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「すべてを正直に語る男」

Posted by 高見鈴虫 on 05.2014 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
金曜日の夜、また例によってブルックリンに行くことになったのだが、
34ST~HERALD SQで乗り換えたDラインがいつになく混みあっていた。

朝のクイーンズにおける脱線事故の影響だろう。
NもRもFもMもまともに走っていないらしい。

あみだくじのように地下鉄を乗り継いでは、
ブルックリンへの帰路を目指す人々でどの列車もすし詰め状態である。

一番空いているであろう最後尾の車両で電車を待っていたのだが、
ようやく乗り込んだ後ろから、こともあろうにベビーカーを押した夫婦が乗り込んで来て、
車内はまさに大混雑。

あらためてこのDラインである。

通常ブルックリンと言えば「黒人」を連想するのだろうが、
いやいや、ブルックリンこそはまさに人種の坩堝。

コニーアイランド地域には巨大なロシア人コミュニテーがあるし、
その近辺には古き良きイタリア人移民たちの街もある。
近年は中国系の人々が大挙としてDライン沿線に雪崩れ込んで来ているらしく、
耳障りな中国語の大声もそこかしこで聞こえて来る。

という訳でこのすし詰めのDライン。

終点近くで降りる予定の俺は、よいしょよいしょと人混みを掻き分けて
真ん中近くに場所をキープした訳だが、そのような人の中に一風変わった表情をした者があった。

小太りの少年。
年齢は判らない。人種も定かではない。
近頃ようやく春めいてきた陽気だというのに、冬用のスキージャケットを着ている。
この少年、見たところダウン症であるらしい。
重く垂れ下がった瞼と口元からはみ出した舌がそれ特有の顔つきをしている。

このダウン症の少年。
普段から通い慣れているであろうこのDラインが、ことの外の大混雑に見舞われている理由が、
どうも判然としないらしい。

手すりにしがみつきながら、いったいなんなんだよ、この人達は、と、大きな声で呟きを繰り返している。

がそんなダウン症の少年。

気立ては良いようで、ベビーカーでむずがる赤ん坊をちょくちょくと覗きこんでは、いないいないばあ、をしたり、
電車の揺れに覚束なく身体を揺らす夫婦に、大丈夫ですよ、次の駅でかなり空くはずですからね、とおせっかいな助言も忘れない。

地下鉄がWEST 4th WASHINGTON SQに停まり、どどどどっと人が降りた分、
再びどどどどっとまた新たな人々が乗り込んで来る。

とそのダウン症の少年、
乗る人と降りる人でごった返す中を、出口の脇に空いた一席を目指して猛ダッシュ。
その恥も外聞もない強引さに、なんだよこいつ、以外にあざといところがあるな、と思っていたところ、
一瞬の隙で、その空いた一席は、派手ななりをした若い娘に取られてしまった。

へへ、といまにも舌を出しそうな若い娘。
まさにラッキー、してやったり、と言った表情で、座ったとたんにしめしめと手元のIPHONEをいじり始める。

としたところ、いきなりそんな女の頭の上から、バカヤロウ、という怒声が響き渡った。

なにするんだよ、それはあんたの席じゃない!


IMG_8165.jpg

ユー・ステューピッド! いますぐそこをどけ!

そのあまりの大声、ほとんど軌道を逸した怒鳴り声に思わず振り返ると、叫んでいるのはそのダウン症の少年。

そののっぺりとした表情からは怒りのレベルは読み取れないものの、その怒鳴り声の大きさからすると相当のご立腹である。

なんだよ、あんた、この混んでいる時に、老人でも障害者でもないあんたが、どうして座っていなくっちゃいけないんだよ。
ほら見ろよ、とベビーカーの家族連れを指さす。
この人たちは赤ちゃんを抱えて大変なんだ。こういう人に最初に座らせるべきじゃないのか?

