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ハーディング・ドッグ

Posted by 高見鈴虫 on 15.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback
相変わらずいくつになっても悶着の耐えない我が家の馬鹿犬君。

散歩の途中にすれ違った酔っ払いのちんぴらにいきなり飛び掛り、
ドッグランでは喧嘩ばかり。

挙句に火災報知器のチェックに訪れたアパートのハンディーマンを、
一歩も家に入れることもなく追い払ってしまう始末。

つくづく困りきってしまったかみさんに、
それはね、この子がハーディング・ドッグだからなのよ、
というエレン。

ハーディング・ドッグ?

そう、ハーディング・ドッグ。

ブッチはオーストラリアン・キャトル・ドッグ。うちのチェスはボーダーコリー。
どちらも典型的なハーディング・ドッグなの。

ハーディング・ドッグはね、牧場で羊やら牛やらを追う労働犬なのよ。
狩猟のために作られた命知らずのハンティング・ドッグはね、
主人が命じればなにも考えずに獲物に突進するのが常なんだけど、
このハーディング・ドッグ。
人間にできない仕事を犬としての能力によって可能にするまさにマジックドッグ。
広大な牧場で羊や牛の群れを束ねながら、敵から群れを守り、喧嘩を仲裁し、
時として人間の指示を無くしても、
独自の判断で群れを移動させながら仕事を完遂するのがその指名なのよ。

つまりね、ハーディング・ドッグは自分で考え自分で行動する犬なの。

それが為にね、人間社会では色々と問題を起こすことも多いんだけどね、
それはそう、この子たちがハーディング・ドッグである、ということを
よく理解してあげる必要があるのよ。

と言う訳で、改めてハーディング・ドッグである。

エレンの言う通り、
ハーディング・ドッグとはつまりは牧羊犬のことで、
コリーやシェパードと並んで、
我が家のオーストラリアン・キャトル・ドッグは
オーストラリアの牧場で牛を追う為に改良された品種であるらしい。

牧場犬に求められるさまざまな能力、
山野を駆け回る運動能力と、
巨大な家畜や敵と渡り合う戦闘能力
また人の指示に従う知力に加え、
番犬としてテリトリーと家族を守る意思の強さ。

そのどれをとっても我が家の犬にこれ以上なく当てはまる訳で、
我が家の犬、つまりはオーストラリアン・キャトル・ドッグ、
まさに典型的な牧羊犬気質。
まさにハーディングドッグとしては最高の才覚に恵まれた
と言っても良いはずなのだが、
問題はここがオーストラリアの牧場ではなく、
ニューヨークのマンハッタンである、という点である。

と言う訳で、この見るも見事な牧場犬が、
果たしてその才覚をマンハッタンにおいて発揮した場合、
それはちょっと困った状況を生みだしたりもする。

山を駆け回る運動能力を満足させる為に日夜一日最低4時間の運動が必要になる。
巨大な敵と戦う攻撃性は、こともあろうに酔っ払いやホームレスや道路工事のおっさんなどに向けられ、
人の指示に従う知力は、下手をすると、飼い主のこの指示は正しいか?という反芻の後の自己判断を伴うことが多く、つまり一度言い出すとなにを言ってもなにをやってもいう事を聞かない頑固者に豹変する。
番犬としての能力はまさに筋金入りで、彼の許しなくしては何者たりとも一歩も我が家に足を踏み入れることはできない。

おまけに我が家の犬種。
巨大な牛の群れを吠えることなく操ることを持ち前としているらしく、
その武器はと言えば、まずはその視線。相手の瞳の奥をじっと覗きこむようなきっとした視線をしていて、その強烈ながん見をそれこそすれ違う通行人の一人一人にバチバチと放って行く訳で、
勘違いした人々が一瞬のうちに一目ぼれ。思わず頬を赤くして、あらやだわ、と瞳を潤わせたり、
なんてことになる。
とそして、この犬のもうひとつの武器、はと言えば、物も言わさずに突然繰り出されるその眼にも止らぬ強烈なジャブ。
先のがん見とこの一刺しを受けた犬達はそれが例え闘犬と言われるピットブルであってもロットワイラーであっても、大抵はそれだけで尻込みをしては、すごすごと引き下がることになるのだが、
しかし中には気の短い輩もいる訳で、そんな失礼な挨拶に肝を冷やされた腹いせに、やいやいやいやい、なにしやがんだよ、と改めて喧嘩腰しで向かってくる奴らもいる訳で、
そのときにはまさに、猛牛をもものともしないその攻撃性を発揮して、んだよこのやろう、やるのか、おい、とばかりに完全に臨戦態勢。
身体は小さいもののその敏捷さとタフさはまさにハーディング・ドッグの中のハーディング・ドッグ。
たちまち鼻の先から耳から手足やらを齧られて悲鳴を上げることになる。
と言う訳で、口の先に絡みついた相手の毛の塊を忌々しげに振り払いながら、
へん、どんなもんだ、とばかりのしたり顔。
かみさんの前でいつもの鼻の下を伸ばした様子では決して見せることのない、
男の子の顔がその表情に凛として刻まれている訳だ。
が、しかし、改めて言えば、ここは牧場でも砂漠やジャングルでもなく、
つまりはニューヨーク。そしてこのドッグラン。全ての犬のその背後には飼い主という輩がいる訳で、
そしてどんな飼い主でさえ、たとえそれがどんな犬でさえ、自身の犬をまさに自分以上にも可愛がっている者ばかり。
つまり、我が家の犬にこともあろうに喧嘩を売った不貞の輩でありながら、
キャンキャンと尻尾を丸めて飼い主の下に逃げ帰った途端、
やいやいやい、うちのわんちゃんに何しやがるんだ、と怒鳴り込んでくる訳だ。
俺は俺で、なんだと、このやろう、なにしやがるじゃねえ、てめえがその眼でちゃんと見てただろ。
ばかも休み休み言え。喧嘩売ったのはてめえの犬で、うちの犬はそれを叱り付けただけ、の話じゃねえか。
バカやろう。先に噛んだのはお前の犬だろ。俺はこの目でよく見たぞ。
だから、喧嘩はその前に始まってたんだよ。お前の犬が俺の犬に喧嘩を売ってくるから、うちの犬は喧嘩はしたくない。がそれでもかかってくるなら容赦はしない、とちゃんと言っていただろ。
お前の犬はそれを承知でチャレンジして、案の定してやられた、って訳だ。
大丈夫。そんなちんかすの犬にまじ噛みなどしない。ちょっともみ上げのあたりを毟っただけだ。
なんだと、このやろう。うちの犬がちんかすだ?こう見えても血統証つきの、

と言う訳で、我が家の雑種である。
ドッグランでもすっかり古株で、余程のことが無い限り他の犬達とじゃれ付いて遊びまわる、なんてこともないのだが、
いつもあたりに睨みを利かせては、やれ喧嘩だ、不審者だ、と見れば、いの一番にすっ飛んで行って、
やいやいやい、と仕切りを利かせるわけだ。

そんなとき、下手をすると俺自身が、お前はすっこんでろ、と怒られたり、
あるいは、逆切れした俺を、まあまあ、そんな怒ることないじゃないの、と慰められたりもして、
となかなか気の聞く奴ではある。

と言う訳で、親ばかながら我が家のハーディング・ドッグはなかなかできた輩である。
その夜目にも白く輝く見事な毛並みと、そして高く掲げた自慢の白い尻尾。
朝もやのセントラルパークをボールを追って疾走する姿や、
ジャンプ一発でキャッチしたフリスビーを、まるで捕らえた獲物に止めを刺すように振り回す様は、
まさに惚れ惚れするほどに犬の中の犬、そのものである。

こんな格好よい犬、世界中どこを探してもいないだろう、
と親ばかの限りを尽くしても尽くしきれない大バカ犬である訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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