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「でもどらむ」

Posted by 高見鈴虫 on 21.2013 音楽ねた   0 comments   0 trackback

ニューヨークに来て間もない頃、
ミッドタウンのど真ん中のビジネス街に勤務していた。

ビジネス街と言っても通り一本挟んで
ブロードウエイやタイムズスクエアにも近く、
押し黙ったオフィスを一歩出た途端、
街中がパーティモード。

という訳で、
一応スーツにネクタイ姿の俺であった訳だが、
昼休みになった途端にエレベータに飛び乗り、
そして向かうのは48丁目の楽器屋街。

老舗であったMANNY’s MUSICから始まって、
SAMASHからDRUM WORK SHOPから
楽譜屋から修理屋からと、こと楽器に関する物が
所狭しと並ぶこの通称ミュージック・ストリート。

ミッドタウンの会社に勤めていた間、
昼ともなれば必ずこのミュージック・ストリートにかっ飛んで、
そして昼休みの時間ぎりぎりまでこの辺りをうろついて過ごしていた。



という訳で、いきなりだがデモドラムである。

各楽器屋のショールームに、お試し用として展示されたデモドラム。

さすがに、アコースティックの本ちゃんドラムをどしろうに叩かせる、
という店は少なくて、
アンプをつながなくては音の出ないデジドラが主だった訳だが、
まあ、デジドラと言えどもドラムはドラム。

これを前にすると、もういてもたっても居られなくなり、
思わず、あの、これ、ちょっと触ってみていい?

ってな感じで店員に擦り寄って、、あるいは目を盗んでは、
表面だけは、へええ、こんなものが出たんだ、買っちゃおうかな、
ってなお惚けを装いながら、
思わず被ってしまったヘッドフォン。

で、ちょいちょいとつまみを変えながら、
みるみると進化を続ける新製品、
ヘッドのタッチや、シンバルのトーンや、リムショットの具合、
なんてのを確かめながら、
実はやはり、そういう事は俺の目的ではないわけで。

という訳で、徐に叩き始めるデモドラム。
なんだよこのチープな音は、と舌うちしたくなりながらも、
がしかし、デジドラにはデジドラのプレイスタイルがある。
それを見極めてみよう、とばかりに、
最初はJAZZ。そしてFUNK、そしてそして・・・

とやるうちに、いつしか全身汗びっしょり。
濡れたワイシャツがすっかり透明化、
下手をするとネクタイの先から汗の雫が落ち、
あるいはジャケットの背中に大きな汗の湖が広がっていたり。

で、ふと振り返ると、周りを囲んだお客たち。

すっげええ、と目を丸くするガキども。
ふんふん、以外とやるな、と不敵な笑いを浮かべる元ミュージシャン風の親父。
で、思い切り迷惑そうな店員たち。

だがまあ、客を集めてしまえばこっちのもの、とばかりに、
店の迷惑顧みず、叩きまくってしまう訳なのだ。。。

という訳で、
まあ店員の対応よりけりではあったのだが、
まあしかし、俺が叩けば確実に宣伝にはなる訳だし、
と勝手に決め付けた俺、

その店員たちにしたって
いちおうミュージシャンの端くれ、あるいは、慣れの果て
少なくとも少しでも音楽を齧ったものであれば、
このスーツ姿の日本人が、実はとんでもないドラマーである、
ということだけはすぐに察しがつく筈である。

挑んでくる奴もいてうざかったり、
あるいは露骨に嫉妬をして嫌がらせする奴もいるには居たが、
しかし、そう、そこはミュージシャンである。
テクのある奴はそれが何人であれ一目を置く。

という訳で、そのデモドラムで色々な人に会った。

超有名ビッグスターのツアードラマーであるなんとか、から、
握手を求められたことがあった。

隣り合わせのデモドラムでJAMったホームレスの爺、
そのあまりの壮絶な上手さから、
思わずハグしてしまったのだが、
会社に戻った後に全身からとんでもない異臭。
スーツごと捨てる羽目になったり。

