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シバイヌ・タロー

Posted by 高見鈴虫 on 26.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback
SHIBAーINU が世界でブレーク中であるらしい。

SHIBA-INUとはもちろん、柴犬のことで、
つまりはシバケンなわけだが、グローバル的にはシバイヌという名前で呼ばれているらしい。

言わずとしれた柴犬は日本の犬である。

日本においてはまさに、道端の石ころと同じぐらいに
どこにいっても普通に存在していたこの柴犬、ことシバイヌ。

下手をすると、日本において、犬とはまさに柴犬を指す、
というぐらいに一般的な犬であった訳なのだが、
やはりそれはドメスティックな犬種であって、
日本を出ればその姿をみかけることは極稀。

数年前までは、ニューヨークの街角でこのシバイヌの姿を見かけるたびに、
おおお、シバケンだシバケンだ、とその懐かしさに思わず声を上げてしまったものだ。

そんなシバイヌがニューヨーク中の犬マニア達の間で大ブームと騒がれて久しい。

いつの間にか、犬の集まるところどこに行っても
このシバイヌの姿を普通に見かけるようになった。

という訳でこの柴犬である。

そのきりっとした表情から、くるりとまるまった尻尾。
ちょこまかと走り回りながら、
まさに愛らしい笑顔はまさにぬいぐるみそのもの。
がしかし、そのかわいらしい姿とは似合わず、
妙に頑固かつ神経質なところがあって、
人見知りして他所者にはあまり心を開こうとしない。

頭は抜群に良い、筈なのだが、
飼い主が情けない、と見るやまったく手のつけられない野生児。

キャンキャンとところかまわず吠えまわるかと思えば、
むすっと黙って呼んでも返事さえしない気難しいところもあり、
下手に手を出すと牙を剥き、あるいは噛む。

そもそも愛玩犬、として進化して来た西洋の小型犬種たちと比べると、
その気難しさというか、神経質さ、
まあ言って見れば頭が良すぎる、という訳なのだが、
なかなかどうして、ちょっと扱い辛かったりもする訳である。
という訳で、近所に住むタローである。
飼い主のローザさん。
不動産王であったご主人の遺産を受け継ぎ、
いまでは悠々自適の富豪夫人。

セントラルパークを見下ろす4ベッドルームに、
特性の和室をしつらえるほどの日本通。

そんな大富豪のご夫人が、ここのところお金どころか、
その命さえも危ういぐらいなまでに精神的に参りきっている、という話。

その原因は、と言えば、まさにこのタローである。

血統証付の純潔犬でありながら何故にかシェルターに出された9ヶ月の柴犬。

その侍装束の子供を思わせるストイックな風貌と、
栗色のぬいぐるみのような表情にほだされて貰い受けてしまったのは良いが、
そのあまりに手のつけられないやんちゃぶりにほとほと困りきっていた、

呼んでも来ない、どころか、まさに完全なアウト・オブ・コントロール。

貰い受けて二月にもなるというのにいまだにローザさんに甘えるどころか
頭さえあまり撫でさせようとはしない。
家ではおしっこうんちはし放題。
普通の人間が聞いたら目の玉が飛び出しそうな高価なアンティックの家具を手当たり次第にかじりまくり、
そのかわいらしい顔つきに騙されて知らない人が下手に手を出すととたんに噛みつこうとする。

きっと運動が足りないのだろう、とセントラルパークに連れて来れば、
綱を放せと大暴れした挙句、ひとたびリーシュを外したとたんに
まさに弾丸のように突っ走っては姿を眩ましてしまう。
そのたびに大声を上げて周りの人々に助けを求めるのだが、
呼べども叫べども一向に振り返るそぶりさえも見せず、
通りに飛び出して車や自転車に轢かれそうになったことも一度や二度ではない。
自由時間終了の合図も知ったことかとばかりに好き放題に逃げ回り、
監視官からチケットをもらったのもたびたび。

弱りきって柵に囲まれたドッグランに連れて来ればまさに喧嘩放題。
弱そうな犬と見れば襲い掛かっては血の出るぐらいにまで噛んでしまい、
人の遊んでいるボールをかっさらってはこれ見よがしに逃げ回り、
無理に取り替えそうとすると牙を剥いて凄む。

そんなトラブルの数々。

そのたびに飼い主のローザさんは平謝りの平謝り。
しているそばから人のバッグの中に頭を突っ込んでトリートバッグをかっさらっては
どんなもんだい、と丘の向こうに姿を消している訳だ。

