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お尋ね者・ブッチ

Posted by 高見鈴虫 on 27.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
土曜日の朝、ちょっと悲しいことがあった。

寝坊して出かけたセントラルパークの緑の丘の上。
ここは普段からパークポリスの目が届かない
ドッグラバーたちのマル秘スポット。
で、いつものようにボール遊びをしていたところ、
いきなり火のついたように響く犬たちの吼え声。
緑の芝生の丘の上から、自転車に乗った若いカップルがとろとろと降りてくる。

それを取り囲むように、おい、なんだお前ら、とさかんに吠え立てる犬たち。

ねえ、あんたたち、ここは自転車禁止よ、
しかもこんな綺麗な芝生の上を自転車で走るなんて、
と口々に叫ぶ犬の飼い主たち。

そう、先日のセントラルパークのサイクリストの事故以来、
犬も人間も自転車乗りには目を光らせているのだ。

と思った、その瞬間、
かみさんとボール遊びをしていた筈のブッチが、
いきなり自転車に乗った女の、その足首に飛びついてしまったのだ。

きゃあ、と悲鳴を上げる女と、ブッチやめろ、と叫ぶ俺の声にかみさんの悲鳴が重なって。

おいおいおい、なんだよこの犬ども、といきりたつ男。

どこぞのヤンエグ気取りの生簀かねえヤギ男。
で、思わず、
あんなあ、あんたらがこんなところでちゃりんこ乗ってるのが悪いんだろが、と言い返してしまう。

なんだと?
なんだよ、文句あんのかよ、

と睨み合う俺たちに、いや、大丈夫、なんでもないから、と割って入る女。

女の前でいいところを見せようとしたところを出鼻をくじかれて、ちっと舌打ちを残してはしぶしぶと自転車を押しながら丘を降りていく。

その背中に、ばかやろう、気をつけろと捨て台詞を残したのだが、
しばらくしてそんな俺たちの背後から、あの、すみません、ちょっと話が、とあの二人連れ。

ほら、これ、と、女のパンツの裾をめくりあげたところに、蜂に刺されたような赤いポッチ。

ほら、ここ、これこれ、ここです、赤いの見えますか?これ、なんか噛まれたみたいなんです、と女。

噛まれたって、この赤いちっちゃいの?ちょっとニップしただけでしょ?

そう、ニップなんだけど、ほら、ここに穴が開いている。

まさか、ブッチが人を噛むなんて。

血は出ていないものの、確かにその赤いポッチ。まあ虫に刺されたようなものなのだが。

念のため、連絡先を教えてください、と来る。
あと、狂犬病の予防注射をした証明書を送ってください。
何かあったときのために弁護士と話さなくっちゃいけないから。

弁護士って言ったって、こんな虫刺されみたいなものにいちいちそこまで言うのかよ、と。

おい、だったらいますぐに警察呼んでもいんだぞ、と男。立派な傷害事件だ。

傷害事件?こんな虫刺されが傷害事件なら、その辺の蚊からミツバチからいっさいがっさい告訴でもしてればいい。バカたたれが、てめえは黙ってろ、と俺。

もういいわよ、と女。ほんとにほら、虫刺されみたいなものなんだし。

でも、君、悲鳴を上げたじゃないか、と男。

ただ驚いたからよ。噛まれてたなんて知らなかった。

いずれにしろこれは傷害事件だ。警察にファイルしたらこの犬はすぐに殺処分だぞ。
それが嫌なら、すぐに連絡先を教えろ、と一人でいきり立つ男。

なんだとこの野郎。おもしれえ、やれるもんならやってみろや。
ただそのときにはてめえらの命と引き換えだってことも忘れるなよ、
と喉まで出掛かった言葉、
がふと見た女、なんとも品のよさそうなおっとり系のおねえさん。
ごめんなさい、と肩を竦めながらも、男の見当違いな剣幕に弱りきっている。

という訳で、ほらどうぞ、と俺のIPHONEの番号、
と見せかけて実は、電話会社の苦情受付の番号を渡してやる。

まあなんにもないと思うんだけど、と女。

いやこういうことはちゃんとやっておかなくては駄目だ。こんな猛犬を放し飼いにしやがって、と得意げな男。

なにが猛犬だ。てめえらが犬たちの真ん中をちゃりんこなんかで突っ切って邪魔するからだろが。
殺されなかっただけでも幸いだったと思え。

脇で見ていたドッグラバーたちも、そうよ、ここは自転車乗っちゃいけないエリアなんだから、と口を揃える。

ふざけるな、と男。
ここは犬を放しちゃいけないエリアだろ。
もう犬の放し飼いの時間はとっくに過ぎているじゃないか、あんたたちこそ立派な違法行為だ。
どうせならいますぐに警察を呼んであんたらみんなをファイルすることだってできるんだぞ。

ファイル?あんた、いったいなに言ってるわけ?と顔を見合わせる人々。

いずれにしろあらためてしかるべきところから電話させるからそう思え。まったくふざけやがって、と捨て台詞を残して去っていくカップル。

いやはや、まったくであった。

という訳でブッチである。

あれあれ、みんなどうしたの?とぽかんとした顔を浮かべてへらへらと笑っているのだが、
その表情に明らかに困惑とそして怯えの色が見える。

まったくあのなあ、である。

まあ確かに、犬が自転車やらスケボーやらが嫌いなのは判る。
これがあの猛犬サリーだったら、あの二人は今頃この世の人ではなかったに違いない。

がしかし、まさかこの名犬の誉れ高いブッチが、いきなり人に飛び掛って噛み付くとは・・

お前、噛んだのか?
いや、あの、ちょっと勢い余っちゃって・・
なんでそんなことしたんだよ。
だって、ほら、あんなところ自転車で通るから・・
それにしたって相手は人間だろ?どんな理由であれ人間噛んだらアウトなんだぜ・・

という訳でつくづくまったくなあ、である。

ねえ、あんたたち、と犬仲間。

早くここを離れたほうが良いわよ。警察呼ばれたら面倒くさいことになるから。

まあ確かにな。

大丈夫、なにかあったときにはちゃんと証言してあげるから。ブッチをみすみす見殺しにしないわよ。

とは言うものの、でもねえ、と犬仲間。

あの人たち、いかにもそういうことが好きそうな顔してた。

そういうことって?

だから、人の過失をほじくり返しては起訴だなんだ、って騒ぎたててお金を毟ろうとする人。

つまり、十一種?

そう、そんな感じ・

だからさっさと謝っちゃえば良かったのよ、とかみさん。またあなたが余計なことを言うから。

余計なことを言ったのはあの男だろ。

女の人はそれを止めていたじゃない。もういいから行こうって。
それをあんたが言い返したりするから。。

なんだよ、俺のせいかよ、と言い合う俺たちの間に割って入ったブッチ。

やめて、やめて、喧嘩はやめて、とくんくんと鼻を鳴らしては必死の表情で擦り寄ってくる。


という訳でブッチである。

おまえ、お尋ね者だぞ。やばい、逃げよう、と犬仲間への挨拶もそこそこにそそくさと公園を後にする。

いやあ、まさかブッチがなあ。

実は良くあるのよ、とかみさん。

たまに、通行人に飛び掛ったりするの。

俺といるときにはまったくそんなことないぜ。

なによ、それ私のせいだっていうの?とまた喧嘩である。


という訳でいやはや、本当にいろいろとあるなあ、と思わず深い深いため息。

がしかし、もしも本当にブッチが傷害犯でつかまることがあったら、と考えると思わずぞっとする訳だ。

犬を飼うものに心の安息は訪れない、ということか。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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