あるいは、調子に乗って叩いていたら、
いきなり額と背中をつかまれて、ぐっと、背筋を伸ばされ、
おまえ、その姿勢を続けていると必ずヘルニアになるぞ、
それからBIBAPを叩く時は、スティックの持ち方はこうだ、
この方が音が抜ける。
と言い残していった老人。
なんだあいつ、と見送る俺に、店員すべてが凍りついている。
なんとレニークラークであったらしい。

と、そんなわけで、まあ12時から1時の間は我が物顔であった俺なのだが、
そんな中、
調子に乗った店員のカルロスが、
俺の知らぬ間に俺のドラムを店頭の巨大アンプを直結してしまい、
ふと気がつくと、店中が押すな押すなの大混雑。

店中にあるありとあらゆるパーカッションを手にしたお客たちが、
そらいけ、とばかりにジャムセッションを繰り広げていた訳で、

コンガ、マラカス、カウベル、タンバリン。
シンバル、スネアに、フロタム、タムタム、バスドラム。

踊るガキども、
駆けつけたストリートミュージシャンが店の前でバケツを叩き初めて、
ゴミ箱やら電柱を叩くホームレス、
走り回るがき、写真を撮りつづける観光客。

観光客は観光客で、おお、これはまさに映画のあのシーン。

あれあれ、と俺。

そういえばこんな騒ぎをテキサスでもやらかしたことがあったな。

と、
そうこうするうちに警察が駆けつけてこの騒ぎはお開き、
になった訳だが・・・

で、騒ぎの後、店の方はというと、宣伝になってよかった、
とお礼を言われるかと思えば・・

店長のビリーから、思わず顔をしかめられ・・

あの騒ぎの間に、とんでもない数の売り物が万引きされたそうなのである・・

ああ、そういう事か。。。

という訳で。。。かなり遅刻してお昼から戻った途端、
マネージャーから会議室に呼び出し。

おっと、遅刻がばれたか、と、ぐしょぬれのスーツのまま駆けつければ、
そこには経営陣も含めてお偉いがずらり。

で、みな一様にこれ以上なくニコニコ。

どうした、汗びっしょりじゃないか、とマネージャー。

え、いや、あの、昼に運動をしてまして。。あの健康のために・・

とすっとぼける俺に、

楽器屋でか?これ?とエアドラムしては、一同、ゲラゲラ笑い。

なになに?と俺。

いやあね、と、支店長。
日本からいらっしゃってる、この会長のXXさんがね、

とご紹介をうけて、あ、どうも、とその爺さんに会釈。

お昼にお連れしようとしたら、なんか楽器屋街が大騒ぎになってってさ、
で、XXさんが、ご興味を示されて、で、覗いてみたんだがね。

いやあ、まるでブルース・ブラザーズ、
通り中でさ、ホームレスは踊る、子供は走り回る、バケツ叩いたり、とかね。

ああ、大騒ぎだった。凄い人だった。

で、押すな押すなで中を覗いて見れば、
その騒ぎの中心にいるのが・・・なんとうちの社員じゃないか、と。

スーツに、ネクタイ締めてさ。

お前・・いつも昼にひとりでどこ行ってるかと思えば、あんなことやってたのか?

いや、あの、まじ、あの、とうろたえる俺。
あ、でも、あの、昼休みになにをしようが俺の勝手というか、
と思わずのどまで出掛かった言葉、

いきなり、
面白かった!

と会長のXXさん。

とても面白かった。いや、感動した!実に感動した。
ニューヨークだ。ニューヨークに来て良かった。
俺はニューヨークが世界で一番好きだ!

会長もこうおっしゃってらして、と支店長。

と、面々が顔を見合わせて、大笑顔。

会長、踊っていらっしゃいましたね。

いやあ、はは、俺もまだまだやるもんだろ?どうだ、ははは。

とご満悦のご老人。

とそうこうするうちに、出前のピザが届いて。

という訳で、昼のご会食は、寿司をキャンセルしてここでピザを食べることになった。

ははは、と俺。

ピザ、いいじゃないか、と会長。ニューヨークだ。なんでもありだ。

で、会長さんとやらから、あらためて、いやあ、面白かった、ありがとう、
と握手を求められた末に、
届いたピザの一切れをお裾分け頂いて会議室を後にした訳だが・・

さすがにドアを閉めたときには全身の汗が冷え切っていた。

やばいな、この会社、そろそろ辞めるか、と思った訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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