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東京がもっとも輝いていた頃 その実践編

Posted by 高見鈴虫 on 11.2013 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments   0 trackback
金曜日の夜、
ようやく取れた土曜の休み。
このチャンスを逃してなるものか、と思ったと同時に、
という訳で、はいどうぞ、
と押し付けられた残業の山。

ようやく終えて8時過ぎ。
くっそう、一時間の遅刻か。

が、しかし、大丈夫。
見ろよこのアルマーニ。
昨日の夜、一生のお願いだからと友達に借りた必殺技。
地下鉄を待つのももどかしく、
走って走って辿り着いたアマンド。

交差点の向こう、
犇き合う人々の中にあって、
まるで蜂の大群のように群がるディスコの客引きたちに困惑しながら、
手首の時計をそわそわと見ていたあの子の姿。
信号が変わった途端にダッシュをしたのだが、
俺の姿をみとめた途端にふん、と横を向いて早足に歩き始める彼女。
ようやく追いついた肩越しに、悪い悪い遅くなって、と繰り返すのだが、
ふん、ばか、知らない、とふくれ面。
可愛いなあ、と思わずニヤニヤ。
なにそれ
なにが?
そのジャケット
アルマーニ。黒タグ。すごい?
ぜんぜん。ぜんぜん似合ってない。まるでジャケットが歩いてるみたい。
という彼女だって買ったばかりのシャネルのスーツ。
がしかし悔しいがなんかこれは似合っている。
ミニスカートから伸びた足がやけに細く長く見えて、
すれ違う野郎どもが振り返るたびに、
馬鹿野郎ひとの女をじろじろみるんじゃねえ、と眉をしかめながら、
しかしやっぱり悪い気はしない。

が、しかし、
俺の贈ったエルメスのスカーフもティファニーのネックレスも
ぜんぜん身につけてくれないのは、
ふん、なにこれ、こんな安物、とは言いながら、
だって、これだけは失くしたら大変だから、と
タンスの奥にしまいこんでいるに違いない。

で、どこに行く?
新宿と渋谷は嫌。赤坂も誰かに会うかもしれないからダメ。
だったら恵比寿のラーメン屋?あるいは青山のカフェバー、
あるいは久しぶりに踊りにでも行く?
とかなんとか言いながら、
結局はそのままタクシーを拾ったのちに、
駅前のコンビニでサンドイッチとウーロン茶を買って、
そしてそのまま月曜の朝までベッドでいちゃいちゃして過ごすのだ。

あの頃の彼女は本当に可愛かった。
何物を持っても手放したくないこの世で唯一絶対の宝石だった。
そして彼女と過ごす自由が丘の5回建てマンショのベッドの上こそが、
まさに天上のだった。

もうなにもいらない。
アルマーニもシャネルもお金も夢も友達も他の女のこも、
みんないらない。
俺の持っているものならなんでもあげる。
だからお願いだから。

バブルの夜はそんな若者達の張り裂けそうな声を吸い込んでは
ますますと輝きを増しては輝き続けるのであった。


という訳で後日だんである。

もうなにもいらない、
お願いだから、俺のこの身体、
つまりは俺の一生を担保に、
あなたと一緒にいさせてください、
と頼み込んだ結果が・・・

実はこの体たらくな訳だ。

この年になって彼女以外のものはなにひとつとしてなにも持っていないが、
とりあえずはまだ彼女と暮らしている。

この年になっても浮気のひとつもできないのは、
俺の甲斐性がないだけではない筈だ。
つまりは、
あの頃の彼女に匹敵する女がただ現れないだけの話。
そして、たぶんこれからもそれはありえない。
それを思うとちょっと悲しくなったりもするのだが。

という訳で、そう、
信じられないだろうが、俺は割りとよろしく暮らしている


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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