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チャーリーホースは真夜中に疾る そのじゅうはち ブルックリンの超人ハルク

Posted by 高見鈴虫 on 22.2013 チャーリーホースは真夜中に疾る   0 comments   0 trackback
「チャーリー・ホース」 そのじゅうはち

今でこそ人も羨む超一流企業の社員という肩書きながら、
ついこの間まで、ライブハウスロッカーであったという関係上、
ニューヨーク中の胡散臭い場所、
あるいは、ゲットーなんてところにもそれなりに免疫はできている。

昔つるんでいた仲間もこんなプロジェクトに住んでいて、
夜に訪ねていったら、玄関先にはヒップホップの糞ガキがたむろしていては小銭をたかられ、
ドアを開ければエレベーターの中に死にかけたジャンキーが寝そべっていてドアが閉まらず、
とまあそんな感じであった訳なのだが、まあこっちにしても傍から見れば似たような人種であった訳で、
まあそんな具合からそんな状況には別にさしたる疑問も感じなかった訳だ。

がしかし、そう今の俺、まさにスーツである。
そう、俺はいまやカタギなのである。
そんなカタギの男がこんなブルックリンのはしっこの、
しかもプロジェクトのビルの中の、
噂だけで聞きかじった奇跡のマッサージ師の前で、
すっぽんぽんになって、身体中をまさぐられた挙句、
腰をひねって首をひねって、と命をまるごと預けてしまう訳である。

ここまで来て、まあ確かにな、と納得が言った。
これはまあ、並みの人間ではちょっと二の足を踏むわな。

つまり、ジェームスではないが、一生車椅子で過ごすぐらいなら、
この場で死んでやる、ぐらいの覚悟がない患者はここまではやってこないだろう、
という奴なのか。

と言う訳で、ゲットー特有のこれでもかと裏寂れたビル、
壊れかけてギチギチと不気味にきしむエレベーターに乗って辿りついた、
黴臭いビルの一室。

表札もなにも無い代わりに、
いきなり、呼び鈴は壊れています、との殴り書き。

やれやれ、ますます面白いじゃねえか、と苦笑いしながら、
コンコンとドアを叩くと、おもむろにドアが開いた。

ウッス、とその男は言った。

初老の、なんとも人懐っこそうな顔立ち。
思わずとろけてしまいそうな甘い笑顔とは裏腹に、
その体つき。岩、というよりは・・なんというか、もう山である。
全身が筋肉の塊、は言うに及ばず、
その腕、俺の足、どころか、それを二つ束ねても足りないぐらいの太さである。

超人ハルク、と思わず。この人、まじで超人ハルクのようだ。

こんにちわ、と日本語でその超人ハルクじゃない、奇跡のマッサージ師は言った。

どうも、こんちにわ、っす、と俺は答えた。

怪しげなお香の香りの立ち込める薄暗い部屋の中、
自転車やらテレビやら壊れたコンピューターやら、
のガラクタの中に、そこだけとってつけたように白いシーツを貼られた簡易ベッドがある。

で?と超人ハルク。

あ、はい、とその笑顔に吊られるように思わず、ははは、足が攣っちゃって、と。
で、改めて症状を話そうかと思えば、
ああ、はいはい、と笑ったハルク先生。
まあ、話しててもなんなんで、とりあえず服を脱いで、と。
が、脱衣場があるわけでもなく、つまりは、玄関先でそのまま服を脱ぐだけ。
で、パンツ一丁になったらそこにうつぶせに寝てください。

促されるままに服を脱ぎ、ベッドに横になれば、
あ、ちょっとまっててね、となにやらごそごそやってるかと思えば、
厳かに流れ始めた癒し系のBGM。
はは、これがないと調子が出なくて、ってな話。

身体の力を抜いて。なるべくリラックスして。音楽に集中してみて、
と言いながら、なにやら背中一面にオイルを塗って、
しばらくするとそれがほんのりと温まり始める。

では、始めます、とおもむろに背骨をぐりぐり。
で、肩から首からと、ぐりぐりと指圧を繰り返していく。

あの・・だから、肩とか首とかじゃなくて・・俺が痛いのは足な訳で・・・
とは言いながら、なんともその指圧が心地よい。

ハルク先生、力を込めるたびに、うんうん、と押し殺した嗚咽を漏らしながら、
しかしその指先はいたってソフト。
首から肩から背骨の一つ一つを右から左からと押し進め、
まるで骨格そのものを指でなぞっているようである。

そのたびに、まるでぶつかり稽古をする力士のような
気合まじりの呻き声を上げながら、いやはや治療とは言いながら、
このマッサージ師って仕事はかなりの重労働のようで、と思わず。
がしかし、不思議なことにまったく痛くないのである。

チャイナタウンのマッサージが、まさに絶叫につぐ絶叫で声が枯れ尽きた、
というぐらいに痛い、とは聞いていた関係で、
この体つきからまさに下手をすると身体中の骨をぼきぼきにされるか、
と思いきや、そのタッチはあくまでソフト。
あまりにソフトすぎてちょっと物足りないぐらいな気さえする。

とりあえず、頭の先から足のつま先まで入念にマッサージ、というよりは骨格を探り、
うーん、と唸りながら次はその筋肉にそって指先を滑らせ始める。
それもまさに、流れに沿う、という感じで、
その気合の声から相当に力を込めているのだろうが、
やられるほうはまったく痛みを感じないのである。

そうこうするうちに、腰骨の脇、おっと!そこだ、その場所だ、
と思わず声を上げそうになりながら、うん、ここだね、痛いのは、
となにもかもが判った風。
だが、その場所を入念に指圧、かと思えばなんともあっさりと素通り。
そして腰骨から尻からそして両足の内側外側を入念にうんぬんと指圧を繰り返し、
あ、そう、そこ、そこが攣っているです、という脹脛。
はいはい、判ってます、とばかりに押す、というよりは筋そのものを引き伸ばすように。
そして極めつけ、足首を掴んだとたん、手の中に握り締めた足そのものを、
ぐっと握り締めてからぐいとひねった。
なんだ!?と思わず。おおそんなことをしてはまた攣ってまう!と思ったが、
いや、なんてことはない。
なにも起こらないのである。
で、再び、今度は足のうら全体をぐりぐりやりながら、足そのものをぐんと引っ張って。
はい、一休み、と一言。いやいや、そのまま寝ていて。

と改めて身体中にオイルを塗りこみながら、
はい、息を吸って、吐いて、と言われるままに、ふーっと吐いた瞬間、
いきなり肩の下から続く背骨が、まるで橋げたを鳴らすように、
ボキボキボキボキ、と鳴った。
なんだなんだ、と思わず驚愕。
はい、息をすって、吐いて、とやった途端、再び、ボキボキボキ、である。
まさに背骨の一つ一つが軋み上がって音を立てているわけである。
なんだなんだ、と思わず、これなんですか?と言ってみても、
治療に集中するハルク先生は答えもせずに指圧を繰り返す。
で、その指がおもむろに肩から首へと流れてきた時、
もしや、と思った途端、ゴキッ!まさに、
首の骨が砕け散ったかのような轟音が一つ。
おおおおお、と思わず深いため息。
まさに、死んだ、のである。
はい、ではこっち側、とやられながら、まさか、と思いながら、
くそ、なるようになれ、と思ったとたんに、ゴキッ!と反対側にも一ひねり。
おお、また死んだ、と思わず笑いが漏れる。
ははは、気持ち良いだろ?
ああ、なんか2回死んだ気分。
ははは、大丈夫。このぐらいでは死にはしないよ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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