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ワールドカップ・ニューヨーク ~ 同じアジアじゃないですか

Posted by 高見鈴虫 on 27.2014 日々之戯言(ヒビノタワゴト)   0 comments   0 trackback
午後の図書館。
しんと静まり返った机で一心不乱にテキストのページを捲る俺の肩を、
背後から何者かがむんずと掴んだ。

なんだてめえは、と不機嫌に振り返る俺。
見たところ、どこぞのアジア系のおさん。
見るからにボンビー系のちょっとやさぐれた中年男。
髭剃りのこしの目立つしわだらけの汚い顔。
どこぞのジャパレス系、あるいは、ピーバーの客引きといった感じ。
ここが歌舞伎町やら寿町だったらいざ知らず、こんなレアな日本人、
ここニューヨークではちょっと珍しいな。
で、このひと、いったい誰?
で、そのおさん、
しきりになにか言っているようなのだが、なにを言ってるのかさっぱり判らない、
が、
チョムサカンサダチョムサダダダダヨ~!と偉い剣幕である。




はあ、なになになに!?

そうか、そう言えば俺、もう最近ずっと英語漬け。
つまりヒアリングの能力ががた落ちしたのかも、と思いきや、

そんな俺の当惑に苛立ちながら、掴んだ腕を揺すって、
カムサダチョムサダカムハンサミハムサダヨ~!
で、そのおさんの体臭。その口元から露骨に漂うにんにく臭。
つまりそう、このおさんはコリアンなのである。

がしかし、悲しいことに俺はコリアン、つまりはハングル語をほとんどまったくなにもしらない。

ただこの同朋たちが、どーも、ありがとう、というべきときに、カムハサミダ~、
と似たような感じで会釈することを知っている。
そして、この同胞達が、俺たちがちょうど、うるせえこのチョンコー、というべきときに、
チョッパリ~、と言うことも知っている。

がそう、俺のコリアンの知識とはそのぐらいである。

が、このコリアンのおさん。
周囲で繭を顰める人々もまったく目に入らないかのように、
俺の耳元に向けてその意味不明なちょんがちょんがでなにかを必死で訴えているのである。

そのおさんの瞳には熱意とそして怒りが見える。つまり俺に腹を立ているのだ。

あの、だから、と俺は思わず吊られて日本語で返す。
だから人違いだって。俺は日本人。あんたがなにいってかさっぱり判らないっていうか、
まじ邪魔しないで欲しいんだけど。

ちょんがらちょんがちょむさちょむさだだだっ!

おさんはやめない。

ちょっと、と向かいに座った黒斑眼鏡の黒人のおねえさん。あんたたち、いい加減にしてくれない?

としたところ、いきなりおさんが俺の腕をぐいと引っ張った。

ちょむさちょむさだあああ!

ほら、いいから早く来い、ということなのだろう。

だから、と俺は英語で返す。だから人違いだってばよ。俺は日本人。ジャパニーズ!コリアじゃない。であんたがなに言っているのかさっぱり判らない!

といきなり、怒りに燃えたおさんの顔が、にまーっと崩れた。

ニッポンジン?と日本語で聞くおやじ。

そう、日本人、と答える俺。

出身はどちら?と英語に切り替えたおやじ。

ハマ、と答える俺。ヨコハマ。知ってる?

ヨコハマ知ってますよ、とおさん。親類が住んでるから~、俺も行ったことあるし、といかにも片言の英語ながら実に嬉しそう。

で、ヨコハマのどこ?駅は?と聞かれたところで、

ねえ、ちょっと!とさっきの黒人のねえちゃん。いい加減にして。

うるせえ、と思わず返す俺。気が散るなら自分でイヤパッドつけろよ。

そう、最近の図書館、誰がどんな物音立てようと誰も気にしない。誰もがイアパッドをつけているから。

つまり、周りの騒音に文句を言うのはまさにイアパッドをしていない変人ってこと。

まあまあ、とおやじ。

で、なにか用?と俺。

あ、だから、とおさん。

サッカー、サッカー、ワールドカップ、これから4時から、コリアの試合。

ああ、なんだそういうことか、と俺。

あ、でも、ほら、俺、日本人だから。しかも日本もう負けちゃったし。

そうそう、とおさん。観たよ観たよ、おしかったねえ、一点は返したんだけどねえ。

でも二軍相手だぜ、やりきれないよ。

まあそれは言いっ子なしだ。で、ほら、日本が負けたら次はコリアだろ。一緒にコリアを応援しよう。

あ、でも、ほら、俺、実はいま失業中で資格試験の勉強中で、

という俺を、問答無用にひっぱるおさん。

判る判る。いまはいろいろと難しい時期だしな。
竹島問題とかな、安倍とか、靖国とか、従軍慰安婦とか、まあいろいろあるのは判る。
でも、ワールドカップだぞ。ワールドカップにそんなこといいっこなしだ。
世界の中では日本もコリアも同じアジア人。そうだろ?そうじゃないのか?

