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雪原の青いブーツ争奪戦

Posted by 高見鈴虫 on 22.2015 犬の事情
そろそろ3月も近い、というのにニューヨークはまたまたの大雪である。

いい加減にうんざりではあるのだが、この犬という輩、
やはり新雪が積もるとなると居ても立ってもいれないらしく、
くそったれ、まだ雪降ってるけどお散歩行くか?
と言ったとたんに大ハッスル。

がしかしながらこの雪。
曲者は、と言えば、滑り止めに舗道にぶち撒かれる塩である。




改めてこの塩。

PAWの塩焼けは勿論のこと、洗い残した手のひらの塩が、
夜になってヒリヒリと痛み出し、それをぺろぺろと舐めた犬は、
決まってひどい下痢を起こす。

我が家もそれを知らないうちは、冬になると繰り返される酷い下痢に大慌て、
その度に獣医に飛び込んでは、やれ緊急治療だ、点滴だ、血液検査だ、とやっていたのだが、
なんてことはない、塩焼け、と判明しては、まんまと獣医の策略に引っかかっただけ、
と気付かされた訳だ。

という訳で、改めてこの冬の難敵たる塩焼け。

そこかしこで、ケンケンをしては、痛い痛い。
雪の中に座り込んでは、もう歩けない、と泣き声を上げ、
あるいは、舗道のそこら中に痛々しい下痢便の後。

塩焼けの知識が無かったり、あるいは用意を怠った飼い主たちは、
そんな受難の犬達を、その大小に関わらず、
えいやあと腕に抱えては引き返すことになる訳で、
まったくもってこの塩、本当にどうにかして欲しいのではあるのだが、
かと言って塩を撒かずに転倒者が続出して救急車が大わらわ、
という状況も避けねばならず、
やはり行政側にしても、人かイヌか、といえば、
そこは人間様の事情を優先せざるを得ない、
というのも判らないではないのだが・・・

という訳で、対策である。

犬用のブーツというのも売ってはいるのだが、
やはりどれをとっても一長一短というか、ぶっちゃけうちの犬はあれを嫌がって履いてはくれず、
ともするといまにも足首をひねりそうで危なっかしくて見ていられない。
お散歩の前に入念にワックスを塗りこんだり、といろいろな方法はあるのだが、
やはり一番のプロテクションと言えば、例の風船型の使い捨てブーツ。
履かせるのも脱がせるの大変であるのだが、
まあこれを履かせておけばとりあえずは塩焼けは逃れられる訳で、
散歩のたびに嫌がる犬を抑えつけてはこのブーツを履かせて出発ということになる。

でこの使い捨てブーツ。風船型のゴム製。
使い捨てというだけあって当然の事ながら一度履くとすぐに穴が開いてしまう訳なのだが、
その気になるお値段はというと、12足入りで20ドル。
週に一度お散歩に出ます、というわけにも行かず、
うちの犬は少なくとも毎日3回は必ずこれでもか、とお散歩が必要な訳で、
それを考えると、一日20ドルの出費は割りとバカにならない。

本来であれば、塩の撒かれた舗道を抜けて、公園に着いたところでいちいち脱がす、
で、帰りにまた履かせる、とすれば、ブーツの損傷はかなり防ぐことができるのだが、
この雪の中でかじかんだ手で、暴れる犬を抑えつけては4つの手足にブーツを脱がせて履かせて、
というのはまさに至難の技。
嫌がっては逃げまわる犬を相手に、本当にほとほと涙が出てくるぐらいに難儀をさせられることになる。

という訳でそう、この使い捨て風船ブーツ。なかなか貴重な訳だ。

傷んでいるのは判るのだが、ひどく穴が開いていたり破けたりしていなければ、
なんとか二度三度使いたいのは山々。
という訳で、お散歩の度によく洗っては乾かして再利用。
まるでコンドームをそのたびに洗って使っているような気にもなるのだが、
まあ背に腹は変えられず。

でこの風船型ブーツ。
散歩道を歩いていると、ちょくちょくと脱げた一足が道端に落ちていることがままある。

つまり、犬が歩いているうちに脱げてしまう訳なのだが、実はこの拾ったブーツが割りと嬉しかったりする。

我が家の犬は中型犬で、そのブーツの色は青。

落ちているのを見つける度に、穴がないか確かめては、しめしめと持ち帰って洗って再利用となる訳で、
これがなかなか嬉しかったりもするのである。

とそんなこんなで、いつものように雪のリバーサイド・パークをザクザクとお散歩している中、
ふと見れば、雪原の真ん中にまさにく青く光る落し物ブーツらしきものの影。

おっと、いただき、とばかりに近づこうとするのだが、なにしろ固まった雪がつるつるとすべっては思うようにもいかず。

とふと見れば、その反対側からも、似たような大きさの、黒いラブラドルを連れたおとうさん。

まさにその青い輝きに向けてザクザクと歩いている訳で、むむむ、やはりあやつもこの落し物ブーツを狙っていると見た。

へい、と犬を背中を叩いて、あの青いやつ、取ってこい、と命じる飼い主。

むむむ、先に見つけたのは俺だぞ、ぶっち、負けるな、あの青いやつ取ってこい、と言うのだが、
え?なに、なんのこと?と首を傾げるばかり。

だから、ほら、あそこの青いやつ、判るだろ、おまえの履いているブーツ。あれを取ってこい。

がしかし、え?なになに?わかんないわかんない、と一向に事情を察してくれない。

だからあの青いやつだってば、わからない奴だな。

と見れば、あちらがわの黒いラブラドルとその飼い主。

おい、ラッキー、だから、あのブルーの奴、あのブーツを拾って来いってば、なんで判らないんだ、
おまえ、それでも猟犬か、まったく飯ばかりガツガツ食うだけでさっぱり役に立たないな、
と癇癪を起こしている。

うーん、こうなれば、犬など便りにしていられるか、とやにわに雪の雪原をザクザク。
足が滑ってはよろめきながらも、負けてなるものか、と急げ急げと大競争。

という訳で、先に辿り着いたのは、実はラブラドール組。

くっそう、負けたか、悔しい、とやっている俺を待ちながら、へっへっへ、と笑っているその飼い主。

でその手にぶら下がっている物は、と言えば、うんこ袋?

そう、うんこ袋、しかも中身入りのものが、こんなところに放置されていただけ、の話らしい。

ちっちっち、と舌を鳴らすラブラドールの飼い主。

見ろよ、こんなところにゴミを落としちゃいけないよな、と苦笑い。

ああ、そう、俺もそう思って、拾いに来たんだがな、と俺。

だったらほら、と差し出されて、さあ、これをゴミ箱に捨てて来てください、とニヤニヤ笑い。

いや、まあ、その仕事はあなたに任せよう、と撒けずにニヤニヤ笑い。

とそんな俺の周りを、ラブラドールと我がブッチくん。ねえ、ボール投げてよ、と始めた途端に大ハッスルで追いかけっこを始める訳で、そのはしゃぎっぷりと言ったらない。

いやあ、まだまだ寒いな。

ああ、あと二週間はこんな感じだろう。

二週間か、と深い深い溜息。

という訳で、いまなお膝の上まで雪の残る雪原をようやく抜けだして、さあ、もうそろそろ帰ろう、とやった時、

げげげ、おまえ、その後ろ足・・・
しっかりと左足のブーツが消え失せている・・おいおい、またかよ・・・

と見れば、あああ、おまえ、とやはりラブラドールの飼い主。

おまえ・・なんで、どこにおいてきた、と見れば、なんとブーツを履いているのは前足の一つだけ。

くううう、と飼い主さん。この被害は甚大とばかりに、再びざくざくと雪原の真ん中に亡くしたブーツを探しに戻っていく訳である。

あいつ、やるなあ、と思わず。

という訳で帰り道。
相変わらず凍りついた舗道には、ヤケクソにぶち撒かれたとしか思えない塩の結晶が、
まさにザラザラと一面を被っては白い塩田のように広がっている訳で。

まあ一足ぐらいなら大丈夫だろう、と思いながら、ふと見ればしっかりとそのブーツを履いていない足をけんけんしている。

あっちゃあ、やっぱりダメか、とはしゃぐ犬をよいしょ~と抱え上げては、
凍った舗道を家路に向かってはよろよろ。

重たい・・おまえ、まじで重すぎる・・・

いやはや本当にこの季節、早く終わってくれないかな、と泣き面ばかりの毎日である。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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