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AMERICAN BITE その七

Posted by 高見鈴虫 on 16.2014 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments   0 trackback
この街についてからというものアメリカ人というものと口をきいたことのない、
というおかしな状態が暫く続いた。

この移民の集合体の土地で、果たして生粋のアメリカ人というのが誰を指すのかは知らなかったが、
やはりアメリカ人はアメリカ人。
そして俺は、アジアの片隅からやってきた身よりもないたったひとりの貧乏な移民だった。

そんな中、
住んでいたアパートの下のフロアに、
ハーレーに乗ったいなせなヒッピー野郎が住んでいた。
ビリー。
いつもアパートの階段に座ってはグレートフルデットをかけながらハッパを吸っていて
いうなればまあ、ルーザーの鼻つまみの無法者であった訳なのだが、
根が不良上がりのこの俺、
ついつい誘い込まれるように挨拶を交わすようになり、
いつの間にか奴のアパートに入り浸ってはいっしょにハッパをまわすようにもなり、
夜な夜な彼のアパートを訪ねては、
終わることのないおしゃべりに付き合わされていたのだが、
なんだかんだ言いながら少なくとも英語の先生という意味では大変世話になった。

そんな訳で知り合ったヒッピーバイカーの成れの果てとビリーと言う男。

元々はカナダ人ということで、彼には南部訛りがなかったことから、
まるで夢のように綺麗な英語をしゃべってくれる得がたい友人であった。

ベトナム戦争時は特殊工作隊のメンバーであったってな話で、
死んでも他人には言えない話とやらをさんざん聞かされた。

陥落寸前のサイゴンでの南ベトナム政府の腐敗官僚たちの救出作戦のミッションと、
そして彼らをグアムに護送したときの話。
その後休暇代わりに送られたベルリンでは軍物資を闇市場に流してぼろ儲け、
その金を元手にヤクの密売を初めて一時はそうとうにブイブイと言わせていたとのこと。

南米から中米を経由してのコケインのルートとその販売網の話、
コロンビアのコケイン王と猛獣狩りをした話、パナマの独裁者とゴルフをした話、
ここだけの話だが例のクーバのなんたらともお知り合い、とのことで、
プレイメイトとやりまくった話から始まって、クルーズシップで世界の海を廻ったやら、
奴の話の全てが眉唾物ではあったのだが、
身体中に残った傷痕と、そして奴の単車の運転技術、そしてゴルフの腕、これだけはまさに驚愕もの。

やることなすことまさに常識外れではあったのだが、
その恐ろしいほどの運動神経を見ていると、確かにそんな話も頷ける。
まさにヒッピーの鏡として密かに尊敬さえしていた。

このビリーこそがアメリカで初めてできた白人の友達である。

テキサスの長い長い夕日に身体中を染めながらよくベトナムの話をした。

ベトナムに行ったことがあるか?あのビーチは凄いぞ。本当に身体中が透き通るような壮絶な夕日だ。
その代わりな、海には入るなよ。それこそピラニアみたいにサメが渦巻いてやがる。
一度その口の中に手榴弾をぶち込んでやったらな、たちまちサメたちのパーティが始まって、
まさに夕日みたいに海が真っ赤になったもんだ。

その後、いろいろな不運が重なってすっかりとクラックに魂を奪い取られた末に、
ハーレーどころか服も靴も、そして奴の命綱であった秘蔵の軍用コルトさえ売り渡した末に、
ゴミの用なホームレスとなって朽ち果てることになった。

いまでもビリーのことを思うと胸がつまされる。

奴がアパートを追い出され行き場を失くした時、うちに泊めてやるべきだったのか。

やめておけ、と誰もが言った。

お前になにができる?俺たちになにができる?

確かにそうだった。
手を差し伸べたが最期、奴に憑りついた麻薬という悪魔の新たな宿主として、
俺たちの身さえも食いつぶしてしまうのは目に見えていた。

という訳でこのビリー。
なんだかんだ言いながら、この人のお陰で少なくとも俺のヒヤリング能力だけは飛躍的に向上したのは言うまでもない。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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