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ウィ! キャトル・ドッグ セトレボン!

Posted by 高見鈴虫 on 29.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
我が家の駄犬、オーストラリアん・キャトル・ドッグ・ミックス。
その名もブッチ!ブッチ切りのブッチ。

普段はブー君、あるいは、ブーブー、と呼ばれているこのやんちゃ者。

今日も朝からセントラルパークでボール遊びに夢中である。

たまらないのは飼い主の俺。
日曜の朝も早くから叩き起こされて、
それに加えて来週月曜早々に予定されているジョブ・インタビュー。
それを思うと、この早朝の青空の下でさえ、いやはや、ちょっと胃が痛む思いである。

という訳で、ブー君が芝生でゴロゴロを始めたのを良いチャンスと、
芝生を離れた木陰のベンチでIPHONEを取り出し、
かつてでっち上げたレジメを見返しながら面接のリハーサル。

と、そのなとき、目の前を通りかかった観光客の一団。
先頭を行く旗を片手のガイドさんの後ろから、
垢抜けない風情の団体さんがぞろぞろ。

通りの向こうのブー君。
そんな観光客の行列に俺との間を阻まれてむっとした表情。

見たところフランス人のご一行。

その中の一人、小太りのおばさん。
ふとそんなブー君に目をとめて、事もあろうにそんなブッチの口元に、
ほら、そのボール、投げてあげよう、と手を出した。


IMG_9490.jpg




しかしながら、筋金入りの偏屈者、ワンオーナー・ドッグのキャトル・ドッグであるブー君。
通常であればそんな不届き者にはボールどころか、
指一本身体を触らせることはないのだが、
どういう訳かその小太りおばさん。
そんなブッチの口からすっとボールを受け取って、ほら行くよ、とボールを投げる。
そら、待ってました、と走り出すブッチ。
もんどりうってそのボールをダイレクト・キャッチ。
思わず拍手するご一行。
もう一度、もう一度、とアンコールにお答えして、
さあ、と手をだすと、そのおばさんの手の上にボールを置くブッチ。
さあ、行くよ、そら、と投げ上げたボール。
脱兎のごとく猛ダッシュの後に、そのまま走りながらボールを掴むブッチ。
お見事!凄い凄い、と拍手喝采。
そしてまるでどこぞの記者会見のように響くシャッターの音。
意気揚々と駆け戻ってきたブッチ。
そんなブッチの頭から身体から、ああ、良い子だねえ、と撫で回す小太りおばさん。

むむむむ、である。このおばさん、できる!

この偏屈者のハードノーズ、ブッチが見知らぬ人間に頭を撫でさせるなど早々とあるものではない。
既に4年近く毎晩顔を合わせているアリーンやジェニーにさえブッチはそう易々と身体を触らせない。

がしかし、である。そう、たまに、極々稀ではあるのだが、
そう、こんなおばさんのように、なんの問題もなくブッチに触れることのできる人間もいるのだ。

俺もそうなのだが、足元に駆け寄ってきた犬の頭を撫で回していると、
その飼い主から、あれれれ、おかしいな、うちの犬は決して人に身体を触らせないのに、
と驚かれることが多々ある。

それは才能というよりは体質。
つまりはもう持って生まれたもの、としか思えないのだが、
人種、性別、年齢、背格好、はまったく問わず、
俺も含めて、そういう輩がこの地球上には確かに存在するのである。

という訳でこのおばさん、さあ、ブッチ、とブー君の名前を呼ぶ。

ええ、と思わず驚く俺。このおばさん、なんでブーの名前まで知ってるんだ?
と驚愕したのもつかの間、
そんなブー君を囲んだ人々。
カメラを構えながら、いきなり、ブーブー、ブーブー、と揃ってブー君の名前を呼び始める。

げげげ、と驚くブッチ。おいおい、なんでこいつら俺の名前を知ってるんだ?

