つまりはマスゴミである。
マスゴミが人々の狂気を煽ってはいじめを囃し立て、日本中が嬉々として踊らせている。
つまりこれは、あきらかな大衆扇動なのだろう。
しかしその目的は政治ではない。つまりは、金だ。
金が儲かれば、正義や、常識などどうでもよい、という、恐ろしく民意の低い連中のしかける、
まさに、大衆扇動、つまりは、騒動士たちの狂騒である。
誰もが誰かをいじめたくてうずうずしている。
どこから持ってきたのか正義の旗印を免罪符に、どこかの誰かを、徹底的にいじめ抜く。
そして誰かが、その欲望に油を注いで金を設ける。
今回のこの騒動。
俺はなにも、小保方という若い科学者が、良いの悪いのと言うつもりはない。
美人というが、俺はそうは思わない。
そうは思わない若い研究者が、美人美人と囃し立てられているのを見て、
バカかこいつら、とは思っていた。その報道の仕方に毎度ながらちょっと苛立ちを覚えもした。
だが、科学にはまったく知識のない俺も、彼女の発表したSTAP細胞なるものがもし本当だとしたら、
それはそれでとてもよろしいものだ、ぐらいのことは理解できた。
彼女が美人であろうがなかろうが、そういう素晴らしい物を人類が発見した、というニュースは悪い訳がない。
俺が苛立ったのはその報道姿勢に、である。
ニホンジンの、若い、美人の、科学者が、世界を、揺るがす、大発明を、した。
すべてのキーワード、その看板にわざとらしいヤラセの匂い、つまり出来レースの匂いがした。
がしかし、俺はアメリカ人である。その日本語の文法を敢えて逆さに読む。
つまり、まずは大発見が先。そして、誰が、その誰が、どうで、どうだ。
つまり、枝葉は後だ。どうでもよい。
へえ、よく判らないが凄いじゃないか。日本の若い奴らもなかなかやるものだな。これで世の中がもっともっと良くなってくれればよいな。
がしかし、そんな大発明をした偉大な科学者の、その枝葉ばかりに注目を集めさせようとするマスゴミの姿勢、美人だの若いのだ、との俄かアイドル扱いに、ことの本質、つまりその発明の可能性について、つまり俺の一番知りたかったことはまさに最後の最後、あるいは欄外。まったく日本のマスゴミはどこまで読者を馬鹿にしているのだろう、と辟易し、そして嫌な予感がしていた。
それがしばらく日本のニュースから遠ざかっている間に、いきなりの豹変である。
あの美人で若い科学者の言ったことはすべて嘘だった。どうしようもない魔女だ。血祭りに上げてやれ。
馬鹿か。血祭りにあげられるのはお前らマスゴミであり、それに踊らされたバカな民衆の方だろうが。
少しは恥を知れ、と自重でもしているのかと思えば、いまやその科学者はすっかり民衆の敵、扱いである。
いや、だから、と思う。
間違いがあったのならその間違いを正して、みんなでそのSTAP細胞とやらの解明を急ごうじゃないか、と誰も考えていないのか?
どこの世界にも競争はある。
これまで三十年間、独房のような研究所に篭もり続けて、日の当たることのなかった研究者たちを、いきなりそんな華やかなお嬢様が出し抜いた、とあれば、それなりの嫉妬を感じるだろうことも理解はできる。
そんな人々が、実は彼女の論文に不備があった、と知れば、まるで鬼の首を取ったような気にもなるだろう、
がしかし、その根本にあるのは嫉妬だ。そして嫉妬は恥だ。それもいい男が嫉妬を気取られることほど男を下げるものはない
なんと醜悪な奴らだ、と誰もが思うだろう。
おいおい、日本の科学者ってのはみんなこんなのかよ。
ちょっとまともな奴らが、片っ端から海外の研究所に引っこ抜かれてちまうのも判るよな、とも思った。
つまりこれは、いじめである。明らかないじめである。
体育界のいじめ問題。
その無益な根性主義が、若い才能を片っ端からぶっ壊していしまっている、とつい最近話題になったばかりではないか。
そんな根性主義に子どもたちが付き合わなくなったのは、子どもたちに根性がなくなったというよりは、その根性主義が実は間違っている、という正しい情報を得ているからだろう。
間違えた上司、あるいは無能な指導者から、どう考えても納得出来ないことを押し付けられることほど無力感を感じることはない。
自分を含めて、自分の属する世界の底が開けてしまう。所詮、俺はこの程度か。。。
つまりはこの日本すべてを狂騒させるSTAP騒動も、騒いでいるバカどもは差し置いて、まじめに自身の将来を考えている若者たちは、つくづくこんな国に見切りを付けてしまう筈だろう。
事実、俺はそんな狂騒を外から眺めながら、ああ、日本という国を出て本当に良かった、と思っているのだから。
その次から次へと繰り返されるいじめ狂騒。
最近の日本のマスゴミの扱うニュースのほとんどがこのいじめ狂騒を目的としては、新たなる標的、つまりは飯の種を探しまわっている姿勢がみえみえだ。
そんなエンドレスの魔女狩りにいちいちああだこうだと目くじらを立てている人々。
つまりこれは、立派な産業、つまり銭設け。いじめ産業。日本中をいじめ産業が蔓延しているのだ。
それに本気で踊らされている奴はまあ知恵足らずなのだから仕方がないのだろうが、そんな知恵足らずに標的を合わせ、そしてそんな知恵足らずばかりを大量生産、大量洗脳しようとするその姿勢。こいつら本気で国を滅ぼすつもりか。日本のマスゴミこそが国賊だ、などと偉そうなことを言うつもりはないが、明らかに不快である。
誰もがわかっているだろう。
この若い研究者が食らっているこのいじめの、まったく同じパターンがそこら中の会社で見て取ることができる筈だ。
やる気と情熱と才気にあふれた若手が、老害たちにいじめ抜かれ、その成果をかすめ取られていく。
がしかし、若手だってもう馬鹿じゃない。
そういう「けじめ」やら「指導」にはいはい、と応えながら、その教育の根底が、醜悪な嫉妬と強欲から来ていることを知り抜いている筈だ。
そうやって、仕事を干され、売上をネコババされるやり手営業マン、あるいは技術者、あるいは中間管理職。
そしてそういうまだ仕事に情熱を感じている人々を、合理化、やら、リストラやらを理由に、一切合切を血祭りに上げていった会社という組織。
そしてそんな合理化やらリストラやらを始めた会社が、そういう会社の方針にうまく迎合した首切り人たちが、会社中をシロアリのように食い荒らし、そしてその後、なにが起こったか、いまとなっては誰もがその目で見ている筈だ。
こいつらにはまだ判らないのか、と思う。
これはいじめだ。日本中をいじめが食い荒らし、その狂騒の中で、本当にすぐれた奴はすべてさっさと逃げ去ってしまう。
そこかしこの会社で起こっているその自体が、日本中でも巻き起こっている訳で、そんな異常な状況に巻き込まれている人々が、そうとは知らずに、会社で起こっていることそのままに、日本中がこの才能と情熱に溢れた科学者を血祭りにあげているのだろう。
まあどこの世界にも狂騒があり、そして派閥があり、政治がある。
それは判る。それは判るが、果たしてあんたらはそれを良いものと捉えているのか?
朝晩の通勤ラッシュと同じ、必要悪と見てあきらめているのではないか?
その必要悪を諦められない、あるいは、無駄だ、と思った連中は、そんな必要悪の中にはまりきった、その必要悪に甘えきった社会は見限る。
あるいは、見限れ、と思う。
外から見れば、日本などただのコップ。そしてこの狂騒もコップの中の嵐。つまりはキャビン・フィーバーだ。
キャビン・フィーバーを外から眺めることほど、バカバカしくも、情けなく思うことはない。
このいじめ商法、もうやめろ、と改めて思う。
すべてがすべて、誰もが頭脳明晰冷静沈着理論整然質実剛健になってはつまらないし、
人間というものがそうそうとそんな明るい看板ばかりを背負っては生きられないことも知っている。
ただ俺は、そんな狂騒の中に、正義の免罪符を持ち込む姿勢をやめろ、と言ってるのだ。
お金のために、若く才能あふれる科学者を血祭りにあげています。私達はいじめを煽ってでしか収益を得ることができないからです。
マスゴミを自称するマスゴミが、自らをゴミ、と本気で思って自己補正を始めた時に、この国の本当の崩壊が始まる、とは常々思ってはいるのだが。
という訳で、結論?
ばか決まってるだろ。そんな馬鹿なところさっさと逃げ出して、早く世界に羽ばたけ。それだけだ。

「誰でも行ける戦争見物」
時代は進み、日本国民の中でも実際に戦争を経験した人々はもう極僅かだろう。
そして喉元過ぎれば、ではないが、旧戦争の責任者であるA級戦犯の孫が公家面をこいてまた口先だけで勇ましいことを言っているようなのだが、お笑いである。
自慢ではないが、とまた馬鹿自慢にはなるが、俺は実際に戦争を経験している数少ない現代人である。
まあ若気の至り。貧乏旅行の途中に見物に行った、というか間違って迷い込んでしまっただけなのだが、
あの実質半年にも満たない経験はいまだに悪夢となって俺の脳裏に克明に刻まれている。
以前にも書いたかも知れないが、戦争には明るい戦争と暗い戦争がある。
そして喉元過ぎれば、ではないが、旧戦争の責任者であるA級戦犯の孫が公家面をこいてまた口先だけで勇ましいことを言っているようなのだが、お笑いである。
自慢ではないが、とまた馬鹿自慢にはなるが、俺は実際に戦争を経験している数少ない現代人である。
まあ若気の至り。貧乏旅行の途中に見物に行った、というか間違って迷い込んでしまっただけなのだが、
あの実質半年にも満たない経験はいまだに悪夢となって俺の脳裏に克明に刻まれている。
以前にも書いたかも知れないが、戦争には明るい戦争と暗い戦争がある。
明るい戦争とはつまりはマシンガン担いで前線を駆け回るという奴で、
まあこれは必要以上にビビリさえしなければ、まさにこの世で一番面白いゲームである。
なんといっても実弾装備。そして賭けているものはまさに己の命。
これが面白くない訳が無い。
そんな明るい戦争に運良く生き延びて帰って来れたものは、
いやあ、戦争より面白いもんはこの世にないね、がはははは、と笑う訳である。
がしかし、そんな戦争には勿論裏の顔がある。
つまりは暗い戦争。
ぶっちゃけ暗い戦争とはなにかと言えば攻撃を受ける側、つまりは守り側である。
夜更けの空襲警報。見上げる夜空の雲の向こうから聞こえて来る敵機の轟音。
泣き叫ぶ子供をあやしながらじっと夫を見つめる母。
そして男たちはじっと闇夜の空に目を凝らすばかり。
そして爆音。腹に響く地響き。窓ガラスという窓ガラス、戸板という戸板がビリビリガラガラ。
次はどこか?逃げるべきかとどまるべきか。
逃げるとしたらどこへ、右か左か。
あれはまさに目隠しで地雷原を歩いているような、
いつ爆発するかわからない爆弾を背負っているようなもので、
つまりはこれ以上の拷問はない。
がしかし、戦争の恐怖とは実はそういうことでさえない。
戦争の恐怖の最もたるものは、まさに真綿で首を絞められるようなその戦時下の生活そのものである。
いつ頭の上に爆弾が落ちてくるか、も去ることながら、
その戦時体制を存続させるための、つまりは治安維持による統制なのである。
食料制限から医療品を含む全ての物資の不足。
そしてそれに文句を言う人々を片っ端からしょっ引いては見せしめに叩きのめし、あるいは電柱にぶら下げる治安維持軍の蛮行。
治安維持を理由にすれば全てが許されているこの治安維持軍は、
どこの国においてもどんな状況においても必ず暴走する。
そしてひとたび治安維持軍が暴走を始めると誰にもそれをとめることができない。
治安維持を理由の略奪、暴行、からとなんでもあり。
そしてその治安維持軍、大抵が前線からも取り残された最もどうしようもない連中ばかり。
つまりは、そう、世に言うネトウヨのようなどうしようもないクズが、
ひとたび治安維持の免罪符を手に入れてしまったことを考えれば、
なにがどうなるか安易に想像がつくだろう。
つまりは戦争ではそれが起こるのである。
世の中で一番どうしようもないやつにこれでもかと好き放題やられてしまうのである。
当然のことながらそれはあまり愉快ではない。
戦争の被害のほとんどは、つまりは敵とのドンパチよりは、自国内での統制力との軋轢によるものと考える。
そしてそれは、なによりも、なによりも、辛い。
腹が立ち、無力感に苛まれ、そしてなにもかもが本当にどうでもよくなる。
つまりは人格が倒壊する。倒壊でもしなくてはやっていけなくなるからだ。
戦争とはそんな人格倒壊者によって遂行される狂気なのだ。
そう、狂気。戦争とは狂気なくして成り立たないものなのだ。
改めて言う。
一度でも戦争を経験したものは、絶対に、絶対に、戦争に賛成などしない。
したり顔で、防衛論、などをぶっちゃけている連中は、
自分が決して行くことがないから、あるいは、実際に自分の目でそれを見たことがないから、
そういうことが言えるのだ。
奴らが考えているのは銭勘定だけだ。頭の中は銭だけ。
口ではなにを言ってようが一皮剥けば銭だけなのだ。
だからそんな馬鹿げたことを言ってられるのだ。
そしてそのおこぼれはほとんど全ての人々には決して回ってこない。
あるいはびた一文のおこぼれをこじつけられて戦場に送られるだけの話だ。
そこで提案だ。
戦争を語りたい奴はまずは戦争に行け。
戦争を語りたければ自身から戦争にに行け!行ってみろ。そして自分の言葉で戦争を語ってみろ。
自分で戦争にもいけないやつに、あるいは、チャカのひとつも弾いた経験もないひよっこに、戦争が良い悪いの言う資格はない。
行きかた?簡単だ。
HISでもなんても、格安航空券を仕入れて一度日本を出れば、戦争などどこででもやっている。
こんな簡単に戦争にいけるこの時代に、わざわざ行かないというのはどういう訳だ?え?言ってみろ、とその鼻の穴にスイッチブレードの刃先でも押し込んでやりたい気分だ。
で、そういう奴に限ってこういうだろう。暴力反対!
バカタレ、である。
つまり、そういう奴に物を言わせてはいけない。そういう輩の能書きを本気にしてはいけない。
改めて言う。戦争に行くのは簡単だ。本当に本当に簡単なのだ。行きたい奴がちょっと本気になればこの週末にでも行って帰ってこれる(まあ帰ってこれれば、だが)、まるでハワイに行くぐらいに簡単なのだ。
そしてそこで目にするものは、楽しかった旅行の思い出、どころではない。まさに一生ものだ。一生悪夢に苛まれてもまだ終わらないトラウマを背負い込むことができる。
そして、そんな戦場での最低最悪の思いを、他の奴、それも自分の親兄弟や恋人や、あるいは妻子供にもも味合わせてやりたい、と思う奴はただのきちがいだ。素直に病院にいってPSDの治療を受けないさい。
当然のことながら、戦争の本質は暴力だ。
そして巷の喧嘩、勇ましい姿を誰かに見せたくて、なんてそんな甘い世界は戦場にはない。
戦争の暴力の本質は、どんな方法を使っても敵を殺さなければ自分が殺される、ということだ。
戦争では人が死ぬ。
死体のなかった戦争は嘗て無い。戦争とは人を殺すことだ。
それは誰かの母や娘であり、誰かの親や兄弟。あるいは親友であり恋人だ。
死体からは血が出る。そして腐る。蛆に食い荒らされ酷い匂いを放つ。
自身の、あるいは自分以外の全ての人間のそんな変わり果てた姿を見たい、という奴はただたんにキチガイだ。
つまりだ、戦争に賛成する人間は、キチガイだ。そう言い切ってしまって良いと思う。
そういうキチガイに、己の将来を預ける気になるのか?
そうだとすればあんたも立派なキチガイ、あるいは人格倒壊者だ。
迷わず病院に行くか、
あるいは、その大口を塞いで、しっかりとその目で本ちゃんの戦争を観てきなさい。
簡単だ。本当に簡単なのだ。俺だってやったのだ。その気になれば戦争はすぐそこ。まるでどこでもドアを開けるように目の前に広がっているのだ。そして一度戦場に足を踏み入れたものは一生そこから逃げられなくなる。
それが戦争だ。
つまり、ネトウヨたちの住むインターネット上の妄想の世界とは一番遠い世界なのだ。
まあこれは必要以上にビビリさえしなければ、まさにこの世で一番面白いゲームである。
なんといっても実弾装備。そして賭けているものはまさに己の命。
これが面白くない訳が無い。
そんな明るい戦争に運良く生き延びて帰って来れたものは、
いやあ、戦争より面白いもんはこの世にないね、がはははは、と笑う訳である。
がしかし、そんな戦争には勿論裏の顔がある。
つまりは暗い戦争。
ぶっちゃけ暗い戦争とはなにかと言えば攻撃を受ける側、つまりは守り側である。
夜更けの空襲警報。見上げる夜空の雲の向こうから聞こえて来る敵機の轟音。
泣き叫ぶ子供をあやしながらじっと夫を見つめる母。
そして男たちはじっと闇夜の空に目を凝らすばかり。
そして爆音。腹に響く地響き。窓ガラスという窓ガラス、戸板という戸板がビリビリガラガラ。
次はどこか?逃げるべきかとどまるべきか。
逃げるとしたらどこへ、右か左か。
あれはまさに目隠しで地雷原を歩いているような、
いつ爆発するかわからない爆弾を背負っているようなもので、
つまりはこれ以上の拷問はない。
がしかし、戦争の恐怖とは実はそういうことでさえない。
戦争の恐怖の最もたるものは、まさに真綿で首を絞められるようなその戦時下の生活そのものである。
いつ頭の上に爆弾が落ちてくるか、も去ることながら、
その戦時体制を存続させるための、つまりは治安維持による統制なのである。
食料制限から医療品を含む全ての物資の不足。
そしてそれに文句を言う人々を片っ端からしょっ引いては見せしめに叩きのめし、あるいは電柱にぶら下げる治安維持軍の蛮行。
治安維持を理由にすれば全てが許されているこの治安維持軍は、
どこの国においてもどんな状況においても必ず暴走する。
そしてひとたび治安維持軍が暴走を始めると誰にもそれをとめることができない。
治安維持を理由の略奪、暴行、からとなんでもあり。
そしてその治安維持軍、大抵が前線からも取り残された最もどうしようもない連中ばかり。
つまりは、そう、世に言うネトウヨのようなどうしようもないクズが、
ひとたび治安維持の免罪符を手に入れてしまったことを考えれば、
なにがどうなるか安易に想像がつくだろう。
つまりは戦争ではそれが起こるのである。
世の中で一番どうしようもないやつにこれでもかと好き放題やられてしまうのである。
当然のことながらそれはあまり愉快ではない。
戦争の被害のほとんどは、つまりは敵とのドンパチよりは、自国内での統制力との軋轢によるものと考える。
そしてそれは、なによりも、なによりも、辛い。
腹が立ち、無力感に苛まれ、そしてなにもかもが本当にどうでもよくなる。
つまりは人格が倒壊する。倒壊でもしなくてはやっていけなくなるからだ。
戦争とはそんな人格倒壊者によって遂行される狂気なのだ。
そう、狂気。戦争とは狂気なくして成り立たないものなのだ。
改めて言う。
一度でも戦争を経験したものは、絶対に、絶対に、戦争に賛成などしない。
したり顔で、防衛論、などをぶっちゃけている連中は、
自分が決して行くことがないから、あるいは、実際に自分の目でそれを見たことがないから、
そういうことが言えるのだ。
奴らが考えているのは銭勘定だけだ。頭の中は銭だけ。
口ではなにを言ってようが一皮剥けば銭だけなのだ。
だからそんな馬鹿げたことを言ってられるのだ。
そしてそのおこぼれはほとんど全ての人々には決して回ってこない。
あるいはびた一文のおこぼれをこじつけられて戦場に送られるだけの話だ。
そこで提案だ。
戦争を語りたい奴はまずは戦争に行け。
戦争を語りたければ自身から戦争にに行け!行ってみろ。そして自分の言葉で戦争を語ってみろ。
自分で戦争にもいけないやつに、あるいは、チャカのひとつも弾いた経験もないひよっこに、戦争が良い悪いの言う資格はない。
行きかた?簡単だ。
HISでもなんても、格安航空券を仕入れて一度日本を出れば、戦争などどこででもやっている。
こんな簡単に戦争にいけるこの時代に、わざわざ行かないというのはどういう訳だ?え?言ってみろ、とその鼻の穴にスイッチブレードの刃先でも押し込んでやりたい気分だ。
で、そういう奴に限ってこういうだろう。暴力反対!
バカタレ、である。
つまり、そういう奴に物を言わせてはいけない。そういう輩の能書きを本気にしてはいけない。
改めて言う。戦争に行くのは簡単だ。本当に本当に簡単なのだ。行きたい奴がちょっと本気になればこの週末にでも行って帰ってこれる(まあ帰ってこれれば、だが)、まるでハワイに行くぐらいに簡単なのだ。
そしてそこで目にするものは、楽しかった旅行の思い出、どころではない。まさに一生ものだ。一生悪夢に苛まれてもまだ終わらないトラウマを背負い込むことができる。
そして、そんな戦場での最低最悪の思いを、他の奴、それも自分の親兄弟や恋人や、あるいは妻子供にもも味合わせてやりたい、と思う奴はただのきちがいだ。素直に病院にいってPSDの治療を受けないさい。
当然のことながら、戦争の本質は暴力だ。
そして巷の喧嘩、勇ましい姿を誰かに見せたくて、なんてそんな甘い世界は戦場にはない。
戦争の暴力の本質は、どんな方法を使っても敵を殺さなければ自分が殺される、ということだ。
戦争では人が死ぬ。
死体のなかった戦争は嘗て無い。戦争とは人を殺すことだ。
それは誰かの母や娘であり、誰かの親や兄弟。あるいは親友であり恋人だ。
死体からは血が出る。そして腐る。蛆に食い荒らされ酷い匂いを放つ。
自身の、あるいは自分以外の全ての人間のそんな変わり果てた姿を見たい、という奴はただたんにキチガイだ。
つまりだ、戦争に賛成する人間は、キチガイだ。そう言い切ってしまって良いと思う。
そういうキチガイに、己の将来を預ける気になるのか?
そうだとすればあんたも立派なキチガイ、あるいは人格倒壊者だ。
迷わず病院に行くか、
あるいは、その大口を塞いで、しっかりとその目で本ちゃんの戦争を観てきなさい。
簡単だ。本当に簡単なのだ。俺だってやったのだ。その気になれば戦争はすぐそこ。まるでどこでもドアを開けるように目の前に広がっているのだ。そして一度戦場に足を踏み入れたものは一生そこから逃げられなくなる。
それが戦争だ。
つまり、ネトウヨたちの住むインターネット上の妄想の世界とは一番遠い世界なのだ。

