Loading…
失業ハイパー ~ ミスター・チン
この失業ぐらしもすでに半年である。
当初は、
バカな上司に文句を言われることもなく、
嫌味な同僚に足を引っ張られることもなく、
いちいち尻拭いをせなばならない知恵足らずも居ず、
セクハラで訴えますよ、と言いながら誘いをかけてくるサイコな女も居ず、
嫉妬も僻みも中傷も罠も倒錯も混乱も、
バカもサイコも誇大妄想狂も知恵足らずもいない日常。
日々、ただひとり、図書館の机で参考書とにらめっこ。
脇目も振らず己の目標に向けて突き進むのみ、
というこの状況が、
まさに、天国、ってなぐらいにまで思っていたのだが・・・
ここに来て、なんとなく、ちょっとした空虚感。
ぶっちゃけ、人恋しい気もしている訳だ。
人恋しい?俺が?この俺が?
もしかして、寂しい、とか、孤独だとか、
そんなこと思っちゃったりしている訳?
と自分でもおかしな気分なのである。
とそんな時、ふと見渡さえば枯葉の海である。
冬一番の木枯らしが吹き荒れるセントラルパーク。
視界いっぱいにそれこそ、赤靑黄色、緑オレンジ黒ブラウンと、
まさに色彩の乱舞である。
がしかし、月曜日からのこの寒波。
マイナス五度に加えてこの突風である。
余程の酔狂でもない限り、
普通の人間が朝も早くからこんな凍りついた公園をほっつき歩いている、
なんてことは通常あり得ない訳だ。
がしかし、
そう、犬は元気である。
まさに、罰当たりなぐらいに元気一杯である。
寒くなればなるほどに元気を増し、
今となってはまさに弾丸ロケットのピンボール状態。
意味もなく公園中をグルグルと、
それこそとんでもない勢いで走り回っているかと思えば、
枯葉の山に頭から突っ込んでは、掻き散らし、
枝を咥えて振り回しては、
一人で興奮してガウガウと唸っている。
で、ようやく帰ってきたかと思ったら、
いきなりの突風が積もった枯れ葉を舞い散らすたびに、
うひょひょひょひょ~、とばかりに、再び草原の真ん中に向けて突進していく訳だ。
という訳で、今日も今日とて犬の散歩である。
土曜日も日曜日も、例え失業中であろうとも、
雨が振っても風が吹いても、そしてこのマイナス5度の大寒波の中にあっても、
朝7時に起きて誰もいない公園で犬の散歩な訳である。
そう言えば、とふと思う。
もうかれこれ一週間以上、まともに人間と会話をしていない俺。
つまり、もうこの世の中で俺の相手をしてくれるのは、この犬だけ、ということなのか。
とそんな犬が、ふと丘の向こうに首を伸ばしている。
ピンと逆立った尻尾が水平に伸び、おい誰か来るぞ、と告げている。
その紫のパーカーを羽織った男。長身痩身の白髪頭。
その姿こそ、幻のビリオネアー、ミスター・チンである。
はたまたこのビリオネアー。
地価高騰のマンハッタン内にいくつもコンドミを構える正真正銘の大金持ちながら、
なにが悲しくてこのクソ寒い中を一人で犬の散歩になど出ているのだろう、と思わず笑ってしまう。
車の運転と犬の散歩だけは絶対に他人の手に委ねる訳にはいかない、
という信条のこのビリオネア。
枯葉のさざ波の広がる丘の上を、子豚のように太ったジャックラッセルの綱を引きながら、
とぼとぼと丘の坂を下ってくるのである。
やあ、ご無沙汰。すっかり寒くなったね、と外向けの笑顔を向けるミスター・チン。
ニューヨークというこの生き馬の目を抜く修羅場の数々を生き延びてきたこのビリオネアー。
がしかし、そんなニューヨークにおいては、
金持ちに限ってそれこそまったくセレブリティ顔負けの、
まるで取ってつけたようなような完璧な笑顔を持っている者が多い。
まさに、スマイル・アンド・マネー。
笑う神には福来たる。
この街では、笑顔こそが、金持ちの証なのである。
吹き荒ぶ木枯らしにこれでもかと髪をかき乱されながら、
やあ、元気かい?と爽やかに笑うそのミスター・チンの姿。
まさに、コヤツできるな、な訳であるのだが、
釣られた作り笑いが思わず凍えて引き攣ってしまう氷点下五度。
風が立ち上がる度に、頭上では一斉に枯れた枝がビュービューと唸り、
そして枯葉の波がざわざわと地表一面広がっては渦を巻く。
が、そんな中にあっても決して金持ち面のスマイルを崩さないこのミスター・チンを、
つくづく食えない男だな、と思っているのも事実。
という訳で、凍りついた突風の吹き荒れる枯葉の海を、
このビリオネアと二人ならんでそぞろ歩き。
犬の散歩、以外にはなんの接点もないこのビリオネア。
がしかし、犬の散歩においては、時として道連れが必要な時もあるのである。
で、どうなんだい、失業浪人の具合は?
まあねえ、ちょっと予想以上に時間がかかってしまって。
最初は三ヶ月ぐらいと思っていたのが、当初の予定から綺麗に三倍かかっている始末で。
それは、ほら、最初にお尻の日にち決めないからだよ。
最初に、何月何日まで、と決めて、そこから予定を組み上げなくちゃだめだ。
ああ、バックワード・パスって言う奴だろ。
そう、それ。バックワード・パス。そんな言い方をしている奴もいたな。
まずゴールを決めて、そのゴールに辿り着くにはなにをどうしたらよいのか、
と逆算していくんだ。全てにおいてそれが一番大切なんだ。
まずはゴールありき、ってやつだ。
まあねえ、それは重々承知ながら、早々と予定通りに行かないのも現実ってやつでさ。
チンさんはいつも、なにをするにもそれを考えてるの?で、ちゃんと予定通りに行くわけ?
そりゃそうさ。そうしなかったらまったくいつまでたってもなにも進まないだろ。
でも、ほら、予定にないことも度々起こるわけでしょ?
例えばほら、ここで俺に会ったりとか。
まあ、そう、それも想定内、というかね。そのぐらいのコンティンジェンシー・リザーブは予め計算しているさ。
なんかそういうのって面白みが無いと思うんだけどな。
俺はむしろ、ハプニングを楽しみにしている、というか、
予定通りに行ってしまうと逆につまらないと思うんだけどな。
予定通りにいくとつまらない?良く判らないな。君はつくづく変わった男だよ。
そう、つまりミスター・チンはそういう人なのである。
最初にゴールを決めて、そこまでの過程をいかに予定通り遂行するか、と考えながら生きている人。
すべてが予定調和の人、な訳である。
つまりまあ、ハプニング男、行き当たりばっかり、リハ無しのぶっつけ本番派の俺とは、まったく逆のタイプ、ということになる。
で、と再びミスター・チン。
で、そう、何時頃までには結果を出そうと思っている訳かな?
と、ニコニコと笑いながら、しかし一番痛いところを突いて来る、
それがそう、まあクリスマスまでには、とは思っているんだけどね。希望値ではってことなんだけど。
その為にはどうしたら良いかってちゃんと考えているかい。
そう、考えてはいるんだけど、それがまあ、何事も予定通りには行かないってのが俺の日常な訳で。
まあな、現実問題、まあ色々と予期せぬ事態というのは往々にして起こるものだが、
ただひとつ、締め切りのない仕事には終わりがない、というかね、
絵も小説も、締め切りがない限りは永遠と描き直し、手直しを続けることになってしまうんだよ。
ああ、それも判っている。まあ、そう、だからクリスマスまで、かな。
日にちを決めることだな。コインでも投げて決めてしまえ。それが一番だ。
とそんな話をする俺達の周りを、俺の犬が意味もなく走り回っている。
おい、ボール投げろ、と盛んに催促をしては、
ボールを投げる度に一目散に走り抜けて、
その途中にあっちの丘の上の木の元におしっこをして、
あの丘の向こうの子リスを追いかけ、と大はしゃぎをしては肝心のボールをどこかに忘れてきてしまう。
がしかし、ミスター・チンの飼い犬である子豚ちゃんのようなジャックラッセル。
ミスター・チンの後ろからノタノタと歩くばかりで、ボール遊びにも一切興味を示さないどころか、
そう言えばこの犬が走っている姿をみたことがない。
極力無駄な労力は使うものか、と考えているかのようだ。
その子豚のようなジャックラッセル。早々に着込んだそのオレンジ色のダウンジャケット。
実はカナディアン・グースのオーダーメイドであるらしい。
さすがにこの寒さだと誰にも会わないな、とミスター・チンが笑う。
そしてこの先、ますます寒くなっていく訳か。
あんたはフロリダとかに逃げ出したりしないの?ビリオネアのあんたならそのぐらいのお金ならいくらでもあるでしょ?
いや、とミスター・チンはきっぱりと首を振る。
この寒さは寒さとして楽しまなくてはダメだ。
夏の暑さも冬の寒さも思い切り楽しむ。そこから逃げてはいけない。
逃げてしまっては、この冬の先にある楽しみのすべてが半減してしまうじゃないか。
そう、つまりはミスター・チンはそういう人なのである。強靭な意思の人。そして筋金入りのニューヨーカーな訳である。
がしかし、そう、この寒さである。
朝も暗い内からもう二時間近くほっつき歩いているというのに、まさに誰とも会わない訳だ。
そんな中で俺達が出会ったということだけでも、それはそれで何かの縁なのかもしれない。
なんか最近ね、ちょっと仕事が懐かしくなってさ、と柄にもなくそんなことを言ってしまう。
元々は、下らない仕事をやりたくない、やら、安い金でこき使われたくない、なんて理由から、
下手な仕事になあなあで手を出すぐらいなら、
ゴミを食いながらでも資格を取った方が良いに決まっている、って覚悟だったんだけどさ。
なんか、ここ半年も社会生活から離れていると、
なんとなく、もう、どんな下らない、どんな安い仕事でもいいから、
なんとなく、社会に関わっていたいな、なんて風にも思い始めていてさ。
あのバカな上司や、傍迷惑な奴らや、そんなもろもろの面倒くさいことが、
実はそれはそれで割りと意味のあるものだったんじゃないかな、なんてね。
つまり、まあ、その、柄にも無いことを言うようだけど、
労働は労働そのものにも何らかの意味があるんじゃないか、って思い始めていてさ。
間違いだな、とミスター・チンが短く言った。
それは君、間違っているよ。その笑顔はまったく変わることがないながら、その声にはどこかちょっとしたケンが感じられた。
労働そのものになど意味なんかない。労働そのものに喜びを見出すなんてナンセンスだ。
そうかな。ストイシズム、というか、ピューリタニズム、というか。
詭弁だ。そんなものは、ルーザーの言い訳。あるいは、奴隷の戯言だ。
いいかい、労働の目的とはなにか。労働の目的とはお金を作ることだよ。労働はお金を作るための手段。ただの道具だ。
目的は金。メイク・マネー。金を作ること。それ以外にはない。それ以外に意味を見出そうとする人間になってはいけない。
確かに安月給で非人間的な単純作業をする以外に金を作る術を持たない人間たちは、労働そのものが尊い、なんて戯言にすがる以外には方法がないのは判る。
そういった人間たちのモチベーションを維持するために、あれやこれや、と詭弁をこねくり回すことが必要なこともある。
が、真実はひとつだ。
労働とは金を作るための手段だ。それ以上でもそれ以下でもない。
それ以外のことに意味を見出そうとしてはいけない。目的を見誤る。
だったら金のためならなにをやっても良いと思う?
それはつまり、どんな下らないことでも、という意味かい?ならYESだ。金を作るために良い仕事も悪い仕事もない。
この公園の枯葉集めでビリオンが稼げるなら俺は一生枯葉集めをして暮らすさ。
便所掃除だって、ドッグ・ウォーカーだっていい。要は金だ。労働はただの手段だ。それを忘れてはいけない。
だったら、金になるならどんな悪いことをしても良い、と思ってるわけ?
悪いこと、というのが、法律に違反すること、という意味ならNOだ。
それは非効率的だからだ。ボロい金は絶対に足が付く。その代償は高い。
だったら、法律に違反していなければ、たとえそれがどれだけ道理上、稟議上に悪いことでも、良いと思う訳?
つまりそれは、人道上、とかそういうことかな?
そう、つまりはそういうこと。
まあ時と場合に寄るが、ビジネスの場に置いて、人道上的な考慮が必要、という意識は持ったことがないな。
ルールはルールとして守らなくてはいけないが、そこに心情を挟むのはお角違いだ。
ビジネスの目的はただひとつ。金を作ることだ。それ以外に意味を見出してはいけない。
と、そう、こんな話をしていて思うのは、君はつくづく、ゴールの無い人生を歩んでいるんだな。
ゴールのない人生?
つまり、最初に目的を決めてそれに向けて予定を立てる、という戦略的な生き方をしていない、という意味でね。
まあ、そう、バンドマン上がりだしな。そういうやりかたを美徳とする奴らってのも中には居るわけでさ。
バンドマン?アーティストということか?
そう、って言うかまあ、パフォーマーというか。
だったらなおさらだろう。目的がないパフォーマンスなどなんの意味がある?
まあハプニング性重視というかなんというか。
いずれにしろ、目的のはっきりしない活動にはろくな結果は期待できないな。
ハプニング性重視で適当にやっていたらいつの間にか成功していました、なんてことがこの世の中にあるはずがない。
音楽でもビジネスでも、成功する人間は成功することを目的として活動を行っていたんだ。
つまり・・
成功しなかったアーティストは実は成功を望んでいなかった、と。
望んでいなかった、ということではない。ただ、成功することを目的として必要な戦術を持たなかった、ということだ。
まったく耳が痛いな。まあ、今回が良い例、返す言葉も無いよ。
まあ、これを機会に考え直すんだな。いいかい、勉強をする、ということそのものに意味を見出してはいけない。
まあ、慰めは時には必要だが、それにどんな理由や言い訳を用意して詭弁をこねくり回しても、それは時間のむだだ。
目的は資格をとること。その資格をとるにはどうすればよいか。
100点を取る必要などないんだろう。試験にパスするのに完璧である必要など無いんだ。
ましてや、もしかしたら勉強する必要など無いかもしれない。
そういった意味での思考の転換、新たな戦略を考えることに時間を費やすべきだ。
戦略か。つまり裏ワザでもなんでも使ってでも資格さえ取ればよい、と。まさに結果至上主義的だな。
そう、ストラテジーだ。目標があるからストラテジーが必要になる。がストラテジーは手段だ。戦略だろ。
ストラテジーそのものにはなんの意味もない。つまり、勉強をすることそのものにはなんの意味がないようにね。
参加することに意義があるってのは間違い?
ああ間違いだ。それはルーザーのための詭弁だ。そもそもの目的が参加することであればそれはそれでよい。
だが、すべての選手が、参加さえすれば結果はどうでもよい、と思っている競技になんの意味がある?
まずは、勝つためには、と考えなくてはいけない。そして勝つためにはなにをすればよいのか、
そのもっとも効率的な方法を考えそれを実践すること、それが必要なんだよ。
その為には、多少の投資は止む終えない、あるいは、より効果的な投資方法を検討するべきなんじゃないのかな?
とそんなこんなで72丁目のストロベリー・フィールズへの入り口が見えてきた。
その先には、まさに、結果主義的な人々の鬩ぎ合う現実世界が待っている。
じゃあ、ここで、とまたパーフェクトなスマイルのミスター・チン。
早く結果が出せれば良いな。
ああ、ありがとう。散歩をしながら裏金の使い方でも考えてみるよ。
木枯らしの中を、誰一人としていない枯葉の海の上を各尺として歩くその後姿。
そしてその隣には、極力無駄な労力は使わないと決めた子豚のように太ったジャックラッセル。
さあ、俺達も帰るか、と我が犬を振り返った途端、あれ、お前ボールどうした?
という訳で、この寒空の下、落としたボールを探して来た道をそのまま戻り始める訳である。
こんなことをやっていたら、いつまでたってもこの吹きさらしの木立の中から抜け出られそうもない。
当初は、
バカな上司に文句を言われることもなく、
嫌味な同僚に足を引っ張られることもなく、
いちいち尻拭いをせなばならない知恵足らずも居ず、
セクハラで訴えますよ、と言いながら誘いをかけてくるサイコな女も居ず、
嫉妬も僻みも中傷も罠も倒錯も混乱も、
バカもサイコも誇大妄想狂も知恵足らずもいない日常。
日々、ただひとり、図書館の机で参考書とにらめっこ。
脇目も振らず己の目標に向けて突き進むのみ、
というこの状況が、
まさに、天国、ってなぐらいにまで思っていたのだが・・・
ここに来て、なんとなく、ちょっとした空虚感。
ぶっちゃけ、人恋しい気もしている訳だ。
人恋しい?俺が?この俺が?
もしかして、寂しい、とか、孤独だとか、
そんなこと思っちゃったりしている訳?
と自分でもおかしな気分なのである。
とそんな時、ふと見渡さえば枯葉の海である。
冬一番の木枯らしが吹き荒れるセントラルパーク。
視界いっぱいにそれこそ、赤靑黄色、緑オレンジ黒ブラウンと、
まさに色彩の乱舞である。
がしかし、月曜日からのこの寒波。
マイナス五度に加えてこの突風である。
余程の酔狂でもない限り、
普通の人間が朝も早くからこんな凍りついた公園をほっつき歩いている、
なんてことは通常あり得ない訳だ。
がしかし、
そう、犬は元気である。
まさに、罰当たりなぐらいに元気一杯である。
寒くなればなるほどに元気を増し、
今となってはまさに弾丸ロケットのピンボール状態。
意味もなく公園中をグルグルと、
それこそとんでもない勢いで走り回っているかと思えば、
枯葉の山に頭から突っ込んでは、掻き散らし、
枝を咥えて振り回しては、
一人で興奮してガウガウと唸っている。
で、ようやく帰ってきたかと思ったら、
いきなりの突風が積もった枯れ葉を舞い散らすたびに、
うひょひょひょひょ~、とばかりに、再び草原の真ん中に向けて突進していく訳だ。
という訳で、今日も今日とて犬の散歩である。
土曜日も日曜日も、例え失業中であろうとも、
雨が振っても風が吹いても、そしてこのマイナス5度の大寒波の中にあっても、
朝7時に起きて誰もいない公園で犬の散歩な訳である。
そう言えば、とふと思う。
もうかれこれ一週間以上、まともに人間と会話をしていない俺。
つまり、もうこの世の中で俺の相手をしてくれるのは、この犬だけ、ということなのか。
とそんな犬が、ふと丘の向こうに首を伸ばしている。
ピンと逆立った尻尾が水平に伸び、おい誰か来るぞ、と告げている。
その紫のパーカーを羽織った男。長身痩身の白髪頭。
その姿こそ、幻のビリオネアー、ミスター・チンである。
はたまたこのビリオネアー。
地価高騰のマンハッタン内にいくつもコンドミを構える正真正銘の大金持ちながら、
なにが悲しくてこのクソ寒い中を一人で犬の散歩になど出ているのだろう、と思わず笑ってしまう。
車の運転と犬の散歩だけは絶対に他人の手に委ねる訳にはいかない、
という信条のこのビリオネア。
枯葉のさざ波の広がる丘の上を、子豚のように太ったジャックラッセルの綱を引きながら、
とぼとぼと丘の坂を下ってくるのである。
やあ、ご無沙汰。すっかり寒くなったね、と外向けの笑顔を向けるミスター・チン。
ニューヨークというこの生き馬の目を抜く修羅場の数々を生き延びてきたこのビリオネアー。
がしかし、そんなニューヨークにおいては、
金持ちに限ってそれこそまったくセレブリティ顔負けの、
まるで取ってつけたようなような完璧な笑顔を持っている者が多い。
まさに、スマイル・アンド・マネー。
笑う神には福来たる。
この街では、笑顔こそが、金持ちの証なのである。
吹き荒ぶ木枯らしにこれでもかと髪をかき乱されながら、
やあ、元気かい?と爽やかに笑うそのミスター・チンの姿。
まさに、コヤツできるな、な訳であるのだが、
釣られた作り笑いが思わず凍えて引き攣ってしまう氷点下五度。
風が立ち上がる度に、頭上では一斉に枯れた枝がビュービューと唸り、
そして枯葉の波がざわざわと地表一面広がっては渦を巻く。
が、そんな中にあっても決して金持ち面のスマイルを崩さないこのミスター・チンを、
つくづく食えない男だな、と思っているのも事実。
という訳で、凍りついた突風の吹き荒れる枯葉の海を、
このビリオネアと二人ならんでそぞろ歩き。
犬の散歩、以外にはなんの接点もないこのビリオネア。
がしかし、犬の散歩においては、時として道連れが必要な時もあるのである。
で、どうなんだい、失業浪人の具合は?
まあねえ、ちょっと予想以上に時間がかかってしまって。
最初は三ヶ月ぐらいと思っていたのが、当初の予定から綺麗に三倍かかっている始末で。
それは、ほら、最初にお尻の日にち決めないからだよ。
最初に、何月何日まで、と決めて、そこから予定を組み上げなくちゃだめだ。
ああ、バックワード・パスって言う奴だろ。
そう、それ。バックワード・パス。そんな言い方をしている奴もいたな。
まずゴールを決めて、そのゴールに辿り着くにはなにをどうしたらよいのか、
と逆算していくんだ。全てにおいてそれが一番大切なんだ。
まずはゴールありき、ってやつだ。
まあねえ、それは重々承知ながら、早々と予定通りに行かないのも現実ってやつでさ。
チンさんはいつも、なにをするにもそれを考えてるの?で、ちゃんと予定通りに行くわけ?
そりゃそうさ。そうしなかったらまったくいつまでたってもなにも進まないだろ。
でも、ほら、予定にないことも度々起こるわけでしょ?
例えばほら、ここで俺に会ったりとか。
まあ、そう、それも想定内、というかね。そのぐらいのコンティンジェンシー・リザーブは予め計算しているさ。
なんかそういうのって面白みが無いと思うんだけどな。
俺はむしろ、ハプニングを楽しみにしている、というか、
予定通りに行ってしまうと逆につまらないと思うんだけどな。
予定通りにいくとつまらない?良く判らないな。君はつくづく変わった男だよ。
そう、つまりミスター・チンはそういう人なのである。
最初にゴールを決めて、そこまでの過程をいかに予定通り遂行するか、と考えながら生きている人。
すべてが予定調和の人、な訳である。
つまりまあ、ハプニング男、行き当たりばっかり、リハ無しのぶっつけ本番派の俺とは、まったく逆のタイプ、ということになる。
で、と再びミスター・チン。
で、そう、何時頃までには結果を出そうと思っている訳かな?
