Loading…

たかが髪切り、されど髪切り

Posted by 高見鈴虫 on 04.2015 ニューヨーク徒然
三月に入ったニューヨーク。

さあそろそろ求人市場も動き始めたかな、
とそろそろ本腰を入れて職探しをせねば。

という訳で、まずは外見である。

半年どころか一年近く、ホームレスと肩を並べての図書館ぐらし。
あるいは、犬と共に起き犬と共に寝る、まさに犬並みの生活、
その間にますます磨きをかけてしまったこの流浪人ルックを、
まずは払拭せねばならぬ。

切迫しているのは髪切りである。







たかが髪切り、されど髪切り。

文明人にとって、なんだかんだ言って髪型は割りと重要である。

それが証拠に、改めて見回せば巷に溢れる中国人の皆様。

最近、ニューヨークでも驚異的な繁殖を続けるこの本土からの中国人の面々。

驚かされるのはその髪型、なのである。

まさに、前髪を斜めにバッツン、あるいは、もはや完全に寝癖のまんま、
そのまんまで、闊歩されるその一団を見るにあたり、
やはりこの方々、同じアジア人としてしかし歴然とするその洗練の違いとは、まさに髪型なのだな、
と思い知る訳だ。

つまりそう、その髪型は、センス、どころか、いまや民意の問題なのであろうか。

と、改めて見るこの己の姿。

まさにホームレスである。

かなりやばいところまで行っている。
行ってはいるのだが、しかし、かと言っていきなりの中国人、というのは、
やはりどうしても、こだわりがある。

中国人よりもホームレスの方がまし、という訳なのか?
と聞かれれば、うーん、と悩んで、
こと、髪型に関する限りはイエス、である。

あんな寝起きの髪型で闊歩されるぐらいなら、
まだ、ホームレスのジャンキーロッカーの方が救いがある、というものだ。

が果たして、そうそう、そうなんだよ。

俺はそんなことを言っている場合ではない。

髪が切りたいか切りたくないか、の問題、
あるいは、
どんな自分になりたいのか、など、そんな次元の話でもない。

俺はただたんに、正常な社会復帰の為に、
正常な社会人としてふさわしい髪型にせねばならない、
その必要に刈られて、ただそれだけなのだ。











改めて、たかが髪切り、されど髪切り。

俺はすでに自身の髪型に好き嫌いを言える状態にはない。

つむじと生え際がかなり心細くなり、それは既に隠し果せる状態はかなり過ぎている。

その状態を踏まえた上で、なるべく普通の髪型、にして欲しい、ただそれだけなのである。

がしかし、この普通の髪型、というが実に難しいことは周知の事実。

今更青々借り上げ七三分けも、ひとつの個性とみなされる時代である。

ロッカー出身の俺としては、正直なところ短髪系はあまり好きではない。

どうしても短髪にせねばならない、ってな時に思い浮かぶのは、QUADROPHENIA。

このMODS族こそが俺の短髪の基本である訳なのだが、

ここまで来るとそうそうとのんきなことも言っていられない。

そう、つまりは、いじる、状態をぶっちぎって進行するこの頭髪の離脱問題である。

ここまできたらいっそのこと坊主、あるいは、スキンヘッドにしてしまいたいのだが、
前述したとおり、俺は頭蓋骨に問題を持つ男である。

つまり、頭蓋骨の形が凸凹すぎる、のである。
この凸凹頭さえもが個性、とみなされる事態もあるのだろうか、とは思うが、
それは、己のウィークポイントを敢えて強調しているだけ、に過ぎず、
それさえも個性というにはちょっとグロテスク過ぎる、という次元である。

よって、悲しいことに、俺には坊主頭、あるいは、スキンヘッドという選択はない。

しかも近年のアメリカにおけるこの短髪ブームである。

もともとアメリカというのはこう見えてなにかとコンサバなところがあって、
こと髪型というと、これはもう、当然のことながら短髪が当然、である訳なのだが、
よって、そこいらにある、スーパーカット、やら、街角のバーバーショップなどに座ると、
問答無用にバリカンを持ちだして、あああ、と声を上げるまでもなくいきなりの逆モヒカン。
お前、これ、どうするつもりだ、と文句を言う間も与えず、
ちゃっちゃっちゃとものの五分で兵隊さんの出来上がり。

まあそれも個性ということなのかもしれないが、
いきなり眼前に現出したこの貧相な寿司屋。
おいおい、と呆れるまもなく、はい、20ドル、と手を出される訳で、
つまりはアメリカにおいて、床屋とはそういうものなのである。

そう言えば前年、
思いついて白髪ヒゲを伸ばし始めた、その理由も、
実はこの床屋。
犬の散歩のついでに、ちょっと髪がうざったいな、
と立ち寄った近所の床屋で、
いきなりかつんかつんの寿司屋カットにされてしまったのだ。

