Loading…

「ドッグランでのにわか診療」

Posted by 高見鈴虫 on 27.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
ドッグランにおいて、誰の犬かどんな犬かに関わらず、俺は全ての犬を分け隔てなく平等に可愛がる。

俺がドッグランに姿を見せた途端、目を輝かせて挨拶に集まってくる犬たち。

頭を撫で、耳の後ろを掻き、顎下から首まわりから始まって、
胸からお腹から背中から腰から、万遍まく撫で回す。

汚れをはたき、涎を拭き、目脂を取り、
身体に傷がないか、妙なおできができていないか、
痛いところはないか、痩せ過ぎていないか太り過ぎていないか。

お座り、お手、でちゃんと躾がされているか、
ついでに、爪が伸びていないか、パウの手入れはどうか。

鼻の頭にちゅっとキスをしながら、
歯はちゃんと磨いているか、虫歯はないか、
そして、顔をべろべろ舐められながら、
口臭のチェック。まさか妙なもの、つまりはウンコを食べていないか。

これは普段から自分の犬にやっていることがついつい習慣化しているだけなのだが、
犬たちはは嬉々として、ある時ははしゃぎながら、あるいは神妙な顔つきで、
俺の可愛がりを受け止める。

飼い主たちは自身の犬が見知らぬ男に撫で回されている姿を、
ある者はちょっと心配そうに、ある者は喜んで、ある者は露骨に嫌そうな顔をしながら、見守っている訳なのだが、ほとんどの人たちは、そんな俺の姿を、照れ笑いをしながらも、ちょっとまじめな顔つきで見守っている。

で、どう?と聞いて来る人もいる。
それは定期健診の結果を待つ患者の親、の表情そのもの。
問題なし、コンプリートリー・ヘルシーと言ってあげると犬の表情そっくりにぱっと笑顔を浮かべる。

そんな飼い主たちは、普段から犬のチェックに怠りがなく、しかし第三者の意見もとても大切と認識している、つまりはちゃんとした飼い主さん。

だが人によれば、ありがた迷惑、あるいは、自身のプライバシーを勝手に荒らされたような気になって、ちょっと他人の犬にべたべた触らないでください、といった風にむっとして自身の犬を呼び寄せたりする。

そういう犬に限って、目脂はべたべた、毛並みも悪く、そして決まって太りすぎ。

改めて言えば、俺は飼い主のためにこれをやっている訳ではない。

犬が見知らぬ人とちゃんと触れ合えることは、躾の一環であるし、見知らぬ人にも信頼できる人がいる、ということを知ることは大切な教育である、と信じている。

ほとんど大抵の犬はそんな俺の可愛がりに大喜びをするし、目脂を取ってやったり、口をこじ開けて奥歯の様子を覗き込むときも、素直に、時としてまさに検診を受ける患者の顔そのものにそれを受け止め、そしてはい、終わり、とやったと同時に、満面の笑み、あるいはちょっとした尊敬の念を込めて、ありがとう、とお礼を言う。

とそんなことを続けていると、犬の方から、ねえ、ここが痛いんだけど。。飼い主が気づいてくれなくて。。と訴えてくることもある。

そんな俺の素人検診を100%信じ込まれても困るのだが、俺はおせっかいを承知で飼い主に提言する。

つまりはそんな検診を日常的に入念に行うことは飼い主としての責任であると信じているし、そして飼い主が気づかない問題点について話合う事は、非常に有意義であると信じているからだ。

ああ、判った判った、と迷惑そうに苦笑いする人もいる。
あら、そうだったの、ありがとうございます、と丁寧にお礼をする人もいる。
そうそう、そうなのよ、で、どうしたら良い?と相談してくる人もいて、
そうこうするうちに、
うちの犬、なんかここがおかしいみたいなんだけど、ちょっと見てくれない、と自身の犬を連れてくる人もいる。

ああ、ちょっとびっこ引いてるね。左の後ろ足かな。ほら、ちょっと見せてみて、と触診を繰り返し、ああたぶん、パウの塩焼けじゃないのかな。よく舐めてない?家に着いたらよく洗って、ローションをつけておいたほうが良いと思うよ、などと聞いたような口で提言したりもする。

