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はっはっは、子供は正直でいいや

Posted by 高見鈴虫 on 13.2013 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments   0 trackback
どこぞの大金持ちの御曹司であった筈のトッド。

いまは親の遺産であるトランプタワーに暮らしながら、
しかしここ少なくとも5年近くは、まともな職に就くこともなく、
ガールフレンドに食わせてもらうというしがないヒモ暮らしを続けている。

まあガールフレンドにしても、普通に借りたら100万円もするような、
超高級デラックスコンドの最上階に居候を決め込んでいる以上は、
家主の飯代ぐらいは多めにみてやろう、というところなのだろうが。

といわけで、超高級コンド・トランプタワーの住人であるトッド。

一日中やっていることと言えば、
ガールフレンドの犬をドッグランに連れて来ては、
日がな一日ベンチに座って暇を潰しているだけ。

お前、金持ちなのはわかるが、
いい加減ろくな仕事でも探してみたらどうだ?
そのうち太り過ぎて自分の足では歩けなくなるぜ、
とは言うのだが、
仕事そのものを、下らない消耗作業。ぜんぜん興味がないね、
といってしまっている以上、まあろくな仕事が見つからない。

まあな、確かに。
俺も働かなくて良いのであれば、自分からわざわざ無理して働こう、
とも思わないであろうが。

という訳でこのトッド。
嘗てはプロテニス・プレーヤーを目指した、
という割りにはいまとなっては見る影もなく、
まさに関取りのように太りきっている。

犬の散歩、と言ってもドッグランまで歩いてくるのがやっと。
あとはまあ勝手に犬同士で遊んでくれ、と放っておいたまま、
雨が振っても喧嘩があってもまったく眼中になく。

ただただ一日中ドッグランのベンチに座っては、
一人、皮肉な笑いを浮かべながら世の中を見下している訳である。

とまあ、よくぞここまで立派なフール・オンザ・ヒルぶり。
いやはや、金持ちってのは違うものだなあ、と冷笑を通り越して、
ちょっと尊敬してしまうところもあるのだが。

がしかし、
ガールフレンドに会った際、改めて聞いてみれば、
ぶっちゃけ、ここだけの話、と前置きして、

実は仕事を探していないというのは大嘘も大嘘。

かのイエール大学出身。
嘗てはバリバリの金融野郎であったトッド君。
が、かの2008年のリーマン・ショックで失業以来、
あまりの怒りに、ちょっと頭のタガが弾けてしまったところがあるようだ。

で、
貰った退職金と失業保険に余裕をぶっこいて、
クソッタレ、こうなったら一生働いてやるものか、
と臍を曲げているうちに、
いつの間にか仕事という仕事なにひとつ見つからない、
つまりは社会そのものから完全に遊離してしまった、
というのがその真相らしい。

彼もいろいろやったのよ。
それこそ不動産屋のエージェントから始まって、
リクルーターから、ITヘルプデスクから、
苦情受付のコールセンターまで。
土方から大工からペンキ屋からコック見習いから。
やっていないのはタクシーの運転手ぐらいなものね。

なぜタクシーの運ちゃんをやらなかったか、と言えば、
車は乗るものであって運転するものではない、
という育てられ方をしたから、なのだというのだが、
ぶっちゃけ、車の免許を取りに行くのが面倒、
あるいは、
そこで車の運転以外なにもできないようなやつから、
偉そうな顔をされて車の運転なんぞを教わらなくてはいけない、
というのが癪なのだろう。

という訳で、そんなトッド。

2008年から、というと、指折り数えれば早失業歴7年目となるわけだが、
未だかつて、ありとあらゆる仕事、いっさい長続きしない。

やっぱり浮き世離れしたお坊ちゃん育ち。
どこかで根本的に普通人の感覚と食い違っているものがあるのか。

という訳だが、俺はその本当の理由を知っている。

彼はつまり・・そう、正直過ぎるのだ。

その人徳において、正直であることはまさに美徳にもなる訳だが、
自分の立場も他人の気持ちもいっさい考えずにただただ正直であるということは、
時としてただのボウギャクブジン。
あるいはただたんに言葉のバイオレンス魔王と言えないこともない。

