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悪夢の白日夢

Posted by 高見鈴虫 on 17.2013 とかいぐらし   0 comments   0 trackback
米系に転職して早6ヶ月。
文句無い待遇に左団扇かと言うと実はそうでもない。
なんというか、そう、なんというかもの寂しさというか、
そう、一言で言って物足りないのである。

ジムに入ってから友人も増えて、
廊下やトイレやカフェテリアでも挨拶で言葉を交わす機会が増えた。
毎日必ず挨拶に俺のQUBEを立ち寄る人もいて、
なんだかんだと邪魔にはなるが、
そうつまりそれが普通の会社という奴なのだ。

がしかし、なんだろうこのスカスカ感は。

確かに上司に一挙一動を見張られていることも無ければ、
うるさく絡んでくる同僚もいない。
どうでもいいことばかりを聞いてくる後輩もいなければ、
尻拭いをしなければいけない部下もいない。

なんと言ってもこの会社は人も羨む超一流企業なのだ。
給料の最低限でも6っ桁を下らないこの企業では当然のことながら
その社員はすべてその道の歴戦の勇士。
バリバリのプロフェッショナルばかり。
業界の中で選ばれたものだけが集められたこのまさしく理想的な環境。

朝から晩まで仕事に没頭できて人間関係のストレスは皆無。
朝8時出社がたまに傷ではあるが、
毎日5時まで誰にも邪魔されることなくばりばりと仕事をこなし、
5時になればすかっと帰宅。

犬を連れてまだ日の残った公園を散歩できるというのは
まさに極楽以上の何物でもない。
改めて神様に感謝したくなる、というものなのだが。
どうしてだろう、この心の隙間は、と思っている訳だ。

もしかして日本語に餓えているのであろうか?

確かに一日中目にするものは英語ばかり。
もしかしてドラマ性に餓えているのだろうか?
確かに早々とドラマチックな事件は起きない職種ではある。
もしかして変化に餓えているのだろうか?
確かに派手さには欠けるよな。
がしかし、多分そういうことではないのではないのだろうか、
とは薄々感づいてはいた。

と言う訳で春爛漫である。
タバコを吸いに下に下りるたびにさんさんと降り注ぐ春の日差しの中を
ムチムチピチピチの女の子達がこれでもかと身体中の脂肪を揺らしながら闊歩している。

もともとデブや大女は嫌いのはずであるのだが、
あの見るからに柔らかそうな脂肪のかたまりがゆさゆさと揺れる様は
見ているだけでお腹一杯胸一杯に気持ちが満たされてきてしまう。

あんな巨大な尻をしていたら下手をするとちんこが届かないのでは
と思うぐらいのばぶるばっとなお嬢様たちの中で
しかしその華やいだ空気に触れられるだけでもめっけもの。

と思いながら、そう、それは実に唐突に気がついた訳である。

そう、そうなのである。つまり女である。

女かあ。。女ねえ。。。
そう思ったとたん、なんとなく自分の浅はかさがとことんに嫌になった訳である。
という訳で女なのである。

女。

あのキンキン声のやたらと騒がしい馬鹿で浮気で気分屋でお調子者で、
やることなすことすべてに論理性に欠けるあのどうしようもなくおばかな女達。

朝もはやからおっはよ、と擦り寄ってきては、
ねえ、なんにも気付かないの?
とちょっとすねて見せて、
ああ化粧が変わった?
馬鹿、本当は判ってる癖に。昨日あたし早く帰ったでしょ?美容院行ったの。高かったのよ、
と染めたばかりの髪を指先でくりくり。あのなあ、と。

あんなあ、俺は別にお前の容姿の変化をLOGに取ってるわけじゃないし、
お前だって化粧の査定されるためにここに来てる訳じゃないだろう、いい加減にしろや、
と精一杯の憎まれ口をたたきながらも、
その胸の膨らみからくびれた腰からスカートから覗く白い足からが目にちらちらとして
こうしている今もてぃんてぃんの先からじわりとやる気汁。
ああこのまま抱きすくめてしまいそうだ、と思わず頭がくらくらしながら、
くそったれ、邪魔だ邪魔だあっち行け、と精一杯のやせ我慢。
へん、なによ、とすねた振りをしながら、
男女の機微に関しては異様にあざといこの小娘、
たぶん気付いているのだろう、きっと気付いている筈だ、
だってみろよこの勝ち誇ったような微笑。
くそったれ、この憎々しくも思わず抱きしめたくなる
このぷよぷよと見るからに柔らかそうなお肉の塊り。
思わずその華やいだ微笑の瞳の奥をじっと覗き込んでしまって、
ばか、似合ってる、って一言言って欲しかっただけなのに、
といきなりまじ声で呟いたやいなや、
じゃね、と振り返ってすたすたと歩き始める。
あのなあ、おまえ、朝から人前でそんなこと言える訳ないだろ、
と焦りながらも回りの表情はまさに凍りつきを通り越して
うんざりため息がひとつふたつみっつ。
と、ふと見ると廊下の曲がり角でまたイヤイヤと肩を振る姿。
なんだよ!と思わず。
ねえ、またランチ行こうね、また誘ってね、いつでも待ってるからね。
馬鹿やろう、そんなでかい声で。
ほら見ろ、とすでに上司の猿面がきっとした顔で俺を睨みつけているではないか。
そんな俺の狼狽にいかにも意地の悪そうな笑顔で顎をしゃくってみせて、
怖いの?あんた怖いんでしょ?へんだ、意気地なし、と鼻で笑っているような。
うるせえばか。一生ねえよそんなこと、とまた憎まれ口を返したとたん、
へんだ、とアカンベーをしては、わざわざ廊下の真ん中を
これ見よがしに尻を振りながら遠ざかっていく。

