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「ROCKを葬り去る前に その36 ~ 魔境ミツワ」

Posted by 高見鈴虫 on 12.2014 ROCKを葬り去る前に ~ 大人のダイエット奮戦記   0 comments   0 trackback
出張に出るたびにちょっとした楽しみがある。

ぶっちゃけそれは「ミツワ」である。

この「ミツワ」。言わずとしれた巨大日系スーパーで、
ハドソン側を挟んだ対岸のニュージャージー側にある訳なのだが、
車がないとちょっと行きづらいこともあって、
出張に出るたびにここによってはしこたま日系物産を買い漁って帰るのが楽しみであった。

がしかし、そう言えば、ダイエット中の俺である。
果たして日系スーパーでいまさらなにを買うのか。

インスタントラーメンともお徳用冷凍餃子ともポッキーともおせんべいとも無縁となってしまった俺。

ましてやご飯=炭水化物を食べなくなってしまった以上、
納豆も明太子もお新香も刺身もコロッケもトンカツもまさに無用の長物。

改めて日本の食生活はご飯を中心に成り立っているのだな、と思い当たる訳で、
つまりはご飯を捨ててしまった俺はこのミツワにおいて、その膨大な日本食材つまりは、
まさに垂涎のご馳走の山、を前にしてまったく途方に暮れてしまうことになった。

そうか、俺はもう日本食ともおさらばな訳なのだな。
がしかし。。いくらなんでも、せっかくここまでたどり着いて、
そしてこのご馳走の山を前にしてなにも買わずに帰ることもなかろう。

という訳で、悶々としながら店内を巡ること30分。
お肌にやさしい牛乳石鹸やら、無添加シャンプーなどを物色しながら、
しかし、うーん、たかが日本食、されど日本食、やはり日本食、どうしても日本食な訳だ。

出張中あれほどのアメリカ飯に心底辟易していた反動か、
あるいは出張中に胃袋が膨張してしまったのか、
連日に渡るあれほどの暴食に身体中が鉛のような重さではありながら、
やれ松坂牛しゃぶしゃぶ用薄切り肉がまさに札束に、
いくらのつぶつぶが宝石に、
中トロに至ってはまさに金の延べ棒にも見えてくる。
くそったれ、世の中にはこんなものをなんの不自由も躊躇もなしに、
日常的に召し上がっていらっしゃるお金持ちのデブどもが沢山いるのだろうな。
それに引き換えこの俺。この歳になって中トロしゃぶしゃぶどころかご飯さえもろくに食べれない、
とつくづく裏寂れた気持ちになってくる。

ああ日本食日本食、と思わず頭がくらくらしはじめて、
ふとした血の迷い、まさに悪魔の囁きか、
あるいはまさに、ふらふらっと誘われるままに、わたしどうにかしてたんです、
とふとよろめいたその手元には、大売出し・ネギトロのお徳用パック、
そしてその隣りには、釜揚げしらす!!!

あああ、と思わず。
これだ、まさしくこれ。
俺はこの長きに渡るダイエットの中で、
まさしくこのネギトロと釜揚げしらすで巻き巻きする手巻き寿司、
これこそをまさに毎夜毎夜夢に見るほどに渇望していたのである。

ああ手巻き寿司手巻き寿司。されど手巻き寿司しかし手巻き寿司。

がしかしだ、なんなあ、とまた悪魔の囁き。

たかが手巻き寿司じゃねえか。
しかもネタはネギトロとしらすだぞ。
たかがネギトロじゃねえか。魚なんだぞ。
しかもしらすだ。立派な健康食じゃねえか。
こんなもの食べることにびくびくしていて、
俺はいったいなにをやっているのだ。
ネギトロも食えずになんの人生だ。
しらすさえ食べれぬ人生に生きている価値があるのか。

そしてふと気がついた時には、
ネギトロと釜揚げしらすにイクラにウニに甘えびサーモンイカ刺し、
海苔にキュウリにシソノ葉と、すっかり手巻寿司セット一式が勢ぞろい。

がしかし、
手巻き寿司がOKでなぜに豚肉生姜焼きは許されない?
はたして牛肉しゃぶしゃぶはどうなんだ。これだって立派な健康食だ。
違うか?違わねえだろう。

という訳で、一度切った堰はもう戻すことができない。

あとは怒涛のような食欲の虜である。

はっと気づけばカートの中には。。。
黒豚ソーセージから歌舞伎揚げお徳用パックから
ポッキーアーモンドクラッシュから高菜油炒めから
豚肉牛肉薄切り厚切り、生姜焼き用にしゃぶしゃぶ用に、
この期に及んで業務用パックポーク餃子なんてものまで、
まさに山盛りてんこ盛り。
お前なあ、こんなものいったいいつ食べるんだよ、と我ながら呆れかえる。

がしかし、
まあいいさ、いつか食べる機会もあるだろう、とかなんとか。
どうせ次の出張になる前に辞める会社だ。
これが見納め買い収め。
がしかし。。。
と心の中ではいまだに葛藤が続いているものの。。

