Loading…

「ORAPUP」

Posted by 高見鈴虫 on 02.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback

今更ながらレミーの口が臭い。
大抵の犬にはどこを嘗められても大して気にすることもないのだが、
このレミーにだけはちょっと辟易である。

露骨にうんこの匂いがするのである。

さてはこいつ、また変なもの拾い食いしたな、
とは思う訳だが、犬に聞いても答える訳もなく。

がしかし、である。
この露骨なうんこ臭。
これはまさに。。。そう犬のうんこの匂いな訳である。

レミーは高級犬である。
純潔のスタンダード・プードルでそのオーナーは実を言えば某長名人であったりする。

アッパーウエストサイドの3ベッドルーム、
リバーサイドパークを臨むまるで美術館のような超高級アパートに暮らすこの高級犬レミーが、
まさかうんこを食っている!などと言うことはあまりにも考えにくいのではあるが、
俺の嗅覚を信じる限り、その口臭は明らかにうんこの匂いでる。

そんなレミーに、下手に顔など嘗められような物なら、
どれだけ石鹸でごしごし洗おうともその匂いを払拭するのがかなり大変なぐらいに、
その唾液の中に明らかにうんこ臭がするのである。

人も羨む高級犬である筈のレミーではあるが、しかしその言動にはかなり問題がある。

何不自由ない環境で毎日毎日旨い物ばかりをたらふく食らっては
なんの躾けもされることもなく育ってしまったこのスポイルド・ドッグ。

三歳を前にした今となっても、吠えまくり暴れまくりとやりたい放題。
まさに野生児そのもの。
ブリーダーの牧場を跳ね回っていた時からまったく変わっていない訳である。

困りきった飼い主から躾指導を頼まれた事情から、
とりあえず呼んだら来る、お座り、ぐらいまでは教えたものの、
その先、となるともはや成すすべも無くと言ったところ。

その超野生児ぶりからして、ことによるとちょっと目を離した隙に、
そこかしこで妙なものを拾い食いをしているのであろうことは十分に予想ができる。

そんな超野生児・レミーである。

俺の躾指導の成果で、とりあえず呼べば来る、ぐらいな所までは持ってきた。

これまでのレミーの超野生児ぶり、呼んでも来ない、どころか、
何を言っても叫んでもまったく反応を示さず、好き放題に逃げ回っては公園の柵を飛び越えて、
その挙句に通りの向こうの高速道路の真ん中に飛び出したり、なんてことを繰り返していたのだ。

そんな超野生児・レミーが、今では俺が一声呼んだとたんに一目散に駆け寄って来る。

がしかし、ここで、さあ、おいでおいで、などと暢気に膝など叩いていると、
いきなり1-2ジャンプでそのまま飛び蹴りをくらわしてくるのが判っているので、
とりあえずは座って目線を合わせ、そして息を切らしてやってきたレミー、
ご褒美の代わりによくできました、と撫で回す訳なのだが、
犬に取っては撫でるも嘗めるも同じこと。
レミーは褒められた喜びを全身に炸裂させながら、
これでもかとばかりに俺の顔中を嘗め回すのである。
犬にとって、これはまさに親愛の表れ。
鼻先から始まって口から目から額から頬から顎から首から、と、
まるで何かに憑かれたかのように夢中になって嘗め回す。

あの超野生児レミーが、まさかこれほどまでに人を受け入れるようになった、
というのはまさしく目覚しい進歩な訳である。

なので、レミーが嘗めたい、という以上は、好きに嘗めさせてやりたいのは山々な訳なのだが、
果たしてその口臭である。

その唾液に溶け込んだ露骨なうんこ臭さ。。。。

可愛いレミーの為ならうんこを顔中に塗りつけられたって、
とはちょっと簡単には思えないぐらいの露骨な臭気な訳である。

ねえ、あんたの顔がうんこ臭いなんて知ったことじゃないけどさ、
そのうんこ臭い顔をブッチに嘗めさせたりしないでよね、
ブッチに変な病気がうつったらどうする気?

