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「犬の動体視力」

Posted by 高見鈴虫 on 23.2012 犬の事情   0 comments   0 trackback
実を言うと、我が家の駄犬、
駄犬と言うのはもちろん謙遜で、
正直なところ、飼い主の俺自身、
この駄犬をちょっと尊敬しているところがある。

とは言っても、
できる芸といったらお座り、お手、も含めて5つ程度。
いまだに部屋で粗相をした後に、せっかく使用したWIEPEEPADを、
そのまま口に咥えて振り回す癖があって、
帰ってみれば部屋中がウンコだらけ。
隣りの住人が嫌いで廊下で姿をみかけただけで吠え掛かり、
散歩の途中で、いやそっちは行かない、とがんばり始めるのも常癖化。
挙句に、ホームレス、やら黒人やら、ジャンキーのガキやら、
ちょっと気にいらない、と思うと、とたんに吠え掛かって、と
まさにちょっとこれ、駄犬というよりは猛犬、つまり困りきった犬な訳である。

と言う訳で、弁解まじりに改めて言えば、
我が家の駄犬、
オーストラリアん・キャトル・ドッグという品種。
本来は牧牛犬の血統だそうで、
その運動能力と知能レベルは特筆すべきものがある、
そうなのだが、
いかんせんこの犬種、とりあえずは身体中にエネルギーが
有り余っているらしく、
少なくとも一日4時間の激しい運動が必要。
で、もしもそれが不足している、となるやいなや、
その果てしないエネルギーを部屋の破壊作業に使い始める訳である。
また、その知的レベル、と言っても、確かに、あのなあ、と普通に話しかけたことが普通に通じたり、と便利なことも多いのだが、
下手をすると自分で物事を判断して仕切りたがる、なんて思い上がりが出てきて、まさに、飼い主の俺に向かって、お前はもうちょっとこうすべきだ、なんて意見を言うまでになっている。

と言う訳で、この困った駄犬である。

子犬の頃からのその凄まじいばかりの腕白ぶりに
心底驚愕してきたで、
公園に連れてゆけば、脱兎、どころか、まさにロケットのような勢いで
丘から丘へと走り回り、
興奮した犬たちを20も30も引き連れては猛然と追いかけっこを始め、
挙句に柵を飛び越えて岩山のてっぺんにまで駆け上がっては、
どんなもんだ、と得意顔。

そんな姿に目を見張ったアジリティ協会のおじいさん、から、
頼むからこの犬を譲ってくれないか、金なら幾らでも出す、と頼み込まれる始末。
が、そんなことを言ってるそばから、
おい、チビすけ、そのボールよこせや、と言ってきたジャーマンシェパードの鼻先に、
飛びついてぶら下がって振り回して、と大暴れ。
いやはや気の強いチビ助だな。。
だろ?こいつアジリティなんて言っても、競技の途中に他の犬と喧嘩を始めて、なんてのばっかりだぜ、多分。
と言う訳でこの暴れん坊。ドッグランに連れて行くたびに一悶着二悶着を起こしてはすっかり鼻つまみ。
そのうち俺たちが姿を見せるとみんなそそくさと帰り始める始末。
誰もいなくなった公園で、まったくお前やれやれだなあ、とやりながら、
しょうがない、遊ぶ子いなくなっちゃったから、二人でボール遊びでもしようか、とテニスボールを手に取った訳だ。

と言う訳で、
いまとなっては完璧なまでのボールフェッチ。

どこに行ってもなにをやってもボールだけは離さず。

スロー アンド キャッチ、は元より、
サッカーからゴールキーパーから、と、ことボールを追う、キャッチする、
ことにかけてはまさに天才的である。

俺たちの姿を見かけたとたん、ドッグラン中の犬たちが眼を輝かせて勢ぞろい。
で、さあ、用意はいいか、それ行け!と壮絶なボール遊びが始まる訳だが、
空に向けて思い切り投げ上げたボール、
とたんに猛ダッシュする居並ぶ大型犬たちの中に混じって、
まるで白い矢のように疾走をする我が駄犬、
巻き上がる砂埃の中から、さあ誰が取った?と目を凝らしていると、
どういう訳か、そんな犬たちに囲まれて
ボールを咥えて帰ってくるのはいつも決まってうちの駄犬。