とそんな極悪非道の柴犬タロー君。

ほとほと困りきったローザさん。
これまで雇ったドッグ・トレイナーは10人以上。
そのたびに、いやはや、これはもう、手の施しようがない、とさじを投げられて、
あるいは、ブートキャンプなる訓練所にしばらく預かる、
なんてことを言われ、
思い余って貰い受けたシェルターに電話をすれば、
過去に傷害事件、つまりは人間を噛んで警察沙汰、
という履歴のあるタロー君。
前科ものですでに3度目の出戻りとなると次の飼い主を探すのも難しく、
と、暗に殺処分を暗喩する話し振り、とのことで、
さしもの大富豪たるも参りきってしまった、という訳だ。

まああたしも一人暮らしなんでね、
一部屋この子に与えて餌だけ上げて、というのも考えたんだけど、
という大富豪ならではのアイデアながら、しかしながら、いやはやである。

とそんなこんなで、
あんたニホンジンだったらもしかして日本犬のことよく知っているでしょ、
あるいは、うちの犬は日本語しかわからないのではないだろうか、
なんていうわけの判らない理屈で相談を受けた、という訳なのだ。

という訳でやってきたタロー君。
まったくもっていやはや。。。

ローザさんによると、どうも前の飼い主からアビューズを受けていた、
ということなのだが、俺の見立てではそのまったく逆。

あまりにも猫かわいがりされすぎて、お調子に乗りまくってしまい、
つまりは世間を舐め切ってしまっては誰にも手のつけられなくなってしまった、
まさにスポイルド・ドッグの典型であった訳である。

そんなタロー君。

やあ、と顔をあわせたとたんに、いかにも、人を舐めきった、という顔で、
ぷい、と横を向く。

それこそまさに、手のつけられない不良が、新しい先公、
あるいは、指導員を前にした、あのふてくされた態度そのもの。

で、ボール遊びでもやるか、とバッグからボールを出せば、
それよこせ、とばかりに問答無用に手元のボールに食らいついて来て、
手で払おうとすると、唸り声を上げながらまじ噛みをしてくる。
思わず手を振り払えば、うー、と白い牙を剥き、それでもボールを渡さないと、
袖からバッグからを咥えてうんうんと引っ張り始める始末。

やれやれだな、と思わず大苦笑。
これは犬種というよりも育てられ方。
甘い甘いおかあさんからぬいぐるみ扱いされて育てられたジャックラッセルのレジェンドと
まったくそっくりである。
そして、我儘いっぱいの非行三昧の果てに、施設にぶち込まれては、
親に裏切られた、とふて腐れてしまったどこぞの不良少年、まさにそのもの。

という訳でローザさん。
どうしたら良いのかしら、とため息をつかれたのだが。

が、しかしこの柴犬という犬種。
妙にプライドが高い、というか、妙に神経質なところがあって、
躾けを無理強いするとすっかりと臍を曲げた挙句、
飼い主にさえ心を開かず一生を穴の中で過ごす、
なんて例もあるぐらいで、
まあそう、ちょっと難しいところがある。

そんなわけで、まあとりあえず、できるところまではやってみるつもり、
つまりは、最低限死なないように、
呼んだら来る、やら、GOODとNOを理解させる、ぐらいのところまではやるが、
一番大切なのは飼い主の忍耐。
この飼い主が信頼に足る、と気づいて貰えるまで、
どんなにやんちゃをしても、殴らない、怒鳴らない、高飛車に命令しない、
が、しっかりと威厳を持って接するように、
とまあ、当たり前のことなのだがそれをきっちりと守らなくてはいけない、
なんてことを言いながら、
そう言ってるそばから俺のシャツの袖にはタロー君。
まさに引きちぎらんばかりにうんうんと引っ張っては、
バカやろう、このやろうと、唸り声を上げている。

あのなあ、と思わず顔を覗き込めば、
なんだよてめえ、やんのか?おい、やんのかよ、
と思い切り憎たらしげな顔で睨んでくる訳で、
正直まったく性質が悪い。

とそうこうするうちに暇を持て余したブッチ。

そんなやんちゃ者を始終、ちとーっと冷めた目で眺めていたのだが、
ねえ、そろそろ僕とも遊んでよ、とボールを催促をするのだが、
ボールを投げようにも俺の手にはすでにこの不良柴犬がぶら下がっている訳だ。

もしブッチが、いやあの、実はこの柴犬が、ということに気づけば、
判った、まかしておけ、とばかりに俺の目の前で大喧嘩が始まるのは必至。

で、なんとか必死の思いでボールを左手に持ち替えたて放り投げたところ、
しまった、やられた、とばかりにいきなり脱兎のごとく飛び出しすタロー。

暴れん坊自慢らしくその一途なまでのボール根性で
緑の芝生を一直線に駆け抜けるのではあるが、
いかんせん、暴れん坊と言えばこのブッチにかなう者はなく、
結果、2度3度、どれだけ必死に追いかけてもボールをゲットすることができない。

挙句の果てに、ボールを投げようとした俺の手元に食らいついて来て、
痛てえ!と放したボールをかっさらっては、
へへーん、どんなもんだい!と逃げ回る始末。

そんな姿、まさに、そう、あのジャックラッセルのレジェンドそっくり、な訳である。

という訳で、追いかけるローザさんをおちょくるように逃げ回って、
なだめてすかしておやつで釣って、と手を尽くした末に、ようやく取り返したボール。
その間、そんな悶着を忌々しげに眺めていたブッチ君。

まあまあまあ、となだめすかしてはいるものの、
その胸のうちはまさにこのいきなり現れた不届き者に煮えくり返っている。

という訳で、そろそろやるな、とは思っていたのだが。。。

という訳で、予想していた事態が、起こるべくして起きた。

高く投げたボールに全力疾走するブッチとタロー。

まさに50ヤードのロングパスをキャッチするワイドレシーバーそのもの、
軽快な身体さばきで、見事なダイレクトキャッチでボールを捕らえたブッチ君。
いやはや、これはタローといわずとも、並大抵の犬ではできるない必殺技。

どんなもんだと、まさに得意満面で引き上げて来た矢先、
こともあろうにそんなブッチの口元からボールをかっさらおうとしたタロー。

咄嗟に、やめろ!と声を上げる間もなく、
一瞬のうちにブッチに組み伏せられては、
首の根元をがっちりと咥えこまれたまま地べたに押さえつけられ、
どんなにじたばたしようとも微動だにできず。
弾けるように響き渡るローザさんの悲鳴。
交錯するブッチの唸り声と、そして目を白黒させたタローの断末魔の嗚咽。
がしかし、
そうこうするうちにタロー君。
いまや悲鳴の一言も上げることもできず、
あるいは下手に動けばまた手ひどくやられる、
というのが判ってきたのか、じきに諦めてぐったりと静かになった。

という訳で、ブー、はい、それまで、と呼ぶと、
途端にけろっとした顔で戻ってきたブッチ。
さすがに荒い息で肩を揺らしているものの、
またいつもの奴で、
俺の両肩に前足を乗せてぺろぺろと顔を舐めながら、
怒らないで怒らないで、僕のせいじゃないよ、と言い訳を始める。

ああ判った判った。判ってるからもう俺の顔舐めるな、
とやってみたところ、ふとよだれに濡れた顔を拭えば、
タローの栗色の毛がべっとり。

という訳でタローである。
あまりのことに茫然自失。
大丈夫?噛まれたところない?と泣き声をあげるローザさんの顔を呆然とみつめるばかり。

どれどれ、と身体をさすってみれば、幸いどこにも傷はない。
つまり噛まれ方を弁えていた、ということで、
つまりは幼少期にはしっかりと親と一緒にすごしていた、ということ。
そうそうと生まれついての親知らずの無法者という訳でもないらしい。

それでも泣き声をあげるローザさん。
いったいどうしてくれるのよ、とまさに今にも泣きじゃくりそうな気配である。

大丈夫、大丈夫、うちのブッチは決して噛まないから。
ちょっと押さえつけてお灸を据えただけ。
毛がむしられているかもしれないけどこれぐらいならすぐに生え揃うから心配ない。

とやりながら、診察されるタロー。まさに神妙そのもの。

大丈夫かお前、と笑いながら顔を近づけると鼻の先をぺろぺろ。
あれまあ、とローザさん。こんなこと私にだってしたことないのに。

という訳で、後ろから神妙な表情でやってきたブッチ君。
あの・・・ボール遊び、もうやらないんでしょうか。。
と控えめに咥えたボールを俺の足元に落としたり。

あのなあ、お前あんな騒ぎ起こしておいていまさらボール遊びもねえだろう。
見ろこいつ、お前にやられてこんな青い顔して。

と見るや、ブー君、そんな傷心のタロー君の鼻先をくんくんとやれば、
あれだけのやんちゃ者だったタロー君、ブー君の口元をぺろぺろと舐めては尻尾を振り始めた。

思わずまた噛まれるか、と必死の形相で俺の腕にしがみついてきたローザさん。
そんな姿をみてあれまあと目をまん丸。

うっし、お前ら。もう一回ボールやるか?
とやれはとたんに跳ね起きて、投げ上げたボールをブッチと一緒に夢中になって追いかけていく。

大丈夫かしら、とローザさん。
また喧嘩しないかしら・・

なに、もう大丈夫。今のでルールは理解できた筈。

ルールとは?
つまり、世の中には自分よりも強い奴がいる。
そいつを怒らせるとひどい目に会うが、だからと言って殺されることはない。
そしてそんな自分のかなわない強い犬は、しかし自分がいままで舐め切っていた人間とは大親友。
つまりそれがルール。ルールに沿っていればすべてがうまく行く。

