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ニューヨーク・シティー・マラソン

Posted by 高見鈴虫 on 03.2013 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback

今年は例年に比べ紅葉の進みが遅いな、
と思ってはいたのだが、公園の植木並木と言えどもやはりそこはニューヨーカー。
晴れ舞台であるニューヨーク・シティ・マラソンに合わせて、
狙い済ましたようにその紅葉をピークにドレスアップ。
ドラマティックな色彩の演舞を世界に知らしめてくれた。

秋のニューヨークのメイン・イベントでもあるこの・シティ・マラソン、
去年は季節外れの台風・サンディの襲来によって中止とせざるを得なかった訳で、
復活戦!とばかりに、とんでもない大盛況である。

地元のニューヨーカーはもちろんのこと、世界中からの膨大な参加者を含め
参加者は7万人を数え、スタテン島から始まり、ブルックリンからクイーンズ、
ブロンクスを経由してマンハッタンの中心であるかのセントラルパークのゴールへとひた走る。

全長26.3マイルを二時間台で走りきるプロ達はさて置いて、
このシティ・マラソンの醍醐味と言えば、まさに一般参加。

つまり、その主役はご近所さん達。
会社の同僚が、犬の散歩仲間が、テニス仲間が、バンド仲間が、という、
まさに、あいつらこいつらあのひとこのひとたちが、
一同に揃っては全ニューヨーカーの声援を一身に浴びながら
その長い長い檜舞台を駆け抜ける訳である。




IMG_2674.jpg



と言う訳で、この俄かスター気分を満喫できるニューヨーク・シティ・マラソン。

3時間台を狙うシリアス・ランナー達への尊敬ももちろんのこと、
どうせなら、という訳で、あの手この手で趣向を凝らした目だとう根性!
なんとかスターらしくスターを気取りたいというパーティ・フリークスの意気込みたるや、
悪ふざけを通りこしてまさに鬼気迫るものがある。

数日前のハロウィン仮装パーティのいでたちでそのままマラソンに参加するツワモノがわんさか。
定番になったバニーちゃんからセクシーナースからゾンビーからドラキュラから、
アニメのコスプレといえば、おまえそれいつから着てんだよ、のセーラームーン集団。
走っているうちに壊れ切っていまやさっぱり訳の判らないゴミやガラクタを背負って走り抜ける亡者たち。
まさに、ハロウィン・マラソンの異名を取るゆえんだが、いやはや、まったくこいつら何しに来てるのだ。
まじめに走る気などさらさらないのだろう、とは思いながらも、
冗談でやるにはこの26.3マイル、ちょっと過酷過ぎる。

と言う訳で、この断末魔、毎度毎度ながら思い切り笑わせて貰える。

と言う訳で、このシティ・マラソン。
改めて言えば、このマラソンを完走したことがあるか、ないか、は、
まさにこのニューヨークにおけるある種の勲章。
あるいは免罪符にもなりえる。

村上龍の初期の短編で、「ニューヨーク・シティー・マラソン」という逸品があった。

歳を経た売れない娼婦が、シティ・マラソンを完走できたら、
人生をもう一度やり直してみよう、と決意する話であった。

そう、そうなのだ。
ニューヨーク・シティ・マラソンとはつまりはそういうことなのだ。

もしもニューヨーク・シティ・マラソンに完走できたら、結婚してくれないか、
とプロポーズした相手が、フィニッシュラインに待っていることを祈って、
片手に指輪を握り締めたまま走り続ける男。

あるいは、去っていった恋人を吹っ切るために、
あるいは、もしや、この晴れ姿を見てもう一度よりを戻せないか、
と心に秘めるもの。

克服したガンへの決別の証としてマラソンを走りぬく坊主頭のおばあちゃんは、
ガン・サーバイバーのシャツを着て大歓声を浴び、
あるいは、死んでいった友人の写真を胸に、お前の分まで俺は生きるぞ、と涙を堪えて走り続けるもの。

くっそ、俺だってまだまだやれるんだ。このマラソンに走りきったらぜったいに転職してやるぞ!
と誓った男は、まさに、胸に、HIRE ME! 俺を雇ってくれ、と染め抜きながらレジメを配って回る。
そこにはまさに、シティ・マラソン、現在、完走中、とあって大爆笑。

