Loading…

ブッチとチャンプ ~ 犬の運命の不思議

Posted by 高見鈴虫 on 25.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
ミッドタウン・イーストサイドにあるレスキュー・シェルターでブッチに出会った時、
俺はもう目が合ったとたんに一撃で惚れこんでしまって、
後先も考えず一も二もなく貰い受けてしまったのだが、
その後起こったこと、と言えば前述した通り。

やんちゃの前にドがいくつあっても足りないぐらいの超ド級クラスのやんちゃ小僧であったブッチ。

家中をぶっ壊されて、引っ越し強いられた挙句、仕事までかわる羽目になったのだが、

とそんな時、ブッチの兄弟であるチャンプと、その飼い主であるアニーさんと知り合った。



長らく住み慣れたミッドタウン・イーストから、犬の散歩にもっとも適したアッパーウエストに越してきてからというもの、そこかしこで、あれ、チャンプ、いつのまにか随分大きくなったわね、と声をかけられることたびたびで、そのたびに、チャンプ?誰だそれ、と首を傾げていたのだが、、どうもそれがブッチの兄弟であるらしい、と判り、さっそくチャンプが通っている犬向けのデイケアを訪ねたのだ。

デイケアに足を踏み入れたとたんに、店中のスタッフが、あれええ、チャンプだ、チャンプの兄弟だ、と大騒ぎ。

と言う訳でご対面した兄弟。

まさに大感激で大騒ぎを始めるか、というとそういうことも無く、
なんと言ってもその身体のサイズが倍近くの差がある。

日夜お散歩放題で全身筋肉隆々のぶりのブッチに比べ、チャンプは二周りも小さく痩せこけて身体中が骨ばっている。

誰だお前、あれ、なんかどっかで知ったような気もするが、と近づいてくるブッチに、
ちょっとちょっと、やめてよ、僕は荒っぽい遊びは好きじゃないんだ、と尻尾を丸めるチャンプ。

え!?と思わず。そう言えばブッチはどんな状況においても尻尾を丸めたことがない。

で、人の迷惑をまったく顧みないブッチ、なんだよ、お前、おい、ちょっと来い、プロレスやろうぜ、と問答無用に追いかけまわし始めれば、

チャンプはこれ以上なく背中を丸めて、だから、痛くしないでってば、といまにも悲鳴を上げそう。

と、そんな風景をにこやかに見つめている飼い主のアニーさん。

奇しくも引っ越した先のアパートから5ブロックのところに住んでいるそうで、あれまあ、奇遇だねえと。

と言う訳で、と再開した兄弟を挟んでこれまでの苦労話に花が咲いた訳だ。


問答無用にやんちゃ魔王であったブッチと違い、チャンプはまさに病気のオンパレード。

なにかあるとすぐにお腹を壊し、食も細く、耳から目からの感染症に始まり、ついには皮膚の炎症が悪化して毛が抜けてしまい、いまは病院で処方される薬膳生活とのこと。

ああやっぱり、と俺は密かにうつむいてしまう。

だって、そう、ブッチと始めて会った時、ほかの兄弟とのそのあまりの落差にちょっと唖然としたものだ。

ブッチのその問答無用の元気溌剌ぶりに比べ、他の兄弟たちのそのしょんぼり加減といったら無かった。

身体つきからしてまったく違っていて、ブッチはもう身体中からパワーがみなぎるような子犬の中の子犬、と言った風情。
それに引き換え、他の兄弟たちは身体もずっと小さくそして痩せこけ、目脂から耳垢から、なんとも薄汚れた欠食児童とう感じ。

つまり、ブッチは他の兄弟のおっぱいからご飯からを全て独り占め。
挙句の果てに終わることの無いプロレスごっこの相手もさせられてとまさに迷惑至極の大悪がきであったことは容易に想像がつく。

ブッチのこの恐れを知らぬアルファーぶりこそが、良いところをすべて独り占めし続けていたというその確たる証拠であり、そのしわ寄せを食った兄弟たちはもしかしたらろくな栄養も取れなかったのかもしれない。

と言う訳で、思わず、ごめんなさい、と言いそうになったところ、

でもね、とアニーさん。

このチャンプ、本当の本当に性格がやさしくて。
我が家は大家族なので、子供から老人まで、本当によく懐いてくれて、まさに家族の宝物なの。

家族の宝物、と思わず耳を疑う。

老人と子供にやさしい?まさか・・・

ブッチは老人が嫌いである。杖をついてよたよたしている姿など見かけるや、なんだおまえ、と睨みつけて、ちょっとでも足を縺れさせようものなら、おい、こら、ワンワンワン、とすぐに絡み始める。

あるいは子供。ブッチは子供が苦手である。

あの耳元でキャーキャーと騒がれると、露骨に顔をしかめて、なんだよお前、とやり始める。

つまり兄弟でありながらまったく正確が違う、ってこと?

いまね、仕事の後に大学院に通っているんだけど、というアニーさん。

大学院に一緒に行って、一緒にクラスを受けているの。

え!?騒いだりしないの?

まさか。誰から構わず甘えちゃうんで、もうクラス中のアイドルなのよ。

誰彼構わず・・?だって、ブッチの兄弟ならオーストラリアン・キャトル・ドッグでしょ?だったらワン・オーナードッグ。飼い主以外には身体も触らせないはずじゃあ・・

ぜんぜん。もう誰とでもスーパー・フレンドリー。

大学院には車で行ってるの

まさか。バッグに入れて地下鉄とバス。

バッグ!?バッグに入るの?

