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アッパーウエストサイド・ストーリー ~ 犬の恩恵

Posted by 高見鈴虫 on 07.2013 犬の事情   0 comments   0 trackback


このアッパーウエストサイド。
言わずとしれた高級住宅街である。

古くからのジューイッシュの人々のコミュニティーで、その住人にもやはりジューイッシュの人々が多い。

はるか昔、イスラムゲリラとして彼の地の戦場を駆け回った記憶のあるこの俺が、
なにを血迷ったかそんなジューイッシュの人々のど真ん中に暮すことになった訳だが、
まあ犬を介しての付き合い、という訳で、そんなジューイッシュの人々の間でも瞬く間に知り合いが増えた。

が知り合いと言っても、まさに犬を介して、という訳で、
その飼い主がなにをしているか、どんな服を着ているか、などはまさに二の次。
犬の名前は覚えても人の名前は覚えていない、とはこの地域では良く言われることで、
人種、年齢、性別からの垣根をすべてすっ飛ばして、
まさに、犬同士の仲が良いから、という理由で毎日毎晩顔を合わせるご近所さんが一杯。

ドッグランに足を踏み入れたとたん、待ってましたと駆け寄ってくる犬たち。

やあやあ、元気だったか、とやりながら、さあ、行くぞ、ボール投げ、と初めて、
少し遅れて、やあ、どうもどうも、とやってくる飼い主達。

そんな飼い主の人々との会話も、
愛犬自慢から始まって、獣医の良し悪しからパークポリスの同行から、
ドッグランでの喧嘩から、新しく来た犬の名前から、与えているドッグフードの種類、
犬のおもちゃの貸し借りから、時として互いの犬のうんちを拾い合う、なんてこともある。

そんなアッパーウエストに暮し始めてから数年。
今ではほとんどの犬、そしてその飼い主が顔見知り。

地下鉄の中で見知らぬ美女に声をかけられて、
え?失礼ですが、と声を詰らせていれば、
あらやだ、ブッチのおとうさん、私はデキシーのママですよ、と改めて自己紹介。

あれまあ、互いに普通の服着ているから判らなかった。
そうですよねえ。ドッグランではいつも犬用の汚い格好ばかりだから。
本当にそう。犬を連れていないと互いに誰かさっぱり判らなかったりしますからね。

と言いながら、いやはや、正直、あのずたぼろのジャージ姿のデキシーママが、
実はこんな美人だとは知らなかった、と改めて見返してみれば、
いやはや、あのてっきりホームレスかと思っていたブッチパパがまさかカタギの勤め人とは知らなかった、
という表情。

確かになんか犬がいないと変ですよね、とお互いに大笑い。

で改めて自己紹介すれば、さすがアッパーウエストサイドの住人。
かの金融ジャイアントやら、世界に名だたるなんたら、やらの超一流企業の名前が目白押し。
なんか気後れしてしまいそうにもなるのだが、
がしかし、そう、犬を連れている限りその人はまさに犬の付き人に過ぎない訳で、
なんの仕事をしていようが、幾ら稼いでいようが、社長だろうが部長だろうが、
犬の前では皆全てただのドッグラバー。

ましてや犬である。
飼い主が果たしてどんな輩であれ、犬は犬。犬に罪もへったくれもない訳で、
そしてそんな人々は、犬とあればやはりたとえどんな飼い主に飼われている犬でも可愛かったりもする。

我愛犬の友達たちはすべて押しなべて俺の愛犬でもあるわけで、
そうやって全ての犬を分け隔てなく可愛がっているうちに
いつの間にやらドッグラン中の犬に顔を覚えられてしまった関係で、
いまではすっかり有名人。
ドッグランでの喧嘩の仲裁から、飼い主同士の諍いの仲裁から、
怪我の手当てから、時として拾い残したうんちの掃除まで。
そんなこんなで、いつのまにか犬のしつけ問題の相談なんてものを持ちかけられるようになって、
近所で手のつけられないやんちゃ坊主がいる、とあればだったらうちの犬と一緒に遊ばせましょう、
とお友達づきあいが始まり、ぎっくり腰で散歩にいけないおばあさんの犬を迎えに行っては散歩に付き合い、

なんてことをしているうちに、どういう風の吹き回しか、
あるいは、どこかの犬の飼い主が裏で手を回したのか、
いつの間にやら俺の元にもそんな話が舞い込んで、
そしていつの間にやら、
給料は二倍で残業なし。必要と在れば自宅勤務もOKなんて会社から声がかかることになった訳で、
少なくとも来月の家賃の支払いやら犬の餌代、などに頭を悩ます必要だけはなくなった訳だ。

これもまさに、犬の恩恵、という奴なのだろうか、といまだに首を捻っている次第。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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