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秋の夜、背筋も凍る戦慄の恐怖体験

Posted by 高見鈴虫 on 11.2014 犬の事情   0 comments   0 trackback
木曜の夜。思わず入り込み過ぎてふと気づけば7時過ぎ。
やばい、そう言えば今日はかみさんの帰宅の遅くなる日であった。
一瞬、先のマギーの突然死の件が頭を過ぎり、
妙な胸騒ぎを感じてそそくさと図書館を後にする。

10月に入りすっかりと日の落ちるのが早くなった。
既にどっぷりと夜に浸った街に気の早い木枯らしが吹き抜けて行く。
帰宅ラッシュにざわざわと泡立つような人込み。
犇めき合っては幅寄せしてくるタクシーたちの狭間をつっきりながら、
ショウウィンドウのネオンから目に突き刺さるヘッドライトから信号の色からが、
すべて妙にわざわざわと不穏な予感を掻き立てて行く。

バカやろう、なんだってこの街はどこに行ってもこんなにごみごみしてやがるんだ。
苛立ちを募らせながら、そんな胸のうちに溜まった嫌な予感を吐き出そうと、
無理やりに赤信号をぶっち切っては、弾けるクラクションに中指を突き立てて帰宅へと突っ走った。

そして辿り着いたアパート。
ドアを開けると同時に灯りの落ちた暗い廊下に犬の名を呼ぶ。
がしかし、静寂に包まれた部屋の中からは物音ひとつしない。

おかしいな。。

いつもであればドアを開けたと同時に、
ドアの前で待ち構えていた鼻先をその隙間から覗かせる筈なのに。
だが今日に限って何の気配もない。
寝室からキッチンからリビングからと見て回ったのだが、
どこもかしこも蛻の殻。

まさか。。

おーい、ブー君、ぶっち、ぶーさん、ぶーちゃん、ブッチ君、ぶりぶり。
おい、ブッチ切りのブー。帰ったぞ、どこに行った?
あらん限りの名前を呼び続けるがしかし返事がない。

おかしいな、かみさんが先に帰って散歩に連れ出したのだろうか、
と玄関に戻るが、犬の首輪も手綱も元ある場所にぶら下がったまま。

そう言えば、とまた悪い記憶が脳裏を過る。

子犬の頃、こうして姿が見えずに
ふと見るとリビングの床中に、
ハワイ土産のマカデミアンナッツ・チョコレートの大箱の残骸。
まさか、チョコレートを全部食っちまったのか・・・
慌てふためいて家中を探し回った挙句、
クローゼットの奥でショック症状を起こしてブルブルと震えている姿を発見した。
あの時はそのままブッチを抱え上げて病院に直行。
胃洗浄から心電図から点滴からで、幸いにも事なきを得たのだが、
結局一晩で900ドル近くを毟り取られて、なんてことがあった。

がしかし、ブッチも既に6歳である。
それほどバカなことをするとも思えない。

がしかし・・
そう、先のマギーである。
一日中ぴんぴんしていたのに、夕食後、ちょっとしゃっくりをしているかと思ったら、
次の日の朝、目を覚ましたら既に冷たくなっていた、という。

まさか。。まさかブッチに限ってそんなことが。。

さすがに焦り初めて全身に鳥肌が走り始める。

おい、ブッチ、おい、どこへ行ったんだよ。

キッチンから戸棚の中からテーブルの下からクローゼットから、
と通常ありえない場所も含めて散々探し回ったものの、しかしどこにも姿が見えない。
なんだよまさか神隠しなんてことが。。

と、ふと見ると、寝室のベッドの脇、
ブッチ用のベッドの上に、毛布に紛れてだらりと寝そべるブッチの姿。
おお、ブッチ、そこに居たか、と呼べども、しかし返事がない。

まさか。。

思わず呑んだ息に喉の奥が詰まり、
早まっていた動悸が一瞬止まったのが自分でも判った。

ブッチが死んでる!?まさか、ブッチが死んでるのか?
ブッチが、ブッチが死んでいる!??

おい、バカ、起きろ、と思わず怒鳴り声を上げてしまったところ、
ふと頭を上げたブッチ。
おおおお、生きていたか!!
とそれだけで血の気の失せた身体中に血液がどっと流れ始める。

が、しかし、やはりブッチの様子が変だ。

しょぼしょぼと力の無い目でぼんやりと上目遣いに俺の姿を見つめて、
そしてまたばったりと頭を落とす。

なんだよお前、どうしたんだよ。

揺り起こそうと身体に触ったところ、しかし体温はあるようだ。
念のため胸に耳を当ててみるが呼吸も脈もある。
どうしたんだ?風邪でもひいたのか。
あるいはまさかエボラ熱?

