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「パラゴンのちょうちょ~ちょうちょ~」

Posted by 高見鈴虫 on 22.2015 旅の言葉
カルカッタはパラゴンのテラスで、
今日も今日とて朝から徹底的にボンシャンカー。

テラスに並べられたテーブルの上で、
甘い甘いミルクティーを飲みながら、
再現なく周り続けるジョイント・・・・

という訳で、カルカッタはパラゴンに居た間、
果たしてそれがどれくらいの日々であったのか、さえ定かではないのだが、
朝目覚めと同時に酩酊の果てに寝崩れては、夢の中でもぼんしゃんかー、
と徹底的にテラスのテーブルでらりり続けていた。





まあその当時のインドはまさにダウナー天国で、
チャラスと言われたハシシが主流。
パラゴンを出たサダールの角にいつも立っている片目片腕のジョニーに、
サンプルサンプルと言うといつもただで貰えた。

その牛の糞と言われた茶色い欠片。
タバコの中身をほぐした上からライターで炙って、
しみだしてきた油とタバコをまぶしては揉み込んで、
指に着いた匂いを嗅いでは、うーん、いい匂い。
でそれをまたせっせと中を抜かれたタバコのドラムに、
とんとんとん、と葉を詰めて直し、最後はフィルターを抜いて半分に割ってできあがり。

これを際限なく作りながら、
回ってきた水パイプをぽこぽこ言わせながら、
ねえ、これがあるのになんでそんな面倒なことをするの?と聞かれて、
いや、あの外出用に、と言いながら、
作ったそばからすぐに吸ってしまうので一向に残らない。

とそんなときに、
いきなりおひさまの匂いをさせてはサンダルをぺたぺたと響かせて入ってきたケンさん、
おいおい、チミたち、またそんな油臭いものやってぇ、
お腹壊しちゃうよ、とかなんとか言われて出されたのが、
ドライフラワーの山、もしかして牛にでもなって訳?ではもちろんなくて、
それはまさに、両手に抱えるような鞠花の花束。

そのまだ緑色の残った葉っぱ。
香りを吸い込むとぷわーっといい匂いがして、匂いを嗅ぐだけで夢心地。

なあ、どうだ、この香り、良いだろう~。
朝飯食おうと思ったら、そこの裏手で大八車に山のように積んでる人がいてさ、
ちょっとおすそ分けしてもらったそうである。

いままでテーブルを回っていた牛の糞。
それがいきなりこの鞠花の香りの中では
まさに、安物のまがい物。
何が入っているのか判らないようなチープな模造品に早変わり。
それってつまりは、味の素満載、みたいなものだろう。
やっぱり、そう、この純正の鞠花の香り、
まさにこれ、素材の良さを贅沢に味わう、侘び寂びの世界。

腕いっぱいの鞠花の花束。
それをみんなして揉みしだいては、
種取り枝と種取り枝取りのまさに手作業。
楽しいね。本当に楽しいね。いやあ、俺達ってやっぱり農耕民族の子孫なんだね。

ああこの甘い香り、まさに芳醇。
いやあ、渋いよねえ。うん、ほんとに幸せな気分。
まさに味わい深き本物の極み。

とそんな俺たちをテーブルの隅からちと~っと見てたフランス人のジャン。
こいつ英語もろくに喋れないのにいつもこのテーブルに居て、
そして人から回ってくるボンばかりを吸ってはいつ見ても酩酊状態。

おい、なんで今さらそんなものやってるんだ?と不思議そう。
鞠花なんかよりこっち、つまりその樹脂であるチャラスのほうがずっと効きが良いだろうに。
まあ、そう確かにそうなんだけどね、と俺。
でもたまには純正の鞠花。この軽く甘くピュアな味わいを楽しもうとね。
そうそう、侘び寂び。ワビサビ判る?判らねえだろうなあ。

