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YEY! POWER TO THE PEOPLE!

Posted by 高見鈴虫 on 17.2015 犬の事情
アパートのエントランスを出た途端、
いきなり棍棒でぶん殴られるような凄まじい寒さ。

風は西から。ハドソン川沿いのリバーサイド・パークの方向から、
まさに、息もつけないほどの氷の突風が吹きすさんでいる。

思わず風に背を向けて、
さあ、こっちに行こう、と東、つまりはセントラルパークの方向を目指すのだが、

いや、そっちにはいかない、と踏ん張る犬。



えええ、なんでだよ、と悲鳴を上げる俺。

いやだよ、こんな、風の中。こっち、こっちに行けば風はないから、とそのまま東に向けて歩き始めるのだが、

いや、行かない、そっちは行かない、とふんばり続ける我が駄犬。

あのなあ、この季節、川沿いの公園はまさに日夜氷の暴風状態。

その体感温度は、セントラルパークに比べて少なくとも10度は違う。

だから行かない、と俺。絶対に行かない、とがんばっては、犬を残したまま、綱を離して勝手に歩き始める。

ええええ、と道の真ん中に座り込んだ犬。

とぼとぼと肩を落として着いて来るのは判るのだが、ちょっとでも目が会ったとたんに座り込んで、やっぱりそっちには行かない、とがんばり始める。

そんな中、教会の前のスープキッチンの行列。

寒空の下、背中を丸めて食事の配給を待つ人々が、そんな俺たちの綱引きをニヤニヤと笑いながら見守っている。

がんばれ、犬、と人々。

暴君の圧政に負けるな!

ハング・オン ドギィ、ハング・オン!

がんばれ、ストライキだ、がんばり続けろ!

人の気も知らないで、と思った矢先、そんな声援に元気付けられたかのように、
スープキッチンの人々のその真ん中にどかりと腰を下ろして、
えーい、もうここからは一歩も引かないぞ、と強行姿勢。

あのなあ、と俺。

しばしのにらみ合い。

いやだ、そっちは行かない、と強情な面でがんばり続ける犬。
あのなあ、と思わず。あのなあ、そっち寒くて行きたくないんだよ、と思わず泣き声の俺。
がんばれ、犬、負けるな、と無責任な歓声を上げる人々。
あのなあ、とほとほと弱りきった俺。
いやだ、そっちは行かない、となおもがんばり続ける犬。
ハングオン・ベイビ、ハングオン!!

うーん、と俺。
こんなところに座り込まれてまた風邪でも引かれてはことだ。
という訳で、根負けした。

ああ、判ったよ、と振り返った途端、いきなり顔に向けて吹き付けてきた氷の突風。

思わずぬおおおおっと雄たけび。

そんな俺を尻目に、よし、そうこなくっちゃ、とすたすたと歩き始める犬。

いぇい!と人々の喝采。

よくやった!がんばったな、勝利勝利、大勝利だ!

あのなあ、と俺。

あんたたちだって、みんな東向いてるじゃねえか。ちょっとは西を向いてみろ、ほら、このぬおおおおおおってな風だぞ。
ほら見ろ、顔中がガビガビで、息もできねえじゃねえか、くそったれ。

と毒づく俺の後ろから、YEY! POWER TO THE PEOPLE!と拳を振り上げる人々。

どいつもこいつも勝手にしろ、と思ったわけだ。






プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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