ああ、判った判った、と俺。確かに俺もそう思うが、正直言って俺自身、サッカーどころじゃないんだ。

サッカー嫌いなのか?とおさん。おまえ、男の癖にサッカー嫌いなのか?つまり・・・

いやいや、サッカーは好きだが、

だったら一緒に観よう。お前、俺のところに来い。そこで一緒に観よう。
綺麗な女がたくさんいるぞ。もしなんならマッサージでもしてもらえ。俺が言って安くしてやるから。

という訳、ああ、コリアンマッサージの客引きのおさんか。どうりでなんか懐かしい人々の匂いがすると思った。
でもなんでそんなポン引き風情がよりによって図書館なんてところにいるんだ?

まあ、いい。とりあえず、悪いが俺は本当にそれどころではないんだ。
失業中に図書館で勉強と偽ってコリアン・マッサージでサッカー観てたなんてことがばれたら、
まじでかみさんにぶっ殺されてしまう。

判った、としぶしぶ承諾してくれたおさん。でも、だったら家に帰って観てくれ。コリアだ。コリア。日本が負けたらコリアしかない。
忘れるな。俺たちはアジア人だ。同朋なんだ。ひとたび世界に出たら、俺たちは同朋。助け合わないといけないんだ。

判ってるよ、と俺。俺もコリアンの人たちには本当に世話になってるしな。判った、勉強は家でやる。コリアを応援するよ。

という訳で、なんとかお引取り頂いた訳なのだが。

で、ようやく静かになったところで再び中断していたテキストのページに戻ったところ、

つんつん、と背中を突付く輩。

だから、と、振り返った俺の前に、にやにやと笑う巨大な黒ぶちめがねのアジア人の青年。

コンニチワ、と下手な日本語。

はあ、と俺。あんた誰?

ワタシワ、とまで日本語で言って、で、やっぱりだめだ、と英語に切り替え。

中国から来た者です。そこの学校で法律の勉強してます。

はあ、と俺。でその中国の学生さんが俺になんの用?

はい、とその中国の学生さん。

あの、サッカーですけど、と。

はあ、と俺。さすがにちょっとげんなり。だから、俺、日本人だし。で、ジャパンはもう負けちゃったの。

はい、とにやにや顔を微動だにしない中国の学生。

観ました、観ました。コロンビアの二軍相手に惨敗でしたねえ。残念でした。

あのなあ、と俺。この期に及んで冷やかしか?ぶっ殺されたくなかったとっとと失せろ、と思いきや、
相変わらずのニヤニヤ顔の中国人の学生、

カガワ、ホンダ、ナガトモ、まったく良いところなかった。ウチダ、オカザキ、まあまあだったけど。

もう日本のサッカーの話はしないでくれ。正直、腹が立って眠れないぐらいなんだ。

そうそう、悔しかったですよ。普段は我が中国チームを好き放題にフルボッコする日本チームが、
なんと世界に出たら二軍を相手にボロボロですからねえ。いやあ、悔しかった悔しかった。

で?と俺。で、なんの用なわけ?

はい、ですから、とその中国人の学生。

4時からコリアの試合です、と言う。

コリア?中国人のあんたがコリアを応援するの?

そりゃそうですよ、と中国人の学生。

同じアジアじゃないですか。確かに今は難しい時期です。
いろいろな問題があるのは知っています。
でも、ワールドカップです。ワールドカップでそんなこと言いっこなしです。
世界の中では日本も中国もコリアも同じアジア人。そうでしょ?
中国が出れない以上、同じアジア人の代表を応援するんです。
あなたも日本が負けてしまったら、一緒にコリアを応援しましょう。
国ではいろいろ言ってる人がいますが、ひとたび世界に出れば、
我々はみなおなじアジア人です。同朋なんです。

まあな、と俺。でも俺からすれば、ほら、そこの黒人のねえちゃんも、カラード=有色人種、ってことで同朋だし。
そこのいかにもガラの悪そうな白人のおっさんも、実はガンザンローゼズのTシャツ着ている以上は同じロックファンってことで同朋だしさ。
がしかし、そう、ワールドカップである。
日本か中国か、と言われればもちろん日本だが、
ベルギーかコリアか、といわれれば勿論コリアだろう。
そしてこいつの言っていることも確かにそのとおり。
自国しか見えない奴は、いつまでたっても日本VS中国のアジア予選の中での視線しか持ち得ない。
が一度世界に出れば、中国もコリアも日本も、たいした違いはないのである。

ああ、判ったよ、と俺。判った判った、今日の勉強はここまでにして、テレビでワールド・カップを見ることにするよ。

お住まいはどちらですか?とその中国人の学生。
良かったら家まで送りますよ、と親切なものだ。

いや、すぐそこなんでね。いまから急げばキックオフに間に合う。

そうですか。私はそこにあるエンパイアー・ホテルの屋上のバーに居ます。
そこに中国人の同朋も集まっています。みんなでアジアを応援しましょう。

わかったわかった、と俺。

という訳で、ああ、せっかく日本が負けてくれて勉強に専念できると思っていたのに・・・

ワールドカップ、まだまだ続きそうだな・・


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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