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「ニューヨークの奈落の底の底」

Posted by 高見鈴虫 on 26.2014 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback

と言う訳で、晴れて退職が決まり、
あと数ヶ月のうちに再び職探しを始めねばならない俺。

この間まで自称勝ち組の米系企業勤務。人も羨むのエリートリーマンさんであった筈のこの俺が、
なんといきなりドッグウォーカーかラーメン屋の出前か、という現実がいま目の前に迫りつつある。

まあ普通であれば、みすみす下手な仕事に手を出すよりは、
じっくりと希望の職種が見つかるのを待ちたいところなのだが、
しかし、問題はこのニューヨークの狂乱地価である。
つまり我が家の家賃は月三十数万円。
つまりものの三ヶ月も暢気に犬の散歩などしてようものなら、
いきなり100万円がすっ飛んでしまうわけである。

がしかし、これはなにも俺に限ったことではない。



現在この街に暮らすほとんど全ての人間が、まさにこの狂乱地価の煽りを食って青色吐息。

日本で言うところのワンルームマンションがなんと月二十万を下らない。

給料の上昇率と地価の高騰がまったく噛みあわず、いまや普通に暮していてはアパートを借りることさえもままならない。

エントリーレベル、時給17ドルより、なんて求人広告を見るたびに、
おいおい、そんな給料でいったいどうやってこの街で暮らしていけるわけがあるのか、
とつくづく疑問であるが、
その対応策とは、つまりひとつの部屋を二人三人でシェア。
朝番・昼番・夜番に分かれて、ローテーションを組んでひとつのベッドを使いまわしにする、
なんて世界が既に普通のこととなってきている。

脱法ハウスならぬ、ゲストハウス、つまりは寄宿舎のようにベッドの並んだだけの部屋、
なんてのも既に超満員らしく、なかなかもって、この街にしがみ付くのはただ事ではない。

そんな中、この冬の超絶寒波の中、巷に溢れたホームレスの皆様も、さすがに野宿は命の危険と直結。
まさに死活問題である。

と、
そんな人々のためのホームレス用シェルター。

が実はこのホームレスシェルター、一歩中に入ってみればまさに無法者地帯状態。

灯りが消えたとたんに持っているものは全て奪われ、下手をするとそのまま消されかねない。

まさに命ひとつの裸一貫に毟られることを覚悟しなくては駆け込めない場所であるらしく、

ホームレス用シェルターに行くぐらいなら刑務所の方がまだまし、とまで言われるかなりハードコアな場所。

がしかし、そんな危険なホームレス用シェルターに、この冬、なんと五万二千人もの人々が訪れたそうである。

がしかし、このホームレスたち、実は全てがあのホームレス、つまり普段から公園のベンチで寝起きしている野獣半分の人であるか、というと実はぜんぜんそんなことはない。

そのうち三万八千人もの人々は実は家族。
大人一万五千五百人、子供がなんと二万二千五百人にも上る。

しかも、そんなホームレス家族がすべての労働を諦めた長期失職者、日々空き缶集めごみ漁りのダンボール暮らしか、
と言えば全然そんなことはなく、そのほとんどの人々はちゃんと仕事に就いているまじめな勤労者なそうなのである。

つまり、働けど働けどあまりに給料が安すぎて、あるいは、そう家賃・物価が高すぎて、まともにアパートに暮すことができずに、
家賃滞納で追い出された挙句、一家して路頭に迷っている、ということなのである。

市価云ビリオンドルの高級コンドに暮らし、日々犬の散歩をして過ごしている人がいるかと思えば、まさに日夜土日もなく、二つ三つの仕事を掛け持っては休みなく働き続けながら、しかしそれでも妻子供を養うことができない人々。。