あるいは、ここニューヨークで過ごした日々へのお別れの言葉をこめて帰国直前のレースに挑むもの。
あるいは、帰国を余儀なくされながら、もしもこのマラソンで走りぬいたら、もう一年だけがんばってみようか、
と思いを込めているもの。

まったくもっての、このニューヨーク・シティ・マラソン。

7万人がぞろぞろとニューヨーク中を走り続けながら、
その誰もが、その26.3マイルの間に、これでもかというぐらいのドラマを抱えている訳だ。

それを知っているからこそ、沿道を埋めたニューヨーカー達は、声の限りを尽くして、
名も無いヒーローたちに声援を送り続けるのである。

そして、いかに妙な奴でも嫌な奴でも、あるいは普段からどうしようもないことをしている奴でも、
シティ・マラソンを完走した、と聞けば、
へええ、とそれだけで、なんとなく、だったら許してやってもいいかな、
と思ってしまう何かがあったりするのだ。

そう、このニューヨーク・シティ・マラソンとはそういった意味でもニューヨーカーたちにとって、
ちょっとした意味を持ちうるのである。


と言う訳でこのシティ・マラソン。
今年も相変わらずの声援サイドではあったが、とりあえず犬を連れてセントラル・パーク。

今年の目玉はなんと言ってもIPHONEアプリのING MARATHON。

選手のゼッケン番号を登録しておくと、いまどこを走っているのかがトレースできる。
これまで、糞寒い中を鼻水啜りながらカメラ片手に知り合いの晴れ姿を待ち続け、
挙句に参加者も観客も次の週にはすべて風邪でダウン、なんてこともなくなり、
あまりに痺れを切らして携帯に電話。
おい、ずぅぅっと待ってんだけど、おまえ、いまどこだよ、と言えば、
寝ぼけ声で、ああ、なんか途中で疲れて地下鉄で帰っちゃったんだよ、悪い悪い、
なんてこともなくなル訳で。

そう、このトレースアプリ。
考えようによってはとても恐ろしいアプリでもあるのだが、いやはやテクノロジー、
なかなかやってくれる。

と言う訳で、なんだかんだではしゃぎ過ぎて枯れた声をガラガラやりながら、
あちらこちらの通行止めを迷路のように彷徨ってようやく辿り着いたウェストサイド。

走り終えたランナーたちがオレンジ色のマントを羽織ってそこかしこで疲れきった、
しかし一様に晴れ晴れとした表情で木枯らしに身を晒している。

家族や友人達に揉みくちゃにされ記念写真を取り捲っている奴もいるかと思えば、
あれ。。。誰も来てねえや。。とがっくりとうなだれて一人地下鉄の階段を下りていくやつ。

そのままの格好でスタバで順番を待っている奴。

ギャル達に貰った花束を抱えてはしゃぎまくっている奴。

さっそくカフェのテーブルに陣取ってビールで乾杯をしている奴。

ホームレスの隣り、道端に座り込んで動けなくなっている奴。

タクシーに乗り込む奴。メトロカード片手にバスを待っている奴。
鮨詰めの地下鉄でつまらなそうな顔をして家に帰る奴。

あるいは、応援に駆けつけた犬を連れてそのまま散歩に出かける奴。

フィニッシュラインを跨いだとたん、そのままふっと普段のニューヨークの日常に紛れ込んでしまうランナー達。

そしてニューヨークはそんな人々をそのまま胸の中に抱きかかえてしまう訳である。

と言う訳で、ああ、シティ・マラソンも終わってしまった。

それはつまり、ニューヨークにおける冬の到来を意味する。

これから月末のサンクスギビングを経て、クリスマスからニューイヤー、と、
急な坂道を転がるようにホリデイ・パーティ・シーズンに突入し、
まるで錐揉み状態のうちに、1-2-3、ハッピー・ニューイヤー!と騒いだ途端、
ふと、暗い部屋に辿り着くと、いつのまにか年号が変わっているのである。

と言う訳で今週で紅葉も見納めか。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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