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失業ハイパー ~ 凍えた部屋

Posted by 高見鈴虫 on 04.2014 とかいぐらし   0 comments   0 trackback
この失業浪人ぐらし。

さぞや羽根を伸ばしているか、と言えば全然そんなことはない。

言わせてもらう。

仕事よりも勉強の方が大変だ。

だって仕事は仕事、なわけで、いやいややるのが前提。
つまりは、月曜から金曜までの9時から5時までで、その責務からはきっぱりと離れられる筈。
が、勉強は、好きでやっていることが建前、ってことで、
つまりは、9時5時どころか昼も夜も、土曜も日曜も無し。

という訳で、犬の散歩だけは外せないにしても、
かみさんはもう完全に放ったらかし、な訳で、
さすがに連休中、なんて時には、
あーあ、つまんないな、と溜息をついていたことも知ってはいた。

だが、そう、こちとら失業中の浪人生。
これでこけたらまじでホームレス。
そういう側から、普段は図書館の席で、
実際にそんなホームレスの連中と膝をつきあわせている訳で、
まじでそう、洒落にならない状況なのである。

という訳でそう、連休どころか、息抜きの時間さえも惜しまなければならない、
という建前上、まじでかみさんのご機嫌どころではない訳だ。

という訳で、あのなあ、と一言。

お前もほら、いつまでもその仕事が続くという保証も無い訳でさ、
もしもの時を考えて、潰しになるようなこと、考えておいたほうが良くないか?
などと要らぬ口を叩いてしまったりもする訳だ。



潰しって?とかみさん。
だから、ほら、なんかの資格を取るとか。
資格ってなんの?
ほら、会社の研修費とかなんかで、金出して貰えたりもするんだろ?
だったら、なにか実入りの足しになるようなもの、考えてみろよ。

という訳である。

ふーん、と考えたかみさん。いきなり資格と言われても思いつかない、という所らしい。

そういう俺も技術屋であった関係上、さすがに家ではダラダラとしてばかりではあったが、
仕事中は、残業と偽りながら、日夜試験勉強は続けていたのである。

がそう、かみさんはコー学歴のひとである。
某お嬢様国大を現役入学のひとであったのだが、
それも家庭の事情から浪人ができなかった関係で、
すべり止め代わりにその大学を選んだだけの話。
まあその気になれば東大も狙えたんだけどね、
とさらりと言ってしまうタイプの輩である。

がそんなかみさんが、
えええ、勉強?と口を尖らせている。
もう勉強はいいよ。学生のころあれだけやったんだから。
大人になってまで勉強させられるなんて反則だよ、という訳である。

がしかし、現役国立だろうがなんだろうが、
俺みたいな穀潰しと一緒になってしまってはそんなコー学歴もなんの意味もない訳で、
となると、
くっそお、やっぱこの結婚は失敗だった。いまからでもどうにかなるうちに、
とかなんとか、また例の話が蒸し返されるという訳で、
俺も早々と大きなことは言えない事情もある訳だ。

という訳で、土曜も日曜もかみさんを放ったらかしたまま勉強を続けなくてはいけない、
というのが、割りとこう、後ろめたかったのも確かである。

とそんな時、じゃあ、わたしもなんか勉強することにした、とかみさん。
横で勉強されているとやっぱムカつくから、ということらしい。

だったらまあ、洒落のついでにTOEICでも取ってみれば?とまた思いつきを口にする。

TOEIC?英語の?

そう。なんかTOEICって、日本では割りと持て囃されているらしいしさ。
何十年もアメリカに住んでてTOEICも取ってない、なんてちょっとね、とか言われそうだし。

TOEICかあ、なんか気が進まないけど、とりあえずそれ取ってみようかな。

とかなんとか言っていた記憶はあるのだが・・・

その翌週の週末。

ねえ、なんか食べ行かない?とまた脳天気なことを言ってくる。

だからなあ、俺は勉強大変なんだよ。外メシなんて食ってる暇ねえんだってば、
とブチ切れモード。
おまえ、こないだのTOEICどうしたんだよ。さっさと勉強始めろよ。

TOEIC?ああ、あれもう終わったもん、とかみさん。
え?もう受けたの?
そう。もう受けた。
で?
で?
結果は?合格した訳?
あんたバカねえ、とかみさん。
TOEICに合格もなにもないのよ。ただ点数が出てそれでおしまい。ゲームとおんなじ。
でもほら、800点取れるまでがんばりましょう、とかあるだろ?
だからそれもうおしまい。
ってことは?

