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オリンピックブルー

Posted by 高見鈴虫 on 25.2014 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
という訳で、ついにオリンピックも終わってしまった。

実のところここアメリカではオリンピックはさほど熱狂的でもない。

時差の関係から放送がちょうど夜明けから午前いちまでの仕事時間にぶち当たるため、
朝の超多忙時もなんのそのヤフジャの速報を追いながらソワソワする俺に、
いったいどうした?と不思議そうな同僚たち。
なに?オリンピック?と判ると、
妙に悲しそうな顔をしてわかったわかったと頷いてみせる。

なんだよお前らオリンピック観てないのか?
いやあ、ホッケー以外にはあんまり観てないな。
とまあ、そんなものなのである。

その温度差を尻目に、
そう、例え世界のどこで暮そうとも、日本人である以上やはり心には日の丸。
オリンピックは絶対に欠かせないものなのだ。
と言う訳で、そんな冷めた視線を物ともせずに追い続けたオリンピック。
どうしても外せないものだけは、こっそりジムに下りて、
ジムの天井に並んだテレビのひとつで観戦することになる。
がしかし、スポーツラバーの集まりであるべきここジムにおいても、
信じられないことにオリンピックを観ている人は極稀。

天上からずらりと並んだ15台の特大モニター。
がしかし、そのどれにもオリンピックは映っていないのである。

と言う訳で、ジムのお兄さんに頼んでチャンネルを換えてもらっては、
ひとり口につっこんだタオルで声を噛み殺しながら、
がんばれ!日本!がんばれ!!ニッポン!
と必死の応援を続けている訳で、
まあこんな裏寂れたオリンピックも米系企業にいるからなのだろう。

そんな俺がしかし、男子のフィギュア・スケートの金メダルには思わず飛び上がり、
ジャンプの葛西の大健闘に、そしてかの浅田真央のウルトラ倍返し劇には、
思わず、不覚にもほろほろと涙が流れてしまった。

そんな俺を気遣う同僚たち。
そんな同僚たちも実を言えば海外からの移民の人々。
ここアメリカに住んで既に10年20年、
がしかし、
やっぱり何年たっても母国の轍は消えないんだよな、
というその事実に思わず血の重さを思い知る訳だ。

と言う訳でそんなオリンピックも終った。

ここに来てようやく、羽生や浅田真央の記事を平静に読めるようになり、
かの史上空前の大馬鹿・森元首相の大失言なんてのもおまけになって、
あるいはこれまでオリンピック以外ではスケートなど観たこともない連中が、
口角を飛ばして、キムヨナだソトニコワだ、と審査員判定に薀蓄を並べている訳だが、
まあそう、終ったことだ。オリンピックは終ってしまえばもうそのまま。
次の4年後まで、一般の人々の口にはほとんど上ることもないだろう。

そしてあらためてオリンピックの晴れ舞台に飛んだアスリート達のことを思う。
四年に一度の祭典が終わったいま、
選手の下にはふたたび日常の静けさに包まれているだろう。
いつのまにか蝿蚊のような取材陣やら野次馬も消え去り、
再び誰もいなくなった練習場にひとり舞い戻ったアスリートたちが、
果たしていったいその胸になにを抱えているのだろうか。

そう考えた途端、いきなり身体の中を風が吹き抜けていったような気がした。




と言う訳でこの祭りのあと。

心にぽっかりと穴の空いたようで、家に帰ってもどのチャンネルを観れば良いのか途方に暮れてしまう。

とそんなオリンピック熱ともまったく無縁であった筈の我が家の駄犬が、
ここに来てなぜか元気がない。

普段であれば、お散歩行くか?と言う度に、
まるで弾けるように飛び上がって、散歩だ散歩だ!と部屋中を走り回るのが常。
あるいは、ご飯の用意を始めたとたんに、もう待ちきれない、とばかりに踊り始めるのが日常であった筈なのに、
どういう訳かここのところ姿を見ればいつも寝てばかり。
帰宅時にお迎えにもこなくなったどころか、おい、と声をかけても、胡乱な瞳で上目遣いにちらりと見やるだけで、再び枕の中に頭を落としてしまう。

どうした?風邪でも引いたか?
と頭に手をあてるが別に熱もないようだ。

そう言えば、先週末また残雪の中のボール遊びでがんばり過ぎて、
膝か腰でも捻ったのだろうか、あるいはファーマーズ・マーケットでリンゴを買う時に、
ちょっと長く待たせたんで風邪でも引いたのだろうか。

とは言うものの、食事を出せば重そうな身体を起こしてはのろのろながら出されたものはすべて平らげる。
散歩中もとろとろと歩きながら、いざボールを取り出すとやはり夢中になって追廻し始める訳で、
それを観るとつまりまあ病気やら怪我でもないようなのである。

とそんなことを犬仲間に話したら、あんたそれ、鬱病よ、と一言で片付けられた。

だって観てみなさいよ。このまったく最低最悪の冬。
ニューヨーク中、どこもかしこも誰も彼も、一人残らず重症の鬱病じゃないの。
この糞雪だってこの糞木枯らしだって、全て全てもううんざり。
犬だってそうなのよ。もう冬には心の底からうんざりしてるってことなのよ。

あそうか、鬱病なのか。確かにな、と地下鉄の人々のあの陰鬱な表情を思い浮かべては大納得。
しかしながら、なぜ俺がそんな冬の欝病にまったく気がつかないほどに無縁で居られたのかと言えば、
そう、つまりはオリンピックなのであった。

と言う訳で、祭りのあと。
いきなり眼前につきつけられたこの長引く冬の悪性鬱病の大流行。

熱狂の後にぽっかりと空いてしまった心に、冬の木枯らしがびゅうびゅうと音を立てて吹き込んでくるようだ。

また明日から雪になるらしい。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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