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失業ハイパー ~ くはぁあ、ズトラーセビー

Posted by 高見鈴虫 on 24.2014 とかいぐらし
朝から犬の散歩でセントラルパーク、
顔見知りの犬仲間たちとカフェでお茶、
なんてことをしてたら、いつのまにか11時近く。
やばい、俺はいちおうこれでも失業中の身、
通常であれば遅くとも10時までには家に帰っては、
まじめにお勉強、あるいは職探しをしていなくてはいけない訳だ。

そうだよな、早く帰ってがんばって仕事探せ、はっはっは、
サッカーばっかり見てちゃだめよ~、
と送り出されて帰りついたアパート。

と見れば、アパートの前には、ちょっとこの辺りでは珍しいタイプの、
一見きゃばいおばさんねえちゃん。

むむむ、誰だこれ・・


とその、おばさんねえちゃん。

身に染み付いたようなはすっぱな態度で顎を上げ、
指の先にちょんと挟んだ細身のタバコを、
ぷかーっとやっては、アパートを出入りする住人たちに、
ハロー、と手を振ったりしている。

新しく引っ越してきた人かな、と思えば、
どうもその格好、よくよく見ると、そうか、ハウス・メイドさんか。

高級住宅地であるこのアッパーウエストサイド。
このアパートにも、部屋の家事をメイド・サービスに任せる
高給料リーマンも多く住む。

9時を過ぎる頃になるとそんなメイド・サービスの方々が、
ぞろぞろとアパートにやってくる訳なのだが、
そっか、そんなメイドさんが休憩中、ということらしい。

でその一見ちょっときゃばい感じのおばさんねえちゃん。
見たところやはりロシア系。
ボールを咥えてさっそうと帰ってきたブッチを見つけて、
きゃああ、かわいい、と黄色い声を上げる。

あれまあ、デミートロフそっくりよ、と目を輝かせながら、
ロシアで似たような犬を飼っていたのよ、
ちょっと待ってね、写真見せてあげる、
と前掛けのポケットから取り出したIPHONE。

えっとえっとえっと、とアルバムの写真をめくりながら、
ほらこれこれ、と見せてくれたその写真、
うん、確かに似ている。
ねえ、そっくりでしょ?
まだあるのよ、ほら、これとかこれとか、
と次々とロシア時代の写真を見せてくれるのだが、
どうもそこに写っているほかの写真、
友達やら家族やらとの写真の間に、
水着姿、やら、ベッドの上で下着姿、やら、
あるいは、えっ!?
改造車のボンネットの上でほとんど裸、
腕ブラの間からむき出しの豊満な寄せ乳を晒してはポーズをとって、
なんてのが並んでいて、

むむむ、ジェニファー・ローレンスの流出ものじゃあるまいし、
こんな写真、他人に見せてもよいのだろうか、
とちょっとこっちが気を使ってしまう始末。
挙句に、おっと、これは、全裸の自画撮り写真。
それが何枚も何枚も続き始めて、
がそんなことまったく意に返さないようなこのおねえさん、
えっとえっと、と言いながら、犬の写真を探しながら、
ん?あ、これなかなか良いわね、なんて感じで、
自身のヌード写真に見入ったりしている。

なんかまたおかしな人なのかな、と思いながら、
ちょっと見、歳はいっていてもなかなか色っぽいそのおばさんねえちゃん、
ふっふっふ、とそれとなく流し目を送られた日には、
なんとなくそんな気にもならないわけでもない訳で。

と言う訳で、はい、おしまい、とIPHONEをポケットに放り込んで、
で、ところであなた何やってる人?とそのおねえさん。
いや、あの、俺はこのアパートの住人。いまは休職中で犬の散歩。
ああ、そうなんだ、とおねえさん。
あたしほら、見ての通り、メイドなんだけどさ、
この仕事、本当に糞よね、と苦笑いしてエレベーターを待っている。

もうねえ、部屋中がめっちゃくちゃなのよ。
やっぴーな女の一人暮らしなんだけどさ、片付けても片付けても、
次の日には元通り、
わざとやってるんじゃないか、ってぐらいにもう部屋中が滅茶苦茶なのよ。
今日なんかさ、ベッドのシーツに、うっぷす、これは言わない言わない。

