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「9匹のシェットランド・シープ・ドッグ」 そのに

Posted by 高見鈴虫 on 09.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback

8匹の子供を出産したとき、
母親のシェルは2歳半から3歳未満。

人間で言えば二十歳そこそこで、
子犬ではないにしてもまだまだ元気いっぱいのイケイケの年代。

しかも我が家のシェル。
子犬の頃から徹底的に甘やかされて育ってしまった手前、
すっかり自身をお姫様かなんかだと錯覚していた訳で、
生来の気の強さと相成って、その外見の華麗さとは裏払いに
蓋を開けてみればとんでもないじゃじゃ馬。

そんなじゃじゃ馬娘で初産を迎えた訳だが、
まあ子供でもできればちょっとは女の子らしくもなるのではないか、
というほのかな期待をあざ笑うかのように、
このバカ犬。産むだけ産んだだけで、
自身の子をまったく世話をしようとしなかった。

まあつまり、彼女としても、ブリーダーから引き離されるのが早すぎて、
子供時代に母親から躾けられた経験がなかったから仕方がない、
と言えば仕方が無いわけなのではあるが、
果たしてこれが困りきった訳だ。

まずおっぱいをやるのを嫌がる。
まだ目も開けきらない8匹の子犬がミーミーとやってくるのを、
ガルルル、と牙をむき出したり追っ払おうとしたり、
そこをなんとか、と寝かしつけておっぱいを与えるにしても、
ものの5分もしないうちに、わたし飽きた、とばかりにいきなり立ち上がって、
そのお腹に子犬をぶら下げたまますたすたとどこかへ消えてしまう。

という訳で、しばらくは家族が付きっ切りで子犬たちの世話、
そして主には母親であるシェルの世話をせねばならなかった訳だ。

とまあそんな風な悪条件の中ではあったのだが、
不思議なことに子犬たちはまさに魔法のようにみるみると大きくなった。
のだが・・

実は半月もしないうちに、その個体差にかなりのバラつきがあることが明確になってきた。

つまり、大きい子犬は尚更大きく、いつもお腹がぽんぽこりんでいまにも弾けそう、
であるにも関わらず、
小さい子犬は、まさに骨と皮ばかり。お腹もしぼみ切って毛並みも生え揃わず、
いつもみーみーとお腹をすかしてはシェルのお腹にもぐりこんでおっぱいを吸おうとするのだが、
そんな痩せきったわが子をシェルはまったく省みようとしなかった。

で、よくよく見るに、
つまりは並んだおっぱいの中でも、ミルクの出の良いおっぱいと、出の悪いおっぱいがあって、
で、身体の大きい子はその体力にものを言わせていつもいつもその最も出のよいおっぱいを独占してしまう。
で、反対に痩せたチビ達は、吸っても吸っても一向にミルクのでない端っこの乳首にいつまでも吸い付いては、
はい、ミルクの時間は終わり、と母親が立ち上がってもまったく腹が膨れていない。
このまさに残酷なほどに明確な生存競争の原理。
そして母親は、そんな子犬たちの発育ぶりにまったくの無頓着。
格差の是正を心がけるどころか、強い物がより強くなり、弱いものは死に行く現実を黙認している風なのである。

とそんな中、8匹の子犬のうち、アーサーとアントニオばかりがむくむくと成長してしまい、
逆に、アレックスという黒っぽいネズミのような赤ん坊と、
そしてこれは見るからに不細工な柄のアニーが、まさに生きる屍のように、
最早、子犬同士で遊ぶ元気もないぐらいにまで衰弱してしまうことになった。

この現実をどう受け止めるか。

つまり、子犬の生存競争には民主主義的な平等の概念は存在しないのである。
それが自然の摂理というものなのである。

生まれた子犬が8匹というのはさすがに多すぎるとは思ったのだが、
つまりその8匹の中から選りすぐれたものだけを選択し、
強いものをより強く育てる方が摂理にかなっている、ということなのだ。

この生々しい現実は今更ながら家族を戦慄させた。

普段から子犬たちの身体をぺろぺろと舐めているシェルも、
こと痩せた二匹に関してはすでにまったく興味を失い、
となんどその胸に抱かせようとしても、拒否をするようにまでなった。

子捨てかあ・・痛烈だな・・

という訳で、それが人間社会の自然の成り行きか、
親に見捨てられた二頭の子犬。アレックスとアニーは、
しかたがなく人口保育の対象となった。

犬用のミルクを飼ってきては、哺乳瓶でちゅうちゅうと飲ませる訳で、
そのミルクの温度加減から下の世話から、
冬のようの電気毛布を持ち出しては身体を温めたり、
夜は人間の枕元に置いて寝ずの看病をしたり、
と割と苦労が続いた。

と、そうこうするうちに、それまで見るからに発育不全であった二頭。
背骨からあばら骨からが浮き出していた二匹の子ネズミたちが、
見る見るうちに体力を回復し、離乳食に移行する頃には、
すでにそれなりに他の犬と見まごうまでにもなったのではあるが、
しかし、幼犬時代のハンディはまさに慄然としており、
最も体格の良いアーサーとはまさに半分以下。
その発育もかなり遅れを取っていることは否めず、
アレックスはいつも兄弟からの苛められ役。
アニーはそもそも他の兄弟達の遊びにはまったくついて行けずに
いつも置いてきぼり。

がまあしかし、そうとりあえずは8匹、
その見てくれはかなりばらつきが出てしまったが、
まあとりあえずは五体満足。
手も足も指もちゃんと揃っているようなので、
まあそれだけでも良かったじゃないか、
とその程度だけでも十分、というのがまあ育児というものなのだ。

多少バカでもやんちゃでもよい。
とりあえずは元気に育ってくれ、
それだけが望みと言ったら望みなだった訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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