な訳である。

いやはや、たかが犬、されど犬、まさに大変である。

と言う訳でレミーである。

思わずそのうんこ臭さに顔を背け、やめろ、嘗めるな、とやってみた所、
ふと見ると、そのつぶらな瞳に、まるで少女漫画のようにうるうると涙を潤ませて、

なんで?ねえあたしのことが嫌いになったの?
と氷りついていたかと思えば、

見るのも哀れなぐらいにがっくりと肩を落とすや、
とぼとぼと公園の隅に隠れてしまった。

このレミー、飼い主のピーターが死んでしまってからと言うもの、寂しがっているのはよく判る。

ピーターの死後、その亡夫であるアリーンはしかし、犬のことにはまったくの素人。
亡夫のその犬馬鹿ぶりに辟易していた関係から、
そんなレミーの暴れん坊ぶりには完全にお手上げ状態。

レミーはレミーで、最愛のピーターを失ってしまったその心の傷が癒されぬまま、
散歩に出れば吠えるな、暴れるな、と怒鳴られては、
この馬鹿犬だ、猛犬だ、狂犬だ、と眉をひそめられる毎日。

くそったれ、みんなあたしのこと馬鹿にして。
へん、知ったことか、あたしはあたしでやってやるわ、

とばかりにその野生児ぶりにますます拍車がかかった末に、
まったく手の付けられないじゃじゃ馬犬に変貌を遂げてしまった訳だ。

そんな中、ピーターの亡夫であるアリーンから、
もうここまで来たらシェルターに引き取ってもらうしか方法がないか、
などと飛んでもない相談を受けるに当たって、

判った、とりあえず、超基本的な躾ぐらいは俺が引き受ける、
となった訳である。

と言う訳でレミーである。

人からなんと言われようが、レミーは可愛い。
ましてや、馬鹿犬でも猛犬でも狂犬でもない。
ただ、その、
ちょっと野生児過ぎる、つまり、犬として犬然、としすぎている訳である。
そうやってレミーをかばってやれるのも俺一人なのである。

と言う訳でこの超野生児レミー。

レミーにとって信じられる人間は俺ひとりなのだ。
それは判っている。判ってはいるが、なのである。

公園に背を向けて柵の向こうの暗がりを見つめながら、
ふと振り返った肩越しにじっと見つめるその視線。
いじらしら、というのはまさにこのことを言う、ばかりの哀れさで、
上目遣いに潤ませた瞳でじっと俺を見つめては、
ため息をつきながらがっくりと頭を垂れる、を永遠と繰り返す。


ねえ、どうしたの?と息せき切って駆け寄ってきたブッチ。
口にくわえたボールを俺の手元に押し付けて、はい、投げて!投げて!と繰り返す。

ブッチのこの天真爛漫さに比べて、
レミーのあの心に傷を負った者の翳りをいったいどうすればよいのだろう。

レミーもなあ、子犬の頃からちゃんとしつけていれば、
今になってこんなことに悩まされることも無かったのに、
とは今になってはまさに後の祭り。

まあそのうち、歳が経てば落ち着くんじゃないのかな、
などと言われて放って置かれたら、
いつしかそのまま、野生児のままで既に3歳を迎えてしまったのだ。

おい、レミー、どうした?と声をかけても、
ふん、と横を向いたまま返事もせず。

顔を嘗めるな、と言っただけでこれだけすねてしまうのである。
やれやれ、本当に年頃の女の子は難しい訳である。

と言う訳で、気分転換にブーとのボール遊びを始めたところ、
すっかりいじけてしまったレミー。
いきなり公園の隅で猛然と穴を掘り始めた。
途端に、駄目!やめて!なにやってんの!と怒鳴られては、

くそったれ、こうなれば、とばかりに再び気の触れたように公園中を飛び回り始めては、
犬という犬を見つけては飛び掛り襲いかかり、を繰り返す。

やめて!やめて!と怒鳴り続ける飼い主のアリーン。

ねえ、いったい何があったの?レミーはどうしたの?