例えば、人にお呼ばれした席で、

うわ、せまい部屋だな、まるで物置だな、やら、
なんでこの家にはシャンデリアがないんだ?やら
部屋はこれ以外にいくつあるんだ?やら、

あるいは出てきた奥さんの手料理に、
なんか、塩っぱすぎるな。はっきり言ってまずい、
と言ってしまったり。

トッドにはまさに、そういうことを平気でやってしまい、
やってしまった後になっても、自分がなにをしたのか、
自分以外の人間が彼の言葉によってなにを思ったのか、
まったくなにも想像ができない、というところがありありとしてある。

そう。

正直であることと、思ったことをそのまま言ってしまう、ことは違う。

あるいは、
例えば、かのマリー・アントワネットではないが、

餓死しそうな民衆がパンを寄越せ、とやってくるのを見て、
パンがないならステーキを食べればいいのに、とまじめに首を傾げている、
まさにそんな無邪気さが、トッドには見受けられる訳である。

つまり、そう。それもこれも、彼が浮世離れした金持ちの生まれであった、
ことに原因がある。

つまりは、幼少の頃から、例えなにをやってもなにを言っても、

はっはっは、子供は正直でいいな、

で、全て済まされて来たのだろう。

ごく幼少の頃には、あるいは、
金持ちの子供であれば、それが相当に成長してから後でさえ許されてしまう、
ということを俺は知っている。

権力者である親の手前、その御曹司はなにをやってもなにを言っても、
ははは、子供は正直でいいや、で済まされてしまう。

うちの子供は正直過ぎてなあ。おもったことをはっきりと言ってしまうんじゃ。
気持ちのまっすぐで、嘘の言えない質なんだろうな。
いまから大物の素質十分だ、がっはっはは!(文句があったら言ってみろ、俺が相手だ)

周囲の人々はそのあまりに愕然とするほどのアンフェアさにまさに打ちのめされ、
打ちのめされた人々を前に、御曹司は無邪気にも、正直であることはかくも気分の良いものか、
とその現実を完全に見違えてしまう訳だ。

そうやって現実を完全に見誤ったままに大人になってしまったトッド。

つまり、いまだになにをやっても徹底的に正直なままだ。

そして多分、その仕事場においても、

つまらねえ仕事だなあ、あんたらこの仕事を毎日毎日、もう何年ぐらい続けてきたんだ?

やら、

やれやれ、朝から単純作業ばかりだな。はっきり言ってこんなこと人間のしごとじゃないぜ、

やら、を連発。

人の前で声のトーンを落とす、なんてことは考えても見ないものだから、
ボスやらマネージャーやら経営者やらを前でさえ、

こんな下らない仕事、なんで機械にやらせないんだよ、機械を買う金をケチってるだけだろう、バカな経営者だ、
専用機械さえあれば、ここにいる俺たち全員をクビにできるのにな、

やら、

こんな安い金では働らかあれてるお前らは、自分が騙されてるってことが解らねえんだろ。

よし、それならいいか、よく聞けよ。俺が世の中の仕組みってものを教えてやるよ、と来るわけだ。

そんなことをされた日には、どんな会社だってどんな部署だって、
たちまち放り出されてしまうにきまっている。

彼自身に言わせれば、俺はただ本当の事、つまり、正論を、正直に言っただけ、
な訳だが、当然のことながら、世間は彼に良い顔をしない。

なぜならば、その理由は、
彼が正直ものだから、ましてや、正論を言ったから、では、勿論無い。
つまり、彼が子供だからなのだ。それが本当の理由だ。

という訳で思わず、あのなあ、と。

お前が正論を言っているのは判るが、
お前に正論があるように、実はお前以外の人間、その誰もが自分なりの正論ってやつを持っていて、
一人一人の正論はそれぞれの立場によって違ったりもする訳だ。
その正論は、事情やら、考え方、やらにも置き換えられる訳で、
つまり、全てがそれぞれ、違う事情の中で生きている訳だろう?