と、ニコニコと笑いながら、しかし一番痛いところを突いて来る、
それがそう、まあクリスマスまでには、とは思っているんだけどね。希望値ではってことなんだけど。
その為にはどうしたら良いかってちゃんと考えているかい。
そう、考えてはいるんだけど、それがまあ、何事も予定通りには行かないってのが俺の日常な訳で。
まあな、現実問題、まあ色々と予期せぬ事態というのは往々にして起こるものだが、
ただひとつ、締め切りのない仕事には終わりがない、というかね、
絵も小説も、締め切りがない限りは永遠と描き直し、手直しを続けることになってしまうんだよ。
ああ、それも判っている。まあ、そう、だからクリスマスまで、かな。
日にちを決めることだな。コインでも投げて決めてしまえ。それが一番だ。
とそんな話をする俺達の周りを、俺の犬が意味もなく走り回っている。
おい、ボール投げろ、と盛んに催促をしては、
ボールを投げる度に一目散に走り抜けて、
その途中にあっちの丘の上の木の元におしっこをして、
あの丘の向こうの子リスを追いかけ、と大はしゃぎをしては肝心のボールをどこかに忘れてきてしまう。
がしかし、ミスター・チンの飼い犬である子豚ちゃんのようなジャックラッセル。
ミスター・チンの後ろからノタノタと歩くばかりで、ボール遊びにも一切興味を示さないどころか、
そう言えばこの犬が走っている姿をみたことがない。
極力無駄な労力は使うものか、と考えているかのようだ。
その子豚のようなジャックラッセル。早々に着込んだそのオレンジ色のダウンジャケット。
実はカナディアン・グースのオーダーメイドであるらしい。
さすがにこの寒さだと誰にも会わないな、とミスター・チンが笑う。
そしてこの先、ますます寒くなっていく訳か。
あんたはフロリダとかに逃げ出したりしないの?ビリオネアのあんたならそのぐらいのお金ならいくらでもあるでしょ?
いや、とミスター・チンはきっぱりと首を振る。
この寒さは寒さとして楽しまなくてはダメだ。
夏の暑さも冬の寒さも思い切り楽しむ。そこから逃げてはいけない。
逃げてしまっては、この冬の先にある楽しみのすべてが半減してしまうじゃないか。
そう、つまりはミスター・チンはそういう人なのである。強靭な意思の人。そして筋金入りのニューヨーカーな訳である。
がしかし、そう、この寒さである。
朝も暗い内からもう二時間近くほっつき歩いているというのに、まさに誰とも会わない訳だ。
そんな中で俺達が出会ったということだけでも、それはそれで何かの縁なのかもしれない。
なんか最近ね、ちょっと仕事が懐かしくなってさ、と柄にもなくそんなことを言ってしまう。
元々は、下らない仕事をやりたくない、やら、安い金でこき使われたくない、なんて理由から、
下手な仕事になあなあで手を出すぐらいなら、
ゴミを食いながらでも資格を取った方が良いに決まっている、って覚悟だったんだけどさ。
なんか、ここ半年も社会生活から離れていると、
なんとなく、もう、どんな下らない、どんな安い仕事でもいいから、
なんとなく、社会に関わっていたいな、なんて風にも思い始めていてさ。
あのバカな上司や、傍迷惑な奴らや、そんなもろもろの面倒くさいことが、
実はそれはそれで割りと意味のあるものだったんじゃないかな、なんてね。
つまり、まあ、その、柄にも無いことを言うようだけど、
労働は労働そのものにも何らかの意味があるんじゃないか、って思い始めていてさ。
間違いだな、とミスター・チンが短く言った。
それは君、間違っているよ。その笑顔はまったく変わることがないながら、その声にはどこかちょっとしたケンが感じられた。
労働そのものになど意味なんかない。労働そのものに喜びを見出すなんてナンセンスだ。
そうかな。ストイシズム、というか、ピューリタニズム、というか。
詭弁だ。そんなものは、ルーザーの言い訳。あるいは、奴隷の戯言だ。
いいかい、労働の目的とはなにか。労働の目的とはお金を作ることだよ。労働はお金を作るための手段。ただの道具だ。
目的は金。メイク・マネー。金を作ること。それ以外にはない。それ以外に意味を見出そうとする人間になってはいけない。
確かに安月給で非人間的な単純作業をする以外に金を作る術を持たない人間たちは、労働そのものが尊い、なんて戯言にすがる以外には方法がないのは判る。
そういった人間たちのモチベーションを維持するために、あれやこれや、と詭弁をこねくり回すことが必要なこともある。
が、真実はひとつだ。
労働とは金を作るための手段だ。それ以上でもそれ以下でもない。
それ以外のことに意味を見出そうとしてはいけない。目的を見誤る。
だったら金のためならなにをやっても良いと思う?
それはつまり、どんな下らないことでも、という意味かい?ならYESだ。金を作るために良い仕事も悪い仕事もない。
この公園の枯葉集めでビリオンが稼げるなら俺は一生枯葉集めをして暮らすさ。
便所掃除だって、ドッグ・ウォーカーだっていい。要は金だ。労働はただの手段だ。それを忘れてはいけない。
だったら、金になるならどんな悪いことをしても良い、と思ってるわけ?
悪いこと、というのが、法律に違反すること、という意味ならNOだ。
それは非効率的だからだ。ボロい金は絶対に足が付く。その代償は高い。
だったら、法律に違反していなければ、たとえそれがどれだけ道理上、稟議上に悪いことでも、良いと思う訳?
つまりそれは、人道上、とかそういうことかな?
そう、つまりはそういうこと。
まあ時と場合に寄るが、ビジネスの場に置いて、人道上的な考慮が必要、という意識は持ったことがないな。
ルールはルールとして守らなくてはいけないが、そこに心情を挟むのはお角違いだ。
ビジネスの目的はただひとつ。金を作ることだ。それ以外に意味を見出してはいけない。
と、そう、こんな話をしていて思うのは、君はつくづく、ゴールの無い人生を歩んでいるんだな。
ゴールのない人生?
つまり、最初に目的を決めてそれに向けて予定を立てる、という戦略的な生き方をしていない、という意味でね。
まあ、そう、バンドマン上がりだしな。そういうやりかたを美徳とする奴らってのも中には居るわけでさ。
バンドマン?アーティストということか?
そう、って言うかまあ、パフォーマーというか。
だったらなおさらだろう。目的がないパフォーマンスなどなんの意味がある?
まあハプニング性重視というかなんというか。
いずれにしろ、目的のはっきりしない活動にはろくな結果は期待できないな。
ハプニング性重視で適当にやっていたらいつの間にか成功していました、なんてことがこの世の中にあるはずがない。
音楽でもビジネスでも、成功する人間は成功することを目的として活動を行っていたんだ。
つまり・・
成功しなかったアーティストは実は成功を望んでいなかった、と。
望んでいなかった、ということではない。ただ、成功することを目的として必要な戦術を持たなかった、ということだ。
まったく耳が痛いな。まあ、今回が良い例、返す言葉も無いよ。
まあ、これを機会に考え直すんだな。いいかい、勉強をする、ということそのものに意味を見出してはいけない。
まあ、慰めは時には必要だが、それにどんな理由や言い訳を用意して詭弁をこねくり回しても、それは時間のむだだ。
目的は資格をとること。その資格をとるにはどうすればよいか。
100点を取る必要などないんだろう。試験にパスするのに完璧である必要など無いんだ。
ましてや、もしかしたら勉強する必要など無いかもしれない。
そういった意味での思考の転換、新たな戦略を考えることに時間を費やすべきだ。
戦略か。つまり裏ワザでもなんでも使ってでも資格さえ取ればよい、と。まさに結果至上主義的だな。
そう、ストラテジーだ。目標があるからストラテジーが必要になる。がストラテジーは手段だ。戦略だろ。
ストラテジーそのものにはなんの意味もない。つまり、勉強をすることそのものにはなんの意味がないようにね。
参加することに意義があるってのは間違い?
ああ間違いだ。それはルーザーのための詭弁だ。そもそもの目的が参加することであればそれはそれでよい。
だが、すべての選手が、参加さえすれば結果はどうでもよい、と思っている競技になんの意味がある?
まずは、勝つためには、と考えなくてはいけない。そして勝つためにはなにをすればよいのか、
そのもっとも効率的な方法を考えそれを実践すること、それが必要なんだよ。
その為には、多少の投資は止む終えない、あるいは、より効果的な投資方法を検討するべきなんじゃないのかな?
とそんなこんなで72丁目のストロベリー・フィールズへの入り口が見えてきた。
その先には、まさに、結果主義的な人々の鬩ぎ合う現実世界が待っている。
じゃあ、ここで、とまたパーフェクトなスマイルのミスター・チン。
早く結果が出せれば良いな。
ああ、ありがとう。散歩をしながら裏金の使い方でも考えてみるよ。
木枯らしの中を、誰一人としていない枯葉の海の上を各尺として歩くその後姿。
そしてその隣には、極力無駄な労力は使わないと決めた子豚のように太ったジャックラッセル。
さあ、俺達も帰るか、と我が犬を振り返った途端、あれ、お前ボールどうした?
という訳で、この寒空の下、落としたボールを探して来た道をそのまま戻り始める訳である。
こんなことをやっていたら、いつまでたってもこの吹きさらしの木立の中から抜け出られそうもない。

選挙に行け!
人種対立で揉めるアメリカ。
まずは馬鹿か、と言いたい。
そもそもだ、もしも先の中間選挙でちゃんと投票に行っていれば、
これほど先行きを儚むこともなかっただろうに。
そう、我が家の愚妻を含め、
俺のダチ、どうしようもないカラードのマイナリティたち、
みんながみんな、中間選挙をイグノアしておいて、
後になってから、あららら、と渋り顔。
あの悪魔の赤首軍団から、
ようやくオバマが大統領になって、
妙に安心したつもりになってしまったのだが、
いざここに来て、蓋を開けてみればこのザマじゃねえか。
つまり上下院ともに狂和党に牛耳られてにっちもさっちモード。
挙句の果てに、あのGWBの弟なんてのが、次期大統領選に向けて、
はいはい、また同じことやりまっせ、と雁首をもたげてきているではないか。
いままた、あのテキサスの基地外どもにアメリカを牛耳らせたら、
もう、それは世界の破滅が目に見えている、というのに、
極端に目先のことにしか目のいかない赤首たちは、
そんなテキサス・マフィアの甘い言葉にころりと乗ってしまう白痴ばかり。
がしかし、そう、牛なみのオツムしか持っていないジーザスバカであっても、
一票は一票。それが民主主義というものなのだ。
という訳で、中間選挙での大敗の後、
アメリカ中を吹き荒ぶこの無力感。
あのなあ、
後になってグチグチと四の五の言うぐらいなら、
なんでちゃんと選挙に行ってやらなかったんだよ、と。
そう、アメリカ、誰もが心の底から悔やんでいるわけだ。
という訳で、日本はまだチャンスが残っている。
あんなあ、悪いことは言わない。
選挙に行け!!
この師走の糞忙しい時に、
木枯らしの吹き荒ぶ糞寒い中に、
なんでわざわざ投票になど行くものか、と思うのが普通だが、
それがつまりは、悪意を持ったものの思惑、
つまり見え透いた作戦だってことも誰もがご承知というわけだろう。
つまりそう、こんな日に投票に行く人って、どんなひとたち?
で、想像すれば・・・
つまりは、コアな政治おたく、あるいは、金で買われた奴ばかりってこと。
そんな胡散臭いコアなおたくと金に買われた奴ら、だけが投票に行った結果、
超最低レベルの投票率の超低空飛行選挙でありながら、結果としては、
つまり、そんな胡散臭い政治おたくと金に買われた奴ら、の選んだ、
それこそ思い切り胡散臭いどうしようもない者達だけが当選、
となってしまうのが目に見えている。
バカを調子づかせてはいけない。
民主主義の社会において、普通人の唯一の拠り所は選挙なのだ。
負けてはいけない。諦めてはいけない。
負けても諦めても良いが、負けても諦めても明日は必ずやってきてしまう。
そして、諦めて負けたものの朝は、必ず、日一日と辛くなっていく筈だ。
そうなってから、四の五の言うぐらいなら、いまちゃんと選挙に行け。
お調子者のバカどものとばっちりを食って露頭に迷いたくなかったら、
まずはお調子者の顔に冷水をぶっかけてやる、ぐらいのことはしてやるべきだ。
まずは馬鹿か、と言いたい。
そもそもだ、もしも先の中間選挙でちゃんと投票に行っていれば、
これほど先行きを儚むこともなかっただろうに。
そう、我が家の愚妻を含め、
俺のダチ、どうしようもないカラードのマイナリティたち、
みんながみんな、中間選挙をイグノアしておいて、
後になってから、あららら、と渋り顔。
あの悪魔の赤首軍団から、
ようやくオバマが大統領になって、
妙に安心したつもりになってしまったのだが、
いざここに来て、蓋を開けてみればこのザマじゃねえか。
つまり上下院ともに狂和党に牛耳られてにっちもさっちモード。
挙句の果てに、あのGWBの弟なんてのが、次期大統領選に向けて、
はいはい、また同じことやりまっせ、と雁首をもたげてきているではないか。
いままた、あのテキサスの基地外どもにアメリカを牛耳らせたら、
もう、それは世界の破滅が目に見えている、というのに、
極端に目先のことにしか目のいかない赤首たちは、
そんなテキサス・マフィアの甘い言葉にころりと乗ってしまう白痴ばかり。
がしかし、そう、牛なみのオツムしか持っていないジーザスバカであっても、
一票は一票。それが民主主義というものなのだ。
という訳で、中間選挙での大敗の後、
アメリカ中を吹き荒ぶこの無力感。
あのなあ、
後になってグチグチと四の五の言うぐらいなら、
なんでちゃんと選挙に行ってやらなかったんだよ、と。
そう、アメリカ、誰もが心の底から悔やんでいるわけだ。
という訳で、日本はまだチャンスが残っている。
あんなあ、悪いことは言わない。
選挙に行け!!
この師走の糞忙しい時に、
木枯らしの吹き荒ぶ糞寒い中に、
なんでわざわざ投票になど行くものか、と思うのが普通だが、
それがつまりは、悪意を持ったものの思惑、
つまり見え透いた作戦だってことも誰もがご承知というわけだろう。
つまりそう、こんな日に投票に行く人って、どんなひとたち?
で、想像すれば・・・
つまりは、コアな政治おたく、あるいは、金で買われた奴ばかりってこと。
そんな胡散臭いコアなおたくと金に買われた奴ら、だけが投票に行った結果、
超最低レベルの投票率の超低空飛行選挙でありながら、結果としては、
つまり、そんな胡散臭い政治おたくと金に買われた奴ら、の選んだ、
それこそ思い切り胡散臭いどうしようもない者達だけが当選、
となってしまうのが目に見えている。
バカを調子づかせてはいけない。
民主主義の社会において、普通人の唯一の拠り所は選挙なのだ。
負けてはいけない。諦めてはいけない。
負けても諦めても良いが、負けても諦めても明日は必ずやってきてしまう。
そして、諦めて負けたものの朝は、必ず、日一日と辛くなっていく筈だ。
そうなってから、四の五の言うぐらいなら、いまちゃんと選挙に行け。
お調子者のバカどものとばっちりを食って露頭に迷いたくなかったら、
まずはお調子者の顔に冷水をぶっかけてやる、ぐらいのことはしてやるべきだ。

失業ハイパー ~ 凍えた部屋
この失業浪人ぐらし。
さぞや羽根を伸ばしているか、と言えば全然そんなことはない。
言わせてもらう。
仕事よりも勉強の方が大変だ。
だって仕事は仕事、なわけで、いやいややるのが前提。
つまりは、月曜から金曜までの9時から5時までで、その責務からはきっぱりと離れられる筈。
が、勉強は、好きでやっていることが建前、ってことで、
つまりは、9時5時どころか昼も夜も、土曜も日曜も無し。
という訳で、犬の散歩だけは外せないにしても、
かみさんはもう完全に放ったらかし、な訳で、
さすがに連休中、なんて時には、
あーあ、つまんないな、と溜息をついていたことも知ってはいた。
だが、そう、こちとら失業中の浪人生。
これでこけたらまじでホームレス。
そういう側から、普段は図書館の席で、
実際にそんなホームレスの連中と膝をつきあわせている訳で、
まじでそう、洒落にならない状況なのである。
という訳でそう、連休どころか、息抜きの時間さえも惜しまなければならない、
という建前上、まじでかみさんのご機嫌どころではない訳だ。
という訳で、あのなあ、と一言。
お前もほら、いつまでもその仕事が続くという保証も無い訳でさ、
もしもの時を考えて、潰しになるようなこと、考えておいたほうが良くないか?
などと要らぬ口を叩いてしまったりもする訳だ。
潰しって?とかみさん。
だから、ほら、なんかの資格を取るとか。
資格ってなんの?
ほら、会社の研修費とかなんかで、金出して貰えたりもするんだろ?
だったら、なにか実入りの足しになるようなもの、考えてみろよ。
という訳である。
ふーん、と考えたかみさん。いきなり資格と言われても思いつかない、という所らしい。
そういう俺も技術屋であった関係上、さすがに家ではダラダラとしてばかりではあったが、
仕事中は、残業と偽りながら、日夜試験勉強は続けていたのである。
がそう、かみさんはコー学歴のひとである。
某お嬢様国大を現役入学のひとであったのだが、
それも家庭の事情から浪人ができなかった関係で、
すべり止め代わりにその大学を選んだだけの話。
まあその気になれば東大も狙えたんだけどね、
とさらりと言ってしまうタイプの輩である。
がそんなかみさんが、
えええ、勉強?と口を尖らせている。
もう勉強はいいよ。学生のころあれだけやったんだから。
大人になってまで勉強させられるなんて反則だよ、という訳である。
がしかし、現役国立だろうがなんだろうが、
俺みたいな穀潰しと一緒になってしまってはそんなコー学歴もなんの意味もない訳で、
となると、
くっそお、やっぱこの結婚は失敗だった。いまからでもどうにかなるうちに、
とかなんとか、また例の話が蒸し返されるという訳で、
俺も早々と大きなことは言えない事情もある訳だ。
という訳で、土曜も日曜もかみさんを放ったらかしたまま勉強を続けなくてはいけない、
というのが、割りとこう、後ろめたかったのも確かである。
とそんな時、じゃあ、わたしもなんか勉強することにした、とかみさん。
横で勉強されているとやっぱムカつくから、ということらしい。
だったらまあ、洒落のついでにTOEICでも取ってみれば?とまた思いつきを口にする。
TOEIC?英語の?
そう。なんかTOEICって、日本では割りと持て囃されているらしいしさ。
何十年もアメリカに住んでてTOEICも取ってない、なんてちょっとね、とか言われそうだし。
TOEICかあ、なんか気が進まないけど、とりあえずそれ取ってみようかな。
とかなんとか言っていた記憶はあるのだが・・・
その翌週の週末。
ねえ、なんか食べ行かない?とまた脳天気なことを言ってくる。
だからなあ、俺は勉強大変なんだよ。外メシなんて食ってる暇ねえんだってば、
とブチ切れモード。
おまえ、こないだのTOEICどうしたんだよ。さっさと勉強始めろよ。
TOEIC?ああ、あれもう終わったもん、とかみさん。
え?もう受けたの?
そう。もう受けた。
で?
で?
結果は?合格した訳?
あんたバカねえ、とかみさん。
TOEICに合格もなにもないのよ。ただ点数が出てそれでおしまい。ゲームとおんなじ。
でもほら、800点取れるまでがんばりましょう、とかあるだろ?
だからそれもうおしまい。
ってことは?
という訳でかみさん、
ろくに勉強もしないまま、会社の行き帰りの地下鉄の中で参考書をささっと斜め読み、
しただけで試験会場に向かい、980点だったそうである。
そうねえ、実は絶対満点だと思ったんだけど、やっぱ間違えてたなあ、残念。
だそうで、
満点?
そりゃそうだよ。やるからには満点狙うでしょ。
いまだにDVRの録画ができなかったり、
ドッグフードとキャットフードを間違えて買って来たり、
やることなすことどこか間の抜けている天然系な訳だが、
ふーん、やはり試験となると本領を発揮する訳だ。
そんなかみさん、試験の点数で頭が良いの悪いのなんて馬鹿げてる、という話。
ただ、ペーパーテストで点を取るための姑息なテクニックに長けている、とただそれだけの話よ。
とは言ううものの、おいおい、3日で980点かよ、と俺も返す言葉も無い。
仕事に使える技術を身につけることと、試験で良い点を取るっていうのはまったく別物なのよ。
試験には試験用の勉強をするの。ただ試験に受かったからと言ってそのひとが仕事ができたり、
頭が良かったりなんてことは決してないのよ。
わたしを見れば判るでしょ。
だからあんたも、バカ正直に勉強なんてしてちゃだめよ。試験用には試験用と割りきって要領よくやらなくっちゃ。
とまあ、そう、理屈では判るのだが、果たして、受験勉強をすべてぶっちしてバンドばかりやっていた関係で、
そう、この試験に受かるテクニックというのに疎すぎる訳だ。
そっか、まあ、そういう事ならたまにはお祝いに美味しいものでも食べに行くか。
もういいよ、とかみさん。
なんかそんな気も失せた。アメリカに何十年もいて、いくら日本人向けの英語のテストで良い点取ったって誰も褒めちゃくれないわよね。
うーん、耳が痛い。
とそんなかみさんが、最近になって土日になると朝からいそいそと出掛けるようになった。
ちょっと出かけてくるからブーくんよろしくね、な訳である。
がいつものやつで、どこに行く?とも聞きづらく、OK、とだけ答えるのだが、
果たして、退屈のあまり他に男でも作ったのか、まさか、テレクラにハマっているという訳でもあるまいに。
とかなんとか言っていたら、いきなり、
ねえ、この馬鹿コンピューター、どうにかして、といきなり怒り始めた。
馬鹿コンピューター?
というかみさんのコンピュータ。
昔、俺が仕事で使っていたDELLの年代物。
RAMだけは足しているものの、確かにいまだにXPである。
が、どうせ下らない日本のドラマを見たり、メール書いたりするだけだろ。
また例の天然ボケで、出てくるPOPUPにいちいち馬鹿正直にOKを押してしまって、
VIRUSまみれになることは目に見えている、とうっちゃっていたのだが・・
最低でもこのレベルっていうのにこの馬鹿コンピューターは完全に規格外なの。
最低でもっておまえ、なにを始めるつもりなわけ?
という訳で、どうもかみさん、どういう風の吹き回しか学校に行き始めたようなのである。
なんの学校?
そんなことどうでもいいでしょ?あんたは余計なこと言わずに自分の勉強やってなさいよ。
で、どうするの?新しいコンピュータ、どこで買えばいいの?