「誰でも行ける戦争見物 ~ SOF」
おっと、SOFじゃねえか。
ちなみにこんなものがまだ世の中にあることさえ信じられないのだがな。
まさかとは思ったが、WEBページがあったとは知らなかった。
SOF = ソルジャーズ・オブ・フォーチュン
つまりその昔は、世界を股にかけるプロの戦争屋、つまりは傭兵と呼ばれる奴らの業界紙であった訳だ。
ちなみにこの雑誌、俺が実際に戦場に行った時、いたるところ、安宿のロビーで、レストランで、
そして、長距離バスの待合室にまるで当たり前のように転がっていた覚えがある。
そしてかくなる俺も、
このSOFのページを引きちぎってはケツもポケットに突っ込んで、さあ、次はどこのドンパチに加わるかな、と爪楊枝で前歯を突いているような連中と、
実際にヒッチハイクして回っていたことがある。
いまだにそんな馬鹿げたことやってる輩がいるとは思えなかったが、やはりそういう連中はいつの時代にもいるのだろうなあ。
ちゅうわけでそう、まあ世の中にはそういう奴らも本ちゃんで実際にいる、
ということをちょっとはそんな世界を現実的に、つまりは身近に感じることもできるのではないか?
ちなみにこんなものがまだ世の中にあることさえ信じられないのだがな。
まさかとは思ったが、WEBページがあったとは知らなかった。
SOF = ソルジャーズ・オブ・フォーチュン
つまりその昔は、世界を股にかけるプロの戦争屋、つまりは傭兵と呼ばれる奴らの業界紙であった訳だ。
ちなみにこの雑誌、俺が実際に戦場に行った時、いたるところ、安宿のロビーで、レストランで、
そして、長距離バスの待合室にまるで当たり前のように転がっていた覚えがある。
そしてかくなる俺も、
このSOFのページを引きちぎってはケツもポケットに突っ込んで、さあ、次はどこのドンパチに加わるかな、と爪楊枝で前歯を突いているような連中と、
実際にヒッチハイクして回っていたことがある。
いまだにそんな馬鹿げたことやってる輩がいるとは思えなかったが、やはりそういう連中はいつの時代にもいるのだろうなあ。
ちゅうわけでそう、まあ世の中にはそういう奴らも本ちゃんで実際にいる、
ということをちょっとはそんな世界を現実的に、つまりは身近に感じることもできるのではないか?
ってなわけで改めて言わせて貰えば、
日本に暮らしていて欲求不満がたまるのはとっても良く判る。
実は俺もそうだった(爆
日本に居ると、もう身体中を見えない真綿でがんじがらめにされては押しつぶされてしまうような気がして、
苛立ちに思わずブチ切れそうになるのを抑えるのに精一杯。
でその苛立ちブチ切れを抑えるのにまたとんでもないストレスを抱え込むことになって、とまさに悪のスパイラルを真っ逆さま。
ああ俺はそのうち、ひょんなことから大事をやらかして、いつかきっと遠いところに行く羽目になるだろうな、と覚悟していた部分があった。
がしかし、それがどうしたことか、騙されたと思って一歩日本を出た途端に、オーママミア!まさにここは別天地!!
つまり、死ぬ自由、殺される自由が満載。
くそったれ、もう誰にも何にも言わせねえぞ、勝手にぶっ飛んで勝手に死んでやるつもりだが誰もなんにも気にするな、
とまあ、つまりは超解放感。
で旅の間はその超開放感のなかで思い切り羽を伸ばして過ごすのであるが・・
それが、元気いっぱいで日本に帰り着いたとたん、そのまさにネガティブ・ヴァイブレーションの中で早くも窒息状態。
空港から東京に着いた頃にはもう世界で一番元気の無いひとに成り下がってしまっていて、おいおい、旅の間に培ったあの無敵感覚はいったいなんだったんだよ、ああ、旅に帰りたい、とさめざめと泣けてくる、とまさにその繰り返し。
そんな感覚は実はいまもまったく変わっていなくて、日本に帰るたびに、身体中が拒絶反応。
もうここにだけは帰ってこないぞ、と世界中にファックマークを出したくなるほどにイライラのしどうし、と鳴ってしまうわけだ。
で結論から言えば、ぶっちゃけ日本というところ。つまりはそういう国なんだよ。
ちゅうわけで、俺のような、そしてたぶん、お前のような、言ってみれば特異体質、つまりは日本よりも海外の方が性に合うってな奴らには、日本はもう徹底的に向かない。なにからなにまで俺たち用には作られていない、ということな訳で、それを良いの悪いの言うぐらいなら、さっさとそういう間違った場所はおん出てしまったほうが全ての人々の為にもなる、というのをなるべく早く悟ったほうがよい、と思うんだよね。
ちなみに日本を一歩でも出れば、それはつまりは団体旅行とか言うのではなくて、裸一貫、たった一人でということだが、した途端、そんな似たもの同士、つまり日本をいぶり出された元気ヤロウが、よお、お前もか、俺もだ、ばかやろう、とごきげんな笑いを浮かべて手招きしてくれる、という訳。
ちゅうわけで、そう、日本はつまりはそういうところ。寿司屋にラーメンがないように、日本には元気やろうはいない、ただそれだけの話。
日本がそういうところであることは別に誰のせいでもないし、
そして、俺達のような日本不適応者が、日本と波長を合わせられない、というのも誰が悪い訳でもない。
寿司には寿司の、ラーメンにはラーメンの良い所がある。
ただラーメンが食いたかったのに寿司屋にきちまった、というような、間違った場所に居合わせてしまっただけ。
それが気に入らないのならぶつくさ文句を言う前にさっさとけつ捲って出てしまった方がいいよ、まじで。
ちゅうわけでそう、日本が最も嫌うタイプってのはどういう人かというと、実に一言、元気な人。
日本はねえ、公家文化の国だからね、つまり元気な人がきらい、迷惑なわけで、そう、お前も子供の頃から言われたでしょ?
静かにしなさい!
そう、この静かにしなさいを、何度も何度も何度も何度も、言われて来たわけでしょ?
あんまりにも静かにしなさい、静かにしなさい、を何度も何度も言われるんで、しまいには俺ってなんかおかしいのかな?なんて思ったりもしなかった?
つまりはこれ、日本は元気のある奴がきらい、ということから来るわけで、それがすっかり社会常識になってしまっている。
下手をすればこの日本、ちょっと元気過ぎる奴がいるとすぐに警察沙汰にされてしまうってなところがあって、そう、この日本という国、元気な奴らにとっては本当の本当に生き辛い国。
だからね、みなさん、俺達はちょっと元気が良いだけなの、といくら言ってみても、誰もそんなこと知ったことじゃない。あるいは、またいつものやつで、しーっ!静かにしなさい、とやられるだけ。で、なんで?なんでなの?とやればやるほど警察やらなにやらが集まってきて本当にタチが悪い。
という訳で、本当はもう心の底から思い切り大騒ぎしたいのに、と怨念を為に貯め続けて欲求不満でブチ切れそうになりながら、世間で言われる「切れやすいタイプ」なんていうバカなレッテル貼られたくないばっかりに我慢に我慢を重ねて、とやっているんじゃないの?実は。
だがしかし、どうしてもどうしても静かにしたくなかった連中はね、そう、迷うことはない、もう脱出しかないよ。
つまりはそんな元気な連中ばかりが集まったところ、元気でいることが悪いことでもなんでもない世界に自分から出かけて行けばよい訳ですよ。
という訳で、犯罪者予備軍と言われながら実はただ元気が良かっただけのみなさん、
悪いことは言わない、日本なんて、そんな世界で一番ちょろい連中の揃った、
ちーっちーぱっぱの幼稚園のような、女子供とおかまばかりのようなところで粋がっていないで、
さっさとそんな馬鹿みたいな場所はおん出て、自分のための自分の場所を探したほうが身のためだよ。
少なくともそんな欲求不満を、例えば掲示板に馬鹿な投稿を繰り返したり、
ゴミのようなホームレスで喧嘩の練習をしてみたり、
妄想の中にハマり込んだ挙句、一番弱いやつ、つまりは女子供に通り魔やるように無駄に消費してしまうぐらいなら、
あるいは、そう、もしもそういうことを本当にやりたいのなら、
いっそのこと、本ちゃんの戦場、実弾の飛び交う中で、本当の本当に死が隣り合わせになった感覚ってやつを学んでくるのが一番だと思うんだけどどうかな?
という訳で、また俺のバカ自慢なんだけど、つまり俺はそうした、というか、そう戦場を目指した。
で、発見したことと言えば、
そんな思い切り元気な奴らにとって、戦争はまさにおもちゃ箱!
ヘミングウェイではないが、死なない戦争ほど面白いものはこの世にはないってぐらいで、
まじで、もう、本当に面白いぜ。
血湧き肉踊るじゃないけど、本当に身体中に力がメキメキ湧いてきてさ。
おおおお、俺は、俺は、俺は、生きてるぞ!!!ってほんと叫びたくなるぐらいに生きる充実感なんてのが燃え上がるのを感じることができる。
ちなみに俺は、砂漠のどまんなかで月を見ながら、ああ俺は神様に愛されている、そして俺は、神様に愛されている俺自身をとてもとても愛している、という、まさに、自分自身を完全に把握している、という、チャールズ・マンソン言わせるところの「超覚醒状態」の体験もすることになって、ああ戦争に来て本当に良かったなあ~、と思ったりもしたものだ。
で、そんな極限状態での充実感の中に生きていると、どういう訳か身体中に今までまったく気が付かなかったいろんな能力が目覚めるのが判って、これはまじな話、本当に背中に目がつく、というか、自分の身の回りで起こっていることへの感覚が五感を飛び越えて、オーラ、あるいは「気」として把握することができるようになるんだよね。
これ実際に戦場を渡りあるいた奴はみんな言ってるよ。
スターウォーズじゃないけど、フォースアイ、という奴で、つまり第六感が異常に敏感になって、危険を事前に察知できるようになったり、気配を感じて身体が先に動いている、なんていうまるで神業的なことがいつの間にか自然にできるようになってきたり。
ただね、ここで一つ言わせて貰えば、
この第六感が異常に発達してしまった状態で文明国に帰り着いたりすると、いままで緊張に張り詰めて身体中にビシビシと走っていた気合みたいなものが行き場所を失って伸びたゴムみたいにブランブランになってしまった挙句、身体中があの気合ビシビシ状態を求めては軋みを上げ始める訳で、多少のことですぐにブチ切れてはいつなんどきも神経が過敏になりすぎてよく眠れず、というまあ言ってみればPSD的な症状に陥る事になるわけで、つまり、この戦場の恍惚感みたいなものを一度感じてしまうと、もう文明国に生きていくのがとてもとてもつらくなってしまったりもするのだよね。
やばいところをずっと渡り歩いてきた奴が、ひとたび安全な文明国に帰って来ながらすぐにまたやばい場所に旅立ってしまうのは、つまりはこれが理由。PSDと言ったらまさにPSDなんだけど、つまりはその極限状態における充足感の快感から逃れられなくなっているってことなんだよね。
でも俺的にはそれはそれで悪いことじゃないと思うんだよね。
極限ばかりにいるとそれこそ神経が張り切ってそのうちプチッと来ちゃったりもするので、まあ要はバランス、というか、おせちもいいけどカレーもね!じゃないけど、文明もいいけど戦場もね、でも十分にOKじゃない?ぐらいのゆるさが大切なんじゃないかな、と思っていた。
ちゅうわけでそう、まあ余計なことだらだら書いてるけどさ、
そんな奴ら、つまりは極限状態での超覚醒を目指しちゃう、みたいな輩にとって、
日本はまさに最悪の場所。
あの清潔感と、公家的な超管理社会の中にあっては、生の実感も無ければ死の尊厳さえもないわけで、
人が死ぬということ、人に殺される、ということがいったいどんなことであるのか、
そして、そんななかで、自身がまだ生きている、ということがいったいどれだけ尊いものなのかっていう、
つまりは生きる喜びの基本中の基本みたいなものがまったく曖昧になってきちゃう訳で、
これこそがまさに、真綿で首を絞められる状態そのもの。
こんなところで飼い殺しにされるぐらいなら、いっそのこと戦場での極限の充実感の中でぶっ飛んでしまいたい、と思う気持ちも凄くよく判るんだが、改めて言えば、それを日本でやってはいけない。
寿司屋にラーメンがないように、日本には戦場がなくてあたりまえ。
そんな戦場での美学をわざわざ日本に持ち込むこともない訳で、
寿司屋でラー油ありますか?ない?ないってのはいったいどういうことだ馬鹿野郎、舐めてるのか、ぶっ殺すぞ、とトチ狂っているのと同じこと。
つまりは場所をわきまえなさい、ということなんだよね。
どう、これ聞いてちょっと安心しない?
つまり、その苛立ちの中で出口をなくして妄想に走っちゃうなんてのじゃなくて、
ただたんに、俺は日本は合わねえから、合うところに行きます、さようなら、でぜんぜんOKってやつでさ。
ちなみに俺は、高校生の時に、そんな俺の将来をまじめに危惧してくれた先公から、「気分はもう戦争」ってな漫画を読まされて、おおお、まさにこれだ!と思った訳だ。
つまり、ハチマキ、ではないけれど、実際に自力で戦争に行けるのかよ、だったら行かなくっちゃだな、と思ったわけで、暴走族もパンクロックもいきなり色褪せてしまった、というか、そう、男の極限の遊びは戦場にあり!まさにその通りなんだよね、実に。
なので、そう、いまそんな日本でブチ切れそうになっている奴、日本で騒ぎ起こして遠いところに幽閉されてはロボトミーみたくされちゃうよりは、さっさと日本を出る、もうこれ以外に道はない、と思うがどうよ?
日本に暮らしていて欲求不満がたまるのはとっても良く判る。
実は俺もそうだった(爆
日本に居ると、もう身体中を見えない真綿でがんじがらめにされては押しつぶされてしまうような気がして、
苛立ちに思わずブチ切れそうになるのを抑えるのに精一杯。
でその苛立ちブチ切れを抑えるのにまたとんでもないストレスを抱え込むことになって、とまさに悪のスパイラルを真っ逆さま。
ああ俺はそのうち、ひょんなことから大事をやらかして、いつかきっと遠いところに行く羽目になるだろうな、と覚悟していた部分があった。
がしかし、それがどうしたことか、騙されたと思って一歩日本を出た途端に、オーママミア!まさにここは別天地!!
つまり、死ぬ自由、殺される自由が満載。
くそったれ、もう誰にも何にも言わせねえぞ、勝手にぶっ飛んで勝手に死んでやるつもりだが誰もなんにも気にするな、
とまあ、つまりは超解放感。
で旅の間はその超開放感のなかで思い切り羽を伸ばして過ごすのであるが・・
それが、元気いっぱいで日本に帰り着いたとたん、そのまさにネガティブ・ヴァイブレーションの中で早くも窒息状態。
空港から東京に着いた頃にはもう世界で一番元気の無いひとに成り下がってしまっていて、おいおい、旅の間に培ったあの無敵感覚はいったいなんだったんだよ、ああ、旅に帰りたい、とさめざめと泣けてくる、とまさにその繰り返し。
そんな感覚は実はいまもまったく変わっていなくて、日本に帰るたびに、身体中が拒絶反応。
もうここにだけは帰ってこないぞ、と世界中にファックマークを出したくなるほどにイライラのしどうし、と鳴ってしまうわけだ。
で結論から言えば、ぶっちゃけ日本というところ。つまりはそういう国なんだよ。
ちゅうわけで、俺のような、そしてたぶん、お前のような、言ってみれば特異体質、つまりは日本よりも海外の方が性に合うってな奴らには、日本はもう徹底的に向かない。なにからなにまで俺たち用には作られていない、ということな訳で、それを良いの悪いの言うぐらいなら、さっさとそういう間違った場所はおん出てしまったほうが全ての人々の為にもなる、というのをなるべく早く悟ったほうがよい、と思うんだよね。
ちなみに日本を一歩でも出れば、それはつまりは団体旅行とか言うのではなくて、裸一貫、たった一人でということだが、した途端、そんな似たもの同士、つまり日本をいぶり出された元気ヤロウが、よお、お前もか、俺もだ、ばかやろう、とごきげんな笑いを浮かべて手招きしてくれる、という訳。
ちゅうわけで、そう、日本はつまりはそういうところ。寿司屋にラーメンがないように、日本には元気やろうはいない、ただそれだけの話。
日本がそういうところであることは別に誰のせいでもないし、
そして、俺達のような日本不適応者が、日本と波長を合わせられない、というのも誰が悪い訳でもない。
寿司には寿司の、ラーメンにはラーメンの良い所がある。
ただラーメンが食いたかったのに寿司屋にきちまった、というような、間違った場所に居合わせてしまっただけ。
それが気に入らないのならぶつくさ文句を言う前にさっさとけつ捲って出てしまった方がいいよ、まじで。
ちゅうわけでそう、日本が最も嫌うタイプってのはどういう人かというと、実に一言、元気な人。
日本はねえ、公家文化の国だからね、つまり元気な人がきらい、迷惑なわけで、そう、お前も子供の頃から言われたでしょ?
静かにしなさい!
そう、この静かにしなさいを、何度も何度も何度も何度も、言われて来たわけでしょ?
あんまりにも静かにしなさい、静かにしなさい、を何度も何度も言われるんで、しまいには俺ってなんかおかしいのかな?なんて思ったりもしなかった?
つまりはこれ、日本は元気のある奴がきらい、ということから来るわけで、それがすっかり社会常識になってしまっている。
下手をすればこの日本、ちょっと元気過ぎる奴がいるとすぐに警察沙汰にされてしまうってなところがあって、そう、この日本という国、元気な奴らにとっては本当の本当に生き辛い国。
だからね、みなさん、俺達はちょっと元気が良いだけなの、といくら言ってみても、誰もそんなこと知ったことじゃない。あるいは、またいつものやつで、しーっ!静かにしなさい、とやられるだけ。で、なんで?なんでなの?とやればやるほど警察やらなにやらが集まってきて本当にタチが悪い。
という訳で、本当はもう心の底から思い切り大騒ぎしたいのに、と怨念を為に貯め続けて欲求不満でブチ切れそうになりながら、世間で言われる「切れやすいタイプ」なんていうバカなレッテル貼られたくないばっかりに我慢に我慢を重ねて、とやっているんじゃないの?実は。
だがしかし、どうしてもどうしても静かにしたくなかった連中はね、そう、迷うことはない、もう脱出しかないよ。
つまりはそんな元気な連中ばかりが集まったところ、元気でいることが悪いことでもなんでもない世界に自分から出かけて行けばよい訳ですよ。
という訳で、犯罪者予備軍と言われながら実はただ元気が良かっただけのみなさん、
悪いことは言わない、日本なんて、そんな世界で一番ちょろい連中の揃った、
ちーっちーぱっぱの幼稚園のような、女子供とおかまばかりのようなところで粋がっていないで、
さっさとそんな馬鹿みたいな場所はおん出て、自分のための自分の場所を探したほうが身のためだよ。
少なくともそんな欲求不満を、例えば掲示板に馬鹿な投稿を繰り返したり、
ゴミのようなホームレスで喧嘩の練習をしてみたり、
妄想の中にハマり込んだ挙句、一番弱いやつ、つまりは女子供に通り魔やるように無駄に消費してしまうぐらいなら、
あるいは、そう、もしもそういうことを本当にやりたいのなら、
いっそのこと、本ちゃんの戦場、実弾の飛び交う中で、本当の本当に死が隣り合わせになった感覚ってやつを学んでくるのが一番だと思うんだけどどうかな?
という訳で、また俺のバカ自慢なんだけど、つまり俺はそうした、というか、そう戦場を目指した。
で、発見したことと言えば、
そんな思い切り元気な奴らにとって、戦争はまさにおもちゃ箱!
ヘミングウェイではないが、死なない戦争ほど面白いものはこの世にはないってぐらいで、
まじで、もう、本当に面白いぜ。
血湧き肉踊るじゃないけど、本当に身体中に力がメキメキ湧いてきてさ。
おおおお、俺は、俺は、俺は、生きてるぞ!!!ってほんと叫びたくなるぐらいに生きる充実感なんてのが燃え上がるのを感じることができる。
ちなみに俺は、砂漠のどまんなかで月を見ながら、ああ俺は神様に愛されている、そして俺は、神様に愛されている俺自身をとてもとても愛している、という、まさに、自分自身を完全に把握している、という、チャールズ・マンソン言わせるところの「超覚醒状態」の体験もすることになって、ああ戦争に来て本当に良かったなあ~、と思ったりもしたものだ。
で、そんな極限状態での充実感の中に生きていると、どういう訳か身体中に今までまったく気が付かなかったいろんな能力が目覚めるのが判って、これはまじな話、本当に背中に目がつく、というか、自分の身の回りで起こっていることへの感覚が五感を飛び越えて、オーラ、あるいは「気」として把握することができるようになるんだよね。
これ実際に戦場を渡りあるいた奴はみんな言ってるよ。
スターウォーズじゃないけど、フォースアイ、という奴で、つまり第六感が異常に敏感になって、危険を事前に察知できるようになったり、気配を感じて身体が先に動いている、なんていうまるで神業的なことがいつの間にか自然にできるようになってきたり。
ただね、ここで一つ言わせて貰えば、
この第六感が異常に発達してしまった状態で文明国に帰り着いたりすると、いままで緊張に張り詰めて身体中にビシビシと走っていた気合みたいなものが行き場所を失って伸びたゴムみたいにブランブランになってしまった挙句、身体中があの気合ビシビシ状態を求めては軋みを上げ始める訳で、多少のことですぐにブチ切れてはいつなんどきも神経が過敏になりすぎてよく眠れず、というまあ言ってみればPSD的な症状に陥る事になるわけで、つまり、この戦場の恍惚感みたいなものを一度感じてしまうと、もう文明国に生きていくのがとてもとてもつらくなってしまったりもするのだよね。
やばいところをずっと渡り歩いてきた奴が、ひとたび安全な文明国に帰って来ながらすぐにまたやばい場所に旅立ってしまうのは、つまりはこれが理由。PSDと言ったらまさにPSDなんだけど、つまりはその極限状態における充足感の快感から逃れられなくなっているってことなんだよね。
でも俺的にはそれはそれで悪いことじゃないと思うんだよね。
極限ばかりにいるとそれこそ神経が張り切ってそのうちプチッと来ちゃったりもするので、まあ要はバランス、というか、おせちもいいけどカレーもね!じゃないけど、文明もいいけど戦場もね、でも十分にOKじゃない?ぐらいのゆるさが大切なんじゃないかな、と思っていた。
ちゅうわけでそう、まあ余計なことだらだら書いてるけどさ、
そんな奴ら、つまりは極限状態での超覚醒を目指しちゃう、みたいな輩にとって、
日本はまさに最悪の場所。
あの清潔感と、公家的な超管理社会の中にあっては、生の実感も無ければ死の尊厳さえもないわけで、
人が死ぬということ、人に殺される、ということがいったいどんなことであるのか、
そして、そんななかで、自身がまだ生きている、ということがいったいどれだけ尊いものなのかっていう、
つまりは生きる喜びの基本中の基本みたいなものがまったく曖昧になってきちゃう訳で、
これこそがまさに、真綿で首を絞められる状態そのもの。
こんなところで飼い殺しにされるぐらいなら、いっそのこと戦場での極限の充実感の中でぶっ飛んでしまいたい、と思う気持ちも凄くよく判るんだが、改めて言えば、それを日本でやってはいけない。
寿司屋にラーメンがないように、日本には戦場がなくてあたりまえ。
そんな戦場での美学をわざわざ日本に持ち込むこともない訳で、
寿司屋でラー油ありますか?ない?ないってのはいったいどういうことだ馬鹿野郎、舐めてるのか、ぶっ殺すぞ、とトチ狂っているのと同じこと。
つまりは場所をわきまえなさい、ということなんだよね。
どう、これ聞いてちょっと安心しない?
つまり、その苛立ちの中で出口をなくして妄想に走っちゃうなんてのじゃなくて、
ただたんに、俺は日本は合わねえから、合うところに行きます、さようなら、でぜんぜんOKってやつでさ。
ちなみに俺は、高校生の時に、そんな俺の将来をまじめに危惧してくれた先公から、「気分はもう戦争」ってな漫画を読まされて、おおお、まさにこれだ!と思った訳だ。
つまり、ハチマキ、ではないけれど、実際に自力で戦争に行けるのかよ、だったら行かなくっちゃだな、と思ったわけで、暴走族もパンクロックもいきなり色褪せてしまった、というか、そう、男の極限の遊びは戦場にあり!まさにその通りなんだよね、実に。
なので、そう、いまそんな日本でブチ切れそうになっている奴、日本で騒ぎ起こして遠いところに幽閉されてはロボトミーみたくされちゃうよりは、さっさと日本を出る、もうこれ以外に道はない、と思うがどうよ?

「誰でも行ける戦争見物 ~ ちゅうわけでそうそう」
と言うわけで、そうそう、ちなみに戦争の行き方なんだけど、
まさか戦争に行こう、というやつが、ディスニーランドに行くように、ガイドブックそのままに、
直行バスに乗り込んで、あるいは電車を乗り継いて、なんてことは考えてはいまい、
あるいは、もしも戦争というものがそれほど安易であったりしたら、
逆に戦争などにそれほど情熱を持ったりもできなくなって来ちゃうでしょ?
という訳で、なら戦場にどうやってたどり着くか、
まさか戦争に行こう、というやつが、ディスニーランドに行くように、ガイドブックそのままに、
直行バスに乗り込んで、あるいは電車を乗り継いて、なんてことは考えてはいまい、
あるいは、もしも戦争というものがそれほど安易であったりしたら、
逆に戦争などにそれほど情熱を持ったりもできなくなって来ちゃうでしょ?
という訳で、なら戦場にどうやってたどり着くか、
それに必要なのはつまりは情報収集能力。
どこで戦争をやっていて、どこの戦場がどんな感じで、ってな情報をどこからどうやって仕入れて、
どうやってガセをガゼと見抜くか、と。
でここで一番やばいのがその情報収集をメディアからっていう一番安易な方法。
だってさ、と言わせてもらえば、メディアなんていうケチな業界で社畜やってるアホどもが、
そんな耳寄りな情報を持っている訳がないし、そういう情報を持っている奴は極力そういうメディアの奴らを毛嫌いしてるから、
絶対に情報なんて漏らさない筈なんだよね。
あるいは、メディアにチンコロする奴らを毛嫌いしている筈。
という訳で、情報はいつも口コミ。これに限る。
でその口コミの情報をどうやって仕入れるか。
つまりは、信頼できる仲間とどうやって知り合うか、ってのが実は一番一番大切であったりもする。
そこで一番気を付けなくっちゃいけないのが、メディアやらなにやらの受け売りをさも自分のことのように吹聴するアホ。
あるいは、参考書の問題を一問目から解いていくように、ガイドブックを丸暗記してるような駄目な奴。
こういう奴らの口車にのせられると本当の本当にバカを見る。
つまり、信じられるのは実際にその場に行って自分のその目で見てきた奴、
そういう本ちゃんの奴から本音のところというやつを聞き出す、というのがもう死活問題的に大切になってくる。
これはその後、どうやって武器を仕入れるか、から始まって、どうやってどこのコマンドに潜り込むか、から、
どこがやばくてどこが安全か、から、と、まさに情報こそが命を左右するもっとも重要なものになる訳で、
ぶっちゃけ、信頼できるやつから本音の言葉を聞き出す、これにまさるものはなし。
で、ひとたびそういうことをやってしまうと・・・つまりは、どうでもいいことを偉そうに、さも自分がなにかやったように吹聴するアホ、
つまりはこのインターネットによくいる薀蓄バカ、みたいなのが、本当の本当にキライになる、というか、そう害悪みたく思えてくる訳で、
そのように、どうでも良い奴と、本当の本当に使える奴、をどうやって見抜くか、という能力を鍛えることがまず第一。
その過程からして、戦場で生き残るためのとても大切なレッスン、という訳で、日本を一歩出たところからすでに戦場が始まっているというのはそういう意味なのです。
で、改めて言えば、それができないぐらいのやつは戦場に行っても多分すぐに死ぬことになる。
間違った情報は身を滅ぼす。信じられるのは信じられる仲間のみ、と。
どう、人間って大切でしょ?コミュニケーションって大切でしょ?
そう思うと、例えばこのインターネットの掲示板とかにいい加減な御託並べているやつがどれだけ駄目な奴かってすぐに判らない?
どう?日本でてよかったでしょ。つまりはそういうことなんだよ。
という訳で、ならどうやってそんな使える友達に知り合えるか、なんだけど、少なくとも俺の時代には、日本人でわざわざ戦場に行きたがる、なんて輩は早々とお目にかかれなかったので、情報源と言えばつまりは外人ツーリスト。
それもとびきりたちの悪そうな連中のそのまた上を行くような、本当に本当にやばそうな連中。
つまりは犯罪者半分、というか、実際にまじでただの犯罪者だったりもする訳で、
そんな連中の中にどうやって入り込むか、ってのがまあ必要になる訳で、そしてそんなギャング団みたいな連中にどうやって自分を信頼させるか、ってのがまた大変。
で、ギャングのイニシエーションじゃないけど、質問を受ける訳だ。
なぜお前は戦場に行くのか、いったい戦場になにを求めているのか、
基本的な戦闘訓練は受けているのか、戦場で死なないためにはどうしたらよいか知っているのか?
そういう問いをなんどもなんども繰り返されることになって、もちろんそれは英語、あるいは、時としてフランス語で答えなくてはいけない訳で、なみの英語力ではまったく追いつかない。
がしかし、そう、ここでまた大切なこと。しかし、それを疎んじてはいけない!ってことでつまりはこれは試験なんだよね。
まずはその英語力。
この先、日本人なんてまったく宛てにならない、とわかっている以上、情報収集はつまりは英語。でその英語能力がなければ盲滅法に地雷原に突っ込むようなもので、これでは命がいくつあっても足りない。つまり、英語の喋れない奴はそれだけ命のリスクが増える、という訳で、英語こそはまさに死活問題。
英語が喋れないと、戦場で死ぬどころか、その場所に辿りつけない訳で、
あるいは、英語さえ喋れないちょろい奴、と思われた途端、そのあたりのちょろいチンピラに騙されて裸に剥かれて埋められる、
ってなことを、実際にこの目で見てきた。
まずは同じ客人同士でのチームワークを固めること。
が心配はいらない。日本人ほど海外の連中は仲間意識が希薄じゃない。
一度バディとして貰えれば、余程のことがないかぎり必ず力になってくれる。
そうやってつるんで歩いていたツーリスト同士の友情から、俺はなんども危ないところを危機一髪救い出されていたりする。
ちゅうわけで、そう、まずは英語だよ。
そのためにも、掲示板にくだらないことを書き込んでいる暇があれば、英語を勉強したほうが身のため。
死なないためにはまずは英語を学ぶ、ってのが一番の近道。
というわけなんだが、実はここでまた関門。
そんなツーリスト仲間の中に、かならずどこぞのSPY、というか、まあ言ってみればどこぞの情報部の奴なんてのが紛れ込んでいたりする。
その犬をどうやって見分けるか、ってのがまたあったりもする訳でさ。
まあでもこれはどこにでもあるでしょ?
日本でもちょっと悪をやっていれば、ふかしこいてるやつ、ちくり屋、裏切り者、度胸のあるやつ無いやつ、つまりいざという時に頼りになる奴、ならない奴、
そして、そう、つまりは、信じられる奴、られない奴。
この人を見抜く、ってのがまさにまたまた死活問題という訳で、言語に関係なく、人種に関係なく、馬が合うやつ、あるいは、好きな奴キライな奴を見抜くのはとても大切。
でさ、旅ってすごく不思議なもので、そうやって周りに集まってくる奴って、まったくもって、自分自身とおなじレベルの奴、というか、似たもの同士ばっかりなんだよね。
で、自分の周りに似たもの同士を集めておけば、違う匂いのする奴=SPY、とすぐに判る訳で、そういう人の見分け方、というかリトマス紙をちゃんと作っておいたほうが良い。
山=川、じゃないが、似たもの同士にしか判らない暗号みたいなのあるでしょ?それがまさにいざという時の最後の綱になったりもするので、要チェック。
で、そうやって旅を続けている間に、ふと見れば、そう周りにはまさに似たもの同士、それも同じような目的を持つやつばかりになっている訳で、
ここまで来て始めて、
やあ、ってな奴が目の前に姿を現すことになる。
つまり、バディというか、ソウルメイトというか、つまりは運命の出会い。
そいつこそが、共に命を預け合う仲間となる、まさに水先案内人。
自身の心がREADYとなった時に始めて現れるこのバディ。
まさに同期の桜、じゃないけど、つまりは、そう、戦友といえる奴が必ず、必ず必ず現れる筈。
旅って本当に不思議でさ。本当にこれは出来すぎってなぐらいにまで出来過ぎな出会いのドラマが繰り返されるところがあって、
それはまさに一人で旅に出てみなければ判らないんだけど、大丈夫、一人で旅を続けていればそういう奴が必ず現れる。
現れないうちはまだ自分自身がREADYになっていないんだな、とかんがえるべし、と。
運命を信じなさい、と言ったところ。
改めて言うと、戦争は一人ではできない。
とくに義勇軍、というか、面白半分に外から覗きに来ました、みたいな連中は本ちゃんの中にあっては必ず浮く。
浮いた奴は一番最初に狙われる訳で、そういう輩とは誰もあまり付き合いたがらない訳で、下手をすると、危機的状況において、ハブにされたり下手をすると見殺し、あるいは生贄にされたりもする。
なので、まず必要なのは仲間。どいつが味方でどいつが敵か、を冷静に判断するためにも、絶対に仲間が必要な訳で、つまりはくどいようだが、人を見抜く力ってのがどこの局面でもとてもとても大切になる。
ちゅうわけで、下らない掲示板にバカな書き込みをするよりは、この仲間の作り方を今の内に練習しておいた方がよいと思う。
とまあ、ここまで書いて来たことは、わざわざ戦場に行かなくても、戦場に向かうまでの間に旅の中で十分に練習することができる、というか、まあそれこそが旅そのもの。
言葉を学び、異文化を受け入れ、互いを尊重し、好きなもの、キライなもの、必要なもの、必要でないものをしっかりと判断し、つまりは、良い悪い、を自分自身できっちりと決める、見極める力、というか。
どう?なにもかもが日本での常識と違うでしょ?
そう、なぜかと言えば、日本は個人になることが許されない国。良いか悪いかを自分でキメてはいけない国。
そして、ひとたび日本を出たらそのまったく逆。良いか悪いか、は自分が自分の判断、あるいは運命に従って決める。
そこのところがとてもとても大切。そして、その言ってみれば自立、そして、自律、がしっかりとできるようになって始めて、戦場のような極限の中で、自分ひとりだけになっても絶対に生き延びる、という能力が備わってくる、という訳でさ。
それをつまりは、強さ、というのではないか、とおもってるんだけど、どうよ。
で、間違って欲しくないのは、この強さ、というのは、なにも拳、あるいは体力だけではないってことで、
運もそうだし、コミュニケーション能力もそうだし、身体はちっちゃいけどやたらと度胸のあるやつも居れば、図体ばかりでかくて、まるっきりのチキンってやつも多いし、
良い大学は出てるが自分自身でなにかを判断するっていう決断力がまるでなかったり、あるいは、中卒のくせにやたらと頭がよい、つまりは人のことをよく見ているという奴も居るわけで、
つまりはそれすべてが強さ。
冗談がうまいやら、料理がうまい、やら、歌が上手い、やら、戦場において、戦いとは全く関係ないそんなおかしな才能を頼りに生き残った奴もたくさんいるんだよね。
なので、とりあえずは己のなにが得意かってことをよく考えて、そして己の特技を最大限に使って周りの人々に尽くす、力になる、という、まあ人間社会の基本なんだけどさ。
つまり、戦場で死にたくなければ己をよく知って、その才能を磨く、ということな訳でさ。
まあそんなこんなで、明確なこと、具体的なことはまったく書いてないが、
どこにも書いてないが実はこれが一番大切ってなことを書いたつもり。
後はまあ、とりあえず現地に行ってみて、そこで知り合った奴から人づてに情報を集めて選別し、仲間を集めて潜り込めるところから潜り込んでいく、と、まあ、なんというかそれってただの処世術、ということにもなる訳なんだけどね。
で、最後に種明かし、というか、まあ俺の場合、なんだけどさ。
先にも書いたけどすごく不思議なもので、旅に出てると似たもの同士、というか、似たような連中がこれでもか、と訪ねてくる訳で、彼の地に行った時にも、バスを下りたところから、やあ、とやって来た奴が実にソウルメイト。そこから一緒に歩き始めて、どこ泊まる?から始まって、辿り着いたのはまさにそんな奴らの溜まり場。
で、その溜まり場でも気の合うやつ合わない奴が居るわけで、そのバス停であったソウルメイトと情報を交換しながら、さぐりを付けて行って、ガセと本ちゃんの情報を仕分け、とやっていった訳で、一緒にパスポートを捨てて、一緒に荷物を預けて、さあ、これで死ぬ時は一緒だ、と共に旅立った、という次第。
そこから始まった戦場、つまりは、異次元への旅。
次から次へとそんな輩、つまりはソウルメイトというかバディが俺の前に姿を現してはあらたなる局面に俺を誘って行った訳で、いまから考えてもよくも俺は帰ってこれたなあ、と思っているのだが、つまりはそう、そんな出会いが俺を救い続けてくれた、というか、つまりはそんな奴らに守らていただけの話なんだよな、と今になって思う。
こう言ってしまうと、なんだよ、ぜんぜん参考にもなんにもならねえじゃねえか、と言われるのは承知なんだが、現実って得てしてそんなもの。
俺には俺の旅、あるいは人生しか送れないように、あんたにはあんたの人生しか送れない。つまりはそれが運命というやつで、それは人それぞれに違う。
ちなみに俺よりもちょっと早く戦場に旅だった日本人は国境の峠を越える前に地元のギャングに拉致られて身ぐるみ剥がされて帰ってきた。
あるいは公安に騙されて麻薬不法所持だかなんだかよく判らない罪状を押し付けられてムショに打ち込まれたまま闇から闇へってな話も聞いたし、
トラックを下りた途端にいきなり命中しちゃってそのまま捨てられたなんて話も聞いた。
あるいは、日本から鳴り物入りで現地入りした行動派右翼の人々が、現地のコマンドにまったく相手にされず、足元に機関銃を乱射されて踊れ踊れ、とやられた、なんて話も聞いた。
そんな中、五体満足で帰ってこれた俺はなんともラッキーだった訳だが、なんてことはない、それほど危険な場所にさえもたどり着けなかったんじゃねえのか、このチキンヤロウ、と言われれば、ああたしかにそうだね、としか返す言葉もなく。
そして、国境を越えた時、俺はもう、本当に、心の底から、もう、戦争はこりごりだ、まじで勘弁して欲しい、と思った。
もう観たくない。もうなにも観たくない、と、友を見捨てて遁走した挙句、追われたダチョウが砂につっこむみたいに、そういう現実から逃げ回て来た訳で、そんな状態になった俺の前にも、またしてもソウルメイトが現れては、熱を出してうんうんうなされる俺を看病してくれた、なんてことさえもあって、まさに、俺は世界の人々に足を向けては寝れない訳だ。
そうなんだよね、俺ってほんと、どこに行っても誰かに助けて貰って生きてきてるんだよな。別にどこに行っても誰かすがれるやつを探してるつもりはぜんぜんないんだけどさ。
ピンチに陥ると、いつも決まってブラウンシュガーが流れ始めて、馬鹿野郎、ロックンロールだ、怖いものなんかないぜ、とやっているところに、やあ、となんとも魅力的な笑顔を浮かべた奴がやって来る、と。
まあでも、そういう奴が現れないということは、逆に俺がピンチに陥っていない、という訳で、ブラウンシュガーが鳴り響かないうちはまだまだ大丈夫、とも思っている。
という訳で悪い、ぜんぜん参考にならなかったかもしれないが、まあ俺はそうやって生きてきた、というか、はーい、戦争見てきました、鉄砲も撃ちましたよ、死体もたくさんみました、でももうこりごりっす、ぐらいがお土産、という程度なのかな。
ちゅうわけで、まあ〆というか、結論どころかなんの参考にも、教訓にもならないだろうが、まあそういう手もあるぜ、みたいな感じで。
ただ、日本を出たことを後悔したことは一度もないな。
あのまま行ったら、多分俺は今頃、と思うほうが怖い。
まあ一度やってしまったことはもう取り返しがつかない訳で、あの時もしこうしていれば、なんて考えても無駄なことは一切考えないようにしているんだが、まるでパチンコ球が釘に弾かれてあっちこっちに跳ねまわっては、収まるところに収まるように、収まり場所を探していまだにピョンピョン弾き飛ばされ続けている、ってのがまあいまの俺。
そしてどこに収まるか、はいまだに誰も判らない、と。
ってな訳で、そうそう、言いたいことがもう一個。
日本でどうしても波長が合わなかった俺が、戦争行ったり、スラムうろついたり、ヤクにはまったり、死にかけたり殺されかけたり、殺しかけたり、といろいろやってきたんだけど、そんな俺が世界で唯一、精神的な均衡が保てる街、つまりは俺が俺として誰の目も気にせずに自由気ままに好き勝手に、そしてごきげんに暮らせる街ってのが、ここニューヨーク。
別にニューヨークでなにをしてるわけでもない訳で、ともすると、オレってなんでこんな街にしがみついているんだろう、とは思うのだが、一歩この街を出た途端に、いきなりそこかしこがおかしくなっていくわけで、そっか、オレはもうニューヨークにしか住めないんだな、と実感して帰ってくることになる。
なんとなくこの街って世界の全てっていうか、テンションもダレダレも、戦場も東京もすべていっしょくた、というか、そう、世界の全てがつまったまさにおもちゃ箱。
戦場よりもおもしろい、と思えた唯一の場所なんだよね。
まあ、観光で一週間、遊びまわって帰るのと、実際にこの街で金を稼いで家賃を払ってってのとではぜんぜん違うんだけど、そこまで苦労してもこの街を離れられないってのはつまりはそういう理由。
ちゅうわけで、そう、昔のオレのような人たち。
日本と肌が合わずに、ひきこもっちゃったり、暴れてみたり、脱法ドラッグ追いかけたり、掲示板に下らない落書きしたりとかしてるやつ。
騙されたとおもって、世界に出てみたほうがいいぜ。
あんたに合う街ってのがきっと見つかる筈。
どこで戦争をやっていて、どこの戦場がどんな感じで、ってな情報をどこからどうやって仕入れて、
どうやってガセをガゼと見抜くか、と。
でここで一番やばいのがその情報収集をメディアからっていう一番安易な方法。
だってさ、と言わせてもらえば、メディアなんていうケチな業界で社畜やってるアホどもが、
そんな耳寄りな情報を持っている訳がないし、そういう情報を持っている奴は極力そういうメディアの奴らを毛嫌いしてるから、
絶対に情報なんて漏らさない筈なんだよね。
あるいは、メディアにチンコロする奴らを毛嫌いしている筈。
という訳で、情報はいつも口コミ。これに限る。
でその口コミの情報をどうやって仕入れるか。
つまりは、信頼できる仲間とどうやって知り合うか、ってのが実は一番一番大切であったりもする。
そこで一番気を付けなくっちゃいけないのが、メディアやらなにやらの受け売りをさも自分のことのように吹聴するアホ。
あるいは、参考書の問題を一問目から解いていくように、ガイドブックを丸暗記してるような駄目な奴。
こういう奴らの口車にのせられると本当の本当にバカを見る。
つまり、信じられるのは実際にその場に行って自分のその目で見てきた奴、
そういう本ちゃんの奴から本音のところというやつを聞き出す、というのがもう死活問題的に大切になってくる。
これはその後、どうやって武器を仕入れるか、から始まって、どうやってどこのコマンドに潜り込むか、から、
どこがやばくてどこが安全か、から、と、まさに情報こそが命を左右するもっとも重要なものになる訳で、
ぶっちゃけ、信頼できるやつから本音の言葉を聞き出す、これにまさるものはなし。
で、ひとたびそういうことをやってしまうと・・・つまりは、どうでもいいことを偉そうに、さも自分がなにかやったように吹聴するアホ、
つまりはこのインターネットによくいる薀蓄バカ、みたいなのが、本当の本当にキライになる、というか、そう害悪みたく思えてくる訳で、
そのように、どうでも良い奴と、本当の本当に使える奴、をどうやって見抜くか、という能力を鍛えることがまず第一。
その過程からして、戦場で生き残るためのとても大切なレッスン、という訳で、日本を一歩出たところからすでに戦場が始まっているというのはそういう意味なのです。
で、改めて言えば、それができないぐらいのやつは戦場に行っても多分すぐに死ぬことになる。
間違った情報は身を滅ぼす。信じられるのは信じられる仲間のみ、と。
どう、人間って大切でしょ?コミュニケーションって大切でしょ?
そう思うと、例えばこのインターネットの掲示板とかにいい加減な御託並べているやつがどれだけ駄目な奴かってすぐに判らない?
どう?日本でてよかったでしょ。つまりはそういうことなんだよ。
という訳で、ならどうやってそんな使える友達に知り合えるか、なんだけど、少なくとも俺の時代には、日本人でわざわざ戦場に行きたがる、なんて輩は早々とお目にかかれなかったので、情報源と言えばつまりは外人ツーリスト。
それもとびきりたちの悪そうな連中のそのまた上を行くような、本当に本当にやばそうな連中。
つまりは犯罪者半分、というか、実際にまじでただの犯罪者だったりもする訳で、
そんな連中の中にどうやって入り込むか、ってのがまあ必要になる訳で、そしてそんなギャング団みたいな連中にどうやって自分を信頼させるか、ってのがまた大変。
で、ギャングのイニシエーションじゃないけど、質問を受ける訳だ。
なぜお前は戦場に行くのか、いったい戦場になにを求めているのか、
基本的な戦闘訓練は受けているのか、戦場で死なないためにはどうしたらよいか知っているのか?
そういう問いをなんどもなんども繰り返されることになって、もちろんそれは英語、あるいは、時としてフランス語で答えなくてはいけない訳で、なみの英語力ではまったく追いつかない。
がしかし、そう、ここでまた大切なこと。しかし、それを疎んじてはいけない!ってことでつまりはこれは試験なんだよね。
まずはその英語力。
この先、日本人なんてまったく宛てにならない、とわかっている以上、情報収集はつまりは英語。でその英語能力がなければ盲滅法に地雷原に突っ込むようなもので、これでは命がいくつあっても足りない。つまり、英語の喋れない奴はそれだけ命のリスクが増える、という訳で、英語こそはまさに死活問題。
英語が喋れないと、戦場で死ぬどころか、その場所に辿りつけない訳で、
あるいは、英語さえ喋れないちょろい奴、と思われた途端、そのあたりのちょろいチンピラに騙されて裸に剥かれて埋められる、
ってなことを、実際にこの目で見てきた。
まずは同じ客人同士でのチームワークを固めること。
が心配はいらない。日本人ほど海外の連中は仲間意識が希薄じゃない。
一度バディとして貰えれば、余程のことがないかぎり必ず力になってくれる。
そうやってつるんで歩いていたツーリスト同士の友情から、俺はなんども危ないところを危機一髪救い出されていたりする。
ちゅうわけで、そう、まずは英語だよ。
そのためにも、掲示板にくだらないことを書き込んでいる暇があれば、英語を勉強したほうが身のため。
死なないためにはまずは英語を学ぶ、ってのが一番の近道。
というわけなんだが、実はここでまた関門。
そんなツーリスト仲間の中に、かならずどこぞのSPY、というか、まあ言ってみればどこぞの情報部の奴なんてのが紛れ込んでいたりする。
その犬をどうやって見分けるか、ってのがまたあったりもする訳でさ。
まあでもこれはどこにでもあるでしょ?
日本でもちょっと悪をやっていれば、ふかしこいてるやつ、ちくり屋、裏切り者、度胸のあるやつ無いやつ、つまりいざという時に頼りになる奴、ならない奴、
そして、そう、つまりは、信じられる奴、られない奴。
この人を見抜く、ってのがまさにまたまた死活問題という訳で、言語に関係なく、人種に関係なく、馬が合うやつ、あるいは、好きな奴キライな奴を見抜くのはとても大切。
でさ、旅ってすごく不思議なもので、そうやって周りに集まってくる奴って、まったくもって、自分自身とおなじレベルの奴、というか、似たもの同士ばっかりなんだよね。
で、自分の周りに似たもの同士を集めておけば、違う匂いのする奴=SPY、とすぐに判る訳で、そういう人の見分け方、というかリトマス紙をちゃんと作っておいたほうが良い。
山=川、じゃないが、似たもの同士にしか判らない暗号みたいなのあるでしょ?それがまさにいざという時の最後の綱になったりもするので、要チェック。
で、そうやって旅を続けている間に、ふと見れば、そう周りにはまさに似たもの同士、それも同じような目的を持つやつばかりになっている訳で、
ここまで来て始めて、
やあ、ってな奴が目の前に姿を現すことになる。
つまり、バディというか、ソウルメイトというか、つまりは運命の出会い。
そいつこそが、共に命を預け合う仲間となる、まさに水先案内人。
自身の心がREADYとなった時に始めて現れるこのバディ。
まさに同期の桜、じゃないけど、つまりは、そう、戦友といえる奴が必ず、必ず必ず現れる筈。
旅って本当に不思議でさ。本当にこれは出来すぎってなぐらいにまで出来過ぎな出会いのドラマが繰り返されるところがあって、
それはまさに一人で旅に出てみなければ判らないんだけど、大丈夫、一人で旅を続けていればそういう奴が必ず現れる。
現れないうちはまだ自分自身がREADYになっていないんだな、とかんがえるべし、と。
運命を信じなさい、と言ったところ。
改めて言うと、戦争は一人ではできない。
とくに義勇軍、というか、面白半分に外から覗きに来ました、みたいな連中は本ちゃんの中にあっては必ず浮く。
浮いた奴は一番最初に狙われる訳で、そういう輩とは誰もあまり付き合いたがらない訳で、下手をすると、危機的状況において、ハブにされたり下手をすると見殺し、あるいは生贄にされたりもする。
なので、まず必要なのは仲間。どいつが味方でどいつが敵か、を冷静に判断するためにも、絶対に仲間が必要な訳で、つまりはくどいようだが、人を見抜く力ってのがどこの局面でもとてもとても大切になる。
ちゅうわけで、下らない掲示板にバカな書き込みをするよりは、この仲間の作り方を今の内に練習しておいた方がよいと思う。
とまあ、ここまで書いて来たことは、わざわざ戦場に行かなくても、戦場に向かうまでの間に旅の中で十分に練習することができる、というか、まあそれこそが旅そのもの。
言葉を学び、異文化を受け入れ、互いを尊重し、好きなもの、キライなもの、必要なもの、必要でないものをしっかりと判断し、つまりは、良い悪い、を自分自身できっちりと決める、見極める力、というか。
どう?なにもかもが日本での常識と違うでしょ?
そう、なぜかと言えば、日本は個人になることが許されない国。良いか悪いかを自分でキメてはいけない国。
そして、ひとたび日本を出たらそのまったく逆。良いか悪いか、は自分が自分の判断、あるいは運命に従って決める。
そこのところがとてもとても大切。そして、その言ってみれば自立、そして、自律、がしっかりとできるようになって始めて、戦場のような極限の中で、自分ひとりだけになっても絶対に生き延びる、という能力が備わってくる、という訳でさ。
それをつまりは、強さ、というのではないか、とおもってるんだけど、どうよ。
で、間違って欲しくないのは、この強さ、というのは、なにも拳、あるいは体力だけではないってことで、
運もそうだし、コミュニケーション能力もそうだし、身体はちっちゃいけどやたらと度胸のあるやつも居れば、図体ばかりでかくて、まるっきりのチキンってやつも多いし、
良い大学は出てるが自分自身でなにかを判断するっていう決断力がまるでなかったり、あるいは、中卒のくせにやたらと頭がよい、つまりは人のことをよく見ているという奴も居るわけで、
つまりはそれすべてが強さ。
冗談がうまいやら、料理がうまい、やら、歌が上手い、やら、戦場において、戦いとは全く関係ないそんなおかしな才能を頼りに生き残った奴もたくさんいるんだよね。
なので、とりあえずは己のなにが得意かってことをよく考えて、そして己の特技を最大限に使って周りの人々に尽くす、力になる、という、まあ人間社会の基本なんだけどさ。
つまり、戦場で死にたくなければ己をよく知って、その才能を磨く、ということな訳でさ。
まあそんなこんなで、明確なこと、具体的なことはまったく書いてないが、
どこにも書いてないが実はこれが一番大切ってなことを書いたつもり。
後はまあ、とりあえず現地に行ってみて、そこで知り合った奴から人づてに情報を集めて選別し、仲間を集めて潜り込めるところから潜り込んでいく、と、まあ、なんというかそれってただの処世術、ということにもなる訳なんだけどね。
で、最後に種明かし、というか、まあ俺の場合、なんだけどさ。
先にも書いたけどすごく不思議なもので、旅に出てると似たもの同士、というか、似たような連中がこれでもか、と訪ねてくる訳で、彼の地に行った時にも、バスを下りたところから、やあ、とやって来た奴が実にソウルメイト。そこから一緒に歩き始めて、どこ泊まる?から始まって、辿り着いたのはまさにそんな奴らの溜まり場。
で、その溜まり場でも気の合うやつ合わない奴が居るわけで、そのバス停であったソウルメイトと情報を交換しながら、さぐりを付けて行って、ガセと本ちゃんの情報を仕分け、とやっていった訳で、一緒にパスポートを捨てて、一緒に荷物を預けて、さあ、これで死ぬ時は一緒だ、と共に旅立った、という次第。
そこから始まった戦場、つまりは、異次元への旅。
次から次へとそんな輩、つまりはソウルメイトというかバディが俺の前に姿を現してはあらたなる局面に俺を誘って行った訳で、いまから考えてもよくも俺は帰ってこれたなあ、と思っているのだが、つまりはそう、そんな出会いが俺を救い続けてくれた、というか、つまりはそんな奴らに守らていただけの話なんだよな、と今になって思う。
こう言ってしまうと、なんだよ、ぜんぜん参考にもなんにもならねえじゃねえか、と言われるのは承知なんだが、現実って得てしてそんなもの。
俺には俺の旅、あるいは人生しか送れないように、あんたにはあんたの人生しか送れない。つまりはそれが運命というやつで、それは人それぞれに違う。
ちなみに俺よりもちょっと早く戦場に旅だった日本人は国境の峠を越える前に地元のギャングに拉致られて身ぐるみ剥がされて帰ってきた。
あるいは公安に騙されて麻薬不法所持だかなんだかよく判らない罪状を押し付けられてムショに打ち込まれたまま闇から闇へってな話も聞いたし、
トラックを下りた途端にいきなり命中しちゃってそのまま捨てられたなんて話も聞いた。
あるいは、日本から鳴り物入りで現地入りした行動派右翼の人々が、現地のコマンドにまったく相手にされず、足元に機関銃を乱射されて踊れ踊れ、とやられた、なんて話も聞いた。
そんな中、五体満足で帰ってこれた俺はなんともラッキーだった訳だが、なんてことはない、それほど危険な場所にさえもたどり着けなかったんじゃねえのか、このチキンヤロウ、と言われれば、ああたしかにそうだね、としか返す言葉もなく。
そして、国境を越えた時、俺はもう、本当に、心の底から、もう、戦争はこりごりだ、まじで勘弁して欲しい、と思った。
もう観たくない。もうなにも観たくない、と、友を見捨てて遁走した挙句、追われたダチョウが砂につっこむみたいに、そういう現実から逃げ回て来た訳で、そんな状態になった俺の前にも、またしてもソウルメイトが現れては、熱を出してうんうんうなされる俺を看病してくれた、なんてことさえもあって、まさに、俺は世界の人々に足を向けては寝れない訳だ。
そうなんだよね、俺ってほんと、どこに行っても誰かに助けて貰って生きてきてるんだよな。別にどこに行っても誰かすがれるやつを探してるつもりはぜんぜんないんだけどさ。
ピンチに陥ると、いつも決まってブラウンシュガーが流れ始めて、馬鹿野郎、ロックンロールだ、怖いものなんかないぜ、とやっているところに、やあ、となんとも魅力的な笑顔を浮かべた奴がやって来る、と。
まあでも、そういう奴が現れないということは、逆に俺がピンチに陥っていない、という訳で、ブラウンシュガーが鳴り響かないうちはまだまだ大丈夫、とも思っている。
という訳で悪い、ぜんぜん参考にならなかったかもしれないが、まあ俺はそうやって生きてきた、というか、はーい、戦争見てきました、鉄砲も撃ちましたよ、死体もたくさんみました、でももうこりごりっす、ぐらいがお土産、という程度なのかな。
ちゅうわけで、まあ〆というか、結論どころかなんの参考にも、教訓にもならないだろうが、まあそういう手もあるぜ、みたいな感じで。
ただ、日本を出たことを後悔したことは一度もないな。
あのまま行ったら、多分俺は今頃、と思うほうが怖い。
まあ一度やってしまったことはもう取り返しがつかない訳で、あの時もしこうしていれば、なんて考えても無駄なことは一切考えないようにしているんだが、まるでパチンコ球が釘に弾かれてあっちこっちに跳ねまわっては、収まるところに収まるように、収まり場所を探していまだにピョンピョン弾き飛ばされ続けている、ってのがまあいまの俺。
そしてどこに収まるか、はいまだに誰も判らない、と。
ってな訳で、そうそう、言いたいことがもう一個。
日本でどうしても波長が合わなかった俺が、戦争行ったり、スラムうろついたり、ヤクにはまったり、死にかけたり殺されかけたり、殺しかけたり、といろいろやってきたんだけど、そんな俺が世界で唯一、精神的な均衡が保てる街、つまりは俺が俺として誰の目も気にせずに自由気ままに好き勝手に、そしてごきげんに暮らせる街ってのが、ここニューヨーク。
別にニューヨークでなにをしてるわけでもない訳で、ともすると、オレってなんでこんな街にしがみついているんだろう、とは思うのだが、一歩この街を出た途端に、いきなりそこかしこがおかしくなっていくわけで、そっか、オレはもうニューヨークにしか住めないんだな、と実感して帰ってくることになる。
なんとなくこの街って世界の全てっていうか、テンションもダレダレも、戦場も東京もすべていっしょくた、というか、そう、世界の全てがつまったまさにおもちゃ箱。
戦場よりもおもしろい、と思えた唯一の場所なんだよね。
まあ、観光で一週間、遊びまわって帰るのと、実際にこの街で金を稼いで家賃を払ってってのとではぜんぜん違うんだけど、そこまで苦労してもこの街を離れられないってのはつまりはそういう理由。
ちゅうわけで、そう、昔のオレのような人たち。
日本と肌が合わずに、ひきこもっちゃったり、暴れてみたり、脱法ドラッグ追いかけたり、掲示板に下らない落書きしたりとかしてるやつ。
騙されたとおもって、世界に出てみたほうがいいぜ。
あんたに合う街ってのがきっと見つかる筈。

