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猛犬パーティの終焉

Posted by 高見鈴虫 on 05.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
夜更けの猛犬パーティ。
長引く花冷えの中、土曜の夜ということもあって、今日はサリーとブッチだけである。

そう休日の夜なのだ。
他の犬は一日中、嫌というほどに広々とした公園を走り回っているだろう。
わざわざ夜更けになってこんな小便臭いところに来る必要もない。

がしかし、ジェニーはここでしかサリーを放すことができない。

公園でオフリーシュどころか、他の犬が居てはドッグランでさえサリーを入れることができない。

そして凍えた風の吹き荒れる週末の夜の公園で、まるで魔女のように亡霊のように、孤独なボール投げを続けなくてはいけない。

ブッチはそんなサリーとジェニーを冷めた表情で見つめているばかりだ。

ブッチはすでに今日一日だけでもセントラルパークからリバーサイドパークから、いくつものドッグランも歴訪し、正直疲れきっている。

こんな夜更けにドッグランにやって来たのは、まさにサリーとそしてその飼い主であるジェニーへのボランティアなのだ。

そう、だが、しかし、と若干の疑問は残る。

ボランティア、人助け、その本質である。

アンパンマンではないが、ボランティアの本質とは、己の余った力を相手に小分けにする、ということではない。

ボランティアの本質とは、己の身、それももっとも大切なものを削ってでも人のために尽くす、ということである。

ボランティアをするものにはその覚悟が必要なのだ。

さもなくば、己の大切なものを奪い去られようとした時に、そんな筈があるか、それは不平等だ、と騒ぎ立てることになる。

そしてこんな花冷えの夜更け。

ジェニーの身になにかあっては行けない、と軽い気持ちで付き合うよ、とはせ参じたドッグランで、ついに、ついに、長年恐れてきたことが起こってしまった。


サリーがブッチを襲った。

サリーがブッチを襲った。

サリーはなんの理由もなく、前触れさえ無く、ただ振り返りざまにいきなりブッチに襲い掛かった。

不意をつかれたブッチがとっさに身を交わし、しかし思わずギャンと悲鳴を上げた。
重ねて襲いかかろうとするサリーを、気配を察した俺が止めに入って事無きを得た。

飼い主のジェニーは気づいていなかった。
ブッチのあの悲鳴に気づかなかった筈がない。
つまり、見て見ぬふりをした、ということだろう。

俺はサリーの首輪を掴み、お前、いま何をやった、と暴れる身体を押さえつけた。
いまよく理解して貰わなければ、サリーはまたやるに違いない。
ブッチを守るためにはサリーに考えを改めてもらう必要がある。
それを教えるのは今しかない。

それを見てジェニーがパニックを起こした。

自身の犬が俺に殴られると思ったらしい。

そしてヒステリックに騒ぎ始めた。

サリーはアタックなどしていない。ブッチが先にしかけたのだろう。あんたがそうやって怒鳴るからサリーが。。

またいつもの奴。ジューイッシュの定番。自分に都合悪いことには一切目を瞑り、
白を黒と言いくるめ、いつも現実を誤魔化す。
そしてこの詭弁はつまりは自分自身からも目を逸らすということなのだ。

ジェニーは自身の抱える問題を直視することを避けてきた。
自分自身にも白を黒にの論法ですべての現実から逃げまわってきたのだろう。

その結果がこれである。

なおも騒ぎ立てるジェニーに、俺はうるさい!と怒鳴った。

自分の犬の躾もできずに、そそうをするたびに、言い訳を並べて逃げまわり、
挙句に見てない、やってないか。いい加減にしろ。
あんたがそんなことをやっているからサリーはいつまでたってもこうなんだ。
サリーをこんなにしてしまったのはあんただ。
あんたのその虚言症と逃避癖がなによりの問題なのだ。

あんたがそれを改めない限りサリーは変わらない。
サリーが変わらない限り、サリーはいつか、ブッチか、
あるいは、チェスか、あるいは、また他の誰かを襲うに違いない。
それはまさに過去にジョージに、レミーにマギーに、そしてボルフェウスに起こったこと。

サリーはいつも、自分の唯一の友に襲いかかって来た。
そしてその度に友は去っていった。
それはあんたが一番よく知っていることだろう。

俺はずっと同じことがいつの日にかブッチにも起こることを考えていた。
いつか起こるであろうと覚悟もしていた。
だが、今日起こらなければ明日も起こらないだろうう、とも思っていた。
そうやって俺自身も敢えてそのリスクから目を背けていたのだろう。

そしてついに、と言うか、つまりは起こるべくことが起こるべくして起こった。

そしてそれは、いまきっちりと言っておかなくては、
いつかきっとまた起こる。そして次は多分どちらかが血を見る。

そうさせないために、俺はサリーに言わなくてはいけない。
がそれは、あなたの仕事だ。
あんたがそれをやらない限り、サリーはこのままだ。
あんた自身がその現実にしっかりと対峙しない限り、
事態は変わらない。つまり、俺はブッチの危険を承知で
あんたたちの人助けを続けなくてはいけない、
その理由が考えつかない。



かみさんはそもそもこの猛犬パーテイにブッチを連れて行くことに反対だった。
他の犬の教育のことよりも、ブッチへの悪影響を考えるべきだ、と言い続けてきた。

俺もそのことについて考えない訳でなかった。

悪影響は確かにある。

レミーの吠え癖が、マギーの拾い喰いが、そしてサリーの攻撃癖が。

あれほど良い子で通っていたブッチにそんな奇行が目立ちはじめた。

近所の人々からも、どうしてあんなバカ犬と付き合わせるのだ、と散々言われてきた。

あのサリーの飼い主、まるでキチガイみたいね。
毎日毎日犬に引きずり回されて。
別の犬とすれ違う度に金切り声を上げて向こうに行けと怒鳴り散らして。
間違った犬を飼ってしまった典型。
あんなばあさんがあんな猛犬を連れているんだもの。
コントロールなんてできるわけないし、そのうち人間を襲わないか、と心配で。。

いや、サリーは馬鹿じゃない。少なくとも俺の前では良い子なんだ。

俺はそう言いながら、俺がそれを証明してみせる、とむきになっていたのだ。

それはつまりは俺の勝手なエゴだ。そしてそのしわ寄せがブッチと、そしてかみさんに向かうことになった。

今日、ブッチがまた通行人に襲いかかって。ドッグランで吠え続けて。何食べてるのかと思ったら・・・
かみさんはそれを暗に、猛犬パーティの悪影響だ、と言い続けていたのだ。

バカな犬はいない。そう、それは事実だ。そして、馬鹿なのは必ず飼い主なのである。

という訳でジェニーである。

つまりはこれ。今晩起こったことこそがジェニーとそしてサリーの抱える問題の元凶なのだ。

事あるごとに白を黒、黒を白と屁理屈を並べてはうるさくがなりたて相手が辟易して背を向けたことを勝った、私が正しい、と主張するそのやり方。嘘や詭弁は人間には通じるかもしれないが、犬には通じない。
犬は本質のみを理解する。

サリーは、自分が悪さをしても、飼い主であるジェニーが庇ってくれる、とたかを括っている。
ジェニーは自分を怒らない。なにをやっても結局は許して貰える、あるいはその現実に目を背けてくれる。
ジェニーはずっとこれを繰り返してきた。そしてサリーはジェニーに甘え、そしてそんなジェニーさえもを舐めきっている。

なぜジェニーはサリーを叱れないのか。

それはつまりサリーを愛しているから、可愛がっているからなのか。
いや、俺にはそうとは思えない。
つまりはジェニー自身がサリーを怖がっているからである。

サリーはそれを知っている。
そしてそんなジェニーを舐めてしまっている。

そしてサリーは、自身に説教をする人間たちから逃げ回る。
そしてジェニーは、サリーがなにかトラブルを起こす度にサリーを庇い、
白を黒に、黒を白に、と言い訳を並べたてては、
サリーの、そして飼い主である自身の責任から逃げようとする。

つまりそれ、その結果がこれである。

サリーを変えるにはジェニー自身が変わらなければいけない。
が、ジェニーにはそれができない。
それができない自分自身をまた白を黒、黒を白と騙し続けては、現実の本質から逃げ回る。

ジェニー自身がそんな現実を直視し、有効な手段を講じない限り、事態はますます悪化する。

つまりサリーは気分次第で、隣りにいる犬に襲いかかり、ジェニーはそのたびに多大な治療費を払わされては友を失い、
散歩の道すがらで引きずられては階段を転げ落ち、他の犬とすれ違う度にリーシュを掴んだ腕を引きちぎられそうな程に暴れられ、
そして誰もいなくなった夜更けのドッグランだけが唯一安心出来る場所。

サリーはますます他の犬から隔絶され、ますます社会性を失って、
ますます散歩が難しくなり、運動不足から欲求不満がたまり、と悪のスパイラルに陥っていく。

サリーはそしてジェニーはいったいどうしたら良いのか。

そんなことよりも自分の犬の心配をするべきよ、とかみさんは言う。

そうその通り。つまり、もうそんな問題児とは付き合うな、その必要はない、と言っているのだ。

そしてそれが、紛うことなき当然の判断であることを今日、はっきりと理解した。

72丁目のドッグ・ウィスパラー気取りのあの人、
自分の犬がその猛犬に噛まれちゃったんだってさ。

馬鹿よね。あんな猛犬たちに関わりあうなんて。

そんな声がはっきりと聞こえてくるような気がしたのだ。

他人の犬を助けることも大切だが、まずは自身の犬のなのだ。
つまりそれが、人の世の原則なのだ。

それはつまり、猛犬パーティの終焉を意味する。

俺はサリーを、そしてジェニーを救うことができなかった。
これは明らかな挫折感である。

ではあるのだが。。。そう、俺は自身のエゴやプライドよりも、
自身の犬の身の安全を先決するべきなのである。




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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