米国の失業率が改善、とかなんとかいうニュースはつまりはそんなカラクリなのだ。

今更ながら、格差社会だなんだと聞いたような御託を並べているような場合ではない。

つまり、そう、そんな現実が、いままさにこの俺の目前に迫っているわけであるう。

今更ながらいやはやまったくとんでもない時代になったものである。

振り落とされたが最後、奈落の底がすぐに背後に迫っているのである。
そしてそんな現実は誰の身にも迫りつつある。

2008年の大恐慌によって、全米中で家を失った人々が溢れかえった。

家財道具一切をトラックの荷台に積み込んだ家族が、
行き場所を失くしたまま、最後の最後の贅沢、とばかりにディズニーランドを目指した。

子供の笑顔だけは絶やしたくなかったのだろう。
全てを失った家族にとってそれだけが最後の拠り所であった筈だ。

そんな人々が夢のディズニーランドの周囲に一大ゲットー郡を作り上げて来たのだが、
実はその大恐慌の余波がいまこのニューヨークにも襲い掛かってきている。

ニューヨーク・ニュージャージー州における自己破産の件数がついに全米のトップに躍り出た。

いくら家持ち、コンドミ持ちと言っても、月々のローンの支払いに加えて、アパートの管理代の嵩む。
そのぎりぎりのところでモーゲージを組んでしまった人々は、ひとたび仕事を失った途端に、
あっという間に家計がパンク。その人生計画はあまりにもあっけなく倒壊してしまう、
まさに綱渡りの上に生きているのである。

そんな中、会社の上層部は相変わらず、健全なる会社経営よりは、
まずは短期的な株価の上下ばかりに気を取られ、
クイックマネー算出のために安易な人員削減ばかりをぶち上げては、
業務はますます空洞化していく。

そんな俺も、会社が突然決定したなんと2万人に及ぶ大量の人員異動の余波を食らった訳で、
来年からいきなり500マイルの彼方、地の果てのど真ん中に建てられた新社屋に異動を勧告された結果、
思わず、行きませぬ。家族を捨ててNYCを離れるぐらいなら会社は辞める、という当然の決断に至ってしまった訳だ。

まったくもって、何から何までが無茶苦茶である。

そんなことは重々知ってはいたが、実際に自分の身に及ぶまでは誰一人として関心を払わないもの。

と言う訳で、このガリバー企業の人々。ついこの間まで、全米随一の優良企業の一員として、
世の断末魔を涼しい顔で黙殺してきた筈が、いま始めて現実と直面するに至っている。

これまでどう考えても市場価格に比べて高い給料を貰い続けてきた一流企業社員。
ここに来て突如市場価格を基に自己の能力を査定されるに至り、
いきなり給料が四分の一、なんてのはまだまだ序の口。
まさに、どこにも、なにも、職が見つからない、という人々がわんさか出て来る筈である。

で、どうする気?と珈琲カップを片手に談笑する人々。

さあなあ、まあ、どうなるのかな、と苦笑いを浮かべながら、

まあな、早期退職金貰ってさっさと隠居しちまうってのも手かもしれないよな、

などと、そこには切羽詰った感は微塵もない。

つまりはまだまだ余裕をこいているのである。

と言う訳で、俺は果たしてどうするつもりなのだろう、とふと考える。

しばらくは失業保険を貰いながら、しばらくは貯金を切り崩しながら、しばらくはしばらくは。。

ふと見れば地下鉄の中に犇くまさに疲れ切った人々。
たぶん、一日中を最低賃金でこれでもかとこき使われた挙句、地下鉄を乗り継いで次の職場に向かう人々。
それでもまだ仕事があるだけましなのさ、と彼らは言うに違いない。下を見ればそれこそ切りがない。
まさに底なしの奈落が待ち受けている訳であるのだが、そう、こんな人々にしても、
いざ実際にその奈落に落ち込んでしまわない限り、その奈落の奈落たるゆえんには気づかないのだろう。

そんな俺は実は奈落を知っている。

渡米直後、南部の田舎町で、不法労働者と共に、最低賃金にさえ至らないまさに人間以下の生活を過ごした日々。

このところ、なぜかあの頃のことが妙に懐かしく思い出されたりもする。

がしかし、
いまとなってはあの頃の最後の拠り所であった若さ、
つまりは多少荒っぽいことでも厭わない底なしのパワーと、
あるいは適当な女をみつけてばっくれる、という色仕掛け作戦も今となっては通用しないであろう。

とここに来て、くそう、米国籍をもっと早めに取っておくべきだった、そうなれば少なくとも生活保護が貰えたのに、
と悔やむばかりである。

と言う訳で、春遠からじのNYCである。緩み始めた風だけが心の支えである。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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