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パリもね、凄く寒いんだってさ

Posted by 高見鈴虫 on 22.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback
3月のニューヨーク。
セントパトリックデイの辺りになれば、
緑の若葉が一斉に顔を出し始める頃だというのに、
今年のニューヨークはいまだ氷点下の日々が続いている。
これで10日連続で平均気温を下回る真冬日。

今年の冬は例年に比べて暖かく、
この分だと3月に入る頃には桜が咲いているのでは、
などと言っていたのだが、
いやはやこれが甘かった。

という訳で4月も近いというのに、
いまだに冬真っ只中のニューヨークである。

なんてことを言っていたら、
いきなり夜空に雪が舞い始めた。

4月を前にして雪かよ。

さすがにこりゃなんか変だな・・

珍し物好きのニューヨーカーでさえ、
この異常気象にはほとほと首を傾げるばかり。

という訳で、いつまでたっても陰鬱な寒い日が続くニューヨークである。

凍えた風の吹き荒ぶ公園。可愛い愛犬の為とは言いながら、
まるで傷口を氷のやすりでガリガリとこすられるような突風に晒されていると、
ほんとうのほんとうに、心の底からつくづくうんざりしてくるというもの。

なんなんだ、いったいなんなんだこのしつこい風は!
いったいいつになったら冬が来るんだ!
もういい加減にボール遊びをやめてうんこをしてくれないかなあ!

吹き付ける風に息を詰まらせながら思わず顔を見合わせる飼い主たち。

干からびた肌。
ひび割れた唇。
凍えて動かない指。
これでもかと吹き付けてくる風に、
目も開けられず口を開くのも億劫で、
膝から足の指からがもう痺れ始めている。

と、そんな飼い主達の悲痛も素知らぬ顔で、
犬どもは元気である。
まさに罰当たりなほどに元気である。

石のようにカチカチに凍りついたテニスボールを追いかけ、
通りかかった瀕死のホームレスをからかっては吠え立て、
砂埃を巻き上げながら走り回っている。

そんな犬どもにつくづくやれやれと溜息をつきながら、
日本ではもう桜が咲いたらしいぜ、
と俺が皮肉に笑うと、
鼻の先から鼻水のしずくをぶら下げたまま、
あああ、もう沢山だわ、と奥歯を噛み締めながらアレクサンドラが呟いた。
あああ、もう十分。もう限界だわ。
OK、もういい加減に引き上げよう。
ねえ、わたしもう明日から休暇を取るわ。パリにでも行ってくる。
はいはい、と俺は言う。
パリでもローマでもトーキョーでも、どこにでも好きなところに行ってくれ。

としたところ、次の日の夜、あれアレクサンドラは?と聞けば、
ああ、あの人はパリに行ったのよ、と言われた。
パリ?
そう。パリ。今夜の便でね。ほらあそこを飛んでるのがそれかもしれない。

まじかよ、本当にパリに行っちゃったんだ。

やられたなあ、と溜息。
くそったれ、寒くてやりきれねえ、のは誰もが同じ。
ああ、もう本当に、いますぐにでもニューヨーク以外のどこか他のところに飛んでいきたい、
というのも山々ではあるのだが、

それでいきなりパリかよ。

いやはや、世の中にはまさにそういう人もいる訳なのである。

という訳で、残された人々はまたしても深夜のドッグランである。
来る日も来る日も、飽きもせずに吹き荒ぶ突風の中、
夜も10時を過ぎてなってますます気温が下がり、
空に浮かぶ月の青い光には、
なにか邪悪な悪意さえ感じられてくる。

1-2-3,はい、春よ来い!じゃじゃーん!はい春が来ました~。

あ、そう言えばね、と誰かが行った。

パリに行ったアレクサンドラからね、、
くそったれ、ってメールが来たわよ。

パリもね、凄く寒いんだって。

丸めきった背中を身震いさせながら、
へえ、と溜息。
そしてなんだか無性におかしくなって、
そしてへらへらと笑い初めてしまった。

パリもね、凄く寒いんだってさ。

はははは。

深夜のドッグラン。旋風に砂埃が走る凍えた闇の底で、
意味もなくヘラヘラと笑う人たちがいた。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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