オールド アンド ディサビリティ! という声がことのほか大きく響き渡る。

なんだって?と皮肉な笑いを浮かべて振り返る女。ディサビリティ?あんたの席だって言いたいの?バカ言ってなよ。

いかにも底意地の悪そうなその表情。白人のまさにFOXと言った風情のその派手な女。

まるで刺すような視線でダウン症の少年を睨みつけると、いそいそとイヤパッドを耳に突っ込んでしまった。

バカヤロウ、とダウン症少年が再び怒鳴る。

僕は僕のために席を探しているんじゃないよ。このベビーカーのおかあさんに座らせてあげたかっただけなんだよ。
え!?どうなんだ。あんただってそうするべきだ、と思うだろ?

確かにそうだ。普通であれば、こんなFOXを気取るぐらいの元気のある若い女が老人や障害者や家族づれを押しのけて席にすわるべきじゃない。
ただ、問題はここがニューヨークであるということだ。この生き馬の目を抜く街でそんな常識はそもそも通用しない。

その頑な女の態度にも、それが嫌ならあんたがこの街から出て行けば?という態度があからさまだ。

おい、聞いてるのか?人が話している時にはちゃんと聞かないといけないんだぞ!

イヤパッドをした若い女は当然のことながら素知らぬ顔である。

おい、人の話をちゃんと聞けよ。そのイヤパッドを外せ。人が話しているんだぞ。コミュニケーションはこの社会の基本なんだ。イヤパッドをして人の話を無視するなんて失礼だぞ。

確かにその通りである。最近の地下鉄の人々のそのほとんどがイヤパッドをして、自分以外になにが起ころうとまったく知ったことじゃないという態度だ。
がしかし、逆に言えば、こういう迷惑な人の怒声をシャットアウトするにも役立つという使用方法もある。

という訳で、その徹底的な拒絶を前にしたダウン症の少年。まさに憤懣やるかたないと言ったところ。そのどこを見ているのかはっきりとしない視線を泳がせながら、いかにも悔しそうに奥歯をギリギリと噛み締めている。

俺はダウン症という人々についてはなにも知らない。
まさか暴れたりとかするのだろうか。まさか刃物や拳銃を振り回したりということもないのだろうが。
がしかし、そのあまりの怒りの態度に、関わりあうことを恐れた人々はそれとなく動向を伺っている。

とそんなとき、いきなり、ブス!という声が響き渡った。

ブス! お前はこの世の中で一番のブスだ!
ユーアーサッチ・アン・アグリー・ビッチ!バスター!

おいおい、と思わず人々が振り返る。いったいこいつなにを言い出すのだ。

ダウン症の少年は構わず続ける。

このブス!厚化粧の、意地悪の、ワガママの、どうしようもないブス!

いいか、お前のその厚化粧は、内面の醜さを隠そうとしているだけなんだぞ。本当に綺麗な女の人は化粧なんてしなくたって綺麗なんだ。
お前はその逆だ。お前の内面は、意地悪で、ケチで、自分勝手の、どうしようもない、低能のクズだ。
お前はそれがわかってるからそんな厚化粧をしてごまかしているつもりだろうが、心の汚い女はなにをしてもブスだ。
ブス、ブス、ブス、世界一のブス!

とそんなあらん限りの罵声を浴びながら、気づいていないのは当人のみ。

なんだよ、こいつ、とふんと横を向いては、イヤパッドの音楽に合わせて顎の先を揺するその姿が、まさに、意地悪で、ケチで、ワガママなの、どうしようもない、低能のビッチ、そのもの。

思わずクスクスと笑う人々。
え!?私のこと?と振り返ってしまう似たような女。

お前はその心の歪みを直さない限り、決して幸せになれないぞ!
お前の厚化粧に騙された男は、やっぱり嘘つきの欲張りのの浮気者のクズで、
そんなお前らに生まれた子供は、やっぱり意地悪で、嘘つきで、ワガママで、欲張りなクズだ。
お前ら一家はみんなで憎みあってブレイクアップするんだ。
どうだ、厚化粧のブス、それがお前の人生だ。判ったか!?

