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失業ハイパー ~ 帰ってきたぜ!朝のセントラルパークでひとり吠えた

Posted by 高見鈴虫 on 30.2014 とかいぐらし   0 comments   0 trackback
朝、久々にゆっくりと起きる。
もう起き抜けに机に向かって暗記テストのシートを埋めていくこともない。
だがなんとなく習慣で机に向かい、そしてなんとも気の抜けた気分。
起きだしてきた犬にせがまれて散歩に出かける。
曇り空。
寒空のした、遅れて出勤する人々の間を、なんとなくわざとのんびりと歩いてみる。

なんとなく手持ち無沙汰。
そう、イヤフォンである。




これまで、犬の散歩用に作った勉強テープ。
犬の散歩の時にはずっとずっとこれを聴きながら、
まるで瞑想する禅僧のような心持ちで黙々と公園を歩いていたのだ。

ああ、もうあの勉強テープを聞き続けることもないんのだな。
イヤフォンのない耳の中に、街の躍動が流れこんで来るようだ。

ニューヨーク・シティー。
そう、俺はまだニューヨークにいる。
そしてこれからもずっと。
俺はその手形を手に入れたのだ。
昨日合格した資格があれば、少なくとも職探しに困ることはもう無い。
つまりもう何があっても、この街からふるい落とされることもない、筈だ。

タバコを咥える。
NAT SHARMAN MCD。
試験が終わった時の為に買っておいたもの。
昨日の帰り道に一本吸って、これで二本目。

頭の中には、Its Only Rock'n'Roll。
ずっとずっと聴きたかった曲だ。
だが、この曲を聴いてしまったら「落ちる」ような気がしていた。
という訳で、試験が終わった途端に、
待ってましたとばかりにストーンズが鳴り響いた。

キース・リチャーズのリフに合わせて身体の乗りが
8ビートから16ビートへと変わっていく。
バックビート。そうこの感覚だ。
なぜか浪人を始めてからというもの、このバックビートか身体の中から抜け落ちていた。
それがいま、帰ってきた。バックビート。無茶苦茶気持ちのよいバックビート。

吹き抜ける木枯らしの中で、思い切り顎を上げる。

馬鹿でかいキャッツアイに、両手をパーカーのポケットに突っ込んで、
そして肩を揺すって歩く。

007 どくのはお前だ。

そう、俺はこの街でいつもこうして生きてきた。

頭のなかに鳴り響くバックビートに合わせて身体を揺すりながら、
思い切り顎を上げて、道の真中を歩いていたのだ。

ふと昨日までの自分を思う。

朝の出勤途中の人々の波の中に、
まるで取り残されるように、
犬のおしっこの度に足を止めながら、
イヤフォンから響く紋切り口調の勉強テープ。
まるでお経でも唱えるようにブツブツと繰り返しながら、
いつの間にか俯いていつの間にか背中を丸めて、
そしていつの間にか人の目を避けるような気分にさえなっていた。

ただ、待っていやがれ、とはいつも思っていた。
必ずや試験に受かって、このみじめな気分を倍返しにしてやる。

みじめ?と問いなおす。
俺は惨めなのか?
がめた退職金で悠々自適。犬の散歩をしながら、
このチャンスにとせっせと上級資格の勉強三昧。
なんとも宜しくやっている、筈じゃなかったのか?

普段であれば、パークに着いた頃には痛みだしていた腰。
それに連れてつっぱり始める両足。
それが、ない。

身体が軽い。気分が軽い。空が高い。冷たい風が心地よい。

心地よい?

そう、俺はこの数ヶ月、自分の五感をすべてシャットアウトして生きていたのだ。

無駄口を聴く度に覚えた単語がポロポロと零れ落ちてしまうことを恐れるように。
いつもむっつりと口を閉じて誰とも口を聞かず、誰とも目を合わさず、
本も読まずテレビも見ず音楽も聞かず。
そして日本語という日本語を徹底的に締め出して来た。

そんな中で、なにが辛かったかと言えば、脳内音楽を止めなくてはいけなかったこと。

これまでの人生で、いつ何時でもどんな時でも鳴り止むことのなかった脳内音楽。
ここ数ヶ月、この脳内音楽を止める為にどれだけ苦労したか。
そしてそんな脳内音楽を止めねばいけない状況がどれほど恨めしかったことか。

そしていま、ようやく音楽が帰ってきた。

ロッキンロールである。
もうジャズもオペラもクラッシックも、ちゃら臭いことは一切御免だ。

ロック、ロック、ロックンロール。
俺はやはり、ロックが好きなのだ。
バックビートのロック。
思い切り不埒でいやらしく、ワイルドで元気なロックンロールが一番身体に会うのだ。

見渡す風景がやけに新鮮に映る。
おおお、右脳が動いているぜ。

すれ違う犬の散歩の人々と、よお、おはよう、とそのたびに挨拶。

挨拶?そう、俺は挨拶さえも忘れていたのだ。
なぜって、そう、ずっと俯いていたから。

俺はもう、うつむいて歩くことはないのだな、と思う。
もう二度と、俯いて歩くことだけはやめよう、と思う。

思い切り顎と上げて、そして、

I know Its only Rock'n'Roll but I like like, Yes I DOOOOO

と歌い続けてやる。

俺は、転んでもただじゃ起きねえぞ。

なんといっても、転がる石。ローリング・ストーンズなのだ。

俺はストーンズが好きな男だ。
俺はそう言うやつで、それをやめるつもりはさらさらない。

バカヤロウ、帰ってきたぜ、と曇り空のセントラルパークで一人吠えた。








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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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