いじめ産業 あとき
このSTAP狂騒がちょっとあまりにも情けなさすぎて、
なんだよ日本人ってここまで駄目な奴らに成り下がったか、と思っていたら、
ようやくこんなブログを見つけた。
武田邦彦 STAP事件簿
この武田という先生が、いったいどんな人なのか、礼によってまったく知らないのだが、
なんだよ、ようやくまともなことを言うひとが現れたな、というのが正直なところ。
国外から国を憂う身としては心底ほっとした気分だ。
がしかし、なにを血迷ったか、こういうまともなことを言う人までが、
「ひねくれ者」やら「目立ちたがり屋」などと罵倒されているようだ。
あのなあ、と。
ってことはなにか、人とちょっと違うことを言ったら、それだけでひねくれものな訳か?
だったら、訳も判らずう人とおんなじこを言ってる奴はひねくれ物ではない、つまりは許されるという訳か。
バカもいい加減にしろ、といいたい。
だとすれば、ひねくれ物というのは、まったくネガティブな意味は成し得ないわけだ。
ひねくれ者バンザイ、と声を大にして言ってやろうじゃないか。
あるいは俺は、世界中の子どもたちに、世界一のひねくれ者になれ!と言うだろう。
愚民の言うことは気にするな。奴らは人の言ったことをオウム返しにして正義を気取ることしかできない。
そんな奴らの言うことに耳を傾ける必要などなにもない。
お前は、お前にしかできないことをみつけてそれを極めろ。それを邪魔するものは一切気にするな。
俺は、それを人類に対する愛、そして、尊敬、あるいは、尊厳だと思う。
改めて、言えば、この下らない狂騒の中で感じたのは、この国の国民の、あるいはそれを焚きつけて扇動するマスゴミの民意の低さである。
訳が判らないが、どういう訳か、なにか悪いことをしたようなこの可愛いか可愛くないか判らない理系のおんな、ええい、なんでもよい、取り敢えず囃し立ててやれ。
あのなあ、お前らのやってることはまったくその程度のことだ。
サル山でキャーキャー叫んでいるクソまみれの猿となにも変らない。
この狂騒は、民意が高いことを自称しながら、実はその程度の知能しか持ち得ないこの国の人々の、その想像力の欠如、というものを、これでもか、というぐらいに世界に露呈することになった、ということに、こいつらは気がついているのか?
改めて言えば、
つまりこの武田という人も言ってるように、
なにもないところから何かを生み出すことを宿命とする人と、
人のやったことを焼きなおすことしかできないもの、あるいは、あーだこうだいう人、つまりは、日本で量産されたあの人畜無害なロボトミー達=マニュアル人間とは根本的に違う。
違うのはなにかと言えば、その生きる姿勢、というか、つまりはポジティブさ、つまりはパワー、そう、元気!なのである。
新しいものを生み出す人にとって、なによりも必要なのはパワーである。
その創作者、あるいは、発見者のパワーの邪魔をしてはいけない。
あるいは、邪魔をする人などはなから無視してしまって構わない。
人のやったことを追いかけるしか能のないひとは、道なきところに道を作る人々の苦労や喜びなどはなにも判らなのだ。
一瞬先は闇の中を一人歩きで歩き続ける人々を、孤独とは言ってはいけない。それこそが孤高なのだ。
孤高は尊いものだ。俺はその孤高を、人の中でもっとも尊いもの、とかんがえる。
時として、道を極めるもの、つまりは、極道、と言い間違えてしまうこともあるが。
99%の闇の中にたった1%の灯りを求めて突き進む人。
その廻りでなんのかのと無駄口を騒ぐ奴は、ただの「やみくろ」。邪悪なゴキブリだ。
我々愚民は、そんな孤高の人々、あるいは道を極めようとするものを敬うべきなのだ。
あるいは、一刻も早くその次元に到達できるように、あんたの大好きなそのマニュアルとやらをすべてをコンプリートするべきだろう、と。
少なくともそれができるまでの間は、孤高の人々の足を引っ張るような真似だけはしてはいけない。
マスゴミもいい加減に自重しろ。お前らはこの国の人々のすべてを物笑いの種にして金を儲けているつもりだろうが、このグローバルな世の中、下手をすれば国際信用に関わるぞ。すべての記事を署名記事にしろ。つまり自分の仕事にきっちりと責任をとったらどうだ。
わたしは馬鹿で無能であるがために、いじめを煽って銭を儲ける国賊のなになにです、私達の子どもたちがどうなろうがてめえが小銭を儲けられれば知ったことではない、人間のクズのそのまたクズのなになにです、とそう書け。
なんだよ日本人ってここまで駄目な奴らに成り下がったか、と思っていたら、
ようやくこんなブログを見つけた。
武田邦彦 STAP事件簿
この武田という先生が、いったいどんな人なのか、礼によってまったく知らないのだが、
なんだよ、ようやくまともなことを言うひとが現れたな、というのが正直なところ。
国外から国を憂う身としては心底ほっとした気分だ。
がしかし、なにを血迷ったか、こういうまともなことを言う人までが、
「ひねくれ者」やら「目立ちたがり屋」などと罵倒されているようだ。
あのなあ、と。
ってことはなにか、人とちょっと違うことを言ったら、それだけでひねくれものな訳か?
だったら、訳も判らずう人とおんなじこを言ってる奴はひねくれ物ではない、つまりは許されるという訳か。
バカもいい加減にしろ、といいたい。
だとすれば、ひねくれ物というのは、まったくネガティブな意味は成し得ないわけだ。
ひねくれ者バンザイ、と声を大にして言ってやろうじゃないか。
あるいは俺は、世界中の子どもたちに、世界一のひねくれ者になれ!と言うだろう。
愚民の言うことは気にするな。奴らは人の言ったことをオウム返しにして正義を気取ることしかできない。
そんな奴らの言うことに耳を傾ける必要などなにもない。
お前は、お前にしかできないことをみつけてそれを極めろ。それを邪魔するものは一切気にするな。
俺は、それを人類に対する愛、そして、尊敬、あるいは、尊厳だと思う。
改めて、言えば、この下らない狂騒の中で感じたのは、この国の国民の、あるいはそれを焚きつけて扇動するマスゴミの民意の低さである。
訳が判らないが、どういう訳か、なにか悪いことをしたようなこの可愛いか可愛くないか判らない理系のおんな、ええい、なんでもよい、取り敢えず囃し立ててやれ。
あのなあ、お前らのやってることはまったくその程度のことだ。
サル山でキャーキャー叫んでいるクソまみれの猿となにも変らない。
この狂騒は、民意が高いことを自称しながら、実はその程度の知能しか持ち得ないこの国の人々の、その想像力の欠如、というものを、これでもか、というぐらいに世界に露呈することになった、ということに、こいつらは気がついているのか?
改めて言えば、
つまりこの武田という人も言ってるように、
なにもないところから何かを生み出すことを宿命とする人と、
人のやったことを焼きなおすことしかできないもの、あるいは、あーだこうだいう人、つまりは、日本で量産されたあの人畜無害なロボトミー達=マニュアル人間とは根本的に違う。
違うのはなにかと言えば、その生きる姿勢、というか、つまりはポジティブさ、つまりはパワー、そう、元気!なのである。
新しいものを生み出す人にとって、なによりも必要なのはパワーである。
その創作者、あるいは、発見者のパワーの邪魔をしてはいけない。
あるいは、邪魔をする人などはなから無視してしまって構わない。
人のやったことを追いかけるしか能のないひとは、道なきところに道を作る人々の苦労や喜びなどはなにも判らなのだ。
一瞬先は闇の中を一人歩きで歩き続ける人々を、孤独とは言ってはいけない。それこそが孤高なのだ。
孤高は尊いものだ。俺はその孤高を、人の中でもっとも尊いもの、とかんがえる。
時として、道を極めるもの、つまりは、極道、と言い間違えてしまうこともあるが。
99%の闇の中にたった1%の灯りを求めて突き進む人。
その廻りでなんのかのと無駄口を騒ぐ奴は、ただの「やみくろ」。邪悪なゴキブリだ。
我々愚民は、そんな孤高の人々、あるいは道を極めようとするものを敬うべきなのだ。
あるいは、一刻も早くその次元に到達できるように、あんたの大好きなそのマニュアルとやらをすべてをコンプリートするべきだろう、と。
少なくともそれができるまでの間は、孤高の人々の足を引っ張るような真似だけはしてはいけない。
マスゴミもいい加減に自重しろ。お前らはこの国の人々のすべてを物笑いの種にして金を儲けているつもりだろうが、このグローバルな世の中、下手をすれば国際信用に関わるぞ。すべての記事を署名記事にしろ。つまり自分の仕事にきっちりと責任をとったらどうだ。
わたしは馬鹿で無能であるがために、いじめを煽って銭を儲ける国賊のなになにです、私達の子どもたちがどうなろうがてめえが小銭を儲けられれば知ったことではない、人間のクズのそのまたクズのなになにです、とそう書け。
「犬の自己認識について」
我が家には沢山の鏡があるが、
果たして我が家の犬がそれに関心を持つことはない。
そこであらためて、犬の自己認識について考えてみる。
犬は自身をどう認識しているのだろう。

あるいは、人間がもし鏡や硝子、或いは水面が無かったとすれば、
自身をどのように、また、どうやって、認識するのだろうか。
当たり前のことながら、自分の目で唯一見ることのできないもの、とは、つまりは自分自身である。
自身の顔や後姿こそは、普段から周りの誰もが知っていながら、自分自身だけは見ることのできないもの。
自分で一番良く知っているつもりの自分自身を、実は自分が一番良く知らなかったり、もする訳だ。
例え鏡が無くても、相手を前にして、その大きさや重量などはある程度比較することはできる。
或いは顔以外のパーツのみであれば、その違いが判ったりもするだろうう。
がしかし、例えば相手の鼻の形の違い、とか、目の色がどうか、とか、
あるいは、口の大きさやホクロ、そしてそう、似た顔をしている、とかそうでないとか。
実は鏡の上で予め自己認識が成されていないと、ほとんどが判らない筈なのである。
そんな中で、例えば犬はどうやって自身を認識しているのだろう。
俺にはこいつと、そしてこいつの対峙している犬を当然のことのように比較できるが、
当の犬同士は自身と相手とを比較できない筈なのである。
がしかし、犬は自分自身で自己を確認しようとしない。
或いは、それを鏡、つまりは視覚に頼らない。
これはしかし、なんとなく不思議である。
そして改めて思いつくのは、実は犬は自意識がない、或いはそれを必要としていないのではないだろうか。
ってことはだ、
つまりそれって犬は自己認識がない、あるいは必要ない。それでなけば、既に別な方法で自己を認識しているってこと?
そう思った時には、犬の住む世界の不思議、あるいは、深みに触れたような気にならないだろうか。
とそんな時、ふと、古の昔にインド亜大陸を彷徨っていたころ、片目片腕のジョニーという乞食から言われた言葉を思い出した。
俺は鏡を信じない。
なぜってここにはろくな鏡がないからだ。
ここの鏡は全て歪んでいてまったくあてにすることができない。
映るものは嘘ばかりだ。
それを信じる輩もいるがね、
それを常識と定義する奴もいるが、
しかし俺はそれを信じない。
この鏡は歪んでいるんだ。
そう思っている。
そんな鏡のない世界で、俺がいったいどうやって自分自身を認識することができるかって?
それはな、お前さ。
とその片目片腕の乞食は言った。
俺の鏡はおまえなんだ。
俺はお前の瞳を通して俺自身を見る。
俺を前にしたお前の表情で、俺がいったいどんな顔をしているのかを探すんだ。
お前が笑っていれば、俺はたぶん笑っているのだろう。
お前が不機嫌な顔をしていれば、俺もたぶん不機嫌な顔をしている筈だ。
お前が顔をしかめれば、俺にはお前に嫌われるなんらかの原因があるのだろうし、
あるいは、俺達がこうして顔を突き合わせてのもね、
つまりは俺たちがお互いになにかあるってことなんだよ。
それはつまりカルマ=業という奴なのかな?
いや、俺は字が読めないんでね、難しいことはよく分からないが、ほら、例えば、
とまるで壁に開いた穴から中を覗き込むように、
ほら、こうしてみれば、そう、お前のその黒い瞳の中に、ほら、俺が映っているじゃないか。
そしてその俺の瞳の中に、俺が映っているだろう。
お前は俺の鏡。そして俺はお前の鏡。
幸せになりたければ、まずはお前の目の前にいる人間に笑いかけることだ。
旅の間、俺はジョニーに言われたその言葉 ~ YOU ARE MY MIRROR についてずっと考え続けていた。
そしてことあるごとに、それを実践し、そして俺の周りの世の中はいつの間にか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、少しはまともに回るようにもなった、と感じたものだ。
と言う訳で、鏡の無い国に生きる男・ジョニーに言われたこの言葉。
YOU ARE MY MIRRORを、ふと、我が家の駄犬にもあてはめてみた。
つまり、犬が笑っている時には、俺が笑っているから犬も笑っているのである。
俺が犬が不機嫌なのは、俺が不機嫌な顔をしているからなのだ。
そしてそれは犬もしかり。つまり、犬自身も、自分の存在が周りに与える影響をよく知っているのではないだろうか。
そして犬は、周囲の人々のそんな表情によって、自分自身がこの世にとっていったいどんな存在であるのかを知ろうとしているのではないだろうか。
犬の自己認識とは、つまりは あなた自身であるのかもしれない。
そして、それに加えて犬のすぐれた感覚である。
そのすぐれた嗅覚に寄って、人間の感情の変化、それに伴う発汗作用の匂いをかぎ訳、
そのすぐれた聴覚から、息遣いの乱れから、心臓の鼓動の変化までを聞き分ける犬。
顔で、あるいは、言葉で、どれだけ誤魔化そうとしても、犬のそんな感覚を騙すことはできない。
と言う訳で、犬である。
今日も笑っている。思い切り笑っている。まさに幸せ一杯に笑っている。
あのなあ、と時として思わずため息をついて、お前はいいねえ、いつも笑っていて。俺はそんな場合じゃぜんぜんなかったりするんだけどね、とため息をつきながら頭を撫でる時、
ねえ、だから、とまるで語りかけるように片手を上げて肩を叩く。
だから、笑えって。そういう時こそ笑うんだよ。ほら僕を見ろよ。ほら、笑えって。一緒に笑おうよ。
そして俺は思わず笑ってしまう。判った判った。可愛い奴だよな。
そして犬の瞳の中に、笑っている俺が映っていたりするのである。
犬の自己認識とはなにか。
あるいは、人間を含めた上で、自己認識とはなんなのだろう、と改めて考える。
或いは、犬にとって、自己認識、あるいは、自己というものは実はそれほど大切なものではないのではないだろうか。
自分があって、あなたが居て、なのではない。
そんな自己、あるいは、自意識などに拘るな。
まずはあなたがあって、そこに自身が映る。それが自分自身なのだ。
それこそが、まさに、片目片腕の乞食であったジョニーの言った言葉なのだ。
己の自意識の殻を破り、心を開け。隣人を愛し、信頼しろ、ということなのだ。
なんともやさしい言葉である。
そんな優しい言葉を、一介の不良ツーリストであった俺に与えてくれたジョニーとはいったいどんな男だったのだろうか。
がしかし、あの言葉を聞いたとき、はっとした俺の顔と、そんな俺を見て、さも得意そうに片方だけの目を細めて笑ったジョニーの表情はいまも俺の心に刻み込まれている。
つまりジョニーは、俺の表情の中に、彼が俺に与えた愛が広がっていくのを観たのだ。
そしてその愛が、ジョニーの元にも帰っていくのを俺はこの目で見た。
旅の出会いに限らず、あるいは、犬と人間との付き合いに限らず、
人間と人間との付き合い、あるいは、世間とは、すなわちそんなものなのではないか、
と思い返してみる。
自意識など、自己認識など、どうでも良いではないか。
大切なのは自分、ではない。自分を含めた上での回りの人々全てなのだ。
さあ、笑えよ、と犬が言う。さあ、そんな時こそ、笑えよ。僕を見て、僕の笑顔に笑顔で返してよ。
犬がとてもとても大切なのは、そのことを俺に思い出させてくれるからなのである。
つまりは、そう、犬のその姿こそが、自意識に邪魔されることの無い本当の姿なのだ。
犬は心の鏡。そう思ってもう一度犬の顔をみつめてみないか?
果たして我が家の犬がそれに関心を持つことはない。
そこであらためて、犬の自己認識について考えてみる。
犬は自身をどう認識しているのだろう。

あるいは、人間がもし鏡や硝子、或いは水面が無かったとすれば、
自身をどのように、また、どうやって、認識するのだろうか。
当たり前のことながら、自分の目で唯一見ることのできないもの、とは、つまりは自分自身である。
自身の顔や後姿こそは、普段から周りの誰もが知っていながら、自分自身だけは見ることのできないもの。
自分で一番良く知っているつもりの自分自身を、実は自分が一番良く知らなかったり、もする訳だ。
例え鏡が無くても、相手を前にして、その大きさや重量などはある程度比較することはできる。
或いは顔以外のパーツのみであれば、その違いが判ったりもするだろうう。
がしかし、例えば相手の鼻の形の違い、とか、目の色がどうか、とか、
あるいは、口の大きさやホクロ、そしてそう、似た顔をしている、とかそうでないとか。
実は鏡の上で予め自己認識が成されていないと、ほとんどが判らない筈なのである。
そんな中で、例えば犬はどうやって自身を認識しているのだろう。
俺にはこいつと、そしてこいつの対峙している犬を当然のことのように比較できるが、
当の犬同士は自身と相手とを比較できない筈なのである。
がしかし、犬は自分自身で自己を確認しようとしない。
或いは、それを鏡、つまりは視覚に頼らない。
これはしかし、なんとなく不思議である。
そして改めて思いつくのは、実は犬は自意識がない、或いはそれを必要としていないのではないだろうか。
ってことはだ、
つまりそれって犬は自己認識がない、あるいは必要ない。それでなけば、既に別な方法で自己を認識しているってこと?
そう思った時には、犬の住む世界の不思議、あるいは、深みに触れたような気にならないだろうか。
とそんな時、ふと、古の昔にインド亜大陸を彷徨っていたころ、片目片腕のジョニーという乞食から言われた言葉を思い出した。
俺は鏡を信じない。
なぜってここにはろくな鏡がないからだ。
ここの鏡は全て歪んでいてまったくあてにすることができない。
映るものは嘘ばかりだ。
それを信じる輩もいるがね、
それを常識と定義する奴もいるが、
しかし俺はそれを信じない。
この鏡は歪んでいるんだ。
そう思っている。
そんな鏡のない世界で、俺がいったいどうやって自分自身を認識することができるかって?
それはな、お前さ。
とその片目片腕の乞食は言った。
俺の鏡はおまえなんだ。
俺はお前の瞳を通して俺自身を見る。
俺を前にしたお前の表情で、俺がいったいどんな顔をしているのかを探すんだ。
お前が笑っていれば、俺はたぶん笑っているのだろう。
お前が不機嫌な顔をしていれば、俺もたぶん不機嫌な顔をしている筈だ。
お前が顔をしかめれば、俺にはお前に嫌われるなんらかの原因があるのだろうし、
あるいは、俺達がこうして顔を突き合わせてのもね、
つまりは俺たちがお互いになにかあるってことなんだよ。
それはつまりカルマ=業という奴なのかな?
いや、俺は字が読めないんでね、難しいことはよく分からないが、ほら、例えば、
とまるで壁に開いた穴から中を覗き込むように、
ほら、こうしてみれば、そう、お前のその黒い瞳の中に、ほら、俺が映っているじゃないか。
そしてその俺の瞳の中に、俺が映っているだろう。
お前は俺の鏡。そして俺はお前の鏡。
幸せになりたければ、まずはお前の目の前にいる人間に笑いかけることだ。
旅の間、俺はジョニーに言われたその言葉 ~ YOU ARE MY MIRROR についてずっと考え続けていた。
そしてことあるごとに、それを実践し、そして俺の周りの世の中はいつの間にか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだが、少しはまともに回るようにもなった、と感じたものだ。
と言う訳で、鏡の無い国に生きる男・ジョニーに言われたこの言葉。
YOU ARE MY MIRRORを、ふと、我が家の駄犬にもあてはめてみた。
つまり、犬が笑っている時には、俺が笑っているから犬も笑っているのである。
俺が犬が不機嫌なのは、俺が不機嫌な顔をしているからなのだ。
そしてそれは犬もしかり。つまり、犬自身も、自分の存在が周りに与える影響をよく知っているのではないだろうか。
そして犬は、周囲の人々のそんな表情によって、自分自身がこの世にとっていったいどんな存在であるのかを知ろうとしているのではないだろうか。
犬の自己認識とは、つまりは あなた自身であるのかもしれない。
そして、それに加えて犬のすぐれた感覚である。
そのすぐれた嗅覚に寄って、人間の感情の変化、それに伴う発汗作用の匂いをかぎ訳、
そのすぐれた聴覚から、息遣いの乱れから、心臓の鼓動の変化までを聞き分ける犬。
顔で、あるいは、言葉で、どれだけ誤魔化そうとしても、犬のそんな感覚を騙すことはできない。
と言う訳で、犬である。
今日も笑っている。思い切り笑っている。まさに幸せ一杯に笑っている。
あのなあ、と時として思わずため息をついて、お前はいいねえ、いつも笑っていて。俺はそんな場合じゃぜんぜんなかったりするんだけどね、とため息をつきながら頭を撫でる時、
ねえ、だから、とまるで語りかけるように片手を上げて肩を叩く。
だから、笑えって。そういう時こそ笑うんだよ。ほら僕を見ろよ。ほら、笑えって。一緒に笑おうよ。
そして俺は思わず笑ってしまう。判った判った。可愛い奴だよな。
そして犬の瞳の中に、笑っている俺が映っていたりするのである。
犬の自己認識とはなにか。
あるいは、人間を含めた上で、自己認識とはなんなのだろう、と改めて考える。
或いは、犬にとって、自己認識、あるいは、自己というものは実はそれほど大切なものではないのではないだろうか。
自分があって、あなたが居て、なのではない。
そんな自己、あるいは、自意識などに拘るな。
まずはあなたがあって、そこに自身が映る。それが自分自身なのだ。
それこそが、まさに、片目片腕の乞食であったジョニーの言った言葉なのだ。
己の自意識の殻を破り、心を開け。隣人を愛し、信頼しろ、ということなのだ。
なんともやさしい言葉である。
そんな優しい言葉を、一介の不良ツーリストであった俺に与えてくれたジョニーとはいったいどんな男だったのだろうか。
がしかし、あの言葉を聞いたとき、はっとした俺の顔と、そんな俺を見て、さも得意そうに片方だけの目を細めて笑ったジョニーの表情はいまも俺の心に刻み込まれている。
つまりジョニーは、俺の表情の中に、彼が俺に与えた愛が広がっていくのを観たのだ。
そしてその愛が、ジョニーの元にも帰っていくのを俺はこの目で見た。
旅の出会いに限らず、あるいは、犬と人間との付き合いに限らず、
人間と人間との付き合い、あるいは、世間とは、すなわちそんなものなのではないか、
と思い返してみる。
自意識など、自己認識など、どうでも良いではないか。
大切なのは自分、ではない。自分を含めた上での回りの人々全てなのだ。
さあ、笑えよ、と犬が言う。さあ、そんな時こそ、笑えよ。僕を見て、僕の笑顔に笑顔で返してよ。
犬がとてもとても大切なのは、そのことを俺に思い出させてくれるからなのである。
つまりは、そう、犬のその姿こそが、自意識に邪魔されることの無い本当の姿なのだ。
犬は心の鏡。そう思ってもう一度犬の顔をみつめてみないか?