という訳でかみさん、
どうも、ファイナンシャルプランナーの勉強を始めたそうなのである。
あんたと一緒だとこの先どうなるか判ったものじゃないから、今のうちに出来る限りの手は打っておこうと思って、
という話。
がしかし、さすがの勉強メガネ。
ひとたび勉強を始めた、となると、本ちゃん浪人の俺が辟易するぐらいに、
まさに、家に居る間は徹底的に勉強ばかりしている。
ともすると俺が飯の仕度をして皿を片付け、ともなる訳で、
まったくもっておかしな塩梅になってきたというもの。
がたしかに、かみさんを放ったらかしておくことの罪の意識から開放されたばかりか、
くっそ、こいつにだけは負けられない、と俺も付き合わされて夜更けまで勉強をさせられることになる訳で、
確かにかみさんが勉強を始めてから俺の勉強時間も二倍に増えた。
やるからには徹底的にやらなくっちゃだめよ。短期決戦で思い切りダッシュして一挙にカタをつけちゃうの。
まるで喧嘩と同じだ。
そう、試験なんて喧嘩みたいなものよ。
あんた良く言ってるでしょ?喧嘩とスポーツは違う。喧嘩には仁義もルールもへったくれもないって。
試験もそう。受かればそれでまで。
だったら試験に必要なところだけを徹底的にやりまくって、さっと試験を受けてちゃっかり通っちゃう。
で試験のあとは綺麗さっぱり忘れちゃう、と。
そう、その通り。試験で勉強したことなんて実生活で役に立つなんてほとんどないわよ。
試験は勉強のためじゃないの。ただ試験に受かるためだけのもの。本当の勉強は試験に受かった時から始めものなのよ。
という訳で、まったくおかしなことになってきたが、夕飯の後、テレビも付けず音楽も聞かず、
しんと静まり返った部屋。
暖房を入れると眠くなるから、とヒーターを切った部屋にひゅるひゅると真冬の木枯らしが吹き込んでくる。
そんな凍えた部屋の中、夫婦が背中を向け合って一心不乱に試験勉強。
とその間には、大あくびをしながらソファーに寝転がる犬が一匹。
そんな犬の姿を見ながら、
つくづくお前も、おかしな家に貰われてきちゃったものだな、
とちょっと同情してしまったりもするわけだ。
さぞや羽根を伸ばしているか、と言えば全然そんなことはない。
言わせてもらう。
仕事よりも勉強の方が大変だ。
だって仕事は仕事、なわけで、いやいややるのが前提。
つまりは、月曜から金曜までの9時から5時までで、その責務からはきっぱりと離れられる筈。
が、勉強は、好きでやっていることが建前、ってことで、
つまりは、9時5時どころか昼も夜も、土曜も日曜も無し。
という訳で、犬の散歩だけは外せないにしても、
かみさんはもう完全に放ったらかし、な訳で、
さすがに連休中、なんて時には、
あーあ、つまんないな、と溜息をついていたことも知ってはいた。
だが、そう、こちとら失業中の浪人生。
これでこけたらまじでホームレス。
そういう側から、普段は図書館の席で、
実際にそんなホームレスの連中と膝をつきあわせている訳で、
まじでそう、洒落にならない状況なのである。
という訳でそう、連休どころか、息抜きの時間さえも惜しまなければならない、
という建前上、まじでかみさんのご機嫌どころではない訳だ。
という訳で、あのなあ、と一言。
お前もほら、いつまでもその仕事が続くという保証も無い訳でさ、
もしもの時を考えて、潰しになるようなこと、考えておいたほうが良くないか?
などと要らぬ口を叩いてしまったりもする訳だ。
潰しって?とかみさん。
だから、ほら、なんかの資格を取るとか。
資格ってなんの?
ほら、会社の研修費とかなんかで、金出して貰えたりもするんだろ?
だったら、なにか実入りの足しになるようなもの、考えてみろよ。
という訳である。
ふーん、と考えたかみさん。いきなり資格と言われても思いつかない、という所らしい。
そういう俺も技術屋であった関係上、さすがに家ではダラダラとしてばかりではあったが、
仕事中は、残業と偽りながら、日夜試験勉強は続けていたのである。
がそう、かみさんはコー学歴のひとである。
某お嬢様国大を現役入学のひとであったのだが、
それも家庭の事情から浪人ができなかった関係で、
すべり止め代わりにその大学を選んだだけの話。
まあその気になれば東大も狙えたんだけどね、
とさらりと言ってしまうタイプの輩である。
がそんなかみさんが、
えええ、勉強?と口を尖らせている。
もう勉強はいいよ。学生のころあれだけやったんだから。
大人になってまで勉強させられるなんて反則だよ、という訳である。
がしかし、現役国立だろうがなんだろうが、
俺みたいな穀潰しと一緒になってしまってはそんなコー学歴もなんの意味もない訳で、
となると、
くっそお、やっぱこの結婚は失敗だった。いまからでもどうにかなるうちに、
とかなんとか、また例の話が蒸し返されるという訳で、
俺も早々と大きなことは言えない事情もある訳だ。
という訳で、土曜も日曜もかみさんを放ったらかしたまま勉強を続けなくてはいけない、
というのが、割りとこう、後ろめたかったのも確かである。
とそんな時、じゃあ、わたしもなんか勉強することにした、とかみさん。
横で勉強されているとやっぱムカつくから、ということらしい。
だったらまあ、洒落のついでにTOEICでも取ってみれば?とまた思いつきを口にする。
TOEIC?英語の?
そう。なんかTOEICって、日本では割りと持て囃されているらしいしさ。
何十年もアメリカに住んでてTOEICも取ってない、なんてちょっとね、とか言われそうだし。
TOEICかあ、なんか気が進まないけど、とりあえずそれ取ってみようかな。
とかなんとか言っていた記憶はあるのだが・・・
その翌週の週末。
ねえ、なんか食べ行かない?とまた脳天気なことを言ってくる。
だからなあ、俺は勉強大変なんだよ。外メシなんて食ってる暇ねえんだってば、
とブチ切れモード。
おまえ、こないだのTOEICどうしたんだよ。さっさと勉強始めろよ。
TOEIC?ああ、あれもう終わったもん、とかみさん。
え?もう受けたの?
そう。もう受けた。
で?
で?
結果は?合格した訳?
あんたバカねえ、とかみさん。
TOEICに合格もなにもないのよ。ただ点数が出てそれでおしまい。ゲームとおんなじ。
でもほら、800点取れるまでがんばりましょう、とかあるだろ?
だからそれもうおしまい。
ってことは?
という訳でかみさん、
ろくに勉強もしないまま、会社の行き帰りの地下鉄の中で参考書をささっと斜め読み、
しただけで試験会場に向かい、980点だったそうである。
そうねえ、実は絶対満点だと思ったんだけど、やっぱ間違えてたなあ、残念。
だそうで、
満点?
そりゃそうだよ。やるからには満点狙うでしょ。
いまだにDVRの録画ができなかったり、
ドッグフードとキャットフードを間違えて買って来たり、
やることなすことどこか間の抜けている天然系な訳だが、
ふーん、やはり試験となると本領を発揮する訳だ。
そんなかみさん、試験の点数で頭が良いの悪いのなんて馬鹿げてる、という話。
ただ、ペーパーテストで点を取るための姑息なテクニックに長けている、とただそれだけの話よ。
とは言ううものの、おいおい、3日で980点かよ、と俺も返す言葉も無い。
仕事に使える技術を身につけることと、試験で良い点を取るっていうのはまったく別物なのよ。
試験には試験用の勉強をするの。ただ試験に受かったからと言ってそのひとが仕事ができたり、
頭が良かったりなんてことは決してないのよ。
わたしを見れば判るでしょ。
だからあんたも、バカ正直に勉強なんてしてちゃだめよ。試験用には試験用と割りきって要領よくやらなくっちゃ。
とまあ、そう、理屈では判るのだが、果たして、受験勉強をすべてぶっちしてバンドばかりやっていた関係で、
そう、この試験に受かるテクニックというのに疎すぎる訳だ。
そっか、まあ、そういう事ならたまにはお祝いに美味しいものでも食べに行くか。
もういいよ、とかみさん。
なんかそんな気も失せた。アメリカに何十年もいて、いくら日本人向けの英語のテストで良い点取ったって誰も褒めちゃくれないわよね。
うーん、耳が痛い。
とそんなかみさんが、最近になって土日になると朝からいそいそと出掛けるようになった。
ちょっと出かけてくるからブーくんよろしくね、な訳である。
がいつものやつで、どこに行く?とも聞きづらく、OK、とだけ答えるのだが、
果たして、退屈のあまり他に男でも作ったのか、まさか、テレクラにハマっているという訳でもあるまいに。
とかなんとか言っていたら、いきなり、
ねえ、この馬鹿コンピューター、どうにかして、といきなり怒り始めた。
馬鹿コンピューター?
というかみさんのコンピュータ。
昔、俺が仕事で使っていたDELLの年代物。
RAMだけは足しているものの、確かにいまだにXPである。
が、どうせ下らない日本のドラマを見たり、メール書いたりするだけだろ。
また例の天然ボケで、出てくるPOPUPにいちいち馬鹿正直にOKを押してしまって、
VIRUSまみれになることは目に見えている、とうっちゃっていたのだが・・
最低でもこのレベルっていうのにこの馬鹿コンピューターは完全に規格外なの。
最低でもっておまえ、なにを始めるつもりなわけ?
という訳で、どうもかみさん、どういう風の吹き回しか学校に行き始めたようなのである。
なんの学校?
そんなことどうでもいいでしょ?あんたは余計なこと言わずに自分の勉強やってなさいよ。
で、どうするの?新しいコンピュータ、どこで買えばいいの?
という訳でかみさん、
どうも、ファイナンシャルプランナーの勉強を始めたそうなのである。
あんたと一緒だとこの先どうなるか判ったものじゃないから、今のうちに出来る限りの手は打っておこうと思って、
という話。
がしかし、さすがの勉強メガネ。
ひとたび勉強を始めた、となると、本ちゃん浪人の俺が辟易するぐらいに、
まさに、家に居る間は徹底的に勉強ばかりしている。
ともすると俺が飯の仕度をして皿を片付け、ともなる訳で、
まったくもっておかしな塩梅になってきたというもの。
がたしかに、かみさんを放ったらかしておくことの罪の意識から開放されたばかりか、
くっそ、こいつにだけは負けられない、と俺も付き合わされて夜更けまで勉強をさせられることになる訳で、
確かにかみさんが勉強を始めてから俺の勉強時間も二倍に増えた。
やるからには徹底的にやらなくっちゃだめよ。短期決戦で思い切りダッシュして一挙にカタをつけちゃうの。
まるで喧嘩と同じだ。
そう、試験なんて喧嘩みたいなものよ。
あんた良く言ってるでしょ?喧嘩とスポーツは違う。喧嘩には仁義もルールもへったくれもないって。
試験もそう。受かればそれでまで。
だったら試験に必要なところだけを徹底的にやりまくって、さっと試験を受けてちゃっかり通っちゃう。
で試験のあとは綺麗さっぱり忘れちゃう、と。
そう、その通り。試験で勉強したことなんて実生活で役に立つなんてほとんどないわよ。
試験は勉強のためじゃないの。ただ試験に受かるためだけのもの。本当の勉強は試験に受かった時から始めものなのよ。
という訳で、まったくおかしなことになってきたが、夕飯の後、テレビも付けず音楽も聞かず、
しんと静まり返った部屋。
暖房を入れると眠くなるから、とヒーターを切った部屋にひゅるひゅると真冬の木枯らしが吹き込んでくる。
そんな凍えた部屋の中、夫婦が背中を向け合って一心不乱に試験勉強。
とその間には、大あくびをしながらソファーに寝転がる犬が一匹。
そんな犬の姿を見ながら、
つくづくお前も、おかしな家に貰われてきちゃったものだな、
とちょっと同情してしまったりもするわけだ。

失業ハイパー ~ ミスター・チン そのに
ここに来て、どうしたんだろう、妙に苛ついた気分。
サンクスギビングも棒に振り、
そしてクリスマスさえも試験勉強の中に埋没しようとしている今、
今更なにを焦ることなどあるものか、とも思うのだが、
どうしたんだろう、勉強に身が入らない。
項目をひとつひとつ丁寧に読み込み、
単語を引き、疑問点を洗い出し、
それでも理解できずにWEB上でヒントを探す。
まず理解することだ。理解すること。理解なんだ。
がしかし、それが何だというのだ。
試験勉強、あるいは、その過程で学ぶこの理論が、
実は実践にはまったく附合していないことは、
現場一本でやってきた俺が一番良く知っている筈ではないのか。
そう、日夜現場で過ごしていた俺が、
会社側から何度もこの資格の取得を要請されていながら、
頑として受け入れられなかった理由は、
つまりはその理論を学ぶことによって、
現場での仕事に甘さが出ることが怖かったのである。
テキストブックを開いて5ページも進まぬ内に、
下らない、こんなキレイ事で現場の仕事が済むのなら、
誰もデスマーチの中で悶死まどはしないだろうが。
バカタレが。
こんなものは、毎日オフィスの机にしがみついては、
絶対に自らは戦場に赴こととはせず、
左うちわで能書きばかりをくれる公家どもの戯言。
前線の兵士たちの直面する現実は、
こんな絵空事の正論がまったくまかり通らない修羅なのだ。
こんな言葉遊びの戯言にうつつを抜かす、
腐れ公家どもに、俺達前線兵士の気持ちが判ってたまるか。
という訳で、戦場を離れた俺が、
いまこうして、戦場どころか仕事もせずに日夜その資格勉強に没頭している訳だ。
まったくなあ、と思わう苦笑いである。
俺ってなんだってこんな遠回りばかりしているのだろう。
つまりは己の不器用さに、自分からほとほと愛想が尽きる、ということなのだ。
ふと先日、散歩の途中でに出くわしたミスター・チンの言葉がよみがえる。
労働そのものに意味などない。
勉強そのものに意味など無い。
つまりはまあそういう事なんだろ。
つまりはそう、この苛立ちの原因はと言えば、
このミスター・チンの言葉なのである。
ふとかみさんの姿を振り返る。
相変わらず何も言わない女だ。
俺のやることにはいっさい口出しをしないまま、
俺のこんな不器用な人生に付き合わされてはいつも損ばかりさせれている。
そろそろ限界だろうな、と思った。
もう12月だ。
クリスマスは愚か、正月までこんな状態で過ごすわけにはいかない。
目的、つまりは得るべき結果はなにか、を明確にして、
そのゴールに向けてバックワード・パス、
つまりはお尻の日にちを決めて、
それに合わせて計画を立てる。
今年中だな、と思った。
理由などない。
ただ、こんな状態で歳を迎えたくない、と思っただけの話だ。
焦るな、とは普段から思っていながら、
やはり日本人だ、おめでとうぐらいは言いたいではないか。
という訳で、犬の散歩をしながら今年中だ、と決めた。
敢えてもしもダメだったら、というオプションは考えない。
今年中に試験をパスする為にはどうしたらよいのか。
ここでまた、ミスター・チンの言葉が蘇る。
結果を得るためには投資が必要だ。
そう投資なのだ。
俺がこの半年をかけての独学のその理由とは、
つまりは投資を惜しんだことによるものだ。
つまりは、云千ドルをぶちこんでも、
ブートキャンプで集中講座を受けてさえ居れば、
まさか半年なんて時間を費やす必要も無かったのではないか、
とは常々思っていたのだ。
ブートキャンプ、つまりは、
試験をパスする為に短期集中でその必要な知識だけを打ち込む。
そんなことをしてなにになる、と思ったのだ。
そんなツケヤイバで例え試験にパスしたとしても、
それはたかが紙切れ一枚、つまりは実戦では使えないものではないか。
がしかし、実戦ってなんだよ、と思う。
お前の言う実戦ってなんなんだ。
労働そのものに意味なんかない、とミスター・チンは言う。
彼が自らの従業員たちの前では、まさかそんな言葉は一言だって匂わさない筈だ。
がしかし、だからこそ犬の散歩をしながら語る彼の言葉には真実の冷酷さがある。
寂しい人ね。
冬枯れの公園でミスター・チンから言われたことを聞いて、かみさんは一言そう言った。
寂しい?ミスター・チンが?だってビリオネアだぜ。
だからよ、とかみさん。
意味なんてない、とでも思わなくっちゃやっていけないんじゃないのかしら。
わたしもビリオネアになったことないからよく判らないけど。
前々から気づいていたのだが、ミスター・チンはうちのかみさんのファンである。
俺と居る時の一種あの凄みを帯びた辛辣な表情が、ひとたびかみさんが加わるとまるで一転する。
それは愛人といよりはむしろ孫娘を見る好々爺の表情で、
犬の下痢がどうしたの、近所のスーパーの店員の態度がどうの、なんていう話に、
飽きもせずに、うんうん、と相槌を打っている。
そんなミスター・チンは実に幸せそうである。
朝のひだまりの中、犬の散歩の途中に立ち寄った公園のカフェで、
まずいコーヒーを啜りながら、犬にせがまれてはベーグルの切れ端を、はい、お座り、お手、
とやっている姿からは、海千山千のビリオネアの姿はどうしても想像がつかない。
という訳で、冬枯れの公園でミスター・チンの語った言葉。
信じられないな、とかみさんが言った。
あの人ってそういうことも言う人なんだね。
つまり?
そう、つまりなんというか。なんか似合わないなって思っただけ。
確かにかみさんと俺ではミスター・チンの見方が違う。
かみさんはかみさんでミスター・チンの別の面を見ている筈だ。
素直に聞いてみれば?とかみさんが言った。
素直に?なにを?
ミスター・チンの言ったこと。
つまり勉強に意味などないと?
そう。期日を決めて結果を出す。そのためには必要な投資を用意する。
もう半年でしょ?そろそろなんじゃないのかな。
つまりそういうことか。
そう。まあそういう方法もある、ってことなんじゃないの?
という訳で、ふむふむ、である。
つまりはそう、勉強、あるいは戦術を、試験にパスするためだけに切り替えろ、と。
という訳で正月だった。
そう、正月までに結果を出す。その為にはどうしたら良いのか。
やれやれ、であった。
もうそろそろこの暮らしもお開きか、
そんな一抹の寂しささえも感じた。
もしかすると、この勉強という眉の中に密閉された状態が実は心地よかったのではないだろうか。
つまりは、勉強という清廉さの中で、現場仕事の修羅で溜まった垢をこすり落としていたのだろうか。
がしかし、それももう半年だ。
つまりはそろそろ、仕事としてこの勉強を捉えること。
浪人暮らしにさっさと終止符を打て、ということか。
という訳で、勉強は終わった。
いや、終わった訳ではない。が、つまりは理解することから方向転換。
試験をパスするために、パスするためだけの戦術に切り替える。
そして俺は勉強をやめた。
普段みなれた教科書も開かず、WEB上のレビューを洗いざらしに調べ上げ、
そして大枚を叩いて、アンチョコの問題集を買った。
くそこんなもの、ちょっと裏の手を使えばいくらでも手に入る筈、ということも判っていたのだが、
それをする時間を考えると、必要な投資は止む終えない。
という訳で俺は金を払った。
2000問。つまりは本試験十回分のシミュレーション問題。
なぜこれをもっと早くやらなかったのか、とも思った。
いまさらになってこんなアンチョコに金を払うぐらいなら最初から云千ドルかけてブートキャンプを受講して、
そしてさっさと仕事を見つけてしまえば良かったではないか。
つまりはそう、そういうことなのである。
俺はつまりは、それがやりたかった。つまりは失業して浮世から逸脱して、
そうやって自分を追い込んでは、日夜修行僧のように念仏を丸暗記するような、
そんな暮らしがただしてみたかった、
ただそれだけなのではないだろうか。
それはつまり壁打ち王。
コートに出ることもなく日々壁を相手にボールを打ち続ける壁打ちテニスプレーヤー。
あるいは、ステージに上がることもなくただひたすらに地下室に篭って
メトロノームを相手にドラムを叩き続ける四畳半の天才。
試合と実戦は違う。あるいは、本番と練習は違う。
そんなことは俺が一番良く知っていた筈じゃなかったのか。
労働に意味など無い。
勉強に意味など無い。
結果こそが全てだ。
ミスター・チンのその言葉は、つまりは実践による実践で叩き上げられたまさに最前線の声。
その真理だったのではないか。
くそったれ、と思った。
やれやれ、と思った。
窓が開いてしまった。
射しこんで来た光が眩しかった。
そして肩の荷がどっと降りたように、ようやく自分に戻れたような気もした。
そう、俺にはこっちの方が合っているのだ。
実践、実戦、そう、勉強も理論も理解も、糞食らえだ。試験にパスすればいいんだろ?
世間様にはつまりはそれだけなんだろ?
そう勝てば良いのだ。どんな方法を使っても。
という訳で、ミスター・チンのあのとってつけたようなパーフェクト・スマイルが浮かんで来た。
あれこそが戦士の顔、勝負師の顔なのだ。
最前線の中をたった一人で戦い続ける戦士の面構え。
勝てば良い、のではない。どんな方法を使っても勝つのだ。勝つためにやるのである。
クリスマスまであと十日。そして正月まであと二十日。
勝てるか?と思う。馬鹿、どんな方法を使っても勝つんだよ。どんな方法を使ってもだ。
時間はあるか?寝なければ良いのだ。その気になればシャブでもコケインでもぶち込んでやるさ。
という訳でようやく俺らしくなってきたな。
勝ちゃいいんだろ?勝てば。
負けた時のことは敢えて考えない。
サンクスギビングも棒に振り、
そしてクリスマスさえも試験勉強の中に埋没しようとしている今、
今更なにを焦ることなどあるものか、とも思うのだが、
どうしたんだろう、勉強に身が入らない。
項目をひとつひとつ丁寧に読み込み、
単語を引き、疑問点を洗い出し、
それでも理解できずにWEB上でヒントを探す。
まず理解することだ。理解すること。理解なんだ。
がしかし、それが何だというのだ。
試験勉強、あるいは、その過程で学ぶこの理論が、
実は実践にはまったく附合していないことは、
現場一本でやってきた俺が一番良く知っている筈ではないのか。
そう、日夜現場で過ごしていた俺が、
会社側から何度もこの資格の取得を要請されていながら、
頑として受け入れられなかった理由は、
つまりはその理論を学ぶことによって、
現場での仕事に甘さが出ることが怖かったのである。
テキストブックを開いて5ページも進まぬ内に、
下らない、こんなキレイ事で現場の仕事が済むのなら、
誰もデスマーチの中で悶死まどはしないだろうが。
バカタレが。
こんなものは、毎日オフィスの机にしがみついては、
絶対に自らは戦場に赴こととはせず、
左うちわで能書きばかりをくれる公家どもの戯言。
前線の兵士たちの直面する現実は、
こんな絵空事の正論がまったくまかり通らない修羅なのだ。
こんな言葉遊びの戯言にうつつを抜かす、
腐れ公家どもに、俺達前線兵士の気持ちが判ってたまるか。
という訳で、戦場を離れた俺が、
いまこうして、戦場どころか仕事もせずに日夜その資格勉強に没頭している訳だ。
まったくなあ、と思わう苦笑いである。
俺ってなんだってこんな遠回りばかりしているのだろう。
つまりは己の不器用さに、自分からほとほと愛想が尽きる、ということなのだ。
ふと先日、散歩の途中でに出くわしたミスター・チンの言葉がよみがえる。
労働そのものに意味などない。
勉強そのものに意味など無い。
つまりはまあそういう事なんだろ。
つまりはそう、この苛立ちの原因はと言えば、
このミスター・チンの言葉なのである。
ふとかみさんの姿を振り返る。
相変わらず何も言わない女だ。
俺のやることにはいっさい口出しをしないまま、
俺のこんな不器用な人生に付き合わされてはいつも損ばかりさせれている。
そろそろ限界だろうな、と思った。
もう12月だ。
クリスマスは愚か、正月までこんな状態で過ごすわけにはいかない。
目的、つまりは得るべき結果はなにか、を明確にして、
そのゴールに向けてバックワード・パス、
つまりはお尻の日にちを決めて、
それに合わせて計画を立てる。
今年中だな、と思った。
理由などない。
ただ、こんな状態で歳を迎えたくない、と思っただけの話だ。
焦るな、とは普段から思っていながら、
やはり日本人だ、おめでとうぐらいは言いたいではないか。
という訳で、犬の散歩をしながら今年中だ、と決めた。
敢えてもしもダメだったら、というオプションは考えない。
今年中に試験をパスする為にはどうしたらよいのか。
ここでまた、ミスター・チンの言葉が蘇る。
結果を得るためには投資が必要だ。
そう投資なのだ。
俺がこの半年をかけての独学のその理由とは、
つまりは投資を惜しんだことによるものだ。
つまりは、云千ドルをぶちこんでも、
ブートキャンプで集中講座を受けてさえ居れば、
まさか半年なんて時間を費やす必要も無かったのではないか、
とは常々思っていたのだ。
ブートキャンプ、つまりは、
試験をパスする為に短期集中でその必要な知識だけを打ち込む。
そんなことをしてなにになる、と思ったのだ。
そんなツケヤイバで例え試験にパスしたとしても、
それはたかが紙切れ一枚、つまりは実戦では使えないものではないか。
がしかし、実戦ってなんだよ、と思う。
お前の言う実戦ってなんなんだ。
労働そのものに意味なんかない、とミスター・チンは言う。
彼が自らの従業員たちの前では、まさかそんな言葉は一言だって匂わさない筈だ。
がしかし、だからこそ犬の散歩をしながら語る彼の言葉には真実の冷酷さがある。
寂しい人ね。
冬枯れの公園でミスター・チンから言われたことを聞いて、かみさんは一言そう言った。
寂しい?ミスター・チンが?だってビリオネアだぜ。
だからよ、とかみさん。
意味なんてない、とでも思わなくっちゃやっていけないんじゃないのかしら。
わたしもビリオネアになったことないからよく判らないけど。
前々から気づいていたのだが、ミスター・チンはうちのかみさんのファンである。
俺と居る時の一種あの凄みを帯びた辛辣な表情が、ひとたびかみさんが加わるとまるで一転する。
それは愛人といよりはむしろ孫娘を見る好々爺の表情で、
犬の下痢がどうしたの、近所のスーパーの店員の態度がどうの、なんていう話に、
飽きもせずに、うんうん、と相槌を打っている。
そんなミスター・チンは実に幸せそうである。
朝のひだまりの中、犬の散歩の途中に立ち寄った公園のカフェで、
まずいコーヒーを啜りながら、犬にせがまれてはベーグルの切れ端を、はい、お座り、お手、
とやっている姿からは、海千山千のビリオネアの姿はどうしても想像がつかない。
という訳で、冬枯れの公園でミスター・チンの語った言葉。
信じられないな、とかみさんが言った。
あの人ってそういうことも言う人なんだね。
つまり?
そう、つまりなんというか。なんか似合わないなって思っただけ。
確かにかみさんと俺ではミスター・チンの見方が違う。
かみさんはかみさんでミスター・チンの別の面を見ている筈だ。
素直に聞いてみれば?とかみさんが言った。
素直に?なにを?
ミスター・チンの言ったこと。
つまり勉強に意味などないと?
そう。期日を決めて結果を出す。そのためには必要な投資を用意する。
もう半年でしょ?そろそろなんじゃないのかな。
つまりそういうことか。
そう。まあそういう方法もある、ってことなんじゃないの?
という訳で、ふむふむ、である。
つまりはそう、勉強、あるいは戦術を、試験にパスするためだけに切り替えろ、と。
という訳で正月だった。
そう、正月までに結果を出す。その為にはどうしたら良いのか。
やれやれ、であった。
もうそろそろこの暮らしもお開きか、
そんな一抹の寂しささえも感じた。
もしかすると、この勉強という眉の中に密閉された状態が実は心地よかったのではないだろうか。
つまりは、勉強という清廉さの中で、現場仕事の修羅で溜まった垢をこすり落としていたのだろうか。
がしかし、それももう半年だ。
つまりはそろそろ、仕事としてこの勉強を捉えること。
浪人暮らしにさっさと終止符を打て、ということか。
という訳で、勉強は終わった。
いや、終わった訳ではない。が、つまりは理解することから方向転換。
試験をパスするために、パスするためだけの戦術に切り替える。
そして俺は勉強をやめた。
普段みなれた教科書も開かず、WEB上のレビューを洗いざらしに調べ上げ、
そして大枚を叩いて、アンチョコの問題集を買った。
くそこんなもの、ちょっと裏の手を使えばいくらでも手に入る筈、ということも判っていたのだが、
それをする時間を考えると、必要な投資は止む終えない。
という訳で俺は金を払った。
2000問。つまりは本試験十回分のシミュレーション問題。
なぜこれをもっと早くやらなかったのか、とも思った。
いまさらになってこんなアンチョコに金を払うぐらいなら最初から云千ドルかけてブートキャンプを受講して、
そしてさっさと仕事を見つけてしまえば良かったではないか。
つまりはそう、そういうことなのである。
俺はつまりは、それがやりたかった。つまりは失業して浮世から逸脱して、
そうやって自分を追い込んでは、日夜修行僧のように念仏を丸暗記するような、
そんな暮らしがただしてみたかった、
ただそれだけなのではないだろうか。
それはつまり壁打ち王。
コートに出ることもなく日々壁を相手にボールを打ち続ける壁打ちテニスプレーヤー。
あるいは、ステージに上がることもなくただひたすらに地下室に篭って
メトロノームを相手にドラムを叩き続ける四畳半の天才。
試合と実戦は違う。あるいは、本番と練習は違う。
そんなことは俺が一番良く知っていた筈じゃなかったのか。
労働に意味など無い。
勉強に意味など無い。
結果こそが全てだ。
ミスター・チンのその言葉は、つまりは実践による実践で叩き上げられたまさに最前線の声。
その真理だったのではないか。
くそったれ、と思った。
やれやれ、と思った。
窓が開いてしまった。
射しこんで来た光が眩しかった。
そして肩の荷がどっと降りたように、ようやく自分に戻れたような気もした。
そう、俺にはこっちの方が合っているのだ。
実践、実戦、そう、勉強も理論も理解も、糞食らえだ。試験にパスすればいいんだろ?
世間様にはつまりはそれだけなんだろ?
そう勝てば良いのだ。どんな方法を使っても。
という訳で、ミスター・チンのあのとってつけたようなパーフェクト・スマイルが浮かんで来た。
あれこそが戦士の顔、勝負師の顔なのだ。
最前線の中をたった一人で戦い続ける戦士の面構え。
勝てば良い、のではない。どんな方法を使っても勝つのだ。勝つためにやるのである。
クリスマスまであと十日。そして正月まであと二十日。
勝てるか?と思う。馬鹿、どんな方法を使っても勝つんだよ。どんな方法を使ってもだ。
時間はあるか?寝なければ良いのだ。その気になればシャブでもコケインでもぶち込んでやるさ。
という訳でようやく俺らしくなってきたな。
勝ちゃいいんだろ?勝てば。
負けた時のことは敢えて考えない。

マイクロソフトの功罪
覚えていますか?
こんなおめでたい記事がPC雑誌なるものを賑わしていた時代があったことを。。
PCにぶちきれた時、あなたはなにに怒りをぶつけますか?
モニターにパンチ派は、見た目、つまりは表層に騙されやすい単細胞
マウスに当たる派は自傷的ヒステリー症。
PCを蹴飛ばすタイプは、自爆テロ的な破壊主義的危険分子。
HDDを取り出して床に叩きつけるなんてのは既に犯罪行為のテロリスト予備軍。
壁を殴るタイプはマゾヒスト的破滅系。些細なことを大げさにし過ぎな暴走系のあほ。
唇を噛んで涙ぐむあなたは、なにも判っていない敗北主義者。そのうちきっとうつ病を併発します。
マイクロソフトこのやろう、とやにわに妙な書き込みを始める奴は妄想系の粘着型。
つまりPCを使っている私たち、おしなべてマゾヒストのアホ、ということなのですね。
という訳で、改めて先進国世界に蔓延するこのうつ病という厄介な伝染病。
まさにそう、このPCへのブチ切れ、というのがほとんどの原因て皆さんお気づきでしたか?
そんな悩める方々に朗報です。
PCのトラブルに見舞われた時、賢者の皆様がなにをするかと言えば、
すぐさまマイクロソフトのサポートページにGO。
ERROR MSGあるいはEVENT LOGを調べて、
MSのスペシャリストからありがたき教えを仰ぐ、
ってなものだった筈なのだが。。。
そこにまさに、マイクロソフトのほくそ笑みが浮かぶわけで。
ったく、人類、どこに行ってもアフォばかり。
エラーのMSGも読まずに、LOGも調べずに、
PCを蹴飛ばしてモニターにパンチをくれて思わず壁を殴って指の関節をおかしくし、
挙句にうつ病に陥って、もう生きていたくない、とさめざめとなく。
ばーか。死ね死ね低能のバカども。
そんなアフォでさえPCを使わなくては行きていけないというところにそもそもの矛盾がある訳で、
このテクノロジーの進歩に着いてこれない奴らは、
すべて淘汰されればよいのだ、
がはははは。
というのが、まあ90年代から200年初頭を貫いてきたマイクロソフトの基本姿勢。
そしてそこにまさに根本的な思い違いがあった、ってのは誰でも判るよな。
その後、APPLEが登場する。
サポート要らず。ブチ切れ知らず。
それこそ、箱を開けた途端におばあちゃんでも使いこなせる、
このIPHONEという魔法のデバイス。
としたとたん、
誰一人としてMSには見向きもしなくなったってのはまあ当然の話。
驕れる者久しからず。
つまりは十余年に渡るマイクロソフトのその神をも恐れぬあまりの傲慢ぶり、
世界人類のすべてを見下した奢りこそが、その失墜の原因であった、と断言できる。
とかなんとかいながら、
この21世紀。
いまだに日常のほとんどの時間を過ごすこのオフィスという場において、
やはりバカのひとつ覚えのようにMSのOSが使われているってのは、
いったいどういったことなのだろう。
あれだけMSを憎んでやまなかった世界中の人々が、
しかしいまでも、W7やら、果ては未だにXPやら、
そして、EXCEL、あるいは、OUTLOOK、なんてもので
一日のほとんどの時間を浪費させられている訳で、
人類の不幸はいまだに継続中ということか。
ちゅうわけで、BLACKBERRYと、MICROSOFT、
このインターネット社会をトチ狂わせては人類を露頭に迷わせた張本人たち。
早く死んでくれないかな、といまだに願い続けているのだが。。
ちゅう訳で、朝から格闘中であったEXCELのシートがいきなしフリーズ。
で、PCを立ち上げ直してみたら、すっかりその苦労が水の泡。
データをこまめにSAVEしてなかった俺が悪い?
AUTO SAVEがうざいからって設定切ってしまったのがそもそもの間違い?
うるせえ、っていうんだよ。
思わず掴んだ受話器。
HELPDESKに電話して呪いの塊をぶちまけてやろうかと思ったが、
なんと待ち時間20分、と言う。
はいはい判った。俺が泣けばいいんだろ?
ってことで、タバコを吸いに外に出ては、
そこで出くわした人々と、
やあやあ、お元気でしたか?はいはい、
とやっているうちに、机に戻った時には全てを忘れていた。
そう、そうやって人類は進んでいくのだ。
三歩進んで二歩下がるのはなにも昭和に特化した処世訓にあらず。
つまりは人類、その程度ってことなんだろ?

失業ハイパー ~ 紙切れ一枚のCONGRATULATION 笑わせる
今日、一つの旅が終わった。
ひとの気も知らねえで、世間は勝手に終末騒ぎのまっただ中。
俺の戦いを誰も知らない。知ったことではない、のだろう。
とそんなことを毒づきながら過ごしてきたこの半年+1ヶ月。
4時間の試験が終了した後、
空白のスクリーンに「CONGRATULATION」の文字が浮かんだ時、
思わず何度も見なおしてしまった。
これって、終わったってことなのか?本当にか?
こうして終わって見ればあまりに呆気無く、万歳をするどころか、
CONGRATULATION の文字の浮かんだモニターに蹴りをぶち込みたくなった。
この野郎、手間取らせやがって。
という訳で、6月から半年、
間にワールドカップと錦織のUSOPENを挟んだ分、と一ヶ月追加。
年も押し迫ったこの日に、ようやくこの悶着に決着がついたという訳か。
不思議なぐらいに高揚感とはかけ離れた気分。
帰り道、まだなんの実感も沸かず、今日家を出た時の不機嫌な面そのままに、
地下鉄に揺られ、駅からの途中にかみさんにバラの花を一輪買った。
それでもなお、クソッタレ、と毒づいている俺。
終わっただと、バカヤロウ。笑わせてくれるぜ。
かみさんに結果を報告すると、
なんだ、もうひとりでご飯食べちゃったよ、と言われて苦笑い。
とはいうものの朝からバナナしか食べていないのに食欲はまったくない。
という訳で、旅を終えた俺がまずやったのは、
机の周りに積み上げられた参考書のプリントアウトの山を、
まとめてゴミ箱に叩きこむこと。
そして俺は、大音響でストーンズを聴いた。
ストーンズ。
このあまりにも荒々しく、そしてまるで蕩けるように優しい、
このがさつでいい加減で、そしてまったくもってどうでもいいぐらいに元気に溢れた音。
まるで乾いたスポンジに染みこむように、
そんなストーンズの間の抜けたビートが身体中に満ち満ちて行くのが判る。
帰ってきたぞ、と思う。
そして、寂しかったぜ、とつぶやく。
寂しい?
そう、正直寂しかった。
試験日の決まってからこの一ヶ月の間、
あるいは、実はそのずっとずっと前から、
俺は俺の中からストーンズを敢えて締め出して生きてきたのだ。
なぜ?
そう、反社会的だから。
社会の一員である以上、社会に頭を下げて仲間に入れて頂いている以上、
ストーンズなんていう、麻薬とセックスと暴力を象徴するようなスタイルは控えるべき、
と、そう勝手に決め込んでいたのだ。
という訳で、俺はもう、社会に入れていただく、なんていう謙虚なポーズなど、
取る必要がなくなった。
バカヤロウ、かたぎはもうコリゴリだ、と日本を飛び出てからいったいどれだけの日々が流れたのか。
そして今、ストーンズが帰ってきた。
長い長い旅が終わり、そしていま新たなドアが開き、
長い間閉めきったままだった開かずの間にいきなり風が吹き込むように、
俺はいまストーンズのシャワーに洗われているようだ。
こんな気持でストーンズを聴いたのはいったいどれくらぶりになるのだろう。
これほどみずみずしく響くストーンズを聴けたというだけでも、今回のこのクソ浪人生ぐらしも、
なんとか元がとれたという気がしないでもない。
という訳で、旅は終わった。
ハッピーバースデーと、ハッピーハロウィンと、ハッピー・サンクスギビングと、メリークリスマスが、
いまようやく遅れて届いた筈なのに、やれやれいまだにまったく実感が沸かない。
とにかくしばらくはストーンズを聴いていたい。
ストーンズだけ聴いていたい、とそう思っている。
旅にでようかな、とそんなことを思っている。
ひとの気も知らねえで、世間は勝手に終末騒ぎのまっただ中。
俺の戦いを誰も知らない。知ったことではない、のだろう。
とそんなことを毒づきながら過ごしてきたこの半年+1ヶ月。
4時間の試験が終了した後、
空白のスクリーンに「CONGRATULATION」の文字が浮かんだ時、
思わず何度も見なおしてしまった。
これって、終わったってことなのか?本当にか?
こうして終わって見ればあまりに呆気無く、万歳をするどころか、
CONGRATULATION の文字の浮かんだモニターに蹴りをぶち込みたくなった。
この野郎、手間取らせやがって。
という訳で、6月から半年、
間にワールドカップと錦織のUSOPENを挟んだ分、と一ヶ月追加。
年も押し迫ったこの日に、ようやくこの悶着に決着がついたという訳か。
不思議なぐらいに高揚感とはかけ離れた気分。
帰り道、まだなんの実感も沸かず、今日家を出た時の不機嫌な面そのままに、
地下鉄に揺られ、駅からの途中にかみさんにバラの花を一輪買った。
それでもなお、クソッタレ、と毒づいている俺。
終わっただと、バカヤロウ。笑わせてくれるぜ。
かみさんに結果を報告すると、
なんだ、もうひとりでご飯食べちゃったよ、と言われて苦笑い。
とはいうものの朝からバナナしか食べていないのに食欲はまったくない。
という訳で、旅を終えた俺がまずやったのは、
机の周りに積み上げられた参考書のプリントアウトの山を、
まとめてゴミ箱に叩きこむこと。
そして俺は、大音響でストーンズを聴いた。
ストーンズ。
このあまりにも荒々しく、そしてまるで蕩けるように優しい、
このがさつでいい加減で、そしてまったくもってどうでもいいぐらいに元気に溢れた音。
まるで乾いたスポンジに染みこむように、
そんなストーンズの間の抜けたビートが身体中に満ち満ちて行くのが判る。
帰ってきたぞ、と思う。
そして、寂しかったぜ、とつぶやく。
寂しい?
そう、正直寂しかった。
試験日の決まってからこの一ヶ月の間、
あるいは、実はそのずっとずっと前から、
俺は俺の中からストーンズを敢えて締め出して生きてきたのだ。
なぜ?
そう、反社会的だから。
社会の一員である以上、社会に頭を下げて仲間に入れて頂いている以上、
ストーンズなんていう、麻薬とセックスと暴力を象徴するようなスタイルは控えるべき、
と、そう勝手に決め込んでいたのだ。
という訳で、俺はもう、社会に入れていただく、なんていう謙虚なポーズなど、
取る必要がなくなった。
バカヤロウ、かたぎはもうコリゴリだ、と日本を飛び出てからいったいどれだけの日々が流れたのか。
そして今、ストーンズが帰ってきた。
長い長い旅が終わり、そしていま新たなドアが開き、
長い間閉めきったままだった開かずの間にいきなり風が吹き込むように、
俺はいまストーンズのシャワーに洗われているようだ。
こんな気持でストーンズを聴いたのはいったいどれくらぶりになるのだろう。
これほどみずみずしく響くストーンズを聴けたというだけでも、今回のこのクソ浪人生ぐらしも、
なんとか元がとれたという気がしないでもない。
という訳で、旅は終わった。
ハッピーバースデーと、ハッピーハロウィンと、ハッピー・サンクスギビングと、メリークリスマスが、
いまようやく遅れて届いた筈なのに、やれやれいまだにまったく実感が沸かない。
とにかくしばらくはストーンズを聴いていたい。
ストーンズだけ聴いていたい、とそう思っている。
旅にでようかな、とそんなことを思っている。

失業ハイパー ~ Can't find my way home ~ 受験あと記
本番試験の朝、
妙にハツラツとした気分で目が覚めた。
犬の散歩はかみさんに代わってもらって8時起き。
ああ、ついに来てしまったな、とベッドを下りながら長いため息をついた。
いつものように起きたそのままに机に向かうと、
あくびを噛み殺しながら暗記テストシートに朝のノルマ、
プロセスマップとその内容、そして旅について
思い出す限りを殴り書いて行く。
この数ヶ月の間繰り返してきた朝の日課のひとつ。
のだが・・・
やれやれまだまだ全然覚えてねえな。
だがしかし、もう覚えていないではすまねえって。
今日が本番だろが。もうこの先も、後で、もない、筈。
これまでの勉強はすべて、ノートを作ってやら、FLASHCARDを作ってやら、
そうやって、暗記は後でゆっくり、なんて感じで、後回しばかりだったのだが、
いざそれを覚えているか、
つまりはそのノートの作成過程において理解や暗記をしているのか、
というと・・・やはりそれはつまりは最も面倒な暗記の作業を後回しにしていただけなんだよな、
と当然なことにいまさら気づく。
だが、もうネガティブになっている間はない。
今日一番大切なのは取り敢えず自信をつけること。
という訳で、再びプロセスマップに戻って内容を確認しながら、
講師になったつもりでプロセスの基本動作の流れを自分を相手に講義。
これで11時まで。さすがに眠くなってきて、おいおい、大丈夫かよ、と珈琲を淹れる。
なんかやはり足が引き攣っているな、と腰の運動と屈伸運動を続けるが、
このもやもや感がまったく去らない。
朝に犬の散歩に行かなくて正解だったな、と思う。
で、これまでやった試験問題で「X」だったものだけ舐める。
とりあえずサンプルテスト、ルール・オブ・セブンで抜き打ちで7問。
いちおう全問正解で安心するが、すでに記憶にある問題ばかり。
一度やった問題のその答えばかり暗記したって意味ねえんじゃねえか、
とは常々思ってはいるのだが。
なんかそわそわと落ち着かず。だが不思議と気分は良い。
最終確認用のメモを書き出し、それを自分宛てにメール。
ついでに試験心得を書き出して気を落ち着ける。
試験問題は200問。制限時間は4時間。
PC上で四択問題な訳だが、
その問題のほとんどがWORDYなシチュエーション問題。
それを一問約一分のスピードを目安に解き続けなくてはいけない。
米国人でさえもが四苦八苦するこのWORDYな質問の山。
要は速読力な訳なのだが、その質問文、二重否定から始まってひねった物が多く、
罠が各所に仕掛けられている訳で、
そんな試験内容、当然のことながら、英語が母国語でない俺には致命的だ。
暗記するだけでは駄目。内容を十分理解した上で、
与えられた条件内で適切に状況判断を下し、選択肢の中からBESTの解答を選ぶ。
それを一問約一分でこなさなくてはいけない。
そしてその200問の中に、フェイク、つまりは、解答の無い問題、強いては採点に加算されない問題が含まれる。
つまり、いくら考えても解答の得られない問題が紛れ込ませてあるのだ。
そんな馬鹿な、と思うが、つまりはそういうこと、らしい。
つまりは解答がないことを見抜く力。おいおい・・
という訳で、改めてタフな試験である。
自宅で模試をこなすだけでも、四時間の時間を終了した後はぐったりと椅子から立ち上がることもできなくなる。
英語との戦い、知識との戦い、そして時間との戦い。
このあまりにも不利な戦いに敢えて挑戦する俺の唯一の対抗策は、
ひとの二倍三倍の勉強時間、は当然のこと、
気合と根性と集中力、そして、度胸。
つまりはもう、ここまで来れば、精神論に頼る以外に方法は見つからない訳だ。
昨夜、緊張の為が寝付かれず、改めて日米の受験感想記の書き込みを追ってみた。
ほとんどの合格者が、全200問の試験問題を遅くとも2時間半で完了するらしい。
で、残りの一時間半を曖昧問題の熟考とそして見直しに当てる。
で、不合格者に共通するのが、一問一問に時間を取られすぎて全体の時間の配分を誤り、
時間不足の中でパニックに陥った末に、ろくに見直しもできずに憤死というパターン。
試験開始から30分は、頭がポーッとして問題がまるで理解出来なかった。
緊張からか、単純な暗算さえもがおぼつかない状態で。
時間に追われて焦るばかりでまったく思考が働かず。
4時間の間、ただただパニックの中でのたうっていた。
まさか、と思う。
まさかこの俺が、そんな状態になるなど考えられない。
俺はこれまで数限りない本ちゃんのガチンコをこなしてきた男だ。
そのあたりのひよっこ坊ちゃまと一緒にされては困る。
そんな失敗談を読みながら、大丈夫、俺に限ってそんなヘマはしない、と言い聞かせる。
俺は本番に強い。ギグでも試合でもそして喧嘩でも。
その場になったとたんにすっと血が引いてみるみると知覚が冴え渡る。
そう、昔からそうであったではないか。
俺は本番に強い男だ。
ぶっつけ本番のギグをあれだけこなしていたのだ。
そんな俺に限って、たかが試験ごときで舞い上がるなんてヘマをする訳がない。
全然食欲がないがとりあえず昨日の残り物を食う。
ブー君にもご飯をあげて、その後、キッチンで皿を洗いながら、
こんな時に皿を洗ってる俺って何?とは思っているが、
皿を洗っているとなんとなく気が落ち着いてくる。
チャーリー・ワッツは20万人の大群衆の待つハイドパークへと向かう車の中で、
なんとリンゴを剥いていたのだ。
なあに、たかがロックンロールじゃねえか、と鼻で笑いながら。
寒さチェックにタバコを買いに出て72の駅まで。
おつりの1$でロットを買った。
もし試験に落ちたとしても、その時にはこのロットが18億とは言わないまでも、
受験費用ぐらいの金は稼ぎだしてくれるかもしれないじゃねえか、
というお守りのつもりだった。
我ながら良いアイデアだ。
そう、ロットというのはこういう時のためにあるものなのだ。
買ったばかりのタバコを咥えて、改めて仰ぎみる師走の人混み。
どいつもこいつもひとの気も知らないで憂かれ騒ぎやがって。
こいつら誰も俺の戦いなど知ったことではないのだろうな。
この投げやりな孤独こそが都会の心地よさなのだな、と思う。
帰ってシャワーを浴びてついに2時過ぎ。
さすがにブーくんの散歩に履いているトレパンでグラセンに行くのはやばいだろう、
とは思うが、寒かった時やら、また腰が冷えて足が攣り始めたらどうしよう、と考えて、
ユニクロのヒートテックのステテコを履いていく事にした。
という訳でそろそろ出発をしようと思う。
ギグの時にはなるべく早めに会場入りしてその場に身体を十分に慣れさせておくか、
あるいは、ぶっつけ本番、ギリギリ、あるいは遅れて到着してそのままステージに駆け上がるか、
そのどちらかだ。
そんな中、本番に向けてなにを持っていくかはずっと考えていた。
試験会場になるべく早くついてそこの自習室で模擬試験でもできるのであればこなしておいた方が良い。
その時にはやはり普段の勉強道具一式を持っていったほうが良いのだろうか。
あるいは、まさに胸のポケットに鉛筆さして手ぶらで到着、という方が格好は良いのだが。
とそう考えて、やはりもうここまで来てじたばたしてもしょうがない、と必要最低限のものだけ、
試験確認メールのプリントと身分証明書用に、念のためパスポート、とかを詰め、
勉強用の参考書類はもう一切持たないことにした。
という訳で、いざ出陣だ、とは思うが、
誰も見送ってくれる者もいない。
このあまりに呆気ないたった一人の旅立ち。
この静けさ。なんかまるでギグの前、あるいは出張の前みたいだよな、と思う。
赤線から7に出てグラセン。驚くほどスムーズ。
3RDの出口から出てタバコを一本。
場所は3RDと42の角。
ビルの入口にちょっと悩むが、
なんかこのビル前にも来たことあったな、と思う。
こんなところにテストセンターがあるなんて知らなかったぜ。
最後のタバコをあっさりと吸い終えて、
受付でサングラスかけたまま写真撮られて2階に上がる。
受付で待たされて待つ間にまた腰が痛くなってきた。
電話中の受付おばさんに、ねえ、まだですか?