ほら、と見るやボールを咥えて戻ってきたブッチ。
足元にボールを置いて満面の笑顔。
その後ろに控えたタロー君。
まさにちぎれんばかりに尻尾を振って今にも弾けそうな笑顔。

はい、トリート、とやったとたん飛びついてきたタロー。
途端に、ガウ、とブーに吠えられて飛びのく。
そう、お兄さんが先。君は後。でも後になったからといってもご褒美を貰えないことはないんだから。
とそうこうするうちに、やはり利口な柴犬。
ブー君の取り損ねたボールを果敢にキャッチして、そして得意そうな顔をして俺のところに戻ってくる。
はいご褒美。その時にはブー君よりも先。
はい、ルールを覚えたね。

という訳で、ローザさんにトリートバッグを渡してクオーターバックの交代。

その時にはブーはお休み、とブーもわきまえている。

ローザさんの投げるボールを弾けるようにして取りに走るタロー。
そしてローザさんにボールを渡して、はい、トリート。
瞬く間に覚えてしまった。

涙目のローザさん。良かったわ、良かったわ、あなたがダメだったらもうシェルターに送り返そうって決めていたのよ、とそんな恐ろしいことを言い始める。

毎晩泣いてたのよ。こんな状態じゃ家に置くわけにもいかないし、かと言ってシェルターに出戻りではいずれは殺処分。

そう、そうやって、殺処分になっていく不幸な犬が、いくらでもいる訳だ。
要はコミュニケーションの行き違い。そしてたぶん、運なのだろうが・・・

という訳でブッチとタロー。
いまでは二人並んで荒い息に身体を揺らしながら、まさに満面の笑顔である。
俺の顔をぺろぺろと舐めるブッチ。そんなブッチの口元をぺろぺろと舐めるタロー。
で、そんな様子を幸せいっぱいにみつめるローザさん。
はいお座り。はいお手、とやると、おやつが貰える、ラッキーと尻尾を振り続けるタロー。

そんなこんなで夏を過ぎ秋を過ぎ、いまでは冬の始まり。
久々にセントラルパークで出会ったタロー君はまさに公園中のドッグラバー憧れの名犬。

ローザさんのまわりをボール投げてボール投げて、と飛び回っては、
駆け戻ってきたとたんにボールを足元に置くや、すでに右手を上げてお手、の体勢。
大きいのから小さいのから公園中の犬はすべてお友達。
たまに見知らぬ犬に吠えられることもあるが、
そんな時にはいつもの愛嬌をふりまいて口元をペロペロ。
そして人間と見るやつぶらな瞳をきらきらとさしてお座り、そしてお手。
そんな姿に思わず歓声を上げる人々。
きゃああ、かわいい。シバイヌ、まさに最強ねえ。

そしておやつをせしめてまさに満面の笑みのタロー。まさに幸せいっぱいといったところ。
学んだな、タロー、とちょっと悪戯に目を合わせる俺とブッチ。
またやんちゃ小僧が一頭、殺処分から救われたという訳か。

とそんな俺達の姿に気づいたタロー君。
まるでロケット発射のような勢いで駆け寄ってきたかと思うと、
いきなりブー君に踊りかかっては顔中をペロペロ攻撃。
ばか、やめろ、お前、よせよせ、と逃げ回りながらしっかり尻尾を振っているブー君。

嘗ては暴れん坊ナンバーワンだったブッチ君。

いまではすっかりそんな不良犬たちの兄貴分気取りである。

そしてじきには、タローがその役を買って出ることになる筈である。

良き魂の元にはよき魂が集まる。

不良の犬に手を焼いている人がいればこの公園に連れて来ればよい。

タローという奇跡のように頭の良いシバイヌが待っている筈だ。

最初はちょっと痛い目にあうかもしれないが、良き魂のもとには良き魂が集まる。

タローに諭された不良犬は帰る頃にはきっとまったく違った犬になっているに違いない。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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