そうか、メイドサービスのそういう使いかたもあったんだな、と苦笑い。

とやってきたエレベーターに乗り込んで、
ドアがしまったとたんにふーっと長いため息。
あたしこう見えてもロシアでモデルやってたんだよね。
友達からお金になるからって誘われてさ、
やっては来たものの、こんな仕事じゃねえ、とちょっと苦笑い。
ねえ、あんたどんな仕事探しているの?
と俺に目をやって、
いや、あの、いちおうITだけど。
ああ、ITなんだ、と、改めて俺の姿をがん見、でくすくす笑い。
そう、俺の格好、
特大のキャッツアイに擦り切れたジーンズとかかとをつぶしたオレンジのコンバース。
セックスピストルズのTシャツに、ずた袋のような犬のおもちゃ入れのバッグ。
確かに、ちょっとこれはカタギの格好ではない。
でそのおばちゃんねえちゃん、そんな俺をみてくすくすと笑う。
とそんなエレベーターが、チンと12階に着いて、
じゃね、と別れようとしたところ、
閉まりかけたドアに手をやったおばちゃんねえちゃん、
ねえ、ちょっと寄っていかない?と。
その無茶苦茶な部屋、見せてあげる。

でも犬がいるぜ、と俺。

いいのよ、とおばさんねえちゃん。
何したってあたしが掃除することになるんだから。
ねえ、おいでよ、凄いんだよ、と手を引っ張られて、
ん?なんだなんだ、と首を傾げたブッチ。
でもなんか面白そうだな、と途端に目を輝かせて、
そんなおばさんねえちゃんの後を嬉々としてついていく。

あの、でもなんか悪いよ、留守中にそんな。
なにいってんのよ、とおばさんねえちゃん。
いいのよ、どうせ、全部あたしがやらされるんだからさ。

と言うわけでお邪魔したその部屋。
ドアを開けたとたんにむっとするアルコール臭。

インテリアだけはまるでどこぞのモデルルームのような配置ながら、
確かにそう、生活感というか、まさにめちゃくちゃである。
ねえ、凄いでしょ、と笑うメイドさん。

ドアのノブにはブラジャーがひっかかり、
脱ぎ捨てた服が玄関から床から、キッチンにまで散乱している。
あ、そこ気をつけて、という場所には、割れたワイングラスが散乱。

最初に通されたリビング。
つぶされた缶ビールの空き缶から床を流れたビール。
ソファの上に汚れた皿が並んでいて、なにをどうしたものか、
ページの無茶苦茶になった本からがそこかしこに飛び回り、
スパゲティの山がべったりとソファーの背に垂れ下がっていたり。

たしかにこれ、わざと滅茶苦茶にしているとしか思えない。

ねえ、こっちこっち、と呼ばれて寝室に入ってみれば、
おお、これか、と。

めちゃくちゃに乱れた紫色のシーツの上には、
ワインのボトルやら、食いかけの皿、やらに混じって、
外人がよく使うタイプの金色ロケット型のバイブレーター。
冗談で買ったとしか思えないど派手過ぎる下着の山。
息のつまるような香水の匂いの中から、
むむむ、これ明らかに糞尿臭。
とそして、ベッドサイドのテーブルの上には、
おっとやったね、吸い残したコークの山。

ねえ、これやってみる?とおねえさん。
コケイン?
そうそう、とにやにやと笑ってはいたずらげに頷いている。
コークかあ、久しくやってねえな、と。

としたところ、あれ、ブー君の姿が見えない。
まさか変なところで妙なもの食ってたりしないだろうな、
とリビングに見に行けば、この散乱した部屋の中、
完全に途方にくれた表情で、
唯一散乱物のない窓際に身を縮めながら、
ねえ、もう帰ろうよ、と困惑げ。

まったくな、同じアパートに住んでいながら、
いろいろな生活をしている人々がいるものだ、
と、改めて窓からの風景。
やはり部屋が違うだけでその光景がまったく違う。
へえ、セントラルパークの見える部屋なんてあったのか。

と、奥の寝室から、ふんふん、とコケインを吸い込む音。
くはああ、ズトラーセビー、とかなんとか、ロシア語で呻いては、
最高~、とはしゃぐねえちゃんの声。
ねえねえ、これ凄いわよ、物凄くピュア。ねえねえ、やってみない?