思わず顔を見合わせてしまう人々。
思わず顔を伏せ、自身の胸に手を宛ててしまいたくもなるのだろうか。

そして地下鉄は次の駅に着いた。

厚化粧の女は、まるで何事もなかったかのように、しかし、素早く、まるで逃げるように、ドアの向こうの人混みに姿を消した。

さあどうぞ、とダウン症の少年はベビーカーの夫婦に笑いかけた。ようやく空きましたよ。これがあなたの席です。

夫婦は困惑しながらも、照れ笑いを浮かべて、しかしちょっと怯えた表情も見せながら薦められた席に座り、そんな姿をダウン症の少年はいかにも満足そうに、満面に笑みを浮かべて何度も頷いた。

列車は長いトンネルを抜け、そしてイーストリバーを渡る橋の上を通ってブルックリンへと向かう。

ATLANTIC AVENUEを過ぎた所で人がざっと減った。

ここからDラインはコニーアイランドに向けてブルックリンの貧民街をひた走る。

いつの間にか見晴らしのよくなった車内。ベビーカーの夫婦の姿はすでになく、その席にはちゃっかりとあのダウン症の少年が座っていた。
車内の人々はいまはすっかりといつものDラインの常連たち。
つまりはまるでホームレスと見紛うような人々。太ったロシア人。赤いビニール袋を抱えた中国人系の労務者。時代遅れのヒップホップファッションに身を包んだアジア系の子供たち。

俺もすき間を見つけて腰を下ろし、暇に任せてIPHONEでメールを眺めていたのだが、ふと目を上げると、多分高校生、見るからにハスッパな、安い化粧に、まるで売れないトップレス嬢のような、際どいスタイルの三人組。

三人揃ってお世辞にも行けているとは言えないそのスタイル。

揃いも揃ってでかすぎるとんがった鼻、突き出した顎、時代を間違えたような見るからにケバケバしい化粧。お揃いの真っ赤な口紅がその失敗にトドメをさしていた。

それにしても、だ。しかしながら、なのか、あるいは、それだからなのか、そんな少女たちのそのスタイル。

俺に背中を向けて立った小太りの少女。

薄手のヒョウ柄のスパッツがいまにもはち切れてしまいそうな巨大な尻。
そしてその下から、肉に食い込んだ真ピンクのパンティがスケスケに見えている。

まったくなんだってこんな馬鹿でかい尻をした女が、よりによってその尻の大きさをことさらに強調するような格好をすることがあるのか。

がしかしながら、そこに若い尻がある以上、例えそれがどんな様相を挺していようと、美しかろうが醜かろうが、大きかろうが小さかろうが、やはりどうしても目を惹いてしまう。

見れば見るほどに醜い尻。丸々と膨らんだまるで風船のような尻。そしてそこから伸びた太もも。たっぷりと脂肪を貼り付けた、重くたわみいくつも皺の寄った太もも。しかしそこから降りる膝から下は、まるで不思議なぐらいにすんなりと足首まで伸びて、形だけみるとそれは綺麗な三角形。

いったいどんな男がこんな女に騙されるのだろう。こんな女でも欲望を吐き出すにためには仕方がないと思う男がいるのだろうか。
がしかしながらそのピンクのパンティである。肉に食い込んだそのパンティの輪郭が、食い込んだ輪郭そのものに妙に刺激的に目に飛び込んでくる。そのいかにも安っぽいピンクのパンティ。ブティックというよりもそのあたりのスーパーの網棚で5枚いくらで安売りをしていそうなまさにそんなどうしようもないパンティ。そのシェイプがやけに鋭角的に見えるのも実は小さすぎてこれでもかと引っ張られているからで、そのきつく食い込んだその輪郭。尻の側面を滑っていまにもその割れ目に吸い寄せられてTバックになりそうなそんな小さすぎるパンティ。ああくそ、と思う。こんな女のこんな尻から目が離せないなんて、ちょっと溜まっているのだろうか。