一方、もちろん逃げ回る犬もいる。俺に追いかけっこを仕掛けてきているのならまだ良いが、本当に痛いところのある犬は、決まってその弱点を隠そうとする。

が、おい、お前、ちょっと来い、と威厳を込めて呼べば、犬は諦めたように神妙な顔で、なんでしょうか。。とやってくる。

お前、ここ痛くないか?と聞けば、そう。。そうなんです、と答える。

お前の飼い主どこだ?と聞くと、ほら、あれ、と見るとそんな飼い主は決まって電話中、あるいはスマフォでメールを打っていて、あるいは飼い主同士のおしゃべりに夢中。つまり自身の犬のことにまったく気を配っていない、そして気遣っていないケースが多い。

おい、そこのあんた。あんたの犬、虫歯があるぞ、やら、膝が腰が痛いみたいだ、あるいは胸焼けしてるぞ。そしてあるいは、時として飼い主が一番触れられたくないこと、つまり、お前の犬、うんこ食ってるぞ、と言ってやることも多々ある。
がしかし、そんな飼い主に限って、余計なお世話だ、と知らん顔である。

あのなあ、だから、お前がそんなスマフォのゲームに夢中になっているから、犬が目を掠めてしめしめと悪さをしているってことだ。自分の犬から目を離すな。ドッグランに来たら犬から開放されると思っているのは大間違いだ。ドッグランこそが自身の犬のチェックをする場所なんだ。だからすぐにそのスマフォをしまえ。

確かに大きなお世話である。そんなことは俺も判っている。
が、犬人間である俺は、そんな飼い主の機嫌や世間体などよりも、犬の事情、つまりはそんなバカな飼い主に飼われている犬のことが最優先なのだ。

そしてそんな犬たちは、飼い主よりも俺を信頼する。

ひとたび目脂を取ってやった犬は、あるいは跳ね飛んだ涎をふき取り、埃りをはたき、爪をパウを、そして虫歯を見てもらった犬はその恩義を決して忘れない。

ねえ、犬のおじさん、今日も私の身体ちょっと見てくれる?と次から次へと検診にやってくる訳だ。

と言う訳で、いつもありがと、という飼い主。

いやいや、普段から自分の犬にもやっていることだから、とクールに言い放つ俺。自分たちの犬のチェックを怠らないこと。これは人間として当然の義務であり、そしてそれは自身の犬を感染から守ることにも直結するからだ。わざわざお礼を言われる筋合いもない。

で、そう、この間の下痢の話ねえ。あんたに言われてさっそくお医者に行ったら。。ぜんぜん問題ないって。一応抗生物質を処方されたんだけど、それだけでしっかり200ドル取られたわよ、と苦笑い。

良かったじゃないか、と俺はそっけなく答える。それで犬の健康が判れば安いものだ。

とまるで、犬猫病院の回し者のような俺ではあるのだが、そんな調子で集まる情報はとても貴重だ。

ねえほら、あんたの犬、また青い草を食べてるわよ。胃腸の具合が悪いんじゃない?ちょっとご飯を減らして見れば?あるいはしばらくお粥に換えてみたほうがいいわよ。

なんか目が赤いぞ。またサッカーしてて砂が入ったのかもしれん。炎症起こす前に洗浄液で洗っといた方がいいぞ。

そうやって互いにチェックを繰り返すことによって犬の健康が保たれ、そして全ての犬が幸せになってくれれば本当に良いことだと思う。

とそんな俺の足元に、こんちわ!とやってくる犬たち。

ねえ、おじさん、またボールで遊んで、とどこで見つけてきたのか、汚いボールを足元に置く。

おっし、ちょっと待ってろ、とそのボールを綺麗に洗い、そうだついでに、とお座り。お手、はい、ちょっと口開けてみろ、とにわか検診が始まる訳だ。

そんな俺の隣りにいるブッチ。

まるで新米研修医といった面持ちで、神妙ながら妙に険しい表情でそんな犬たちを見つめている。

そう、実は、一番の問題はまさにこいつなのである。

家族以外には絶対に身体を触らせない頑固者。

獣医にさえおいそれとは触らせないものだから、決まったお医者さんの予約が開くまで永遠と待たなくてはいけない。

そんな問題児を抱え込んでしまった俺が自然と鍛えられたということなのだが。。

そんな訳で、このドッグランの犬たちは今日もハッピーハッピー。

そんな犬たちに囲まれながら、俺は今日も今日とて、ボールを放りながら、どこぞの飼い主が拾い残したウンコをせっせと集めて回るのである。


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://shumatsuwotohnisugit.blog.fc2.com/tb.php/1986-a187b632

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム