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チャーリー・ホースは真夜中に疾る そのさん パンゲアの呪い

Posted by 高見鈴虫 on 02.2013 チャーリーホースは真夜中に疾る   0 comments   0 trackback
元はといえば、
俺のもとにチャーリー・ホースを連れてきたのは
パンゲアと名乗る謎の爺さんであった。

それは真夏のまっさかり。
いつのもように朝6時に起きて、思い切り重い身体、
ミシミシと音がしそうなほどの筋肉痛に呻きながらなんとかベッドを出ると、
まだ目も冷め切らぬうちに自転車にのって近所の公園へ。

そこでストレッチがてら壁打ちを30分。
フォアで百回、バックで百回。
ボレボレーからオーバーヘッドを含めて今日の調子を確かめてから、
川沿いの自転車道をすっとばしてテニスコートへ。
まだ7時も前だと言うのに12面あるテニスコートはすでに一杯。

開いた時間にいまがチャンスとばかりにストレッチを始めるのだが、
すぐにおーい、と声がして向こうのコートからこっちのコートから、
ダブルスにはいらないか?と声がかかる。

うっしゃあ、肩慣らし代わりにとダブルス。
1セット、2セット、3セット、タイブレーカーの後は、
メンバーを交換してもう一試合。

そんな試合の途中から、
おーい、そこ終わったらこっちでやらないか?
と誘われて、うっしゃあ、待っとれ、すぐに終わらしちゃる、
と本気サーブ一発、15-30-40 マッチポイントでGOODBY!

既に真夏の太陽はツムジの上でギラギラと輝き、
ハードコートの上はまさにフライパンの上。
シャツを脱いだままの肌にはすでに叩けばパラパラと塩の結晶が落ちる。

さすがに暑いな、と頭から水をジャブジャブとやっていたら、
おいにいちゃん、と異様な黒人の爺さんから声がかかった。

娘にテニスを教えてやろうとしたんだがな、
この暑さで来たがらない。
金を払ってコートを借りてしまったんだが、
いっちょうお相手してもらえんか、と来た。

おう、いいよ、願ってもねえ、とは言いながら、
はてな、こんな爺さんがこの俺とシングルス?
しかも12時から1時。一番暑い時間帯だ。

俺はとりあえず、じいさん大丈夫か?
と思わず顔を伺うと、
そうか、こんなジジイは不足か。
なら金賭けよう、と来た。
金?いくら?
7ドル、でどうだ。ここのコート代。
7ドルでも70ドルでも俺は結構だが。
よし、なら7ドルで勝負だ。
おいおい、爺さん、そんなに気張って大丈夫かよ、である。

7月のニューヨークである。
気温はすでに35度を越え、コートの上は優に40度を超えているだろう。
さすがに素人のカップルなどはネットにラケットを立てかけたまま
木陰で水ばかり飲んでいる。

という訳で謎の老人である。

ウォーミングアップもなしにいきなりコイントス。ヘッズ オア テイルス、と来る。

おお、爺さん、やる気じゃねえか、さては、
もしかして元ランキング選手であったりするのか、
と思えば、実際にサーブを打たせてみれば、ヘロヘロである。
ファーストサーブからまるでハエの止まりそうな山なりの弾。
ここぞとばかりにステップインして思い切りサイドに引っぱたいてやろとしたら、
いきなり弾んだボールはラケットのスイートスポット、どころか顔に向かって飛んできたのである。

ツイスト・サーブ、おいおい。いきなりかよ、と。

という訳でこの爺さん。

打ち方だけみればまるでなっていない。

とりあえず右も左もスライスである。

どんなにサイドを突いても、ヘロヘロと倒れこむようにスカッとスライスで返す。

その弾がシュルシュルと滑るようにコートに落ちて、
それが右のコーナー、左のコーナー。
コーナーからコーナーにようやくボールに追いついて返した、
というところで次にはお決まりのドロップショットである。
こな糞、もうその手は食わねえ、と頭から突っ込むと、
してやったり、とばかりのムーンボールが頭の上を越えてゆく。
と言うわけでこれが永遠と続くわけである。
いい加減に息が切れてきたところで、目の前にチャンスボール、
いただきとばかりにぶっ叩くと、アウト、と一言。
馬鹿野郎、どこ見てんだよ、ラインかすってるだろ、
と怒り狂う俺を、抜けた前歯を晒してカラカラと笑う爺さん。

