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猫の手を借りる大騒動

Posted by 高見鈴虫 on 09.2015 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
資格試験の戦争が終わったこの方、
ようやくと訪れた平穏、であるはずの我が家に、
なんと、猫の手も借りたいほどの、未曾有の大騒動が続いている。

言わずと知れた、ネズミ騒動である。



このネズミ騒動、事の起こりは秋の口。

同じフロアに住むゲイのカップル、マークとキースが引っ越すことになって、
彼らの部屋の改装工事が始まった頃だ。

このマークとキース、そしてヨーギーの一頭。

顔を合わす度に、アパートの文句ばかりを言い合っていた。

ゴキブリが酷くて、夜に起きてみたら床中がシルバー・フィッシュ(シミのこと)だらけ、
挙句に・・・昨日はネズミが出たのよ・・・もう怖くって。。

このアパート、言わずと知れたニューヨーク随一の高級住宅街・アパーウエストのど真ん中。
家賃だって、それこそクイーンズやブロンクスの三倍はする高級コンドである。

ただプレウォー、築が戦前とのことですでに100歳。
間取りが広く天井が高いのは良いのだが、やはり古いことは否めず、
ゴキブリやネズミが出るのも判るような気はする。

そんなアパートになぜわざわざ高い金を払って住んでいるか、と言えば、
犬なのである。

そもそもこのアパートに引っ越した理由はと言えば、
まさにニューヨークで随一の「ドッグ・フレンドリー」なアパートなのである。

それまで慣れ親しんだミッドタウン・マレーヒル地区は、
人間には良いのだが、こと犬を飼うとなると不便でならなかった。

夜な夜な通りに繰り出すパーティフリークス。
行き交う車の排気ガス。
そしてなにより、川沿いのドッグランまで歩いても45分もかかるのである。
これではさすがにやってけない。

この期に及んで当時、近所の犬連中たちと夜な夜な秘密裏に集まっていた近所のバスケットコートでのドッグパーティで、
こともあろうにはしゃぎすぎた我が犬が、柵を飛び越えて車道に走り出てしまったのだ。

それを見たかみさん、己の危険も顧みず、
いきなりタクシーの洪水に溢れかえった大通りの真ん中に躍り出るや、
大手を広げて、ストップ!ストップ!

お陰様で犬は無事に帰ってきたのだが、その事件にブチ切れたかみさん
こんなことでは命がいくつあっても足りない、とばかりに、いきなり引っ越しを決意。

その日の内に、ニューヨークで最も犬に適したアパートは、と検索した末に、
引っかかったのがこのアパートという訳である。

という訳でこのアパート。
この高級街で唯一「ドッグ・フレンドリー」を謳った巨大コンドである。

古い割に家賃が高いのだが、いつも満杯状態。
何故かといえば、まさに我が家と同じ事情。
ニューヨーク中のドッグラバー達の垂涎の的。

リバーサイドパークまでワンブロック。セントラルパークまでものの5分。

犬の散歩にはまさに事欠かないわけで、そんな事情でこのアパート、
どのフロアのどの部屋でも、いぬイヌ犬、の大パーティである。

とそんな訳で、ドッグラバー達によって常時満杯のこのアパート。
我が家が引っ越せたのもまさに幸運中の幸運だった訳だが、
そんな事情から、空きが出ればすぐに埋まってしまう関係で、
前の住人が出て行った後のメンテナンスが追いつかない。

よって我が家が引っ越してきた時にも、家具が取り払われた床はまさにボロボロ。
壁には穴が空き、キッチンの冷蔵庫もガスコンロもよもや戦前から使っているような旧式然としたものがあった。

が、アパートのコントラクトの事情もある。
既にマレーヒルのアパートはおん出ることが決まっていたため、そんな状態でも引っ越して来ざるを得なかったのだ。

とそんな同時期にやはり隣のとなりのへやに越してきたマークとキース。

良かったわあ、このアパート、ずっとずっと待っていたのよ、と大喜びで、
来たばかりの頃は良く犬も連れ立って一緒にドッグランに通っていたものなのだ。

そんなマークとキースも、しかしこのアパートの裏側を垣間見るに当たって、ついに音を上げて出て行くことになった。

ネズミが、ネズミがね、とマークが繰り返す。

あたしたちはまだ良いんだけど、うちのヨーキーがもしネズミに噛まれたそれこそ一大事でしょ?もう怖くて怖くて、いつも抱いて寝ているのよ。

とそんな中、隣の部屋から夜更けに女の大絶叫が響くようになった。

ぎえええええええっ!

隣室のリンジーである。この人、以前にも記したが、犬の散歩の途中にゴミ捨て場で拾った絵画が実は盗難された名画で、
それがサザビーズで良い値がついて巨万の富を得た人。

何故に巨万の富を得ながらこんなアパートに住み続けているのか、と思えば、どうもアル中であるらしい。
金が入った、と判った時点で仕事をやめて、そして家でワインばかり飲んで暮らしていたのだろう。

とそんなリンジーが、夜な夜な、夜も更けた二時三時に、地を揺るがすような大絶叫を上げるようになった。

ぎええええええっ!

とたんに飛び起きた犬がオンオンオーン、と始める訳で、おいおいどうしたどうした、と近所中が大騒ぎ。

ネズミ!ネズミが出たのよ~!

ネグリジェ姿で廊下に走り出たリンジー。顔中を涙でぐしょぐしょにして半狂乱である。

ネズミ!ネズミ!ネズミ!

という訳で、やれ害虫駆除だ、大工が繰り出して壁の穴を取り繕ってと始まったのだが、このリンジーの深夜の絶叫がいつになっても止まない。

いい加減にうんざりしたうちの犬さえも、もうリンジーの絶叫を聞いても頭さえもたげないようになってそれは良かった訳だが、
そうこのアパートのネズミ騒動。まさに深刻であった訳だ。

そんなこんなでマークとキースが出て行った後、改装に訪れた大工さんたちが部屋を見て目を丸くしていた。

こりゃ酷い・・・

ゲイである分、潔癖症であった筈のマークとキースの部屋、蓋を開けてみればまさに家中が穴ぼこだらけ。
それはまあネズミが開けた穴とばかりは限らないのであろうが、これではもう立派なあばら屋。
つまりはそう、マークとキースも我が家と同じ。空きが出たとたんにろくに改装もしない状態で移り住んでしまったということなのだ。

という訳で、空き家になったマークとキースの部屋。床から壁からキッチンからを総入れ替えすることになった訳で、
がしかし、それと期を同じくして、まさにこのフロア中で一大ネズミ騒動が巻き起こった訳である。

1号室のクラウディアが、2号室のダグラス氏が、3号室のアグネスとクリス夫妻、パマナ人のエミリオから、フランス人のミッシェルさん、
そして隣のルーシーさんの部屋に越してきたばかりの猿のようなばあさんから、
このフロアの住人という住人が、夜中になると、ぎええええっ!ネズミだ、と大騒ぎを始めることが通例となった。

とそんな時、妙なことに隣のリンジーだけはどういう訳か平静を保ち始めた。

あの耳障りな大絶叫もここのところご無沙汰である。
いったい何が会ったのか、と思っていたところ、散歩から帰った我が家の犬が、そんなリンジーの部屋の前でくんくんとドアの下を嗅ぎまわっている。

まさかリンジーさん、酔っ払っている間にネズミに食い殺されたのか、と思いきや。。。

いきなりがちゃり、と開いたドアの間から顔を出したのは黒い子猫。

きゃっほ~と喜ぶ我が家のバカ犬。こいつまだ猫と犬の区別がつかないようで、盛んに遊ぼう遊ぼうと跳ね回り始めた。

猫を飼ったんだね。

そう、とリンジーさん。お友達に相談したら、ネズミにはもう猫しかない、って言われてね。それでASPCAに行ったこの子に会ったの。

オスカル君。生後4ヶ月の黒猫君でなかなかの好男子である。

不思議よね。この子が来てから家中からネズミというネズミが一瞬の内に消え去ったのよ。

そんなにネズミがいたの?

居たと思うわ。だって匂いがしたもの。ネズミの匂い。判るでしょ?

へえ、猫一匹でネズミがいなくなるのか。

我が家においてはさすがにネズミで大騒ぎすることは無かったのだが、がしかし、そう、夜更けに目がさめて水を飲んだ際など、
ふと、腰掛けたソファのその目の前に、きょとんとした顔のネズミと鉢合わせ、なんてことが多々あった。

ブーくんが捕まえて食べちゃったりしなきゃいいけど。

まさか、こいつに捕まるような間の抜けたネズミはいないだろ。

でもほら、子犬の頃よく追いかけ回してたでしょ?

イエネズミはそれほど馬鹿じゃないだろう。

とか何とか言っていたのはまだ序の口。

その後、試験勉強にかまけて部屋の掃除を怠る内に、
ふと気がつけば、リビングから机の周りからソファからキッチンから果ては寝室まで、
むむむ、なんか臭うぞ、と思い始めていたわけで、
これ、つまりは、ネズミのおしっこによるマーキングの匂い。

おーい、この部屋ごきげんだぞ、みんなやって来~い、と仲間を呼び集めているのである。

挙句の果て、散歩から帰って、お腹すいたお腹すいたとご飯をせがまれながら、
そんなブーくんのドライフードの袋を抱え上げた途端、いきなり底からぞぞぞぞぞ、とドライフードが床に零れ落ちる。