とそんなとき、いきなり、綺麗だな~ という声が響き渡った。

それは、夕暮れの中に押し黙った人々の中にはまさに素っ頓狂なほどにあけすけな大きな声。

綺麗だなあ、なんて綺麗なんだ~。

ふと見ればやはりその声の主は例のダウン症の少年。なにを考えているのかその仮面のような表情のまま、しかしあからさまに赤い顔をしてニヤニヤもじもじと笑っている。

綺麗だな、本当に綺麗だ。こんな綺麗な子に会えて、僕は本当の本当に幸せだ。神様ありがとう。僕は幸せです。だってこんな綺麗な女の子に会えたんだもの。

またいつもの意味のない独り言だろうと思った。犬が吠えるようなもの、と誰もがそんなダウン症の少年を無視している。

綺麗だ。本当に綺麗だ、でもねえ、とダウン症の少年がクスクスと笑い始めた。

でもね、彼女、下着が丸見えなんだ!

むっ!?と思った。下着が丸見え・・まさかこのダウン症、俺と同じものを見ているのだろうか・・

でもその下着、すごく可愛んだ。ピンク色で、ちっちゃくて、本当に本当にかわいんだ。ああ神様、僕は本当に本当に嬉しいんです。だって、くくくくくく、こんな可愛い下着が見れたんだもの。嬉しいな。本当に嬉しいな。

嬉しい?と俺はふと思った。俺はこの象のような尻をしたピンクのパンティを見て、嬉しいと思っているのだろうか。あるいは、嬉しいからこそ目が離せないのだろうか?。。。

嬉しいな、かみさま、だってこんな可愛い子、僕はいままで会ったことなかったんだ。なんて可愛いんだ。あの栗色の長い髪。凄く良い匂いがしそうだ。あの白い腕。柔らかそうで触ったらほんとうに気持ちよさそうだ。

ふと、三人組の少女たちが顔を見合わせた。もしかして・・私達のこと?

きゃははは、と少女たちが笑った。綺麗だって、どうしましょう。きゃははは。

ああ、笑ったぞ、とダウン症の少年が言った。彼女が笑った。彼女が笑った。彼女が笑った。わあ、笑った顔も本当に綺麗だ。わあなんて可愛いんだ。

三人組が顔を見合わせた。え?まじで、まじで私達のこと?

少女たちがダウン症の少年を振り返った。もしかして私達のこと?

ダウン症の少年は耳たぶまで真っ赤に染めながら、えへへへ、と俯いている。

うわあ、僕を見ている。あの綺麗な子が僕を見ているぞ・・どうしよう、緊張してきた、とあけすけな大声で言った。

ちょっと茶目っ気を起こした少女たち。その真中の背の高い痩せた少女が、ねえそれわたし?と自身を指さすが、ダウン症の少年はむっつりと黙ったまま反応しない。

ピンクって言ってたわよね、と二人に指差された小太りの少女。

え?なによ。わたしピンクのパンツなんて履いてないわよ。

履いてるじゃない。ピンクのパンツはあなただけよ。ほら、後ろ向いてみて、ほら、丸見えじゃない。ピンクのパンツはあなたよ。

パンツ丸見え?わたしの?うそお、やだ、なんで言ってくれないの?まじで?わたしのパンツ丸見え?

そんなはしゃいだ嬌声を上げながら、ふと振り返ったその小太りの少女。

まるで相撲取りのような、苦虫を潰したようなその醜い顔。尻もひどければ顔もひどいな、と思わず視線を逸らしてしまうようなそんな少女。

わあああ、といきなりダウン症の少年が大声を上げた。

うわあああ、彼女が僕を見ている。彼女が僕を見ているぞ!

えええ、と三人組が思わずまじまじと顔を見合わせる。うわあ、私のことだ・・・ 

とたんに弾ける嬌声。げらげらと腰を折って笑いながらお互いの肩を小突き合っては大笑い。

えええ、私?わたしのことなの?