とそしてふと気づけばすでに閉店近く。
もういい加減にきりがない。そろそろ帰ろう、そして犬の散歩だ、
とレジへの通路を目指した時。。。。
心に訪れる一抹の清寂感。。。

ああもう俺のダイエットも終わりなんだな。
つまりもう、見えかけていた6パックも、
ディーゼルのジーンズも、
そしてROCKという美学にも、
すべてもう俺の人生からはさよならなんだな。。。

つまり俺はこの一瞬に、
ここからあのレジまでのわずか10メートル足らずの間に、
ROCKを諦めようとしている。。。

さらばROCK。
さらばHYDEくん。
さらばミックジャガー。
さらばキースリチャーズ。

いや、と心の奥から叫び声が響く。

いやだ、俺はROCKを諦めたくない。
駄目だ、駄目だ、駄目だ、こんなもの食わねえぞ!食うものか!と思わず頭を振り、
人目さえなければそのまま頭を抱えてしゃがみこんでいただろう。

こんなもの、毒だ、麻薬だ、諸悪の根源だ。
がしかし、
ああ食べたい、食べたい、食べたい、日本食。
たかが日本食、されど日本食、やはり日本食、どうしても日本食。

このご馳走の山。
あれば食べてしまうだろう。そう決まっている。
捨てるわけにもいかない。いかない以上を食べてしまう。そうなればご飯だ。
食べ始めたらもう際限がないだろう。
歯止めが利かなくなってまた元踊り。
つまりそれはこのダイエットの終焉を意味し、
つまりはたぶん、もうこの先、
この後の人生において二度とシックスパックをお眼にすることはないだろう。

ROCKを捨てるのか。
いまこの瞬間にROCKを葬り去るのか!?

さあさあさあ、どうするどうするどうする!

という訳で、ばかやろう!と一言。
えーい、俺の人生など、もう20年も前に、あのアフガンの砂漠で地雷を踏んだときにすでに終わっていた筈。
あるいは10年前にメキシコのトップレスバーで酔っ払った兵隊から額にライフルの銃口を当てられたとき、
あるいはあのパナマの裏通りで暴漢に襲われて袋叩きにされた時、すでに死んでいた筈だろう。

それを今更なんだ。今更ななんなんだ。

俺はキースリチャーズと添い遂げるぞ。
ミックジャガーとイギーポップとジョニーサンダースと萩原健一と。
ROCKで生まれた俺だ。棺おけまでROCKを背負い続けるぞ。

そして俺は、あごを上げ肩を張り、
この世の全てをぶっ飛ばす、という面をして、
いま来た道を辿り始めた。

さらばポーク餃子。さらば豚肉生姜焼き。
さらばうな丼。さらばカツ丼。さらば大好きな日本食たち。

ポッキーも歌舞伎揚げもうなぎ蒲焼も黒豚ソーセージも、
うにもいくらも甘えびもイカ刺しも。
愛しの日本食材たちにひとつひとつにお別れを言いながら、
そんな心に響いてきた曲。。
ストーンズのLOVE IS VAIN?
いや違う。そんな格好よいものではない。
まさしくそのテーマ曲は、
オフコースの「さよなら」

もう終わりだね。君が小さく見える。。
さよならさよならさよなら~!!

もしかしたらもう遭うこともないかもしれないけど、
この好きだった、大好きだった日本食。さよならだね、と思わず涙。

そして最後に残ったネギトロと釜揚げしらす。。。
食べたい。君たちだけはどうしても食べたい。。。別れたくない。。

とそんな時、かみさんからテキストメッセージ。

ご飯炊けたよ~、
ネギトロとしらす買ってきて手巻き寿司食べよ。
きゅうりと海苔としその葉を忘れずに!
あと余計なもの買わないでね。冷蔵庫入らないよ。

むむむむ!!!であった。。。。。

完全に読まれている。。。

がしかし、そう、ここで免罪符である。
もうなにも臆することはない。かみさんからのご容赦があった以上、
このネギトロとしらすだけとは添い遂げることができるのである。
それだけで十分だろう。それいじょう、なにが必要だ。

そして帰り着いた我が家。
そして待ち受けていたこの手巻寿司ディナー。

うーん、おいしい!おいし過ぎる。
ご飯が、海苔が、醤油が、わさびが、しその葉が、
ネギトロの脂にとろーっと溶けてまさに口中どころか、
頭骸骨の中から五臓六腑にむわーっと広がっては響き渡るこのおいしさ。
まさし珠玉。まさに至福。まさに天国気分である。

日本食だ、やはり日本食だ!!!

という訳でまったくお陰様である。

出張中に増えてしまった体重にまさに上乗せするようなこの暴挙。
出張出発前に129LBであった体重が、なんとまた131LB台に戻ってしまった訳で、
この増加分の2LB。
たかが2LBとは言いながら、これを落とすのはまたまた大変なようである。

くそったれ、と舌打ちしながらも、
さあ、また玉ねぎスープ作るか。
俺はROCKを諦めねえぞ、と性懲りもなく怒声を一発。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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