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ROCKを葬り去る前に 番外編 ~ 「肉の思い出」~そのはち

Posted by 高見鈴虫 on 19.2014 ROCKを葬り去る前に ~ 大人のダイエット奮戦記

牛丼ばかりをありがたがりながら、日々の暮らしといえば相変わらず食うや食わず。
たまに金が入っても、金を貰ったそばから借金の清算に一瞬のうちに掻き消えてしまう。
頼む、頼むから千円だけでも、と頼み込んで、
その金でようやく牛丼にありつける、とまあそんな暮らしであった訳だが、
そんな暮らしの中でも、たまに、ごくたまに、
人に知られぬところでいきなりまとまった金が入ってしまうことがあったりもする。




バイト先であったチンピラから頼まれて女の送り迎えを代行したり、
あるいは特攻服に着替えて宣伝カーの周りで顎を上げて立っていたり、
マンションの前で立ってるだけ、なんてだけで5万円貰ったこともある。

その手の仕事は、予想外に額が良い。
しかも困りに困りきったところで突然転がり込んでくるまさにラッキーショット。
その金がそれほど品行方正なタイプの金でないことは重々承知していたが背に腹は変えられず。
聞かないに越したこともない訳で、
昔のチンピラ仲間からそんな声がかかるたびに何も聞かずなにも言わずにほいほいと引き受けていた。

という訳で、その日の仕事は、ただ部屋にいるだけ。
恵比寿界隈の駅前近くのマンションの空き室で、どれだけ電話が鳴ってもどれだけドアを叩かれても決して応えないこと。
たまに俺が行くがそのときには事前に俺がこの電話、携帯を鳴らすからその時は開けろ。
それまではなにやっててもいいから。

という訳で、マンションの空き室に一人。
当時最新鋭ディバイスであったまるで石器、とうよりも、戦争映画のメイデイ~メイデイ~のような携帯電話、
そんな高級品と一緒にいるというがちょっとおちつかなっかったのだが、
部屋に着いたときから黒電話は鳴り続け。
ドアを叩くどころか靴で蹴りつけてバットで叩いて。明らかにその筋のような奴らが雄たけびを上げていた、らしい。
俺はただいつものようにWALKMANでストーンズを聞いていただけ。外の騒ぎはなにも聞こえず。

3時を過ぎて間の抜けた時間にいきなり携帯がプルプル。
居眠りをしてたところで危うく取り損ねるところだったのだが、5分後にドアの前で俺が合図したらすぐに開けろ、ってな話。
で、改めてヘッドフォンを外してみれば、ドアはがんがん電話はじゃんじゃん。窓の外には右翼の宣伝カーまで来ている。

なんだこの騒ぎは、と思わずムカついたが、またヘッドフォンをかけてしまえば同じこと。外の騒ぎなど知ったことではない。

という訳で、おい、開けろ、と奴の声。
開けてみればドアの向こうにはそれこそ、廊下で押し蔵饅頭でもしているのか、というぐらいに黒山の人だかり。
で、もみくちゃになりながら滑り込んできた奴。
一緒にどこから連れてきたのかこれ以上なく惨めったらしい中年のおっさんがニューヨークヤンキーズの帽子を被ってプルプルと震えているその耳元で、
いいか、俺たちの言ってることを聞いていれば悪いようにはさせない、
とかなんとかもっともらしいことを言っているが、
おっさん、そういうそいつはもと小平エンペラーの三下やってたクズ雄君で、
決まっているのは見掛けだけ。
後輩のオンナに手をだして〆られたときには年下の奴らの前で泣きながら土下座したようなチンカスなんだぜ、
とは言わず、なんとなくその場の雰囲気で、そうそう、とサングラスのうえから笑いかけてやる。

じゃな、あとはこっちでやっとくから、はい、これ、と渡された封筒。
中を覗いてみれば、なんと5万円。
おおおおお、いつもいつもお世話になります、と思わず頭を下げそうになって、
うっしゃあ、その乗りでそのドアの前の奴らぶっちぎってくれ、といわれて、うっしゃあ、とドアの外へ。

いきなり襲い掛かられ揉みくちゃ。
マイクを向けられて、あなたは誰ですか、とやられた日には思わず自分のバンドの名前を連呼しそうになったのだが、
サングラスの中から、んだこら、と顎をしゃくっただけですっと静かになってくれた。

このヤクザもんが、と罵られたが、俺はヤクザでもなんでもないので気にもしない。
金歯ぎらぎらのおばはんに詰め寄られ、あんたそんなことやってて恥ずかしくないの?
と怒鳴られたがなにを言ってるのかさっぱり判らず。
この銀蝿野郎と怒鳴られたときにだけは思わずぶちきれて、
んだ、おい、もう一回言ってみろ。これはシド・ヴィシャスだ。アホ!糞銀蝿なんか一緒にすんなボケ!

で、そんな奴らを蹴散らして表に出てみれば、
みっともない特攻服を着た時代錯誤の大バカ連中が、
どうもっす、お疲れさまっす、とお辞儀をして返す。

まあなんだかよくわからねえが、族だった時代に後輩から頭下げられたりなんてときのことを思い出して、
よお、ご苦労さん、よろしくよろしく、と返事をして、そのまま午後の街へ。
耳にヘッドフォン。サングラスをレイバンからキャッツアイに取り替えて変身完了。

そしてポケットにつっこんだ封筒の中の5万円をもう一度確かめて、
思わずゲット・ヤーヤーヤーズ・アウト!してしまった訳だ。

ちゅうわけで金が入ったら牛丼である。
がしかし、そう今回は額が違う。まさに0がひとつ多いのだ。
これだからヤクザや右翼とは仲良くつきあっているに越したことはない。

昔のチンピラ時代の苦労がいまこんなところで報われているというのも因果な話ではあるが、
とりあえず現実的な問題として内ポケットの中の5万円。
その感触だけでも思わず身体中がぬくぬくしてくる。

ってことはだ、と思わず考える。
ってことは、もしかして、俺はお金持ち、という奴なのではないだろうか~!?
そう、お金持ちである俺はもう牛丼など食べないのである。
お金持ちである以上、そんな俺の食べるものと言えば、まさに「トンカツ」である。

もちろん、トンカツよりはカツどんの方がおいしい。
がしかし、カツどんではご飯のお替わりもできずキャベツの山盛りもついて来ない。
なのでまさにトンカツだ。
まずは千切りキャベツにマヨネーズとソースをかけてそれだけで飯を一杯。
で、あの油のぴちぴちした奴を細く細く、
千切りどころか糸のように細く切って、
トンカツ一切れに対して飯二口。
そして味噌汁一口。キャベツで口直し。
そう、そうやってあと飯を3杯でも食べれば、
明日の夜どころか明後日ぐらいまでもつだろう。
そうすれば金曜日。美香がやってくればまたケンタを奢ってもらえるかもしれないし、
マリに会えればそれこそファミレスでえびピラフにコーヒー飲み放題。

という訳で、ヤー公の小間使いでせしめた5万円。

まさにそれだけで世界が虹色のシャワーに包まれている。
トンカツだ、トンカツだ、トンカツ食べるぞ、腹いっぱい食べるぞ!

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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