どうもフランス人、犬を、ちょうど日本でわんちゃん、と呼ぶように、プーチ、と呼ぶらしい。
で、どうもフランス人、日本で犬を、ワンワン、と呼ぶのと同じように、ブーブー、と呼ぶらしいのである。

そらブーブー、ブーブー、といきなり何十人もから自分の名を呼ばれるブー君。

なんだなんだなんだ、と目を白黒。

とは言うものの、そんな人々が手を伸ばしても、ほらよ、あらよ、とその手の下をかいくぐり、
やはりその小太りおばさん以外には身体は触らせない。

という訳で、おばさんとのボール遊びを再開。華麗なダイレクトキャッチ。ウルトラCを連発。

やっぱりこの叔母さん、確かにできる。
この強情者のブー君の口から、こうも見事にボールを受け取ることができるなんて。


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ブー君はそんなおばさんを相手にボール遊びにもう夢中である。

さあ、投げて投げて、と身体を小刻みに揺らしながら、そのステップの鮮やかさ。鳴り響くシャッターの音。

とふとしたことに、俺にも投げさせろ、と手を出したおっさん。

いきなり投げ上げたボール。

がしかし、そんなおっさんの顔を、ちとーっと見つめるブッチ。あんた、なにやっての?という感じ。

えええ、とおっさん。おい、ブーブー、早く取りに行けよ、と促すも、ブー君、ははは、と笑いながら、嫌だね、とぷい、と横を向く。

まさに一同大爆笑。恥をかかされたおっさん。顔中を真っ赤にして、やれやれ、と頭を掻いている。

という訳で再び小太りおばさん登場。さあ、あのボール持っておいで、とやった途端、はいはい、と走り始めるブッチ。

一同、まるで魔法使いを見るように、おーと溜息まじりにおばさんを見つめる。

そしてボールを咥えてかけ戻ってきたブッチ。おばさんの足元にはい、と置いて、赤い舌を出してにっこり。

はいよくできました、と頭を撫でるおばさん。いまやもう目がうるうる。
もしかしたら、国においてきた自分の犬のことを思い出しているのかもしれない。

という訳で、さあ行きましょう、と促された一同。

その面々、まさに笑顔ではちきれそうである。

それぞれに手元のカメラを覗きこんで、ほら、ほら、これみて、凄く良い写真、と品評会。

じゃね、プーチ。ありがとうね、ブーブー。

という訳で、一同が去って俺の隣に舞い戻ってきたブッチ。

なんだよ、お前、と思わず。

としたところ、既に出発した一同の中から駆け戻ってきた小太りおばさん。

息を弾ませながら、あの、最後にもう一度だけ、とブッチの頭を撫で撫で。
そして鼻先にぶちゅっとキス。そして頬擦り。その目がまさに涙で真っ赤である。

で、懐から取り出した手帳。ほら、これが私の犬、と見せられた写真。あれまあ、オーストラリアン・キャトル・ドッグ。

二年前に死んじゃったの。でもほら、ね、生き写しでしょ?

ああ、そういうことだったのか。

だったら、と俺。もし良かったらこいつ、このまま連れて行ってください。

ははは、と笑うおばさん。あなた、ケベックに来る?とフランス語。ああ、カナダの人だったんだ。

ははは、と笑うブッチ。カナダかあ。ニューヨークも飽きてきたし、それもいいかな、とまんざらじゃないご様子。

キャトル・ドッグ イズ ベスト、とおばさん。つたない英語ながらその意味することは十分伝わってくる。

ウィ、マダム、キャトル・ドッグ セトレボン、と片言フランス語で返す俺。

で、お名前は、とおばさん。

ブッチ。ブッチ切りのブッチ。

プーチ?あらまあ、フランス語じゃない、とおばさん。ははは、プーチ、じゃね、ありがとね。

という訳で一向に追いつこうと走り出したそんなおばさんを見送る俺たちを、ふと振り返ったおばさん。

決めた。やっぱり犬を飼うわ。次に飼う犬も、キャトル・ドッグにするわ!ニューヨークに来て本当に良かった。

それがいいよ、と返す俺。犬の居ない人生なんで無だ。

キャトル・ドッグ ベスト!
ウィ、キャトル・ドッグ セトレボン!




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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