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俺の知らないブッチ

Posted by 高見鈴虫 on 26.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback
かみさんのIPHONEの写真を見るたびに、
え、これがブッチ?と目を丸くすることになる。

その中には普段、俺の前では決して見せることのない、
甘えきった、ダレ切った、まさに飼いならされた愛玩犬としての
媚びた表情がある。
確かに可愛い。
というか、思い切り可愛い子ぶりっこをしている訳だが、
その可愛い子ぶりっ子が実はちょっと鼻についたりもする。
なぜならそんな顔は、俺には一切見せたことがないのだから。

なんだこいつ、と思わず目を合わせると、
え?なにが?とつんと顎をしゃくって、
生あくびをしながらふんとソファを降りるや、
かみさんの隣り座って満面に笑顔。
ねえねえねえ、とまた始める訳だ。

そう、ブッチ君。
かみさんの前と俺の前ではまったく違う犬。

かみさんを前にしたとたんに豹変する表情。
くりんくりんのどんぐり目をきらきらとさせながら、
へらへらと笑った口から赤い舌でぺろぺろとかみさんの鼻先を舐める。
ねえねえ、と右手を上げて、
なあに?とやるたびにこれでもかとばかりにるんるんの笑顔。
で、はい、握手、と手をおいたとたんに、
また右手を上げてねえねえ、とやる。
そのうちに膝の上によじ登ったりやら、
顔中を舐めあげたりやら。
寝るときもいつもかみさんの隣。
俺がやってくると、しぶしぶと場所を移動するのだが、
一番のお気に入りはかみさんの股の間。
太ももの間に挟まれて股に頭を乗せては、
やあ、極楽極楽、とやっている。

もちろん俺にはそんなことは一切しない。
俺の顔のまでへらへらする時は散歩に連れてけ、
という時と、ボール投げろ、の時、のみである。
隣に座ると迷惑そうに場所を移動するし、
枕にされた時もまさに嫌々、というのが丸判りである。

なぜにこうも待遇が違うのか。
俺にだってたまには甘えて欲しいときもあるのだが。

という訳で、犬は表情を作っている。

その相手によって、顔色を伺いながら、
その相手の欲する表情を作っているのである。
それはまさに計算されたもので、
かみさんの前でのあの可愛い子ぶりっ子したくりんくりんのどんぐり目も、
俺の前でのあの、いかにもきかん坊風な辛らつな顔も、
それはまさにかみさん用、俺用の表情であって、
つまりはそれが相手の望んだ顔、あるいは、そう、鏡なのかもしれない。

という訳でそう、それこそがまさしく犬の魅力なのだな、
と思う。

普段会っているあの猛犬狂犬の奴ら。

はたから見ればまさに極悪非道のヤクザ犬、である訳なのだが、
ひとたび飼い主を前にすると、その表情が豹変する。
まさに、とろけそうな甘い笑顔で、ねえねえねえ、大好き大好き、と甘えている訳だ。

飼い主達がそんな猛犬たち、ご近所中の鼻つまみたるこのごく潰し犬たちを、
手放すどころか、世間すべてを敵に回しても守りきる、となっているのは、
まさにそれが理由なのである。

それは傍から見ているだけでは絶対に判らない。
それはまさに、犬とそしてその飼い主だけにしか知られることのない秘密な訳である。

という訳で、ブッチである。

そのアーモンド形の瞳をきらきらとさせながら、尾っぽの先をぴんと空高く跳ね上げて、
さあ行くぞ、散歩だ、と出かけは、72丁目の道の真ん中を、
どけどけ、ブッチ様のお通りだい、と伸し歩いていく訳である。

そしてそんな勇ましい顔を、かみさんには見せたことがない。
つまりはそう、ブー君は俺にとってはそういう犬な訳である。
つまりはそう、俺用の顔をした俺用の犬、な訳である。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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