といくら言ってみても、

へん、バカな奴らのバカな事情に、なんで俺が合わせなくっちゃいけないんだよ、と来る訳だ。

つまりこの男。

相手はどう考えているのかな、相手の立場に立ったら、
自分の言っている正論はどう判断されるのだろう、
という思考の変換が完全に欠如している、
あるいは、
判っては居るが、他人の事情などは自分の事情にとってまったく取るに足りないものなのだ。

なんといっても・・
なんといっても?
なんといっても俺様は・・・
金持ちの御曹司ちゃんなんだぞ!って訳なんだろう。
いや違う。
違うならなんだ。
いや違う。違うと言ったら違う。

という訳で、お前、テニスでダブルスやってるってなあ、と聞いてみる。

ああ、やってるよ。
勝てるのか?
まあ5分5分だがな。
シングルスでは元デビスカップ候補のお前がなんでダブルスで勝てないんだ?
それはお前、パートナーが下手すぎるからだろ。俺がふたり居ればまさに無敵だ。
いくらお前でもまさかコートでパートナーにそれを言うわけじゃないんだろう?
さあな。でもまあ、言わなくっちゃいけない時もあるしな。相手の為を思ってさ。
で?
で?ああ、理解できるレベルの奴もたまにはいるが、大抵の奴はバカだな。下手すると怒って帰りやがる。
そらな、と思わず。
お前がシングルスで勝てなかった理由もそれだ。
なんでだ?シングルは一人でやるものだろう。シングルスなら負けない。
そう思っているお前がいちばんおめでたいってことだよ。

つまり、相手がいないとテニスはできない。相手があってこそ自分がある、ってな概念が判っていないからなんだよな。ユーアーマイ・ミラー。人間は他人があってこそ初めて人間足りうるんだ。

なんてことを、いくら言っても判らないだろうし、挙句に、あいつの英語が下手すぎて判らない、なんてことを言い出すに決まっている。

あるいはそう、あいつは貧乏人の生まれだから、あるいは、日本人だから、あるいは、もしかしてゲイなんじゃねえのか、なんてことに発展していくのだろう。

という訳でトッドは今日も一人、いまとなっては誰ひとりとして話しかけてこないドッグランのベンチでふんぞり返っては舌打ちばかりを繰り返し、

どいつもこいつもバカばかりだ。俺の話はあまりに高度過ぎて理解できないのだろう。
ああ、バカの居ない世界に行きたいぜ、

と今日も一人嘯いている訳だ。

ははは、子供は正直でいいな、の子供はまだ彼の中に脈々と息づいている。

そして、そんな素直な彼を見守ってくれるひとは、いまや世界に誰もいないのだ。

子供は素直でいいや、という育てられ方をしたプリンスたち。

そう言えば、と思わず。

そう言えば、前に働いていたIT会社にも、そんな困ったちゃんが沢山いたっけかな。

それは僕の仕事じゃありません、
やら、
入社直後から、僕は実務にはあまり興味がないので、それよりはマネージャーをやらせて欲しい、
やら、
果ては、そんな下らない仕事は、下らないことが得意な奴に演らせればいい。
俺にはこの仕事が下らないと判るぐらいの知能がある。
だからそれが判るぐらいの知能のある俺はその仕事をやるべきじゃない。
やらやら。

この言葉、すべて本当にこの耳で聞いたときにはまさに耳を疑った、
あるいは、とてもおもしろい冗談だ、と思ったのだが、
本人たちが、まじめの本気で言っているのを聞いて、
俺は俺で本当の本気で大笑いしたものだ。

どこの御曹司様か知らないが、お前ら、その歳までいったいなにをやっていたんだ?

と思わず根掘り葉掘り聞きだしたくなるぐらいに好奇心をくすぐられた訳だ。

つまり、どうすればそんな歳までそこまでバカで育つことができたんだ?

ということだ。

そしてそれほど長い時間を費やすことなく、
彼らは、自分の言った正論の通らない会社、あるいは通さない人々を、バカ、あるいは老害、と決めつけ、
そして会社を去っていった。

移っていった先の会社でもまさか同じことを言っているのだろうか?
あるいは、
そういう彼らの正論がまかり通ってしまう世界がこの世には存在するのであろうか。

そう思うと思わず、元気でやってますか?こんど飯でも食いませんか?なんてメールを出してしまったりするわけだが。。

という訳で、そうトッドである。

まさに、このトドのような中年男も、そんな中二病のゆとりのガキのひとつの典型である。

なんとなくそんな彼が、懐かしい、というか、愛しくもなるわけだ。

俺も物好き、というやつなのか、とは思いながら、
その大間違えぶりがあまりにも面白くて、興味を覚えて、
あるいは、そう、もしかして、まだ中二だったころの頃を懐かしんで、

思わず話し込んでしまったりもする訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
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