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シルビア・テレスとボサノバ爺さん

Posted by 高見鈴虫 on 01.2014 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback



先日の図書館、休憩のトイレに行って戻ってみると、
長机の上に大きな図鑑大の本が置いてあった。

「BOSSA NOVA」 とある。

思わず手にとってページを捲ってみると、
古いBOSSA NOVA のレコード・ジャケットの写真集であった。

アントニオ・カルロス・ジョピンから始まって、
ナラ・レオンから、バーデン・パウエル。
セルジオ・メンデスからエリス・レジーナから、
まさに若き日のブラジルのボサノバ・シンガー達のオンパレード。

おおお、ジョアン・ジルベルトが若い!
いまとなってはどこぞの中古車屋のおやじ、みたいなジョアン・ジルベルトが、
まさに輝くような美男子ぶり。
ボサノバ美女たちを総嘗めにした色男伝説も、
この姿を見るとまさに頷ける訳だ。

そんで、おお、カエタノ・ベロッソとギャル・コスタのツーショット!
うへえ、若い。まさに元気ハツラツだな。

で、げげげ、ルイス・ボンファってこんな人だったのか、と今更ながら大驚愕。

と言うわけで思わずページを捲る度に息を呑んでいると、

ふと目をあげれば、ホームレスっぽい爺さん。
白髪の長髪にちょびひげを伸ばし、
図書館の中でもサングラスにカンカン帽という妙な風情。

あんた、ボサノバ好きかね、と一言。

ああ、好きだよ、と答えれば、

なんで日本人がボサノバを好きかね、と来る。

ボサノバ好きに日本人もくそもあるか、ほっといてくれ、
と適当に受け流しながらページを捲っていると、

あんた、そのおんな、誰だか知っているのかな、と聞く。

ああ、シルビア・テレスだろ?と答えれば、

あんたシルビア・テレスを知ってるのかね、と来る。

ああ、俺的にはボサノバの歌手ではシルビア・テレスが一番好きだな、と答えると、

ほう、と目を見張る老人。

日本人がシルビア・テレスを知っているとはな・・

おい、ちょっと貸せ、と本を取って、ほら、このアルバム、これは俺のものだ、という。

俺のもの?

つまり、そのアルバムの写真さ。俺の持っているレコードの写真を撮らせてやったんだ。

このシルビア・テレスも、このバーデン・パウエルも、このジョビンもアストラッドも、
みんなうちのものさ、俺が撮らせてやった、と言う。

こんなものもう世界中探したって俺しか持っちゃいないだろ。かっかっか。

という訳で、この爺さん、いったい何者だ?

ほら、ここに名前がある。これが俺の名前だ、と最後の参照ページを指差す。

で、嘘だと思ったら家に見に来るかね、と言われた。

まあ暇な老人の戯言、とも思うが、あまりの胡散臭さに言葉を濁していると、

ほらと、とばかりに電話番号を渡された。

生憎と携帯は持ってないんでな、家の電話だ。ボサノバが聴きたくなったら俺のところに来い。
俺のコレクションは凄いぞ、こんな糞図書館なんか話にならないぐらいにな。

という訳で、ひょんなことで声をかけてきたボサノバ・フリークの爺さん。

実はな、その昔、ブラジルは酷い状態でな。
軍人が威張り腐ってクーデーターを繰り返して、
でボサノバの歌手達、なんてのはみんなアメリカに逃げてきたんだ。

俺はその頃はビバップやってたんで、ボサノバとかはあまり好かなかったが、
うちのかみさんがブラジル系でな。
そんな関係からブラジルから逃げてきた連中がみんな俺のところ転がり込んで来てたんだ。

着の身着のままとは言いながらなんだかんだでブラジルからいろんなものを持ってきてな、
ポートフォリオ代わりに自分のレコードを山のように持ってたんだが、
そんなこんなで我が家にはブラジル音楽コレクションが出来上がったって訳だ。
で、捨てる訳にもいかず預かっておいたらその出版社から電話が来てな。
売れ、というから、断ったら、写真だけでもと言われた。
それがその写真集さ。
そうこするうちにサザビーズなんてのがやって来たんだが、
一から十までカネのことばかり抜かしやがって、
音はいいんだ、欲しいのはそのジャケットだ、と来る。
いい加減目障りな奴らなんですぐに追い払ってやった。

という訳で、こんなところでボサノバ好きの日本人なんてのに会ったのもまあ何かの縁だ。

俺が生きているうちならいつでも来い。

という訳なのだが・・・
が、しかし、いったいこの爺さん、いったいなにもの、そして俺をどうして知ったのか。
図書館で顔をみただけの人間を家に連れてくるなど、ここ最近は聞いたことがない。

という訳で、ああ、分かった分かった、と適当にうっちゃっていたのだが・・・

で、また久々に図書館に顔を出した折、先のボサノバ爺からまた声をかけられた。




と聞けば、ああ、実はその犬さ、といわれた。

その犬、あんたのラップトップにもあるその犬な。
実は昔うちで飼っていた犬そっくりなんだ。

こないだフェアウエアに買い物に行ったかみさんが珍しくはしゃぎながら帰ってきてな、
店の前でチャーリー、ってのはまあうちの死んだ犬なんだが、
チャーリーに会った、と大騒ぎでな。

東洋人のカップルが連れていた、というんで、
その後もフェアウエイに買い物に行く度に探していたんだが、
そうしたらところ、ひょんなことから図書館でそれを見つけたって訳だ。

しららそいつが、なんとシルビア・テレスのファンと来るじゃないか。
偶然にしてはちょっと出来過ぎだ。はっはっは。

という訳で、いつでも遊びに来てくれ。うちのかみさんが喜ぶと思う。遊びに来るなら犬も忘れずにな。
お礼と言ったらなんだが、うちにあるレコード、みんな持って行って貰っていいぞ。かっかっか。

という訳で、改めて、名前は?と聞かれて俺の名前を答えると、
いや、その犬の名前だ。

ああ、ブッチと言うんだ。

ブッチか、おいもう一回その犬の写真見せてくれ、と言う。

しげしげとラップトップに目を凝らす爺さん。
おお、ブッチか、ブッチ、ブッチ、とLAPTOPの画面に向けて呼びかけながら、
ふと見ればその目に涙が光っていた。

という訳で、妙な出会いだ。
ゲイではないと思うのだが、まったくわけが判らない。

まあこんな爺さんならいきなり埋められてしまうこともなさそうだし、
聞けば、往年のボサノバ・アーティストたちの未発表テイクのオープンリールが山のようにあるのだそうだ。

という訳で、ちょっとこんど、ブッチを連れて遊びに行ってみようか、と思っている。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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