まったくどいつもこいつも、とため息をつきながら、
いつのまにかゆるゆるする頬を締めることができないできないで切るはずも無い。

そう、つまり女なのである。つまりはそういう女なのである。

とそうこうするうちに、さあ、メールのチェックでも始めるか、と机に向かった途端、
携帯のLEDがポン、と光り、「?」のMSGが一つ。
キター、本命登場!と思わず立ち上がりそうになり、
いや、実際に立ち上がってしまい、
すぐさま「Y」のメッセージを叩き込んでから、
さあてと、朝の仕事も終った終った、とかなんとか言いながら、
ちょっとタバコでも吸ってくるかな、と辺りをきょろきょろ。
くそったれ、まあいいや、誰に何を思われようが知った事か、
としらばっくれてドアを出たとたんにダッシュ!
エレベーターを降りたとたんに襲い掛かってくる都市の雑踏の中で、
差し込む日差しに眩しげに目を細めながら微笑むあの子の姿。
控えめにあげた手をぎこちなく振りながら、そのはにかんだ笑顔の眩しいこと。
おはよ。おはよ。元気?えへへ、ちょっと寝坊しちゃった。
そうそうおはようメール来なかったからやばって思ってた。ごめんな、昨日遅かったもんね。
うぅん違う違う。帰ってから友達とちゃっとしてたら遅くなっちゃって。でも凄く美味しかった。ありがと。
だろ?あそこ俺も大好きなんだよ。また行こうよ。
うん行こう行こう。また行きたいな。
ならいつがいい?今日?
今日?本当に?二日続けて?
なんでだめなの?毎日だっていいぜ。そうだもっと他の場所に行こうよ。フレンチでいい店知ってるんだ。
あ、ごめん今日はちょっと予定あるかも。
なら予定がすんだら電話してよ。それからでもいいから。
またまた。
ほんとほんと。いつでも電話して。どうせ残業してるし。
でも行くのミッドタウンだよ。
いいよ待ち合わせすれば。
本気で言ってるの。
なにが?ここのところ連荘だよ。
なにが悪いの?毎晩だっていいよ。いつでも電話してよ。
じゃあね、今度は私が奢るから。
OK。
だったらね。どこに行く?
どこでも好きなところに。
じゃあねえ、どうしようかな。。

ふとはだけたシャツの間から浮かぶ痩せた喉の下に、
何気に浮かぶささやかな胸の谷間。
あれどうしたんだ。そっかこいつ寄せブラなんかして。
俺のためにかな。もしかしてまさか今夜の予定のためにかな。
ふと見ると風に髪を流しながらふと遠くを見ている彼女。くそったれ、こいつ本当に眩しすぎる。
ねえ。
なに?
あのさ、と言いかけて、はははと笑う。そう言ったらおしまい。言ったらおしまいなのだその言葉。

そんなこんなで再び鳴る携帯。
くそったれと苦笑いをしては思い切り不機嫌な声ではいもしもし。
どこにいるんだよ10時から会議だろ早く戻って来いよ、とせかされて
やれやれと肩をすくめながら並んで乗るエレベーター。

なに?
なにが?
だからさっきねえって。
ああ、まあね。
なによ。
いやべつに
へんなの
と見詰め合ったまま、一秒二秒。
そう言えばさ、といかにも軽げに、
そう言えば今夜誰と会うの?
と聞きそうになって言葉が詰まって、思わず胸がキュンと競りあがって
そのままふと顔を寄せそうになって。
思わず俺鼻息荒くないか、と。

じゃね、またあとで。
うんランチ何時ごろ?
いけそうなときに電話して。
うん。今日はメキシカンがいいな。
OK。じゃ会議終ったら電話するから。
うん。
ねえ。
なに?
あのさ、と言いかけて思わず大赤面。
なんでもない。
なに?
あとでね。
うん。じゃあランチで。

そしてふと気がつくと。。。

この無人のオフィスである。

耳が痛くなるほどに静まり返ったオフィス。
机一杯にならんだ英文の資料。
左右の特大モニターに並んだデータ。

誰一人として誰からも干渉されないこの理想的な職場の中で、
俺はふとそんな数年前までの記憶を繰り返しているのだ。

歳をとったんだよ、と思う。

俺はもうそんなことをやっている場合ではないし、
そんなことをやれる資格もないし、そもそもいくら機会があったからと言って、
もうそんなことをやる気もさらさらない。

がしかし、である。

このあまりにもでき過ぎた職場である。
さぞかし仕事がはかどるかというと実はそうでもないのである。
いやいやそんなことではいけない、と自分をせかしながら、
ふとこんな今でも、だーれだ、と目隠ししてくるあの子や、携帯のLEDがぽん、と輝かないか、
と待っているのかもしれない。

あの不埒な女達よ。
いまはどこへ行ってしまったのか。
あのまったくどうでもよく、いかにもどこにでもいそうな、
いかにも誰とでもしていそうなあのまったくどうしようもなく不真面目な少女達よ。
君達を完全に追い払ってしまった今、
俺はもう君達のいたあの場所のことは思い出したくもないのだが、
しかし、そう、今になって思う。
君達と過ごしたあの不愉快な時間は、しかし、なんだかんだ言って
とても面白かったのかもしれないね。

もう会うこともないだろう。
君達との事は誰にも告げないままに棺おけの中まで持っていくつもりだ。
そして俺は、こうしてみんな歳をとって行くのだな、と思っている訳だ。

そしていま、ふと、全て終ったのかな、とも思っているのだ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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