「スモーキー・マウンテンの白い女」
ご質問を頂いたのでお答えします。
これまで一番怖かったことは・・・
出張中、霧雨の夜のスモーキーマウンテンを走っていたところ峠道に白い女がひとりで立っていました。
状況からしてどう考えてもこの世のものとは思えず、そのまま通り過ぎようとしたところ、
こともあろうにその女の幽霊が車に乗ってきてしまいまして。
危うく憑り殺されかける、という体験をしたことがあります。
♪ ♪ ♪
米国東中部にグレート・スモーキー・マウンテンという山脈があります。
スモーキーの由来はいつも雲がかかっていて山全体が煙って見える、ということからで、鬱蒼と茂る森の中、いまもエルクの群れや、時としてブラック・ベアが出没するなど、豊かな自然が手付かずで残された自然公園で、シーズン中には全米各所から自然愛好家たちの集まる観光の名所。
地理的にはこの山脈を挟んで米国の東部と南部が分かれるという意味合いもあり、古くはかのチェロキー・インディアンとの死闘が繰り広げられた場所でもあり、その後の南北戦争時代にはこの土地の各所で激戦が行われたということから、古くからその類の逸話が多数記録されてきた因縁の地としても知られています。
当時、私はニューヨークでエンジニアの端くれをやっておりまして、その仕事の中に、半年に一度、定期点検という名目でこのグレート・スモーキ・マウンテンを挟んで西のテネシー州と東のノースキャロライナ州に点在する顧客先を尋ねる廻る、というものがありました。
まあ定期点検とは言っても、作業そのものはまったく大したことはなく、担当者への挨拶がてら決められた点検項目に従ってバッチを起動して、問題がなければ「異常なし」とやるだけ。
一日のほとんどはただひたすらにフリーウエイをぶっ飛ばして次の客先へと向かうその移動時間。
普段から机に噛り付いての内勤職がどうにも性に合わなかった私としては、この半年に一度の出張旅行は、半ば骨休めの休暇扱いという意味合いも強く、まあのんびりドライブして息抜きしておいでよ、という気楽なもの。
ただ時として異常事態発生、なんてことになると、その後の予定がすべて狂ってしまうという関係上、事前に厳密な予定も立てられず、ホテルの予約も取らぬままにまさに成り行き任せ。誰に気兼ねする訳でもなく、日がな一日お気に入りの音楽を流しながらフリーウエイとぶっ飛ばし、夜が更けると街道沿いにVACANCYと灯りの点いたモーテルを見つけて泊まり歩くという、まさにアメリカならではの出張旅行でした。
そんな訳でこのテネシー州とノースキャロライナ州。
個人的にはやはり断然テネシー州。
黒人音楽の中心地であるメンフィスと、カントリー、つまりは白人音楽のメッカであるナッシュビルを結ぶミュージック・ハイウエイから始まり、かのエルビス・プレスリーの軌跡から、各所に点在する自然公園からと、なんだかんだとこのテネシー州には愉しみが多い。
風景も美しく、飯も美味しく、年間を通じて気候も穏やかなことから、どこかのんびりとした雰囲気があって、そしてとにかく人が優しい。
それに引き換えノースキャロライナなんですが、そんなテネシーに比べるとどうもギスギスした雰囲気があって、やはりここは東部なのだな、と感じることもたびたび。
ちょうどノースキャロライナ側の担当者がちょっと癖のある人だったこともあって、できるだけノースキャロライナ側での滞在を少なくし、仕事が終わったとたんにテネシー側に飛んで帰る、という行程を組むことが多かったです。
でまあ、その時にもなんだかんだでテネシー側のお客さんに引き止められて予定がのびのびになってしまい、ノースキャロライナの客先に到着したのが午後もかなり遅くなってから。なんだかんだと作業しているうちに仕事が終わったのが既に八時過ぎ。無人の駐車場に転がり出た頃にはすっかり日が暮れてしまっていたのですが、どうもノースキャロライナ側で夕食を取ったり宿泊したり、という気にはなれない。
できればちょっと無理をしてもテネシー側に舞い戻っておけば、翌朝の予定にも少し余裕ができる、という訳で、降り出した雨にも関わらず、そのままテネシー側にトンボ返りをすることに決めたのです。
と言う訳で、その雨の夜。確かハロウィンを過ぎサンクスギビングの連休を前にした秋も終わりに近づいた頃だったかと思います。
グリーンズボローを経由してインターステイツ・フリーウエイに乗り、まずはアッシュビルを目指します。
普段はキャロライナ・ブルーと言われる緑の平原と青空の広がる地方ですが、生憎の雨。しかも夜です。
アメリカのフリーウエイというのはなんとも殺風景なもので、行けども行けども同じ風景が永遠と続くばかり。白い車線と先行車のテールランプを追いかけるばかりでなにもすることがない。ついついうスピードを出しすぎてはっとすると100マイルを軽く越えているなんてこともたびたびで、そうでもしなければついうとうとと眠くなって来てしまいます。
がしかし、そこはやはりアメリカ。
アメリカと言いえばやはりハードロック天国という訳で、ガンザン・ローゼズから始まり、モートリー・クルーからメタリカからニルバナからと、とにかく威勢の良い音楽をこれでもか、というぐらいに大音響でかけまくる。
改めてこのハードロックという音楽。
この出張に向けて実に色々な音楽を用意して来る訳ですが、最終的にはやはりこのハードロックに落ち着いてしまうところがある。
まさにアメリカの生んだアメリカの音楽というか、フリーウエイのフォルクローネというぐらいに、この果てし無い高速走行に妙にリズムが合うのです。
と言う訳で、そうこの出張の愉しみと言えば、ハードロックをがんがん聴きながらこれでもかとフリーウエイをぶっ飛ばし、そして夜になればテネシー名物のバーベキューとステーキ。
そして時として、夜更けにちょっと目に付いた怪しげな看板、つまりはそう、トップレス・バーなるところを徘徊しては、朝までテネシー娘たちの甘い香りに包まれてちょっと羽目を外してしまう、なんてこともありまして。
もちろん会社の連中にはそんなこと一言も漏らしませんでしたが、実はこのスモーキー・マウンテンを越えたあちら側のテネシー州。その最初の街となるノックスビルの、その町外れにある鄙びたトップレスバー。まるで野原の真ん中に立った掘っ立て小屋のようなところだったのですが、実はそのトップレスバーにいる女の子たちがまさに絶品。
勿論、ニューヨークで言うところのダンサーたち。まるでスーパーモデルや銀幕の女優さんのようなあの煌びやかな美しさは期待できないのですが、このお土地柄、なんというかサザンチャームというか、どの子もプロのダンサーというよりは、まさにその辺りの女子大生のアルバイトといった風で、実になんともおっとりしているというか、なんというか、とても和める訳です。
半年に一度やってくるおかしなチャイニーズのお兄さん、と私のことを覚えている娘も多く、次にいつ来るか教えてね、なんてメールアドレスを交換したり、その際には勿論ニューヨークのおみやげなんてものも用意したり、となんとも和気藹々のお友達感覚。
出張に出るたびにそのお店に寄るのが愉しみであったこともあり、それを思うと雨だろうが空腹だろうが、長時間労働の疲れなどはすっ飛んでしまう。
と言う訳で、I-40をひた走り、スモーキー・マウンテンの東側の入り口、アッシュビルに着いたのが十一時を過ぎた頃でした。
この先に起きるあのとんでもないことの予兆だったのか、そのアッシュビルの街でもちょっとおかしなことがありました。
ここから峠の向こうのノックスビルの街まで約三時間をかけて山道を越えることになり、もしもの時を思ってガスを入れておこうと思ったのですが、この時間になるとなかなかガススタが見つからない。
灯りの消えたローカル道をとろとろと走ってようやく見つけたガソリンスタンドはまさに潰れかけた納屋のようなところで、まるで壊れた自販機のような給油機でガスを入れていざお金を払おうと店の中に足を踏み入れたところ、レジにひとり立っていた見るからに不機嫌そうなおっさん。テンガロンハットを目深に被ったまま、いらっしゃい、ともハローとも言わず、じっと私のことを睨んでいる。
で、まあ、ガスを入れたのでお金を払いたい、と言えば、顎をしゃくって、そこに金を置け、と。
言われるままにお金をカウンターの上に置きますと、並べろ、と言う。
で、はい10ドルが2枚、5ドルが1枚、と並べてて、なのでおつりが幾ら、と答えますと、
釣りはないからそこにあるガムでもタバコでも持ってけ、みたいなことを言う。
でおかしなことに、どういう訳かこのカウボーイのおっさん、両手を決してカウンターの上に出そうとしない。
いや、あの、社用なのでレシートが欲しい、と言いますと、そのおっさん、いかにも不機嫌そうにちっと舌を鳴らして、おまえ、ベトナム人か、日本人か?と聞く。
で、日本人だ、と答えれば、そうか、なら良い、とちょっと安心した表情。
で、両手を挙げたまま後ろを向け、とかなんとか。
まさか、ガス代を払おうとしたらそのまま強盗に合った、という具合で、いったいなにが起こったのかとも思いましたが、まあそう、ここはノースキャロライナ、あまりごたごたは起こしたくないわけで、言われたとおりにしたところ、ようやくレジの開くチンと言うベルがなりまして、で、ほらよ、釣りとレシートはここだ、と言われて振り返ると、そのカウボーイのおっさんは再び両手をカウンターの下に隠したまま顎だけしゃくるのです。
まあしかし、そうここはノースキャロライナ。テネシーとはやはり色々な意味で違う。
つまりノースキャロライナにはノースキャロライナの常識がある訳なんだろうと勝手に納得して、お釣りとレシートを受け取り、じゃあな、もう来ることもねえよ、と捨て台詞を呟いて店を出ましたところ、背後でゴトリ、というごつい音を聞いたような気がした。
つまり、そう、そのカウボーイ野郎、カウンターの下でずっと拳銃、あるいはショットガンを構えていたのではないか、と思い当たったのです。
まあそう、確かにこんな時間、町外れの鄙びた街道沿いのガススタにひとりでやってくるチャイニーズ。しかも天地を揺るがすような音でガンズン・ローゼズをかけているってのからして彼らにとってはかなり異常なシチュエーションであったのも判りますが、そうか、俺はずっと銃口を向けられていたのだな、と思うと、なんともちょっとぞっとした気がしました。
と言う訳でまあよい。ガスも満タン。
この山さえ越えればあの優しい女の子たちの待つノックスビルに辿りつける訳で、夕飯を抜かした空腹もなんのその。
雨に濡れたフリーウエイを、その霧に包まれた暗い峠道に向けて走り続けたのであります。
暗い山陰に向かうフリーウエイを走り続けるうちに、いつしか辺りは漆黒の闇。
程よいワインディングの続く峠道は、道のコンディションは良かったものの、夜ともなるとヘッドライトに浮かぶ車線のラインも曖昧になり、しかも雨。そしていつしか立ち込めてきた霧に視界がぼやけ初め、ガードレールの向こうにヘッドライトの光が吸い込まれるのを見るたびに、その下へと続く断崖絶壁を思わぬ訳にはいきません。
辺りに他の車の姿も見えず、視界はますます悪くなるばかり。
さすがにちょっと薄気味の悪さを感じてカースレテレオのボリュームを上げた時、ふと見ると、先のヘヤピンカーブのその先、ガードレールにもたれるように、白いワンピースを着た髪の長い女が、ひとり立っている姿が目に飛び込んで来ました。
おんな?まさか・・・
アッシュビルの街を発ってからかなりの道を走っていることから、こんな暗闇の峠道に人が立っているということはまずありえません。
まさか車がエンコして、という状況もありえない訳ではないのですが、別に助けを求めている風にも見えず、ヘッドライトに顔を背ける訳でもなく、ただうつむきかげんにつっ立っているだけなんです。
それに加えて、この冬の始まりを目前にした雨の山道のしかもこんな時間に、おんなが一人薄手のワンピース一枚でぼーっとつっ立っているという状況はなにからなにまでが根本的におかしい。
という訳で、君子危うきに近寄らず、とそのまま通り過ぎようとしたところ、ふと見ればその女の姿はいつの間にか霧の闇の中に消えていました。
正直、いやはや、と思いました。これはこれは・・
さすがに背筋にぞっとするものがあったのですが、まあしかし、多分目の錯覚。
十歩譲ってそれがもしもこの世のものではないなにか、であったとしても、まあそんな話、どこにでもあるじゃないか、と。
雨の夜道でタクシーを拾った女がお寺に行ってください、と言われて着いてみれば、後部座席がぐっしょりと濡れていたのでした、なんてオチがつく、まあいつものやつだろう、と。
やっぱりそういう話は万国共通なのだな、などと呑気に感心しながらも、正直、馬鹿馬鹿しい、と思っていました。
実のところ私はわりとそういう話は信じない、というか、まあ気にしないタイプで、通常であればそんな際どい状況においても、来るならこい馬鹿野郎、と鼻で笑ってしまう方なのですが、そんな時、ふと、背後に人の気配がしたのです。
むむむ・・・!?
恐る恐るバックミラーを覗いてみましたが、見えるのは暗闇ばかり。
おかしいな、気のせいか、と思ったその時、いきなり耳の横で露骨に人の吐息の感触があったのです。
さすがに、びくりとしました。正直、思わず飛び上がりそうになるほどその感覚はリアルなものでした。
全身に鳥肌が広がり、その上からじわっと冷たい汗が滲み初め、んだよ、マジかよ、勘弁してくれよ、と舌打ちをしたい気分でした。
がしかし、そう、気のせい、ということもありえる。
そう、多分、気のせいだろう、と自分に言い聞かせました。
そう言い聞かせながら。。しかしながら、目に見えないだけで、確かに確かに、シートの間から誰かが明らかに、私の肩口から覗き込むように顔を寄せている気配が消えないのです。
無性にタバコが吸いたくなりましたが、タバコに手を伸ばしたところをふと冷たい手で掴まれるような気もして、あるいは窓を開けてみようかとも思ったのですが、窓を開けたとたんにそれこそ、この類のものがわんさか乗ってきてしまう、なんてことも考えてしまい、と余計な想像が次々と浮かんで来ます。
全身の鳥肌は消えるどころかますますひどくなり、身体中にかいた汗が冷え始めて思わずブルブルと身震いがしました。
くそったれ、と思いました。なにが欲しいのかは知らないが、俺になにを言っても無駄だ。俺はそんな遊びに付き合ってる暇はねえんだよ。お化けを怖がるにはちょっと歳を食い過ぎてるって訳でね。だからさっさと降りて他を当たってくれよ、とばかりにカーステレオのボリュームを上げました。
忘れもしないストーン・テンプル・パイロッツの確かブートレッグのライブ盤。
ヘロイン不法所持で逮捕の確定したスコット・ウェイランドが、警官隊をバックステージに待機させながら打った収監直前の超絶ライブ。
これを聴いたら化け物なんていくらでもぶっ飛んでしまうだろう、と思っていたのですが・・・・甘かった。
そう、ここはアメリカ。アメリカだったのです。
ふとすると、背後にいる女の気配があきらかに、まさにあきらかにこの音楽が気に入っている風で、ともするとまさに乗り乗り。YEY YEY!ロックンロール!と言った感じ。
いやはや、しまったな、ロックおたくの幽霊かよ、ありえねえな、と思わず苦笑いをしてしまった訳です。
時間は十二時を過ぎた頃だったと思います。
繰り返しますが私はもともと幽霊を信じるどころか、そんな殊勝な心がけからは最も遠いタイプ。生じっかその辺りのカタギの連中よりは棺桶に片足突っ込んだ化け物半分な輩と居た方が気が和むようなどうしようもないタイプを自認していた人間でして。
恨めしや~と出てくる化け物よりも、もっともっと恐ろしい、つまりはヤクが切れて半狂乱になった輩が手当たり次第に刃物を振り回して、なんていう状況を何度も見てきている訳で、いまさらそんな箸にも棒にもひっかからないような幽霊話に動じるのも馬鹿馬鹿しい。
まあそんなもの出てきたとしても、こんな俺を前にしたら、しまった相手を間違えた、とばかりに逆に愛想を尽かせてばっくれるに決まってる、とたかをくくっていいた訳です。
がしかしながら、実際に明らかにそれに類するものを実際に体験するのも実はこれが始めて。
実際にそんな状況に陥ってしまうと、これはもう信じるも糞もない訳で、まあこれはもうどうしようもない。世の中にはそういう物もまあいるのかもしれないな、と認めざるを得ない。
しかしながら、この状況です。
幽霊を見ただけなら、なあに、目の錯覚さ、でも済んだ筈なのですが、なんと明らかにこの世の物ではないものって奴が、よりのよって勝手に後部座席に乗ってきてしまっている訳で、いざとなってみるといったいどうすれば良いのやら見当もつかない。
しかもその迷惑なヒッチハイカー。よりによってこんなストーン・テンプル・パイロッツなんていう、まったくどうしようもないトラッシュの中のトラッシュのようなバンドがいたくお気に入り、と言った風情で、いやはや、さすがアメリカの幽霊、なかなかやってくれるじゃねえか、と言ったところでした。
という訳で、その後部座席のそのおんな。
人の迷惑も顧みず、座席の間から身を乗り出して、ねえねえねえ、とやってくるわけです。
そのおんなの気配が、露骨に首筋から耳のあたりに顔を寄せて来ている訳で、振り返ったら終わりだ、とは思いながら、やはりどうしても気になってしまう。
がしかし、俺も車を運転中ですし、しかもこんな霧の夜。
ともすると、濃霧の中に車線どころかガードレールまでもが曖昧な状況の中にあって、
幽霊に気を取られているどころではありません。
あるいはどこかに車を停めたとしても、辺りは真っ暗。
そんな中で、下手に車を停めてこの迷惑なヒッチハイカーと対峙させられるよりは、早いところ走るだけ走って、人のいるところに行ったほうが良いに決まってる。
という訳で、全身に鳥肌を立てながらも走り続けていた訳ですが、その女、というより、どうも二十歳前後のお姉さんだった訳ですが、その陰気な風情に似合わず、これがおしゃべり好きで、なんのかんのと話しかけてくる。
まあ勿論、言葉が聞こえるわけではなく、思念、というか、そういうイメージというかストーリーが直接脳みそに流れ混んでくる訳で、と同時に、ともすると俺の考えていることがすーっと抜かれてしまう感覚もある。
でまあ、その女の話。
つまり高校の時に好きだったクオーターバックの男の子がうんちゃらこうちゃら。その後、仕事も見つからずにヤクに嵌って、長距離トラックをやってた男が他に女を作ってうじゃうじゃ、とまあ良くある話な訳で、やれやれ、あんたも馬鹿だね、みたいな感じの身の上話。
で、俺は俺で、実はその時、好きな女がいまして、でその女がいったいなに考えているのか判らなくてさ、みたいな話をしていたのですが、ふとすると、いつの間にか車の速度がどんどん上がっている。
あれあれ、どうしたことか、と必死の思いでハンドルを切るのですが、深夜のそれも雨の中の峠のいろは坂。
そのヘアピンカーブのたびにタイヤが鳴るぐらいに際どいターンを繰り返し始めて、ふとするとまさに暴走を初めている訳です。
必死でブレーキをかけるんですが、急ブレーキをかけてはケツを振り、それをリリースした途端にいきなりタイヤを鳴らして大爆走となるわけで。これはこれは。。
いったいどうしたことか。こんなときに車の調子がおかしくなるなんて。
舌打ちしたい気持ちを抑えながらしかしこんな峠道、インターチェンジなどあるはずもなく、停めるすればまさにあの断崖絶壁のヘヤピンカーブのガードレールの前。
そんなところに停めるぐらいなら、このまま無理して走ってしまった方がずっとましです。
こう見えても私はガキの時分から夜な夜な江ノ島に繰り出してはドラッグレースに明け暮れていたこともあって、実はそんな暴走行為にはちょっとした自信も持っていた。
なので、何んだよ、おもしれえじゃねえか、と逆に悪乗りしているところもありまして。
カーステレオのストーン・テンプル・パイロッツもまさに窓ガラスがひび割れるぐらいの大音響。幸い辺りに車もなく、三車線を使い切ってのスーパー暴走行為を繰り返し、と、歌の通りではないが、まさに地獄へドライブ、上等だ、馬鹿野郎、とまあそんな感じ。
そんな中、女の話はまるで止めどもなく、次から次へと思念の中にその女の抱えていたやるせなさが流れこんで来るのですが、そうかどうもこの女、嫉妬に駆られて男の後を追っていたところ、あのコーナーでハンドルを切り損ねて谷底に消えたらしい。
がしかし、男への想いを断ち切れずに、なんとしてでも後を追わねば、とそのことばかりに凝り固まってなかなか成仏ができないでいる、と言ったところらしいのです。
だからさ、と私は思わず、相槌を打ってしまいました。
だからさ、そういう話って世の中にいくらでもあってさ、一時の気の迷いというか、後で考えてみたらまったく馬鹿なことしたもんだ、で終わっている類の話でさ、などと聞いたような御託を並べて説得しようとはしたものの、そういう俺も、その時に嵌っていた女のことで寝ても覚めても頭が一杯、なんて状態であったことから、まあそう言われて見れば女の気持ちも判らないではない。
がしかし、俺がそんなことを思い始めた途端、どうもその女、そんな俺の話に腹を立て始めたらしく、男ってなんでそうなの、なんでなんで、とぷりぷりとヒステリーを起こし始める始末。
ねえ、その娘、あんたのいい人。いったいどんな人なの?と聞いてくるので、実はね、とその女のことを思い出してみたのですが、その途端です。
幽霊の女がいきなり、ギャハハハ、と大笑いを始めまして。
いまねえ、あんたのそのいい人のところに行ってきたんだけどさ、教えてやるよ、あんたのそのいい人ってのはねえ、まったくどうしようもない女なんだよ。教えてやろうか? 聞かせてやろうか? ギャハハハ。
あんな女に思いを寄せるなんて、あんたはまったく飛んだ大馬鹿野郎もいいところだね、と。
どうもそう言われてみれば実に思い当たる節もあって、やっぱりそうか、と思わずへこんしまった訳ですが、まさにその状態こそが、魅入られる、ということだったのか、と今になって思うのです。
うるせえな。お前だって人のこと言えた義理かよ、なんて、言い返してはみたのですが、
ふとするといつの間にか、そう、大音響で鳴り響いている筈のカーステレオのストーン・テンプル・パイロッツの音が、まるですっと遠退き初めまして。いつのまにかまるで耳を塞いでしまったかのように霞んで行る。
あれあれどうしたことか、と思った途端、まるでそう、貧血でも起こして気を失う直前のような、あの血がすーっと引いていってしまう感覚が襲って来まして、なんとなく首の力が抜けて頭が後ろに引っ張られていくような、妙な感覚に囚われました。
と途端に目の前のヘヤピンカーブ!思わずブレーキを踏み込んで、危うくハンドルを切りながら、そんな状態でありながらますますスピードが上がるばかり。
みるみると現実感を失っていく意識の中で、しかもこの峠道を、いつのまにか飛んでもないスピードでぶっ飛ばしている訳で、こんな状況でまさか気を失っている場合じゃない。
そこに来てこのおかしな事象のすべてが、実はこの幽霊の女のしわざなのだと気づいた訳です。
で、馬鹿野郎、やめろやめろ、その女に叫んでいるのですが、女は妙にじっとりとした目で俺を見据えながら、ねえ、なんであたしじゃ駄目なの?などととんでもないことを言い始める。
馬鹿野郎、お前、だって、死んでるじゃねえかよ、と言い返した途端、いきなりヒステリーを起こしたようにいきり立ち初めまして。
ねえねえ、どうして、どうして、どうしてあたしじゃダメなのよ、ねえ、なんでわたしが嫌いになったの、と大絶叫。
どうも私とその男とやらを思い違いを始めたようで、まさにパラノイア。
その嫉妬に駆られたヒステリー発作、まさにこの世のものとは思えない。
で、そんな中、ますます身体中の血の気が引いてしまい意識も朦朧。目の前の風景がセピア色から白黒に色褪せ、その中にすーっと白い霧が立ち込め始めてホワイトアウトの状態。
そんな俺の後ろから女は、ねえねえ、あたしじゃ駄目?あたしのこと嫌い?と、薄らいだ意識の中、耳元で響くそのねっとりとした囁きばかりが実に生々しく響いてくる。
しまったな、と思いました。
これが憑リ殺されるという奴か。。
がしかし、こんなところで死ぬわけにはいかない訳です。
必死の思いで、わあああと、うるせえ、うるせえ、うるせえ、と大声を上げましたが、しかしそんな自身の声さえまるで水の中でもがいているようにまったく現実感がなく、ますます息が上がるばかりで意識がどんどんと遠のいて行く。
まさに絶体絶命。いよいよやばい、これで最後か、と思った時、ふとかみさん、そう、あの古女房のことが思い浮かびました。
薄れかけた意識の中、部屋のソファでひとり、膝を抱えてテレビを見ていたかみさんの姿が脳裏に浮かび、思わずのそのかみさんに向けて、助けてくれ!と叫んでいたんです。
助けてくれ!
そんな私の声に気づいてふとかみさんが、え?と顔を上げたような気がしたんです。
と、その途端、いきなり背後の女が、ぎゃあああ、と叫び声を上げました。
そう、まさに、十字架を当てられたドラキュラ伯爵というか、まさにそんな感じ。
で、いきなり、まるで夢のように、一瞬のうちに、さーっと、その悪い空気が消え去っていたんです。
その悪い気が消え去った途端、カーステレオのストーン・テンプル・パイロッツが戻って来ました。まるで鼓膜が破けそうなぐらいの大音響。スピーカーが歪んでしまってまるで音にならないぐらいの大音響でした。
で、ふと見れば、アクセルを踏み込んでいたのは俺自身。
俺が思い切りアクセルを踏み込んでいたんです。で、ブレーキを踏んでいたのはまさか左足。
つまり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいたんです。
こう見えても車の運転歴は無免許時代も含めれば20年間。違反はスピードの切符は何度も切られましたが、事故だけは起こしたことはなかった、その俺が、まさか、アクセルとブレーキを同時に踏むなんて。。。
で、その右足をすっと、どけたとたん、車はまるで何事もなかったかのようにすーっと、スピードを落とし始めて。。
まるで夢のようだった訳ですが、いやはや危ない夢もあったものです。
途端に目の前に色彩が戻ってきまして、ヘッドライトの先に頂上の展望台への道筋を示す緑色の看板と無人料金場へのサインが見えて来ました。
先の峠を超えればテネシー州。その後は緩やかな下り坂が続く筈で、私はここに来てようやく危機を脱したことに気づきました。
自慢じゃありませんが、これまで怖い目にはいろいろ会って来ました。
ヤクザに追い回されて新宿中を逃げまわったり、単車から放りだされて崖下の海までまっさかさま、なんてのから、
世界をヒッピー旅行していた時にはそれこそ、刃物やチャカを突きつけられたなんてのはたびたび。間違って地雷原に迷い込んでしまったり、あるいは、半殺しどころか完全に殺される直前まで袋叩きにあったことや、あるいは警官隊たちから四方八方からフリーズ!と銃口を向けられたなんてことさえもあったのですが・・
いやはや、後にも先にもあの迷惑なヒッチハイカーぐらいに肝を冷やしたことはありませんでした。
で、ようやく峠道を越えてテネシー側に入りまして、で、まあなんとか命だけは助かったな、と安心したとたん、なんと目の前にいきなり脚立が立ってまして。。
脚立、そう、あの屋根に登ったり、ペンキ塗ったりするときに乗るあの脚立。
あれがフリーウエイの真ん中、霧の中に忽然と立っていたわけです。
で、一瞬の反射でそれを不思議なぐらいにすっと避けていたんですが、その時、耳の後ろで、チッ、と舌打ちの音が聞こえたんです。
あの女、と思いました。つくづくどうしようもない女だったな、と。
その後、ホテルに一人で泊まるのも気が引けて、で、そのまま甞て知ったトップレスバーにまるで転がり込むように辿り着きました。
忘れもしないドアを開けた瞬間に、なんと、かのストテンがまさに耳をつんざくような爆音でかかっておりまして。。。
まったくやれやれ、でした。
まったくもって、この世の中、ほんとうにほんとうにどうしようもねえなあ、と言うか、そう、この俺、この俺の廻りって本当の本当にまったくもってどうしようもねえなあ、とその時になって骨の髄まで思い知った訳です。
という訳で、ようやくビールを一杯飲んで落ち着いたところ、馴染みの女たちが寄ってきたのですが、
あんた、なんか顔色悪いよ、と言われまして、で思わず先にあったことを話し始めたら・・・
女の子たちがいきなり、きゃー、どころか、物凄く真剣な顔で集まって来まして、で、聞いたところではどうも地元では有名な話だったらしい。でも無事に帰って来れたのはあんただけよ、ってな話で。。
なにほら、俺がチャイニーズで英語がよく通じなかったからじゃねえのか、ははは、とかと笑っていたのですが、まさに笑い話にならない。
結局その夜は朝までその店におりまして、馴染みの女からは十字架の首飾りを渡されて、なにかあったらこれを握りしめて私の名前を呼んで、なんてありがたい言葉も聞きました。
ちゅう訳で、そう、どうにもこうにもどうして命が助かったのやらいまだに謎なのですが、取り敢えずかみさんだけは大事にしています。まさに救いの神ですから。あれ以来、浮気もしていません、っての嘘ですが。
おわりです。
これまで一番怖かったことは・・・
出張中、霧雨の夜のスモーキーマウンテンを走っていたところ峠道に白い女がひとりで立っていました。
状況からしてどう考えてもこの世のものとは思えず、そのまま通り過ぎようとしたところ、
こともあろうにその女の幽霊が車に乗ってきてしまいまして。
危うく憑り殺されかける、という体験をしたことがあります。
♪ ♪ ♪
米国東中部にグレート・スモーキー・マウンテンという山脈があります。
スモーキーの由来はいつも雲がかかっていて山全体が煙って見える、ということからで、鬱蒼と茂る森の中、いまもエルクの群れや、時としてブラック・ベアが出没するなど、豊かな自然が手付かずで残された自然公園で、シーズン中には全米各所から自然愛好家たちの集まる観光の名所。
地理的にはこの山脈を挟んで米国の東部と南部が分かれるという意味合いもあり、古くはかのチェロキー・インディアンとの死闘が繰り広げられた場所でもあり、その後の南北戦争時代にはこの土地の各所で激戦が行われたということから、古くからその類の逸話が多数記録されてきた因縁の地としても知られています。
当時、私はニューヨークでエンジニアの端くれをやっておりまして、その仕事の中に、半年に一度、定期点検という名目でこのグレート・スモーキ・マウンテンを挟んで西のテネシー州と東のノースキャロライナ州に点在する顧客先を尋ねる廻る、というものがありました。
まあ定期点検とは言っても、作業そのものはまったく大したことはなく、担当者への挨拶がてら決められた点検項目に従ってバッチを起動して、問題がなければ「異常なし」とやるだけ。
一日のほとんどはただひたすらにフリーウエイをぶっ飛ばして次の客先へと向かうその移動時間。
普段から机に噛り付いての内勤職がどうにも性に合わなかった私としては、この半年に一度の出張旅行は、半ば骨休めの休暇扱いという意味合いも強く、まあのんびりドライブして息抜きしておいでよ、という気楽なもの。
ただ時として異常事態発生、なんてことになると、その後の予定がすべて狂ってしまうという関係上、事前に厳密な予定も立てられず、ホテルの予約も取らぬままにまさに成り行き任せ。誰に気兼ねする訳でもなく、日がな一日お気に入りの音楽を流しながらフリーウエイとぶっ飛ばし、夜が更けると街道沿いにVACANCYと灯りの点いたモーテルを見つけて泊まり歩くという、まさにアメリカならではの出張旅行でした。
そんな訳でこのテネシー州とノースキャロライナ州。
個人的にはやはり断然テネシー州。
黒人音楽の中心地であるメンフィスと、カントリー、つまりは白人音楽のメッカであるナッシュビルを結ぶミュージック・ハイウエイから始まり、かのエルビス・プレスリーの軌跡から、各所に点在する自然公園からと、なんだかんだとこのテネシー州には愉しみが多い。
風景も美しく、飯も美味しく、年間を通じて気候も穏やかなことから、どこかのんびりとした雰囲気があって、そしてとにかく人が優しい。
それに引き換えノースキャロライナなんですが、そんなテネシーに比べるとどうもギスギスした雰囲気があって、やはりここは東部なのだな、と感じることもたびたび。
ちょうどノースキャロライナ側の担当者がちょっと癖のある人だったこともあって、できるだけノースキャロライナ側での滞在を少なくし、仕事が終わったとたんにテネシー側に飛んで帰る、という行程を組むことが多かったです。
でまあ、その時にもなんだかんだでテネシー側のお客さんに引き止められて予定がのびのびになってしまい、ノースキャロライナの客先に到着したのが午後もかなり遅くなってから。なんだかんだと作業しているうちに仕事が終わったのが既に八時過ぎ。無人の駐車場に転がり出た頃にはすっかり日が暮れてしまっていたのですが、どうもノースキャロライナ側で夕食を取ったり宿泊したり、という気にはなれない。
できればちょっと無理をしてもテネシー側に舞い戻っておけば、翌朝の予定にも少し余裕ができる、という訳で、降り出した雨にも関わらず、そのままテネシー側にトンボ返りをすることに決めたのです。
と言う訳で、その雨の夜。確かハロウィンを過ぎサンクスギビングの連休を前にした秋も終わりに近づいた頃だったかと思います。
グリーンズボローを経由してインターステイツ・フリーウエイに乗り、まずはアッシュビルを目指します。
普段はキャロライナ・ブルーと言われる緑の平原と青空の広がる地方ですが、生憎の雨。しかも夜です。
アメリカのフリーウエイというのはなんとも殺風景なもので、行けども行けども同じ風景が永遠と続くばかり。白い車線と先行車のテールランプを追いかけるばかりでなにもすることがない。ついついうスピードを出しすぎてはっとすると100マイルを軽く越えているなんてこともたびたびで、そうでもしなければついうとうとと眠くなって来てしまいます。
がしかし、そこはやはりアメリカ。
アメリカと言いえばやはりハードロック天国という訳で、ガンザン・ローゼズから始まり、モートリー・クルーからメタリカからニルバナからと、とにかく威勢の良い音楽をこれでもか、というぐらいに大音響でかけまくる。
改めてこのハードロックという音楽。
この出張に向けて実に色々な音楽を用意して来る訳ですが、最終的にはやはりこのハードロックに落ち着いてしまうところがある。
まさにアメリカの生んだアメリカの音楽というか、フリーウエイのフォルクローネというぐらいに、この果てし無い高速走行に妙にリズムが合うのです。
と言う訳で、そうこの出張の愉しみと言えば、ハードロックをがんがん聴きながらこれでもかとフリーウエイをぶっ飛ばし、そして夜になればテネシー名物のバーベキューとステーキ。
そして時として、夜更けにちょっと目に付いた怪しげな看板、つまりはそう、トップレス・バーなるところを徘徊しては、朝までテネシー娘たちの甘い香りに包まれてちょっと羽目を外してしまう、なんてこともありまして。
もちろん会社の連中にはそんなこと一言も漏らしませんでしたが、実はこのスモーキー・マウンテンを越えたあちら側のテネシー州。その最初の街となるノックスビルの、その町外れにある鄙びたトップレスバー。まるで野原の真ん中に立った掘っ立て小屋のようなところだったのですが、実はそのトップレスバーにいる女の子たちがまさに絶品。
勿論、ニューヨークで言うところのダンサーたち。まるでスーパーモデルや銀幕の女優さんのようなあの煌びやかな美しさは期待できないのですが、このお土地柄、なんというかサザンチャームというか、どの子もプロのダンサーというよりは、まさにその辺りの女子大生のアルバイトといった風で、実になんともおっとりしているというか、なんというか、とても和める訳です。
半年に一度やってくるおかしなチャイニーズのお兄さん、と私のことを覚えている娘も多く、次にいつ来るか教えてね、なんてメールアドレスを交換したり、その際には勿論ニューヨークのおみやげなんてものも用意したり、となんとも和気藹々のお友達感覚。
出張に出るたびにそのお店に寄るのが愉しみであったこともあり、それを思うと雨だろうが空腹だろうが、長時間労働の疲れなどはすっ飛んでしまう。
と言う訳で、I-40をひた走り、スモーキー・マウンテンの東側の入り口、アッシュビルに着いたのが十一時を過ぎた頃でした。
この先に起きるあのとんでもないことの予兆だったのか、そのアッシュビルの街でもちょっとおかしなことがありました。
ここから峠の向こうのノックスビルの街まで約三時間をかけて山道を越えることになり、もしもの時を思ってガスを入れておこうと思ったのですが、この時間になるとなかなかガススタが見つからない。
灯りの消えたローカル道をとろとろと走ってようやく見つけたガソリンスタンドはまさに潰れかけた納屋のようなところで、まるで壊れた自販機のような給油機でガスを入れていざお金を払おうと店の中に足を踏み入れたところ、レジにひとり立っていた見るからに不機嫌そうなおっさん。テンガロンハットを目深に被ったまま、いらっしゃい、ともハローとも言わず、じっと私のことを睨んでいる。
で、まあ、ガスを入れたのでお金を払いたい、と言えば、顎をしゃくって、そこに金を置け、と。
言われるままにお金をカウンターの上に置きますと、並べろ、と言う。
で、はい10ドルが2枚、5ドルが1枚、と並べてて、なのでおつりが幾ら、と答えますと、
釣りはないからそこにあるガムでもタバコでも持ってけ、みたいなことを言う。
でおかしなことに、どういう訳かこのカウボーイのおっさん、両手を決してカウンターの上に出そうとしない。
いや、あの、社用なのでレシートが欲しい、と言いますと、そのおっさん、いかにも不機嫌そうにちっと舌を鳴らして、おまえ、ベトナム人か、日本人か?と聞く。
で、日本人だ、と答えれば、そうか、なら良い、とちょっと安心した表情。
で、両手を挙げたまま後ろを向け、とかなんとか。
まさか、ガス代を払おうとしたらそのまま強盗に合った、という具合で、いったいなにが起こったのかとも思いましたが、まあそう、ここはノースキャロライナ、あまりごたごたは起こしたくないわけで、言われたとおりにしたところ、ようやくレジの開くチンと言うベルがなりまして、で、ほらよ、釣りとレシートはここだ、と言われて振り返ると、そのカウボーイのおっさんは再び両手をカウンターの下に隠したまま顎だけしゃくるのです。
まあしかし、そうここはノースキャロライナ。テネシーとはやはり色々な意味で違う。
つまりノースキャロライナにはノースキャロライナの常識がある訳なんだろうと勝手に納得して、お釣りとレシートを受け取り、じゃあな、もう来ることもねえよ、と捨て台詞を呟いて店を出ましたところ、背後でゴトリ、というごつい音を聞いたような気がした。
つまり、そう、そのカウボーイ野郎、カウンターの下でずっと拳銃、あるいはショットガンを構えていたのではないか、と思い当たったのです。
まあそう、確かにこんな時間、町外れの鄙びた街道沿いのガススタにひとりでやってくるチャイニーズ。しかも天地を揺るがすような音でガンズン・ローゼズをかけているってのからして彼らにとってはかなり異常なシチュエーションであったのも判りますが、そうか、俺はずっと銃口を向けられていたのだな、と思うと、なんともちょっとぞっとした気がしました。
と言う訳でまあよい。ガスも満タン。
この山さえ越えればあの優しい女の子たちの待つノックスビルに辿りつける訳で、夕飯を抜かした空腹もなんのその。
雨に濡れたフリーウエイを、その霧に包まれた暗い峠道に向けて走り続けたのであります。
暗い山陰に向かうフリーウエイを走り続けるうちに、いつしか辺りは漆黒の闇。
程よいワインディングの続く峠道は、道のコンディションは良かったものの、夜ともなるとヘッドライトに浮かぶ車線のラインも曖昧になり、しかも雨。そしていつしか立ち込めてきた霧に視界がぼやけ初め、ガードレールの向こうにヘッドライトの光が吸い込まれるのを見るたびに、その下へと続く断崖絶壁を思わぬ訳にはいきません。
辺りに他の車の姿も見えず、視界はますます悪くなるばかり。
さすがにちょっと薄気味の悪さを感じてカースレテレオのボリュームを上げた時、ふと見ると、先のヘヤピンカーブのその先、ガードレールにもたれるように、白いワンピースを着た髪の長い女が、ひとり立っている姿が目に飛び込んで来ました。
おんな?まさか・・・
アッシュビルの街を発ってからかなりの道を走っていることから、こんな暗闇の峠道に人が立っているということはまずありえません。
まさか車がエンコして、という状況もありえない訳ではないのですが、別に助けを求めている風にも見えず、ヘッドライトに顔を背ける訳でもなく、ただうつむきかげんにつっ立っているだけなんです。
それに加えて、この冬の始まりを目前にした雨の山道のしかもこんな時間に、おんなが一人薄手のワンピース一枚でぼーっとつっ立っているという状況はなにからなにまでが根本的におかしい。
という訳で、君子危うきに近寄らず、とそのまま通り過ぎようとしたところ、ふと見ればその女の姿はいつの間にか霧の闇の中に消えていました。
正直、いやはや、と思いました。これはこれは・・
さすがに背筋にぞっとするものがあったのですが、まあしかし、多分目の錯覚。
十歩譲ってそれがもしもこの世のものではないなにか、であったとしても、まあそんな話、どこにでもあるじゃないか、と。
雨の夜道でタクシーを拾った女がお寺に行ってください、と言われて着いてみれば、後部座席がぐっしょりと濡れていたのでした、なんてオチがつく、まあいつものやつだろう、と。
やっぱりそういう話は万国共通なのだな、などと呑気に感心しながらも、正直、馬鹿馬鹿しい、と思っていました。
実のところ私はわりとそういう話は信じない、というか、まあ気にしないタイプで、通常であればそんな際どい状況においても、来るならこい馬鹿野郎、と鼻で笑ってしまう方なのですが、そんな時、ふと、背後に人の気配がしたのです。
むむむ・・・!?
恐る恐るバックミラーを覗いてみましたが、見えるのは暗闇ばかり。
おかしいな、気のせいか、と思ったその時、いきなり耳の横で露骨に人の吐息の感触があったのです。
さすがに、びくりとしました。正直、思わず飛び上がりそうになるほどその感覚はリアルなものでした。
全身に鳥肌が広がり、その上からじわっと冷たい汗が滲み初め、んだよ、マジかよ、勘弁してくれよ、と舌打ちをしたい気分でした。
がしかし、そう、気のせい、ということもありえる。
そう、多分、気のせいだろう、と自分に言い聞かせました。
そう言い聞かせながら。。しかしながら、目に見えないだけで、確かに確かに、シートの間から誰かが明らかに、私の肩口から覗き込むように顔を寄せている気配が消えないのです。
無性にタバコが吸いたくなりましたが、タバコに手を伸ばしたところをふと冷たい手で掴まれるような気もして、あるいは窓を開けてみようかとも思ったのですが、窓を開けたとたんにそれこそ、この類のものがわんさか乗ってきてしまう、なんてことも考えてしまい、と余計な想像が次々と浮かんで来ます。
全身の鳥肌は消えるどころかますますひどくなり、身体中にかいた汗が冷え始めて思わずブルブルと身震いがしました。
くそったれ、と思いました。なにが欲しいのかは知らないが、俺になにを言っても無駄だ。俺はそんな遊びに付き合ってる暇はねえんだよ。お化けを怖がるにはちょっと歳を食い過ぎてるって訳でね。だからさっさと降りて他を当たってくれよ、とばかりにカーステレオのボリュームを上げました。
忘れもしないストーン・テンプル・パイロッツの確かブートレッグのライブ盤。
ヘロイン不法所持で逮捕の確定したスコット・ウェイランドが、警官隊をバックステージに待機させながら打った収監直前の超絶ライブ。
これを聴いたら化け物なんていくらでもぶっ飛んでしまうだろう、と思っていたのですが・・・・甘かった。
そう、ここはアメリカ。アメリカだったのです。
ふとすると、背後にいる女の気配があきらかに、まさにあきらかにこの音楽が気に入っている風で、ともするとまさに乗り乗り。YEY YEY!ロックンロール!と言った感じ。
いやはや、しまったな、ロックおたくの幽霊かよ、ありえねえな、と思わず苦笑いをしてしまった訳です。
時間は十二時を過ぎた頃だったと思います。
繰り返しますが私はもともと幽霊を信じるどころか、そんな殊勝な心がけからは最も遠いタイプ。生じっかその辺りのカタギの連中よりは棺桶に片足突っ込んだ化け物半分な輩と居た方が気が和むようなどうしようもないタイプを自認していた人間でして。
恨めしや~と出てくる化け物よりも、もっともっと恐ろしい、つまりはヤクが切れて半狂乱になった輩が手当たり次第に刃物を振り回して、なんていう状況を何度も見てきている訳で、いまさらそんな箸にも棒にもひっかからないような幽霊話に動じるのも馬鹿馬鹿しい。
まあそんなもの出てきたとしても、こんな俺を前にしたら、しまった相手を間違えた、とばかりに逆に愛想を尽かせてばっくれるに決まってる、とたかをくくっていいた訳です。
がしかしながら、実際に明らかにそれに類するものを実際に体験するのも実はこれが始めて。
実際にそんな状況に陥ってしまうと、これはもう信じるも糞もない訳で、まあこれはもうどうしようもない。世の中にはそういう物もまあいるのかもしれないな、と認めざるを得ない。
しかしながら、この状況です。
幽霊を見ただけなら、なあに、目の錯覚さ、でも済んだ筈なのですが、なんと明らかにこの世の物ではないものって奴が、よりのよって勝手に後部座席に乗ってきてしまっている訳で、いざとなってみるといったいどうすれば良いのやら見当もつかない。
しかもその迷惑なヒッチハイカー。よりによってこんなストーン・テンプル・パイロッツなんていう、まったくどうしようもないトラッシュの中のトラッシュのようなバンドがいたくお気に入り、と言った風情で、いやはや、さすがアメリカの幽霊、なかなかやってくれるじゃねえか、と言ったところでした。
という訳で、その後部座席のそのおんな。
人の迷惑も顧みず、座席の間から身を乗り出して、ねえねえねえ、とやってくるわけです。
そのおんなの気配が、露骨に首筋から耳のあたりに顔を寄せて来ている訳で、振り返ったら終わりだ、とは思いながら、やはりどうしても気になってしまう。
がしかし、俺も車を運転中ですし、しかもこんな霧の夜。
ともすると、濃霧の中に車線どころかガードレールまでもが曖昧な状況の中にあって、
幽霊に気を取られているどころではありません。
あるいはどこかに車を停めたとしても、辺りは真っ暗。
そんな中で、下手に車を停めてこの迷惑なヒッチハイカーと対峙させられるよりは、早いところ走るだけ走って、人のいるところに行ったほうが良いに決まってる。
という訳で、全身に鳥肌を立てながらも走り続けていた訳ですが、その女、というより、どうも二十歳前後のお姉さんだった訳ですが、その陰気な風情に似合わず、これがおしゃべり好きで、なんのかんのと話しかけてくる。
まあ勿論、言葉が聞こえるわけではなく、思念、というか、そういうイメージというかストーリーが直接脳みそに流れ混んでくる訳で、と同時に、ともすると俺の考えていることがすーっと抜かれてしまう感覚もある。
でまあ、その女の話。
つまり高校の時に好きだったクオーターバックの男の子がうんちゃらこうちゃら。その後、仕事も見つからずにヤクに嵌って、長距離トラックをやってた男が他に女を作ってうじゃうじゃ、とまあ良くある話な訳で、やれやれ、あんたも馬鹿だね、みたいな感じの身の上話。
で、俺は俺で、実はその時、好きな女がいまして、でその女がいったいなに考えているのか判らなくてさ、みたいな話をしていたのですが、ふとすると、いつの間にか車の速度がどんどん上がっている。
あれあれ、どうしたことか、と必死の思いでハンドルを切るのですが、深夜のそれも雨の中の峠のいろは坂。
そのヘアピンカーブのたびにタイヤが鳴るぐらいに際どいターンを繰り返し始めて、ふとするとまさに暴走を初めている訳です。
必死でブレーキをかけるんですが、急ブレーキをかけてはケツを振り、それをリリースした途端にいきなりタイヤを鳴らして大爆走となるわけで。これはこれは。。
いったいどうしたことか。こんなときに車の調子がおかしくなるなんて。
舌打ちしたい気持ちを抑えながらしかしこんな峠道、インターチェンジなどあるはずもなく、停めるすればまさにあの断崖絶壁のヘヤピンカーブのガードレールの前。
そんなところに停めるぐらいなら、このまま無理して走ってしまった方がずっとましです。
こう見えても私はガキの時分から夜な夜な江ノ島に繰り出してはドラッグレースに明け暮れていたこともあって、実はそんな暴走行為にはちょっとした自信も持っていた。
なので、何んだよ、おもしれえじゃねえか、と逆に悪乗りしているところもありまして。
カーステレオのストーン・テンプル・パイロッツもまさに窓ガラスがひび割れるぐらいの大音響。幸い辺りに車もなく、三車線を使い切ってのスーパー暴走行為を繰り返し、と、歌の通りではないが、まさに地獄へドライブ、上等だ、馬鹿野郎、とまあそんな感じ。
そんな中、女の話はまるで止めどもなく、次から次へと思念の中にその女の抱えていたやるせなさが流れこんで来るのですが、そうかどうもこの女、嫉妬に駆られて男の後を追っていたところ、あのコーナーでハンドルを切り損ねて谷底に消えたらしい。
がしかし、男への想いを断ち切れずに、なんとしてでも後を追わねば、とそのことばかりに凝り固まってなかなか成仏ができないでいる、と言ったところらしいのです。
だからさ、と私は思わず、相槌を打ってしまいました。
だからさ、そういう話って世の中にいくらでもあってさ、一時の気の迷いというか、後で考えてみたらまったく馬鹿なことしたもんだ、で終わっている類の話でさ、などと聞いたような御託を並べて説得しようとはしたものの、そういう俺も、その時に嵌っていた女のことで寝ても覚めても頭が一杯、なんて状態であったことから、まあそう言われて見れば女の気持ちも判らないではない。
がしかし、俺がそんなことを思い始めた途端、どうもその女、そんな俺の話に腹を立て始めたらしく、男ってなんでそうなの、なんでなんで、とぷりぷりとヒステリーを起こし始める始末。
ねえ、その娘、あんたのいい人。いったいどんな人なの?と聞いてくるので、実はね、とその女のことを思い出してみたのですが、その途端です。
幽霊の女がいきなり、ギャハハハ、と大笑いを始めまして。
いまねえ、あんたのそのいい人のところに行ってきたんだけどさ、教えてやるよ、あんたのそのいい人ってのはねえ、まったくどうしようもない女なんだよ。教えてやろうか? 聞かせてやろうか? ギャハハハ。
あんな女に思いを寄せるなんて、あんたはまったく飛んだ大馬鹿野郎もいいところだね、と。
どうもそう言われてみれば実に思い当たる節もあって、やっぱりそうか、と思わずへこんしまった訳ですが、まさにその状態こそが、魅入られる、ということだったのか、と今になって思うのです。
うるせえな。お前だって人のこと言えた義理かよ、なんて、言い返してはみたのですが、
ふとするといつの間にか、そう、大音響で鳴り響いている筈のカーステレオのストーン・テンプル・パイロッツの音が、まるですっと遠退き初めまして。いつのまにかまるで耳を塞いでしまったかのように霞んで行る。
あれあれどうしたことか、と思った途端、まるでそう、貧血でも起こして気を失う直前のような、あの血がすーっと引いていってしまう感覚が襲って来まして、なんとなく首の力が抜けて頭が後ろに引っ張られていくような、妙な感覚に囚われました。
と途端に目の前のヘヤピンカーブ!思わずブレーキを踏み込んで、危うくハンドルを切りながら、そんな状態でありながらますますスピードが上がるばかり。
みるみると現実感を失っていく意識の中で、しかもこの峠道を、いつのまにか飛んでもないスピードでぶっ飛ばしている訳で、こんな状況でまさか気を失っている場合じゃない。
そこに来てこのおかしな事象のすべてが、実はこの幽霊の女のしわざなのだと気づいた訳です。
で、馬鹿野郎、やめろやめろ、その女に叫んでいるのですが、女は妙にじっとりとした目で俺を見据えながら、ねえ、なんであたしじゃ駄目なの?などととんでもないことを言い始める。
馬鹿野郎、お前、だって、死んでるじゃねえかよ、と言い返した途端、いきなりヒステリーを起こしたようにいきり立ち初めまして。
ねえねえ、どうして、どうして、どうしてあたしじゃダメなのよ、ねえ、なんでわたしが嫌いになったの、と大絶叫。
どうも私とその男とやらを思い違いを始めたようで、まさにパラノイア。
その嫉妬に駆られたヒステリー発作、まさにこの世のものとは思えない。
で、そんな中、ますます身体中の血の気が引いてしまい意識も朦朧。目の前の風景がセピア色から白黒に色褪せ、その中にすーっと白い霧が立ち込め始めてホワイトアウトの状態。
そんな俺の後ろから女は、ねえねえ、あたしじゃ駄目?あたしのこと嫌い?と、薄らいだ意識の中、耳元で響くそのねっとりとした囁きばかりが実に生々しく響いてくる。
しまったな、と思いました。
これが憑リ殺されるという奴か。。
がしかし、こんなところで死ぬわけにはいかない訳です。
必死の思いで、わあああと、うるせえ、うるせえ、うるせえ、と大声を上げましたが、しかしそんな自身の声さえまるで水の中でもがいているようにまったく現実感がなく、ますます息が上がるばかりで意識がどんどんと遠のいて行く。
まさに絶体絶命。いよいよやばい、これで最後か、と思った時、ふとかみさん、そう、あの古女房のことが思い浮かびました。
薄れかけた意識の中、部屋のソファでひとり、膝を抱えてテレビを見ていたかみさんの姿が脳裏に浮かび、思わずのそのかみさんに向けて、助けてくれ!と叫んでいたんです。
助けてくれ!
そんな私の声に気づいてふとかみさんが、え?と顔を上げたような気がしたんです。
と、その途端、いきなり背後の女が、ぎゃあああ、と叫び声を上げました。
そう、まさに、十字架を当てられたドラキュラ伯爵というか、まさにそんな感じ。
で、いきなり、まるで夢のように、一瞬のうちに、さーっと、その悪い空気が消え去っていたんです。
その悪い気が消え去った途端、カーステレオのストーン・テンプル・パイロッツが戻って来ました。まるで鼓膜が破けそうなぐらいの大音響。スピーカーが歪んでしまってまるで音にならないぐらいの大音響でした。
で、ふと見れば、アクセルを踏み込んでいたのは俺自身。
俺が思い切りアクセルを踏み込んでいたんです。で、ブレーキを踏んでいたのはまさか左足。
つまり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいたんです。
こう見えても車の運転歴は無免許時代も含めれば20年間。違反はスピードの切符は何度も切られましたが、事故だけは起こしたことはなかった、その俺が、まさか、アクセルとブレーキを同時に踏むなんて。。。
で、その右足をすっと、どけたとたん、車はまるで何事もなかったかのようにすーっと、スピードを落とし始めて。。
まるで夢のようだった訳ですが、いやはや危ない夢もあったものです。
途端に目の前に色彩が戻ってきまして、ヘッドライトの先に頂上の展望台への道筋を示す緑色の看板と無人料金場へのサインが見えて来ました。
先の峠を超えればテネシー州。その後は緩やかな下り坂が続く筈で、私はここに来てようやく危機を脱したことに気づきました。
自慢じゃありませんが、これまで怖い目にはいろいろ会って来ました。
ヤクザに追い回されて新宿中を逃げまわったり、単車から放りだされて崖下の海までまっさかさま、なんてのから、
世界をヒッピー旅行していた時にはそれこそ、刃物やチャカを突きつけられたなんてのはたびたび。間違って地雷原に迷い込んでしまったり、あるいは、半殺しどころか完全に殺される直前まで袋叩きにあったことや、あるいは警官隊たちから四方八方からフリーズ!と銃口を向けられたなんてことさえもあったのですが・・
いやはや、後にも先にもあの迷惑なヒッチハイカーぐらいに肝を冷やしたことはありませんでした。
で、ようやく峠道を越えてテネシー側に入りまして、で、まあなんとか命だけは助かったな、と安心したとたん、なんと目の前にいきなり脚立が立ってまして。。
脚立、そう、あの屋根に登ったり、ペンキ塗ったりするときに乗るあの脚立。
あれがフリーウエイの真ん中、霧の中に忽然と立っていたわけです。
で、一瞬の反射でそれを不思議なぐらいにすっと避けていたんですが、その時、耳の後ろで、チッ、と舌打ちの音が聞こえたんです。
あの女、と思いました。つくづくどうしようもない女だったな、と。
その後、ホテルに一人で泊まるのも気が引けて、で、そのまま甞て知ったトップレスバーにまるで転がり込むように辿り着きました。
忘れもしないドアを開けた瞬間に、なんと、かのストテンがまさに耳をつんざくような爆音でかかっておりまして。。。
まったくやれやれ、でした。
まったくもって、この世の中、ほんとうにほんとうにどうしようもねえなあ、と言うか、そう、この俺、この俺の廻りって本当の本当にまったくもってどうしようもねえなあ、とその時になって骨の髄まで思い知った訳です。
という訳で、ようやくビールを一杯飲んで落ち着いたところ、馴染みの女たちが寄ってきたのですが、
あんた、なんか顔色悪いよ、と言われまして、で思わず先にあったことを話し始めたら・・・
女の子たちがいきなり、きゃー、どころか、物凄く真剣な顔で集まって来まして、で、聞いたところではどうも地元では有名な話だったらしい。でも無事に帰って来れたのはあんただけよ、ってな話で。。
なにほら、俺がチャイニーズで英語がよく通じなかったからじゃねえのか、ははは、とかと笑っていたのですが、まさに笑い話にならない。
結局その夜は朝までその店におりまして、馴染みの女からは十字架の首飾りを渡されて、なにかあったらこれを握りしめて私の名前を呼んで、なんてありがたい言葉も聞きました。
ちゅう訳で、そう、どうにもこうにもどうして命が助かったのやらいまだに謎なのですが、取り敢えずかみさんだけは大事にしています。まさに救いの神ですから。あれ以来、浮気もしていません、っての嘘ですが。
おわりです。