入るわよ。お気に入りなの。バッグの中から顔だけ出して、地下鉄でも大スターなのよ。

うちのブッチがバッグに入るとしたらまさにスーツケースだな。。

と言う訳で、同じお母さんから生まれた兄弟ながら、まったく違う犬として違う運命を辿ってきたこの二人。

今では、なんだよ、つまらないな、とお互いにそっぽを向いていたふたり。ねえ、ボール投げて、とやってくるブッチ。その顔つき、隣りのチャンプとのその差はまさに残酷なぐらいに歴然としている。

ねえ、だったらボール遊びは?と聞けば。

ぜんぜん。そういうことに興味を示さないの。
でもね、音楽が好きで。オペラとかかけると一緒に歌うのよ。

ええええ!うちのブッチは、ボール遊び以外にはまったく興味がないっていうか。音楽なんてまったく関心がない見たい。

チャンプはベルディがお気に入りなの。いつも同じところで歌いだすのよ。本当におりこうさんなの。

と言ってるそばから、ねえねえ、とやってきたチャンプ。ひょいとアニーさんの膝の上に乗って、胸に抱えられてご満悦。

抱っこ?まさか・・

ブッチを抱っこなかしたらそれこそウエイトトレーニング。すぐに腰が痛くなってしまう。

実はチャンプの書類にはね、RAT TERRIERって書いてあったのよ。

うちの書類にはAustralican Cattle Dogって書いてあった。

なので、うちの子はRAT TERRIERとして育てたんだけど・・

そう、うちの犬はAustralican Cattle Dogとして育てた。

でも、ほら、ふたりとも額のところに十字星。

ほら身体のスポットも、ブッチは丸でチャンプは四角。

こうしてみると本当によく似ている。

当然よ、兄弟なんだから。

そうだよね、こうして二人並ぶとやっぱり兄弟だ。

うん。似てる似てる。

とそんなブッチを試しに抱え上げようとしたら、おい、なにすんだよ、気持ち悪いな、やめろやめろ、と大暴れ。そんなことよりボールやろうぜ。サッカーだ、サッカーにしよう。ちょっとそれ蹴れ、とやり始める。

でも、性格とか顔つきとか、やることなすこと全然違うよね。

うん、違う違う。

聞くところに寄れば、引き取ったときからずっと病弱であったチャンプ。まさに一月に一度は大病をして病院に駆け込むことになっていたらしいのだが、でもいいの、というアニーさん。お陰でこんなに良い子に育ってくれて、というからにはかなりの裕福な家の人なのであろう。

とそんなアニーさんの胸に抱かれたチャンプ。本当に幸せそうである。

そんな姿を見て、思わずさっき、喉まで出かかった、ごめんね、と言葉はいっさい撤回。

つまり、そう、アニーさんはアニーさんの選択で自分に一番合ったチャンプを選んで、
そして俺は俺で、ブッチを選んだのはまさに必然。

チャンプはね、私と目があったとたんにいきなり抱きついてきて、ほらこうして胸に抱かれて、あれからずっとそう。ずっとこうやってここで過ごしているの。

ねえ、と思わず立ち入った話。

初めてチャンプに会ったのは土曜日の朝?

いや違うわ、とアニーさん。

最終的に引き取ったのは土曜日だったけど、出会ったのはそのずっと前なの。あそこのレスキュー・シェルターに友達がいて、可愛い子犬が来たから見に来てって言われて、まだ去勢手術の前だった。

えええ、と思わず。

だったらブッチのことも知っていたの?

うん、覚えている。チャンプは四角だけど、あの子は丸のスポットだって。

で、チャンプを選んだの?

そう、わたしはもうひと目みた時からチャンプに決めていたの。

その時にブッチは?

その時ブッチは寝てたわ。餌皿に鼻先をつっこんだまま。

やれやれである。

つまりそれはまさに運命という奴なのだろうか。

と言う訳で、さっそく連絡先を交換。

その後、なにかにつけて、病気相談から始まり、食事の件からトリートの情報から、お医者さんのことから、どんな病気をした、怪我をした、どこのドッグランのどんな犬となにがあった、となにかにつけてなんでも相談しあっている。

ドッグランでもちょくちょく顔を合わせるのだが、あれ以来、ブッチとチャンプは一緒に遊ぶことはない。

おいおい、アンアンとドッグラン中に響き渡る甘い声を上げて走り回るブッチを、チャンプはいつもアニーさんの胸に抱かれて静かに見守っている。

と言う訳で、そう、兄弟でもこれだけ違うのだ。

犬は違う。それぞれに違う。

そう言えば、うちの姉貴は県から表彰されるぐらいの大優等生。
そして俺はといえば、県警から追い掛け回される街中の鼻つまみだった訳で、

そう、人それぞれ、そして犬もそれぞれ違うのだ。

そして改めて言えるのは、出会いは必然。

飼い犬が飼い主に似るのは、やはりその出会いからして、赤い糸に導かれた結果なのだ。

おい、ブッチ、と思わず顔を見合わせる。

お前、うちに貰われて幸せだったか?

確かにそんな病弱であったチャンプを我が家の財政が支えきれたかどうか。

あるいは、こんなやんちゃなブッチを果たしてアニーさんがつきあいきれたかどうか。

改めてこの運命の不思議を思わざるわけにはいかないのである。


  • password
  • 管理者にだけ表示を許可する

trackbackURL:http://shumatsuwotohnisugit.blog.fc2.com/tb.php/2037-81f479f0

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム