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日曜の朝、冬の雨に叩かれながら

Posted by 高見鈴虫 on 18.2015 犬の事情   0 comments   0 trackback
せっかくの日曜日だというのに、朝から大雨である。

しかしながら、雨だからと言って散歩に出ないわけには行かず、
少なくともおしっこだけでもしてもらわないと、と思うのだが、
ブー君は雨が苦手である。




ブー君のその銀色に輝く滑らかな毛並みは、
犬と言うよりはむしろ猫に近い手触りで、
頬ずりをしていると上質のシルクを思わせる滑らかさ。
本当に気持ちが良い訳なのだが、
その毛並みが災いしてか、
水分を弾かずにそのまま吸い込んでしまい、
いくら吹いても乾くのに相当の時間がかかる。

そんなことからか、ブー君は水が苦手である。

子犬の頃は水たまりに足を入れることさえ嫌がったところがあって、
夏場の水泳と言っても、浅瀬を駆けまわるばかりで、
仲間のラブラドルやピットブルたちのように、
水の中にどっぷり身体を沈ませては夢中になって泳ぎまくる、
ということはない。

もっと早くから水泳のお勉強をさせていれば良かった、
とは常々悔やんではいるが、
その報いを、こうして雨が降るたびに思い知らされることになる。

いつものように黄色いレインコートを着せたところで、
既にご機嫌斜めのブー君。
不穏そうな顔つきで人の顔を垣間見ながら、
エレベーターを降りてアパートの玄関から空を見上げた途端、

ちぇ、やっぱり雨じゃないか、とその落胆が身体中に現れている。

怪訝な表情で人の顔を見上げるブー君。
おまえ、まさかこんな雨の中を歩かせるつもりじゃないだろうな、
とでも言いそうな、実に恨めしげな表情である。

だから、と俺。
雨でもなんでも、おしっこだけでもしておかないと、困るのはお前だろうが。

だったら、もう少し待って、ちょっと小ぶりになってからでもいいんじゃないのか?

確かに土砂降りである。

車道を叩きつける雨が、アスファルトに弾けてはもうもうと白い靄が立っている。

歩いている人々は傘のあるなしに関わらず全身びしょ濡れ。

俺にしたって、なにが悲しくてこんな土砂降りの雨の中を犬の散歩になどでなくてはいけないのだ、
とは思っているのだが、うちの犬に一日中おしっこを我慢させるわけにもいかないではないか。

これも可愛い犬のため、とは思いながら、当のお犬様から俺は行きたくない、と言われた日には、
まったくやってられない、というところである。

という訳で、嫌がるブー君をなだめすかしながらなんとか歩き出した雨の中。

幸いこの黄色いレインコートは実に良く出来ていて、背中からしっぽの根本まで、
すっぽりと包んでくれて、後ろ足にゴムで引っ掛けて下半身の防備も完全である。
だが問題はその頭。
ブー君はどうも、顔に水が当たるのがとても不快なようなのである。

水しぶきのかかった顔をしかめっ面に歪めながら、おい、まだ行くのか?いい加減に帰らないか?
と訴えているのは判るのだが、だから、お前がおしっこするまでは帰れないんだよ。だったらさっさとおしっこしちゃえよ、と。

がしかし、犬のおしっこには実は排泄行為だけではなく、もう一つの目的、つまりはマーキング、
そして近所に住む仲間たちへのメッセージの意味もある訳で、
よって、そんじょそこらで適当に用を足して、という訳にもいかないらしく、つまり、所定の場所、
ブー君で言えば、いつもの公園まで行かない限りは用を足す気にはならないようなのである。

という事情から、土砂降りに叩かれながら公園へ。

普段であれば、通り一面に巻かれている筈の滑り止めの塩。
かねてからこの塩によるソルトバーン=犬のパウが塩で焼けてしまうこと、に文句たらたらの愛犬家たちなのだが、いざこうして塩と言う塩が雨で流されてしまうと、凍りついた路面に足が滑る滑る。
まるでスケートリンクの上を歩いているようで、そこを犬に引っ張られた日には、まさに人間犬橇状態。
危うくバランスを崩してアスファルトの路面に転倒、ということになりうる。

犬はしかし、そんなことは素知らぬ顔で、よちよちとペンギン歩きをする飼い主も知ったことか、と、やれあっちだこっちだ、あるいは、いやだ、そっちは行かない、と足を踏ん張って、とやりたい放題。

頭から被ったフードの間から凍った雨水が染み込み初め、叩きつける雨はいつしかみぞれ混じり。
そして我がブー君は、そんな雨の中を目を瞬かせながら、おい、早く帰ろうぜ、を繰り返すばかりで一向に用をすませようとはしてくれないわけだ。

あのなあ、なんでもいいから早いところおしっこしてくれないかな、と思わず泣きたくなって来たりもする。

鬱蒼とした木々の茂る公園の中、夏の間であれば、木陰の下で雨宿りもできるものを、この季節、まるで骸骨のような枝ばかりとなってしまった木々の下では、好き放題に雨に叩かれるばかりである。

午後からは雨が本格的に霙に変わるらしい。
このチャンスを逃すともう一日おしっこができないことになる。
そんな事情も犬は知らない。知ったことではない。

ああ、俺はいったいこんなところでなにをやっているのだ、と思わず見上げる冬の空。
そんなことはこっちが聞きたいよ、と思い切り不機嫌な顔で俺を睨みつけているブー君。
だから、はやくおしっこを・・・おしっこだけでも・・

日曜の朝、冬の雨に叩かれながら思い切り途方にくれている訳である。





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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