人類と犬との共存の始まりは
犬と人間との共存がどのようにして始まったか、という仮説を見る度に、
え?なんで?と首を傾げてしまう。

狩りのパートナーとして、とか言う説が有力らしいが、
そういうことを書く人って、なぜ自分自身で原始人生活をやってみる、
という行動を実際にとってみないのかな。
狩りとかなんとか言う前に、大自然の暗闇の中で一人で寝たことのある人なら誰もが知っている筈。
つまり、自然界に暮らすものにとって、夜の闇とはまさしく恐怖そのもの、な筈である。
いつどこからなにが襲ってくるかも判らないその漆黒の闇の底。
ちょろちょろと便りなく燃える薪の灯りだけが唯一の救いである。
そう、人間は夜目が効かない。
原始人は現代人に比べてまだちょっとはマシだったかもしれないが、やはり他の動物に比べてはその能力は極端に劣った筈だ。
そして聴覚。
人間は彼方から外敵が忍び寄る物音を聞き取ることができない。もしも寝ている間に外敵が忍び寄って来ても、鼻先をペロリと舐められるまでなにも気づかないであろう。
そして嗅覚。
まさに人間の嗅覚はないにも等しい。人間のコミュニケーションの中に嗅覚に関するものがなにひとつとしてないのもその確たる証拠だ。
人類のその種としての存在は、自然界の中にあってはあまりにも頼りない。
武器というものが無ければ、人類はまさに裸同然。なにひとつとして自身を守るものを持たない、まったくの無防備、まさに最弱の存在であった筈だ。
そんな人類は、武器を手にすることによって始めて自然界にその存在を示す。
そしてその武器を進化させるとこにより、自然界の頂点へと上りつめて行く訳であるが、人類は武器を見出したその優れた頭脳を保つために、睡眠を必要とする。
その睡眠の時間こそが、人類が再び無防備最弱の本来の姿に戻ってしまう瞬間である。
人類がその睡眠時間においていかに安全な状態を確保できるか、それこそがまさに死活問題であったことは安易に想像がつく。
と言う訳でそこに登場するのが、我らが最高の友、つまりは「犬」の存在である。
夜寝ている時に、犬が隣りに寝ていてくれるととても温かい。
一人寝の不安や孤独からも癒してくれるし、そして、そう、
最も頼りになるのは犬のその優れた番犬能力である。
外敵の気配をいち早く察しては突如として飛び起き、オンオン、曲者!クセモノだ!、と騒ぎ立てては異変を知らせてくれる訳で、夜の闇に怯えて眠る人類にとって、これほどありがたい存在はいない。
犬が外敵の接近を事前に知らせてくれるとすれば、人間はその得意の武器をもって外敵の来襲に備えることができるわけで、その一瞬の差こそが生死を分ける死活問題となるわけだ。
これこそが犬と人間が共存した第一の理由。
つまりは、人類は犬と暮らして始めて安眠を手に入れることができた、
と考えているのだがどうだろうか。
え?なんで?と首を傾げてしまう。

狩りのパートナーとして、とか言う説が有力らしいが、
そういうことを書く人って、なぜ自分自身で原始人生活をやってみる、
という行動を実際にとってみないのかな。
狩りとかなんとか言う前に、大自然の暗闇の中で一人で寝たことのある人なら誰もが知っている筈。
つまり、自然界に暮らすものにとって、夜の闇とはまさしく恐怖そのもの、な筈である。
いつどこからなにが襲ってくるかも判らないその漆黒の闇の底。
ちょろちょろと便りなく燃える薪の灯りだけが唯一の救いである。
そう、人間は夜目が効かない。
原始人は現代人に比べてまだちょっとはマシだったかもしれないが、やはり他の動物に比べてはその能力は極端に劣った筈だ。
そして聴覚。
人間は彼方から外敵が忍び寄る物音を聞き取ることができない。もしも寝ている間に外敵が忍び寄って来ても、鼻先をペロリと舐められるまでなにも気づかないであろう。
そして嗅覚。
まさに人間の嗅覚はないにも等しい。人間のコミュニケーションの中に嗅覚に関するものがなにひとつとしてないのもその確たる証拠だ。
人類のその種としての存在は、自然界の中にあってはあまりにも頼りない。
武器というものが無ければ、人類はまさに裸同然。なにひとつとして自身を守るものを持たない、まったくの無防備、まさに最弱の存在であった筈だ。
そんな人類は、武器を手にすることによって始めて自然界にその存在を示す。
そしてその武器を進化させるとこにより、自然界の頂点へと上りつめて行く訳であるが、人類は武器を見出したその優れた頭脳を保つために、睡眠を必要とする。
その睡眠の時間こそが、人類が再び無防備最弱の本来の姿に戻ってしまう瞬間である。
人類がその睡眠時間においていかに安全な状態を確保できるか、それこそがまさに死活問題であったことは安易に想像がつく。
と言う訳でそこに登場するのが、我らが最高の友、つまりは「犬」の存在である。
夜寝ている時に、犬が隣りに寝ていてくれるととても温かい。
一人寝の不安や孤独からも癒してくれるし、そして、そう、
最も頼りになるのは犬のその優れた番犬能力である。
外敵の気配をいち早く察しては突如として飛び起き、オンオン、曲者!クセモノだ!、と騒ぎ立てては異変を知らせてくれる訳で、夜の闇に怯えて眠る人類にとって、これほどありがたい存在はいない。
犬が外敵の接近を事前に知らせてくれるとすれば、人間はその得意の武器をもって外敵の来襲に備えることができるわけで、その一瞬の差こそが生死を分ける死活問題となるわけだ。
これこそが犬と人間が共存した第一の理由。
つまりは、人類は犬と暮らして始めて安眠を手に入れることができた、
と考えているのだがどうだろうか。

犬の役割
嘗てヒマラヤの麓のにあるチベット人の村を訪ねた時のこと。
木立の中を続く細い山道を登りながら、
周囲にざわざわと草葉の揺れる音には気づいていた。
しばらくしてそれがなにかの動物であることに気づいた時、
まさか、狼?とちょっと不安になっている仲間もいた。
もしかして俺達、狼の群れに囲まれているのかな。。
確かに、気をつけてみると、俺達の一行はその動物たちに囲まれているようだ。
そしてそれがだんだんと狭まっていることも感じていた。
まさか巻狩りにあっている訳でもあるまい、とは思いながら、
確かにちょっと薄気味の悪い気もしていたのも確かだ。
そんな時、ふと背後を振り返ると、間抜けな顔をした山犬が一匹。
しまった、とばかりに俺と目があったまま凍りついている。
大丈夫、と俺は仲間にいった。
犬だ。それも誰かの飼い犬だろう。
ということは、そろそろ村が近いぞ。
という訳で、ようやく俺達一行が村に辿り着いた時、
なんと村中の人々がずっかり出揃って歓迎の挨拶。
別に電話した訳でも手紙を送った訳でもないのに。
いやあ、ほら、と頭を撫でられた犬たち。
この子たちがすべて教えてくれるから。
そう、この村は犬達によって守られている。
半径1KM以内で起こることの全てを犬達は完全に把握しているのである。
この子が誰かが来たよって言うんでね、だったらみんなで迎えに行っておいでって言ったんだ。
そういう側から、生まれたばかりの子犬が盛んにじゃれついて来て、
俺は胸の中に抱え上げて乳臭い舌で顔中を舐められている。
凄いな。犬と人間の完全な共存の姿だ。
そして俺達がこの村に滞在している間、
どこに行くにも、必ず俺達の周りには犬の姿があった。
犬たちは始終、影日向に俺達の周囲をいつも取り囲んでいて、
なにかがあると、すぐに伝令が走る、という見事な連携プレーを見せる。
この村では子供たちの周りにはいついかなる時にも必ず犬が控えている。
だから親たちも安心なのだそうだ。
ということは、つまりは俺達も子供扱いってことなのかな?
と誰かが呟いて皆が笑った。