まあしかし、どうせ失業者、誰に顔を合わせるわけでもなく、
とは思いながら、しかしあらためてこの貧相な寿司屋。
元ロッカーとしてはどうしてもその美意識にひっかかりがあり、
それだったら、ということで、ヒゲを伸ばすという愚行に向かってしまったわけなのだ。






が、そう、俺の今回の髪切の目的は、まさに職探し。

しかも給料最低でも6桁な訳で、つまりは一応それなりお固い一流企業さん、
でのポジションを探している訳で、
そんなお固い一流企業さんに、まさか遅れてきた新兵くん、のような成りは、
なんとしても避けたい。

そう、つまりは、普通。ごく普通の、リクルートカット、にして欲しい、ただそれだけなのだ。

がしかし、人間にも個性があるように、髪には髪に主張がある。

で俺の髪質というのが、実はピンピンの直毛。
下手に借り上げるとまさに爆裂ヒバゴン化してしまう訳で、
そうならないためには微妙な長さを保持することが必要な訳だ。

それに比べてすでにかなり心細くなってきているこのツムジと生え際。
この不安な箇所を隠蔽する為には、レイヤー、という技術が必要になる訳だ。

電動バリカン一丁で、下手をすればハサミなどいらない、というアメリカン・バーバーにおいては、
このレイヤーという技術を持つ者は皆無。

すなわちは、このレイヤーという技術を持っているか、いないか、が、
アメリカにおける理髪店と、美容院の差、ということになるのだが、
そこの価格格差というものが生じる。

アメリカン・バーバーは、地下鉄の出入口、
あるいはチャイナタウンの地下室系の7-15ドルから始まって、
まあ、普通は20ドル、な訳なのだが、
これが美容院ということになると、いきなり50ドルからその上、に跳ね上がる。

20ドル払って兵隊さんにされるよりは、50ドル払ってでもちゃんとしたお店で、

とは常々思ってはいるのだが、
果たして、男が、ちょっと髪を切るだけで50ドル?

うーん、な訳である。

果たしてここニューヨーク、

以前から凄く不思議であったのだが、

この街に、これだけの日本人がいながら、
ラーメン屋から寿司屋から、星の数ほどありながら、
しかし、

普通な意味で普通に髪を切ってくれる理髪店、というものが、存在しない。

確かに、ヘアースタイリスト、なるものは存在する。

がしかし、そのヘアースタイリストさん、
あなたの個性を強調します、なんてことばかり言っている割に、
その基本的な技術に、思わず、??? となってしまう方がほとんどな訳で、

それってつまり、デッサンをしたことのないアーティスト、
あるいは、
デジドラしか叩いたことのないドラマー、
あるいは、
味の素の入っていない料理を食べたことのない料理人、のようで、

そのつまりは、基本の基本、根っことなる部分をすっ飛ばして、
いきなり己の個性を追求してしまったタイプの人々がほとんど。

そういう人たちが最も忌み嫌う、あるいは、鬼門とするのが、
つまりは、そう、普通の髪型、なのではなかろうか。

という訳で、ここに来て改めて愚痴である。

なぜ、この街にはまともな床屋がいないのだ。

と、そんなことをかみさんに愚痴ったところ、

あんたねえ、と改めて呆れられた。

半年に一回、ばさっと短くして、
で、伸びきった後になって、普通にしてください、
っていうのからして間違い。

爪や鼻毛を切るのと同じで、こまめに切る、それが大切。

つまり、街のその辺りの安いところでも、
はーい、このままの感じで一センチぐらい短くして、
と言えば、それで済む問題なのだ、と。

ほうほう、そういう訳か、と改めて納得である。

寿司屋からロックスターへと向かう、その過程を半年近くかけて楽しむ、
というよるなライフスタイルを、
そもそもカタギの連中はしていないのだ、ということなのだろう。

だから、一回でも、ちょっと高いお金を出して、ちゃんとした人に切って貰って、
で、ちょくちょくと一月に一度ぐらい安いところでメンテナンスを続けながら、
半年に一辺ぐらいそのちゃんとした人のところにもどって定期検査を受ける、

つまりはそういうことなのか。

つまりそれって、ずっとずっと同じ自分であり続ける、ということなんだね。

なんかそれって、すっげええつまらない、と思うのだが、
それをつまらない、と思わない、
あるいは、
そうあるべき、と思う事こそが真っ当な社会人、つまりはカタギ化、の第一歩だったのではないだろうか。

うーん、たかが髪切り、されど髪切り。

ここに来て、ちょっと根本的なところが、ぐらっと来た気がした。

プロフィール

Author:高見鈴虫
日本を出でること幾年月。
世界放浪の果てにいまは紐育在住。
人種の坩堝で鬩ぎ合う
紐育流民たちの日常を徒然なく綴る
戯言満載のキレギレ散文集

*お断り 
このブログ記事はフィクションであり実在の人物・団体とは一切関係ありません藁

©終末を疾うに過ぎて...
無断丸々転載・そのまま転写はご勘弁ちょんまげ

月別アーカイブ

検索フォーム