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史上空前・大吹雪狂騒曲のニューヨーク

Posted by 高見鈴虫 on 26.2015 ニューヨーク徒然   0 comments   0 trackback
史上空前の猛吹雪だそうである。

朝の犬の散歩の途中から本格的に降り始めた雪。
身体中雪まみれになった犬の姿を笑いながら、
これはさすがにやばいか、と非常用食料の調達に向かうことにした。







と言うわけで向かった74丁目のスーパー。
途中、71丁目の安売り店であるトレーダー・ジョーからは、
なんと入店を待つ人々が72丁目の角を曲がって銀行の前までにも続いている。
風が強くなってきた。振り続ける雪が舗道を舞って渦を巻きそんな人々の姿が白くぼやけ始めた。
既に積もり始めた雪の上から滑り止めの塩の撒かれた舗道。
してやったり、と両手にいくつもの大荷物をぶら下げて帰る男たちと、
足をよろめかす老婆。ベイビーカーを押す主婦たちと、色とりどりのスキーウエアではしゃぎ回る子供たち。
予想通り、74丁目のフェアウエイは既に大混雑である。
店に入りきらなくなった行列が雪の歩道にはみ出していて、
それにレジを待つ行列が重なっては押すな押すなとごった返している。
いつもの場所で買い物籠をピックアップしようとすれば、それがない。
なんと籠さえもが売り切れのようである。
たった一つ残った籠を二人の老婆が取り合っている。
赤いプラスティックの籠を双方から引っ張っては、これは私のだ、いや、私のだ、とやりあっていて、
それがわずかに残された入り口の隙間をふさいでいる。
おい、婆さん、犬のおもちゃの取り合いじゃああるまいし、と苦笑いをしながら文句を言えど、一向にあきらめようとはしない。
よしそうなれば、と俺も加わることにした。
おい、だったら俺のでもある、と手で引っ張れば、あっけに取られた婆さん。
なによ、あんた、とまじめに目を吊り上げている。
としたところ、三方を引っ張られた籠の残った一辺に手を伸ばした男。
おっと、ひとつ空いてる、なら俺も、と引っ張り始めては、ウー、ワンワンと犬の真似をして大笑い。
こうなったら一歩も引かないぞ、グルグル・ワンワン、とはしゃいでいる顔を観れば、思ったとおり犬の散歩仲間のジャスティンである。
おい、おまえ、ブッチ・パパ。お前日本人だろ?
日本人は世界で一番礼儀正しい民族じゃないのか?
津波の大災害の時にも文句も言わずに一晩中一杯のスープを待ち続けていたんだろ?
だったらお前、もう少し日本人らしくしたらどうなんだ。
馬鹿たれ、わんわん、と俺。
俺はそんな日本が嫌で日本を出てきたアンチ・日本人なんだ。ウー・ワンワン、この籠はぜったいに俺のものだ。
おまえ、それはアメリカナイズされ過ぎだ、わんわん。お前の犬のほうがずっと賢いぞ、わんわん、ちょっとは犬を見習え。
呆気に取られる老婆たちの前に、はいはい、そこどいて、と従業員がまた老婆の身長ほどもある籠の山を運んできて一軒落着。
とたんに苦笑いを浮かべる老婆。そして従業員に食って掛かる。こんなになる前になんでもっと早く持ってこないのよ~。
いやまったくね、とジャスティン。
たかが買い物籠の取り合いでここまで殺気立っちまってさ、と笑いながら、
しかし店内の押すな押すなのひしめき合いに巻き込まれてまた苦笑い。
まるで店中の品を買い占めようとするかのように両手の籠いっぱいに非常食を買い込んだ人々。
子供が5人も乗れそうなカートにまさに山盛りの缶詰を積み込んでいる輩もいる。
そんな人々が、おい、そこをどけ、とぶつかってきて、やい、なにをしやがるんだ、とやり返し、
後ろからカートにぶつかられ、前から肘で小突かれ、と大騒ぎ。
そんな人々にもみくちゃにされながら、
やれやれ、まったくだな、と笑うジャスティン。
まったくねえ、どう思う、こいつら?犬以下にもほどがあるよな。日本人のお前からしたらまったく信じられない光景だろう。
いやはや、ニューヨークだよな、と俺。でも俺はこっちの方が好きだ。なんてったって楽しいじゃねえか。うちの犬も連れてきてやれば良かった。
とそんな俺たちが向かった先の惣菜売り場。
既に大半が空になったショウ・ケースの前に、これまた押すな押すなの人の山。
はーい、49番の人、49番、いないか?だったら50番、51番、とやりながら、俺の取った番号札はなんと98番。
