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おじさん怖かったの~小話集 そのじゅうろく 「あんたの犬をくれない?」

Posted by 高見鈴虫 on 19.2015 大人の語る怖い話


これは実は、まじで洒落にならない話。

またまた深夜のセントラルパークを犬と散歩。
氷点下二〇度の極寒の公園。
積もった雪から枯れた街路樹からがかちんこちんに氷つき、
見渡す限りのガラスの王国を独り占め気分。

さんざんボール遊びをしたその帰り、
ちょっと寄り道をして雪に埋もれた児童公園の脇を通りかかったところ、
ふと見れば、ブランコに人の姿がある。


でその人というのが、黒人の男の子がひとり。

道にでも迷ったのか、という疑問は、その格好を見て掻き消えた。
半袖のちょっと大きめのポロシャツ。白地に赤と緑の縞模様。
で、ひざ下までの半ズボンに、ちょっと大き過ぎるバスケットボールシューズ。

そんな出で立ちの黒人の男の子が、
氷点下20度、すべてが凍りついた深夜の公園のブランコに、
ぽつんとひとりで座っていた訳だ。

なんじゃあれは、と思う間もなく、

コレワ・コノヨノ・モノ・デハ・ナイ、

と瞬時に判断。

でちょっと早足にその場を通り過ぎようとしたところ、
寄りによって犬が着いてこない。

見ればそのブランコを通り過ぎる手前で、

じっとその黒人の子供の姿を凝視したまま氷ついているようだ。

おい、おいで、早く、とちょっと焦って呼ぶのだが、

え?え?え?と狼狽えている犬。

だから早く来いって、そんなものに構うな、早く来い、

みるみると声が裏がって、ほとんど悲鳴に近い。

思わず犬はそのままにして足早に歩き始めた途端、

なにかが背中にずーんと伸し掛かってきた。

なんだこりゃ、とは思えど、そのずしーんとした重み、
ますますのしかかってきて、思わず足がふらつくぐらい。

なんだなんだ、なんだこりゃ、と。

としたところ、その耳元で、

CAN I HAVE YOUR DOG?

なぬ? あんたの犬をくれない?だって?

そんな輩から、犬をなでていい?やら、一緒に遊んでいい?

と言われても困るのだが、

いきなり、犬をちょうだい、と来られても、ばかそんなこと、できる訳ねえじゃねえか。

としたところ、その背中の重みが、ずんずんと、まさに後ろに引き倒されそうである。

が、しかし、犬がついて来ない。

振り返って、おい、早く来い、と呼ぶのだが、

そんな俺の姿を、まさに目を見開いては恐怖に慄いて近づいて来ない。

バカ、早く、だから、逃げるんだよ!

すでに俺も断末魔、背中の重みを引きずるように、
もはや、早歩きというよりは、全力疾走の雪道ダッシュ。
がしかし、この凍りついた道、積もった雪が絡みついて身体が動かず。
とそうこうするうちに、背中の重みが、肩からそして首元に重点が移り、
伸し掛かってくるガキの腕が、まさに首にかかってきている。

くうう、息ができねえ。

思わず振り落とそうとするが、雪にはまって身動きが取れず、
下手をすればそのまま足を滑らせて倒れそうになる。

てめえ、何しやがんだよ、見えない姿に肘鉄をくれてパンチを見舞い、
とやっている俺を、遥か彼方から、凍りついて見つめている犬。

おい、おまえには見えるのか?こいつ、この背中に乗ったやつ、これなんだよ。

とそうこうするうちにやっとのことで雪原を抜けて辿り着いた遊歩道。

一応ここには除雪の後で、この道を進んでいけば人通りにたどり着く筈。

この野郎、しつけえぞ、離しやがれ、と身体を振りながら、
ほとんどパニック状態で辿り着いた公園の出口。
その途端、ふっと重みが消え、目の前を走り抜けていくイエローキャブのヘッドライトに、
思わずへなへなと腰が抜ける思いがした。

がしかし、ふと気づけば、げげげ、犬がいない!

え?犬?やばい、犬がやられた、と再び雪の公園に飛び込む。

おいおい、これでもしかして、

あのブランコのところに犬がいた、やら、そこで冷たくなっていました、やら、
悪い想像がわっと広がって、大パニック状態。

馬鹿野郎、洒落にならねえぞ、と思わず動悸がせり上がり、

てめえ、化け物、ぶち殺す、と走りこんだその目の前に、

いきなり必死の形相で飛び込んで来た犬。

なんだよおまえ、どこに行ってたんだよ!
怖かった怖かった、とさかんに身体をすり寄せてきて、
思わず抱きしめて、涙うるうる。
そんな犬もまさにパニック状態でしっぽが丸まりまくり。
身体中をプルプルと震えがいつまでも収まらない。

という訳で、完全に腰の抜けた犬を抱え上げては、ようやく辿り着いた交差点。

街の灯りがこれほど眩しく見えたこともない。

いやあ、危なかったな、で、あれ一体なんだったんだ?

がそういう今も、なんとなく肩がそして首に鈍い筋肉痛と、
そして全身にぐっしょりとかいた汗。

げげげげ、なんか、ちょっと妙な体験をさせられてしまったぞ。

という訳で、うちの犬の黒人嫌いはあの時から始まった、と俺は思っている訳だ。

うーん、いまだに俺も、あの時のことを思うと背中が重くなる気がするな。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

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無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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