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零下10℃下でのテニス

Posted by 高見鈴虫 on 23.2008 ニューヨーク徒然
朝起きたら11時。
完全に寝ぼけたまま珈琲をいれて、
煙草をくわえてキッチンの窓を開けたら、
おっと、いきなり吹き込む凍りの刃。
これはこれは、と苦笑い。
そう、NEWYORK先週からいきなり寒くなってさ、
40度のポカポカの秋から、
一夜明けたら突如零下10度の世界。
あのなあ、と。
で、今日はテニスは無理だな、
とメールなんて開けてみて、
したら日本に帰った友達からこんな写真が届いていた。
一人ラーメンライス・・・
おいおい。随分美味そうだね、なんて。思わず朝から生唾ごっくん。
でもね、
そう、食事の良し悪しなんて、
実は大した問題じゃなくてさ。
それが何であっても、
一番のご馳走って、やっぱり好きな人と一緒に食べること!
これに尽きる。ほんと、これに尽きる。
仕事先のお付き合いで連れて行かれた高級料理、なんかより、
ザガットで星がいくつの、なんてうんちくを聞かされるよりも、
やっぱりね、
一番のご馳走は大好きな人。
素敵な笑顔と楽しいおしゃべりと、
そんな人と食べるラーメンやら雑炊やらの方が、
高級うんたら、なんかより、
やっぱりずっとずっとずっとおいしい。
君の笑顔が一番のご馳走、なんてちょっとすかし過ぎだけど、
いや、これ、まじで、本当に。
好きな人の笑顔が、この世の一番のご馳走。
これ以外ないよね。あるべきじゃない、と言うか。

なのでまたまた性懲りもなく、
おーい、ご飯食べない?ランチでもディナーでも、電話くれよー、
なんてメール書いていたら、
いきなり電話!
おおおおお、早い、早すぎ、メールも出していないうちから、
これぞまさに以心伝心、と思いきや、
あれ、なんだこの番号、と携帯をあけるといきなり野太い声。

へい、と、一言。
いつまでも寝てるんじゃねえぞ、くそったれ、と来た。
あのなあ、と。
俺、今起きたばっかりだし、もしかしたら約束もあるかもしれないし、
それにそれに、おい、今日は外の気温はいったい何度なんだよ、と。
そんな言い訳、聞く耳持たず。
寒いだろ?
ああ、寒いぜ。冬だからな。
で、お前いまどこにいるんだよ。
テニスコートに決ってるだろう?土曜日じゃねえか、と。
こいつなあ、とますますキチガイ・・
思わず言葉を失って溜息をついたその隙に、
じゃな、待ってるぜ、急げよ、と吐き捨ててブチ切りしやがった。

という訳で、渋々、本当に渋々。
飲みかけの珈琲を一気に飲み干して、
Tシャツの上から厚手のスエット、その上からフリースのベストを着て、
その上からダウンジャケットを羽織って、と、まるで南極探検隊。

気温は30度=-1度、とあるけど、
おいおい、良く見ると風が強くて、
で、体感気温、17度=-10度って出てるぜ。
-10度?なんだよそれ、と、首を傾げながら自転車の人。
あれ、なんだよ、割と大丈夫そうだな、と走り始めたとたん、
いきなり吹き付けてくる北風、
思わず、雄叫び!おおおおおおお!
これはこれは、と。
思わず息を止めて、で、うぅぅん、これはちょっと危なそうだぞ、と。

で、辿りついたテニスコート。
当然のことながら誰もいない。
僅かに残った陽だまりの中に犬、
というより冬眠中のクマのように座り込んだ馬鹿が一人。

おかしいのは、その周りに、ハトからリスからが取り囲んでいて、
なんだよお前、いつからドリトル先生になったんだよ、と。

という訳で、始まりました零下10度下でのテニス。

まずはこの着膨れ。身体が回らない。膝が曲がらない。
で、ボールがぜんぜん弾まない。
ラケットに当たるたびに、バスン、でも、パカーン、でもなく、
ゴツっと鳴って、でスピンがまったくかからない。
すっぽ抜けのバックアウトか、当たりそこねの2バウンドばかり。
なだこれ、と。
おまけにこの風。真正面からいきなり吹き付けてくるこの氷の刃。
顔全体が一瞬のうちにガビガビに凍りついてしまって。
ネットに落ちたボールが、コロコロと転がって、
それがいきなりネズミのように走り初めて。
で、いきなりコートを横切る枯葉の塔。
つむじ風に巻かれた竜巻が、ひょろひょろとよろめきながら、
ネットの前を横切って、
で、その中からいきなり黄色いボールが飛び出してくる、と。

ああ、身体が硬い。硬すぎる。
全然ウォーミングアップをやっていない上に、
寒くて筋肉がコチンコチン。
サイドに振られるたびに、もう足を踏み出すのも嫌になってきて、
で、おまけに左手がもう寒いとか冷たいとかじゃない、
ただたんに痛い。そう、とても痛い。
そのうち指先が痺れてきて、そのうち右手も痺れてきて、
そのうち足のつま先も痺れてきて、おおおおお、と雄叫び。
ぜんぜん、ぜんぜん、上手く行かない!球が走らない!

