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失業ハイパー ~ 図書館の人々 その後

Posted by 高見鈴虫 on 16.2015 とかいぐらし   0 comments   0 trackback
久々に古い友人に会うつもりだったのが、ドタキャンで宙ぶらりん。

しかたなしに午後も遅くなってから図書館へ。

と言うのも、性懲りもなくまた勉強を始めた訳だ。
昔取った杵柄ではないが、すでに失効している技術系の資格。
取り直す、のは無理にしても、一応内容のアップデイトぐらいはしておこうか、
と参考書を眺めていたのだが・・

いつの間にか寝ていた。



で、ふと目を覚ますと目の前にインド人。

こいつ、そう言えば、俺が図書館に来始めた頃に、
ああ、お前もその資格狙ってるのか、と声をかけてきた奴。

見た目はなかなかの好男子。
愛嬌のある笑顔がまさに営業風で、
一緒に仕事をしたらそれなりに使えるだろうな、
というタイプ。
とかなんとか思っていたら、
電話の度に席を立ち、あの、悪いがこれ、俺の荷物、ちょっと見ていて、
と言い残したっきりいつになっても帰ってこない。
で、ようやく帰ってくれば、両手にセンチュリー21の袋を抱えていたり。

んだよお前、人に荷物番させてお買い物に行ってやがったのかよ。

とまあなんとも調子のよい奴なのだが、
そいつがいきなり目の前の席にいて、

おい、おまえ、この間の資格どうしたんだよ、と聞いてくる。

えっ?あ、あれな、あれはパスした、と答えると、

ちっちっちっち、と舌を鳴らして、悪いこと聞いちまったかな、と苦笑い。

でもなあ、いまさらそんな資格、と俺の手元の参考書に顎をしゃくって、

いまさらそんな資格取ったって、給料は知れたもんだぞ、と聞いたようなことを言う。

もう技術はダメだ。特にインフラ系はな。
ここ数年で給料も急下降。で、今年はますます価値が下がる。
悪いことは言わない。この間の資格、あれを狙え。

とかなんとか、実にマジ顔でそんなことを宣っている。

ああ、だから、と俺。
悪い悪い、パスしたってのは、見送ったってことじゃなくて、
試験にパスしたってこと。そう、合格したんだ。サーティファイドになったってこと。

なぬ?とそのインド人。

お前、日本人だろ?と。

ああ、そうだよ、と答えれば、だったら日本で、日本語で受けたのか?と来る。

いや英語だよ。42丁目と3rdの角だったな。

あのなあ、とそのインド人。日本人のお前がなんであの資格が取れるんだよ、とかなんとか。

なんだよ、あの資格に人種が関係有るのか?と聞けば、

いやでも、あのWORDYでTRICKYな糞問題の山、お前、あの試験にまじで受かったのか?

ああ、悪いが一発合格だ。

そっか、とそのインド人。そしてふっと長い溜息。

とその途端に、隣の席のおばはんから、しーっ、静かに、と言われて、
た途端にいつものあの取ってつけたような営業スマイル。
いやあ、失敬失敬、と唇を歪めて笑顔で返す。

そっか、日本人のお前があの資格受かったのか、と繰り返すインド人。
そしてなぜかがっくりと肩を落として席を立つと、どこかにふっと消えてしまった。

なんだよ、あいつ、どこに行っちまったのか、とそんなインド人を目で追っていたところ、

ふとその視界を異様な輩が横切る。

その老人は顔つきからすれば明らかにホームレス。

ちょっと見、チェット・ベイカー。

だがその白髪にまみれた伸びた髪。それがまだらに生えてまるで蛇がのたうつよう。
落ち窪んだ瞳と頬にはナイフで切り込んだような深い深い皺、
そしてお決まりに生え放題の白髪の無精髭。

この爺も、その人相からすれば昔はそれなりに悪を気取ってブイブイ言わせてたんだろうが、
どんな事情でかいまはすっかりホームレス。
世界どこにでもある豊かな青春、惨めな老後を地で行くような、
みるからにホームレス風情の爺い。

