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「PERFECT DAY」 ~ 日本人の悲劇

Posted by 高見鈴虫 on 29.2015 旅の言葉   0 comments   0 trackback
80年代の話になるが、ヒッピー旅行をしていた頃、とあるパキスタンの田舎町に滞在中、
夜更けになっていきなりどこぞのちょーほーぶなんてかんじの輩から、
じじょーちょーしゅ、とかを理由に連行されたことがあったりする。






ドミトリーの同部屋であったアメリカ人ツーリストのポケットから
アフガン産のハッシシが見つかった、とかなんとかがその理由。
結果、その部屋にいた全員、7人ほどがそのままトラックの荷台に乗せられ、
町外れの警察署、ならぬ軍隊宿舎のようなところに運ばれた。

パスポートを回収され、そのまま牢屋にぶち込まれるのかと思っていたが、
壁に壊れた時計のぶら下がる窓のない会議室のような部屋に連れて来られ、
そして何の説明もないままにそこに待たされて一時間あまり。

程なくして部屋を尋ねてきた例のちょーほーぶ野郎と共に、
その上司らしき太った髭面の軍服おやじとそして銃を構えたほんちゃんの兵隊が四人。

まずはドイツ人が、そしてイギリス人が別室に呼ばれ、
そしてオーストラリア人、続いてスイス人が部屋を出て行き、
後にはアメリカ人のゲイのカップルと、そして俺が残された。

彼らはどこに連れて行かれたのか。
そして脳裏には、ゲリラ組織に捕まった人質が、
頭から黒い袋をかぶせられては裏庭に引き出され、
有無を言わせず次々と密殺されるシーンがよぎり続けていていやーな感じ。

大丈夫さ、とゲイのカップルはアメリカ人らしい楽観論で余裕しゃくしゃくの表情。
こんな馬鹿どもが俺たちアメリカ人に手出しできる筈がねえよ、
と、こともあろうにジョイントを咥えてにやり。
当時から、米国は中東世界の嫌われ者。
このパキスタンとも不穏な関係にあったのも事実。
で、その嫌われるアメリカ人、
他国のことを屁とも思わないその横柄さこそが、
うーん、その態度じゃやっぱお前ら嫌われるぜ、と(笑

が、そう、俺は日本人だ。
が、そう、詳しくは判らないが日本とパキスタンはうまく行っている筈。
ビザだって必要ないぐらいなのだから。
なんで、まさか日本人である俺が、こんなとこで消される訳がない。
そんなことになったら、それこそ国際問題ではないか。

とそんなことを思っていた時、さあ次は俺か、と思っていたところ、
意外なことにアメリカ人の一人が呼ばれ、行ってくるぜ、とウィンク。

ええ、なんで?
元はと言えばこいつらが牛の糞なんか隠し持っていたのがいけないわけだろ。
俺には関係ねえじゃねえか、とは思いながら、
こうしてたった二人で残されてしまった部屋。

ドアの前に見張りに立たされた二人の兵隊の表情を伺いながら、
いったいなんだってんだ?とい愚痴を言いながら、

ねえ、それ、ルーリードね、と俺のTシャツを指差すいかにもおねえっぽいアメリカ人。
あたしもね、ルーリード好きだったの、とくすりと笑って、鼻の先で歌い始める。

Just a perfect day
Drink Sangria in the park
And then later, when it gets dark
We go home

そんな俺たちを怪訝な顔で横目で睨むドア脇の兵隊たち。
が、そ知らぬ顔で歌い続けるそのおねえ言葉のアメリカ人。

Oh it's such a perfect day
I'm glad I spent it with you
Oh such a perfect day
You just keep me hanging on
You just keep me hanging on

思わず Keep Me hanging on と一緒に歌ってしまった俺に、
そのゲイの男はくすりと笑って手を握った。

大丈夫、心配ないわ。きっと上手くいくから。

と、そんなところに先ほど出て行ったアメリカ人の片割れがひょっこり帰ってきた。

ほらよ、と手に持ったパスポートを相方に渡す。

なにがあった?

いや、まるで空港のイミグレみたいなもんだったよ。
どこから来た。目的は?どのくらい旅をしてる?どこを通って来た?この町にはどのくらい滞在する予定だ、
とかな。

で?

俺はアメリカ大使館を呼べ、と言ったんだ。

こんな不条理な連行で質問に答える義理もない。アメリカ大使館を呼べ。
俺がこの町にいることは方々にポストカードを出してあるんで衆知の事実だ。
アメリカ大使館を呼べ。お前らはアメリカ人には一切手出しはできないってな。

で?

いや、すぐにさ。ドアが開いて奴らがこそこそと話して、でこのパスポートを渡された。

ノーマン・レフト・ビハインドか、さすがだな、アメリカ人。

そう、アメリカ政府はたとえなにがあってもアメリカ人を見捨てることはしない。
もし俺たちの身になにかあったらそれこそ二時間と待たずにネイビー・シールが救出にやってくるのさ。

じゃな、と手を上げるアメリカ人二人。ジャパニーズ、グッド・ラック。

ええええ、まさか、俺一人?

とそんな二人と入れ違いに先のちょーほーぶ野郎が部屋に入ってきた。

ジャパニ、とその男は言った。

可愛そうだが、お前だけはまだ帰れない。

なんでだよ、なんで俺だけが残されるんだ。俺はなにもやっちゃいない。
なにも持っちゃいないし、見ての通りただのツーリストだろ。

ああ、判ってるよ、とそのちょーほーぶ野郎。タバコ吸うか?とマルボロを一本。

ただな、なんというか、あちらから電話が来ないんだ。

あちらから電話?