という訳で、ニューヨークという大都市に暮らしながらもこの犬の役割は変わってはいない。
つまりは犬がいるが為に安眠を保証してくれる訳で、
ついついドアの鍵をかけるのを忘れてしまってもまったく問題なし。
もしもどこぞの不届き者がこっそりとドアを開けようとした途端に、
いきなり火のついたような勢いで吠え立てられるか、
或いは、薄く開いたドアの間、闇の中にランランと輝く二つの目。
グルルル、と牙を剥く犬の存在を知れば、
さしもの大泥棒も一歩たりとも部屋にはいることはできない筈である。
犬がいると本当に心強い。
まさに人類最高の友である。
ちなみに我が家の犬。
ボール遊び以外にはまったくなににも興味を示さない駄犬ではあるが、
もしもサバイバル生活に入ったとすれば、それこそ一日に何千匹のネズミやらリスやらうさぎやらを捕まえてくることは必至。
もしもオーストラリアン・キャトル・ドッグとしての血が騒いだ日には、下手をすれば牛の群れを引き連れて帰ってくるやもしれず。
という訳で、うん、こいつと居れば例えなにがあっても大丈夫、と思わせてくれる魂の友なわけである。
みなさん、犬は人類最高の友。尊敬と感謝の気持ちを忘れてはいけません。
だから夜更けに勘違いで叩き起こされた時にも決して、このバカタレが、ただの酔っ払いだろ、と怒鳴ったりしてはいけませぬ。
木立の中を続く細い山道を登りながら、
周囲にざわざわと草葉の揺れる音には気づいていた。
しばらくしてそれがなにかの動物であることに気づいた時、
まさか、狼?とちょっと不安になっている仲間もいた。
もしかして俺達、狼の群れに囲まれているのかな。。
確かに、気をつけてみると、俺達の一行はその動物たちに囲まれているようだ。
そしてそれがだんだんと狭まっていることも感じていた。
まさか巻狩りにあっている訳でもあるまい、とは思いながら、
確かにちょっと薄気味の悪い気もしていたのも確かだ。
そんな時、ふと背後を振り返ると、間抜けな顔をした山犬が一匹。
しまった、とばかりに俺と目があったまま凍りついている。
大丈夫、と俺は仲間にいった。
犬だ。それも誰かの飼い犬だろう。
ということは、そろそろ村が近いぞ。
という訳で、ようやく俺達一行が村に辿り着いた時、
なんと村中の人々がずっかり出揃って歓迎の挨拶。
別に電話した訳でも手紙を送った訳でもないのに。
いやあ、ほら、と頭を撫でられた犬たち。
この子たちがすべて教えてくれるから。
そう、この村は犬達によって守られている。
半径1KM以内で起こることの全てを犬達は完全に把握しているのである。
この子が誰かが来たよって言うんでね、だったらみんなで迎えに行っておいでって言ったんだ。
そういう側から、生まれたばかりの子犬が盛んにじゃれついて来て、
俺は胸の中に抱え上げて乳臭い舌で顔中を舐められている。
凄いな。犬と人間の完全な共存の姿だ。
そして俺達がこの村に滞在している間、
どこに行くにも、必ず俺達の周りには犬の姿があった。
犬たちは始終、影日向に俺達の周囲をいつも取り囲んでいて、
なにかがあると、すぐに伝令が走る、という見事な連携プレーを見せる。
この村では子供たちの周りにはいついかなる時にも必ず犬が控えている。
だから親たちも安心なのだそうだ。
ということは、つまりは俺達も子供扱いってことなのかな?
と誰かが呟いて皆が笑った。

という訳で、ニューヨークという大都市に暮らしながらもこの犬の役割は変わってはいない。
つまりは犬がいるが為に安眠を保証してくれる訳で、
ついついドアの鍵をかけるのを忘れてしまってもまったく問題なし。
もしもどこぞの不届き者がこっそりとドアを開けようとした途端に、
いきなり火のついたような勢いで吠え立てられるか、
或いは、薄く開いたドアの間、闇の中にランランと輝く二つの目。
グルルル、と牙を剥く犬の存在を知れば、
さしもの大泥棒も一歩たりとも部屋にはいることはできない筈である。
犬がいると本当に心強い。
まさに人類最高の友である。
ちなみに我が家の犬。
ボール遊び以外にはまったくなににも興味を示さない駄犬ではあるが、
もしもサバイバル生活に入ったとすれば、それこそ一日に何千匹のネズミやらリスやらうさぎやらを捕まえてくることは必至。
もしもオーストラリアン・キャトル・ドッグとしての血が騒いだ日には、下手をすれば牛の群れを引き連れて帰ってくるやもしれず。
という訳で、うん、こいつと居れば例えなにがあっても大丈夫、と思わせてくれる魂の友なわけである。
みなさん、犬は人類最高の友。尊敬と感謝の気持ちを忘れてはいけません。
だから夜更けに勘違いで叩き起こされた時にも決して、このバカタレが、ただの酔っ払いだろ、と怒鳴ったりしてはいけませぬ。

人生の失敗
鏡を見るたびに、俺も歳を取ったな、と思う
妻の姿を見るたびに、俺の人生は茶番だったな、と思う
子供の姿を見るたびに、俺の人生は失敗だったな、と思う
周りを見回すたびに、まあ世の中そんなものか、とも思う
俺は果たしてどこに向かっているのだろう。
なにを求めて、なにを探して。
改めて、迷ったな、と思う。
そして出口は、みつからない。
まあみんなそんなものか、が唯一の慰めなのだが。
そういうものの答えって、どこを探せば出てくるのだろう。
まさか2チャンネル、あるいは、YAHOO 知恵袋でもないだろうに。
そして今日も生きていく。
身だしなみぐらいはきちっとせねば、それだけが唯一の世間との取っ掛かりだ。
おっ!おっ!おっ!あのおんな、なんだ?俺を見たぞ!
よしよし、俺もまだまだいけてるな。よしよし、良い一日になりそうだ。
妻の姿を見るたびに、俺の人生は茶番だったな、と思う
子供の姿を見るたびに、俺の人生は失敗だったな、と思う
周りを見回すたびに、まあ世の中そんなものか、とも思う
俺は果たしてどこに向かっているのだろう。
なにを求めて、なにを探して。
改めて、迷ったな、と思う。
そして出口は、みつからない。
まあみんなそんなものか、が唯一の慰めなのだが。
そういうものの答えって、どこを探せば出てくるのだろう。
まさか2チャンネル、あるいは、YAHOO 知恵袋でもないだろうに。
そして今日も生きていく。
身だしなみぐらいはきちっとせねば、それだけが唯一の世間との取っ掛かりだ。
おっ!おっ!おっ!あのおんな、なんだ?俺を見たぞ!
よしよし、俺もまだまだいけてるな。よしよし、良い一日になりそうだ。
死にたくなったらこれを読め 「百年の孤独」 ~ ガブリエル・ガルシア・マルケスの死に添えて
ガルシア・マルケスの名前を聞いたのは、
長い旅の途中に知り合った戦場カメラマンからだった。
長い旅の途中に知り合った戦場カメラマンからだった。
旅で一番辛いことは本が読めないことだな、という話題から、
一番読みたい本は?という話になった時だった。
ゆきぐに、とその戦場カメラマンは言った。
川端康成の「雪国」。
この糞暑いインドなんてところで、あの雪国の情景が懐かしくてならねえ。
梶井基次郎、と俺が返した。
梶井基次郎の「檸檬」。
このインド人なんていうとんでもなくデリカシーに欠ける奴らの中にあって、あの繊細さはまさに日本人の心のすべて。
レモンかあ、とその戦場カメラマンは呟いた。
なあ、檸檬より、城のある町にてのほうが良くないか?
~ 風が少し吹いて、午後であった、でしょ?この一文こそはまさにダイナマイトだったよね。
目の前に城下町から風の匂いからが、ほら、すーっと広がってくるようでさあ。
そう思うだけでなんだか汗が冷えていくような気がするよ。
おおお!とその戦場カメラマンが膝を叩いた。
なんだよ、なんだよ、おまえ、判ってるじゃないか。
思えばその戦場カメラマンの笑顔を見たのは、それが始めてだったかもしれない。
普段はまさに、やくざな死神を思わせるような陰鬱な表情で、
俺は見なくてもいい物を見過ぎてしまったとでも言うように、
まるで仮面のように貼り付いてしまった皮肉な笑いが消えることのない、
そんな男であったのだが、
そのときに限って、その戦場カメラマンはまるで子供のような笑顔で実に嬉しそうにはしゃいで見せた。
そうか、文学部か、と戦場カメラマンは勝手に俺をそう決めつけた。
なあ、文学部、お前、チベット旅行記読んだか?
チベットりょこうき?いや、まだだけど。
なら読め。チベット旅行記。河口慧海って坊さんがな、
明治時代に、その頃は鎖国だったチベットに密入国する話なんだがな、
それが凄まじいんだよ。
辛酸を舐める、どころじゃない、なんども死にかけるんだが、
そのたびにお経を唱えて生き延びるんだよ。
その精神力、というか、強さ、というかな、凄いんだよ。
読んでみろ。絶対に気に入るぞ。
あの本さえ読んでいればな、
この先、どんな辛いことがあっても絶対に大丈夫だ。
こんな人がいたんだから俺の苦労なんてまだまだだって思えるからな。
読め読め。
その後、その戦場カメラマンは、まるで食べたいものを上げ連ねるように、
読みたい本をずらずらと並べ立てては、まるで舌なめずりをするように、
この本の何が面白くて、と寸評を並べて行くのだが、
古典から始まり、西洋の哲学書から、マンガまで、
まさにとんでもない守備範囲である。
俺はそんな話を聞きながら、まさにお腹がぐーっと音を立てるように、
もう本が読みたくて読みたくて堪らない気持ちになっていて、
旅の間中、ずっとこの戦争カメラマンとくっついていて、
永遠と本の話をしていたいな、とまで思ったものだ。
そして最後に、とその戦場カメラマンは言った。
ガルシア・マルケスの「百年の孤独」
ガルシア?マルケス?
知らないだろう。南米の作家なんだがな。
南米?南米に作家なんかいたの?
南米の作家はいいぞ。ボスヘス、リョサ、ルルフォとかな。
南米の作家はいいぞ、読め読め。
で、その百年の何とかっていうのは?
ああ、百年の孤独か。うん、これがやはり一番だな。
南米のな、マコンドって村の、ブエンディア一族の盛衰の話なんだがな。
これがもう、奇想天外な寓話のタペストリー。
だが、なんか日本ではちょっと勘違いされている、というか、
文芸評論家みたいな奴らが偉そうな顔して、
幻想文学、やら、シュールリアリズムやら、と
なんだか訳の判らないことばかり言ってて、
それを鵜呑みにしたバカどもがまた判ったんだか判ってないんだか、
難解、なんて妙な見出しを付けたがるんだが、
俺から言わせればそんなものじゃない。
これはな、ガキの頃、夏休みに田舎に行くと、
縁側に座って爺ちゃんばあちゃんが昔話しをしてくれたろ?
あれなんだよ。
まさにあれ。
年寄りの口からとめどもなく流れる筋書きも脈絡のない昔話。
なんだがな、それがそれが、本当に面白いんだ。
まるで本当にコロンビアの埃り臭い田舎町で、
鶏追いながらそんな話をされているような気になってきてな。
俺はこの本が好きで好きで、本当に南米まで行っちまった。
この本のために南米に行ったの?
そう。つまり、このマコンド、というその舞台の村なんだが、
それがどうしても見たくなって。
本当にあるの?そのマコンドって村が。
いや、ない。ないんだが、南米の田舎を歩いていると、
まさにそこら中に、マコンドみたいな村がたくさんあるんだよ。
そこでな、しみったれたソカロのカフェかなんかで一日中ドミノやってる爺さんとかと話しているとな、
まさに、そう、この百年の孤独の世界、そのものなんだよ。
こないだ、ほら、あそこ、あそこの肉屋の娘がな、
いきなり空に消えちまったんだ、みたいな。
まさか。
そう、そのまさかなんだが。なんとなくな、信じられちゃうような気にもなるんだよ。南米にいるとさ。
南米かあ。。
日本の評論家はな、暗室に篭って本ばかり読んでて、
一度も外に出たことがないんだろう。
だからあんな根暗な解釈しかできないんだ。
自分で南米に行ってみろって。
それこそ、出会う奴、出会うやつ
アウレリャーノから、ホセから、アルカディオから、
ウルスラから、レベッカから、レメディオスまで、
まさに、お前がそうだろう、みたいな、本当にそう、そんな連中ばかりなんだ。
なんだよ、マルケスはつまりはただこういう奴らのことを、こういう奴らとして、
ただ脈絡もなく書き綴っていただけなんだろうってさ。
俺から言わせればそれだけ、なんだがな。
で、そんな年寄りの昔話のどこが面白いの?
愛だろうな、愛。あの作品ほど愛に満ち溢れた作品ってのを俺は見たことがない。
でも、孤独なんでしょ?
そう、孤独なんだよ。孤独だからこそ愛なんだ。愛の孤独というか、百年の孤立、というか。
いいか、これからの人生、お前もいろいろあるだろうがな、
もしも、本当にこの「人の世」、浮世の世知辛さが身に沁みてしまったら、
騙されたと思ってこの本を読め。
いいか、死にたい、と思ったらこの本を読むんだ。
読み終わった時、たぶん、世の中が違って見える筈だ。
死にたくなったらこれを読め・・か・・・
その後、日本に帰り着いた俺は、
しかし戦場カメラマンの予言どおり、
まさにこれでもかというぐらいな色々が押し寄せて来たのではあるが、
そんななか、別に死にたくなったという訳でもないのだが、
まあ確かに、こんな奴らといるぐらいなら死んだほうがましだと思いたくなるぐらいにまで
「その恐ろしく陰気な顔をした日本人の集団」に、
心の底から徹底的なまでうんざりさせられていたのは事実だ。
そしていくつかの仕事を渡り歩いては、
そのたびにこの浮世に暮らすことがつくづく馬鹿馬鹿しく思えてきて、
ああ、また旅に出てしまおうか、とため息をつく日々。
そんな中、またひとつの会社を辞めようとしていた時、
世話になったお得意さんの一人から、ああそう言えば、とこの本を渡されたのだ。
ほら、前に読みたいって言ってたろ?退職祝いって訳じゃないが、いまのうちに渡しておくよ。
読み終わったらで良いから、その時は履歴書と一緒に返してくれ、
とその営業部長はニヤリと笑った。
だがな、もしもアメリカに行くって言うなら、餞別代わりだ。アメリカまで持って行って貰って構わない。
この本も俺なんかのところで腐っているよりは、あんたみたいな人と世界中を旅していた方が幸せだろうと思ってな。
長いがな、一生かかってでも読み切るに値する本ってのはそうざらにあるものじゃない。
その本は、その類まれな一冊だ。
一度読みきったが最後、棺桶にまで持って行きたくなるぞ。
という訳で、その営業部長に渡された「百年の孤独」はまだ俺の手元にある。
これまでこの本と一緒にいったいどれだけの土地を渡りあるいただろう。
そして世界中の安宿のベッドで、いったい何度この本のページを開いただろう。
百万回ではとても足りないだろう。
今では、どこのページを開いても、そらでその内容を読み上げることさえもできる。
できるのであるが、また読んでしまう。読み始めてしまうとまた読み耽ってしまう。
まさに、俺にとっては聖書のようなものだ。
人が生まれ、人が生き、愛し、笑い、憎み、泣き、そして死ぬ。
その淡々とした、しかし、まさに抱腹絶倒のエピソードに満ち溢れた人々の生。
その人々の表情がまさに手に取るようにありありと浮かんでくる。
人物が立っている、というのはまさにこのことで、立ち過ぎた登場人物たちが、
目の前にいくつも立ち現れそうなほどに、リアルで、そして愛しい。
この人間って奴らは、まったくどうしようもない種ではあるが、もしかしたらまだまだ捨てたものじゃない。
つまりそう、あいつは、XXなんだろう、とその登場人物に擬えてみる。そしてくすっと笑うことができる。
許してやってもいいかな、と思う。
そうするうちに、俺はいつのまにか周りの人々をついつい、この「百年の孤独」と登場人物と重ねてみるようになって、
そしてほんのすこし、やさしい気持ちで周囲の人々を見れるようにもなるのだ。
そんな時、死にたくなったらこの本を読め、と言ったあの戦場カメラマンの言葉を思い出す。
生も、そして死者さえもが、まさに生き生きとこの物語から溢れでた現実の中にすんなりと溶け込んでしまい、
目の前に展開するこの浮世の茶番劇の、その怒りも、憎しみも、悲しみさえもが、
ふっと既に過ぎ去った、遠いアルバムの中に思い出を綴るようにさえ思えてきてしまうのだ。
そして、2014年4月18日、マルケスが死んだ。
天から舞い降りた花が降り積もったのだろうか、と思ったのだが、
奇しくもマルケスの死んだその日、メキシコシティーで大きな地震があったらしい。
まさに、マルケスらしい逸話だ。
ガブリエル・ガルシア・マルケス。
あなたの書いた作品がなかったら、俺はここまで生き延びれなかった。
そしてこの後も、俺はあなたの作り上げた幻想の村・マコンドに暮らし続けると思う。
ありがとう、と心から伝えたい。
GRACIAS
一番読みたい本は?という話になった時だった。
ゆきぐに、とその戦場カメラマンは言った。
川端康成の「雪国」。
この糞暑いインドなんてところで、あの雪国の情景が懐かしくてならねえ。
梶井基次郎、と俺が返した。
梶井基次郎の「檸檬」。
このインド人なんていうとんでもなくデリカシーに欠ける奴らの中にあって、あの繊細さはまさに日本人の心のすべて。
レモンかあ、とその戦場カメラマンは呟いた。
なあ、檸檬より、城のある町にてのほうが良くないか?
~ 風が少し吹いて、午後であった、でしょ?この一文こそはまさにダイナマイトだったよね。
目の前に城下町から風の匂いからが、ほら、すーっと広がってくるようでさあ。
そう思うだけでなんだか汗が冷えていくような気がするよ。
おおお!とその戦場カメラマンが膝を叩いた。
なんだよ、なんだよ、おまえ、判ってるじゃないか。
思えばその戦場カメラマンの笑顔を見たのは、それが始めてだったかもしれない。
普段はまさに、やくざな死神を思わせるような陰鬱な表情で、
俺は見なくてもいい物を見過ぎてしまったとでも言うように、
まるで仮面のように貼り付いてしまった皮肉な笑いが消えることのない、
そんな男であったのだが、
そのときに限って、その戦場カメラマンはまるで子供のような笑顔で実に嬉しそうにはしゃいで見せた。
そうか、文学部か、と戦場カメラマンは勝手に俺をそう決めつけた。
なあ、文学部、お前、チベット旅行記読んだか?
チベットりょこうき?いや、まだだけど。
なら読め。チベット旅行記。河口慧海って坊さんがな、
明治時代に、その頃は鎖国だったチベットに密入国する話なんだがな、
それが凄まじいんだよ。
辛酸を舐める、どころじゃない、なんども死にかけるんだが、
そのたびにお経を唱えて生き延びるんだよ。
その精神力、というか、強さ、というかな、凄いんだよ。
読んでみろ。絶対に気に入るぞ。
あの本さえ読んでいればな、
この先、どんな辛いことがあっても絶対に大丈夫だ。
こんな人がいたんだから俺の苦労なんてまだまだだって思えるからな。
読め読め。
その後、その戦場カメラマンは、まるで食べたいものを上げ連ねるように、
読みたい本をずらずらと並べ立てては、まるで舌なめずりをするように、
この本の何が面白くて、と寸評を並べて行くのだが、
古典から始まり、西洋の哲学書から、マンガまで、
まさにとんでもない守備範囲である。
俺はそんな話を聞きながら、まさにお腹がぐーっと音を立てるように、
もう本が読みたくて読みたくて堪らない気持ちになっていて、
旅の間中、ずっとこの戦争カメラマンとくっついていて、
永遠と本の話をしていたいな、とまで思ったものだ。
そして最後に、とその戦場カメラマンは言った。
ガルシア・マルケスの「百年の孤独」
ガルシア?マルケス?
知らないだろう。南米の作家なんだがな。
南米?南米に作家なんかいたの?
南米の作家はいいぞ。ボスヘス、リョサ、ルルフォとかな。
南米の作家はいいぞ、読め読め。
で、その百年の何とかっていうのは?
ああ、百年の孤独か。うん、これがやはり一番だな。
南米のな、マコンドって村の、ブエンディア一族の盛衰の話なんだがな。
これがもう、奇想天外な寓話のタペストリー。
だが、なんか日本ではちょっと勘違いされている、というか、
文芸評論家みたいな奴らが偉そうな顔して、
幻想文学、やら、シュールリアリズムやら、と
なんだか訳の判らないことばかり言ってて、
それを鵜呑みにしたバカどもがまた判ったんだか判ってないんだか、
難解、なんて妙な見出しを付けたがるんだが、
俺から言わせればそんなものじゃない。
これはな、ガキの頃、夏休みに田舎に行くと、
縁側に座って爺ちゃんばあちゃんが昔話しをしてくれたろ?
あれなんだよ。
まさにあれ。
年寄りの口からとめどもなく流れる筋書きも脈絡のない昔話。
なんだがな、それがそれが、本当に面白いんだ。
まるで本当にコロンビアの埃り臭い田舎町で、
鶏追いながらそんな話をされているような気になってきてな。
俺はこの本が好きで好きで、本当に南米まで行っちまった。
この本のために南米に行ったの?
そう。つまり、このマコンド、というその舞台の村なんだが、
それがどうしても見たくなって。
本当にあるの?そのマコンドって村が。
いや、ない。ないんだが、南米の田舎を歩いていると、
まさにそこら中に、マコンドみたいな村がたくさんあるんだよ。
そこでな、しみったれたソカロのカフェかなんかで一日中ドミノやってる爺さんとかと話しているとな、
まさに、そう、この百年の孤独の世界、そのものなんだよ。
こないだ、ほら、あそこ、あそこの肉屋の娘がな、
いきなり空に消えちまったんだ、みたいな。
まさか。
そう、そのまさかなんだが。なんとなくな、信じられちゃうような気にもなるんだよ。南米にいるとさ。
南米かあ。。
日本の評論家はな、暗室に篭って本ばかり読んでて、
一度も外に出たことがないんだろう。
だからあんな根暗な解釈しかできないんだ。
自分で南米に行ってみろって。
それこそ、出会う奴、出会うやつ
アウレリャーノから、ホセから、アルカディオから、
ウルスラから、レベッカから、レメディオスまで、
まさに、お前がそうだろう、みたいな、本当にそう、そんな連中ばかりなんだ。
なんだよ、マルケスはつまりはただこういう奴らのことを、こういう奴らとして、
ただ脈絡もなく書き綴っていただけなんだろうってさ。
俺から言わせればそれだけ、なんだがな。
で、そんな年寄りの昔話のどこが面白いの?
愛だろうな、愛。あの作品ほど愛に満ち溢れた作品ってのを俺は見たことがない。
でも、孤独なんでしょ?
そう、孤独なんだよ。孤独だからこそ愛なんだ。愛の孤独というか、百年の孤立、というか。
いいか、これからの人生、お前もいろいろあるだろうがな、
もしも、本当にこの「人の世」、浮世の世知辛さが身に沁みてしまったら、
騙されたと思ってこの本を読め。
いいか、死にたい、と思ったらこの本を読むんだ。
読み終わった時、たぶん、世の中が違って見える筈だ。
死にたくなったらこれを読め・・か・・・
その後、日本に帰り着いた俺は、
しかし戦場カメラマンの予言どおり、
まさにこれでもかというぐらいな色々が押し寄せて来たのではあるが、
そんななか、別に死にたくなったという訳でもないのだが、
まあ確かに、こんな奴らといるぐらいなら死んだほうがましだと思いたくなるぐらいにまで
「その恐ろしく陰気な顔をした日本人の集団」に、
心の底から徹底的なまでうんざりさせられていたのは事実だ。
そしていくつかの仕事を渡り歩いては、
そのたびにこの浮世に暮らすことがつくづく馬鹿馬鹿しく思えてきて、
ああ、また旅に出てしまおうか、とため息をつく日々。
そんな中、またひとつの会社を辞めようとしていた時、
世話になったお得意さんの一人から、ああそう言えば、とこの本を渡されたのだ。
ほら、前に読みたいって言ってたろ?退職祝いって訳じゃないが、いまのうちに渡しておくよ。
読み終わったらで良いから、その時は履歴書と一緒に返してくれ、
とその営業部長はニヤリと笑った。
だがな、もしもアメリカに行くって言うなら、餞別代わりだ。アメリカまで持って行って貰って構わない。
この本も俺なんかのところで腐っているよりは、あんたみたいな人と世界中を旅していた方が幸せだろうと思ってな。
長いがな、一生かかってでも読み切るに値する本ってのはそうざらにあるものじゃない。
その本は、その類まれな一冊だ。
一度読みきったが最後、棺桶にまで持って行きたくなるぞ。
という訳で、その営業部長に渡された「百年の孤独」はまだ俺の手元にある。
これまでこの本と一緒にいったいどれだけの土地を渡りあるいただろう。
そして世界中の安宿のベッドで、いったい何度この本のページを開いただろう。
百万回ではとても足りないだろう。
今では、どこのページを開いても、そらでその内容を読み上げることさえもできる。
できるのであるが、また読んでしまう。読み始めてしまうとまた読み耽ってしまう。
まさに、俺にとっては聖書のようなものだ。
人が生まれ、人が生き、愛し、笑い、憎み、泣き、そして死ぬ。
その淡々とした、しかし、まさに抱腹絶倒のエピソードに満ち溢れた人々の生。
その人々の表情がまさに手に取るようにありありと浮かんでくる。
人物が立っている、というのはまさにこのことで、立ち過ぎた登場人物たちが、
目の前にいくつも立ち現れそうなほどに、リアルで、そして愛しい。
この人間って奴らは、まったくどうしようもない種ではあるが、もしかしたらまだまだ捨てたものじゃない。
つまりそう、あいつは、XXなんだろう、とその登場人物に擬えてみる。そしてくすっと笑うことができる。
許してやってもいいかな、と思う。
そうするうちに、俺はいつのまにか周りの人々をついつい、この「百年の孤独」と登場人物と重ねてみるようになって、
そしてほんのすこし、やさしい気持ちで周囲の人々を見れるようにもなるのだ。
そんな時、死にたくなったらこの本を読め、と言ったあの戦場カメラマンの言葉を思い出す。
生も、そして死者さえもが、まさに生き生きとこの物語から溢れでた現実の中にすんなりと溶け込んでしまい、
目の前に展開するこの浮世の茶番劇の、その怒りも、憎しみも、悲しみさえもが、
ふっと既に過ぎ去った、遠いアルバムの中に思い出を綴るようにさえ思えてきてしまうのだ。
そして、2014年4月18日、マルケスが死んだ。
天から舞い降りた花が降り積もったのだろうか、と思ったのだが、
奇しくもマルケスの死んだその日、メキシコシティーで大きな地震があったらしい。
まさに、マルケスらしい逸話だ。
ガブリエル・ガルシア・マルケス。
あなたの書いた作品がなかったら、俺はここまで生き延びれなかった。
そしてこの後も、俺はあなたの作り上げた幻想の村・マコンドに暮らし続けると思う。
ありがとう、と心から伝えたい。
GRACIAS

セントラルパークに桜の便り
仕事帰りのセントラルパーク
ああ、今日も残業か、とメールの返答を書いていたら、
ボスからメッセージ。
こんなに良い天気なのに犬が待ってるよ。早く帰りろう。
という訳で、飛んで帰ってセントラルパーク。

ぶーくんも超ごきげんです。

桜もようやく本咲き間近でしょうか

ボスからメッセージ。
こんなに良い天気なのに犬が待ってるよ。早く帰りろう。
という訳で、飛んで帰ってセントラルパーク。

ぶーくんも超ごきげんです。

桜もようやく本咲き間近でしょうか

TRIBECA FILM FESTIVAL - CHEF
昨夜のドッグランでいきなり、
翌日のTRIBECA FILM FESTIVALのパスを貰った。

毎年TRIBECAでFILM FESTIVALをやっている、というのは知っていたが、
これまで縁がなくて行ったことがなかった。
がしかし、とは思っていた。
どうせそのあたりの安いインディペンデント映画、
知恵足らずが天才を気取ってやっぱり失敗しましたという、
いつものあれだろう・・・そういう糞映画にはもうつくづく見飽きてるからな。
などと聞いたような口を利いていた俺ではあったが・・・
という訳で、なんの予備知識もなしに観た映画「CHEF」

凄く面白かった!
主演・脚本・監督・プロデュースまで、すべて Jon Favreau という人らしい。
インディ映画界では有名な人らしいのだが、
まさに、脚本・演出・主演、すべてが完璧のアンサンブル、
まあ同一人物だから当然ではあるのだが、
その思い入れからなにから、まさに入魂の一作。

オーナー・シェフのレストランの開店祝いで、
料理長から直々に特別料理をご馳走されたような、まさにそんな感じだった。
いやあ、美味しかった、じゃない、面白かった。
スクリーンの最後のクレジットが消えた後、
満場の喝采に迎えられて舞台に並んだ出演者たち。
その感動が会場中を包んで、まさに涙うるうるである。

フィルム・フェスティバルってのは始めてだったんだが、
これぞビギナーズ・ラック、まさに大当たりだった。
翌日のTRIBECA FILM FESTIVALのパスを貰った。

毎年TRIBECAでFILM FESTIVALをやっている、というのは知っていたが、
これまで縁がなくて行ったことがなかった。
がしかし、とは思っていた。
どうせそのあたりの安いインディペンデント映画、
知恵足らずが天才を気取ってやっぱり失敗しましたという、
いつものあれだろう・・・そういう糞映画にはもうつくづく見飽きてるからな。
などと聞いたような口を利いていた俺ではあったが・・・
という訳で、なんの予備知識もなしに観た映画「CHEF」

