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ROCKを葬り去る前に 番外編 ~ 「肉の思い出」~そのなな

Posted by 高見鈴虫 on 18.2014 ROCKを葬り去る前に ~ 大人のダイエット奮戦記


という訳で、たまにたまに金が入った時には、
これまで借金の清算を済ませるべき、とは判っていながら、
それを始めるとすぐになくなってしまうのは判っているし、
あるいは多少の金が残ったとしても、
それもどうせ俺よりも貧乏な奴らにたかられて一瞬のうちに掻き消えてしまうのは眼に見えている。

宵越しの金は残さないではないが、あぶく銭はさっさと使ってしまうに限る。
という訳で、たまにたまにまとまった金が入った時には、まずは「肉」であった。

そして「肉」と言えば吉野家の牛丼である。





駅前の中華料理屋であれば料金は二倍近くになるがそれこそスープとご飯のお代わり自由なことは判っている。
あるいはその倍の金が払えれば、焼肉食い放題、なんていう
それこそ神をも恐れぬ肉だけで食い倒れ、なんてことができることも知っている。

がそんなことは一年に一度あるかないか。
屁つまらないバイトの最中に、もう頭の中は牛丼でいっぱいである。
あと3時間。あと2時間。あと1時間であの牛丼大盛り。
思わず生唾がこみ上げてきては頭がぼーっとしてきて、
すでに脳みそどころか身体中は牛丼のことでいっぱいである。
という訳で、金を貰った途端、俺は駆けた。
駆けながら金を数え、もし足りなかったりしたらそのまま駆け戻って飛び蹴りをくれてやるのだが、
しかし金を貰ったとたん、それはまるで尻に火がついたように、
駅前のあの吉野家の牛丼に飛び込む訳だ。

牛丼大盛り!くわあああ、やった、と思う。この一言、この一言が言いたかった!

がそんな思いまでしてようやく手にした牛丼大盛り。
だがそれが手元にあるのはつい3分ばかりの間。
一瞬のうちに掻き消えてしまい、
後に残るのは中途半端は満腹感とそして虚しさ、
そして一日の労力をこんなもののために費やしてしまった自分自身への嫌悪感。

ああ、もし300円もあるのなら、もう少し我慢をして、駅前のスーパーでキャベツとたまねぎと豚肉と荏原焼肉のたれを買って、
そんでミツルの家で飯を炊いて食べたほうがよかったかな、な訳なのである。

が、しかし、実はそのミツルである。

ミツルには最近女が出来たのだ。

あのいつもの甘ったれた顔で、うちに炊飯器があるんだけど、お米の炊き方判らないから教えてくんない?
なんて誘いをかけて、ふんふんとやってきたおんなのこ、
台所で米を研いでるところを抱きすくめて、そのまま押し倒してキッチンの床でちょめちょめ、
なんてぐあいにこましたんだろうが、
その程度のことで騙される女、
しかもミツル程度に騙されるおんなだ。どうせろくなもんではないのは判っているのだが、
だがそう、問題は女ではない。
つまりそこにある炊飯器である。
元はと言えばあそこにある米は俺も金を出している。
それはもうなくなった、と言われれば元も子もないが、
とりあえず俺はあの炊飯器と米に投資している訳だ。
たとえ女ができたなんて理由で部屋のドアに鍵をかけられたとしても、
投資は投資として取り戻さなくてはいけない。
そう、そこは心を鬼にして、おまんこはあとにして俺達飯だけでも食わせろ、
とびしっと言ってやるのが筋。
あるいはもしかしたら、そんな垢抜けない女であればもしか料理が得意だったりして、
したらもしかするとその彼女の手料理なんてものをちゃっかり頂くチャンスも出てくるわけなのだが・・
そうミツルは電話を取らないのである。
ドアを叩いてみても返事もない。
中に人がいるのはわかっている。
たぶん毛布の中でくすくす笑ってたりするのだろう。
がしかし、俺は別にミツルに会いに来たわけではないのだ。
ただただ炊飯器とその中にはいっているご飯にありつきたいだけなのだ。

つくづく男の友情とははかないものだ、と思いながら、
くっそお、この牛丼の汁だけでもあれば、冷や飯にぶっかけてあと二三杯は飯が食えたのに・・
まあ飯さえあれば、の話なのだが。。

こんなそんなの吉野家の牛丼。
俺はいまでも吉野家と聞くだけであの頃の荒んだ気持ちをまざまざと思い出す。

サッポロ一番とうまかっちゃんとそして牛丼。
もしももしも、今後、もしかしてまともな暮らしができるようになるようなことがあれば、
俺は死んでもインスタントラーメンと牛丼だけは食べねえぞ、と心に誓っていたのも事実である。

そんなこんなで、俺は結局、牛丼に生卵をかけることはなかったのである。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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