と文句を言うが相手にされず。
で、その間にトイレを確認。
金玉こそ縮み上がってはいないものの、やはりどうしても尿切れが悪い。
おいおい、俺がビビってるのか?と自分で自分を笑う。
がしかし、と改めてトイレを見渡す。
これなら始まる前にトイレのどこかにiphone隠しておけるな、とも思うが、
この出歯亀スパイカメラ時代。
たぶんどこかにカメラが設置してあるのだろうとも思う。
カメラ探しはさすがにもうやめておこう。
でまた受付に戻ると誰もいない。
なんか職員と受付のおばさんががやがやと話している。
試験をドタキャンした奴がいたらしい。
で、その最中に、おい、俺の相手はまだかよ、と文句を言うと、
お前、予約は何時だ?と聞かれて、
いや、5時なんだけど、と言えば、
やれやれ、と顔を見合わせて笑われる。
で、開始までの2時間、どこかに自習室とかねえのか?と聞けば、
そんなものはない、と一言。
なので、外で二時間待ってまた帰ってくるか、
あるいは・・・
今受けるか?
いま!?
そう、いま、これから。すぐに。ドタキャンがでて一席空いてるんだ。その気があるなら今すぐにセットアップするぞ。
いま?いますぐに?このまま?
と思わず絶句する。
もしかしたら直前での二時間の中で運命の何問かをピックアップすることができるかもしれない。
あるいは、この寒い中、二時間もの間、
師走の人混みを眺めながらデリの片隅でIPHONEでも眺めている間に、いったいどんな心境の変化が訪れることか。
一か八か、丁か半か、TO BE or NOT TO BE、と考えた瞬間、
えいやあ! いま受けるぞ!と言ってしまう。
とした途端、スタッフの連中の顔がちょっとほころぶ。
本当か?
ああ、READYだ。いますぐに受ける。やってやろうじゃねえか。
とその途端、そんな会話を聞いていたスタッフたちの表情がほっと和んだ。
その視線が、よしよし、その調子だ。お前は受かるぞ、と言っているように感じられる。
うっし、吉兆だ、と気合を淹れる。
と言うことであれば、と、そのまま会場への入場の手続きが始まる。
ガラスの向こうに仕切りで区切られたPC用の席が並んでいる。
どの席も一杯で、赤いヘッドフォンをした奴らがずらりと並んでいる。
年末のこの時期にテストを受けるような奴がこれだけいるなんて。
俺の戦いは誰も知らない、知ったことじゃない、と思っている奴ら。
あんたらもそうだったんだな、となんとなく親近感を覚える。
ロッカーの鍵を渡されてカバンから財布からコートから持っ来たもののすべてを中に入れろと言われる。
で、メタルディテクターで身体検査。
すべてのポケットの中をひっくり返し、芍薬甘草湯やらニコガムやら、
やはり持っては入れない、と言われて、
芍薬甘草湯を一つ飲んでから、ニコガムをふたついっぺんに口に放りこむ。
としたところ、あっ、このひとのテスト長いんだ。4時間コース。
4時間?といまさら驚くスタッフたち。
あんた4時間も試験受けるの?
だが、試験中はロッカー開けれないから食料とか薬とかロッカーの上に出せと言われてバナナと甘草糖を出しておくことにする。
で、さあ、入場としたら、それでもメトロカードと、そしてタバコ屋で買ったロットが出てきて、
これだめ、しまって来て、とロッカーとの間を行ったり来たり。
やはりごまかしてなんか隠して持ち込もうとしても駄目だなと苦笑い。
身分証明用の運転免許と51番の札のついたロッカーの鍵、
そして二本の鉛筆の8枚つづりの赤いメモ用紙を持たされて、
うっし、Lets get down とステージに上がるようにドアの向こうのテストルームに入る。
机の番号は4番
射撃場で使うような赤い消音用のヘッドセットがある。
画面にはすでに俺の名前が出ている。
この名前で問題なければOKをクリック、とあって、
ほい、とやると、チュートリアルが始まる。
なんか安っぽい作りだな。
WIN98の頃から変わってないんじゃねえのか、と笑う。
だがボタンが大きくて判りやすいのはいいのだが。
でそのチュートリアルが15分。
WEBにあった受験記にあったように、そのチュートリアルの間に、
公式とか順番とか思いつく限りのことを書き出して行くのだが、
こんなことはもうすでに暗記済み出し、とは思うのだが・・・
がしかし、実はこの時に書き出しておいた事が後で偉く役に立った。
で、チュートリアルの間に、計算機の使い方と出るが、
やはりあのPCアプリの簡易電卓ソフト。
で、受付のひとに、おーい、と手を上げて、
やっぱ手動の電卓くれ!とリクエストするがずっと待たされる。
ヘッドセットの座りが悪い。
先に口の中に放りこんだニコガムを吐き出して免許証の上におく。
くっそ、また足が攣り始めたな、と思うがもうそんなことを言っている場合ではない。
で、ようやく電卓が届くが、なんだこれ、ボタンの配置がすっげえ旧式な奴。
=を押すところを、間違えてONを押してしまって答えが消えてしまう。おいおい。
とかやっているうちに、123 GO と試験が始まる。
さああ、勝負、とPCの画面に見入った途端、
その一問目・・・??? むむむむむ・・
なんだこれ、もしかして試験の種類間違えてないか?ってなぐらいにまで、
まるっきりちんぷんかんぷん。
あれれれれ、なんだよこの問題、この英語、なんかおかしくねえか?と。
で、その質問文。わずか4行分である訳なのだが、
何度読見返してもどういう訳かその質問の内容が一向に頭に入って来ないのだ。
うへえ、やっぱあのサンプルテストとはかなり違うんだな。
一挙にテンションが上がる。
これが舞い上がるという状況なのか。
ヘッドセットの中に心臓のドキドキ音がガンガンと響く響く。
いやだから、いや、これが、と全身にじむ脂汗。
いやまさか、おい、これって本当に英語かよ、
とかなんとかやってるうちに、ふと見ればなんと最初の一問ですでに3分経過。
えええっ!この時計、進むの早すぎ!
えーい、ままよと、と後回しマークにチェックを入れて、さあ気を撮り直して次だ、と思うのだが、
むむむむ・・・・これもそうだ・・・なにが書いてあるかさっぱり判らねえぞ・・・
とこうしていつのまにか30分。
一問一問、そのそれぞれがなんとも摩訶不思議な呪文を読むようで、つまりは内容が意味をなさない。
その読み込みだけで少なくとも2分、しかもその下にならんだ解答の選択肢さえもが、
果たしてなにが書いてあるのかさっぱり判らないのだ。
これ。。もしかして、家でやっていた模試なんかよりもずっとずっと難しくねえか?・・・
俺、甘かったのかな、とすでに気分は敗戦モード。
くそ、また後回しマークか、と舌打しながらチェックを入れて、
さあ次だ、大丈夫。勝負はこれからだ、と、気を撮り直すのだが、
えええええ、またあ??? またこの訳の判らない問題で・・おいおい、と。
そうこうするうちに10問20問、すべてさっぱり訳がわからないまま、まだ一問さえもまともに解答ができないままに、
ただただ悪戯に時間ばかりが過ぎてゆく。
むむむむこれはかなりヤバイなと苦笑い。
WEBに載っていた失敗談のパターン、まさにそのままじゃねえか。
クソッタレ、と腹が立つのだが、腹が立てば立つほどに思考が虚しく空転を続けるばかり。
まさに試合開始直後から、右から左からとジャブの連打を喰らい、すでにコーナーに追い詰められて滅多打ち状態。
クリンチだ、と思う。ガードを下げるな。クリンチして耐え続けろ。足だ、足を使うんだ。
吐き出しておいたニコガム口に放り込む。
椅子から立ち上がって、腰をひねり、ついでに顎をひねって首の関節をごきりと鳴らす。
クソったれ、この俺がこんなクソ試験にやられて溜まるものか。
髪を掻きむしり、眼鏡をかなぐり捨てて、そしてモニターをぐいと手前に引き寄せて画面に鼻先をくっつけるようにしてがむしゃらに集中を試みる。
焦るな、これは罠だ。心理作戦の術中にまんまとはまっているだけだ、と言い聞かせる。
まずは最後の200問目まで辿り着くことだけを考えろ。
面倒くさい問題はすべて後回し。
とりあえず最後の200問目までで、簡単に拾える問題だけを拾い集めること。
勝負はそれからだ。
と、そんなこんなで、
30問目ぐらいからようやく、あ、これ知ってるぞ、ってな問題が出始めるが、
やはり一問ごとに質問を理解するだけでもやたらと時間を食っている。
やっぱ英語だよな、と改めて思う。
あるいは、英語の質問をいちいち日本語に翻訳して考えてから、その答えをまた英語に翻訳、
という俺の思考回路そのものがこの試験にはかなり不利になるのだが、まあそんなことはすでに承知の上。
そう思って、反射で答えられるようにとサンプルテストばかりやっていたのだが、
やはり質問の内容、あるいは、文体がかなり違って、いつまで経ってもそれに慣れて来ない。
おっ、ラッキー計算問題だ、と思うのだが、それも文体からデータを拾わなくてはならず、
で、この300,000,000ってのは、なにを意味するわけ?と思ってるうちに電卓を打ち損じて、
おいおい、この電卓全然使えねえぞ、と苛立つ。
で、もう、とりあえず、長くかかる問題はそのままMARKを付けて後回しと思うのだが、
そのMARKが次から次へと悪戯に増えていくばかり。
なんだよまだ50問か、やっと75問か、とやりながら、
で、残り時間はあとどのくらい、と思うが、右上の時計、なんか時間の計算さえもがよく判らなくなってる。
おいおい、お前相当バカになってるぞ、と、今更ながらに驚く。
で、ようやく100問目まで来た時点では、すでに二時間を食っていた。
100問で120分?
通常、合格者のほとんどが、全200問を2時間半で解き終える、
そう、俺も家での模擬試験ではそうだった。
だが、それは、すでに知っている問題、つまりは反射で答えられる問題がほとんどの場合、のみ。
まったく知らない問題をやった時には、やはり200問終えたところで3時間は経過していたのだ。
くっそう、甘かったな、と今更ながら歯ぎしりをする。
確かに、意味さえ掴めれば問題そのものはそれほど難しくはない筈なのだ。
模擬試験に比べてひねってある問題が多いが、落ち着いて時間をかければ判る問題ばかり。
なのだが、その質問の仕方、がかなりひねくれているというかなんというか、
つまりは、そうでなくないものの中から最も可能性の高いものと低いもののその共通点はなにか、
とかなのとか。。。
つまりはただ基本条件はなにかってことだろう
と、こんなつまらないところでも二度読み三度読みを繰り返えさせられ、
そしてどんどん時間ばかり食う。
あるいは、これ、俺の英語の読解力の問題、ってだけとも言い切れなくないか、と俺の頭の中までおかしくなってくる。
ああ、これは完全に負けペースじゃねえか、と思う。
よく考えなくてはいけない問題と、あまり考えてはいけない問題がごっちゃになっている、ことは重々承知の上。
そんな撹乱への対策も十分に練ってきたつもりであったのだが。。
くそったれ、甘かったなと今更ながら思う。
つまりは、そう、やはり俺の英語力ではこの試験を突破することはかなり無理があった、ということなのか。。
とまあ、散々の七転八倒の挙句、ここまで来てようやく、なんとなくそのウネウネな文章にも慣れ始めてきた。
ついに120問を過ぎたぐらいからようやくペースが上がり始めた。
判ったわかった、LEASTのEXCEPTな訳だろ。で、結局言いたいのはそういうことだな。
が、しかしながら、やはり設問にひっかかるところが多い。多すぎる。
なんたらチャートやらとあるが、あれ、これ、ダイアグラムじゃなかったっけ?
それってひっかけなの?あるいはそういう呼び方もある訳?
ってな感じで、答えの選択肢からもいちいち悩まされることになる。
で、170問。
普段ならこれぐらいまで来るとまたちょっとドキドキと焦り始めるものなのだが、
この本番では、これまでにあまりにも後回しにした問題が多すぎるんで、
最後に近づいても全然嬉しくない。
だって、この先の問題で何問間違えても、あるいはいままでの後回しの問題で間違えても、
一点は一点、変わらない訳で、なら最後までやることに躍起になるよりも、これまでの後回しの問題を固めたほうが、
とか余計なことを考えだすが、ばか、だから、簡単に拾える問題をとりあえず拾うことが先決、
とか葛藤をしながら、そう言えば、最初にものは試しに模擬試験やったときもこんな感じで、結果は当然のことながら散々だったな、と思う。
ってことは、おいおい、俺はこの半年、まったくなにをやっていたのか、まったく進歩がなかったってことなのか、とさすがに嫌気が差してくる。
くそったれ、と思いながら、おっと、いつのまにか200問。
時計を見ればすでに3時間を経過をしている。
あっ、そうか、家でやってる模試アプリは、この時計の表示が残時間で表示されてたんだ。だからか、とか今更そんなことに気づく。
で、残り時間はあと55分。
REVIEWを押すと、200問の中で、後回しのMARKを付けたもの、MARKを付けて回答はしているもの、とかがずらっと並ぶ。
これも模試アプリ通りか。
で、やり忘れた問題が1問。げげげ、なんで、と見てみれば、あれこの問題知ってる。つまり解答のCHECKをし忘れたってこと?
あり得ねえな、とさすがに苦笑い。
そう、練習と試合は違う。それはテニスでもギグでも、そして受験でも同じこと。
そんなことは骨身にしみている訳なのだが、今更ながら、本番時におけるその能力の劣化ぶりに驚かされる訳だ。
で、後回しマークした問題が、なんと80問。
模試アプリと違って、後回しマークした問題だけをPICKして次々と並べてくれて助かる。
80問を50分で。ってことは一問何秒で答えなくちゃいけないわけ、と思うがもうそんなこと考えている場合ではない。
やばいこれじゃあ見直しぜんぜん終わらねえとまじでてんぱる。
で、驚いたことに、最初の方の20問はその質問さえ覚えてない。
で、改めて解いてみるが、先に多分これかな、とチェックした解答がすべてまったくの検討違い。
で慌てて直し始めたら、これも違うこれも違うで、あらためて最初の三十分間、俺は一体何をやっていたのか。
で、いきなりアクセル全開、もはや前輪が浮いてウィリー状態。
後輪から煙を上げながらの全力走行で問題を解いていって、
50問過ぎたぐらいからようやく問題の概要だけは覚えてるってのが出始めて、
選択肢の中から、これ以外にはない、っていう奴がくっきりと浮いて見えるようになる。
よし、今頃になってようやく調子が出始めてきたぞ、と思うのだが、だが残り時間はあと20分。
ああ、あと何問残っているのか、とそればかりが気になるが、そんなもの数えている時間さえもが惜しい。
くっそくっそくっそくっそ、時間がねえ、時間がねえ、時間がねえ。
が、100問目を過ぎてからはいきなりチェックが減り始めて、
後回し問題の番号がぴょんぴょんと飛び始める。
で、おっと、終わった、と思った時に10分前。
これまでにどうしても判らない問題が20。
で、あやふやなのが30ぐらい。
この中にフェイクがどれだけ含まれてるかが鍵だな、とは思うが、
答えのない問題にいくら悩んでもしかたがない、これもフェイクこれもどうせフェイクだろうとめくら撃ち。
で、あやふや問題をざっと舐めるうちに、おおおおっと、これひっかけじゃねえか、
ってなものをまた何問か拾って、ってことはこれまでの正解だと思ってる中にも、
実はひっかけに騙されているケースがかなりある、ということか、と再び疑心暗鬼。
がしかし、ここまできて自責の迷路に遊んでいる暇もない。
で最後の5分で超面倒でうっちゃった計算問題。
それが解けたのが1分前。
最後の最後にもう一問だけと思って、
うーんと考えて、これやっぱこっち、やったところで Timeout と出て試合終了。
画面はいきなり真っ白になって何も言わず。
まるで俺の頭の中そのもの。エンジンが燃え尽きてスパークしたまま真っ白。
そしてしばらくしてから「計算中」と出る。
あああ、と思わず脱力。
合格最低線が75点として、200問中50問はミスってもOK、としても、
その中でも、正解だと思って騙されたひっかけ問題、あるいはケアレスミスも含めて10問と仮定すると、
どうしても判らない問題が20.
で、あやふや系30のすべて外していたらその時点で不合格な訳で、
あとはフェイク頼み。
つまりは神頼みの運次第という奴か。
いずれにしろ超ギリギリラインっこと。
もしかして最後の一問が人生の別れ道?
とそんなことを思ってる間に、いつのまにか画面にはテストセンターのサーベイが始まっている。
あれ?結果は?とは思いながら、
会場はどうでしたか?
テスト用のPCはどうでしたか?
スタッフの対応はどうでしたか?
とかのまったくどうでもよい質問に、面倒なんで「全て最高」にちゃかちゃかとチェック。
で、はいアンケート終了とやったらいきなり
むむむ?なんだこれ・・
「Conguraturation」の文字・・・・
えっ!?ってことはつまり・・・・
ファンファーレはないにしても
あれ、これってなにテストの結果がってこと?
或いはテストセンターの宣伝とか?
まさかまた、なにかのひっかけ、
Conguraturationっだったら良かったのですが、結果は、残念でした、
やら、
次回にConguraturationとなるためには、下記の講座にお申込みください、
やら。。
とその画面の文字を改めて何度も読み直す。
おいおい、俺はもうすっかり頭がひねくれまくっているぞ・・
としていたら、様子を見に来たテストセンターの女の子にそっと肩を叩かれて、
そして耳元で「おめでとう」と言われた。
え?つまりそれって・・・と顔を合わせて、そしてここまで来てやっと事情が飲み込めた。
つまり、終わったのか?そうか、終わったんだな・・・
バンザイとかタイトタイトとかじゃなく正直、腹が立った。
てめえ手間とらせやがってとモニターに蹴りを入れそうになった。
が、この時間になってもまだまだテストやってる人がずらりといる。
んでテストセンターの女の子に促されてそっと部屋を出て、そしてドアを出たところで改めて握手。
噛んでいたニコガムをゴミ箱に吐き捨てて、
で、ああ、腰が痛え、と身体を捻る。
試験中に足が攣らなくて本当に良かった、とは思いながら、
あ、そういえば、足の痙攣が収まっているな、と思う。
いまだに信じられずに、ねえ結果のプリントとか貰えるの?って聞いたら、
はいはい、いまやってます、とプリントアウトした紙一枚。
小さな文字で、Examination Result : PASS とある。
それにバリデーション押して、はいどうぞ。
なんだよ、これだけ?
受け取ってみればあまりに呆気ない。
まったくもってこの世の中、紙切れ一枚なんだよな、と苦笑い。
で、そのテンスとセンターのひとと記念に写真撮りたいっていったら、
写真はだめよと、と天井のセキュリティーカメラを指差される。
で、しかたなく自撮り。
もうすでに8時を回っていた。
外にでて閑散としたロビーを抜けて転がりでた42丁目。
タバコを一本。うまい、どころか、まったく味がしない。
そのまま師走の人混みを歩き始める。
足は攣らないにしても、腰の痛みはまだ続いている。
久々に見る人混み。
そう言えばここ半年、俺はニューヨークに住んでいながら、
この雑踏の中を歩く、ということがまったくなかったのだな。
改めて見上げるビル街。
もうすでにクリスマスも終わっていたんだっけ。
どこにも寄らず、電話もせず、LEXの入り口からそのまま地下鉄駅の構内に入ったところで、
あ、ロッカーの上に出しておいたバナナを忘れたことに気づく。
で、あ、そう言えばロット。
もしあの1ドルのロットが実はミリオンに化けたとしたら、この合格とどっちがいい?
と自問してみて、やっぱミリオンのロットだなと思っている自分に苦笑い。
地下鉄の席に座るこれ以上無く貧乏臭い人々。
年末のこの時間にぐったりと疲れきったままの人々。
あるいはこれから仕事に向かう人々。
パーティ帰りの酔っぱらいなどひとりもいない。
誰もが疲れきって、そしてまるで崩れ落ちることに必死に耐えているように、
座席の上でひしゃげきっている。
俺も嘗てはそうだった。
そしていまもその通り。
師走のこの時期に、ダウンタウンやらミッドタウンやらのどこぞでは、
まるで映画にあるような豪華絢爛なパーティが繰り広げられ、
シャンパンのシャワーの中にナイトドレスを着た女達が周り続けているその時に、
こうして地下鉄の座席に崩れ落ちたままの人々。
俺たちがこのドブの底から這い上がるには、
ロットに当たるか資格試験に受かる以外に方法はないんだぜ、と改めて思う。
世の中の不平等にいくら文句を言ってもなにも始まらない。
パーティ会場にいる奴らが、いまこうしている時にも地下鉄の座席に崩れ落ちた人々がいるのですよ、
だから皆さん、ここにあるシャンペーンとスモークサーモンを、少しでもそんな人々に分けてあげましょう、
などと、誰が考えているはずもないじゃないか。
一億分の一の確率にすがって生きるか、
あるいは、なんとしても自力で這い上がる以外には方法はないのだ。
と、これまで何度も繰り返してきたそんな言葉。
そしてついについに、俺はその賭けに勝った。
しかしながら、正直言ってまったく嬉しくもなんともない。
ただ終わったな、終わってくれたんだな、とそれだけだ。
長かったな、と思う。
それが果たしていつから数えれば良いのか、それさえもわからないぐらいに、
ただただ、長かった、とそう思ってた。
地下鉄を降りて、角のデリでかみさんに花を買おうとするが、
寒さにしなびたままの花束が15ドルと言われてなんか馬鹿馬鹿しくなる。
でバラ一輪で3ドル。
ドアを開けたらかみさんが、えらくびっくりする。
あれ、終わるの10時過ぎじゃなかったの?
いやもう無理なんで、途中で諦めて帰ってきた、
と嘘ついたら、あっそうとそのまま背中を向けて部屋に帰ってしまう。
喜んでいるのは犬ばかり。
わーい、帰ってきた帰ってきた、と盛んに足元で飛び跳ねている。
まあそう、そんなもんだよ。
で、テーブルの上にバラの花を一輪。
なにこれ?
残念賞。
まさか。
え!?もしかして・・・??もしかして・・・?もしかして・・・?
で、改めて事情を話すのだが、それでもやはり半信半疑。
ほらこれとテストセンターで貰った結果を出して、あれホントウだと笑う。
ああ、疲れたと改めてため息をつく。
帰り遅いと思って先にひとりでご飯食べちゃったよ、というがカップラーメンかよ。
という訳で、ようやく立ち上がって、
一番最初にやったことと言えば、PCを立ち上げて、そして、
ストーンズを聴くこと。
どういう訳かこの一週間、ずっとずっとIts Only Rock'n'Rollが聴きたかったのだが、
どういうわけか、聴いたら終わりだ、という気がして、聞かずにおいたのだ。
ああストーンズだ、と改めて思う。ああストーンズだ。ストーンズが帰ってきた。
という訳で、ちょっと元気が出て、
そして、机の周りに山となった勉強資料の印刷、
そのネズミ臭い資料を、全て積み上げて写真を撮って、そしてゴミ箱に持って行った。
ネズ公め、これでせいせいした。
とその直後、ジェニーから電話でドッグランへ。この人が一番喜んでくれた。
俺の戦いは誰も知らない、知ったことではない、とは思いながら、
やはり俺にも身内はいる。
やっほー、やったやった、と喜ぶジェニーを前に、このひとはなぜこんなに喜んでいるのか、とちょっと不思議な気もした。
がしかし、やはりまた足が攣り始めてかみさんと犬を残して先に帰ることにする。
でひとりで帰り着いた部屋。
ガラガラになった棚をみてもまだ実感が湧かない。
冷蔵庫にあった残りものをレンジでチンして食べていたらかみさんと犬が帰ってきた。
食後、普段なら机に向かう所を、そのままソファに寝転んでダラダラ。
このダラダラがなぜか無性に嬉しい。
で、そう言えば、と撮りためたlife below zeroを一挙に観てしまっても寝付かれず。
かみさんもすでにすっかりと普通の暮らしに戻っていて、1時を過ぎて、ねえもう寝ようと促されてベッドへ。
泥のように疲れているのだがなかなか根付かれず。
キャンデークラッシュをやるがなんとも落ち着かないまま。
そして4時も過ぎてから百年の孤独を読み始める。
ここまで来てなんとなくじんわりと嬉しさがこみ上げてくる。
そっか俺はずっとこれがしたかったんだなと気づく。
資格試験に合格した、なんてことよりも、
またこういうことができるようになったというほうが実はずっと嬉しかった。
つまり幸せとは、
夜中までダラダラとビデオ観たりトイレでゲームをやったりベッドで本読んだり、ってことなんだなと思い知る。
帰ってきたな、と思う。
が、もう俺はすでに今朝までの、あるいは、昨日までの、あるいは、去年までの俺ではない。
けっ、それがどうしたんだよ、と思っている。
寝際に、ふと、昔のバンド仲間の顔が浮かんだ。
ギグの後、楽屋までの道でファンにとり囲まれて、おーい、助けてくれ、と嬉しい悲鳴を上げるダチの姿。
俺はあれから、どれだけの迷走を経てきたのだろう。
そしてその迷走はまだまだ、あてど無く続くのだな。
Can't find my way home.....
妙にハツラツとした気分で目が覚めた。
犬の散歩はかみさんに代わってもらって8時起き。
ああ、ついに来てしまったな、とベッドを下りながら長いため息をついた。
いつものように起きたそのままに机に向かうと、
あくびを噛み殺しながら暗記テストシートに朝のノルマ、
プロセスマップとその内容、そして旅について
思い出す限りを殴り書いて行く。
この数ヶ月の間繰り返してきた朝の日課のひとつ。
のだが・・・
やれやれまだまだ全然覚えてねえな。
だがしかし、もう覚えていないではすまねえって。
今日が本番だろが。もうこの先も、後で、もない、筈。
これまでの勉強はすべて、ノートを作ってやら、FLASHCARDを作ってやら、
そうやって、暗記は後でゆっくり、なんて感じで、後回しばかりだったのだが、
いざそれを覚えているか、
つまりはそのノートの作成過程において理解や暗記をしているのか、
というと・・・やはりそれはつまりは最も面倒な暗記の作業を後回しにしていただけなんだよな、
と当然なことにいまさら気づく。
だが、もうネガティブになっている間はない。
今日一番大切なのは取り敢えず自信をつけること。
という訳で、再びプロセスマップに戻って内容を確認しながら、
講師になったつもりでプロセスの基本動作の流れを自分を相手に講義。
これで11時まで。さすがに眠くなってきて、おいおい、大丈夫かよ、と珈琲を淹れる。
なんかやはり足が引き攣っているな、と腰の運動と屈伸運動を続けるが、
このもやもや感がまったく去らない。
朝に犬の散歩に行かなくて正解だったな、と思う。
で、これまでやった試験問題で「X」だったものだけ舐める。
とりあえずサンプルテスト、ルール・オブ・セブンで抜き打ちで7問。
いちおう全問正解で安心するが、すでに記憶にある問題ばかり。
一度やった問題のその答えばかり暗記したって意味ねえんじゃねえか、
とは常々思ってはいるのだが。
なんかそわそわと落ち着かず。だが不思議と気分は良い。
最終確認用のメモを書き出し、それを自分宛てにメール。
ついでに試験心得を書き出して気を落ち着ける。
試験問題は200問。制限時間は4時間。
PC上で四択問題な訳だが、
その問題のほとんどがWORDYなシチュエーション問題。
それを一問約一分のスピードを目安に解き続けなくてはいけない。
米国人でさえもが四苦八苦するこのWORDYな質問の山。
要は速読力な訳なのだが、その質問文、二重否定から始まってひねった物が多く、
罠が各所に仕掛けられている訳で、
そんな試験内容、当然のことながら、英語が母国語でない俺には致命的だ。
暗記するだけでは駄目。内容を十分理解した上で、
与えられた条件内で適切に状況判断を下し、選択肢の中からBESTの解答を選ぶ。
それを一問約一分でこなさなくてはいけない。
そしてその200問の中に、フェイク、つまりは、解答の無い問題、強いては採点に加算されない問題が含まれる。
つまり、いくら考えても解答の得られない問題が紛れ込ませてあるのだ。
そんな馬鹿な、と思うが、つまりはそういうこと、らしい。
つまりは解答がないことを見抜く力。おいおい・・
という訳で、改めてタフな試験である。
自宅で模試をこなすだけでも、四時間の時間を終了した後はぐったりと椅子から立ち上がることもできなくなる。
英語との戦い、知識との戦い、そして時間との戦い。
このあまりにも不利な戦いに敢えて挑戦する俺の唯一の対抗策は、
ひとの二倍三倍の勉強時間、は当然のこと、
気合と根性と集中力、そして、度胸。
つまりはもう、ここまで来れば、精神論に頼る以外に方法は見つからない訳だ。
昨夜、緊張の為が寝付かれず、改めて日米の受験感想記の書き込みを追ってみた。
ほとんどの合格者が、全200問の試験問題を遅くとも2時間半で完了するらしい。
で、残りの一時間半を曖昧問題の熟考とそして見直しに当てる。
で、不合格者に共通するのが、一問一問に時間を取られすぎて全体の時間の配分を誤り、
時間不足の中でパニックに陥った末に、ろくに見直しもできずに憤死というパターン。
試験開始から30分は、頭がポーッとして問題がまるで理解出来なかった。
緊張からか、単純な暗算さえもがおぼつかない状態で。
時間に追われて焦るばかりでまったく思考が働かず。
4時間の間、ただただパニックの中でのたうっていた。
まさか、と思う。
まさかこの俺が、そんな状態になるなど考えられない。
俺はこれまで数限りない本ちゃんのガチンコをこなしてきた男だ。
そのあたりのひよっこ坊ちゃまと一緒にされては困る。
そんな失敗談を読みながら、大丈夫、俺に限ってそんなヘマはしない、と言い聞かせる。
俺は本番に強い。ギグでも試合でもそして喧嘩でも。
その場になったとたんにすっと血が引いてみるみると知覚が冴え渡る。
そう、昔からそうであったではないか。
俺は本番に強い男だ。
ぶっつけ本番のギグをあれだけこなしていたのだ。
そんな俺に限って、たかが試験ごときで舞い上がるなんてヘマをする訳がない。
全然食欲がないがとりあえず昨日の残り物を食う。
ブー君にもご飯をあげて、その後、キッチンで皿を洗いながら、
こんな時に皿を洗ってる俺って何?とは思っているが、
皿を洗っているとなんとなく気が落ち着いてくる。
チャーリー・ワッツは20万人の大群衆の待つハイドパークへと向かう車の中で、
なんとリンゴを剥いていたのだ。
なあに、たかがロックンロールじゃねえか、と鼻で笑いながら。
寒さチェックにタバコを買いに出て72の駅まで。
おつりの1$でロットを買った。
もし試験に落ちたとしても、その時にはこのロットが18億とは言わないまでも、
受験費用ぐらいの金は稼ぎだしてくれるかもしれないじゃねえか、
というお守りのつもりだった。
我ながら良いアイデアだ。
そう、ロットというのはこういう時のためにあるものなのだ。
買ったばかりのタバコを咥えて、改めて仰ぎみる師走の人混み。
どいつもこいつもひとの気も知らないで憂かれ騒ぎやがって。
こいつら誰も俺の戦いなど知ったことではないのだろうな。
この投げやりな孤独こそが都会の心地よさなのだな、と思う。
帰ってシャワーを浴びてついに2時過ぎ。
さすがにブーくんの散歩に履いているトレパンでグラセンに行くのはやばいだろう、
とは思うが、寒かった時やら、また腰が冷えて足が攣り始めたらどうしよう、と考えて、
ユニクロのヒートテックのステテコを履いていく事にした。
という訳でそろそろ出発をしようと思う。
ギグの時にはなるべく早めに会場入りしてその場に身体を十分に慣れさせておくか、
あるいは、ぶっつけ本番、ギリギリ、あるいは遅れて到着してそのままステージに駆け上がるか、
そのどちらかだ。
そんな中、本番に向けてなにを持っていくかはずっと考えていた。
試験会場になるべく早くついてそこの自習室で模擬試験でもできるのであればこなしておいた方が良い。
その時にはやはり普段の勉強道具一式を持っていったほうが良いのだろうか。
あるいは、まさに胸のポケットに鉛筆さして手ぶらで到着、という方が格好は良いのだが。
とそう考えて、やはりもうここまで来てじたばたしてもしょうがない、と必要最低限のものだけ、
試験確認メールのプリントと身分証明書用に、念のためパスポート、とかを詰め、
勉強用の参考書類はもう一切持たないことにした。
という訳で、いざ出陣だ、とは思うが、
誰も見送ってくれる者もいない。
このあまりに呆気ないたった一人の旅立ち。
この静けさ。なんかまるでギグの前、あるいは出張の前みたいだよな、と思う。
赤線から7に出てグラセン。驚くほどスムーズ。
3RDの出口から出てタバコを一本。
場所は3RDと42の角。
ビルの入口にちょっと悩むが、
なんかこのビル前にも来たことあったな、と思う。
こんなところにテストセンターがあるなんて知らなかったぜ。
最後のタバコをあっさりと吸い終えて、
受付でサングラスかけたまま写真撮られて2階に上がる。
受付で待たされて待つ間にまた腰が痛くなってきた。
電話中の受付おばさんに、ねえ、まだですか?
と文句を言うが相手にされず。
で、その間にトイレを確認。
金玉こそ縮み上がってはいないものの、やはりどうしても尿切れが悪い。
おいおい、俺がビビってるのか?と自分で自分を笑う。
がしかし、と改めてトイレを見渡す。
これなら始まる前にトイレのどこかにiphone隠しておけるな、とも思うが、
この出歯亀スパイカメラ時代。
たぶんどこかにカメラが設置してあるのだろうとも思う。
カメラ探しはさすがにもうやめておこう。
でまた受付に戻ると誰もいない。
なんか職員と受付のおばさんががやがやと話している。
試験をドタキャンした奴がいたらしい。
で、その最中に、おい、俺の相手はまだかよ、と文句を言うと、
お前、予約は何時だ?と聞かれて、
いや、5時なんだけど、と言えば、
やれやれ、と顔を見合わせて笑われる。
で、開始までの2時間、どこかに自習室とかねえのか?と聞けば、
そんなものはない、と一言。
なので、外で二時間待ってまた帰ってくるか、
あるいは・・・
今受けるか?
いま!?
そう、いま、これから。すぐに。ドタキャンがでて一席空いてるんだ。その気があるなら今すぐにセットアップするぞ。
いま?いますぐに?このまま?
と思わず絶句する。
もしかしたら直前での二時間の中で運命の何問かをピックアップすることができるかもしれない。
あるいは、この寒い中、二時間もの間、
師走の人混みを眺めながらデリの片隅でIPHONEでも眺めている間に、いったいどんな心境の変化が訪れることか。
一か八か、丁か半か、TO BE or NOT TO BE、と考えた瞬間、
えいやあ! いま受けるぞ!と言ってしまう。
とした途端、スタッフの連中の顔がちょっとほころぶ。
本当か?
ああ、READYだ。いますぐに受ける。やってやろうじゃねえか。
とその途端、そんな会話を聞いていたスタッフたちの表情がほっと和んだ。
その視線が、よしよし、その調子だ。お前は受かるぞ、と言っているように感じられる。
うっし、吉兆だ、と気合を淹れる。
と言うことであれば、と、そのまま会場への入場の手続きが始まる。
ガラスの向こうに仕切りで区切られたPC用の席が並んでいる。
どの席も一杯で、赤いヘッドフォンをした奴らがずらりと並んでいる。
年末のこの時期にテストを受けるような奴がこれだけいるなんて。
俺の戦いは誰も知らない、知ったことじゃない、と思っている奴ら。
あんたらもそうだったんだな、となんとなく親近感を覚える。
ロッカーの鍵を渡されてカバンから財布からコートから持っ来たもののすべてを中に入れろと言われる。
で、メタルディテクターで身体検査。
すべてのポケットの中をひっくり返し、芍薬甘草湯やらニコガムやら、
やはり持っては入れない、と言われて、
芍薬甘草湯を一つ飲んでから、ニコガムをふたついっぺんに口に放りこむ。
としたところ、あっ、このひとのテスト長いんだ。4時間コース。
4時間?といまさら驚くスタッフたち。
あんた4時間も試験受けるの?
だが、試験中はロッカー開けれないから食料とか薬とかロッカーの上に出せと言われてバナナと甘草糖を出しておくことにする。
で、さあ、入場としたら、それでもメトロカードと、そしてタバコ屋で買ったロットが出てきて、
これだめ、しまって来て、とロッカーとの間を行ったり来たり。
やはりごまかしてなんか隠して持ち込もうとしても駄目だなと苦笑い。
身分証明用の運転免許と51番の札のついたロッカーの鍵、
そして二本の鉛筆の8枚つづりの赤いメモ用紙を持たされて、
うっし、Lets get down とステージに上がるようにドアの向こうのテストルームに入る。
机の番号は4番
射撃場で使うような赤い消音用のヘッドセットがある。
画面にはすでに俺の名前が出ている。
この名前で問題なければOKをクリック、とあって、
ほい、とやると、チュートリアルが始まる。
なんか安っぽい作りだな。
WIN98の頃から変わってないんじゃねえのか、と笑う。
だがボタンが大きくて判りやすいのはいいのだが。
でそのチュートリアルが15分。
WEBにあった受験記にあったように、そのチュートリアルの間に、
公式とか順番とか思いつく限りのことを書き出して行くのだが、
こんなことはもうすでに暗記済み出し、とは思うのだが・・・
がしかし、実はこの時に書き出しておいた事が後で偉く役に立った。
で、チュートリアルの間に、計算機の使い方と出るが、
やはりあのPCアプリの簡易電卓ソフト。
で、受付のひとに、おーい、と手を上げて、
やっぱ手動の電卓くれ!とリクエストするがずっと待たされる。
ヘッドセットの座りが悪い。
先に口の中に放りこんだニコガムを吐き出して免許証の上におく。
くっそ、また足が攣り始めたな、と思うがもうそんなことを言っている場合ではない。
で、ようやく電卓が届くが、なんだこれ、ボタンの配置がすっげえ旧式な奴。
=を押すところを、間違えてONを押してしまって答えが消えてしまう。おいおい。
とかやっているうちに、123 GO と試験が始まる。
さああ、勝負、とPCの画面に見入った途端、
その一問目・・・??? むむむむむ・・
なんだこれ、もしかして試験の種類間違えてないか?ってなぐらいにまで、
まるっきりちんぷんかんぷん。
あれれれれ、なんだよこの問題、この英語、なんかおかしくねえか?と。
で、その質問文。わずか4行分である訳なのだが、
何度読見返してもどういう訳かその質問の内容が一向に頭に入って来ないのだ。
うへえ、やっぱあのサンプルテストとはかなり違うんだな。
一挙にテンションが上がる。
これが舞い上がるという状況なのか。
ヘッドセットの中に心臓のドキドキ音がガンガンと響く響く。
いやだから、いや、これが、と全身にじむ脂汗。
いやまさか、おい、これって本当に英語かよ、
とかなんとかやってるうちに、ふと見ればなんと最初の一問ですでに3分経過。
えええっ!この時計、進むの早すぎ!
えーい、ままよと、と後回しマークにチェックを入れて、さあ気を撮り直して次だ、と思うのだが、
むむむむ・・・・これもそうだ・・・なにが書いてあるかさっぱり判らねえぞ・・・
とこうしていつのまにか30分。
一問一問、そのそれぞれがなんとも摩訶不思議な呪文を読むようで、つまりは内容が意味をなさない。
その読み込みだけで少なくとも2分、しかもその下にならんだ解答の選択肢さえもが、
果たしてなにが書いてあるのかさっぱり判らないのだ。
これ。。もしかして、家でやっていた模試なんかよりもずっとずっと難しくねえか?・・・
俺、甘かったのかな、とすでに気分は敗戦モード。
くそ、また後回しマークか、と舌打しながらチェックを入れて、
さあ次だ、大丈夫。勝負はこれからだ、と、気を撮り直すのだが、
えええええ、またあ??? またこの訳の判らない問題で・・おいおい、と。
そうこうするうちに10問20問、すべてさっぱり訳がわからないまま、まだ一問さえもまともに解答ができないままに、
ただただ悪戯に時間ばかりが過ぎてゆく。
むむむむこれはかなりヤバイなと苦笑い。
WEBに載っていた失敗談のパターン、まさにそのままじゃねえか。
クソッタレ、と腹が立つのだが、腹が立てば立つほどに思考が虚しく空転を続けるばかり。
まさに試合開始直後から、右から左からとジャブの連打を喰らい、すでにコーナーに追い詰められて滅多打ち状態。
クリンチだ、と思う。ガードを下げるな。クリンチして耐え続けろ。足だ、足を使うんだ。
吐き出しておいたニコガム口に放り込む。
椅子から立ち上がって、腰をひねり、ついでに顎をひねって首の関節をごきりと鳴らす。
クソったれ、この俺がこんなクソ試験にやられて溜まるものか。
髪を掻きむしり、眼鏡をかなぐり捨てて、そしてモニターをぐいと手前に引き寄せて画面に鼻先をくっつけるようにしてがむしゃらに集中を試みる。
焦るな、これは罠だ。心理作戦の術中にまんまとはまっているだけだ、と言い聞かせる。
まずは最後の200問目まで辿り着くことだけを考えろ。
面倒くさい問題はすべて後回し。
とりあえず最後の200問目までで、簡単に拾える問題だけを拾い集めること。
勝負はそれからだ。
と、そんなこんなで、
30問目ぐらいからようやく、あ、これ知ってるぞ、ってな問題が出始めるが、
やはり一問ごとに質問を理解するだけでもやたらと時間を食っている。
やっぱ英語だよな、と改めて思う。
あるいは、英語の質問をいちいち日本語に翻訳して考えてから、その答えをまた英語に翻訳、
という俺の思考回路そのものがこの試験にはかなり不利になるのだが、まあそんなことはすでに承知の上。
そう思って、反射で答えられるようにとサンプルテストばかりやっていたのだが、
やはり質問の内容、あるいは、文体がかなり違って、いつまで経ってもそれに慣れて来ない。
おっ、ラッキー計算問題だ、と思うのだが、それも文体からデータを拾わなくてはならず、
で、この300,000,000ってのは、なにを意味するわけ?と思ってるうちに電卓を打ち損じて、
おいおい、この電卓全然使えねえぞ、と苛立つ。
で、もう、とりあえず、長くかかる問題はそのままMARKを付けて後回しと思うのだが、
そのMARKが次から次へと悪戯に増えていくばかり。
なんだよまだ50問か、やっと75問か、とやりながら、
で、残り時間はあとどのくらい、と思うが、右上の時計、なんか時間の計算さえもがよく判らなくなってる。
おいおい、お前相当バカになってるぞ、と、今更ながらに驚く。
で、ようやく100問目まで来た時点では、すでに二時間を食っていた。
100問で120分?
通常、合格者のほとんどが、全200問を2時間半で解き終える、
そう、俺も家での模擬試験ではそうだった。
だが、それは、すでに知っている問題、つまりは反射で答えられる問題がほとんどの場合、のみ。
まったく知らない問題をやった時には、やはり200問終えたところで3時間は経過していたのだ。
くっそう、甘かったな、と今更ながら歯ぎしりをする。
確かに、意味さえ掴めれば問題そのものはそれほど難しくはない筈なのだ。
模擬試験に比べてひねってある問題が多いが、落ち着いて時間をかければ判る問題ばかり。
なのだが、その質問の仕方、がかなりひねくれているというかなんというか、
つまりは、そうでなくないものの中から最も可能性の高いものと低いもののその共通点はなにか、
とかなのとか。。。
つまりはただ基本条件はなにかってことだろう
と、こんなつまらないところでも二度読み三度読みを繰り返えさせられ、
そしてどんどん時間ばかり食う。
あるいは、これ、俺の英語の読解力の問題、ってだけとも言い切れなくないか、と俺の頭の中までおかしくなってくる。
ああ、これは完全に負けペースじゃねえか、と思う。
よく考えなくてはいけない問題と、あまり考えてはいけない問題がごっちゃになっている、ことは重々承知の上。
そんな撹乱への対策も十分に練ってきたつもりであったのだが。。
くそったれ、甘かったなと今更ながら思う。
つまりは、そう、やはり俺の英語力ではこの試験を突破することはかなり無理があった、ということなのか。。
とまあ、散々の七転八倒の挙句、ここまで来てようやく、なんとなくそのウネウネな文章にも慣れ始めてきた。
ついに120問を過ぎたぐらいからようやくペースが上がり始めた。
判ったわかった、LEASTのEXCEPTな訳だろ。で、結局言いたいのはそういうことだな。
が、しかしながら、やはり設問にひっかかるところが多い。多すぎる。
なんたらチャートやらとあるが、あれ、これ、ダイアグラムじゃなかったっけ?
それってひっかけなの?あるいはそういう呼び方もある訳?
ってな感じで、答えの選択肢からもいちいち悩まされることになる。
で、170問。
普段ならこれぐらいまで来るとまたちょっとドキドキと焦り始めるものなのだが、
この本番では、これまでにあまりにも後回しにした問題が多すぎるんで、
最後に近づいても全然嬉しくない。
だって、この先の問題で何問間違えても、あるいはいままでの後回しの問題で間違えても、
一点は一点、変わらない訳で、なら最後までやることに躍起になるよりも、これまでの後回しの問題を固めたほうが、
とか余計なことを考えだすが、ばか、だから、簡単に拾える問題をとりあえず拾うことが先決、
とか葛藤をしながら、そう言えば、最初にものは試しに模擬試験やったときもこんな感じで、結果は当然のことながら散々だったな、と思う。
ってことは、おいおい、俺はこの半年、まったくなにをやっていたのか、まったく進歩がなかったってことなのか、とさすがに嫌気が差してくる。
くそったれ、と思いながら、おっと、いつのまにか200問。
時計を見ればすでに3時間を経過をしている。
あっ、そうか、家でやってる模試アプリは、この時計の表示が残時間で表示されてたんだ。だからか、とか今更そんなことに気づく。
で、残り時間はあと55分。
REVIEWを押すと、200問の中で、後回しのMARKを付けたもの、MARKを付けて回答はしているもの、とかがずらっと並ぶ。
これも模試アプリ通りか。
で、やり忘れた問題が1問。げげげ、なんで、と見てみれば、あれこの問題知ってる。つまり解答のCHECKをし忘れたってこと?
あり得ねえな、とさすがに苦笑い。
そう、練習と試合は違う。それはテニスでもギグでも、そして受験でも同じこと。
そんなことは骨身にしみている訳なのだが、今更ながら、本番時におけるその能力の劣化ぶりに驚かされる訳だ。
で、後回しマークした問題が、なんと80問。
模試アプリと違って、後回しマークした問題だけをPICKして次々と並べてくれて助かる。
80問を50分で。ってことは一問何秒で答えなくちゃいけないわけ、と思うがもうそんなこと考えている場合ではない。
やばいこれじゃあ見直しぜんぜん終わらねえとまじでてんぱる。
で、驚いたことに、最初の方の20問はその質問さえ覚えてない。
で、改めて解いてみるが、先に多分これかな、とチェックした解答がすべてまったくの検討違い。
で慌てて直し始めたら、これも違うこれも違うで、あらためて最初の三十分間、俺は一体何をやっていたのか。
で、いきなりアクセル全開、もはや前輪が浮いてウィリー状態。
後輪から煙を上げながらの全力走行で問題を解いていって、
50問過ぎたぐらいからようやく問題の概要だけは覚えてるってのが出始めて、
選択肢の中から、これ以外にはない、っていう奴がくっきりと浮いて見えるようになる。
よし、今頃になってようやく調子が出始めてきたぞ、と思うのだが、だが残り時間はあと20分。
ああ、あと何問残っているのか、とそればかりが気になるが、そんなもの数えている時間さえもが惜しい。
くっそくっそくっそくっそ、時間がねえ、時間がねえ、時間がねえ。
が、100問目を過ぎてからはいきなりチェックが減り始めて、
後回し問題の番号がぴょんぴょんと飛び始める。
で、おっと、終わった、と思った時に10分前。
これまでにどうしても判らない問題が20。
で、あやふやなのが30ぐらい。
この中にフェイクがどれだけ含まれてるかが鍵だな、とは思うが、
答えのない問題にいくら悩んでもしかたがない、これもフェイクこれもどうせフェイクだろうとめくら撃ち。
で、あやふや問題をざっと舐めるうちに、おおおおっと、これひっかけじゃねえか、
ってなものをまた何問か拾って、ってことはこれまでの正解だと思ってる中にも、
実はひっかけに騙されているケースがかなりある、ということか、と再び疑心暗鬼。
がしかし、ここまできて自責の迷路に遊んでいる暇もない。
で最後の5分で超面倒でうっちゃった計算問題。
それが解けたのが1分前。
最後の最後にもう一問だけと思って、
うーんと考えて、これやっぱこっち、やったところで Timeout と出て試合終了。
画面はいきなり真っ白になって何も言わず。
まるで俺の頭の中そのもの。エンジンが燃え尽きてスパークしたまま真っ白。
そしてしばらくしてから「計算中」と出る。
あああ、と思わず脱力。
合格最低線が75点として、200問中50問はミスってもOK、としても、
その中でも、正解だと思って騙されたひっかけ問題、あるいはケアレスミスも含めて10問と仮定すると、
どうしても判らない問題が20.
で、あやふや系30のすべて外していたらその時点で不合格な訳で、
あとはフェイク頼み。
つまりは神頼みの運次第という奴か。
いずれにしろ超ギリギリラインっこと。
もしかして最後の一問が人生の別れ道?
とそんなことを思ってる間に、いつのまにか画面にはテストセンターのサーベイが始まっている。
あれ?結果は?とは思いながら、
会場はどうでしたか?
テスト用のPCはどうでしたか?
スタッフの対応はどうでしたか?
とかのまったくどうでもよい質問に、面倒なんで「全て最高」にちゃかちゃかとチェック。
で、はいアンケート終了とやったらいきなり
むむむ?なんだこれ・・
「Conguraturation」の文字・・・・
えっ!?ってことはつまり・・・・
ファンファーレはないにしても
あれ、これってなにテストの結果がってこと?
或いはテストセンターの宣伝とか?
まさかまた、なにかのひっかけ、
Conguraturationっだったら良かったのですが、結果は、残念でした、
やら、
次回にConguraturationとなるためには、下記の講座にお申込みください、
やら。。
とその画面の文字を改めて何度も読み直す。
おいおい、俺はもうすっかり頭がひねくれまくっているぞ・・
としていたら、様子を見に来たテストセンターの女の子にそっと肩を叩かれて、
そして耳元で「おめでとう」と言われた。
え?つまりそれって・・・と顔を合わせて、そしてここまで来てやっと事情が飲み込めた。
つまり、終わったのか?そうか、終わったんだな・・・
バンザイとかタイトタイトとかじゃなく正直、腹が立った。
てめえ手間とらせやがってとモニターに蹴りを入れそうになった。
が、この時間になってもまだまだテストやってる人がずらりといる。
んでテストセンターの女の子に促されてそっと部屋を出て、そしてドアを出たところで改めて握手。
噛んでいたニコガムをゴミ箱に吐き捨てて、
で、ああ、腰が痛え、と身体を捻る。
試験中に足が攣らなくて本当に良かった、とは思いながら、
あ、そういえば、足の痙攣が収まっているな、と思う。
いまだに信じられずに、ねえ結果のプリントとか貰えるの?って聞いたら、
はいはい、いまやってます、とプリントアウトした紙一枚。
小さな文字で、Examination Result : PASS とある。
それにバリデーション押して、はいどうぞ。
なんだよ、これだけ?
受け取ってみればあまりに呆気ない。
まったくもってこの世の中、紙切れ一枚なんだよな、と苦笑い。
で、そのテンスとセンターのひとと記念に写真撮りたいっていったら、
写真はだめよと、と天井のセキュリティーカメラを指差される。
で、しかたなく自撮り。
もうすでに8時を回っていた。
外にでて閑散としたロビーを抜けて転がりでた42丁目。
タバコを一本。うまい、どころか、まったく味がしない。
そのまま師走の人混みを歩き始める。
足は攣らないにしても、腰の痛みはまだ続いている。
久々に見る人混み。
そう言えばここ半年、俺はニューヨークに住んでいながら、
この雑踏の中を歩く、ということがまったくなかったのだな。
改めて見上げるビル街。
もうすでにクリスマスも終わっていたんだっけ。
どこにも寄らず、電話もせず、LEXの入り口からそのまま地下鉄駅の構内に入ったところで、
あ、ロッカーの上に出しておいたバナナを忘れたことに気づく。
で、あ、そう言えばロット。
もしあの1ドルのロットが実はミリオンに化けたとしたら、この合格とどっちがいい?
と自問してみて、やっぱミリオンのロットだなと思っている自分に苦笑い。
地下鉄の席に座るこれ以上無く貧乏臭い人々。
年末のこの時間にぐったりと疲れきったままの人々。
あるいはこれから仕事に向かう人々。
パーティ帰りの酔っぱらいなどひとりもいない。
誰もが疲れきって、そしてまるで崩れ落ちることに必死に耐えているように、
座席の上でひしゃげきっている。
俺も嘗てはそうだった。
そしていまもその通り。
師走のこの時期に、ダウンタウンやらミッドタウンやらのどこぞでは、
まるで映画にあるような豪華絢爛なパーティが繰り広げられ、
シャンパンのシャワーの中にナイトドレスを着た女達が周り続けているその時に、
こうして地下鉄の座席に崩れ落ちたままの人々。
俺たちがこのドブの底から這い上がるには、
ロットに当たるか資格試験に受かる以外に方法はないんだぜ、と改めて思う。
世の中の不平等にいくら文句を言ってもなにも始まらない。
パーティ会場にいる奴らが、いまこうしている時にも地下鉄の座席に崩れ落ちた人々がいるのですよ、
だから皆さん、ここにあるシャンペーンとスモークサーモンを、少しでもそんな人々に分けてあげましょう、
などと、誰が考えているはずもないじゃないか。
一億分の一の確率にすがって生きるか、
あるいは、なんとしても自力で這い上がる以外には方法はないのだ。
と、これまで何度も繰り返してきたそんな言葉。
そしてついについに、俺はその賭けに勝った。
しかしながら、正直言ってまったく嬉しくもなんともない。
ただ終わったな、終わってくれたんだな、とそれだけだ。
長かったな、と思う。
それが果たしていつから数えれば良いのか、それさえもわからないぐらいに、
ただただ、長かった、とそう思ってた。
地下鉄を降りて、角のデリでかみさんに花を買おうとするが、
寒さにしなびたままの花束が15ドルと言われてなんか馬鹿馬鹿しくなる。
でバラ一輪で3ドル。
ドアを開けたらかみさんが、えらくびっくりする。
あれ、終わるの10時過ぎじゃなかったの?
いやもう無理なんで、途中で諦めて帰ってきた、
と嘘ついたら、あっそうとそのまま背中を向けて部屋に帰ってしまう。
喜んでいるのは犬ばかり。
わーい、帰ってきた帰ってきた、と盛んに足元で飛び跳ねている。
まあそう、そんなもんだよ。
で、テーブルの上にバラの花を一輪。
なにこれ?
残念賞。
まさか。
え!?もしかして・・・??もしかして・・・?もしかして・・・?
で、改めて事情を話すのだが、それでもやはり半信半疑。
ほらこれとテストセンターで貰った結果を出して、あれホントウだと笑う。
ああ、疲れたと改めてため息をつく。
帰り遅いと思って先にひとりでご飯食べちゃったよ、というがカップラーメンかよ。
という訳で、ようやく立ち上がって、
一番最初にやったことと言えば、PCを立ち上げて、そして、
ストーンズを聴くこと。
どういう訳かこの一週間、ずっとずっとIts Only Rock'n'Rollが聴きたかったのだが、
どういうわけか、聴いたら終わりだ、という気がして、聞かずにおいたのだ。
ああストーンズだ、と改めて思う。ああストーンズだ。ストーンズが帰ってきた。
という訳で、ちょっと元気が出て、
そして、机の周りに山となった勉強資料の印刷、
そのネズミ臭い資料を、全て積み上げて写真を撮って、そしてゴミ箱に持って行った。
ネズ公め、これでせいせいした。
とその直後、ジェニーから電話でドッグランへ。この人が一番喜んでくれた。
俺の戦いは誰も知らない、知ったことではない、とは思いながら、
やはり俺にも身内はいる。
やっほー、やったやった、と喜ぶジェニーを前に、このひとはなぜこんなに喜んでいるのか、とちょっと不思議な気もした。
がしかし、やはりまた足が攣り始めてかみさんと犬を残して先に帰ることにする。
でひとりで帰り着いた部屋。
ガラガラになった棚をみてもまだ実感が湧かない。
冷蔵庫にあった残りものをレンジでチンして食べていたらかみさんと犬が帰ってきた。
食後、普段なら机に向かう所を、そのままソファに寝転んでダラダラ。
このダラダラがなぜか無性に嬉しい。
で、そう言えば、と撮りためたlife below zeroを一挙に観てしまっても寝付かれず。
かみさんもすでにすっかりと普通の暮らしに戻っていて、1時を過ぎて、ねえもう寝ようと促されてベッドへ。
泥のように疲れているのだがなかなか根付かれず。
キャンデークラッシュをやるがなんとも落ち着かないまま。
そして4時も過ぎてから百年の孤独を読み始める。
ここまで来てなんとなくじんわりと嬉しさがこみ上げてくる。
そっか俺はずっとこれがしたかったんだなと気づく。
資格試験に合格した、なんてことよりも、
またこういうことができるようになったというほうが実はずっと嬉しかった。
つまり幸せとは、
夜中までダラダラとビデオ観たりトイレでゲームをやったりベッドで本読んだり、ってことなんだなと思い知る。
帰ってきたな、と思う。
が、もう俺はすでに今朝までの、あるいは、昨日までの、あるいは、去年までの俺ではない。
けっ、それがどうしたんだよ、と思っている。
寝際に、ふと、昔のバンド仲間の顔が浮かんだ。
ギグの後、楽屋までの道でファンにとり囲まれて、おーい、助けてくれ、と嬉しい悲鳴を上げるダチの姿。
俺はあれから、どれだけの迷走を経てきたのだろう。
そしてその迷走はまだまだ、あてど無く続くのだな。
Can't find my way home.....

失業ハイパー ~ 帰ってきたぜ!朝のセントラルパークでひとり吠えた
朝、久々にゆっくりと起きる。
もう起き抜けに机に向かって暗記テストのシートを埋めていくこともない。
だがなんとなく習慣で机に向かい、そしてなんとも気の抜けた気分。
起きだしてきた犬にせがまれて散歩に出かける。
曇り空。
寒空のした、遅れて出勤する人々の間を、なんとなくわざとのんびりと歩いてみる。
なんとなく手持ち無沙汰。
そう、イヤフォンである。
もう起き抜けに机に向かって暗記テストのシートを埋めていくこともない。
だがなんとなく習慣で机に向かい、そしてなんとも気の抜けた気分。
起きだしてきた犬にせがまれて散歩に出かける。
曇り空。
寒空のした、遅れて出勤する人々の間を、なんとなくわざとのんびりと歩いてみる。
なんとなく手持ち無沙汰。
そう、イヤフォンである。
これまで、犬の散歩用に作った勉強テープ。
犬の散歩の時にはずっとずっとこれを聴きながら、
まるで瞑想する禅僧のような心持ちで黙々と公園を歩いていたのだ。
ああ、もうあの勉強テープを聞き続けることもないんのだな。
イヤフォンのない耳の中に、街の躍動が流れこんで来るようだ。
ニューヨーク・シティー。
そう、俺はまだニューヨークにいる。
そしてこれからもずっと。
俺はその手形を手に入れたのだ。
昨日合格した資格があれば、少なくとも職探しに困ることはもう無い。
つまりもう何があっても、この街からふるい落とされることもない、筈だ。
タバコを咥える。
NAT SHARMAN MCD。
試験が終わった時の為に買っておいたもの。
昨日の帰り道に一本吸って、これで二本目。
頭の中には、Its Only Rock'n'Roll。
ずっとずっと聴きたかった曲だ。
だが、この曲を聴いてしまったら「落ちる」ような気がしていた。
という訳で、試験が終わった途端に、
待ってましたとばかりにストーンズが鳴り響いた。
キース・リチャーズのリフに合わせて身体の乗りが
8ビートから16ビートへと変わっていく。
バックビート。そうこの感覚だ。
なぜか浪人を始めてからというもの、このバックビートか身体の中から抜け落ちていた。
それがいま、帰ってきた。バックビート。無茶苦茶気持ちのよいバックビート。
吹き抜ける木枯らしの中で、思い切り顎を上げる。
馬鹿でかいキャッツアイに、両手をパーカーのポケットに突っ込んで、
そして肩を揺すって歩く。
007 どくのはお前だ。
そう、俺はこの街でいつもこうして生きてきた。
頭のなかに鳴り響くバックビートに合わせて身体を揺すりながら、
思い切り顎を上げて、道の真中を歩いていたのだ。
ふと昨日までの自分を思う。
朝の出勤途中の人々の波の中に、
まるで取り残されるように、
犬のおしっこの度に足を止めながら、
イヤフォンから響く紋切り口調の勉強テープ。
まるでお経でも唱えるようにブツブツと繰り返しながら、
いつの間にか俯いていつの間にか背中を丸めて、
そしていつの間にか人の目を避けるような気分にさえなっていた。
ただ、待っていやがれ、とはいつも思っていた。
必ずや試験に受かって、このみじめな気分を倍返しにしてやる。
みじめ?と問いなおす。
俺は惨めなのか?
がめた退職金で悠々自適。犬の散歩をしながら、
このチャンスにとせっせと上級資格の勉強三昧。
なんとも宜しくやっている、筈じゃなかったのか?
普段であれば、パークに着いた頃には痛みだしていた腰。
それに連れてつっぱり始める両足。
それが、ない。
身体が軽い。気分が軽い。空が高い。冷たい風が心地よい。
心地よい?
そう、俺はこの数ヶ月、自分の五感をすべてシャットアウトして生きていたのだ。
無駄口を聴く度に覚えた単語がポロポロと零れ落ちてしまうことを恐れるように。
いつもむっつりと口を閉じて誰とも口を聞かず、誰とも目を合わさず、
本も読まずテレビも見ず音楽も聞かず。
そして日本語という日本語を徹底的に締め出して来た。
そんな中で、なにが辛かったかと言えば、脳内音楽を止めなくてはいけなかったこと。
これまでの人生で、いつ何時でもどんな時でも鳴り止むことのなかった脳内音楽。
ここ数ヶ月、この脳内音楽を止める為にどれだけ苦労したか。
そしてそんな脳内音楽を止めねばいけない状況がどれほど恨めしかったことか。
そしていま、ようやく音楽が帰ってきた。
ロッキンロールである。
もうジャズもオペラもクラッシックも、ちゃら臭いことは一切御免だ。
ロック、ロック、ロックンロール。
俺はやはり、ロックが好きなのだ。
バックビートのロック。
思い切り不埒でいやらしく、ワイルドで元気なロックンロールが一番身体に会うのだ。
見渡す風景がやけに新鮮に映る。
おおお、右脳が動いているぜ。
すれ違う犬の散歩の人々と、よお、おはよう、とそのたびに挨拶。
挨拶?そう、俺は挨拶さえも忘れていたのだ。
なぜって、そう、ずっと俯いていたから。
俺はもう、うつむいて歩くことはないのだな、と思う。
もう二度と、俯いて歩くことだけはやめよう、と思う。
思い切り顎と上げて、そして、
I know Its only Rock'n'Roll but I like like, Yes I DOOOOO
と歌い続けてやる。
俺は、転んでもただじゃ起きねえぞ。
なんといっても、転がる石。ローリング・ストーンズなのだ。
俺はストーンズが好きな男だ。
俺はそう言うやつで、それをやめるつもりはさらさらない。
バカヤロウ、帰ってきたぜ、と曇り空のセントラルパークで一人吠えた。
犬の散歩の時にはずっとずっとこれを聴きながら、
まるで瞑想する禅僧のような心持ちで黙々と公園を歩いていたのだ。
ああ、もうあの勉強テープを聞き続けることもないんのだな。
イヤフォンのない耳の中に、街の躍動が流れこんで来るようだ。
ニューヨーク・シティー。
そう、俺はまだニューヨークにいる。
そしてこれからもずっと。
俺はその手形を手に入れたのだ。
昨日合格した資格があれば、少なくとも職探しに困ることはもう無い。
つまりもう何があっても、この街からふるい落とされることもない、筈だ。
タバコを咥える。
NAT SHARMAN MCD。
試験が終わった時の為に買っておいたもの。
昨日の帰り道に一本吸って、これで二本目。
頭の中には、Its Only Rock'n'Roll。
ずっとずっと聴きたかった曲だ。
だが、この曲を聴いてしまったら「落ちる」ような気がしていた。
という訳で、試験が終わった途端に、
待ってましたとばかりにストーンズが鳴り響いた。
キース・リチャーズのリフに合わせて身体の乗りが
8ビートから16ビートへと変わっていく。
バックビート。そうこの感覚だ。
なぜか浪人を始めてからというもの、このバックビートか身体の中から抜け落ちていた。
それがいま、帰ってきた。バックビート。無茶苦茶気持ちのよいバックビート。
吹き抜ける木枯らしの中で、思い切り顎を上げる。
馬鹿でかいキャッツアイに、両手をパーカーのポケットに突っ込んで、
そして肩を揺すって歩く。
007 どくのはお前だ。
そう、俺はこの街でいつもこうして生きてきた。
頭のなかに鳴り響くバックビートに合わせて身体を揺すりながら、
思い切り顎を上げて、道の真中を歩いていたのだ。
ふと昨日までの自分を思う。
朝の出勤途中の人々の波の中に、
まるで取り残されるように、
犬のおしっこの度に足を止めながら、
イヤフォンから響く紋切り口調の勉強テープ。
まるでお経でも唱えるようにブツブツと繰り返しながら、
いつの間にか俯いていつの間にか背中を丸めて、
そしていつの間にか人の目を避けるような気分にさえなっていた。
ただ、待っていやがれ、とはいつも思っていた。
必ずや試験に受かって、このみじめな気分を倍返しにしてやる。
みじめ?と問いなおす。
俺は惨めなのか?
がめた退職金で悠々自適。犬の散歩をしながら、
このチャンスにとせっせと上級資格の勉強三昧。
なんとも宜しくやっている、筈じゃなかったのか?
普段であれば、パークに着いた頃には痛みだしていた腰。
それに連れてつっぱり始める両足。
それが、ない。
身体が軽い。気分が軽い。空が高い。冷たい風が心地よい。
心地よい?
そう、俺はこの数ヶ月、自分の五感をすべてシャットアウトして生きていたのだ。
無駄口を聴く度に覚えた単語がポロポロと零れ落ちてしまうことを恐れるように。
いつもむっつりと口を閉じて誰とも口を聞かず、誰とも目を合わさず、
本も読まずテレビも見ず音楽も聞かず。
そして日本語という日本語を徹底的に締め出して来た。
そんな中で、なにが辛かったかと言えば、脳内音楽を止めなくてはいけなかったこと。
これまでの人生で、いつ何時でもどんな時でも鳴り止むことのなかった脳内音楽。
ここ数ヶ月、この脳内音楽を止める為にどれだけ苦労したか。
そしてそんな脳内音楽を止めねばいけない状況がどれほど恨めしかったことか。
そしていま、ようやく音楽が帰ってきた。
ロッキンロールである。
もうジャズもオペラもクラッシックも、ちゃら臭いことは一切御免だ。
ロック、ロック、ロックンロール。
俺はやはり、ロックが好きなのだ。
バックビートのロック。
思い切り不埒でいやらしく、ワイルドで元気なロックンロールが一番身体に会うのだ。
見渡す風景がやけに新鮮に映る。
おおお、右脳が動いているぜ。
すれ違う犬の散歩の人々と、よお、おはよう、とそのたびに挨拶。
挨拶?そう、俺は挨拶さえも忘れていたのだ。
なぜって、そう、ずっと俯いていたから。
俺はもう、うつむいて歩くことはないのだな、と思う。
もう二度と、俯いて歩くことだけはやめよう、と思う。
思い切り顎と上げて、そして、
I know Its only Rock'n'Roll but I like like, Yes I DOOOOO
と歌い続けてやる。
俺は、転んでもただじゃ起きねえぞ。
なんといっても、転がる石。ローリング・ストーンズなのだ。
俺はストーンズが好きな男だ。
俺はそう言うやつで、それをやめるつもりはさらさらない。
バカヤロウ、帰ってきたぜ、と曇り空のセントラルパークで一人吠えた。

奇跡のマッサージ師 レイモンドとの再会
試験が終わったらこれだけは、と思っていたことが二つある。
一つは部屋の掃除。
兼ねてからのネズミ騒動。それになんの手をうつこともできずに、
いまや俺の机の周りはなにからなにまでネズミの小便の匂いがこれでもかと染み付いている。
これをもう徹底的に掃除したい、とずっとずっと思っていた。
とそしてもう一つ。この腰痛である。
実は12月を過ぎてから、俺の身体はまさにほとんどボロボロだった。
犬の散歩もワンブロックも歩かぬ内に腰全体が疼痛に痺れ始め、
そうこうするうちに太腿の裏側がピクピクと不穏に引きつり始める。
とそのうちに、まるで釘で刺されるような激しい痛みが脹脛を遅い、
むむむ、とそれに耐え続けていると、まるで電気が走るように足の指がピキンと緊縛、
その後は、痙攣の激痛に耐え続け、と、それが毎朝の苦行になってしまっていたのだ。
自宅での勉強中はずっと足の間に電気按摩を挟み込み、太腿から膝から脹脛から足の裏まで、
くりかえしくりかえしマッサージを続けてようやく少しは持ち直すのだが、
昼を過ぎて図書館に向かう自転車でも、坂道の途中でビキビキと太腿が凍り初めては痙攣の一歩手前。
広げたページを読み込みながら手の平が引きつるほどにマッサージを繰り返すのだが、
1時間も座っていると下半身の感覚が麻痺して来て、足元はもうまるで血の通っているとは思えないほどに冷たくなってくる。
これはもう完全に身体をぶっ壊してしまったな、とは重々承知しているのだが、
かと言ってここまで来て医者などに言っている時間などある筈もない。
まずは試験に受かること。すべてはその後だ。
という訳で、戦いの終わった翌日、俺が最初にしたこと、と言えば、
まずはあの奇跡のマッサージ師、ブルックリンのレイモンド師に電話を入れることだった。
やあ、と答えたレイモンド師。
がしかし、なぜかその声が冴えない。
いや実は、もうかなりやばくて、腰痛や痙攣どころか、下半身がすぐに冷たくなってしまう、と事情を話すと、
うーん、と唸ったレイモンド師。
判った。なら3時に来れか?と聴く。
もちろん。何時でも見てもらえるならいつでもどこにでも行く。
判った、と答えるレイモンド師。
では三時に。
という訳で、奇跡のマッサージ師、にやけた超人ハルクであるところのレイモンド師。
あのなあ、だから言ったろ。どんな事情があっても月に一度は必ず来い、とは言われていたのだが、そう事情が事情で、と言い訳ばかり。
そしてここまで悪くなって始めて泣きつくことになるのだが、まあ今回はそれも承知の上。
そう、もうこれを救えるのはレイモンド師しかいない。あるいは、レイモンドだったらどうにかしてくれる筈だ、とそれを信じていたからこそここまで無理ができたのだ。
長い長いブルックリンはコニーアイランドへの道のり。
これはまさに、広尾から小田急線の終点の片瀬江ノ島の一歩手前、という距離にあたるだろう。
で、いやあ、ご無沙汰です。ああ、久しぶりだな。あれほど一月に一度、と言っているのに、と挨拶からして刺がある。
そう、つまり世の中は既に新年を前にして完全なOFFモード。レイモンド師も実はクリスマスからこの方、患者を断って本業の武術師の修行に専念していたらしい。
で、どうした?と聞かれて、いやあの、そう、つまりは、この足が腰が全然いうことを聞かずに、10メートルも歩くと足が攣り始めて、と言ってる側から、そこに寝ろ、と言う。
試験を受かったのか?
そう、昨日の夜に試験に受かったばかり。で、最初に電話したのがあんただよ。ずっとずっとここに来なくちゃと思いながら試験が終わるまではと思っているうちにこのザマだ。
ははは、と笑うレイモンド師。そんなことだろうと思った。
で、痛むのはつまりはここか、といきなり一番やばい太腿の裏側の筋一本を指で押されて飛び上がる。
で、ここだろ、といきなり脹脛の奥の筋、その一本。
で、ここ、ここ、ここ、とまさにピンポイントで、痙攣の走る筋の一つ一つのツボを押さえながら、
判った。つまりはここだ、と押されたのが、なんと腰骨のちょっと上の背骨。
なんかこれ、ヘルニアの症状にそっくりで。実はかみさんに薦められて近所の医者に言ったんだが、MRIを撮れと言われて凹んでたんだ、と言えば、
心配するな、とレイモンド師。俺が楽にしてやる。MRIはその後でもいいだろう。
という訳で始まったレイモンド師の荒療治。休日をふいにされた怨念か、今回ばかりはちょっとかなりきつかった。
一時間の悶絶の間に、両足が攣り、腰骨が面白いほどにボキボキと鳴り響き、首を捻られ腕を捻られ、とまさに苦行の中の苦行。
さすがに激痛に呻くというのは無いのだが、ひとつひとつを揉みしだくレイモンド師が、うんうん、と上げるその力んだ嗚咽の中に、ぐきりぐきりと関節という関節が軋んでいるようだ。
一時間半の治療が終わった時、今晩はちょっと痛むぞ、と言われた、やかん一杯の水を飲め。
で、結局、原因はなんだったわけ?
つまりは腰だ。
いや、でも、攣っていたのは足な訳で。
そう、その痙攣の原因は腰から来ている。
とどのつまりはここ、ここにあるFUSEなんだ。
FUSE?
そう、FUSE。ここにFUSEがある。下半身のすべての体流を実は腰のここにあるFUSEに集約されている。
で、そのFUSEがどうなっちゃったの?
そのFUSEが切れいた。
FUSEが切れた?
そう、そのFUSEが切れていた。そのレバーを俺がまた上げておいた。
これでまた体流が始まったが、全てに行き届くまでに3日はかかる。まあ3日もすればすべてが治る。
で、なんでそのFUSEが切れちゃったの?
つまりここ、そう、全ては実はここから始まってる、と言って、なんと首の後ろをぐいと抑える。
ここに神経系すべてのスイッチがある。このスイッチがオフになってしまったために腰のFUSEが飛んだ。結果として下半身の体流が止まってしまったんだ。
なんで首のスイッチがオフになってしまったのかな?
つまりは、そう、一言で言えばラップトップだ。
ラップトップ?
そう、ラップっトップのモニターの高さだ。最近やってくる患者のほとんどすべてが同じ理由だ。つまりは一日中ラップトップを使っている人々。
こうやって、背中を丸めて首を折って、手元のキーボードを叩きながら、まるで穴の中を覗きこむように一日中ラップトップのモニターに顔をくっつけている。
いいかい、人間の身体はそんな姿勢を長く続けるようには作られていない。顎が首よりも下がるような姿勢を続けていると首筋にある神経系が麻痺し始める。
でその結果が、肩こり、偏頭痛、そして、腰痛だ。
実はその全てが同じ原因。ラップトップのモニターのその高さだ。
前にも言ったろ。モニターの位置を上げろ。腰を伸ばして首筋をまっすぐに伸ばした、その視線と同じ高さまでモニターを持ちあげなくてはダメだ。
心配するな。明日、とは言わないまでも、明後日ぐらいには成果が現れる筈だ。
来週また来い。それで様子を見よう。だが心配するな、MRIなんか受けなくても俺がすべて治してやる。
今日はまっすぐに家に帰れ。そしてずっと水を飲んで寝ていろ。明日の朝ぐらいにはなんとなく調子が良くなっている筈だ。
目が覚めた朝、不思議な感覚に気がついた。
足の先が温かいのだ。これまで気が付かなかったが、そう言えば朝に目が覚めた時に足の先が冷たかった。
で、そのまま冷えた床に足をおろしたとたんにピキーンと足の指が引き攣ったりもしたものなのだ。
それが、今朝、足の先がぽかぽかと温かい。
で、足をおろした途端、またまた、むむむ、である。
腰が痛くない。
そう、俺はいつも朝寝起きのベッドの上で、腰の疼痛に呻きながら恐る恐る立ち上がっていたのだ。
足が軽い。腰が軽い。まさに、そう、血が、体流が通っている、という感覚がはっきりと判る。
そのまま犬の散歩に出る。
それはまさに今更ながらに不思議な感覚。
つまり痛くないのだ。
足が腰が肩が首が、まさに軽い。
普段であれば、10メートルも歩かぬ内に疼き始める両足が、痙攣の予兆に怯えながら足を引きずるように歩いていたその足が、
なんとも軽い。そして温かい。
奇跡だな、と改めて思う。
あのレイモンドのおっさん、まさに奇跡だな。
という訳で、これでようやく新年を迎えられそうだ。
次はネズミとの戦いが待っている。
一つは部屋の掃除。
兼ねてからのネズミ騒動。それになんの手をうつこともできずに、
いまや俺の机の周りはなにからなにまでネズミの小便の匂いがこれでもかと染み付いている。
これをもう徹底的に掃除したい、とずっとずっと思っていた。
とそしてもう一つ。この腰痛である。
実は12月を過ぎてから、俺の身体はまさにほとんどボロボロだった。
犬の散歩もワンブロックも歩かぬ内に腰全体が疼痛に痺れ始め、
そうこうするうちに太腿の裏側がピクピクと不穏に引きつり始める。
とそのうちに、まるで釘で刺されるような激しい痛みが脹脛を遅い、
むむむ、とそれに耐え続けていると、まるで電気が走るように足の指がピキンと緊縛、
その後は、痙攣の激痛に耐え続け、と、それが毎朝の苦行になってしまっていたのだ。
自宅での勉強中はずっと足の間に電気按摩を挟み込み、太腿から膝から脹脛から足の裏まで、
くりかえしくりかえしマッサージを続けてようやく少しは持ち直すのだが、
昼を過ぎて図書館に向かう自転車でも、坂道の途中でビキビキと太腿が凍り初めては痙攣の一歩手前。
広げたページを読み込みながら手の平が引きつるほどにマッサージを繰り返すのだが、
1時間も座っていると下半身の感覚が麻痺して来て、足元はもうまるで血の通っているとは思えないほどに冷たくなってくる。
これはもう完全に身体をぶっ壊してしまったな、とは重々承知しているのだが、
かと言ってここまで来て医者などに言っている時間などある筈もない。
まずは試験に受かること。すべてはその後だ。
という訳で、戦いの終わった翌日、俺が最初にしたこと、と言えば、
まずはあの奇跡のマッサージ師、ブルックリンのレイモンド師に電話を入れることだった。
やあ、と答えたレイモンド師。
がしかし、なぜかその声が冴えない。
いや実は、もうかなりやばくて、腰痛や痙攣どころか、下半身がすぐに冷たくなってしまう、と事情を話すと、
うーん、と唸ったレイモンド師。
判った。なら3時に来れか?と聴く。
もちろん。何時でも見てもらえるならいつでもどこにでも行く。
判った、と答えるレイモンド師。
では三時に。
という訳で、奇跡のマッサージ師、にやけた超人ハルクであるところのレイモンド師。
あのなあ、だから言ったろ。どんな事情があっても月に一度は必ず来い、とは言われていたのだが、そう事情が事情で、と言い訳ばかり。
そしてここまで悪くなって始めて泣きつくことになるのだが、まあ今回はそれも承知の上。
そう、もうこれを救えるのはレイモンド師しかいない。あるいは、レイモンドだったらどうにかしてくれる筈だ、とそれを信じていたからこそここまで無理ができたのだ。
長い長いブルックリンはコニーアイランドへの道のり。
これはまさに、広尾から小田急線の終点の片瀬江ノ島の一歩手前、という距離にあたるだろう。
で、いやあ、ご無沙汰です。ああ、久しぶりだな。あれほど一月に一度、と言っているのに、と挨拶からして刺がある。
そう、つまり世の中は既に新年を前にして完全なOFFモード。レイモンド師も実はクリスマスからこの方、患者を断って本業の武術師の修行に専念していたらしい。
で、どうした?と聞かれて、いやあの、そう、つまりは、この足が腰が全然いうことを聞かずに、10メートルも歩くと足が攣り始めて、と言ってる側から、そこに寝ろ、と言う。
試験を受かったのか?
そう、昨日の夜に試験に受かったばかり。で、最初に電話したのがあんただよ。ずっとずっとここに来なくちゃと思いながら試験が終わるまではと思っているうちにこのザマだ。
ははは、と笑うレイモンド師。そんなことだろうと思った。
で、痛むのはつまりはここか、といきなり一番やばい太腿の裏側の筋一本を指で押されて飛び上がる。
で、ここだろ、といきなり脹脛の奥の筋、その一本。
で、ここ、ここ、ここ、とまさにピンポイントで、痙攣の走る筋の一つ一つのツボを押さえながら、
判った。つまりはここだ、と押されたのが、なんと腰骨のちょっと上の背骨。
なんかこれ、ヘルニアの症状にそっくりで。実はかみさんに薦められて近所の医者に言ったんだが、MRIを撮れと言われて凹んでたんだ、と言えば、
心配するな、とレイモンド師。俺が楽にしてやる。MRIはその後でもいいだろう。
という訳で始まったレイモンド師の荒療治。休日をふいにされた怨念か、今回ばかりはちょっとかなりきつかった。
一時間の悶絶の間に、両足が攣り、腰骨が面白いほどにボキボキと鳴り響き、首を捻られ腕を捻られ、とまさに苦行の中の苦行。
さすがに激痛に呻くというのは無いのだが、ひとつひとつを揉みしだくレイモンド師が、うんうん、と上げるその力んだ嗚咽の中に、ぐきりぐきりと関節という関節が軋んでいるようだ。
一時間半の治療が終わった時、今晩はちょっと痛むぞ、と言われた、やかん一杯の水を飲め。
で、結局、原因はなんだったわけ?
つまりは腰だ。
いや、でも、攣っていたのは足な訳で。
そう、その痙攣の原因は腰から来ている。
とどのつまりはここ、ここにあるFUSEなんだ。
FUSE?
そう、FUSE。ここにFUSEがある。下半身のすべての体流を実は腰のここにあるFUSEに集約されている。
で、そのFUSEがどうなっちゃったの?
そのFUSEが切れいた。
FUSEが切れた?
そう、そのFUSEが切れていた。そのレバーを俺がまた上げておいた。
これでまた体流が始まったが、全てに行き届くまでに3日はかかる。まあ3日もすればすべてが治る。
で、なんでそのFUSEが切れちゃったの?
つまりここ、そう、全ては実はここから始まってる、と言って、なんと首の後ろをぐいと抑える。
ここに神経系すべてのスイッチがある。このスイッチがオフになってしまったために腰のFUSEが飛んだ。結果として下半身の体流が止まってしまったんだ。
なんで首のスイッチがオフになってしまったのかな?
つまりは、そう、一言で言えばラップトップだ。
ラップトップ?
そう、ラップっトップのモニターの高さだ。最近やってくる患者のほとんどすべてが同じ理由だ。つまりは一日中ラップトップを使っている人々。
こうやって、背中を丸めて首を折って、手元のキーボードを叩きながら、まるで穴の中を覗きこむように一日中ラップトップのモニターに顔をくっつけている。
いいかい、人間の身体はそんな姿勢を長く続けるようには作られていない。顎が首よりも下がるような姿勢を続けていると首筋にある神経系が麻痺し始める。
でその結果が、肩こり、偏頭痛、そして、腰痛だ。
実はその全てが同じ原因。ラップトップのモニターのその高さだ。
前にも言ったろ。モニターの位置を上げろ。腰を伸ばして首筋をまっすぐに伸ばした、その視線と同じ高さまでモニターを持ちあげなくてはダメだ。
心配するな。明日、とは言わないまでも、明後日ぐらいには成果が現れる筈だ。
来週また来い。それで様子を見よう。だが心配するな、MRIなんか受けなくても俺がすべて治してやる。
今日はまっすぐに家に帰れ。そしてずっと水を飲んで寝ていろ。明日の朝ぐらいにはなんとなく調子が良くなっている筈だ。
目が覚めた朝、不思議な感覚に気がついた。
足の先が温かいのだ。これまで気が付かなかったが、そう言えば朝に目が覚めた時に足の先が冷たかった。
で、そのまま冷えた床に足をおろしたとたんにピキーンと足の指が引き攣ったりもしたものなのだ。
それが、今朝、足の先がぽかぽかと温かい。
で、足をおろした途端、またまた、むむむ、である。
腰が痛くない。
そう、俺はいつも朝寝起きのベッドの上で、腰の疼痛に呻きながら恐る恐る立ち上がっていたのだ。
足が軽い。腰が軽い。まさに、そう、血が、体流が通っている、という感覚がはっきりと判る。
そのまま犬の散歩に出る。
それはまさに今更ながらに不思議な感覚。
つまり痛くないのだ。
足が腰が肩が首が、まさに軽い。
普段であれば、10メートルも歩かぬ内に疼き始める両足が、痙攣の予兆に怯えながら足を引きずるように歩いていたその足が、
なんとも軽い。そして温かい。
奇跡だな、と改めて思う。
あのレイモンドのおっさん、まさに奇跡だな。
という訳で、これでようやく新年を迎えられそうだ。
次はネズミとの戦いが待っている。

プロフィール
Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集
*お断り
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁
©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ
カテゴリ
最新記事
- 帰ってきたぞのBABYMETAL 祝SSA日本凱旋公演!和神か米神かその究極の海賊音源印象羅列から (11/17)
- 晩秋ニューヨーク夢十夜 (11/13)
- 祝:BABYMETAL 世界の頂点:BILLBOARD NO.1 ~ ロックの存亡を賭けた真の戦いは、 いまここからはじまる。ベビーメタルと共に! (10/24)
- 「BABYMETAL THE FORUM 」 その後 ~ この不思議な母性に包まれて・・ (10/22)
- 超長文「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」その4~「友よ:そして新たなる旅立ちの時」 (10/20)
- 超長文「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」 その3~「それはまさに考えうる限り最高最上最強の瞬間だった!」 (10/20)
- 超長文「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」 その2~「ベビーメタルの注目すべき人々との出会い」 (10/20)
- 超長文「BABYMETAL THE FORUM で10回泣いた男の話」 その1~「ベビーメタルのミッション・インポッシブル」 (10/20)
- 勝手に殺すなや 生きとるぜ (10/18)
- 取り急ぎ the Forum (10/12)
月別アーカイブ
- 2019/11 (2)
- 2019/10 (13)
- 2019/09 (18)
- 2019/08 (6)
- 2019/07 (6)
- 2019/06 (8)
- 2019/05 (5)
- 2019/04 (3)
- 2019/03 (7)
- 2019/02 (4)
- 2019/01 (12)
- 2018/12 (15)
- 2018/11 (3)
- 2018/10 (14)
- 2018/09 (5)
- 2018/08 (1)
- 2018/07 (15)
- 2018/06 (7)
- 2018/05 (14)
- 2018/04 (12)
- 2018/03 (10)
- 2018/02 (8)
- 2018/01 (10)
- 2017/12 (16)
- 2017/11 (9)
- 2017/10 (10)
- 2017/09 (14)
- 2017/08 (21)
- 2017/07 (5)
- 2017/06 (17)
- 2017/05 (23)
- 2017/04 (25)
- 2017/03 (13)
- 2017/02 (12)
- 2017/01 (18)
- 2016/12 (28)
- 2016/11 (23)
- 2016/10 (15)
- 2016/09 (30)
- 2016/08 (29)
- 2016/07 (30)
- 2016/06 (29)
- 2016/05 (44)
- 2016/04 (16)
- 2016/03 (15)
- 2016/02 (32)
- 2016/01 (31)
- 2015/12 (40)
- 2015/11 (23)
- 2015/10 (23)
- 2015/09 (19)
- 2015/08 (10)
- 2015/07 (18)
- 2015/06 (14)
- 2015/05 (17)
- 2015/04 (3)
- 2015/03 (31)
- 2015/02 (76)
- 2015/01 (35)
- 2014/12 (9)
- 2014/11 (17)
- 2014/10 (36)
- 2014/09 (42)
- 2014/08 (54)
- 2014/07 (37)
- 2014/06 (44)
- 2014/05 (29)
- 2014/04 (37)
- 2014/03 (97)
- 2014/02 (28)
- 2014/01 (37)
- 2013/12 (62)
- 2013/11 (62)
- 2013/10 (36)
- 2013/09 (17)
- 2013/08 (36)
- 2013/07 (57)
- 2013/06 (67)
- 2013/05 (57)
- 2013/04 (37)
- 2013/03 (45)
- 2013/02 (80)
- 2013/01 (94)
- 2012/12 (31)
- 2012/11 (50)
- 2012/10 (36)
- 2012/09 (53)
- 2012/08 (31)
- 2012/07 (17)
- 2012/06 (29)
- 2012/05 (16)
- 2012/04 (12)
- 2012/03 (29)
- 2012/02 (24)
- 2012/01 (47)
- 2011/12 (32)
- 2011/11 (25)
- 2011/10 (12)
- 2011/09 (16)
- 2011/08 (5)
- 2011/07 (23)
- 2011/06 (9)
- 2011/05 (14)
- 2011/04 (2)
- 2011/03 (4)
- 2011/02 (10)
- 2011/01 (2)
- 2010/12 (18)
- 2010/11 (15)
- 2010/10 (25)
- 2010/09 (30)
- 2010/08 (22)
- 2010/07 (22)
- 2010/06 (33)
- 2010/05 (24)
- 2010/04 (15)
- 2010/03 (8)
- 2010/02 (6)
- 2010/01 (6)
- 2009/12 (7)
- 2009/11 (13)
- 2009/10 (2)
- 2009/09 (3)
- 2009/08 (4)
- 2009/07 (4)
- 2009/06 (3)
- 2009/05 (2)
- 2009/04 (1)
- 2009/03 (2)
- 2009/02 (6)
- 2009/01 (18)
- 2008/12 (12)
- 2008/11 (28)
- 2008/10 (11)
- 2008/09 (15)
- 2008/08 (22)
- 2008/07 (14)
- 2008/06 (8)
- 2008/05 (16)
- 2008/04 (17)
- 2008/03 (16)
- 2008/02 (12)
- 2008/01 (6)
- 2007/12 (10)
- 2007/11 (12)
- 2007/10 (13)
- 2007/09 (10)
- 2007/08 (17)
- 2007/07 (15)
- 2007/06 (12)
- 2007/05 (11)
- 2007/04 (8)
- 2007/03 (11)
- 2007/02 (5)
- 2007/01 (5)
- 2006/12 (8)
- 2006/11 (19)
- 2006/10 (5)
- 2006/09 (7)
- 2006/08 (8)
- 2006/07 (11)
- 2006/06 (13)
- 2006/05 (9)
- 2006/04 (5)
- 2006/03 (6)
- 2006/02 (4)
- 2006/01 (7)