という訳でかみさん、
ろくに勉強もしないまま、会社の行き帰りの地下鉄の中で参考書をささっと斜め読み、
しただけで試験会場に向かい、980点だったそうである。
そうねえ、実は絶対満点だと思ったんだけど、やっぱ間違えてたなあ、残念。
だそうで、
満点?
そりゃそうだよ。やるからには満点狙うでしょ。

いまだにDVRの録画ができなかったり、
ドッグフードとキャットフードを間違えて買って来たり、
やることなすことどこか間の抜けている天然系な訳だが、
ふーん、やはり試験となると本領を発揮する訳だ。

そんなかみさん、試験の点数で頭が良いの悪いのなんて馬鹿げてる、という話。
ただ、ペーパーテストで点を取るための姑息なテクニックに長けている、とただそれだけの話よ。
とは言ううものの、おいおい、3日で980点かよ、と俺も返す言葉も無い。

仕事に使える技術を身につけることと、試験で良い点を取るっていうのはまったく別物なのよ。
試験には試験用の勉強をするの。ただ試験に受かったからと言ってそのひとが仕事ができたり、
頭が良かったりなんてことは決してないのよ。
わたしを見れば判るでしょ。
だからあんたも、バカ正直に勉強なんてしてちゃだめよ。試験用には試験用と割りきって要領よくやらなくっちゃ。

とまあ、そう、理屈では判るのだが、果たして、受験勉強をすべてぶっちしてバンドばかりやっていた関係で、
そう、この試験に受かるテクニックというのに疎すぎる訳だ。

そっか、まあ、そういう事ならたまにはお祝いに美味しいものでも食べに行くか。
もういいよ、とかみさん。
なんかそんな気も失せた。アメリカに何十年もいて、いくら日本人向けの英語のテストで良い点取ったって誰も褒めちゃくれないわよね。
うーん、耳が痛い。

とそんなかみさんが、最近になって土日になると朝からいそいそと出掛けるようになった。

ちょっと出かけてくるからブーくんよろしくね、な訳である。

がいつものやつで、どこに行く?とも聞きづらく、OK、とだけ答えるのだが、
果たして、退屈のあまり他に男でも作ったのか、まさか、テレクラにハマっているという訳でもあるまいに。

とかなんとか言っていたら、いきなり、
ねえ、この馬鹿コンピューター、どうにかして、といきなり怒り始めた。
馬鹿コンピューター?
というかみさんのコンピュータ。
昔、俺が仕事で使っていたDELLの年代物。
RAMだけは足しているものの、確かにいまだにXPである。
が、どうせ下らない日本のドラマを見たり、メール書いたりするだけだろ。
また例の天然ボケで、出てくるPOPUPにいちいち馬鹿正直にOKを押してしまって、
VIRUSまみれになることは目に見えている、とうっちゃっていたのだが・・

最低でもこのレベルっていうのにこの馬鹿コンピューターは完全に規格外なの。

最低でもっておまえ、なにを始めるつもりなわけ?

という訳で、どうもかみさん、どういう風の吹き回しか学校に行き始めたようなのである。

なんの学校?
そんなことどうでもいいでしょ?あんたは余計なこと言わずに自分の勉強やってなさいよ。
で、どうするの?新しいコンピュータ、どこで買えばいいの?

という訳でかみさん、
どうも、ファイナンシャルプランナーの勉強を始めたそうなのである。

あんたと一緒だとこの先どうなるか判ったものじゃないから、今のうちに出来る限りの手は打っておこうと思って、
という話。

がしかし、さすがの勉強メガネ。
ひとたび勉強を始めた、となると、本ちゃん浪人の俺が辟易するぐらいに、
まさに、家に居る間は徹底的に勉強ばかりしている。
ともすると俺が飯の仕度をして皿を片付け、ともなる訳で、
まったくもっておかしな塩梅になってきたというもの。

がたしかに、かみさんを放ったらかしておくことの罪の意識から開放されたばかりか、
くっそ、こいつにだけは負けられない、と俺も付き合わされて夜更けまで勉強をさせられることになる訳で、
確かにかみさんが勉強を始めてから俺の勉強時間も二倍に増えた。

やるからには徹底的にやらなくっちゃだめよ。短期決戦で思い切りダッシュして一挙にカタをつけちゃうの。

まるで喧嘩と同じだ。

そう、試験なんて喧嘩みたいなものよ。
あんた良く言ってるでしょ?喧嘩とスポーツは違う。喧嘩には仁義もルールもへったくれもないって。
試験もそう。受かればそれでまで。
だったら試験に必要なところだけを徹底的にやりまくって、さっと試験を受けてちゃっかり通っちゃう。

で試験のあとは綺麗さっぱり忘れちゃう、と。

そう、その通り。試験で勉強したことなんて実生活で役に立つなんてほとんどないわよ。
試験は勉強のためじゃないの。ただ試験に受かるためだけのもの。本当の勉強は試験に受かった時から始めものなのよ。

という訳で、まったくおかしなことになってきたが、夕飯の後、テレビも付けず音楽も聞かず、
しんと静まり返った部屋。
暖房を入れると眠くなるから、とヒーターを切った部屋にひゅるひゅると真冬の木枯らしが吹き込んでくる。

そんな凍えた部屋の中、夫婦が背中を向け合って一心不乱に試験勉強。
とその間には、大あくびをしながらソファーに寝転がる犬が一匹。

そんな犬の姿を見ながら、
つくづくお前も、おかしな家に貰われてきちゃったものだな、
とちょっと同情してしまったりもするわけだ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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