Loading…

おじさん怖かったの~小話集 そのじゅうはち 「シャブ中のパンパン」

Posted by 高見鈴虫 on 19.2015 大人の語る怖い話


かみさんと久々に日本に里帰りした際、
ジャパンレールパスで気ままに旅をしよう、
なんてことで、
またいつもの奴でろくにホテルの予約もなしでふらっと列車に乗り込んだのだが、
夜も更けてから見知らぬ駅に着いてはみたものの、
ちょうど紅葉の行楽シーズンとかでまともなホテルはどこも満室。
まあそうなれば連れ込みでもラブホでもなんでもいいや、
とそれらしき方向に向けて歩いていたら、
なんとなくビジネス旅館風な建物が目についた。



あの、予約もないんですが、泊めて貰える?
と聞いてみれば、うーん、と微妙な表情の仲居さんたち。

いやあ、ニューヨークから来たんですが、
シーズン中とか知らなくて、で、どこも予約が一杯で、と事情を話すと、
まあそういうことなら、と泊めて貰えることになった。

時間が時間なだけに夕食はつかないが、温泉風の大浴場があって、
朝食は一階の大広間で、なんて説明を聞いて、
その日は疲れていたので消灯寸前の風呂に飛び込んでからは、
部屋に戻ってすぐに寝てしまった。

で、何時ぐらいなのか、妙に寝苦しくて目が覚めたら、
なんと枕元、というか、俺の腹の上に、ひどく痩せこけた中年の女が座っていた。

寝ぼけていたのもあるのだが、夜中に起こされたのにむかついて、
てめえ、なに人の上に勝手に乗っていやがるんだよ、と凄むと、
女は尚も恨めしげに睨みつけて来る。

どうやらこの部屋で情夫に絞め殺されたシャブ中のパンパンだったらしい、
なんてことが頭に浮かんだのだが、
そういやあこういう女、タイとかでよく見たよな、とか思って、
あんなあ、良い年こいてシャブなんか食ってるんじゃねえよ、ボケが、
もう一度絞め殺すぞ、と思わず張り倒しそうになったら、
そのまますっと窓際の重ねられた座布団のところに移動。

尚もぶつぶつとなにか不満げに呟いている素振り。
なのなあ、なにが言いたいのか知ったことじゃねえし知りたくもねえ。
が、なにがあったにしてもそれはあんたの自己責任。
どんな事情があれ、あんたはただのシャブに食われた馬鹿なパンパン。
それ以外に何者でもなく、同情の余地も悲劇性もなにもない。
つまらねえから早く失せろ、バカ。

夜中に起こされたんで物凄く腹が立っていたせいで、
枕を投げつけて、そのまま背中を向けて眠ってしまった。

翌朝、朝飯を食いながら、
なんか昨日の夜、変なの出なかったか?と聞けば、
かみさんは、え?なにが?とまったくそっけない。
で、お茶を汲みに来たおばちゃんに、
どうでも良いけど、なんか部屋に変なの出たよ、
と言ったところ、ああ、はいはい、と微妙な表情。

なんかシャブ中のパンパンみたいな、
腹たったから怒鳴りつけてやったけど、
といえば、あれまあ、そうですかあ、とまったく相手にされず。

あんた、そんなこと人に言うと変な人だと思われるよ、
とかみさんに窘められて、なんだよ~、とその件は打ち止めにして、
で、このあとどうする、なんて話でそのまま飯を食い終わった。

で、チェックアウトの時になって、和服をばりっと着こなした女将さん、
みたいな人が出てきて、あの~、えろうご迷惑おかけしましたん、
あの、で、お詫びという訳で、となんと宿泊代がただ。

げええ、なんで?と驚くかみさん。
な?だろ?あれやっぱ本物だよ。シャブ中のパンパン、ね?おばさん、そうですよね~、
と言えば、
ああ、どうも、えろう迷惑をかけて、すんまへんなあ、とたびたびに頭を下げられたのだが、
玄関を出たところで、あの、ちょいとお待ちくださいと呼び止められて、
いきなり頭から塩をかけられた。

おばちゃん、人をナメクジだとでもおもうとるんか、と言えば、
はいはい、これで大丈夫どすえ~、とかなんとか言って笑顔で送り出された。

ねえ、もしかして、あなたが変なことをいうから、因縁でもつけられてるって思ったんじゃない?
と気にするかみさんに、
そんな筈あるかよ、な、あの幽霊、やっぱ本物だろうが、どうだ、とすっかり得意になっていた。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム