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「氷点下15度下の犬の散歩」

Posted by 高見鈴虫 on 17.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback
夜の10時を過ぎて恐れていた電話が鳴った。
ジェニーである。つまり犬の散歩の時間なのである。
言わずと知れたニューヨークの2月である。
気温は17度。
それに加えてこの北風である。
なんか寒いね、と挨拶代わりに。
まあ行くなら行ってもいいけど、でもあんた次第というか。
そう俺もそんな感じ、あんた次第、と言いながら、
ふと見るとブー君、
電話が鳴った時点ですぐに臨戦態勢で、
どうする?かなり寒いよ?という電話口の陰気さなどおかまいなしに
玄関とソファとの間を走り回っている。
まあ犬は元気そうなんでねえ。
そううちもなのよ。この寒さなのに元気過ぎて、
という訳で渋々と着替えを始める。
今日と言うは完全にアラスカ仕様。
長袖のHEATTECHを2枚重ね着した上に、
フリースのパーカーの上から冷凍庫作業用の分厚いジャンパーを羽織り、
その上から毛皮のボンバー帽子。

が、ブー君はと見ればいつものように裸一貫。

お前、その短い毛皮で本当に寒くないの?と言われながら飛び出した72丁目。
一歩足を踏み出したとたんに吹きすさぶ突風によろめいた。
とたんに跳ね上がるブー君。
うっしゃあ寒いぞ寒いぞ寒いぞ!とやたらとはしゃいでいる。

轟音を立てて吹きすさぶ風の中に向かって、
まるで濁流を泳ぐカワウソのように突き進む突き進むはリバーサイド・パーク。

当然のことながら雪の残った夜のDOGRUNには人っ子一人見えず。
河から吹き上げてくる突風がゴーゴーと唸る中、残雪の凍りついた平原のど真ん中。
吹きすさぶ北風に目も開けられない状態で、思わずここはエベレストのベースキャンプか、と。

あのなあ、さすがにこれはちょっとやばくないか?と二の足を踏む俺の前で、
さあ投げろボール投げろと走り回るブー君。
やれやれ、と投げ上げたボール。
突風に煽られて高く舞い上がったかと思えば凍りついた残雪に弾んでイレギュラー、
それが風に煽られてまるで生きているようにコロコロと走り始める。

おっと!と目を丸くしたブー君。思わず夢中になって身体を躍らせながら
ボールを追いかける追いかける。
これだから嵐の日のボール遊びはやめられないぜ!と目がランラン状態。

さあもう一丁!ほら、今度はこっちだ、といつになくはしゃいで走り回るブッチ。といきなり背後からまるでイノシシのように突進してくる茶色い塊。おおおサリーか、と言わずもがなブッチに突撃。で二人して風に転がるボールを夢中になって奪い合い。とやってやっているうちにいつのまにかボールを交換。なら今度はこっちでとやりながら走り回りながらお互いにボールを交換しあいながら右に左にと縦横無人に踊りまわっては跳ね飛びまくり。とそんな中、なんか寒いね、と声を震わせるジェニー。ああでも犬は元気だね。犬はいつでも元気なものさ。それがこいつらの仕事なんだから。気温は15度。体感気温は多分0度以下。つまりマイナス15度。そうこうするうちに鼻の先が手袋の中の指が足の先がと弱いところがどんどん痺れ始め。こんな気温の中、いくら毛皮を着ているとは言え足の先やら目やら鼻やらは裸のまま。本当に大丈夫かと思うのだが、犬は大丈夫なのである。不思議なぐらいにまったく大丈夫なのである。そうこうするうちに小一時間。いまや飼い主二人は完全に凍結状態。ボールを投げるにも手が上がらない。おいおいこのままつき合わされたら殺されてしまう。とよろめきながら出口に歩み出すその足元に、ほら、もう一度!とボールを転がすブッチとサリー。あのなあお前ら、と思わず目を合わせて。まあ犬が元気でいてくれるのに越したことはないけどね、と最後の一投。じゃね。また明日、とDOGRUNを出たとたん、うっしゃあ帰るぞ帰るぞ!と走りだしたブッチ。さあボール投げろ!と踊り始め。夜空に投げ上げたボール。そのまま風に流されて遥か彼方。脱兎のように走り出したブー君はそのまま雑木林の中に突入して見えなくなってしまった。やれやれ。もうどうにでもなれとまさに八甲田山を行く遭難者のようにようやくたどり着いた公園入り口。そこには全身をこれでもかと風に煽られながら赤い舌を躍らせるブッチの姿。おお来た来た、さあボール投げろ!とはしゃいでいる。あのなあと。俺の指はボールを投げるどころかもうなにも感覚すらないというのに。なんでお前の手足やら鼻の先は凍らないのか。まさに世界七不思議を見るような気分であった。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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