うわああ、とダウン症の少年がふたたび浮いた声を上げる。まただ、また僕を見た。わああ、なんて可愛いんだ。なんて綺麗なんだろう。

僕は嬉しい、とダウン症の少年は言った。僕はとても嬉しい。本当に本当に嬉しい。だって彼女が僕を見たんだもの。嬉しい、嬉しくて踊り出したいぐらいだ。

ねえ、あんた、と背の高い真ん中の少女が言った。

ねえ、あんた、名前なんていうの?

ダウン症の少年はいきなり押し黙った。じっと俯いて下を向いて、そしてもごもごと、ダニエル、と答えた。

ねえ、ダニエル、彼女の名前は、スベトラナ、っていうの。

スージーでいいわよ、と小太りの少女が投げやりに言った。

スージー、といきなりダウン症の少年が叫んだ。神様、彼女の名前はスージーです。スージー!スージー!なんて可愛い名前なんだ。

高架線の上を走る地下鉄が各駅に停まるごとに、車内の人々がこぼれ落ちてゆく。もうここまで来ると誰も乗っては来ない。マンハッタンで一日を終えた人々がその重い身体を引きずるように、一駅ごとに自身の巣へと帰り着くだけだ。

僕はスージーになにかを上げたい、とダウン症の少年が言った。

でもなにを上げるべきなんだろう、とポケットをごそごそ。

そして取り出したのはビニール袋に入れたクッキー。

うあ、なんて幸運なんだ。一つ残ってるぞ。

ほとんどが砕けて粉ばかりになったビニール袋に入ったクッキー。どういう訳かくちゃくちゃの一ドル札も何枚か入っているそのビニール袋から、ダウン症の少年は最後に残ったそのクッキーを取り出して、あの、と妙に神妙な顔つきでそれを差し出した。

あの、これ・・・

少女たちは合わせて首を振った。いらないわ。

え?いらない?

最後のひとつじゃない、自分で食べれば?

そう、いらないのか・・おいしいのに、とダウン症の少年は、それを一口で口の中に押し込んで、うーん、おいしい、と満面の笑顔を浮かべた。

ねえ、ダニエル、あなたどこで降りるの?と真ん中の少女が言った。ひとりで帰れるの?

帰れるさ、とダニエルは言った。僕は18 AVENUEで降りる。いつも通っている道だもの。間違えたことなんてないよ。

18だってさ。と少女たちが顔を見合わせる。

でも、とダニエルが言った。でも、こんな暗くなったことはないんだ。いつもはもっと明るい時間に着くのに・・

事故があったのよ、と真ん中の少女。だから凄く時間がかかったの。

確かに、と思わずIPHONEの時計を見る。普段なら1時間足らずで着くところをすでに7時45分。約束の時間を15分も過ぎている。

うわあ、凄く暗いなあ。暗くてよく見えないや、とダニエル。

ねえ、一緒に帰ろうか?と真ん中の少女が言った。

大丈夫よ、心配しないで。一緒に帰ろ。

え?とダニエルが言った。本当に?

そして、うわあ、なんてやさしい人達なんだ。

そして列車は18AVに着いた。

まるで何事もなかったかのようにダウン症のダニエルはすっと席を立ち、そしてドアのところで立ち止まって、足元にご注意ください、とまた大きな声で言った。

はいはい、と少女たちは笑った。どうもありがとう。

そしてダニエルと少女たちは列車を降りた。

はい、背の高い少女がとダニエルの手を取ると、いや、いらない、とダニエルは言った。僕はひとりで歩けるんだ。

がしかし、窓を振り返ってみると、もう片方の手、つまりはスベトラナと言った小太りの少女の手はちゃっかりと握ったままであった。

夕暮れの駅を、背中を丸めてぽくぽくと歩くダウン症の少年と、それを見守る厚化粧の天使たちが遠ざかって行った。

ナンパ成功という奴か、と思わずにんまりとしてしまった。

俺もこんどダウン症のふりをしてやってみようか。

うわあ、なんて綺麗なんだ、こんな綺麗な子に会えて僕は幸せだ、神様ありがとう!!

そう言われて嫌な気分になる女はいないだろう。

すべてを正直に語る男。

これはこれでひとつのテーマだな、と思った次第。



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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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