やれやれ、こんなことではいったいいつまで待たされるのか、とそんなジャスティンの札、96番を横取りして、よこせ、俺のだ、とやってまた大笑い。
と思えば、
66番。誰か、66番要らない?私の札、この66番、誰かいる?売るわよ、と声を上げるおばはん。
売る?番号札を?
ほらほら、早く買わないとみんな売り切れちゃうわよ。さあ66番、誰か買わない?
いくらだ?5ドルなら出す、というおっさん。
おっ、だったら、俺の58番、10ドルで売るぞ、と言うあんちゃん。
それを聞いて売り場の店員、俺に20ドル払ったら番号は関係なしだ、と、おいおい、悪乗りしすぎだって。
まったくな、とジャスティン。
たかが雪ぐらいでなにをここまでパニックに陥ることがあるのかな。たかだか2、3日飯を食わなくったって人間早々と死ぬものじゃあるまいに。
とそれを聞いて振り返るおばはん。2、3日じゃ済まないわよ。道が封鎖されれば物流が滞って二週間はフレッシュな食べ物が届かなくなるわよ。
二週間?まさか、とジャスティン。それは大事だ。
大丈夫、と俺。断食で二週間食べなかったことがあるがこうしてちゃんと生きている。20LBは痩せるぞ。いい機会だ、やってみたらどうだ。
あんた馬鹿ね、それだけで済むわけないじゃないの。石油が届かなくなれば水を汲み上げるポンプが止まってお湯も出なくなるわ。
電気が止まったらエレベーターも動かなくなる。部屋に缶詰になるのよ。そうなったら例のサンディの時みたいになりかねない。
そう、このパニクった人々の記憶の中にはまだあの台風サンディの記憶が生々しく残っているのだ。
ここアッパーウエストサイドは難を逃れたが、ダウンタウンに住んでいる奴等は水も電気も止まって二週間風呂にさえ入れなかったのだ。
そんなことになっては確かに一大事だ。
ちょっとちょっと、そこどいて、は~い~は~い!わたし51番、51番よ、私が先よ。
いや、もう51番は呼んでもこないから既に55番だ。あんたはまた一からやり直しだ。
ちょっと、馬鹿言うんじゃないわよ。いったいあたしがどれだけ待ってると思ってるのよ、そこどきなさいよ、ちょっと、どけって言ったらどけってば、
ともはや毟り合いである。
ふっふっふ、と俺。蓄えた白髪髭を撫でながら、アメリカ人、浅はかな奴等め、と鼻で笑ってポーズをつけてやる。
強欲、狭心、エゴ、おお、アメリカン、なんと浅ましい奴等だ。ダライラマ先生の顔を拝ませてやりたい。
なんとでも言ってなよ、とおばはん。あんたはそうやって勝手に飢え死ねばいい。あたしはごめんだね。世界中にあたしだけになってもあたしは生き残る。
とそんな俺の後ろから、ふっふっふ、馬鹿よね、まったくあんたの言う通り、とヨガ教室帰り風のおねえさん。
こんなの、どうせ大したことないに決まってるじゃないの。またいつもの奴の過剰反応。オーバー・リアクションよ。喜ぶのはこの店だけ。在庫一掃セール。いまだったら豚の尻尾だって売れるわ。
とそう、見ればショウ・ケースの食べ物が次々と空になっていって、今ではLB20ドルもする高級料理ばかり。それさえもが飛ぶように売れていく。
大丈夫、賭けてもいいわ、とヨガねえちゃん。
私知ってるの、絶対に大したことないわ。だってね、あたしのウィジャボードにそう出てたんだから。
ウィジャボード?
そう、知らない?WITCHBOARD。神様になんでも聞けるのよ。
おいおい、ここまで来て神頼みかよ。
と言うわけで、いつの間にかなにもなくなっている店内。豆乳もアイスクリームもチョコチップ・マフィンも、
チキン・パルメジャーンどころか、チリ・コン・カルネどころか、ズッキーニ・ディアブロどころか、
ポテト・サラダも、マカロニ・サラダさえも売り切れて、2時間を費やして俺の買い物籠は空のまま。
おいおい、ここまで来て手ぶらで帰るのかよ、としゃくな気もしたが、
果たしてこの人間の業と言うやつ、まさにすさまじいものがある訳で。

がしかし、とこのひねくれものがひとり。
武士は食わねど高楊枝、ではないが、
なあに人間二週間ぐらい飯を食わなくても死ぬもんじゃなし。
最近太りすぎの俺。ちょっとそんな事態を期待してみたりもする訳だ。


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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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