なんだなんだ、と見れば、なんとドライフードの底に直径一センチ程の穴が空いているではないか。

なんだこの穴、と見れば・・そう、これ、ネズミの開けた穴。

犬の大好きなドッグフードは、どうもネズミたちにもごちそうなようであって、気がついて見れば、
そんなブーくんのお食事グッズの棚のそこかしこにネズミのうんちたる黒い流線型がポツポツと落ちているではないか。

やられたなあ・・である。

という訳で、深夜も過ぎてから棚という棚を大掃除。
目につくものはかたっぱしからプラスティックのケースの中に押し込んで固く蓋を閉め、
床と言う床を掃除してネズミの痕跡を拭い去り、とやりながらも、このネズミの匂い、
いつになっても消えることがなかった訳だ。

そんなこんなで年の瀬。
ようやく試験も終わり、そしていの一番にとりかかったのがこの部屋の掃除である。

驚く無かれ、俺の机の周り、参考書やらコピーやらが山となったその本棚やらpcやらの周囲には、
まさにごまをぶちまけたかのようなネズミの糞の山。

部屋中に粘着板タイプのネズミ取りをこれでもか、と仕掛けてあるにも関わらず、そんな罠には一匹も引っかからないネズ公たちが、
しかし主人がいなくなった、と見るやたちまち大パーティを繰り広げていたのだ。

という訳で、遅ればせながら本格的にネズミ駆除に取り掛かった。

アパートのスーパーに電話を入れ、ネズミが出た、なんじゃこれは、保健所呼ぶぞゴルァと脅しまくっては、
やれ害虫駆除だ、やれ、大工さんだ、やれ左官屋だ、が大集合。
で、そんな大男たちが雁首そろえて、ネズミの穴を探す訳で、ヒーターの後ろからクローゼットの奥からガスコンロの裏から、
と大騒ぎをして一日二日。

さあ、これでもういなくなっただろう、と一安心したその夜に、いきなりテレビの前でご対面である。

こいつ、本当にしつこいな。。。

部屋中の本棚を移動した。
机の上から下から、テレビの配線からpcの接続から、ベッドの下から洋服ダンスから、
ありとあらゆるものを動かしてはせっせと床掃除。そしてユダヤの母の入れ知恵たるペパーミント・オイルを振りかけ、
と大奮闘を繰り返している訳なのだが、
ようやくとネズミの匂いの払拭された筈の我が部屋、で、ふと机に戻ると、なんとそこに懐かしい野獣の汗の匂い。

あいつ。。。性懲りもなく掃除したての机の裏でまた小便しやがった。。

どうも黒いちっちゃなネズミ、これが一人で逃げまわっているようなのである。

これまでネズミ捕りで捕らえたのが3匹。そんな兄弟たちの非業の死を目撃したこの黒鼠。
やたらと知恵がついてもうネズミ捕りではまったく用を成さなくなっている。

やっぱりあの黒いやつ?
そう、あの黒いやつだろ。もう穴という穴は塞いだし、帰るところがなくなって困ってるんじゃないのか?

がしかし、この最期に残った黒鼠。なかなかのワルガキぶり。

あれだけ入念に掃除をした部屋中の家具という家具のその裏側から、
3日としないうちに再びあのネズミの小便の匂いが立ち上り初めている訳だ。

という訳で、このネズミ騒動。まだまだ収まりそうにない。

猫の手でも借りたいよ、とはまさにそのことである。

ねえ、だったらいいアイデアがあるわよ、と隣室のリンジーさん。

おたくのブーくんとこのオスカルを交換するのよ、どういいアイデアでしょ?

我が家の駄犬、誰にも身体を触らせず、曲者と見るやいきなり跳びかかり、
ドッグランに行けば喧嘩ばかり、の荒くれ者なのだが、
実はアパートの中で俺達といる時には、まさに名犬として通っている。

いつもかみさんの脇をぴたりとくっついて離れず、
洗濯の時にも買い物の時にもどこに行くにも必ず着いてくる。
人の話をじっと食い入るように見つめては小首を傾げ、
時として相槌を打つように片手を上げて返事をしたりもする。
確かにそんな姿だけ見ればこの世で最高のバディ、
ああ、わたしも犬が欲しいは、と言うのも判るのだが、
そう、犬にも人にも必ずダークサイドがある訳で、
特にそう、うちのかみさんにしても犬にしても、
外面が良い反面、そのダークサイドもかなり強烈なものになる訳だ。

とそんなことも知らないリンジー、
ねえどう?おたくのブッチ君、ちょっと貸してくれない、と冗談でもないようだ。

でもねえ、うちのこ、本当に同しようもないやつで、とは言いながら、
このオスカル君、もしかして我が家の黒鼠を退治してくれるだろうか。

ここまで来て遂に、猫の手を借りるような事態になりそうな気運である。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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