それが、なんと、上下の三つ揃えのスーツ姿。
ストライプのワイシャツにネクタイまで締めていて、
実はそんなスーツ姿が妙にこの爺に似合っていたりもする。

どこで見つけてきたのか、
捨ててあったスーツを着てみたらサイズがぴったりだった、
ってことなんだろうが、であらためて見るこのスーツ姿のホームレス爺。

なんかどこかで見たような気がするなあ、と思っていたら・・・

そっか、昨日、そう言えば、ジンハケの面接やらで家でスーツを着てみた時、
あの時に見た、俺。そう俺自身の姿であった訳か。

やっぱ白髪ヒゲにスーツ。合わねえよな、と思わず。

とそんな時、あのすいません、と俺の隣に割り込んで来た輩。

なんとユダヤ婆あじゃないか。

という訳でこの中年のユダヤ人の婆あ。

見たところ、普通にそのあたりの金融会社のエグゼクティブ、という感じなのだが、
なぜかそんなよそ行きのスーツスタイルで毎日図書館にやってくる。

で、そのユダヤ人婆あ。
やっていること、と言えば、手持ちのラップトップでWEBのページを眺めてはため息をついてばかりなのだが、
どういう訳か俺のことを目の敵にしている感があって、
やれキーボードを叩く音がうるさい、やら、ガムを食う音がうるさい、やら、
音楽に合わせて身体をゆするな、やらと、なんだかんだとと文句をつけてくる。

まったくユダヤ人って奴は他人の顔見ればすぐに文句をつけてきやがる、
と苦々しく思いながらも、まあそう、ユダヤ人とはそういうもの。
犬が電柱を見れば片足を上げて小便をするように、
ユダヤ人は他人と見れば文句をつけるもの、
と、まあそんな感じで放っておいていた訳だが、
そんなユダヤ人の婆あ。
ふと俺の手元にあった資格試験の参考書を垣間見て、
その資格名をさっそくWEBで検索していやがる。
で、その資格保持者の平均年収なんてのを調べている、かと思ったら、
ふと気がついたらそのユダヤ人の婆あ、瞳が妙に輝いていて、

あああんったあ、実は凄い資格取ろうとしてるのねええ、と、
さっきまでの敵意むんむんから一変してまさにLOVELOVEモード。

改めてまったくユダヤ人ってやつは、な訳なのだが、
そのユダヤ人婆あ。
それ以降は、文句を言うどころかなんとなく畏敬を込めた目で俺を見始めて、
やれペンが落ちた、やら、メモが飛んだやら、とそれを拾ってくれたり、
咳をすればのど飴をくれたり、M&Mのチョコレートをおすそ分け、と妙に態度が一変。

お互い求職者同士、頑張りましょうね、ということなのか、と、
適当にサンキューとうっちゃっておいたのだが。

そんなユダヤ人婆あ、わざわざ狭い隣の席に割り込んできては、
相変わらず迷惑な奴だと思っていたところ、

ねえねえ、とヒソヒソ声で話しかけてくる。

あんた、もしかしてあの資格受かったの?

ああ、受かったよ。

いつ?

去年の暮れさ。

で?

で、ってなにが?

で、ここでなにをしているの?

まあようやく仕事を探し始めたんだが、この時期はあまり求人がなくてね。
人が動き始める3月ぐらいまでの間にまた別の資格でも取っておこうと思ってさ。

なんだ、そういうことなの、とユダヤ人婆あ。
そう・・・そういうことなの・・・とこれみよがしに深い深い溜息。

で、いきなり、出したばかりの机の上のものを乱雑にカバンに放り込み初めて、

じゃあ、の挨拶もなしに、ふん、とどこかに消えてしまった。

なんだよ、なんだよ、こいつら。

あのインド人と言い、このユダヤ人婆あといい。

いったいなにを考えてやがるんだ、と思っていたら、

なんとそんな俺の隣の席に、よりによってあのチェットベイカーもどき。

三つ揃えのスーツを着たホームレスの爺さんがどさりと座ったとたん、
俺の顔を見ては、にまーっと抜けた前歯を見せて笑ったものだ。

なんだよてめえ、とガンをくれてやるのだが、
そんなことまったくお構いなしのこのホームレス爺い。
抜けた前歯の奥から舌の先を覗かせながら、
へっへっへ、と笑い続けている訳で、
まったく気味が悪いと言ったらない。

という訳で、改めてこの図書館という場所。

なんだか妙に、呪われているような気がしてきたり。

そろそろどんな方法であっても、娑婆に戻るべきなんだろうな、と思い知っていた。




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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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