それがあまりに繰り返されると、
悔しがった犬たちが、ワンワンワンと吠え始め、
あるいは俺に向かって、不公平だ!と文句をいう奴まで出て、
しまいにはうちの駄犬の口元から咥えたボールをふんだくろうとした狼藉者に、
途端に飛び掛っての大立ち周り。

たかがボール遊び、とは言いながら、
やることなすことがまさに、オーストラリア気質、というか、
まあ、とにかく並外れてきかん坊な訳である。

最近ではタッチダウンごっこ、と言う訳で、
さあ、走れ、とやったところで、
走る犬たちの後ろから思い切りボールを放り投げると、
ディフェンスとなる他の犬たちの間を走りぬけるブッチ、
着地地点を見計らっては、
思い切りジャンプしてこのボールをダイレクトキャッチする訳で、
それが走りながら、であったりすると、まさにスーパー・タッチダウン!
無茶苦茶格好良かったりもする訳だ。

後ろから来るボールをなぜキャッチできるのか、
いまだに謎な訳だが、どうもボールの軌跡を読めるというか、
いつどんな時でも、ちょうどその着地地点にブッチは先回りをしてるようなのだ。

と、そして、サッカーごっこ。

これは一緒に遊ぶ犬が少ない時にやるのだが、

足元に置いたボールをドリブルしながら取り合いをする訳だが、
果たしてそのディフェンスのすばやさ、巧妙さ、には思わず舌を巻くばかりである。
蹴ろうとする方向にいち早く身を翻らせてディフェンスに入り、
どこを向いてもどこに蹴ってもほとんど大抵の弾はすぐにブロックされてしまう。
あるいは、甘いドリフトにはそのまま飛び込んで弾き飛ばされ、
下手をすれば、蹴ったボールをそのまま、PKのキーパーそのもので、
飛び上がってはダイレクトキャッチを決めるのだが、
まさに、己の鼻先で蹴られたボールを、いきなり目の前でキャッチする様は、
ピッチャー返しを食らった剛速球投手が、身を躍らせてボールを掴むのにもにて、
まさに神業に近いものがある。

お前、目の前にすっ飛んできたボールになんでそんなに早く反応できるんだ?

とそんなことを聴いても、ボールを咥えたまま、
あるいは、小首をかしげては、嬉しそうに笑っているばかり。

そんな我が家の駄犬を前にすると
少年時代は天才サッカー少年の誉れ高かった俺も、
どうにも形無しな訳である。

と言う訳で、
ドッグランの飼い主達からも、嫉妬交じりに感嘆の声を浴びるのは日常茶飯事。
さすがに売ってくれ、という奴はいないにしても、
まるで大砲のような巨大なカメラで、バチバチと写真を撮られるなんてことはざらである。

凄いな。物凄い運動神経だ。
まったくだ、ほら、この動き、まさに神業だな。
いやあ、こいつが人間だったら、ジッター顔負けの名ショートストップになってたな。
いやあ、それだったらマラドーナ級のサッカープレーヤーだろ。
身体が小さいからアメフトは無理かな?
いや、こいつのこの身の動きだったら、どんなスポーツ、どんなポジションでも適うものなし、じゃないのか。

そんな声を前に、ははは、と笑っているばかりでは済まない気がする俺なのである。

俺としても男の子の端くれ。身体は小さいがその運動神経にはちょっとした自信があった訳で、
しかしそんな俺も、
この駄犬を前にすると、その運動能力にまじめに嫉妬を感じたりするのである。

まあ足の速さ、は良い。
足の数にしたって、向こうは4本、こっちは、二本。
直立歩行の人間である以上、4本足の犬には敵う訳がない。

が、しかし、そう、こいつの持つ、この異様な敏捷さ、である。

ほとんど大抵のボール、それもすぐに鼻先から投げられたボールを、
いきなりスカッとダイレクトキャッチをしてしまう訳である。

昔、野球部だったころに、キャッチャーのプロテクターを着けては、
5メートルノック、なんてのをやらされたことがあった。

マウンドからホームベースが18。5メートル、ベース間が27.5メートル。

で、その半分ぐらいから初めて、もっと前へもっと前へ、とつっこまされて、
しまいには、ほとんど目と鼻の先で打たれたボールを、
まさしく一瞬の呼吸でキャッチする訳なのだが、いやはやこれがまさに辛かった。


がしかし、
後にテニスをするようになってから、この時代に培われた敏捷性が、
まさにボレーボレーの際にはとても訳にたった訳で、
そう、つまりは、動体視力、な訳である。

いきなり目の前に物凄い速さで飛んできたボールを、
一瞬の身のこなしでキャッチすること、
これは、反射だけでは不可能なのである。

つまり、そのボールをまさに、見切ること、が必要な訳なのだが、
このボールを見切る、という能力、
これが、まさに、才能の分かれ目、というか、なんというか、
そう、俺にはちょっと、限界があった訳だ。

その後、機会があってテニス界の大寵児であったロジャー・フェデラーの練習風景にたち合わせてもらったことがあったのだが、
その時に驚いたこと、というのが、彼の持つ動体視力の凄まじさであった訳だ。

全てのボール、その全ての動きを、まさしく見切っている訳である。

後になって写真で見てみると、ロジャー・フェデラーの目は、
まさに、獲物を追う動物そのもの、
妙に、ぽっーっと開かれた瞳孔は、針のように研ぎ澄まされた、
というのではなく、まさにその逆、まるで全てのものを包み込むように、
大きく開かれているのである。

見つめちゃだめだったのか。。。

とその時はまさにく思った訳なのだが、

その後になって、このロジャー・フェデラーと同じ瞳孔を持つものに知り合う機会を得た訳だ。

それはまさに、いま、この目の前、
涎でべとべとになったボールを、これでもか、と顔に押し付けてくる、この駄犬の中の駄犬、オーストラリアン・キャトル・ドッグの雑種な訳である。

じゃあ、最後の一回だよ、と取りあげたボール、
そのボールを見つめるこの駄犬の目。

まさに、大きく見開かれ、開いた瞳孔は針のように刺す、のではなく、
まさに、深い泉の底のように開かれているのである。

ほら、いくよ、いくよ、というたびに、その身体を震わすように右に左にと動き回るのだが、その瞳だけはぽーっと開かれたまま、微動もせず。

で、50CMの距離から鼻先のボール、ほい、と投げられたその一瞬の後には、
カプっと咥えている訳である。

お前なあ、と思わず苦笑い。
いったいどんな動体視力してんだよ、お前は・・・

と思わず頭を撫でると、はっはっはっは、面白かった、もう一回、と尻尾を振っている訳で。


ねえ、だから、ベッドの上ではボール遊びしないで。また苦情が来るよ、
と苦々しいかみさんを他所に、我が家の駄犬は、さあもう一回、もう一回、と盛んに尻尾を振っている。

でもさ、こいつ、ほんと凄いよ、ほんと、フェデラーみたいな目つきしてさ。

犬なんだから当然でしょ?犬ってそんなもんなんじゃないの?

卓球やる猫は見たことあったけどなあ、こいつも卓球上手そうだな。

ボール返す前に全部食べちゃうんじゃないの?

まあそうだろうが。。。


と言ったその瞬間に、投げ上げたボール、ふいを突いた!と思えば、
一瞬のうちに翻った身体を伸ばして、
ボールが投げ上げられるその途中で、カプッと咥えてしまっている訳である。

ほら、凄いよこれ、まじで。テニスやってたらたぶんフェデラーに勝てたな。

犬がどうやってラケット持つのかは知らないけどね。

と言う訳で、そう、我が家の駄犬の秘密、それはまさにこの動体視力な訳である。
ボール遊びをするたびに、くっそお、やってくれるなあ、と思うわけなのだが、
それを知ってか知らずか、俺の顔をみればそれこそ嬉しそうにボールを咥えてくる訳である。

お前って奴は、本当にボール遊びのために生まれてきたような奴だな。

その溌剌とした姿に、まさに尊敬、そして、嫉妬の念を抑えきれない訳である。

で、そう、そうこうするうちに、友人からメールを頂いた。

犬の犬種別の運動能力に関する記事からの抜粋であったのだが、
ボーダー・コリーと、そしてこのオーストラリアン・キャトル・ドッグ、
犬の中でも、こと視力、それも動体視力に関してはぴか一らしい。

ボーダー・コリーは一キロ先の飼い主の表情を捕らえ、
オーストラリアン・キャトル・ドッグは、まさに猫さながらに、
飛ぶ鳥さえも叩き落とすそうである。

そうか、犬種だったのか。。

と言う訳で、改めてこのオーストラリアン・キャトル・ドッグという犬種、
まったくもって、犬の中の犬。
尊敬の念を新にした訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

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