したところが、どういう訳だか相方のクマ、
なぜか今日は異様に調子がいい。
追い風をいいことに、当たりそこねの短い球を、
右に左にこれ見よがしに振り回してきやがって、
苦し紛れに返すちょん切りスライスを、
待ち構えていたように全てサイドにウイナーで持って行かれて。
くそったれ、と歯軋り。そのうち、おおおお、と雄叫び。
そのうち、馬鹿やろう!と怒鳴り声。だぁぁぁぁあ、と叫び声。
コートマナーもなにもあったものじゃない。
まあいいじゃねえか、どうせ誰もいないんだから、
といつのまにか怒鳴りあい。
そのうち、滝のように流れ始めた鼻水、
アガシじゃないが手鼻をかむたびに、
その手鼻がコートの端にいつまでいつまでも残っていて、
ふとみると、おおおお、凍ってる!
と驚いたとたんに吹き付ける突風。
目も開けれず、呼吸するたびに鼻の穴が痛い。
もう顔と言わず手と言わず足と言わず、
全身が痛いのを通りこして感覚が失せてきて。

そんな俺に、
どうした、もう終わりか?根性ねえな、ニホンジン、とせせら笑い。
んだこの野郎、と歯軋りしながらも、
この寒さ、この風、この身体、あああ、もう死にたい。
思わず、来るんじゃなかった、と。
あああ、こないだのラーメン、美味しかったな、
と、冬枯れの空におもわずあの子の笑顔が浮かんだ途端、
ばしっとばかりに股間に強烈な一撃。
馬鹿、どこ見てんだよ、と。
つくづく、つくづく、俺はこいつが嫌いだ、と。
うっし、
かくなるうえは、もう容赦はしねえぞ、と。
スライスだスピンだ、なんて眠たくなる。
全てのサーブを全てフラットで叩き込んで、
風を切るちょん切りスライスで前に後ろにふり回し、
深いトップスピンで思い切り仰け反らせて、
で、決まりはおちょくりドロップショット。
うらうら、クマ公、もっと走らねえか、と。

という訳で、零下10度。
いつのまにか汗びっしょり。
スエットからもフリースからもまるで汗が滴るようで、
いつのまにやら全身から湯気がモアモアと立ち上って。
という訳で夕暮れまで。

いやあ、結構できたな、と笑ったクマ公。
寒さも風もそ知らぬ顔。
いやあ、ほんと、白人って寒さに強い、
と思っていたら、
え?ロシアン?お前、ロシア人なの?と。
ああ、そうだよ。俺はロシア人だ。
あれまあ、アメリカ人かと思っていた。
だから、ロシア系アメリカ人なんだよ。判るか、と。
この国の人間はすべて、なんとか系がつく訳で。
だって移民の国だからな。
という訳で、俺はロシア系、という訳だ、と。
なあんだ、通りで、と思わず納得。

じゃな、また明日、と別れた途端、
全身の汗がぞぞぞぞっと冷え始めて、
やばいやばい、と羽織ったダウンジャケット、
うへええ、内側の汗が凍ってる!!

という訳で整理運動もなにもかなぐりすてて辿りついたアパート。
ドアマンから隣人からに、
うへえ、こんな日にテニス?と呆れられる、と言うよりも、
このひと、ちょっと大丈夫か?と疑わしい目で見られながら、
転がりこんだ部屋の暖かいこと。
濡れたシャツを脱ぎ捨てて、
全身をガタガタ震わせながらシャワーに飛び込んだら、
おおおおおお、極楽極楽、
と思いきや、あれあれあれ、と思う間に、
なんか全身が痒くなってきて。
手から足からゴシゴシと擦っているうちにだんだん皮がすりむけてきて、
なんだよなんだよ、まるでアトピーにかかっちゃったみたい。
なんて笑っていたら、
おっと、いきなり足の指がピキーンと突っ張って、
おっと、攣った攣った、と驚いた途端、
おっと、いきなり脹脛がピキーンと凍りついて、
お、ヤバイ、と思った途端、太ももから腹筋から、
腕から肩から指先からが、まるで雪崩を起すように強張り初め、
うひゃああ、これはまさに全身緊縛、まさに金縛り状態。
濡れた身体のまま転がり出て、
テニスバッグの中からスポーツクリーム、
風呂に入ったばかりの身体にこれでもか、と塗りたくって、
おっと、あっちっちっちっちっち、とこれまた転げ回って、
動くな、動くな、落ち着け落ち着け、と呟きながら、
床の真ん中に全裸で横たわったまま、
見つめる部屋の天井、ずいぶんと皹だらけだな、なんて思っているうちに、
なんかいつの間にか眠くなって来て・・・

はっと目を覚ますと真っ暗な部屋。
全裸のまま床に大の字。
寒い、風邪引いた、と思ったとたんにくしゃみを20連発。
ああ、腹減った、と思い返して、
床に転がった携帯、に、メッセージはなし・・・
ああ、今日も一人飯か、と、溜息を一つ。

暗い部屋の中、煌々と灯るモニター一面に、
映し出されたラーメンライスの写真。

幸せってなんだっけなんだっけ、ポン酢醤油のあることさ、
なんて、もう何十年も前のCMソングを思い出して、
ああ、いまごろあいつは誰とご飯を食べてるのかな、なんて、
そう考えるとちょっと悲しくなってきて、
なんて思ったとたんにまたまたくしゃみを20連発。
そうそう、こんなことばかりはしていられない。

ひとりでもなんでも、ラーメンでもステーキでも、
とりあえず人間は生きている限りは何かを食わなくっちゃいけない。
それは食事、というよりも餌、餌というよりも燃料。

いつまでも無いものねだりのダダをこねていないで、
そう、そろそろ真面目に一人暮らしを始めなくてはいけないな、と。

おかげさまでこの一週間で、ちょっと出っ張ってきていたお腹が、
またまたペタンコになりました。


じゃねじゃね

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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