凄く面白かった!
主演・脚本・監督・プロデュースまで、すべて Jon Favreau という人らしい。
インディ映画界では有名な人らしいのだが、
まさに、脚本・演出・主演、すべてが完璧のアンサンブル、
まあ同一人物だから当然ではあるのだが、
その思い入れからなにから、まさに入魂の一作。

オーナー・シェフのレストランの開店祝いで、
料理長から直々に特別料理をご馳走されたような、まさにそんな感じだった。
いやあ、美味しかった、じゃない、面白かった。
スクリーンの最後のクレジットが消えた後、
満場の喝采に迎えられて舞台に並んだ出演者たち。
その感動が会場中を包んで、まさに涙うるうるである。

フィルム・フェスティバルってのは始めてだったんだが、
これぞビギナーズ・ラック、まさに大当たりだった。
「ROCKを葬り去る前に その41 ~ 春の訪れとともに」
春の訪れとともに虫が疼きはじめるニューヨーカー。
金曜の夜、会社帰りにブルックリン。
なんだかんだで帰ったのが11時過ぎ。
で、慌てて犬の散歩して帰って、
残り物のピザやらパスタやらを食ったのが12時過ぎ。
翌朝7時に起きてセントラルパーク。
犬仲間たちのボートハウスのカフェで午前中を過ごし、
しまった歯医者だ、と慌ててミッドタウン。
その後、日系スーパーに出向いてお買い物。
これがまたまた、見るもの見るもの全てがおいしそうに見えて、
カレーパンからビーフ・コロッケから、焼きそばからお好み焼きから、と思わず買い込んでしまう。
大皿に盛り上げた揚げ物と炭水化物の山。
これにマヨネーズと青海苔をどばーっとかけて究極の大阪飯。
これがもう、うまいうまいうまい、と掻きこんでいたら、いきなり電話。
ねえ、今日さあ、サンちゃん行かない?ってなお誘い。
サンちゃんと言えば、コロンビア近くの日系居酒屋さん。
必殺・名古屋風手羽先から始まって、焼き鳥からカツどんからなんでもあり。
そして極めつけは「ひつまぶし」
この鰻釜飯にワサビと汁をぶっかけたあの絶品うなぎ茶漬け。

おおおお!と思わず雄たけび。行く行く行く!と三つ返事。
と言う訳で、
夜半近くまで、寿司だ、焼き鳥だ、かつ丼親子丼天丼鰻丼、
鮭窯、はまち窯、カレイの唐揚から、まさにテーブル中を乱れ飛ぶ揚げ物と炭水化物の嵐。
うへえ、食った食った、と春の夜風に吹かれながら、深夜の公園を犬の散歩。
で、翌日の日曜日も大快晴。
そう言えばそろそろまじめに資格試験の勉強でもと参考書を背負って出かけるが、
公園の芝生の上についたとたんに大爆睡。
としたところ、おーい、今日は6時だったよな?とメール。
おお忘れていた、今日はハーレム仲間とメキシカンを食う予定であった、
とでかけて日も高いうちから大騒ぎ。
マルガリータにビノにセルベッサ。
タコスだケサディージャだ、ナッチョだブリトーだ。
カルネもマリスコスもケソスもこれでもかと山盛りの山盛り。
結局夜更けまで騒ぎに騒いで帰って来たときには失神寸前。
待ちぼうけのブーを連れて、いやあ悪い悪いと散歩にでかけるが、
なんかこのずぼん、凄くきつくなったんだが・・・
と帰って早々に体重計に乗ってみれば、いきなりその目を疑った。
なんと、133LB。
金曜日の朝には確か128LBであった筈。
ってことはつまりは5LB!
たった二日で5LBのGAINである。
うへええ、この魔の週末。まったく侮れない。
と、それが理由という訳でもないのだが、
月曜日も火曜日もまったく食欲がない。
腹が減った減らないよりも、なんとなく、物を食うことにうんざりした、というところ。
と言う訳で、暴飲暴食の週末の後、二日とたたずに体重はまた128LBに戻っていたのでした。
まあそういうことだろ、と。
金曜の夜、会社帰りにブルックリン。
なんだかんだで帰ったのが11時過ぎ。
で、慌てて犬の散歩して帰って、
残り物のピザやらパスタやらを食ったのが12時過ぎ。
翌朝7時に起きてセントラルパーク。
犬仲間たちのボートハウスのカフェで午前中を過ごし、
しまった歯医者だ、と慌ててミッドタウン。
その後、日系スーパーに出向いてお買い物。
これがまたまた、見るもの見るもの全てがおいしそうに見えて、
カレーパンからビーフ・コロッケから、焼きそばからお好み焼きから、と思わず買い込んでしまう。
大皿に盛り上げた揚げ物と炭水化物の山。
これにマヨネーズと青海苔をどばーっとかけて究極の大阪飯。
これがもう、うまいうまいうまい、と掻きこんでいたら、いきなり電話。
ねえ、今日さあ、サンちゃん行かない?ってなお誘い。
サンちゃんと言えば、コロンビア近くの日系居酒屋さん。
必殺・名古屋風手羽先から始まって、焼き鳥からカツどんからなんでもあり。
そして極めつけは「ひつまぶし」
この鰻釜飯にワサビと汁をぶっかけたあの絶品うなぎ茶漬け。

おおおお!と思わず雄たけび。行く行く行く!と三つ返事。
と言う訳で、
夜半近くまで、寿司だ、焼き鳥だ、かつ丼親子丼天丼鰻丼、
鮭窯、はまち窯、カレイの唐揚から、まさにテーブル中を乱れ飛ぶ揚げ物と炭水化物の嵐。
うへえ、食った食った、と春の夜風に吹かれながら、深夜の公園を犬の散歩。
で、翌日の日曜日も大快晴。
そう言えばそろそろまじめに資格試験の勉強でもと参考書を背負って出かけるが、
公園の芝生の上についたとたんに大爆睡。
としたところ、おーい、今日は6時だったよな?とメール。
おお忘れていた、今日はハーレム仲間とメキシカンを食う予定であった、
とでかけて日も高いうちから大騒ぎ。
マルガリータにビノにセルベッサ。
タコスだケサディージャだ、ナッチョだブリトーだ。
カルネもマリスコスもケソスもこれでもかと山盛りの山盛り。
結局夜更けまで騒ぎに騒いで帰って来たときには失神寸前。
待ちぼうけのブーを連れて、いやあ悪い悪いと散歩にでかけるが、
なんかこのずぼん、凄くきつくなったんだが・・・
と帰って早々に体重計に乗ってみれば、いきなりその目を疑った。
なんと、133LB。
金曜日の朝には確か128LBであった筈。
ってことはつまりは5LB!
たった二日で5LBのGAINである。
うへええ、この魔の週末。まったく侮れない。
と、それが理由という訳でもないのだが、
月曜日も火曜日もまったく食欲がない。
腹が減った減らないよりも、なんとなく、物を食うことにうんざりした、というところ。
と言う訳で、暴飲暴食の週末の後、二日とたたずに体重はまた128LBに戻っていたのでした。
まあそういうことだろ、と。
「我が家の駄犬の犬種に関して」
ありがとうございます。
ご質問頂いた件ですが、我が家のブッチの品種は、いまだ謎。わかりません(笑
典型的な雑種、という奴でしょうか。

レスキュー・シェルターで貰い受けた際、登録した書類には「Blue Heeler Mix」とあったのですが、それにしたって、医学的・遺伝子学的な見解ではまったくなく、その場に居たスタッフが、犬図鑑のページをめくりながら、これじゃないのかな?と見当をつけて記入しただけ。
ちなみにブッチの兄弟である「チャンプ」の書類には「Rat Terrier Mix」と記入されていたそうです。
と言う訳でその後、我が家のブッチは、Blue Heeler=Australian Cattle Dogとして育てられ、ブッチの兄弟であるチャンプは、Rat Terrierとして育てられた結果、
ブッチは見る見ると労働犬であるBlue Heeler化し、チャンプはすっかり愛玩犬種であるRat Terrier化が進んだ結果、いまとなってはこの二人を兄弟だと認識するのも難しくなって来ました。
と言う訳で、我が家のブッチの品種なのですが、
以上のことから Australian Cattle Dogと、Rat Terrierの雑種ではないのか、と思っています。

正式にDNA鑑定は施してはいないのですが、事実GOOGLEのIMAGEを検索する限り、このAustralian Cattle Dog + Rat Terrier MIX とやると、まさにそっくり、瓜二つの犬がずらりと並びます。
純血のAustralian Cattle Dogの体系がずんぐりむっくりの筋肉質の短足であるのに対し、我が家のブッチはどちらかと言えば細身の長足。毛足も短く猫のように滑らかです。尻尾も本来の伏せ尾ではなく、いつどんなときにもピンと空を向いて立っており、Australian Cattle Dogの特徴である立派な三角形の立ち耳、ではなく、少し大き過ぎてだらしなく横に垂れ下がっています。
そんなことから、全体的なシェイプから言うと、Rat Terrierに近くなってきたか、と思います。
ただ、サイズ的にはRat Terrierに比べるとかなり大きく、純血種と並ぶと約二倍強。やはり違う犬なのだな、と思い知らされることになります。
また額にはAustralian Cattle Dogの目印でもあるBentleyMarkと言われる十字型の紋章がくっきりと刻まれており、また性格的にも、やはり、Rat Terrier というよりは、まさにAustralian Cattle Dogそのもの。
アクティブで頑固者、タフで用心深く、スタミナと運動神経、そして高い知能では誰にも負けません。
物の本にあるそんなAustralian Cattle Dogの特長がいちいち全てドンピシャに当てはまります。
そんなことから、我が家ではやはりAustralian Cattle DogのMIXとの認識であれば間違いがないか、と考えております。

ちなみにこのRat Terrier (正式名称はAmerican Rat Terrier)という品種ですが、一番有名なところでは、かのビクターの蓄音機に耳を傾げる世界で最も有名な犬であるFOX TERRIERの親戚筋。
ねずみを捕まえさせたら天下一品ということでこのRatの名前を頂戴したそうで、確かにうちの犬も四六時中テニス・ボールばかり追いかけていますね。
以下の映画、Vampire Dog では、このRat Terrierが主役級の活躍をしています。
超B級映画ですが、もしご興味があったら観てみてください。
そして、Australian Cattle Dog ですが、これはもう、なんといってもMADMAX-II ですね。
主役のMel Gibson自身もAustralian Cattle Dogを飼っているとのことで、この犬種の魅力が余すところ無く発揮されています。
これ以上なくアクティブな犬であるため、毎日の散歩が大変ですが、主人への忠誠心だけは誰にも負けず、まなじっかの人間同士よりも、普通の意味で会話が当然のことのように成り立ちます。
あれ、俺のIPHONEどこかな。お前知ってる?あ、あったあった、ありがと、
やら、
あれえ、お前またボール失くしたの?探して来いよ、俺は先に行ってるぞ、
やら、
あ、この手紙をかみさんに渡してきて。サイン貰ったら持って帰ってきてね、
やらやら。
さすがにお留守番中に部屋の掃除と洗濯をお願い、という訳にはいきませんが、おまえ、散らかした玩具は自分でちゃん片付けろよ、というと、せっせと片付けはじめます。
ちなみに、我が家のブッチの親友はと言えば、
ボーダー・コリーのチェシー。ピットブルテリアのサリー。
ラブラドルのルーシー。ゴールデンリトリバーのチューイー。
サイベリアン・ハスキーのワイリー、と、
わりとごつい大型犬が多いのも、キャトルドッグの血が濃いからでしょうか。
また、最近わかったところでは、ボストン・テリアや、フレンチ・ブルドッグ等の平面顔犬種とは徹底的にそりが悪く、ブルドッグは天敵。
ボクサーとも必ずと言ってよい程に喧嘩をします。
どうもしつこく絡まれるのが嫌なようですね。
とは言うものの、女の子の好みのタイプはどういう訳かマルチーズのようなちんちくりんなタイプばかり、とその辺りのところは私もよく判りません。
兄弟であるチャンプとはドッグランでよく顔を合わせるのですが、当人同士はまったく意に関せず、といったところで、どうも見るところチャンプがブッチを避けているようなところがあります。
身体の大きさも体系もかなり違っていて、チャンプはいつも子犬用の広場でいつも飼い主のアニーさんのそばを離れず、ブッチはブッチで大型犬用の広場を縦横無尽に走り回っています。
と言う訳で、なにかのご参考になりましたでしょうか。

ちなみにブッチの兄弟である「チャンプ」の書類には「Rat Terrier Mix」と記入されていたそうです。
と言う訳でその後、我が家のブッチは、Blue Heeler=Australian Cattle Dogとして育てられ、ブッチの兄弟であるチャンプは、Rat Terrierとして育てられた結果、
ブッチは見る見ると労働犬であるBlue Heeler化し、チャンプはすっかり愛玩犬種であるRat Terrier化が進んだ結果、いまとなってはこの二人を兄弟だと認識するのも難しくなって来ました。
と言う訳で、我が家のブッチの品種なのですが、
以上のことから Australian Cattle Dogと、Rat Terrierの雑種ではないのか、と思っています。

正式にDNA鑑定は施してはいないのですが、事実GOOGLEのIMAGEを検索する限り、このAustralian Cattle Dog + Rat Terrier MIX とやると、まさにそっくり、瓜二つの犬がずらりと並びます。
純血のAustralian Cattle Dogの体系がずんぐりむっくりの筋肉質の短足であるのに対し、我が家のブッチはどちらかと言えば細身の長足。毛足も短く猫のように滑らかです。尻尾も本来の伏せ尾ではなく、いつどんなときにもピンと空を向いて立っており、Australian Cattle Dogの特徴である立派な三角形の立ち耳、ではなく、少し大き過ぎてだらしなく横に垂れ下がっています。
そんなことから、全体的なシェイプから言うと、Rat Terrierに近くなってきたか、と思います。
ただ、サイズ的にはRat Terrierに比べるとかなり大きく、純血種と並ぶと約二倍強。やはり違う犬なのだな、と思い知らされることになります。
また額にはAustralian Cattle Dogの目印でもあるBentleyMarkと言われる十字型の紋章がくっきりと刻まれており、また性格的にも、やはり、Rat Terrier というよりは、まさにAustralian Cattle Dogそのもの。
アクティブで頑固者、タフで用心深く、スタミナと運動神経、そして高い知能では誰にも負けません。
物の本にあるそんなAustralian Cattle Dogの特長がいちいち全てドンピシャに当てはまります。
そんなことから、我が家ではやはりAustralian Cattle DogのMIXとの認識であれば間違いがないか、と考えております。

ちなみにこのRat Terrier (正式名称はAmerican Rat Terrier)という品種ですが、一番有名なところでは、かのビクターの蓄音機に耳を傾げる世界で最も有名な犬であるFOX TERRIERの親戚筋。
ねずみを捕まえさせたら天下一品ということでこのRatの名前を頂戴したそうで、確かにうちの犬も四六時中テニス・ボールばかり追いかけていますね。
以下の映画、Vampire Dog では、このRat Terrierが主役級の活躍をしています。
超B級映画ですが、もしご興味があったら観てみてください。
そして、Australian Cattle Dog ですが、これはもう、なんといってもMADMAX-II ですね。
主役のMel Gibson自身もAustralian Cattle Dogを飼っているとのことで、この犬種の魅力が余すところ無く発揮されています。
これ以上なくアクティブな犬であるため、毎日の散歩が大変ですが、主人への忠誠心だけは誰にも負けず、まなじっかの人間同士よりも、普通の意味で会話が当然のことのように成り立ちます。
あれ、俺のIPHONEどこかな。お前知ってる?あ、あったあった、ありがと、
やら、
あれえ、お前またボール失くしたの?探して来いよ、俺は先に行ってるぞ、
やら、
あ、この手紙をかみさんに渡してきて。サイン貰ったら持って帰ってきてね、
やらやら。
さすがにお留守番中に部屋の掃除と洗濯をお願い、という訳にはいきませんが、おまえ、散らかした玩具は自分でちゃん片付けろよ、というと、せっせと片付けはじめます。
ちなみに、我が家のブッチの親友はと言えば、
ボーダー・コリーのチェシー。ピットブルテリアのサリー。
ラブラドルのルーシー。ゴールデンリトリバーのチューイー。
サイベリアン・ハスキーのワイリー、と、
わりとごつい大型犬が多いのも、キャトルドッグの血が濃いからでしょうか。
また、最近わかったところでは、ボストン・テリアや、フレンチ・ブルドッグ等の平面顔犬種とは徹底的にそりが悪く、ブルドッグは天敵。
ボクサーとも必ずと言ってよい程に喧嘩をします。
どうもしつこく絡まれるのが嫌なようですね。
とは言うものの、女の子の好みのタイプはどういう訳かマルチーズのようなちんちくりんなタイプばかり、とその辺りのところは私もよく判りません。
兄弟であるチャンプとはドッグランでよく顔を合わせるのですが、当人同士はまったく意に関せず、といったところで、どうも見るところチャンプがブッチを避けているようなところがあります。
身体の大きさも体系もかなり違っていて、チャンプはいつも子犬用の広場でいつも飼い主のアニーさんのそばを離れず、ブッチはブッチで大型犬用の広場を縦横無尽に走り回っています。
と言う訳で、なにかのご参考になりましたでしょうか。


「間違えだらけの子犬の選び」
某盲導犬のトレーナーのお話では、子犬を選ぶときには必ず一番おとなしい子、を選ぶそうである。
人の姿を見ていの一番に駆け寄って来ては、まわりの兄弟を踏み台にして真っ先に膝の上によじ登ってくる、というタイプはまさに「最悪」らしい。

そういう元気すぎる子を選ぶとね、その先、本当の本当に苦労するから。
と言う訳で・・・・思わず絶句である。

なぜならば我が家の犬こそまさにその「駄目子犬」の典型的な例。しかもドがいくつも並ぶぐらいの超ド級の駄目子犬であった。

兄弟の中ではダントツで元気があって、身体も大きく、俺の姿を見た途端、よじ登るどころかいきなり飛び込んで来て顔中を嘗め回し。
他の兄弟の事はただの遊び道具としか思っていなかった風で、蹴散らすは噛みつくは振り回すはで大変な騒ぎ。
レスキューシェルターでもこれだけエナジリックな子は見たことがない、っていうぐらいのまさに超ド級のやんちゃ小僧であった訳で、
つまり、そう、盲導犬には最も向かないタイプ、という奴であったらしい。

そして結果として、そう、確かに、これでもか、というぐらいに苦労させられた。

がしかし、と俺は改めて言う。
そんなやんちゃ者だったからここまで愛せたのだ。
苦労をさせられればさせられる程に愛が募るもので、
この犬によって、ありとあらゆるものが破壊された結果、
物という物にはいっさい執着がなくなった。

と言う訳で、子犬の選び方?
決まってるだろ、一番気の合うやつにすること、それに限る。
こいつとだったらどんな苦労も厭わない、と思える者を選ぶことじゃないのかな。
ちなみに、俺がこいつを選んだ本当の理由は、その「視線」であったかもしれない。
物怖じもせずにじっと見つめるその目。
まるで瞳の奥まで突き刺さるようなその直線的な視線を見て、
こいつは気が強くてそして頭が良い。こいつとならきっとうまくやっていける筈だ、と思った訳だ。
ちなみにそう言えば、うちのかみさんと出会った時にもそんなことを思っていたような気もするのだが・・

と言う訳で、我が家の駄犬との付き合いもかれこれ5年半になる。
いまだに苦労は絶えないが、後悔などはこれっぽっちもない。
仕事から帰ってドアを開けたとたんに元気な顔を見ると、それだけでもう胸が一杯。神様に感謝を捧げたくなる。
と言う訳で、目的があって労働犬・使役犬を育てて商売をしよう、という気がないのであれば、
とりあえず、自分の目でしっかりと見てみて、そして気の合う犬、を選ぶ、
というのが最も妥当なのではないのかな、と思うのですがどうでしょうか。

人の姿を見ていの一番に駆け寄って来ては、まわりの兄弟を踏み台にして真っ先に膝の上によじ登ってくる、というタイプはまさに「最悪」らしい。

そういう元気すぎる子を選ぶとね、その先、本当の本当に苦労するから。
と言う訳で・・・・思わず絶句である。

なぜならば我が家の犬こそまさにその「駄目子犬」の典型的な例。しかもドがいくつも並ぶぐらいの超ド級の駄目子犬であった。

兄弟の中ではダントツで元気があって、身体も大きく、俺の姿を見た途端、よじ登るどころかいきなり飛び込んで来て顔中を嘗め回し。
他の兄弟の事はただの遊び道具としか思っていなかった風で、蹴散らすは噛みつくは振り回すはで大変な騒ぎ。
レスキューシェルターでもこれだけエナジリックな子は見たことがない、っていうぐらいのまさに超ド級のやんちゃ小僧であった訳で、
つまり、そう、盲導犬には最も向かないタイプ、という奴であったらしい。

そして結果として、そう、確かに、これでもか、というぐらいに苦労させられた。

がしかし、と俺は改めて言う。
そんなやんちゃ者だったからここまで愛せたのだ。
苦労をさせられればさせられる程に愛が募るもので、
この犬によって、ありとあらゆるものが破壊された結果、
物という物にはいっさい執着がなくなった。

と言う訳で、子犬の選び方?
決まってるだろ、一番気の合うやつにすること、それに限る。
こいつとだったらどんな苦労も厭わない、と思える者を選ぶことじゃないのかな。
ちなみに、俺がこいつを選んだ本当の理由は、その「視線」であったかもしれない。
物怖じもせずにじっと見つめるその目。
まるで瞳の奥まで突き刺さるようなその直線的な視線を見て、
こいつは気が強くてそして頭が良い。こいつとならきっとうまくやっていける筈だ、と思った訳だ。
ちなみにそう言えば、うちのかみさんと出会った時にもそんなことを思っていたような気もするのだが・・

と言う訳で、我が家の駄犬との付き合いもかれこれ5年半になる。
いまだに苦労は絶えないが、後悔などはこれっぽっちもない。
仕事から帰ってドアを開けたとたんに元気な顔を見ると、それだけでもう胸が一杯。神様に感謝を捧げたくなる。
と言う訳で、目的があって労働犬・使役犬を育てて商売をしよう、という気がないのであれば、
とりあえず、自分の目でしっかりと見てみて、そして気の合う犬、を選ぶ、
というのが最も妥当なのではないのかな、と思うのですがどうでしょうか。

「ピクチャー・ブライド・ドッグ」
日本ではね、WEBで子犬を買ったら宅配便で配達されてくるらしいぜ、
と言ったところ、ドッグランの人々が絶句していた。
まるで・・ピクチャー・ブライドね。
この開けてびっくりを、ロマンチックという言い方もあるのだろうが、
ぬいぐるみやダッチワイフじゃあるまいし、
個性や性格のあるものを、宅配便で配達する、なんて、
そういうのってありなのな、と俺も首を傾げてしまう。
ガイドブックを見れば、この品種の犬はこんな犬でこんな性格で、
なんてそれらしいことが書いてあるが、
日本人にもいろいろいて、アメリカ人にもいろいろいるように、
そういうのってやはり個人の性格的なものであって、
そんな大鉈のステレオタイプ、つまりは、マニュアルどおりにはいかないことの方が多い、と思っているのだがどうだろう。
例えば、オーストラリアン・キャトル・ドッグをWEBでオーダーしたとしても、
たまたま届いたのがまるっきり違うタイプ、
涙目で元気の無い、虚弱体質なんてのがやって来てしまったらちょっと困ってしまうだろうし、
つまりそこには、運命の出会い、というものが存在していない訳か。
なんかそれって、ちょっとおかしいと思う、
と言っていたら、
いいのよ、とエレンがひとこと。
いいのよ、どんな犬だって。それはそれ、これはこれ。
つまり、その犬がそういう犬だったらそういう犬としてその犬の個性を尊重するべき。どんな犬にしよう、とか、どんな犬になって欲しい、なんて、飼い主の趣味を犬に押し付けるべきではないのよ。
そして飼い主の個性と、犬の個性、それをふたりで妥協しあいながらバランスのよいところに落ち着く、そんなものなのよ。
つまりね、どんな犬を飼ったとしても可愛いの。それだけは間違いないわ。
これまでまさに何十頭という犬を飼って来たエレンだからこそ言える言葉。
まさにずーんと来る。
ただね、とブッチの頭を撫でながら一言。
あんたとブッチを見ているとね、確かにちょっと嫉妬を感じるわね。
あんた達ほどそっくりの、息がぴったしと合いまくってるカップルはこれまでにも見たこと無いわ。性格から顔つきからそっくり。あんたたちは気づかないだろうけど、本当にあんたたちはそっくり。まるで生き写しの双子みたい。
そうかな?。。とあらためて見るこの駄犬。
確かに、俺の駄目なところばかり似てしまったような気もするのだが、といってるそばから、なんだよ、なに見てるんだよ。余計な御託はいいんだよ、ほら、早くボール投げろよ、と砂だらけのボールを押し付けてくる。
実はね、私にも昔、そういう犬がいたのよ。もう何からなにまで完璧っていうぐらいに。そうもう私の理想の男の子そのもの。この子が人間だったらってなんど思ったか知れない。本当の意味でのソウルメイト。
でもね、やっぱり・・・死んじゃうのよね、犬って。
でね、あの子を失ってからね、もう犬にそういうものを求めるのはやめたの。
どんな子であっても、彼らには彼らの意思や個性や性格があるんだから、それはそれとして尊重してあげなくっちゃと思ったの。
だから、まあ、なんの運命か私とこうして付き合うことになった以上、生きている間は、その短い一生の間だけは、精一杯幸せに過ごさせてあげる、とはいつも思っているけどね。
と言う訳で、なになに、何は話しているの?とやってきたチェシー。
ねえ、なんか頂戴、とまたおねだり。
ほらね、こいつはこいつで、良いところもあるし、アホなところもあるけどさ、ほら、やっぱり可愛いじゃない?
確かにね、前のフレックルとは随分違うタイプだよね。
そう、フレックルにはフレックルの、そしてチェシーにはチェシーの個性がある訳だし、その違いを楽しむってのもあるわよね。
と言ってるそばからやってきたブッチ。
おい、お前らなにやってるんだよ。遊ばないのかよ、ほら、ボール投げろよ、とこいつはもう徹底的にボールばかりである。
と言う訳で、人間もいろいろなれば、犬もいろいろ。
この世に行きとし生けるものはすべて一期一会。
この大切な時間を、心の底から慈しむべきなのだ、
と志を新たにする春の夜

「絶対犬種・ラブラドゥードゥルの登場」
このニューヨークという極限的なコスモポリタンな場所に置いて、
もっとも適した犬種は、と考えうる限り、やはりもう、ラブラドゥードゥル以上のものはありえないのではないか、と思う。
このラブラドゥードゥル。
ラブラドルと、プードルという、ファミリードッグのチャンピオン二種のその掛け合わせ。
知人の飼っているラブラドゥードゥルは、ゴールデン・リトリバーとプードルのMIXで、ゴールデン・ドゥードゥルというらしいのだが、もうこれがまさに完璧である。
ぬいぐるみのようなふさふさな金髪はしかし抜けない。
性格も優しく、頭も飛び切り良くて、躾がしやすく、なによりも子供を可愛がる。
こんな夢のような犬種。
元はと言えばかの米国大統領・バラック・オバマンの選んだ犬という訳で、俄かにアメリカでもブームが続いている。
と、そう、問題なのはこのブームである。
クリスマスからその後、実はこのブームに乗って一儲けを企んだパピーミルで量産された子犬たちがプレゼント・ギフトとして贈られ、そして、可愛いのは可愛いんだけど、やっぱり世話するのは無理、とばかりに、次から次へとシェルターに送り込まれてくる、という話。
ひところのチワワ、そしてミニチュア・ダックス、ジャックラッセルから、シバから、と、映画やらなにやらで話題になったとたん、レスキューシェルターはその犬種ばかりで一杯になってしまうそうなのである。
まあね、でもまあこの犬種なら躾の問題も無いし、回転も速いからまだいいんだけどさ、という話なのだが・・・
と言う訳で、朝のセントラルパークがいつのまにかこのラブラドゥードゥルばかりである。
それもほとんどがレスキュー・ドッグ。
そんなぬいぐるみみたいなのがいきなり俺の足元に飛びついて来て、遊んで遊んでとじゃれ始める訳で、これはこれは、と思わず身体中がとろけそうである。
それに引き換え・・と振り向けば我駄犬。
泥だらけのボールを咥えた見るからに物騒な猛犬顔。
縫いぐるみどころか、子供になんかおっかなくて近寄らせることさえもできない。
我ながらなんでこんな駄犬をレスキューしてしまったのか。
と思ったとたんに、なんだよ、と後ろからケツパンを食らった。
わかった判った、はいはい、俺にはお前がお似合いなのですな。

プロフィール
Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集
*お断り
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁
©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ
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