耳の先から足の裏からと触って見るがどうも高熱を出している、
というのでも無さそうだ。

と、ふとすると、むっくりと起き上がったブッチ。
見るからに重そうな身体に足をよろけさせながら、
ぶるり、と身震いをひとつ。
なんだよお前どうした?
顔を上げたものの目に力がない。
ぼんやりと俺の顔を眺め、
そして、前足を上げて俺の肩に乗せると、
まるで哀願するような涙目をしょぼつかせながら、
俺の口元に鼻先を近づけてくる。
どうした?いったいなにがあったんだよ?
それには答えず、ねえねえねえ、とさかんに俺の顔を舐めたがる。
どうした?いったいどうしたんだよ。

こんなとき、やはり言葉が通じないというのは本当に困る。
少なくともどこが痛いやら、具合が悪い、ぐらいのサインを明確に示して欲しいものだ。

そう言えば、先の60MINUTESで、
犬に云百もの玩具の名前を覚えさせては、
世界一賢い犬、なんてことで話題になっているという番組を見たが、
実は俺が知りたいのはそんなことじゃない。
犬の方からの意思を伝達する方法を教えるという研究をしてくれないのだろうか。

うんち、おしっこ、お腹が痛い、お腹が減った、
好きだ嫌いだ、気持ちが良い、気持ちが悪い、
そしてそう、こんなときの具合が悪い、のサイン。
そんな犬の意思表示を、なんとか明確のジェスチャーとして理解することができたら・・

で、どうしたんだよ。どこか具合が悪いのか?

ブッチはそれには答えず、ただただ、虚ろなまなざしのままに力なく俺の顔を舐めるばかり。
これはしかし、普段のブッチから考えるとあまりにも考えにくい。
さすがに最近では、ドアを開けたとたんに飛び掛ってきてはしゃぎ回り、
ということはなくなったのだが、
少なくともこれほどまでに元気のない姿はいままでに見たことがない。

これはあきらに異常事態である。
先のマギーのこともある。
念のため病院に行ってみようか。
がしかしすでに8時近く。
行くとすれば当然24時間体制の救急病院ということになる。
当然のことながらそれはまさに高額だ。

ええいままよ、と思う。
もしもこいつを失ってしまったら金なんて幾らあったって何の役に立つと言うのだ。
かまうことはない。こいつの為なら全てのことは二の次だ。
このままタクシーを飛ばして救急病院に行こう、と腹を決めたその時。。

ひとしきり顔を舐め続けていたブッチ。
俺の肩に手を乗せたままそれにぶら下がるように、
うーん、と身体を弓なりに反り返らせて伸びをしながら、
一杯に開いた口から喉の奥まで覗かせて大きな欠伸をひとつ。
ぺろり、と鼻先をひとつ舐めて、
そして、ふたたび、ぶるぶるっと鼻の先から尻尾の先まで身体中で身震い。
なんだよ、おまえ・・
呆気に取られる俺の前で、再び身体を反り返らせて伸びをした後に、
いきなりベッドの上にひっくり返って、ゴロンゴロン、とお腹を出して腰をくねらせ背中をこする。
なんだなんだ?
それっと反動をつけて高く飛び上がってはベッドを飛び降りると、
唖然とする俺を尻目にそのまますたすたと玄関に向けて歩き始める。
おい、お前、どこ行くんだよ。具合が悪いなら病院いくぞ、
と出掛かった言葉、
そんなこと知ったことかとすでに玄関のドアの前でお散歩出動の態勢である。
散歩?散歩行くのか?
当然だろう、とブッチ。
さあ散歩だ、早く支度してこのドアを開けろ、とふん、と横を向いている。

そうか、帰りが遅れてそれに臍を曲げているって訳か。
あるいは、待ちくたびれるあまり、熟睡していたってことなのか。
それにしても、人が帰ってきて迎えに出ないどころか、
呼んでも叫んでもベッドに寝たまま、ってのはいったいどういうわけだ。
理由はどうあれ、その態度、あまりにも余裕かまし過ぎてはいないか?
こんなことで留守中の番犬役が務まるのであろうか。。

という訳ですでにどっぷりと日の暮れた公園で、
ひとしきりおしっことうんちを済ませた後、
さあドッグランでボール投げでもやるか、と思いきや、
いや、もう帰る、と勝手に家路へと戻りはじめる。

なんだよ、やっぱり具合が悪いのか、と思えば、
なに?腹へった?腹へったのか?
と言ったとたんに、いきなり飛び掛ってきて胸の上に前足パンチ。

その通り!お腹減った~!

バカたれが、と思わずヘッドロック。あのなあ、俺は心配していたんだぞ。

バカたれはそっちだろ、とブッチ。心配するぐらいならさっさと帰って来んかい、ということか。

という訳で、ハロウィンを間近に控えた10月の夜。

背筋も凍る戦慄の恐怖体験、とやらを味あわせてもらった。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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