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「ブッチ・ザ・テネシー」

Posted by 高見鈴虫 on 17.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback

日曜の朝のセントラルパーク。
まだ暗いうちから公園中をこれでもか、と走らせた後、
さあ、いい加減そろそろ帰って朝飯にしようか、と手綱をつないだところで、
ペディキャブの自転車こぎのにいちゃんから、おい!
と呼び止められた。

おい、それ、キャトルドッグか!?

ああ、確かに、と答えてから、
あんたよくキャトルドッグなんて知っているな、と思わず振り返った。

ああ、俺はキャトルドッグのことならなんでも知っている、
とその現代の無法者を絵に書いたようなタフそうな兄ちゃん。

オーストラリアン・キャトルドッグ。
スーパー・アクティブ、スーパー・エネルギッシュ、
スーパー・タフで、そして、スーパー・インテリジェンス。
まさに犬の中の犬だ。

さあ、おいで、と自転車の上から手を伸ばすにいちゃん、
がしかし、そう、そこはキャトル・ドッグである。
飼い主以外の人間は決して信用しない。

なんだこいつ、と訝しげな表情で身構える犬に、
良い子だ、まさにキャトルドッグだ、と満面に笑みの兄ちゃん。

ネバートーク トゥ ストレンジャー。
まさにキャトルドッグ。良い犬だ、
と翳した手をくるりの一回転、
つまり手の甲を翳してブーの鼻先に近づける。

クンクンクン、ねえ、こいつ一体何者?と俺を振り返る。

その人は大丈夫、と頷いて見せると、ならば、とばかりに改めておすわり。そしてお手、のサービス。

かわいい犬ね、とペディキャブの客。

はい、これはオーストラリアン・キャトル・ドッグと言ってね、
スーパー・アクティブ、スーパー、とまったく同じことを繰り返す。
つまりは犬の中の犬。
この毛並み。白、というよりもシルバー。まさにシルクの肌触り。
これがね、青空の下だと、空の青さを反射して、青く光る。
ニックネームはブルー。
ブルーヒーラー。本当に美しい犬だ。

まあこいつは雑種だけど、と俺。

がしかし、とその運ちゃん、こいつは見れば見るほどにまさにキャトル・ドッグ。
と自転車を降りた兄ちゃん、
といきなり頭をゴシゴシ。そして鼻先に顔をくっつけて、いきなりブーの鼻の頭にぶちゅっとキス。

普段ならそんな不届き者からは一瞬のうちに飛び退いて、はたと戦闘態勢を整えるはずのブッチ、
なぜかこの兄ちゃんには思わず心を開いてしまって、
身体中をくねらせては飛びかかろうとしている。

ほら、どうした、そうか、やるか、よしよし、と大喜びの兄ちゃん。

いまどのくらい走らせてきた?
ブーにかがみこんだ途端に飛びつかれて顔中べろべろ。
まあ、2時間ぐらいだけど。
ほら、2時間走ってもまだこれだけの力が有り余ってる。
と身体をゴシゴシ。
うん、いい筋肉をしている。運動も十分だ。可愛がられているね。
散歩大変だろう?
まあねえ、確かに、と俺。
それにこの毛並み。この滑らかな美しい毛並み。
毛が抜けてな、家中が毛だらけだ。
そうなんだよ、ほんと掃除が大変で。

とそんな話をしながら、頭を掴んでゴシゴシ、
ヘッドロックはする、挙句に抱え上げて首に巻いてやあ、とプロレスごっこ。
ブーくんはまさに大喜び。
ブーくんが俺以外の人間にこれほど甘えて見せるのは本当に珍しい。
うちのアパートのドアマンなどもう2年もおやつをあげ続けながら
いまだに頭ひとつ撫でさせては貰えないのに、だ。
まさに奇跡を見るようだ。

そんなブーを見て、かわいい!カメラを手にほら、おいで、と手を差し伸べたとたん、
危ない!と兄ちゃんが一言。
この犬は相当に犬に慣れた人間でも扱いに苦労する。
ヘタに手をだすと、噛まれる!
といきなり厳しい顔。

だよな、と言われて、まあ噛みはしないけど・・と俺。
ちょっとシャイなところがあって。

いや、シャイじゃないんだ。つまり用心深いんだ。
やすやすとはストレンジャーを受け入れない。
まさに犬の中の犬だ。

と立ち上がった兄ちゃん。
身体中にまつまりついた白い毛をパタパタ。
いかにも慣れた風。

あんたもキャトルドッグ飼いか?

いや、俺は、つまり、まあ、故郷に置いてきた。
もしかして、テネシー?
そう、そうだよ、なんで判る?アクセントか?俺のアクセントでテネシーだって判るのか?
いやいや、と俺。
こいつもテネシーから来たんだ。そう書類に書いてあった。

そうかあ、と男。
お前もテネシーからか。

おすわり、とやった途端に喜び勇んでおすわりをするブー。
俺を振り返りながら、なんかこの人、大好きみたい、とさかんに尻尾をふっている。

そんなブーと見つめ合いながら、
そうか、お前もテネシーからか。
ふと見ると兄ちゃんの目がうるうる。

散歩を十分にしてやってくれ。思い切り走らせて、思い切り遊ばせてやってくれ。
さもないと・・
ああ、判っている。それだけはね。
そう、大暴れだ、とケラケラと笑う。
さあもう一回キスしてくれ、という兄ちゃんに、まさに飛びついてキスキス、
滲んだ涙をペロペロと舐めている。

ペディキャブの客がこれでもかとばかりに写真を撮っている中、
こいつ、と胸に抱きしめたブーの毛の中に顔を埋め、
本当だ、こいつ、テネシーの匂いがするぞ。

ブッチ・ザ・キャトルドッグ。
まさに草原の匂いのする犬だ。


という訳でキャトルドッグである。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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