という訳でジャン。
それからはまるでヤケクソになってパイプにこびりついていたチャラスばかりを吸い続けては、

ひとりで、ボンシャンカー、ぼんしゃんかぁ。

ったく、フランス人ってやつは、と呆れて見守る中、
テラスの椅子の上にぐったりと弛緩させた身体をぶら下げるようにしてはピクピクと身体を痙攣させたり。

ああ、ほら、見ろよ、鳥が飛んでるぜ、と空を眺めている。

鳥?そんなもの飛んじゃいないぜ、と俺達。

巻き上がったマリファナ。効き目は弱いがなんといってもこの香り。
この青臭くもしっとりと胸に満ちてくるまさにピュアな味わい。

甘いよねえ。う~ん、まろやか~。まるでとろける見たいだ。

そんな俺達を尻目に、鳥が鳥が、と呟いていたジャン。

いきなりふらり、と立ち上がると、まるで幼稚園のお遊戯のように、
だらしなく広げた両腕で、ちょうちょ~ちょうちょ~とやりながら、

そのまま、俺達の見ている前で、ひょい、とテラスから飛び降りてしまった。

いったいなにが起こったのか判らず、あれえ、と首を傾げる俺たち。

消えた・・消えたぞ、あいつ、とケラケラと笑っている奴もいて、
思わず吊られて、消えた消えた、と。

とするうちに、下の通りで人々の騒ぎ声がする。

で、恐る恐るテラスの端から下を覗いてみれば、
なんと、うず高く積まれた生ごみの山の中に埋まるようにして倒れているジャンの姿。

あれまあ、と目を丸くして、そして再び大笑い。

していたところ、ゴミ集めを生業にするハリジャンの子どもたちがえらい剣幕で怒っている。

ああ判った判った、と重い身体を引きずるようにゆらゆらと通りに出てみれば、
この喧騒、この明るさ、ああ、夜が明けた、なんてバカなことを言ってる奴もいて、
いきなりバッドに入った奴はそのままそそくさとホテルの中に戻ってしまう。

で、それからが大騒ぎ。
パラゴンの守衛のおっさんから始まって、みんなでジャンの救出劇が始まったのだが、
誰も生ごみの山には入りたがらず、かと言って、もしかして死んでいるじゃねえのか?
と思う度に、おい、ジャン、起きろ、おい、ジャン、と上から下から呼び続けてもなんの回答もなし。

まあ、いいんじゃねえのか?
どうせあの二階からこのゴミの山に落ちただけだろ?まさか死んではいないだろうに。

ということで、なんと俺たちはそのまま、ゴミの山に落下したジャンをそのままにして、
再びテラスに戻ってしまったのであったが・・・

暫くしてから別の街に移動した後、ちょうどカルカッタからやってきた旅行者と話をしていたところ、

実はパラゴンのテラスが立ち入り禁止になっちゃって、と言う。

ええ、なんで?今更警察の取り締まりってのもないだろう、と聞けば、人が死んだらしい、という。

あのテラスから落ちたフランス人が死んだ。

ああ、ジャンだ、とすぐに検討が着いたのだが、どうして?だって二階だろ?二階から落ちても誰も死なないぜ。

どうも市の衛生局やらがあの生ごみの山をトラックで運び去ってしまったのを知らず、
またいつものやつで、ちょうちょ~ちょうちょ~と飛び降りてしまったらしい。

いやあ、インドだな、というか、まあそう、誰も彼もが徹底的にらりらりだったからなんだがな。

道端に横たわるジャンの周りを、あのリキシャやら、お茶売りから、物乞いから、牛やら、野良犬やらが行き交うサダールの町並み。

あんなところに倒れていても誰も彼が死んでるなんて思っても見なかっただろうし。
あるいはそのまま、ゴミ拾いに拾われて川にでも捨てられていたのではないだろうか。

と聞いて見れば、やはりそうであったらしい。

つまり、ハエがたかるようになってから、ようやく、こいつ死んでる、と気づかれるまで、
また新たに積り始めた生ごみとともにずっと放置されたままだった、という話。

ああ、そうなんだ、やっぱりあの格好じゃあなあ、行き倒れのサドゥ以外のなにものでもなかった訳で、
とその光景を想像しながら、なんとなく、これぞまさしくDOWN TO EARTHって感じ、
なんて思うと、思わずくすくすと笑ってしまった俺であった。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

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