それでもファーストセットを6-3で終えて、
はい、お疲れ様、とやったところ、
お前、何いってんだ、コートチェンジだ、と。

ええ、2セット?ちょっと暑過ぎないか?
という俺に爺さん。ははは、俺は黒人だからな、暑いのは平気なんだ。

という訳で2セット目。
今度はいきなりムーンボールばかり。
すべての弾をスコンスコンと天高く打ち上げては、
俺のバカ打ちを誘ってくる。
思わず自滅して2-6。

さすがにこのままでは終わるわけには行かない。

すでに1時を過ぎて夏まっさかり。
新しくやって来た人々も5分も立たない内から、
これはさすがに無理だ、とベンチに引き上げておしゃべりばかりしている。

誰もいなくなった陽炎の立ち上るテニスコート。

さすがにここまで来ればバカ打ちはしない。

この魔神のようなおっさん。がしかし、やることと言えば、
ちょん切りとむーんしょっとばかり。
つまりウィナーを必要がない限り、
俺もその手でポンポンとゆるく入れ弾ばかりを返しながら、
ここぞここぞにドロップショットを繰り返してやればいい訳である。

が、しかしである。ここで外野からチャチャが入る。

老人を相手にドロップショットとは何事か、と。

暑さにやられて引き上げたものの、
暇を持て余して見物している連中が、
つまらねえぞ、もっとバシバシ打て、と好きなことを言い始める。
挙句に、
俺のフラットのサーブが入る度に、そりゃないでしょ、とブーイング。
ボーレに出たところをロブで頭を抜かれる度にヤンヤヤンヤの喝采、

あのなあ、と、と思わずブチ切れそうになっていたら、
またまた悪いクセでバカ打ちを連発。
思わずラケットを叩き折りそうになりながら、
うるせえ、てめえら、黙って見てろ、と怒鳴り続け。

あのなあ、なんで俺がこんなジジイを相手にフルセット。
しかもこのオヤジ、まともな球を一発も打たない。
変える球はすべて強烈なクセ球。
一体全体どっちに跳ねるか判ったものじゃない。

おちょくってんのか、この野郎、とボレーに出る度にロブ。
追いついたところでうりゃ、とぶん回す度に、
まっすぐに伸びた球はしかしバチンとネットを叩く。

この野郎。。。

歯ぎしりしながら、やばいな、これはまたまた自滅モード、
落ち着け落ち着け、と言い聞かせながら、
ここまでボールが走らないラリーが続くとついつい苛立って来てしまう。

とそんなこんなでタイブレーカー。
さすがにジジイも疲れてきたのか得意のへなちょこツイストサーブもダブルフォルト連発。

もうここまで来たら手加減はなしだ、とばかりに、
Tを狙ってフラットサーブを連発。

もうここまで来たら一度もボールを触らせねえぞ、
と気張りまくってサーブを叩きこもうとしたところ、

あれっ!?と思った時に右足のふくらはぎがガチンと鳴った。

なんだなんだ、と固まった筋肉を抑えようと身を屈めた途端、
左の太ももがまたガチン。
やばい、と思った瞬間に右のふくらはぎがピキーンと張り切って、
ついに本格的なこむら返り。
あちっちっち、とやりながら、途端、いきなり身体中の筋肉が跳ね始めた。

という訳でいきなりのチャーリー・ホースである。
しまいには腹筋から二の腕から両手のひらにまで波及。
まさにこれは全身緊縛である。

その時にはとりあえず、ベンゲイのスポーツクリームを全身に塗りたくっては、
水だバナナだ、冷やしてみようか、いや暖めるべきだ、
まずはストレッチだ、いや、動かすな、と大騒ぎ。

そんな騒ぎをケラケラと笑って見ている爺さん。

マツオカ!と一言。

なんだって?

マツオカ・ルール。つまり棄権。
馬鹿野郎、5-0じゃねえか。
5-0もクソもあるか。立てないんだろ?もう終わりだ。さあ7ドルだせ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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