でもなあ、この求職中にコケインやって、
せっかく仕事みつかってもドラッグテストでひっかかっちゃあなあ、
と苦笑い。

そんな俺の顔色を伺いながら、ねえ、もう帰ろうよ、とせかすブッチ。
お腹すいたよ、もう帰ろうよ。

とそんな中、ねえ、と呼ばれて振り返れば、
おっと、そのおばさんねえちゃん、
いつのまにか脱ぎ捨てた仕事用のメイド服。
その下にはなんと、先の寝室のベッドの上に散乱していた、
あの冗談なようなど派手な下着。
寝室のドアに身をもたげながら、
ふっふっふ、と意味ありげな笑いを漏らしながら吸血鬼のような赤い目を泳がせている。

ちゅららら、と鼻歌を歌いながら、髪をかき上げては、
むき出しの太ももを揺らせて、うっふん、とポーズ。

どう、あたし、むかしロシアでモデルやってたのよ、とお尻をくねらせながら、
ねえ、こっちにこない?と甘い声。

このひと、完全にぶっ飛んでる・・・

まるでどこぞの安いエッチビデオそのままに、
黒地のレースの前に大きな赤いバラのパンツ、
ふらふらと身体を揺らしながら脱ぎ始めて、

ねえ、あたしの子猫ちゃん、食べたい?とかなんとか。

おいで、いい思いさせて上げるから、とにじり寄ってきたおねえさん、

としたところ、いきなり、ウオンオンオンオン、と火のついたように吼え始めたブッチ。

オンオンオンオン~! そんなねえちゃんの足元に飛びかかっては、身を翻しながら、

曲者、くせもの~!出合え!出合え!と大騒ぎ。

それに呼応するように、アパート中の犬どもがそこかしこの部屋の中から、
オンオンオンオン~!

とそんなときに、開いたままだった玄関のドアの間から、
あの~、と間の抜けた顔を出すメンテナンス係のエドワルド。

どうかしましたか?とのっそりと入ってきて、
再び火のついたようなブッチのオンオン攻撃。
やばい、ブッチ、だめだ、こっち来い、と言ってる傍から、
いまにもエドワルドに襲い掛かろうとしている。

うわ、やばい、と咄嗟にドアの向こうに身を隠しながら、
あの~、と差し入れたその手にはブッチのオレンジ色のピーピー・ボールが握られている。

あの、これが部屋の前に落ちていたから、どうしたのかと思って、
と言ってる傍から、ドアの間に差し入れた足の、
そのズボンの裾に噛み付いて、ガウガウ、と暴れているブッチ。

おいおい、この犬、どうにかしてくれよ、とまじでびびっているエドワルド。

という訳で、暴れるブッチを押さえつけて、
あ、いや、なんでもない、じゃな、と部屋を出たのだが、
その代わりに素早くドアの中に逃げ込んだエドワルド。

あ、これこれ、とドアの隙間からボールを差し出しては、
再び飛び掛ろうとするブッチを必死で抑えながら、
おい、早くそのドア閉めろ、と。

という訳で、あのなあ、と改めてブッチ。
お前、ほんと、たとえ相手が誰であろうと、
人を噛んだらその場でアウト。
俺とお前は犯罪者として世界中を逃げ回るよなことになるんだぞ、
とそんな俺に、おい、ボール投げろ、とせがみ始めるブッチ。

お前って奴は本当に・・・

という訳で、せがまれるままに誰もいない廊下でボール遊び。
お前って奴は本当にボール遊びと飯にしか興味がないんだな、
と呆れながら、ふとすると、むむむ!?
なんと部屋の奥から、あられもないアヘアヘ声。

あれまあ、エドワルド、いきなりかよ、と思わずニヤニヤ。

という訳で、来ないエレベーターを待つ間、

グロオオオオオオサビッチ、とかなんという、ロシア語の雄たけびならぬ雌たけびを、
嫌と言うほど聞かされる羽目になったのであった。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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