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蜘蛛の糸

Posted by 高見鈴虫 on 04.2014 大人の語る怖い話   0 comments   0 trackback
ここのところ、USOPENにかまけて犬の散歩が遅くなる一方だ。

今夜もいい加減12時近くなってドッグランへ。
今年の夏は例年になく涼して過ごし良かったのだが、
ここのところ、まさにUSOPENが始まって以来、暑さが戻ってきたようだ。

灯りの落ちた公園。
さすがにこの時間になると他の犬の散歩人も見当たらない。
暗がりの中、深夜を過ぎてもむっとした生臭い熱気が絡みついてくる。

ふと犬が小道を外れて木立の中に入る。
野原でボール投げがしたいのだろう。
街灯の明かりの届かぬ木立の中、
濡れた芝生を通して靴の中にもじっとりと夜の湿気がしみこんでくる。

ふと顔に雲の糸が絡む。
感じるか感じないか、のその曖昧な感触が、
鼻先にそして無精ひげの伸びた口元に執拗に絡み付いてくる。

この時間は蜘蛛が巣を張る時間なのだろうか。
払っても払っても絡み付いてくる雲の糸。

ボールを咥えた犬はすでに木立を抜けて草原に走り出ている。

丘の上を走る国道、深夜の高速を走りぬける車の走行音が、
まるで遠くに聞く潮騒のように絶え間なく響いてくる。

なんどかのボール投げの後、ふと犬が足を止めた。

口にボールを咥えたままきょろきょろと辺りを見回し、
そして先に通り抜けてきた木立を覗き込むように首を伸ばしている。

おい、どうした。ボールやらないならもう帰るぞ。

そんな声も耳に入らぬようで、じっと木立の中に目を凝らしている犬。

ふと再び顔になにかが引っかかる。
さっきの蜘蛛の糸だろうか。払っても払ってそれは纏わりついてきて、
そうこうするうちに寄ってきた藪蚊が足元を飛び回っている気配だ。

さあ、もう帰ろう、と犬を促す。しかし犬は動かない。

再びあちこちに視線を飛ばし、そして振り返っては目を見開いている。

なんだよ、どうした。こっちにおいで。

普段なら、呼べば弾かれるように戻ってくるこの犬が、
なぜかそんな俺をじっと見つめるばかりで近寄ってさえもこない。

嫌な夜だな、と思った。
この暑さ、この湿気、そして纏わりつく薮蚊と、そしてなんだよこの蜘蛛の糸。
そのじっとりと重い空気の中に、言いようのない意地の悪さを感じる。
それが理由ではないのだろうが、今夜は珍しく人の姿を見ない。

がまあ、こんな不快な天気だ。
なにが悲しくてわざわざこんな深夜に犬の散歩になど出るだろうか。

さあもう帰るぞ。

言うことを聞かない犬を放っておいて、俺はそのまま出口に向けて歩き始める。

ボール忘れるなよ。もう探しにこないからな。

しぶしぶと後をつけ始める犬。がしかし、近くには寄って来ない。

公園を出て交差点に着いたところでようやく犬が追いついてきた。

あれ、やっぱりお前、ボール置いてきちゃったのか?

まああの辺りはあまり人の行かないところだ。明日の朝にまた探しに行けばよいだろう。

家に帰ると妻がちょうどシャワーから上がったところだった。

濡れた髪を拭きながら、あんまり暑くて、シャワーを浴びたところ、と言う。

ああ、外も凄く暑くてさ。薮蚊に食われに出たようなものだぜ。

浴室で犬の身体を拭いていた妻が、ええ、なにこれ、と声が響いた。

なんだこれ、あれ、髪の毛?

そんな声に吊られて浴室に行ってみると、ほら、これ、髪の毛。凄く長い髪の毛。

それは金髪の、いかに細くて頼りない、まるで蜘蛛の糸のような長い髪の毛。

ほら、ここにもここにも。

犬の身体を拭いていたタオルに、そんな髪の毛がいくつも絡みついている。
女の毛だろうか。そのあまりにも長い金髪の髪の毛。1Mは優にありそうだ。

あれ、やだ、あなたにも。

と言われてみれば、確かに俺の身体にもそんな髪の毛がいくつも絡みついていたようだ。

げええ、ここにも、ここにも、ここにも。やだあ、みんな髪の毛だ。いったいどこ行って来たの?

と言うことは、あの木立の中で絡み付いてきた蜘蛛の糸、実はこの髪の毛だったのか?

なんか気味悪いね。早くお風呂入っちゃいなよ。

まあ言って見ればそれだけのことなのだが、正直ちょっとぞっとした。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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