そう、日本国の大使館なんだが、コンタクトがないんだ。
調べて折り返し電話する、とは言われたんだがね、それ以来、なしのつぶてだ。

まさか・・電話番号間違ってるんじゃねえのか?

いや、そう、そうであって欲しいんだがな、と肩をすくめる男。
いかにも、俺も困っているんだ、という風。

日本大使館から連絡がない?どうして?なんでそんなことが起きるんだ。
日本大使館ってのはこういうときのためにあるものじゃないのか?

とそんな俺の脳裏に、これまで同じ旅人たちから聞きかじった冗談とも取れない逸話が浮かぶ。

なにかあったとき、日本大使館は、ぜんぜん、まったく、なんの助けにもならないぞ。

そう、つまりはこういうことなのだ。

あの役人連中は言うんだよ、ジコセキニン、ってな。
こんな所にわざわざやってきたお前のジコセキニンだろう、と。
勝手に日本をおん出た奴はもう日本人じゃねえ。好きに死ねってことだ。
まあとどのつまり、ばかやろう、手間とらせやがって、ってことだけなんだけどね。
つまりそう、ただ面倒くさいだけ、って話でさ。
我が国の害無省ってのはつまりはそういう人たち。

という訳で、ほうほう、これが日本の害無省というやつか。
がしかし、いざ、こんな事態に陥って、改めて勝手に死ねって言われてもなあ、
とその言葉に隠れた底知れぬ悪意に思わずぞっとする俺。
個人責任だ、死ねって言われても、ホテルで寝ていたらいきなり勘違いでとっつかまった俺、
これって個人責任なのか?
つまりこんなとこに来るほうが悪い。
おとなしく日本から出なければ良かったんだ、と、そういうことなのか?

と言うわけでだ、とそのちょーほーぶ野郎。
悪いが部屋を移動して貰わねばならない。
一晩中ここで兵隊を立たせているわけにもいかんのでね。

ってことは牢屋?

牢屋ってほどでもないが、まあ営倉という奴だ。
大丈夫、ベッドも毛布もあるし明日の朝には飯も出る。
お前らのあの糞だまりのようなドミトリーよりかはなんぼかましだ。
なんといってもシングル・ルームだからな。

おいおい、なんでだよ、なんで俺がそんな目にあわなくっちゃいけないんだよ。

とそんなときに、先に部屋を出て行った筈のアメリカ人二人、
どういう訳か、先に顔をだした髭でぶの軍服おやじの男を連れ立って部屋に戻って来た。

おい、ジャパニ、とパキスタン人の言い方を真似てアメリカ人が笑う。

釈放だ、と俺のパスポートを投げて寄越す。

アメリカと日本は友好国だ。こいつの身になにかあったらアメリカ軍が黙っちゃいないって言ったのさ。

まさか、と笑うパキスタン人たち。

笑っていないのは俺一人。

ただな、そう、日本人として生まれた悲劇だ、と笑うパキスタン人。

どういうわけだか、こういう時に、日本の大使館は、決して電話を返さない、
とまあ、おたくの国ではそういう方針らしい。

再びげらげらと笑う一同。
ええええ、とあらためて驚く俺。
一体全体、なんだってそんなことがありうるんだよ。

ありうるってよりそれが現実、とちょーほーぶ野郎。
まあいまに始まったことでもないんらしんだがな。

あのなあ、と俺。あの、日本っていちおう、文明国じゃねえのか?

さあな、知ったことじゃないけどね、と肩をすくめるアメリカ人。
とそんな俺をニヤニヤと見つめるパキスタン人たち。

実はな、とそのちょーほーぶ野郎。

実はクエッタの警察署にも日本人が一人が拘束されているんだが、
英語がまったく通じない上に、日本大使館からもなんの連絡もない。
引き取りに来てくれと頼んでるんだがな、もう10日も経つがなしのつぶてらしい。

まさか・・容疑は?

さあな。まあ強いて言えば運が悪かった。つまりは、日本人に生まれた悲劇って奴か、と。
と言うわけで、本来ならお前もそうなるところなんだが、
ほら、この友好国の連中の手助けもあってだ、と再び一同が大笑い。

生憎とここには10日間もヒッピー旅行者にただ飯を食わせる余裕もないものでね。

と言うわけで放りだされた夜明けの前。
吹きさらしの原野の真ん中で目に見えるものは星空満点、ぐらいなもの。
で、どうやって町まで帰るんだよ、
と、とぼとぼと背中を丸めて歩き始めたたちの脇に停まったトヨタ・ランドクルーザー。

おい、乗っていけ、と例のちょーほーぶ野郎。悪かったな。これも仕事なんでな。

たどり着いたホテルの部屋では途方に暮れた顔のツーリストたち。
帰ってみたら部屋中に荷物が無茶苦茶に散乱していたらしい。

誰のものが誰のものかなんてさっぱり判らなくなっちゃって。
ったくなんだってんだ、と口々に愚痴るツーリストたち。やってられねえ、早くインドに帰ろうぜ。

で、そう、あの後なにがあったんだ、いや、そう、実はこの日本人がさ、と始まっては
一同、えええええっ~!?と大笑い。

えええ、日本って国はツーリストを見捨てるってのが常識なのか?
あえりえねえ。
日本って国はいったいなにを考えてるんだかなあ。

という訳で、
あの時ほど、日本人であることが恥ずかしかったこともない。
で改めて聞く。害無省っていったいなにをやってる人たちだったの?





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プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾歳月
世界放浪の果てにいまは紐育在住
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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