あのなあ、と俺。思わずため息なわけである。

と言う訳で、ついに根負けして、
おい、レミー、やめろ、と声をかけた途端、
いきなりはじかれるように振り返ったと見るや、
まさに棒高跳びの要領で、1-2-3とジャンプの後に、
いきなり顔に向けて飛び込んでくるわけである。

このじゃじゃ馬、と身体中撫で回しながら、
まあこれだけ懐いてくれた、だけでもめっけものなんだよな、と思い返して、
そして、思わず、そのうんこくさい口で、
顔と言わず首と言わず胸と言わず、
と好き放題に嘗められてしまう訳である。

そしてDOGRUNの帰り道。
夜更けの公園を歩きながら、
まったくなあ、と、振り返るブッチ。
まあお前にも問題が無い訳じゃないけどさ。
ねえ、ねえ、と呼ぶブッチになんだよ、と顔を近づけると、
クンクンクン、と顔中の匂いを嗅いで、
二マーっとスケベ笑い。

なんだよ、臭いか?
へへへ、うんこ臭い。
やっぱり?やっぱうんこだよな。
うんうん、うんこ臭いうんこ臭い、
と妙にはしゃぎ始める訳である。

いやはや、あのレミーには困りきってしまう。

と言う訳で、帰ったとたんに風呂に飛び込んで、
石鹸からタワシからで顔中を擦りあげて一息。

どうだブー、もう臭くないか?
とやってみるが、
うーん、どうかな、とぶー。
くんくんくん、なんかまだ髪の毛がうんこ臭いかも。
やれやれだな、そのうち、身体中がうんこ臭くなるんじゃないのか?

と言う訳で、濡れ髪も乾かぬうちに再びシャワーに入りなおし、

ソファーの上、ブーを枕にIPAD。

犬 口臭 うんこ臭い 拾い食い うんこ、

なんてやっていたら、
ふと、ひっかかったYOUTUBEの広告に、犬の口臭消しの秘密兵器、なるものを見つけた。

その名も、ORAPUP (http://www2.orapup.com/)

普段ならば、このYOUTUBEの糞広告、死んでしまえ、と思っているのだが、
その口臭消し、見れば見るほどになんとも興味をそそられる。

ちょうどスーツの埃取りの要領で、
ざらざらしたヘラの上に口臭消し用のゼリー上の薬を塗りつけて、
それを犬に嘗めさせるわけであるが、
もしかしたらこれをレミーに試してはどうか、と思った訳で、
思わずそのままオーダーしてしまった。

なんとBACKORDERとある。
つまり注文に製造が追いついていない、らしい。
まさに大ヒット商品な訳だ。

で、待つこと2週間。
ちょうどレミーの飼い主であるアリーンの誕生日ということもあって、
届いたばかりのORAPOPを誕生プレゼント代わりにご進呈した訳なのだが。。

と言う訳で夜のドッグラン。

俺の姿を見つけたとたん暗闇の中からいきなり飛び出してきたレミー。
思い切り飛びついて抱きついて、
とそのあまりに過剰な喜びを受け止めながら、
挨拶代わりに鼻から口からほっぺたからと嘗めまわされる訳だが、

あれ、おい、おい、どうした?おまえ、うんこ臭くないぞ!

そうなのである。
まさにORAPUP効果なのである。

遅れてやってきた飼い主のアリーン。

いきなり抱きついてきて俺の顔をべろべろ、ではないが、キスキスキスの嵐。
元女優、とは言ってもいまは70に近いおばあちゃんである。
がそんなおばあちゃんでもまさか喜びのキスをはねつけるわけにも行かず。
右はレミーから左はアリーンからでもうもみくちゃである。

どう?ORAPUP。どう?臭くないでしょ?
ああ、確かにね。ぜんぜん臭くないね。いやあ当たったなあ。

ほら、おいで、とアリーン。
途端に飛びつくレミー。
アリーンの肩に両足を乗せてまさにキスの嵐。顔中を嘗め嘗めである。
うんうん、これならいくら嘗められても平気だわ。

そう言えば、アリーンがレミーに顔を嘗めさせているのを始めてみた、訳である。

つまり、もしかするとアリーン、レミーがうんこを食っているのを薄々感づいていたのではないか・・?

がしかし、そう、このORAPUP、
これはただの口臭消しであって、レミーが隠れてうんこ食べてる可能性は変わらないんだけどね。

が、まあ、ちょくちょく呼びつけて口臭チェックをしてやれば、
いつどこで変なもの食べたか、ぐらいは調べがつく訳で。

と言う訳で夜更けのドッグランのベンチ。
俺とアリーンの間に挟まれてちょこんと座ったレミー。
目が合うたびに、にかーっと笑ってキスキスキスの嵐。

俺の顔とアリーンの顔と、まさに心行くまで嘗め嘗めできて、幸せ一杯な訳である。


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://shumatsuwotohnisugit.blog.fc2.com/tb.php/1380-1da01c19

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム